森の声、石段の色、室生寺(2)
















     本堂の隣から、山の上に伸びる石段に足をかければ、すでに目の前に、あの
     五重塔が姿を見せている。
     平安時代初期、800年頃の建立。法隆寺の塔に次いで2番目の古さ。高さ16m
     強、国宝、重文の木造五重塔中では、日本最小。各層の屋根の出が深く、厚み
     があること、屋根勾配が緩いこと・・、他の五重塔にはない様々な特徴を有する。
     それにしても、見上げる塔のこの気品溢れる姿、可憐とも言いうる姿は、何処から
     くるのだろう。「女人高野」に、もっとも相応しい塔の姿・・とも思える。
     この塔、1998年の台風で、隣の杉の大木が倒れかかり、大きな損傷を受けた。
     翌年より復旧工事に取り掛かり、2000年に元の姿を取り戻したもの。室生寺の
     伽藍中、最古のものであるにも係らず、「ずいぶんきれい・・、新しい塔のよう・・」
     の声も掛かるほどなのだ。
     五重塔の横、いっそう丸みを増した石段は、更に上に伸び、奥の院まで人を導く。

     (室生寺は、花の寺でもあります。この時は、花のない頃でしたが、やがて、梅、
      桜、そして石楠花が咲く・・お堂も塔も、緑と花のなかで、更に輝きを増すことで
      しょう。
      もう随分以前のことになりましたが、写真家土門拳が、病躯を押して雪を被った
      この五重塔の撮影に執念を燃やしたことは、忘れられないことです。
      室生寺の五重塔、境内で、最も人気のある伽藍・・、というより、人の心を虜にす
      る何物かを持ったもの、それは、樹木を辿り、石段を上り、その前に立つことに
      よって、はじめて得心できるものではないかと思うのです。)
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