金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)286

2013-11-14 21:46:52 | Weblog
 呂布は気怠く目覚めた。
昨夜の余韻が色濃く残っていた。
繰り広げた痴態で全身の筋肉が緩んでいた。
それも束の間、ハッとした。
隣に人肌の温もりを感じない。
慌てて手を伸ばした。
右にも、左にも誰もいない。
 半身を起こして天幕内を見回した。
狭いので、念入りに見る必要はない。
女がいた形跡は残り香のみ。
 天幕の隙間から日射し。
何時の間にか夜が明けていた。
鳥の囀りが聞こえて来た。
ところが、人の声が聞こえない。
人の気配も感じ取れない。
 呂布は愕然とした。
慌てて素っ裸のまま天幕から飛び出した。
危惧したように張任達の姿が消えていた。
天幕も、騎馬も、呂布のを残して全て消えていた。
「やられた」と思った。
気取られる事なく現れて、気配も見せずに消えた。
 心地好い風が全身を撫でる。金髪を揺らす。
呂布は長い溜め息をついた。
「師匠の張任には敵わない」と。
そして、「あの女に再会する事も叶わない」と。
 手早く身支度を調え、天幕を片付けた段になって、
太刀がすり替えられている事に気付いた。
まず重さが違う。
明らかに重い。
柄の造りも微妙に違っている。
 鞘から抜いた。
太刀が日射しに燦然と輝く。
前後左右に振り回してみると、これが意外と扱いやすい。
呂布の剛力に合わせて選んでくれたのだろう。
近くの竹藪で試し切り。
切れ味が脅威を覚えるほどに鋭い。
 太刀だけではなかった。
弓矢が一具。
矢筒には二十本の矢。
槍ではなく、弓であるところに意味があった。
路銀、食料がなくなったら、「弓で獣でも鳥でも射て、食料とせよ」と言うことなのだろう。
 張任の思いやりには、ただ、ただ頭が下がる。
言葉だけでは感謝しきれない。
彼が去ったと思われる方向に、両膝ついて深々と拱手をした。
 呂布は替え馬に荷物を載せ、もう一頭に騎乗した。
野営地から街道に向かう。
追っ手を殲滅させたので、急ぐ旅ではない。
故郷とて現存しているかは、はなはだ疑問。
村が盗賊団に襲撃されたのは十年以上も昔。
その時、居合わせた村人達は殺されるか、奴隷として売られるために連行された。
全ての村人がいなくなったのに、村だけが現存しているとは思えない。
それでも、故郷へ戻らなくてはならない。
近隣の村か町に手掛かりがあるかも知れない。
重い心を奮い立たせ、涼州へと馬首を向けた。
 涼州は益州の北にあり、州境を接していた。
なので気楽に考えていた。
ところが、野営と、農家の軒先を借りての泊まりを重ねる事になった。
宿のある村や町がなかったのだ。
あったのは細々とした、盗賊団も素通りしそうな感のする村ばかり。
 考えてみたら、呂布は私兵団を率いて戦場に赴いた事はあるが、
本格的な旅はした事がなかった。
長かった旅は奴隷として売られる為の連行の旅のみ。
故郷までの道を知るわけがなかった。
 二十日ほどかけて涼州に辿り着いた。
そこで最初に出会った隊商に声をかけた。
「敦煌へ行きたいのだが、この街道で良いのかな」と。




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