カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ニジュウシ の ヒトミ 6

2018-06-06 | ツボイ サカエ
 6、 ツキヨ の カニ

 5 ネンセイ の キョウシツ は カワップチ に あたらしく たった コウシャ の トッツキ で あった。 カワ に むかった マド から のぞく と、 オクミ の よう な カタチ の、 せまい サンカクチ を はさんで、 たかい イシガキ は カワドコ まで チョッカク に きずかれて いた。 キケン ボウシ の ドテ は ジメン から 3 ジャク ほど の タカサ で めぐらして あった が、 ドテ は あまり ヨウ を なさず、 コドモ ら は わずか な アソビジカン をも カッテ に イシガキ を つたって、 カワ の ナカ へ おりて いった。 おもに オトコ の コ だった。 カワカミ に イエ は 1 ケン も なく、 ちろちろ の ミズ は きれい だった。 ヤマ から ながれて きて はじめて、 ここ で ヒト の ハダ に ふれる ミズ は、 おどろく ほど、 つめたく すみきって いた。 コドモ ら に とって は、 ただ テアシ を ふれて いる だけ で、 じゅうぶん マンゾク の できる、 こころよい カンショク で あった。 ミズ は ここ で はじめて ヒト の テ に ふれ、 せきとめられて にごった。 ダレ が いいだした の か ウナギ が いる と いう ウワサ が たって から、 コドモ たち の ネツイ は カワゾコ に あつまり、 マイニチ ドテ の ケンブツ と カワ の リョウシ との アイダ で ときならぬ ヤリトリ が つづいた。 カワドコ の イシ を めくって は、 まだ イチド も とれた こと の ない ウナギ を さがして いる の だ が、 でて くる の は カニ ばかり で ある。 それでも けっこう おもしろい らしく、 リョウシ も ケンブツ も ふえる ばかり だった。 クルブシ を かくしかねる ほど の スイリョウ は、 アソビバ と して も キケン は なく、 だから コイシ センセイ も だまって ながめて いた。
「センセ、 ズガニ、 あげよ か」
 ホゴショク なの か ドロイロ を して、 アシ に あらい ケ の ある カニ を つかまえて、 ウデ いっぱい さしだした の は モリオカ タダシ だった。
「いらん、 そんな もん」
「たべられる のに、 センセ」
「いや だ、 そんな もん たべたら、 アシ や テ に ヒゲ が はえる もの」
 カワゾコ と ドテ から どっと ワライゴエ が おこった。 マドギワ の センセイ も もちろん わらいころげた の だ が、 つい サッキ まで の センセイ は、 そんな ワライ とは とおい キモチ で、 マド の ソト に くりひろげられた フウケイ を ながめて いた の で あった。 カワ の ナカ でも ドテ の ウエ でも、 ミサキ の コドモ ら は しらずしらず かたまって いた。 だが、 そこ に マツエ の スガタ は みる こと が できない。 その メ に みえぬ スガタ が、 ときどき センセイ の ココロ を センリョウ して しまう の だ。
 ハハオヤ が なくなって から、 マツエ は イチド も この キョウシツ に スガタ を あらわさなかった。 マドギワ の、 マエ から 3 バンメ の マツエ の セキ は、 もう 2 カゲツ も カラッポ の まま で ある。 ニュウガク の ヒ の こと を おもいだして、 ユリ の ハナ の エ の ついた ベントウバコ を ミヤゲ に マツエ の イエ を たずねた の は、 カノジョ の ハハオヤ が なくなって から ヒトツキ ぐらい たって いた。 ちょうど カワモト ダイク も イエ に いて、 オトコナキ に なきながら、 アカンボウ が しなない かぎり、 マツエ を ガッコウ には やれぬ と いった。 あまり に ジジョウ が メイハク なので、 それでも マツエ を ガッコウ に よこせ とは いえず、 だまって マツエ の カオ を みた。 ちいさな アカンボウ を おぶった まま、 チチオヤ の ワキ に ちょこんと すわって マツエ も だまって いた。 へんに マブタ の はれて みえる カオ は、 アタマ の ハタラキ を うしなった よう に ぼんやり して いた。 その ヒザ の ウエ へ、
「マッチャン、 これ、 ユリ の ハナ の ベントウバコ よ。 アンタ が ガッコウ に こられる よう に なったら、 つかいなさい ね」
 あまり うれしそう にも せず、 マツエ は コックリ を した。
「はやく、 ガッコウ へ こられる と いい わね」
 いって しまって、 はっと した。 それ は アカンボウ に はやく しね と いう こと に なる の だ。 おもわず あかく なった が、 マツエ たち オヤコ には、 はっきり ひびかなかった らしく、 ただ カンシャ の マナザシ で うけとられた。
 まもなく アカンボウ が なくなった と きき、 マツエ の ため に ほっと した の だ が、 マツエ は なかなか スガタ を みせなかった。 マスノ や コトエ たち に ヨウス を きいて も ラチ が あかず、 センセイ は とうとう テガミ を かいた。 トオカ ほど マエ に なる。

――マツエ さん、 アカチャン の ユリエ ちゃん は、 ホント に かわいそう な こと を しました ね。 でも もう、 それ は シカタ が ありません から、 ココロ の ナカ で かわいがって あげる こと に して、 アナタ は ゲンキ を だしなさい ね。 ガッコウ へは、 いつから こられます か。 センセイ は、 マイニチ マッチャン の カラッポ の セキ を みて は、 マッチャン の こと を かんがえて います。
はやく こい、 こい、 マッチャン。 はやく きて、 ミンナ と イッショ に、 ベンキョウ しましょう。――

 テガミ は マツエ の イエ と いちばん ちかい コトエ に ことづけた。 しかし その テガミ が、 マツエ に とって どれほど ムリ な チュウモン で ある か を センセイ は しって いた。 アカンボウ の ユリエ が いなく なって も、 マツエ には まだ テイマイ が フタリ あった。 5 ネンセイ に なった ばかり の カノジョ は、 おさない ズノウ と ちいさな カラダ で、 むりやり イッカ の シュフ の ヤク を うけもたされて いる の だ。 どんな に それ が いや でも、 ぬけだす こと は できない。 チチオヤ を ハタラキ に だす ため には、 ちいさな マツエ が カマド の シタ を たき、 ススギ センタク も せねば ならぬ。 ヒヨコ の よう に キョウダイ 3 ニン よりあって、 チチオヤ の カエリ を まって いる だろう あわれ な スガタ が メノマエ に ちらつく。 ホウリツ は この おさない コドモ を ガッコウ に かよわせる こと を ギム-づけて は いる が、 その ため に コドモ を まもる セイド は ない の だ。
 ヨクジツ、 コトエ は センセイ の カオ を みる なり ホウコク した。
「センセイ、 キノウ マッチャン ク へ テガミ を もって いったら、 しらん ヨソ の オバサン が きとった。 マッチャン おります か、 いうたら、 おりません いうた ん。 シカタ が ない から、 これ マッチャン に わたして、 いうて、 その オバサン に たのんで きた ん」
「そう、 どうも ありがとう。 マッチャン の オトウサン は?」
「しらん。 みえなんだ。 ――その オバサン、 オシロイ つけて、 きれい キモノ きとった。 マッチャン ク へ ヨメ に きた ん と ちがう か って、 コツル さん が いう んで」
 コトエ は ちょっと ハニカミワライ を した。
「そう だ と、 マッチャン も ガッコウ へ こられて いい けど ね」
 それから また トオカ イジョウ たった が、 マツエ は スガタ を みせない。 テガミ は よんだろう か と、 ふと ココロ に カゲ の さす オモイ で、 マド の シタ を みて いた の だった。 ズガニ を 3 ビキ とった タダシ は、 それ を アキカン に いれて とくとく と して イシガキ を のぼって きた。 サンカクケイ の アキチ に ある アンズ の キ は ナツ に むかって あおあお と しげり、 くろい カゲ を ドテ の ウエ に おとして いる。 その マシタ に かたまって、 ミサキグミ の ジョセイト たち は ズガニ の ユウシ を むかえ、 ワレガチ に いった。
「タンコ、 1 ピキ くれ なぁ」
「ウチ にも、 くれ なぁ」
「ワタシ も な」
「ヤクソク ど」
 カニ は 3 ビキ なのに キボウシャ は 4 ニン なの だ。 タダシ は かんがえながら あがって きて、
「くう か、 くわん の か?」
 ミンナ の カオ を みまわした。 くう モノ に やろう と おもった の だ。 いちはやく コツル が、
「くう くう。 ツキヨ の カニ は、 うまい もん」
 それ を きく と、 タダシ は にやり と し、
「ウソ つけえ、 カニ が うまい ん は、 ヤミヨ の こっちゃ」
「ウソ つけえ、 ツキヨ じゃ ない か」
「ああ きいた、 あ きいた。 ツキヨ の カニ は やせて、 うも (うまく) ない のに」
 タダシ が カクシン を もって いう と、 コツル も まけよう と しない。 おなじ よう に タダシ の クチマネ で、
「ああ きいた、 あ きいた。 ツキヨ の カニ が うまい のに。 ためしに くうて みる。 みんな くれ」
「いや、 こんな カワ の カニ で わかる かい。 ウミ の カニ じゃ のうて」
 それ を きく と オンナグミ が わあわあ さわぎたて、 マド の センセイ に むかって クチグチ に きいた。
「センセ、 ツキヨ の カニ と ヤミヨ の カニ と、 どっち が おいしい ん?」
「センセ ツキヨ じゃ なあ」
 マスノ や コツル や ミサコ たち だった。
「さあ、 ねえ。 ヤミヨ の よう に おもう けど……」
 オトコグミ が わあっと きた。
「ほら みい、 ほら みい」
 コンド は センセイ は わらいながら、
「でも、 ツキヨ の よう な キ も する……」
 オンナグミ が リョウテ を あげ、 とびとび して よろこんだ。 そうして さわぐ こと が おもしろく、 ダレ も それ を ホンキ に して かんがえて は いなかった の だ が、 タダシ だけ は ネッシン に センセイ を みあげ、
「バカ いうな センセイ!」
 すると オンナグミ が また、 わあっと きた。
「センセイ を バカ じゃ とい」
「ほう、 タンコ は センセイ を バカ じゃ とい」
 タダシ は アタマ を かき、 ミンナ の しずまる の を まって、 やっぱり シンケン に いった。
「ほたって センセイ、 それ にゃ ワケ が ある ん じゃ もん。 ツキヨ に なる と な、 カニ は バカ じゃ せに、 ワガ の カゲボウシ を オバケ か と おもって びっくり して、 やせる ん じゃ。 ヤミヨ に なる と、 カゲボウシ が うつらん さかい、 アンシン して ミ が つく ん じゃ ど。 だから、 ツキヨ は カニ が アミ に かかって も にがして やる ん じゃ ない か。 かすかす で、 うも ない もん。 ヤミヨ まで おく と、 しこしこ の ミ が ついて、 うまい ん じゃ。 ホンマ じゃ のに、 センセ。 ウソ じゃ おもう なら、 ためして みる と ええ」
「じゃあ、 ミンナ で ためしましょう ね」
 ジョウダン に そう いって、 その ヒ は すんだ の だ が、 ヨクヨクジツ、 モリオカ タダシ は ホント に ツキヨ の カニ を もって きた。 1 ジカン-メ の サンスウ が はじまる マエ、 ヒョウタンカゴ を つきだした の で ある。
「センセ、 カニ。 ツキヨ の カニ。 やせて、 うも ない ツキヨ の カニ」
 それ は ケサ とれた ばかり で、 まだ いきて いた。 がさごそ と オト が して いる。 ミンナ わらった。
「ホント に もって きた の。 タンコ さん」
 センセイ も わらって、 しかたなさそう に うけとった。 カニ は、 この ゴ に なって も まだ ジブン の ウンメイ を なんとか して ダカイ しよう と でも いう よう に、 せまい カゴ の ナカ を がさごそ はいまわって いた。 どういう ワケ か、 2 ヒキ とも、 おおきな ハサミ を カタホウ だけ もぎとられた あわれ な スガタ で、 のこった カタホウ の ハサミ を ウエ に むけ、 よらば はさむ カマエ で アワ を ふいて いる。
「かわいそう に、 これ センセイ が たべる の?」
「うん、 ヤクソク じゃ もん」
「にがして やりましょう よ」
「いや、 ヤクソク じゃ もん」
 タダシ は ウシロ を ふりむいて 「なあ」 と ミンナ の サンセイ を もとめた。 オトコ の コ は テ を たたいて よろこんだ。
「じゃあ こう しましょう。 アト で コヅカイ さん に これ を にて もらい、 キョウ の リカ の ジカン に ケンキュウ しよう じゃ ない の。 それから、 カニ って いう ダイ で ツヅリカタ も かいて くる の」
「はーい」
「はーい」
 ダイサンセイ だった。 カゴ は マドベリ の ハシラ の クギ に かけられ、 その ジカンチュウ カニ は がさごそ オト を たてつづけて ミンナ を わらわせた。
 ジカン が すむ と、 センセイ は ヒョウタンカゴ を はずし、 ジブン で コヅカイシツ の ほう へ あるいて いった。 コツル と コトエ が ヨウ ありげ に ついて きて、
「センセ」 と よびかけ、 ふりむく の を まって、
「マッチャン の こと」 と いった。
「マッチャン?」
「はい。 マッチャン、 ユウベ の フネ で、 オオサカ へ いった ん」
「ええっ」
 おもわず たちどまった センセイ の カオ を みあげながら、 コトエ が、 イッショウ ケンメイ の カオ で、
「シンルイ の イエ へ、 コ に いった ん」
「まあ」
「そいで、 マッチャン ク、 オッサン と オトコ の コ と のこった ん」
「そう、 マッチャン、 うれしそう だった?」
 コトエ は こたえず に、 カブリ を ふった。 コツル が かわって、
「マッチャン、 いかん いうて、 はじめ、 ニワ の クチ の ハシラ に かかえついて ないた ん。 マッチャン ク の オトウサン が よわって、 ハジメ は やさしげ に すかした けんど、 なかなか マッチャン が はなれん ので、 アト は アタマ に ゲンコツ かましたり、 セナカ を どづいたり した ん。 マッチャン、 おいおい ないて ミンナ が よわっとった。 ヨロズヤ の バアヤン が、 ようやっと すかして、 トクシン さした けんど、 ミンナ モライナキ しよった。 ワタシ も ナミダ が でて きて よわった。 トチュウ まで、 ミンナ と おくって いった けんど、 マッチャン ヒトクチ も モノ いわなんだ。 なあ コトヤン。 そいで……」
 キュウ に ハンカチ を カオ に あてて、 くっくっ と なきだした センセイ に おどろいて、 コツル は だまった。 いつのまにか サナエ や マスノ も よって きて、 カタテ に ヒョウタンカゴ を もった まま、 うつむいて ハンカチ を メ に あてて いる センセイ を、 うたてげ に みて いた。 ミンナ の メ にも、 さそわれた ナミダ が もりあがって いた。
 その アト も しばらく は、 マドギワ の マエ から 3 バンメ の マツエ の セキ は あいた まま おかれて あった が、 ある とき、 その、 マツエ の たった 1 ニチ すわった セキ に センセイ は だまって こしかけて いた。 その アト すぐ セキ の クミカエ が あって、 その レツ は オトコ の コ に なった。 それきり マツエ の ウワサ は でなかった。 センセイ も きかず、 セイト も いわず、 マツエ から の タヨリ も なかった。 もう ミンナ の ココロ から、 マツエ の スガタ は おいだされた の で あろう か。 ワカレ の アイサツ にも こず に、 どこ か へ いって しまった 5 ネンセイ の オンナ の コ。……

 そして、 もう すぐ 6 ネンセイ に シンキュウ する と いう 3 ガツ ハジメ で あった。 ハル は メノマエ に きて いながら めずらしく ユキ の ふる ナカ を、 ヒト-バス おくれた オオイシ センセイ は、 ガッコウ マエ の テイリュウジョ から カサ も ささず に はしって、 ショクインシツ に とびこんだ トタン、 イヨウ な シツナイ の クウキ に おもわず たちどまり、 ダレ に はなしかけよう か と いう ふう に 15 ニン の センセイ たち を みまわした。 ミンナ シンパイ そう な、 こわばった カオ を して いた。
「どうした の?」
 ドウリョウ の タムラ センセイ に きく と、 しっ と いう よう な カオ で タムラ センセイ は おくまった コウチョウシツ に、 アゴ を ふった。 そして ちいさな コエ で、
「カタオカ センセイ が、 ケイサツ へ ひっぱられた」
「えっ!」
 タムラ センセイ は また、 しずか に、 と いう ふう に こまかく カオ を ふりながら、
「イマ、 ケイサツ が きてる の」
 また コウチョウシツ を メガオ で おしえ、 つい イマ の サッキ まで カタオカ センセイ の ツクエ を しらべて いた の だ と ささやいた。 ぜんぜん、 ダレ にも まだ コト の シンソウ は わかって いない らしく、 ヒバチ に よりあって、 だまって いた が、 シギョウ の ベル で ようやく いきかえった よう に、 ロウカ へ でた。 タムラ センセイ と カタ を ならべる と、
「どうした の」
 マッサキ に オオイシ センセイ は きいた。
「アカ だ って いう の」
「アカ? どうして?」
「どうして か、 しらん」
「だって、 カタオカ センセイ が アカ? どうして?」
「しらん わよ。 ワタシ に きいたって」
 ちょうど キョウシツ の マエ へ きて いた。 わらって わかれ は した が、 フタリ とも ココロ に シコリ は のこって いた。 まだ なんにも しらない らしい セイト は、 ユキ に いきおいづいた の か、 イツモ より ゲンキ に みえた。 ここ に たつ と、 スベテ の ザツネン を すてねば ならない の だ が、 キョウダン に たって 5 ネン-カン、 オオイシ センセイ に とって この ジカン ほど、 ながく かんじた こと は なかった。 1 ジカン たって ショクインシツ に もどる と、 ミンナ、 ほっと した カオ を して いた。
「ケイサツ、 かえった よ」
 わらいながら いった の は、 わかい ドクシン の シハンデ の オトコ センセイ で ある。 カレ は つづけて、
「ショウジキ に やる と バカ みる っちゅう こと だ」
「なんの こと、 それ。 もっと センセイ-らしく……」
 つっつかれて オオイシ センセイ は いう の を やめた。 つっついた の は タムラ センセイ だった。
 キョウトウ が でて きて の セツメイ では、 カタオカ センセイ の は、 ただ サンコウニン と いう だけ の こと で、 イマ コウチョウ が モライサゲ に いった から、 すぐ かえって くる だろう と いった。 モンダイ の チュウシン は カタオカ センセイ では なく、 チカク の マチ の ショウガッコウ の イナガワ と いう キョウシ が、 ウケモチ の セイト に ハンセン シソウ を ふきこんだ と いう、 それ だった。 イナガワ センセイ が カタオカ センセイ とは シハン ガッコウ の ドウキュウセイ だ と いう ので、 いちおう しらべられた の だ が、 なんの カンケイ も ない こと が わかった と いう の で ある。 つまり、 ショウコ に なる もの が でて こなかった の だ。 その さがして いる ショウコヒン と いう の は、 イナガワ センセイ が うけもって いる 6 ネンセイ の ブンシュウ 『クサ の ミ』 だ と いう の で ある。 それ が、 カタオカ センセイ の ジタク にも、 ガッコウ の ツクエ にも なかった の だ。
「あら、 『クサ の ミ』 なら みた こと ある わ、 ワタシ。 でも、 どうして あれ が、 アカ の ショウコ」
 オオイシ センセイ は フシギ に おもって きいた の だった が、 キョウトウ は わらって、
「だから、 ショウジキモノ が バカ みる ん です よ。 そんな こと ケイサツ に きかれたら、 オオイシ センセイ だって アカ に せられる よ」
「あら、 ヘン なの。 だって ワタシ、 『クサ の ミ』 の ナカ の ツヅリカタ を、 カンシン して、 ウチ の クミ に よんで きかしたり した わ。 『ムギカリ』 だの、 『ショウユヤ の エントツ』 なんて いう の、 うまかった」
「あぶない、 あぶない。 アンタ それ (『クサ の ミ』) イナガワ クン に もらった の」
「ちがう。 ガッコウ-アテ おくって きた の を みた のよ」
 キョウトウ は キュウ に あわてた コエ で、
「それ、 イマ どこ に ある?」
「ワタシ の キョウシツ に」
「とって きて ください」
 トウシャバン の 『クサ の ミ』 は、 すぐ ヒバチ に くべられた。 まるで、 ペスト キン でも まぶれついて いる か の よう に、 あわてて やかれた。 ちゃいろっぽい ケムリ が テンジョウ に のぼり、 ほそく あけた ガラスド の アイダ から にげて いった。
「あ、 やかず に ケイサツ へ わたせば よかった かな。 しかし、 そしたら オオイシ センセイ が ひっぱられる な。 ま、 とにかく、 ワレワレ は チュウクン アイコク で いこう」
 キョウトウ の コトバ が きこえなかった よう に、 オオイシ センセイ は だまって ケムリ の ユクエ を みて いた。
 ヨクジツ の シンブン は、 イナガワ センセイ の こと を おおきな ミダシ で、 「ジュンシン なる タマシイ を むしばむ あかい キョウシ」 と ほうじて いた。 それ は イナカ の ヒトビト の アタマ を ゲンノウ で どやした ほど の オドロキ で あった。 セイト の シンボウ を あつめて いた と いう イナガワ センセイ は、 イッチョウ に して コクゾク に テンラク させられた の で ある。
「あ、 こわい、 こわい。 ジンコウ も たかず、 ヘ も こかず に いる ん だな」
 つぶやいた の は としとった ジセキ クンドウ だった。 ホカ の センセイ は ミナ、 イケン も カンソウ も のべよう とは しなかった。 そんな ナカ で ヒトリ オオイシ センセイ は、 おおげさ な シンブン キジ の ナカ の、 わずか 4~5 ギョウ の ところ から メ が はなれなかった。 そこ には、 イナガワ センセイ の オシエゴ たち が、 ヒトリ ヒトツ ずつ の タマゴ を もちよって、 さむい リュウチジョウ の センセイ に サシイレ して くれ と、 ケイサツ へ おしかけた こと が かかれて いた の だ。
 キョウ は もう シュッキン した カタオカ センセイ は キュウ に エイユウ に でも なった よう に、 ヒッパリダコ だった。 どう だった? の シツモン に こたえて、 1 ニチ で げっそり ホオ の おちた カレ は、 あおい ヒゲアト を なでながら、
「いや、 どうも こうも、 イマ かんがえる と あほらしい ん じゃ けど な、 すんでのこと に アカ に ならされる とこ じゃった。 イナガワ は、 キミ が カイゴウ に でた の は 4~5 カイ じゃ と いう が だの、 コバヤシ タキジ の ホン を よんだろう とか って。 ボク は コバヤシ タキジ なんて ナマエ も しらん、 いうたら、 この ヤロウ、 こないだ シンブン に でた じゃ ない か って。 いわれて みりゃあ、 ほら、 つい こないだ、 そんな こと が でました な。 ショウセツカ で、 ケイサツ で しんだ ヒト の こと が」 (ホントウ は ゴウモン で ころされた の だ が、 シンブン には シンゾウ マヒ で しんだ と ほうじられた。)
「ああ、 いた いた。 あかい ショウセツカ だ」
 わかい ドクシン の センセイ が いった。
「その プロレタリヤ なんとか いう ホン を、 たくさん とられとりました。 あの イナガワ は シハン に いる とき から ホンズキ でした から な」
 その ヒ コクゴ の ジカン に、 オオイシ センセイ は ボウケン を こころみて みた。 セイト たち は もう 『クサ の ミ』 と その センセイ の こと を しって いた から だ。
「ウチ で、 シンブン とってる ヒト?」
 42 ニン の ウチ 3 ブン の 1 ほど の テ が あがった。
「シンブン を よんで いる ヒト?」
 2~3 ニン だった。
「アカ って、 なんの こと か しってる ヒト?」
 ダレ も テ を あげない。 カオ を みあわせて いる の は、 なんとなく しって いる が、 はっきり セツメイ できない と いう カオ だ。
「プロレタリヤ って、 しってる ヒト?」
 ダレ も しらない。
「シホンカ は?」
「はーい」
 ヒトリ テ が あがった。 その コ を さす と、
「カネモチ の こと」
「ふーん。 ま、 それ で いい と して、 じゃあ ね、 ロウドウシャ は?」
「はい」
「はい」
「はーい」
 ほとんど ミンナ の テ が あがった、 ミ を もって しって おり、 ジシン を もって テ が あがる の は、 ロウドウシャ だけ なの だ。 オオイシ センセイ に して も、 そう で あった。 もしも セイト の ダレ か に、 コタエ を もとめられた と したら、 センセイ は いったろう。
「センセイ にも、 よく わからん のよ」 と。
 まだ 5 ネンセイ には それ だけ の チカラ が なかった の だ。 ところが すぐ その アト、 この こと に ついて は、 クチ に する こと を とめられた。 ただ あれ だけ の こと が どこ から もれた の か、 オオイシ センセイ は コウチョウ に よばれて チュウイ された の で ある。
「キ を つけん と、 こまりまっそ。 ウカツ に モノ が いえん とき じゃ から」
 コウチョウ とは、 チチ の ユウジン と いう トクベツ の カンケイ だ から、 それ だけ で すんだ らしい。 だが この こと は、 あかるい オオイシ センセイ の カオ を いつ と なく かげらす モト に なった。 たいして キ にも とめて いなかった 『クサ の ミ』 の こと と おなじく、 けしがたい カゲリ を だんだん こく して いった。

 6 ネンセイ の アキ の シュウガク リョコウ は、 ジセツガラ イツモ の イセ マイリ を とりやめて、 チカク の コンピラ と いう こと に きまった。 それでも ゆけない セイト が だいぶ いた。 ハタラキ に くらべて ケンヤク な イナカ の こと で ある。 ヤドヤ には とまらず、 3 ショク ブン の ベントウ を もって ゆく と いう こと で、 ようやく フケイ の サンセイ を えた。 それでも フタクミ あわせて 80 ニン の セイト の ウチ、 ゆける と いう の は 6 ワリ だった。 ことに ミサキ の ムラ の コドモ ら と きたら、 ぎりぎり の ヒ まで きまらず、 その ワケ を、 おたがいに あばきだして は、 ナイジョウ を ぶちまけた。
「センセイ、 ソンキ は な、 ネションベン が でる さかい、 リョコウ に いけん ので」
 マスノ が いう。
「だって、 ヤドヤ には とまらん の です よ。 アサ の フネ で でて、 バン の フネ で もどって くる のに」
「でも、 アサ の フネ 4 ジ だ もん、 フネ ん ナカ で ねる でしょう」
「ねる かしら、 たった 2 ジカン よ。 ミナ、 ねる どころ で ない でしょう に。 それ より マスノ さん は どうして ゆかん の」
「カゼ ひく と いかん さかい」
「あれあれ、 ダイジ な ヒトリムスメ」
「そのかわり、 リョコウ の オカネ、 バイ に して チョキン して もらう ん」
「そうお、 チョキン は また できる から、 リョコウ に やって って、 いいなさい よ」
「でも、 ケガ する と いかん さかい」
「あら、 どうして。 リョコウ する と カゼ ひいたり ケガ したり する ん なら、 ダレ も いけない わ」
「ミンナ、 やめたら ええ」
「わあ、 オハナシ に ならん」
 センセイ は ニガワライ を した。
「センセイ、 ボク は もう、 コンピラサン やこい、 ウチ の アミブネ で、 3 ベン も いった から、 いきません」
 モリオカ タダシ が そう いって きた。
「あら そう。 でも ミンナ と いく の、 はじめて でしょう。 いきなさい よ。 アンタ は アミモト だ から これから だって マイトシ いく でしょう がね。 センセイ いっとく から。 シュウガク リョコウ の コンピラ マイリ が いちばん おもしろかった、 と アト で きっと おもいます から ね」
 カベ コツル は、 ジブン も いかない と いいながら、 やはり ゆかない キノシタ フジコ の こと を、 こんな ふう に いった。
「センセ、 フジコ さん ク、 シャクセン が ヤマ の よう に あって リョコウ どころ じゃ ない ん。 あんな おおきな ウチ でも、 もう すぐ シャクセン の カタ に とられて しまう ん。 ウチ ん ナカ、 もう、 なんちゃ うる もん ない んで」
「そんな こと、 いわん もの よ」
 かるく セナカ を たたく と、 コツル は ぺろっと シタ を だす。
「いや な コ!」
 そう いいながら おもいだす の は フジコ の イエ だった。 はじめて ミサキ へ フニン した とき でも、 もう アス にも ヒトデ に わたりそう な ウワサ だった その イエ は、 クラ の シラカベ が キタガワ だけ ごっそり はげて いた。 ふるい イエ に うまれた フジコ は、 いかにも その イエガラ を せおった よう に おちつきはらって いて、 めった に なかず、 めった に わらわない ショウジョ だった。 コツル など から あからさま な こと を いわれて も、 じろり と つめたい メ で にらみかえす ドキョウ は、 ダレ にも マネ の できない もの だ。 「くさって も タイ」 と いう カノジョ の アダナ は、 カノジョ の チチ の クチグセ から きて おり、 カノジョ は それ に マンゾク して いる ところ が みえた。
 そこ へ ゆく と コツル など は さっぱり した もの で、 ヒト の こと も いう が、 ジブン の こと を いわれて も、 べつに キ に とめない ふう だった。 イッカ そろって はたらき、 その ハタラキ を オモテ カンバン に して ウラ も オモテ も なかった。 たとえば コツル の アダナ は 「メッツリ」 と いわれて いる。 たいした キズ では ない が、 マブタ の ウエ の オデキ の アト が ひっつれて いる から だ。 フツウ なら、 ことに オンナ の コ は 「メッツリ」 など と なぶられれば なきたく なる だろう が、 コツル は ちがって いた。 まるで ヒトゴト の よう に ワダカマリ の ない ヨウス で、
「メッツリ メッツリ と、 やすやす いうて くれるな。 メッツリ も、 なろう と おもうて なれる メッツリ と ちがう ぞ」
 それ は カノジョ の ハハ たち が そう いって いた から で あろう。 リョコウ に ゆけない ワケ をも、 カノジョ は ざっくばらん に いう の だ。
「ワタシ ん ク なあ センセイ、 こないだ タノモシコウ を おとして、 おおきい フネ を こうた ん。 だから、 ケンヤク せん ならん の。 コンピラ マイリ は、 ジブン で カネモウケ する よう に なって から、 いく こと に きめた」
 それで タニン の フトコロ も エンリョ なく のぞきこんで、 ヒト の こと は いうな と いって も ヘイキ で いう。 ミサコ が いかない の は ヨクバリ だ から だの、 コトエ や サナエ は キョウダイ が おおくて、 リョコウ どころ で なかろう とか と。
 ところが ゼンゼンジツ に なる と、 リョコウ シボウシャ は キュウ に ふえて、 ミサキ では マスノ を のけて ミンナ が ゆく と いう こと に なった。
 その キッカケ は、 ダマリヤ の キチジ が、 ヤマダシ を して もうけた チョキン を おろして モウシコミ を した こと に ある よう だった。 キチジ が ゆけば、 どうしたって だまって いられない の が ソンキ で あった。 イソキチ は、 ジブン も トウフ や アブラアゲ を うりあるいて もらった ブキン を チョキン して いた の だ。 ソンキ さえ も ゆく と なる と、 どうしたって タダシ や タケイチ が やめる わけ には ゆかない。 タダシ も アミヒキ で、 もうけた チョキン を おもいだす し、 タケイチ も タマゴ を うって ためた カネ で ゆく と いいだした。 ケンヤク な ミサキ の ムラ の コドモ ら は、 こんな こと で チョキン を おろす こと を おもいつかなかった の だ。 タダシ など、 おろさなくて も よい と いわれながら、 どうしても おろす の だ と いって、 タケイチ と イッショ に わざわざ ユウビンキョク へ いったり した。
 オトコ の コ の ほう が そう なる と、 オンナ の コ の ほう も だまって いられない。 いちばん シンパイ の ない ミサコ は、 フジコ を さそった。 フタリ の ハハオヤ たち が ナカ が よかった から だ。 ラデン の スズリバコ が フジコ には しらせず に ミサコ の イエ へ ゆき、 それ で フジコ は ゆける こと に なった。 フタリ の こと が わかる と、 じっと して いられなく なった の は コツル で ある。 カノジョ は さっそく さわぎだした。
「ミイ さん も フジコ さん も リョコウ に いくう。 ウチ も ビンボウ シチ に おいて、 やって くれえ」
 コツル は ホントウ に そう いって、 ジダンダ ふんで ないた。 その ため に カノジョ の ほそい メ は よけい ほそく、 はれぼったく なった。 コツル の ハハオヤ は、 コツル と そっくり の メ を イト の よう に して わらいだし、 むつかしい モンダイ を だした。
「ミイ さん とこ は カネモチ じゃ し、 フジコ さん とこ は オマエ、 なんと いうたって ショウヤ じゃ もん。 あんな ダンナシュウ の マネ は できん。 じゃが な、 もしも コトヤン が いく ん なら、 コツ も やって やる。 イッペン コトヤン と ソウダン して こい」
 とうてい コトエ は ゆくまい と おもって そう いった の で あろう。 ところが、 はしって いった コツル は にこにこ して もどって きた。 はあはあ カタ で イキ を しながら、
「コトヤン、 いく いうた」
「ホンマ かい や」
「ホンマ、 バアヤン が おって、 そう いうた もん」
 あんまり の カンタンサ に コツル の ハハオヤ は ウタガイ を もち、 きき に いった。 デシャバリ の コツル が そんな ふう に もって いった の では ない か と おもった の で ある。
「ウチ の コツ が、 しゃしゃりでた こと いい に きた ん じゃ ない かえ」
 さぐる よう に いう と、 リョウシ-ナミ に ヒヤケ した コトエ の ハハ は、 まっしろく みえる ハ を みせて わらい、
「イッショウ に イッペン の こと じゃ、 やって やりましょい な、 こんな とき こそ。 いつも シタコ の コモリ ばっかり さして、 クロウ さしとる もん」
「そりゃ、 ウチ の コツ も おなじ こっちゃ。 しかし、 ナニ きせて やる ん ぞな?」
「ウチ じゃあ、 おもいきって、 セーラー こうて やろう と おもう」
「ハシタガネ じゃ、 かえまい がの」
「ま、 そんな こと いわん と、 こうて やんなされ、 シタコ も きる がい の」
「ふーん」
「サナエ さん も、 そう する こと に した ぞな。 コツヤン にも ひとつ、 フンパツ して あげる ん じゃ な」
「そう かいの。 サナエ さん も、 のう。 そう なる と、 コツ も じっと して おれん はず じゃ。 やれやれ。 そんなら ひとつ、 ビンボウ シチ に おこう か」
 こんな イキサツ が あった の だ。 ところが、 トウジツ に なる と、 サナエ は、 カゼギミ で ゆけない と いった。 しかし サナエ は ノド が いたい の でも、 ハナ が つまって いた の でも ない。 いたかったり、 つまったり した の は、 オカアサン の サイフ の クチ の ほう で、 サナエ の ため に うり に いった サンゴ の タマ の ついた カンザシ は おもう ネ で うれず、 ヨウフク を かう こと が できなかった の だ。 ヒト の アシモト を みて から に と、 サナエ の ハハ は、 その フルテヤ (コブツショウ) の こと を いつまでも おこりながら、 サナエ には やさしく、
「キモノ きて、 いく か」
 サナエ が なきそう な カオ を する と、
「ネエヤン の、 きれい な キモノ に コシアゲ して きて いく か」
「…………」
「オマエ だけ キモノ きて いく の が いや なら、 やめとけ。 そのかわり、 ヨウフク を かおう や。 どう する?」
「…………」
 サナエ は ぽろっと ナミダ を こぼし、 くいしばった クチモト を こまかく ふるわせて いた。 フタツ の ウチ どちら を とって よい か ハンダン が つかなかった の だ。 しかし ハハオヤ の こまって なきそう な カオ に きづく と、 キュウ に サナエ の ケッシン は ついた。
「リョコウ、 やめる」
 こんな イキサツ が あった とは、 ダレ も しらず、 シュウガク リョコウ は 63 ニン の イチダン で シュッパツ した。 オトコ と オンナ の センセイ が フタリ ずつ で、 もちろん オオイシ センセイ も くわわって いた。 ゴゼン 4 ジ に のりこんだ フネ の ナカ では ダレ も ねむろう と する モノ は なく、 がやがや の サワギ の ナカ で、 「コンピラ フネフネ」 を うたう モノ も いた。
 そんな ナカ で、 オオイシ センセイ は ひとり かんがえこんで いた。 その カンガエ から、 いつも はなれない の が サナエ だった。
 ホント に、 カゼケ だった の かしら?
 サナエ の ホカ にも、 10 イクニン か の コドモ が ソレゾレ の リユウ で リョコウ に こられなかった の だ が、 トクベツ に サナエ が キ に なる の は、 ミサキ の セイト で、 カノジョ ヒトリ が フサンカ だ から かも しれぬ。 6 ネン に なって から、 マスノ は すっかり ハハ たち の イエ へ うつって いた ので、 もう ミサキ の ナカマ では なくなって いた。 たった ヒトリ、 あの ミサキ の ミチ を ガッコウ へ ゆく キョウ の サナエ を おもう と、 キョウ は ヤスミ に しなかった こと が、 かわいそう に おもえた。 センセイ も いない キョウシツ で しょんぼり と ジシュウ して いる セイト たち を おもう と サナエ ばかり で なく、 かわいそう だった。
 コンピラ は タドツ から イチバン の キシャ で アサマイリ を した。 また 「コンピラ フネフネ」 を うたい、 ながい、 イシダン を のぼって ゆきながら アセ を ながして いる モノ も ある。 そんな ナカ で オオイシ センセイ は ぞくり と ふるえた。 ヤシマ への デンシャ の ナカ でも、 ケーブル に のって から も、 それ は ときどき ゼンシン を おそった。 ヒザ の アタリ に ミズ を かけられる よう な ブキミサ は、 アタリ の シュウショク を たのしむ ココロ の ユトリ も わかず、 のろのろ と ミヤゲモノヤ に はいり、 おなじ エハガキ を イククミ も かった。 せめて のこって いる コドモ たち への ミヤゲ に と おもった の で ある。
 ヤシマ を アト に、 サイゴ の スケジュール に なって いる タカマツ に で、 リツリン コウエン で 3 ド-メ の ベントウ を つかった とき、 オオイシ センセイ は、 おおかた のこって いる ベントウ を キボウシャ に わけて たべて もらったり した。 ベントウ まで が ココロ の オモニ に なって いた こと に きづき、 それ で ほっと した。 ユウヤミ の せまる タカマツ の マチ を、 チッコウ の ほう へ と、 ぞろぞろ あるきながら、 はやく かえって おもうさま アシ を のばしたい と、 しみじみ かんがえて いる と、
「オオイシ センセイ、 あおい カオ よ」
 タムラ センセイ に チュウイ される と、 よけい ぞくり と した。
「なんだか、 つかれました の。 ぞくぞく してる の」
「あら、 こまりました ね。 オクスリ は?」
「サッキ から セイリョウタン を のんで ます けど」 と いいさして おもわず ふっと わらい、
「セイリョウ で ない ほう が いい のね。 あつうい ウドン でも たべる と……」
「そう よ。 おつきあい する わ」
 そう は いった が マエ にも ウシロ にも セイト が いる。 それ を サンバシ の マチアイジョ まで おくって から の こと に した。 オトコ センセイ たち に ジジョウ を いって、 ヒトリ ずつ そっと ぬけだし、 めだたぬ よう オオドオリ を すぐ ヨコチョウ に はいった。 そこ でも ミヤゲモノ や タベモノ の ミセ が ならんで いた。 ノキ の ひくい ヤナミ に、 オオヂョウチン が ヒトツ ずつ ぶらさがって いて、 どれ にも みな、 ウドン、 スシ、 サケ、 サカナ など と、 ふとい ジ で かいて あった。 せまい ドマ の テンジョウ を キセツ の ゾウカ モミジ で かざって ある ミセ を ヨコメ で みながら、
「オオイシ センセイ、 ウドン や カゼグスリ と いう の が ある でしょ、 あれ もらったら?」
 そう ね、 と ヘンジ を しよう と した トタン、
「テンプラ イッチョウッ!」
 イセイ の よい ショウジョ の、 よく ひびく コエ が オオイシ センセイ を はっと させた。 あっ と さけびそう に なった ほど、 ココロ に ひびく コエ で あった。 この アタリ には めずらしい、 ナワノレン の ミセ の ナカ から それ は ひびいて きた の だった。 おもわず のぞく と、 カミ を モモワレ に ゆった ヒトリ の ショウジョ が、 ビラビラ カンザシ と イッショ に ゾウカ の モミジ を アタマ に かざり、 あかい マエカケ に リョウテ を くるむ よう に して、 ムシン な カオ で オウライ の ほう を むいて たって いた。 それ は どうしても、 オオイシ センセイ と して みのがせぬ スガタ で あった。 たちどまった センセイ たち を キャク と みた の か、 ショウジョ は サッキ と おなじ コエ で さけんだ。
「いらっしゃーい」
 それ は もう、 ジブン の コエ に さえ、 いささかも ギモン を もたない サケビ で あった。 ニホンガミ に、 ませた ヌキエモン の かわった スガタ とは いえ、 ながい マツゲ は もう うたがう ヨチ も なかった。
「マツエ さん、 アンタ、 マッチャン でしょ」
 はいって きた キャク に、 いきなり はなしかけられ、 モモワレ の ショウジョ は イキ を のんで ヒトアシ さがった。
「オオサカ へ いった ん じゃ なかった の。 マッチャン、 ずっと ここ に いた の?」
 のぞきこまれて マツエ は やっと おもいだし でも した よう に、 しくしく なきだした。 おもわず その カタ を かかえる よう に して ナワノレン の ソト に つれだす と、 オク から あわただしい ゲタ の オト と イッショ に、 オカミサン も とびだして きた。
「ドナタ です か。 だまって つれだされたら、 こまります が」
 うさんくさそう に いう の へ、 マツエ は はじめて クチ を きき、 オカミサン の ウタガイ を うちけす よう に コゴエ で いった。
「オオイシ センセイ や ない か、 オカアハン」
 ウドン は とうとう たべる ヒマ が なかった。