千葉市美浜区の市立海浜病院の心臓血管外科で昨年4~6月の3カ月間に、心臓や大動脈などの手術を受けた50~80代の患者の男女8人が相次いで術後に死亡した問題で、同院は28日、「明らかな医療ミスと思われるものはなかった」とする第三者調査委員会の報告書を公表した。一方で報告書では、手術による死亡リスクを患者や家族に過小に説明していたなどとする問題点が指摘された。
第三者調査委は、日本心臓外科学会の会員ら外部の専門家6人から構成。施術と死因の因果関係など、医学的な面から手術の問題点などを調べた。
3カ月という短期間に、過去3年の同科の年間死亡数(24年から5人、8人、4人)以上が死亡した理由について、同院は「高難度な手術、緊急性の高い手術が重なった」「手術をする態勢が不十分だった」と説明した。報告書ではこの点について、「緊急手術や術後管理対応に忙殺される中、患者家族へのリスク説明や手術適応の判断などの、医療安全に対する配慮に十分な時間とマンパワーを当てることができなかった」と指摘している。
手術のリスクを実際よりも低く伝えていたとされる問題では、死亡した8人のうち4人の事例で、死亡率20~50%にも及ぶ手術(調査委見解)を、担当医が3~10%と低く評価。その結果を基に患者に説明していたという。
同院は「故意にリスクを低く見積もったことはない」と説明しているが、遺族からは「正確な数字を言ってほしかった」「死亡例が相次いでいたことを知らせてほしかった」などとする意見があったという。
今回の報告書の内容は、遺族らに説明しているという。同院の寺井勝院長(64)は記者会見の冒頭、「患者の皆さまのご冥福を心からお祈り申し上げます。遺族の皆さまには、多大なご心痛をおかけしたことをおわび申し上げます」と謝罪。「今後も誠心誠意ご説明させていただく」としている。
同院は現在、心臓血管外科手術を全面停止しており、再開のめどは立っていない。今後は再発防止を念頭に提言を行う、有識者や医師、弁護士らによる検証委員会を新たに設置するとしている。
■妻亡くした男性「なぜ手術急いだのか」疑問晴れず
海浜病院で手術を受けた70代の妻を失った男性が28日、産経新聞の取材に応じた。男性は調査委の報告書を読み、同院の説明を受けても「なぜ病院側は手術を急いだのか」という疑問や不信感が頭から離れないという。
男性によると、妻は十数年前に心臓の弁の機能が低下し、血液が逆流する僧帽弁閉鎖不全症を発症。同院で動物の弁を使用した生体弁に取り換える手術を実施していた。弁の硬化がみられたことから、取り換える手術を行うことを昨年決断した。
担当医からは手術の死亡リスクについて、「3~5%」と説明を受けていた。「絶対に助かる手術だと思っていた。亡くなったとき、妻の目から涙が流れた。『医学的にあり得ない』と言われたが、それだけ悔しかったのだと思います」
同院は担当者らの処分については「検討中」としている。すでに、担当した医師4人のうちの研修医を除く3人と、当時の院長はいずれも自己都合で退職し、同院を離れている。「責任は誰にあるのか。今後はどうなるのか。納得できない。むなしい」
2016年5月28日7時55分配信 産経新聞