A Rider's Viewpoint

とあるライダーのものの見方

セミミの木

2007-08-15 13:13:21 | つれづれ
 自宅近く、犬の散歩コースの公園に蝉の抜け殻が鈴なりになった木がある。
 
 この町に引っ越してきたある日、「この町は蝉や虫の鳴き声がしないな」と思ったことがあった。それもそのはず。この住宅地が造成されてから、あまり年数が経っていない。蝉も虫も根付くには時間がかかるからだろうか。(蝉は七年だったっけ?)

 数年後のある夏、蝉の抜け殻がたくさん葉にぶら下がった木を見つけた。
「まるで蝉が(果物のように)なっているようだ」そうカミさんと話していた。
 由来は忘れたが、いつしかその木は僕らの間で『セミミの木』と呼ばれることになった。

 そのまた数年後、セミミの木は切られた。虫がわいたとか、確かそんな理由だっただろうか。公園のセミミの木は切り株を残して切られてしまい、僕はたいそう寂しい思いをしたものだ。

 数日前、カミさんが犬の散歩から帰ってきたとき「新しいセミミの木を見つけた!」と言った。
「え。じゃあ写真撮りに行く」
 突然の散歩になった犬が喜んで僕らと一緒についてきた。

 セミミの木は以前切られた切り株の近くに一本。公園の反対側のあたりにもう一本ある。どちらも蝉の抜け殻が無数に、手の届く範囲でも十数個ぶら下がっている。地面には地中から抜け出して木をよじ登ったときにできたと思われる穴がたくさんあいていた。

 話としては、ただそれだけのことだ。
 しかし、蝉の声や抜け殻は、埋め立て造成のこの土地でも自然が回復してくる証のような気がして、なんだかとても嬉しくなってしまったのだ。

「セミミの木」なんて愚かしいことをずっといえるような平和な時代であること、豊かな自然が残されてゆくこと、このふたつを心から願っている。