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主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

Viete の公式。

2012-11-08 23:56:14 | mathematics
【問題】

任意の実数 x,y に対し,

cos(x+y)+cos(x-y)≦cos2(x)+cos2(y)

が成り立つことを示せ。


この問題は,Viete が1580年代に導いたという公式

cos(x)cos(y)=(cos(x+y)+cos(x-y))/2

から思いついた問題である。


僕が考えた解法は2通りである。


一つ目は次の通りである。

cos の加法定理を利用して Viete の公式が成り立つことを示す(積を和に直す公式を適用したとみてもよい)。そして相加平均・相乗平均の不等式(以下,AM-GM 不等式と呼ぶことにする)により

cos(x)cos(y)≦(cos2(x)+cos2(y))/2

が成り立つことを用いればよい。


Viete の等式を眺めていて,AM-GM 不等式をこのように使うことを思いついた。それが冒頭の問題に至った経緯である。もしかしたらこの不等式はよく知られているのかもしれない。


この問題を思いついた後で,逆にこの不等式から AM-GM 不等式を導けないかと考えた。そのためには,AM-GM 不等式を用いない解答を見出さなければならない。それが二つ目の解答である。

cos2(x)=(1+cos(2x))/2,cos2(y)=(1+cos(2y))/2 であるから,a=x+y,b=x-y とおけば 2x=a+b,2y=a-b なので

cos2(x)+cos2(y)=1+(cos(a+b)+cos(a-b))/2

となる。この右辺を加法定理で展開すれば

cos2(x)+cos2(y)=1+cos(a)cos(b)

となる。したがって,

cos2(x)+cos2(y)-(cos(x+y)+cos(x-y))=1-cos(a)-cos(b)+cos(a)cos(b)=(1-cos(a))(1-cos(b))

となるが,cos(a),cos(b) は共に 1 以下の実数であるから,(1-cos(a))(1-cos(b))≧0 である。これで証明は完結した。


この不等式と AM-GM 不等式とをどのように結びつけるかは次のようにする。

AM-GM 不等式と実質的に等価な,任意の実数 p,q に対して成り立つ不等式

pq≦(p2+q2)/2

と関連付けることを考える。p=q=0 という場合も含めて取り扱いたい。また,p と q の対称性も保ちたい。そのため,この不等式の両辺を r:=(|p|+|q|+1)2 で割る。その結果,u:=p/r,v:=q/r とおくと,この不等式は

uv≦(u2+v2)/2

となるが,|u|<1 かつ |v|<1 なので,cos(x)=u かつ cos(y)=v を満たす実数 x,y が必ず存在する。ゆえに,すでに示したことからこの不等式は確かに成り立つことがわかる。

このようにして,冒頭に挙げた不等式から2変数版の AM-GM 不等式が得られた。


なお,pq≦(p2+q2)/2 という不等式を示すのはもっとずっと簡単にできるので,ここで紹介した証明は大げさすぎる。そういう意味でただの戯れの域を超えない。

冒頭の問題は,初めて見たらどう証明したらよいかとまどいそうな,もう少し込み入った見かけに書き換えることもできる。

【問題・改】

0以上 π/2 以下の2つの実数 x,y および 1/m+1/n=1 を満たす2つの正の数 m,n に対し

cos(x+y)+cos(x-y)≦(2/m)cosm(x)+(2/n)cosn(y)

が成り立つことを示せ。


これは Viete の公式と Young の不等式 pq≦pm/m+qn)/n から直ちに導かれる。


また,不等式から離れて,Viete の公式を満たす関数は cos 以外にあるのかという問題も気になっている。すなわち,

函数方程式 2f(x)f(y)=f(x+y)+f(x-y) の解は f=cos 以外にあるだろうか(ただし自明な解 f=0 は除く)。

この函数方程式について少し考えてみたが,まだ次の事実しか導けていない。

・f(0)=0 であると,y=0 とおいた式から f=0 となり仮定に反するので f(0) は 0 でなく,このことと x=y=0 とおいた式から f(0)=1 が出る;

・x=0 とおくと f が偶関数であることがわかる;

・x=y とおけば f(x)2=(1+f(2x))/2 が得られる。

なお,f が微分可能であるという仮定も付け加えると,f ' (0)=0 であることくらいはわかる。また,f が偶関数であることから当然 f ' は奇関数となる。

f ' は sin に相当すると期待されるので,g:=f ' とおき,f2+g2=1 くらいまで示そうと頑張ってみてもよいかもしれない。

おそらくこの函数方程式も有名であろう。桑垣先生,Aczel,Kuczma 氏らの函数方程式のテキストを見れば載っていそうに思われる。
コメント
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