医療裁判傍聴記

傍聴した観想など

群大手術死、全50例で不備…外科学会が検証

2016-05-23 20:01:28 | 医療界
 群馬大学病院の手術死問題で、日本外科学会が行った死亡例の検証により、対象となった第一、第二外科(2015年4月に統合)の50例全てで、説明や記録も含めた診療経過に何らかの形で不備が指摘されていることがわかった。死亡例全般で、行われた医療の質が問われる結果となった。問題の発端となった第二外科だけでなく、第一外科も含め二つの外科が限られた人員で同種の診療を別々に行う非効率な体制を続けた病院組織の問題が、診療の質の低下を招いたとみられる。

 同学会の検証は、群馬大が設置した第三者の調査委員会が委託。07~14年度に行われた消化器外科手術(約6700例)の死亡64例のうち50例(第一14、第二36)をカルテや画像、病院関係者の聞き取りを基に医学的に検証した。

 50例は、手術適応、手術の技術、患者への説明、手術後の管理といった項目ごとに評価された。深刻さの度合いに差があるものの、それぞれ不適切な対応や改善すべき点、説明・記録の不十分さなど、行き届かない点が指摘された。

 手術を実施することが妥当か判断する手術適応については、「適応あり」とされたのは26例にとどまり、ほぼ半数の24例(第一6、第二18)で、がんの進行度や体調などの観点から妥当性に疑問が呈された。うち4例(第一2、第二2)は「問題がある」と断定され、患者にメリットのない手術と判断された。

 手術については、予定時間を大幅に超過したり大量出血したりと異常があっても理由と経過の記録がない不備が、両外科とも目立った。例えば、適応に「問題がある」とされた第一の 膵臓(すいぞう) がんの例では、28時間以上かかり輸血も含め17リットルを超える出血がありながら理由の記録がなかった。

 技術的には、第二の 腹腔鏡(ふくくうきょう) 手術で、不安定な操作や肝臓を過度に損傷した可能性が指摘された。止血に問題のある例や手術中止の検討が必要な例もあった。

 手術後の管理では、両外科とも、適切な時機に行うべき検査が行われず、対応の遅れを指摘された例が多く、医療従事者の連携不足をうかがわせた。第二の患者の1人は、鎮静剤「プロポフォール」が不適正に使用された後、呼吸が弱くなり死亡した。

 死亡症例の検討会も37例(第一6、第二31)で行われた形跡がなかった。これには手術適応に「問題がある」4例も含まれていた。

 同学会の検証の結果を踏まえ、調査委が事故の原因や背景分析と再発防止に向けた調査報告書をまとめる。

 群馬大病院は「調査委員会の報告書が提出されていない現時点ではコメントできない」としている。

◆群馬大学病院の手術死問題

 2014年11月、第二外科で肝臓の腹腔鏡手術を受けた患者8人の死亡が発覚。その後、開腹手術でも患者の死亡が相次いでいることが判明し、15年8月から第三者だけで構成される調査委員会が本格的な調査を行っている。

組織にひずみ 診療劣化
 日本外科学会の検証結果からは、群馬大病院で起きた一連の問題が、病院組織の問題に端を発していることがうかがえる。二つの外科が少人数で連携することもなく競うように同種の診療を行う非効率な状態が現場を疲弊させ、診療の劣化につながったのだろう。

 関係者によると、手術に適しているかの判断や手術後の管理の不備、記録や説明の不十分さなどは、第一、第二外科で、程度の差はあれ共通して見られた。

 消化器外科手術を受けた患者のほとんどは、回復して退院している。ただ死亡例は肝臓や膵臓の切除に集中しており、高難度の肝臓手術に絞ると死亡率は11%と全国平均(4%)を大幅に超えている。組織のひずみの影響が、難手術の分野で顕著に表れたと言える。

 群馬大が設置した第三者の調査委員会は、最終的な報告書を近くまとめる予定だ。群馬大病院はすでに組織の改善に乗り出しているが、提示される教訓を真摯(しんし)に受け止め、実効性ある改革を達成する必要がある。(医療部 高梨ゆき子)

2016年5月23日 読売新聞