呂布は気怠く目覚めた。
昨夜の余韻が色濃く残っていた。
繰り広げた痴態で全身の筋肉が緩んでいた。
それも束の間、ハッとした。
隣に人肌の温もりを感じない。
慌てて手を伸ばした。
右にも、左にも誰もいない。
半身を起こして天幕内を見回した。
狭いので、念入りに見る必要はない。
女がいた形跡は残り香のみ。
天幕の隙間から日射し。
何時の間にか夜が明けていた。
鳥の囀りが聞こえて来た。
ところが、人の声が聞こえない。
人の気配も感じ取れない。
呂布は愕然とした。
慌てて素っ裸のまま天幕から飛び出した。
危惧したように張任達の姿が消えていた。
天幕も、騎馬も、呂布のを残して全て消えていた。
「やられた」と思った。
気取られる事なく現れて、気配も見せずに消えた。
心地好い風が全身を撫でる。金髪を揺らす。
呂布は長い溜め息をついた。
「師匠の張任には敵わない」と。
そして、「あの女に再会する事も叶わない」と。
手早く身支度を調え、天幕を片付けた段になって、
太刀がすり替えられている事に気付いた。
まず重さが違う。
明らかに重い。
柄の造りも微妙に違っている。
鞘から抜いた。
太刀が日射しに燦然と輝く。
前後左右に振り回してみると、これが意外と扱いやすい。
呂布の剛力に合わせて選んでくれたのだろう。
近くの竹藪で試し切り。
切れ味が脅威を覚えるほどに鋭い。
太刀だけではなかった。
弓矢が一具。
矢筒には二十本の矢。
槍ではなく、弓であるところに意味があった。
路銀、食料がなくなったら、「弓で獣でも鳥でも射て、食料とせよ」と言うことなのだろう。
張任の思いやりには、ただ、ただ頭が下がる。
言葉だけでは感謝しきれない。
彼が去ったと思われる方向に、両膝ついて深々と拱手をした。
呂布は替え馬に荷物を載せ、もう一頭に騎乗した。
野営地から街道に向かう。
追っ手を殲滅させたので、急ぐ旅ではない。
故郷とて現存しているかは、はなはだ疑問。
村が盗賊団に襲撃されたのは十年以上も昔。
その時、居合わせた村人達は殺されるか、奴隷として売られるために連行された。
全ての村人がいなくなったのに、村だけが現存しているとは思えない。
それでも、故郷へ戻らなくてはならない。
近隣の村か町に手掛かりがあるかも知れない。
重い心を奮い立たせ、涼州へと馬首を向けた。
涼州は益州の北にあり、州境を接していた。
なので気楽に考えていた。
ところが、野営と、農家の軒先を借りての泊まりを重ねる事になった。
宿のある村や町がなかったのだ。
あったのは細々とした、盗賊団も素通りしそうな感のする村ばかり。
考えてみたら、呂布は私兵団を率いて戦場に赴いた事はあるが、
本格的な旅はした事がなかった。
長かった旅は奴隷として売られる為の連行の旅のみ。
故郷までの道を知るわけがなかった。
二十日ほどかけて涼州に辿り着いた。
そこで最初に出会った隊商に声をかけた。
「敦煌へ行きたいのだが、この街道で良いのかな」と。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
昨夜の余韻が色濃く残っていた。
繰り広げた痴態で全身の筋肉が緩んでいた。
それも束の間、ハッとした。
隣に人肌の温もりを感じない。
慌てて手を伸ばした。
右にも、左にも誰もいない。
半身を起こして天幕内を見回した。
狭いので、念入りに見る必要はない。
女がいた形跡は残り香のみ。
天幕の隙間から日射し。
何時の間にか夜が明けていた。
鳥の囀りが聞こえて来た。
ところが、人の声が聞こえない。
人の気配も感じ取れない。
呂布は愕然とした。
慌てて素っ裸のまま天幕から飛び出した。
危惧したように張任達の姿が消えていた。
天幕も、騎馬も、呂布のを残して全て消えていた。
「やられた」と思った。
気取られる事なく現れて、気配も見せずに消えた。
心地好い風が全身を撫でる。金髪を揺らす。
呂布は長い溜め息をついた。
「師匠の張任には敵わない」と。
そして、「あの女に再会する事も叶わない」と。
手早く身支度を調え、天幕を片付けた段になって、
太刀がすり替えられている事に気付いた。
まず重さが違う。
明らかに重い。
柄の造りも微妙に違っている。
鞘から抜いた。
太刀が日射しに燦然と輝く。
前後左右に振り回してみると、これが意外と扱いやすい。
呂布の剛力に合わせて選んでくれたのだろう。
近くの竹藪で試し切り。
切れ味が脅威を覚えるほどに鋭い。
太刀だけではなかった。
弓矢が一具。
矢筒には二十本の矢。
槍ではなく、弓であるところに意味があった。
路銀、食料がなくなったら、「弓で獣でも鳥でも射て、食料とせよ」と言うことなのだろう。
張任の思いやりには、ただ、ただ頭が下がる。
言葉だけでは感謝しきれない。
彼が去ったと思われる方向に、両膝ついて深々と拱手をした。
呂布は替え馬に荷物を載せ、もう一頭に騎乗した。
野営地から街道に向かう。
追っ手を殲滅させたので、急ぐ旅ではない。
故郷とて現存しているかは、はなはだ疑問。
村が盗賊団に襲撃されたのは十年以上も昔。
その時、居合わせた村人達は殺されるか、奴隷として売られるために連行された。
全ての村人がいなくなったのに、村だけが現存しているとは思えない。
それでも、故郷へ戻らなくてはならない。
近隣の村か町に手掛かりがあるかも知れない。
重い心を奮い立たせ、涼州へと馬首を向けた。
涼州は益州の北にあり、州境を接していた。
なので気楽に考えていた。
ところが、野営と、農家の軒先を借りての泊まりを重ねる事になった。
宿のある村や町がなかったのだ。
あったのは細々とした、盗賊団も素通りしそうな感のする村ばかり。
考えてみたら、呂布は私兵団を率いて戦場に赴いた事はあるが、
本格的な旅はした事がなかった。
長かった旅は奴隷として売られる為の連行の旅のみ。
故郷までの道を知るわけがなかった。
二十日ほどかけて涼州に辿り着いた。
そこで最初に出会った隊商に声をかけた。
「敦煌へ行きたいのだが、この街道で良いのかな」と。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます