改正刑法が16日に成立し、「強制性交罪」の名称が「不同意性交罪」に変更され、処罰要件も大幅に見直された。性犯罪に対し、的確かつ厳格に対処する狙いがある。公訴時効も延長された。今夏にも施行される。
■8種類を明記
強制性交罪の成立には「被害者の抵抗を著しく困難にする程度の暴行や脅迫を用いること」が必要とされてきた。だが、暴行や脅迫がなくても、恐怖などで体が動かない「フリーズ」状態に陥り、抵抗できずに被害に遭うことがある。
罪名については、「強制わいせつ罪」も「不同意わいせつ罪」に変える。現在の準強制性交罪と準強制わいせつ罪はそれぞれ、不同意性交罪と不同意わいせつ罪に統合された。
処罰要件や罪名の変更は被害者側が求めていた。変更により、「同意のない性行為は許されない」というメッセージを社会に送るとともに、「教師と生徒」「上司と部下」など、関係性を悪用した性犯罪が処罰しやすくなるとみられる。
また、精神的ショックなどで被害を申告しにくい実態を踏まえ、時効を各罪で5年延長。幼少期の被害は、被害を認識するまで時間がかかるケースもあるため、被害時に18歳未満だった場合、18歳になるまでの期間を時効に加算する。
■「撮影罪」新法も
性行為への同意を自ら判断できるとみなす「性交同意年齢」は、条件付きで13歳から16歳に引き上げた。13歳未満との性行為は同意の有無にかかわらず処罰対象だったが、中学生に相当する13歳から15歳も保護対象とした。その年代と5歳以上離れている者が性行為をした場合、同意があっても処罰される。
16歳未満の子どもを手なずける、いわゆる「性的グルーミング」を罰する罪も新設。わいせつ目的で、うそをついて面会を要求すると処罰される。胸や尻といった性的部位や下着姿などの盗撮を禁じる「撮影罪」を盛り込んだ新法も成立した。現在は盗撮を直接禁じる法律はなく、都道府県ごとの条例を適用しているが、法律で統一的に取り締まる。
■被害者団体が評価
性犯罪の被害者や被害者団体からは法改正を評価する声が上がった。
16日に東京都内で開かれた記者会見で、一般社団法人「スプリング」幹事の金子深雪さんは「被害者の実態や声を届け、要望してきたことが反映された。歓迎すべき前進だ」と述べた。
ただ、公訴時効の撤廃を含め、さらなる法改正を求める意見もある。「刑法改正市民プロジェクト」は「改正法が適切に運用されることを強く望むとともに、見直しに向け、有効な実態調査をすみやかに行ってほしい」との声明を出した。
一方、刑事弁護を手がける弁護士からは、不同意性交罪などについて、処罰範囲が過度に広がっていると懸念する声が聞かれた。
2023年6月17日 読売新聞