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主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

ある関数方程式。

2012-11-13 23:58:06 | mathematics
話題としては数学の話であるが,由来は統計物理学の初歩的な議論である。

気体分子運動論における,気体分子の速度分布を表す Maxwell 分布と呼ばれる関数を明らかにしたいのだが,その際,話を単純化すると,ある2つの関数 f,g が任意の正の数 u, v, w に対し

f(u+v+w)=g(u)g(v)g(w)

を満たすという仮定から,f または g の具体的な形を決定しようというものである。

f や g に何の条件も課さないと解があまり具体的には定まらない可能性があるので,とりあえずどちらも連読関数であるという設定の下で考えることとする。

まず,u=v=w=0 とおいてみると,

f(0)=g(0)3

となる。もし f(0)=0 だとすると g(0)=0 となり,このとき任意の u に対し

f(u)=f(u+0+0)=g(u)g(0)2=0

となってしまい,f は恒等的に 0 に等しいという定数関数になってしまう。そうすると,

0=f(3u)=g(u)3

から,g も恒等的に 0 になってしまう。このような解には興味がないので,f(0)≠0 と仮定する。このとき,g(0)≠0 でもある。ここで,g(0)=k とおく。もちろん k は 0 でない定数である。

さて,f(u)=f(u+0+0)=g(u)g(0)2=k2g(u) であるから,

k2g(u+v+w)=g(u)g(v)g(w)

となる。この両辺を k3 で割り,改めて h(u)=g(u)/k とおくと,

h(u+v+w)=h(u)h(v)h(w)

というかなりすっきりした方程式が得られる。h(0)=g(0)/k=1 であるから,

h(u+v)=h(u+v+0)=h(u)h(v)h(0)=h(u)h(v)

である。ここまでくればもうあと一息である。

まず,h(u)=h(u/2+u/2)=h(u/2)2 だから,h(u)≧0 である(f,g,そして h は実数値関数を想定している)。

また,h(u)=h(u/n+u/n+・・・+u/n)=h(u/n)n となるので,もしある u について h(u)=0 だとすると,任意の自然数 n に対して h(u/n)=0 であることになり,n →∞ の極限において,h の連続性(これは g が連続であるという仮定から出てくる)により,h(0)=0 となって,h(0)=1 に反する。ゆえに任意の u≧0 に対して h(u)>0 である。

さて,h が正の値のみをとる関数だとわかれば,h(u+v)=h(u)h(v) の両辺の自然対数を取って Cauchy の関数方程式

L(u+v)=L(u)+L(v) (ただし L(u)=log h(u))

に持ち込み,L(0)=0 なのでこの解は適当な定数 c を用いて L(u)=cu と表せるというよく知られた結果を用いて,log h(u)=cu,すなわち h(u)=ecu となることを結論しても良い。

あるいは,これもよく知られた方法であるが,h(u+v)=h(u)h(v) の両辺を v に関して例えば 0 から 1 まで積分すると

01 h(u+v)dv=h(u)∫01h(v)dv

となり,左辺を w=u+v と変数変換すれば

uu+1 h(w)dw=h(u)∫01h(v)dv

となるが,左辺は u に関して微分可能であり,右辺は h(u) の正の定数倍であるから,結局 h が微分可能であることになり,この両辺を u で微分して

h(u+1)-h(u)=ch ' (u)(ただし c=∫01h(v)dv とおいた。これは正の数である。),

つまり h ' (u)={(h(1)-1)/c}h(u) という微分方程式が得られ,初期条件を考慮すると h がやはり指数関数になることがわかる。

このような考察から,Maxwell 分布が指数関数で表されるということが導かれるのである。

僕が参照した本(戸田盛和著『分子運動30講』p.3)では,この議論がすっとばされて,f と g に関する仮定からいきなりこれらが指数関数になるという結論が述べられている。その記述は,ほんの半ページに過ぎないのだが,行間を埋めようとするとこんな感じになるわけである。

熱・統計力学の入門書のほんの最初の数ページ目にしていきなりかなりしんどいわけだが,くじけずに最後まで行間を埋めつつ読み進めることができたなら,読者は相当鍛えられることになるだろう。
コメント
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