カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ある オンナ (コウヘン 5)

2021-05-21 | アリシマ タケオ
 30

「ボク が マイニチ―― マイニチ とは いわず マイジカン アナタ に フデ を とらない の は とりたく ない から とらない の では ありません。 ボク は イチニチ アナタ に かきつづけて いて も なお あきたらない の です。 それ は イマ の ボク の キョウガイ では ゆるされない こと です。 ボク は アサ から バン まで キカイ の ごとく はたらかねば なりません から。
 アナタ が ベイコク を はなれて から この テガミ は たぶん 7 カイ-メ の テガミ と して アナタ に うけとられる と おもいます。 しかし ボク の テガミ は いつまでも ヒマ を ぬすんで すこし ずつ かいて いる の です から、 ボク から いう と ヒ に 2 ド も 3 ド も アナタ に あてて かいてる わけ に なる の です。 しかし アナタ は あの ゴ 1 カイ の オトズレ も めぐんで は くださらない。
 ボク は くりかえし くりかえし いいます。 たとい アナタ に どんな カシツ どんな ゴビュウ が あろう とも、 それ を たえしのび、 それ を ゆるす こと に おいて は シュ キリスト イジョウ の ニンタイリョク を もって いる の を ボク は みずから しんじて います。 ゴカイ して は こまります。 ボク が いかなる ヒト に たいして も かかる チカラ を もって いる と いう の では ない の です。 ただ アナタ に たいして です。 アナタ は いつでも ボク の ヒンセイ を とうとく みちびいて くれます。 ボク は アナタ に よって ヒト が どれほど あいしうる か を まなびました。 アナタ に よって セケン で いう ダラク とか ザイアク とか いう もの が どれほど まで カンヨウ の ヨユウ が ある か を まなびました。 そして その カンヨウ に よって、 カンヨウ する ヒト ジシン が どれほど ヒンセイ を トウヤ される か を まなびました。 ボク は また ジブン の アイ を ジョウジュ する ため には どれほど の ユウシャ に なりうる か を まなびました。 これほど まで に ボク を カミ の メ に たかめて くださった アナタ が、 ボク から マンイチ にも うしなわれる と いう の は ソウゾウ が できません。 カミ が そんな シレン を ヒト の コ に くだされる ザンギャク は なさらない の を ボク は しんじて います。 そんな シレン に たえる の は ジンリョク イジョウ です から。 イマ の ボク から アナタ が うばわれる と いう の は カミ が うばわれる の と おなじ こと です。 アナタ は カミ だ とは いいますまい。 しかし アナタ を とおして のみ ボク は カミ を おがむ こと が できる の です。
 ときどき ボク は ジブン で ジブン を あわれんで しまう こと が あります。 ジブン ジシン だけ の チカラ と シンコウ と で スベテ の もの を みる こと が できたら どれほど コウフク で ジユウ だろう と かんがえる と、 アナタ を わずらわさなければ イッポ を ふみだす チカラ をも かんじえない ジブン の ソクバク を のろいたく も なります。 ドウジ に それほど したわしい ソクバク は タ に ない こと を しる の です。 ソクバク の ない ところ に ジユウ は ない と いった イミ で アナタ の ソクバク は ボク の ジユウ です。
 アナタ は―― いったん ボク に テ を あたえて くださる と ヤクソク なさった アナタ は、 ついに ボク を みすてよう と して おられる の です か。 どうして 1 カイ の オトズレ も めぐんで は くださらない の です。 しかし ボク は しんじて うたがいません。 ヨ に もし シンリ が ある ならば、 そして シンリ が サイゴ の ショウリシャ ならば アナタ は かならず ボク に かえって くださる に ちがいない と。 なぜなれば ボク は ちかいます。 ――シュ よ この シモベ を みまもりたまえ―― ボク は アナタ を あいして イライ だんじて タ の イセイ に ココロ を うごかさなかった こと を。 この セイイ が アナタ に よって みとめられない わけ は ない と おもいます。
 アナタ は じゅうらい くらい イクツ か の カコ を もって います。 それ が しらずしらず アナタ の コウジョウシン を チュウチョ させ、 アナタ を やや ゼツボウテキ に して いる の では ない の です か。 もし そう なら アナタ は ぜんぜん ゴビュウ に おちいって いる と おもいます。 スベテ の スクイ は おもいきって その ナカ から とびだす ホカ には ない の でしょう。 そこ に テイタイ して いる の は それだけ アナタ の くらい カコ を くらく する ばかり です。 アナタ は ボク に シンライ を おいて くださる こと は できない の でしょう か。 ジンルイ の ウチ に すくなくも ヒトリ、 アナタ の スベテ の ツミ を よろこんで わすれよう と リョウテ を ひろげて まちもうけて いる モノ の ある の を しんじて くださる こと は できない でしょう か。
 こんな くだらない リクツ は もう やめましょう。
 サクヤ かいた テガミ に つづけて かきます。 ケサ ハミルトン シ の ところ から シキュウ に こい と いう デンワ が かかりました。 シカゴ の フユ は ヨキ イジョウ に さむい です。 センダイ どころ の ヒ では ありません。 ユキ は すこしも ない けれども、 イリー-コ を タコ チホウ から わたって くる カゼ は ミ を きる よう でした。 ボク は ガイトウ の ウエ に また オオガイトウ を カサネギ して いながら、 カゼ に むいた ヒフ に しみとおる カゼ の サムサ を かんじました。 ハミルトン シ の ヨウ と いう の は ライネン セント ルイス に カイサイ される ダイキボ な ハクランカイ の キョウギ の ため キュウ に そこ に おもむく よう に なった から ドウコウ しろ と いう の でした。 ボク は リョコウ の ヨウイ は なんら して いなかった が、 ここ に アメリカニズム が ある の だ と おもって そのまま ドウコウ する こと に しました。 ジブン の ヘヤ の ト に カギ も かけず に とびだした の です から バビコック ハカセ の オクサン は おどろいて いる でしょう。 しかし さすが に ベイコク です。 キノミ キノママ で ここ まで きて も なにひとつ フジユウ を かんじません。 カマクラ アタリ まで ゆく の にも ヒザカケ から タビカバン まで ヨウイ しなければ ならない の です から、 ニホン の ブンメイ は まだ なかなか の もの です。 ボクタチ は この チ に つく と、 テイシャジョウ-ナイ の ケショウシツ で ヒゲ を そり、 クツ を みがかせ、 ヤカイ に でて も はずかしく ない シタク が できて しまいました。 そして すぐ キョウギカイ に シュッセキ しました。 アナタ も しって おらるる とおり ドイツジン の あの ヘン に おける セイリョク は えらい もの です。 ハクランカイ が ひらけたら、 ワレワレ は ベイコク に たいして より も むしろ これら の ドイツジン に たいして キンコン イチバン する ヒツヨウ が あります。 ランチ の とき ボク は ハミルトン シ に レイ の ニホン に かいしめて ある キモノ ソノタ の ハナシ を もう イチド しました。 ハクランカイ を マエ に ひかえて いる ので ハミルトン シ も コンド は ノリキ に なって くれまして、 タカシマヤ と レンラク を つけて おく ため に とにかく シナモノ を とりよせて ジブン の ミセ で さばかして みよう と いって くれました。 これ で ボク の ザイセイ は ヒジョウ に ヨユウ が できる わけ です。 イマ まで ミセ が なかった ばかり に、 とりよせて も ニヤッカイ だった もの です が、 ハミルトン シ の ミセ で とりあつかって くれれば ソウトウ に うれる の は わかって います。 そう なったら イマ まで と ちがって アナタ の ほう にも たりない ながら シオクリ を して あげる こと が できましょう。 さっそく デンポウ を うって いちばん はやい フナビン で とりよせる こと に しました から フジツ チャクニ する こと と おもって います。
 イマ は ヨ も だいぶ ふけました。 ハミルトン シ は コンヤ も キョウオウ に よばれて でかけました。 だいきらい な テーブル スピーチ に なやまされて いる の でしょう。 ハミルトン シ は じつに シャープ な ビジネスマンライキ な ヒト です。 そして ネッシン な セイトウハ の シンコウ を もった ジゼンカ です。 ボク は ことのほか シンライ され チョウホウ-がられて います。 そこ から ボク の ライフ キャリヤー を ふみだす の は ダイ なる リエキ です。 ボク の ゼント には たしか に コウミョウ が みえだして きました。
 アナタ に かく こと は テイシ なく かく こと です。 しかし アス の フントウテキ セイカツ (これ は ダイトウリョウ ルーズベルト の チョショ の “Strenuous Life” を やくして みた コトバ です。 イマ この コトバ は トウチ の リュウコウゴ に なって います) に そなえる ため に フデ を とめねば なりません。 この テガミ は アナタ にも ヨロコビ を わけて いただく こと が できる か と おもいます。
 キノウ セント ルイス から かえって きたら、 テガミ が かなり タスウ とどいて いました。 ユウビンキョク の マエ を とおる に つけ、 ユウビンバコ を みる に つけ、 キャクフ に ゆきあう に つけ、 ボク は アナタ を レンソウ しない こと は ありません。 ジブン の ツクエ の ウエ に ライシン を みいだした とき は なおさら の こと です。 ボク は テガミ の タバ の アイダ を かきわけて アナタ の シュセキ を みいだそう と つとめました。 しかし ボク は また ゼツボウ に ちかい シツボウ に うたれなければ なりません でした。 ボク は シツボウ は しましょう。 しかし ゼツボウ は しません。 できません ヨウコ さん、 しんじて ください。 ボク は ロングフェロー の エヴァンジェリン の ニンタイ と ケンソン と を もって アナタ が ボク の ココロ を ホントウ に くみとって くださる とき を まって います。 しかし テガミ の タバ の ナカ から は わずか に ボク を シツボウ から すくう ため に コトウ クン と オカ クン との テガミ が みいだされました。 コトウ クン の テガミ は ヘイエイ に ゆく イツカ マエ に かかれた もの でした。 いまだに アナタ の イドコロ を しる こと が できない ので、 ボク の テガミ は やはり クラチ シ に あてて カイソウ して いる と かいて あります。 コトウ クン は そうした テツヅキ を とる の を はなはだしく フカイ に おもって いる よう です。 オカ クン は ヒト に もらしえない カテイナイ の フンジョウ や シュウイ から うける ゴカイ を、 オカ クン-らしく カビン に かんがえすぎて よわい タイシツ を ますます よわく して いる よう です。 かいて ある こと には ところどころ ボク の もつ ジョウシキ では ハンダン しかねる よう な ところ が あります。 アナタ から いつか かならず ショウソク が くる の を しんじきって、 その とき を ただ ヒトツ の スクイ と して まって います。 その とき の カンシャ と キエツ と を ソウゾウ で えがきだして、 ショウセツ でも よむ よう に かいて あります。 ボク は オカ クン の テガミ を よむ と、 いつでも ボク ジシン の ココロ が そのまま かきあらわされて いる よう に おもって ナミダ を かんじます。
 なぜ アナタ は ジブン を それほど まで トウカイ して おられる の か、 それ には ふかい ワケ が ある こと と おもいます けれども、 ボク には どちら の ホウメン から かんがえて も ソウゾウ が つきません。
 ニホン から の ショウソク は どんな ショウソク も まちどおしい。 しかし それ を みおわった ボク は きっと ユウウツ に おそわれます。 ボク に もし シンコウ が あたえられて いなかったら、 ボク は イマ どう なって いた か を しりません。
 マエ の テガミ との アイダ に ミッカ が たちました。 ボク は バビコック ハカセ フウフ と コンヤ ライシアム-ザ に ウエルシ-ジョウ の えんじた トルストイ の 『フッカツ』 を ケンブツ しました。 そこ には キリスト キョウト と して メ を そむけなければ ならない よう な バメン が ない では なかった けれども、 オワリ の ほう に ちかづいて いって の ソウゴンサ は ケンブツニン の スベテ を ホソク して しまいました。 ウエルシ-ジョウ の えんじた オンナ シュジンコウ は シン に せまりすぎて いる くらい でした。 アナタ が もし まだ 『フッカツ』 を よんで おられない の なら ボク は ぜひ それ を おすすめ します。 ボク は トルストイ の 『ザンゲ』 を K シ の ホウブンヤク で ニホン に いる とき よんだ だけ です が、 あの シバイ を みて から、 ヒマ が あったら もっと ふかく いろいろ ケンキュウ したい と おもう よう に なりました。 ニホン では トルストイ の チョショ は まだ オオク の ヒト に しられて いない と おもいます が、 すくなくとも 『フッカツ』 だけ は マルゼン から でも とりよせて よんで いただきたい、 アナタ を ケイハツ する こと が かならず おおい の は うけあいます から。 ボクラ は ひとしく カミ の マエ に ツミビト です。 しかし その ツミ を くいあらためる こと に よって ひとしく えらばれた カミ の シモベ と なりうる の です。 この ミチ の ホカ には ヒト の コ の セイカツ を テンゴク に むすびつける ミチ は かんがえられません。 カミ を うやまい ヒト を あいする ココロ の なえて しまわない うち に おたがいに ヒカリ を あおごう では ありません か。
 ヨウコ さん、 アナタ の ココロ に クウキョ なり オテン なり が あって も どうぞ ゼツボウ しない で ください よ。 アナタ を ソノママ に よろこんで うけいれて、 ――クルシミ が あれば アナタ と ともに くるしみ、 アナタ に カナシミ が あれば アナタ と ともに かなしむ モノ が ここ に ヒトリ いる こと を わすれない で ください。 ボク は たたかって みせます。 どんな に アナタ が きずついて いて も、 ボク は アナタ を かばって いさましく この ジンセイ を たたかって みせます。 ボク の マエ に ジギョウ が、 そして ウシロ に アナタ が あれば、 ボク は カミ の もっとも ちいさい シモベ と して ジンルイ の シュクフク の ため に イッショウ を ささげます。
 ああ、 フデ も ゲンゴ も ついに ムエキ です。 ヒ と ねっする セイイ と イノリ と を こめて ボク は ここ に この テガミ を ふうじます。 この テガミ が クラチ シ の テ から アナタ に とどいたら、 クラチ シ にも よろしく つたえて ください。 クラチ シ に メイワク を おかけ した キンセンジョウ の こと に ついて は ゼンビン に かいて おきました から みて くださった と おもいます。 ねがわくは カミ ワレラ と ともに おわしたまわん こと を。
  メイジ 34 ネン 12 ガツ 13 ニチ」

 クラチ は ジギョウ の ため に ホンソウ して いる ので その ヨ は トシコシ に こない と ゲシュク から しらせて きた。 イモウト たち は ジョヤ の カネ を きく まで は ねない など と いって いた が いつのまにか ねむく なった と みえて、 あまり しずか なので 2 カイ に いって みる と、 フタリ とも ネドコ に はいって いた。 ツヤ には ヒマ が だして あった。 ヨウコ に ナイショ で ホウセイ シンポウ を クラチ に とりついだ の は、 たとい ヨウコ に ムエキ な シンパイ を させない ため だ と いう クラチ の チュウイ が あった ため で ある にも せよ、 ヨウコ の ココロモチ を そんじ も し フアン にも した。 ツヤ が ヨウコ に たいして も すなお な ケイアイ の ジョウ を いだいて いた の は ヨウコ も よく こころえて いた。 マエ にも かいた よう に ヨウコ は ヒトメ みた とき から ツヤ が すき だった。 ダイドコロ など を させず に、 コマヅカイ と して テマワリ の ヨウジ でも させたら カオカタチ と いい、 セイシツ と いい、 トリマワシ と いい これほど リソウテキ な ショウジョ は ない と おもう ほど だった。 ツヤ にも ヨウコ の ココロモチ は すぐ つうじた らしく、 ツヤ は この イエ の ため に カゲヒナタ なく せっせと はたらいた の だった。 けれども シンブン の ちいさな デキゴト ヒトツ が ヨウコ を フアン に して しまった。 クラチ が ソウカクカン の オカミ に たいして も キノドク-がる の を かまわず、 イモウト たち に はたらかせる の が かえって いい から との コウジツ の モト に ヒマ を やって しまった の だった。 で カッテ の ほう にも ヒトケ は なかった。
 ヨウコ は ナニ を ゲンイン とも なく その コロ キブン が いらいら しがち で ネツキ も わるかった ので、 ぞくぞく しみこんで くる よう な サムサ にも かかわらず、 ヒバチ の ソバ に いた。 そして しょざいない まま に その ヒ クラチ の ゲシュク から とどけて きた キムラ の テガミ を よんで みる キ に なった の だ。
 ヨウコ は ネコイタ に カタヒジ を もたせながら、 ヒツヨウ も ない ほど コウカ だ と おもわれる あつい ショセンシ に おおきな ジ で かきつづって ある キムラ の テガミ を 1 マイ 1 マイ よみすすんだ。 おとなびた よう で こどもっぽい、 そう か と おもう と カンジョウ の コウチョウ を しめした と おもわれる ところ も ミョウ に ダサンテキ な ところ が はなれきらない と ヨウコ に おもわせる よう な ナイヨウ だった。 ヨウコ は いちいち セイドク する の が メンドウ なので ギョウ から ギョウ に とびこえながら よんで いった。 そして ヒヅケ の ところ まで きて も カクベツ な ジョウチョ を さそわれ は しなかった。 しかし ヨウコ は この イゼン クラチ の みて いる マエ で した よう に ずたずた に ひきさいて すてて しまう こと は しなかった。 しなかった どころ では ない、 その ナカ には ヨウコ を かんがえさせる もの が ふくまれて いた。 キムラ は とおからず ハミルトン とか いう ニホン の メイヨ リョウジ を して いる ヒト の テ から、 ニホン を さる マエ に おもいきって して いった ホウシ の カイシュウ を して もらえる の だ。 フソク フリ の カンケイ を やぶらず に わかれた ジブン の ヤリカタ は やはり ズ に あたって いた と おもった。 「ヤドヤ きめず に ワラジ を ぬぐ」 バカ を しない ヒツヨウ は もう ない、 クラチ の アイ は たしか に ジブン の テ に にぎりえた から。 しかし クチ に こそ だし は しない が、 クラチ は カネ の ウエ では かなり に くるしんで いる に ちがいない。 クラチ の ジギョウ と いう の は ニホンジュウ の カイコウジョウ に いる ミズサキ アンナイ ギョウシャ の クミアイ を つくって、 その ジッケン を ジブン の テ に にぎろう と する の らしかった が、 それ が しあがる の は みじかい ジツゲツ には できる こと では なさそう だった。 ことに ジセツ が ジセツガラ ショウガツ に かかって いる から、 そういう もの の セツリツ には いちばん フベン な とき らしく も おもわれた。 キムラ を リヨウ して やろう。
 しかし ヨウコ の ココロ の ソコ には どこ か に イタミ を おぼえた。 さんざん キムラ を くるしめぬいた アゲク に、 なお あの ネ の ショウジキ な ニンゲン を たぶらかして ナケナシ の カネ を しぼりとる の は ぞくに いう 「ツツモタセ」 の ショギョウ と ちがって は いない。 そう おもう と ヨウコ は ジブン の ダラク を いたく かんぜず には いられなかった。 けれども ゲンザイ の ヨウコ に いちばん ダイジ な もの は クラチ と いう ジョウジン の ホカ には なかった。 ココロ の イタミ を かんじながら も クラチ の こと を おもう と なお ココロ が いたかった。 カレ は サイシ を ギセイ に きょうし、 ジブン の ショクギョウ を ギセイ に きょうし、 シャカイジョウ の メイヨ を ギセイ に きょうして まで ヨウコ の アイ に おぼれ、 ヨウコ の ソンザイ に いきよう と して くれて いる の だ。 それ を おもう と ヨウコ は クラチ の ため には なんでも して みせて やりたかった。 トキ に よる と ワレ にも なく おかして くる なみだぐましい カンジ を じっと こらえて、 サダコ に あい に ゆかず に いる の も、 そう する こと が ナニ か シュウキョウジョウ の ガンガケ で、 クラチ の アイ を つなぎとめる マジナイ の よう に おもえる から して いる こと だった。 キムラ に だって いつかは ブッシツジョウ の オイメ に たいして ブッシツジョウ の ヘンレイ だけ は する こと が できる だろう。 ジブン の する こと は 「ツツモタセ」 とは カタチ が にて いる だけ だ。 やって やれ。 そう ヨウコ は ケッシン した。 よむ でも なく よまぬ でも なく テ に もって ながめて いた テガミ の サイゴ の 1 マイ を ヨウコ は ムイシキ の よう に ぽたり と ヒザ の ウエ に おとした。 そして そのまま じっと テツビン から たつ ユゲ が デントウ の ヒカリ の ナカ に タヨウ な カモン を えがいて は きえ えがいて は きえ する の を みつめて いた。
 しばらく して から ヨウコ は ものうげ に ふかい トイキ を ヒトツ して、 ジョウタイ を ひねって タナ の ウエ から テブンコ を とりおろした。 そして フデ を かみながら また ウワメ で じっと ナニ か かんがえる らしかった。 と、 キュウ に いきかえった よう に はきはき なって、 ジョウトウ の シナズミ を ガン の ミッツ まで はいった まんまるい スズリ に すりおろした。 そして かるく ジャコウ の カオリ の ただよう ナカ で オトコ の ジ の よう な ケンピツ で、 セイコウ な ガンピシ の マキガミ に、 イッキ に、 ツギ の よう に したためた。

「かけば キリ が ございません。 うかがえば キリ が ございません。 だから かき も いたしません でした。 アナタ の オテガミ も キョウ いただいた もの まで は ハイケン せず に ずたずた に やぶって すてて しまいました。 その ココロ を おさっし くださいまし。
 ウワサ にも オキキ とは ぞんじます が、 ワタシ は みごと に シャカイテキ に ころされて しまいました。 どうして ワタシ が このうえ アナタ の ツマ と なのれましょう。 ジゴウ ジトク と ヨノナカ では もうします。 ワタシ も たしか に そう ぞんじて います。 けれども、 シンルイ、 エンジャ、 トモダチ に まで つきはなされて、 フタリ の イモウト を かかえて みます と、 ワタシ は メ も くらんで しまいます。 クラチ さん だけ が どういう ゴエン か オミステ なく ワタシドモ 3 ニン を オセワ くださって います。 こうして ワタシ は どこ まで しずんで ゆく こと で ございましょう。 ホントウ に ジゴウ ジトク で ございます。
 キョウ ハイケン した オテガミ も ホントウ は よまず に さいて しまう の で ございました けれども…… ワタシ の イドコロ を ドナタ にも おしらせ しない ワケ など は もうしあげる まで も ございますまい。
 この テガミ は アナタ に さしあげる サイゴ の もの か とも おもわれます。 オダイジ に おすごし あそばしませ。 かげながら ゴセイコウ を いのりあげます。
 ただいま ジョヤ の カネ が なります。
   オオミソカ の ヨル
  キムラ サマ                            ヨウ より」

 ヨウコ は それ を ニホンフウ の ジョウブクロ に おさめて、 モウヒツ で キヨウ に ヒョウキ を かいた。 かきおわる と キュウ に いらいら しだして、 いきなり リョウテ に にぎって ひとおもいに ひきさこう と した が、 おもいかえして すてる よう に それ を タタミ の ウエ に なげだす と、 ワレ にも なく ひややか な ビショウ が クチジリ を かすか に ひきつらした。
 ヨウコ の ムネ を どきん と させる ほど たかく、 すぐ モヨリ に ある ゾウジョウジ の ジョヤ の カネ が なりだした。 トオク から どこ の テラ の とも しれない カネ の コエ が それ に おうずる よう に きこえて きた。 その ネ に ひきいれられて ミミ を すます と ヨル の シジマ の ナカ にも コエ は あった。 12 ジ を うつ ボンボンドケイ、 「カルタ」 を よみあげる らしい はしゃいだ コエ、 ナニ に おどろいて か ヨナキ を する ニワトリ…… ヨウコ は そんな ヒビキ を さぐりだす と、 ヒト の いきて いる と いう の が おそろしい ほど フシギ に おもわれだした。
 キュウ に サムサ を おぼえて ヨウコ は ネジタク に たちあがった。

 31

 さむい メイジ 35 ネン の ショウガツ が きて、 アイコ たち の トウキ キュウカ も オワリ に ちかづいた。 ヨウコ は イモウト たち を ふたたび タジマ ジュク の ほう に かえして やる キ には なれなかった。 タジマ と いう ヒト に たいして ハンカン を いだいた ばかり では ない。 イモウト たち を ふたたび あずかって もらう こと に なれば ヨウコ は とうぜん アイサツ に いって く べき ギム を かんじた けれども、 どういう もの か それ が はばかられて できなかった。 ヨコハマ の シテンチョウ の ナガタ とか、 この タジマ とか、 ヨウコ には ジブン ながら ワケ の わからない ニガテ の ヒト が あった。 その ヒトタチ が かくべつ えらい ヒト だ とも、 おそろしい ヒト だ とも おもう の では なかった けれども、 どういう もの か その マエ に でる こと に キ が ひけた。 ヨウコ は また イモウト たち が いわず かたらず の うち に セイト たち から うけねば ならぬ ハクガイ を おもう と フビン でも あった。 で、 マイニチ ツウガク する には とおすぎる と いう リユウ の モト に そこ を やめて、 イイクラ に ある ユウラン ジョガッコウ と いう の に かよわせる こと に した。
 フタリ が ガッコウ に かよいだす よう に なる と、 クラチ は アサ から ヨウコ の ところ で タイコウ ジカン まで すごす よう に なった。 クラチ の フクシン の ナカマ たち も ちょいちょい デイリ した。 ことに マサイ と いう オトコ は クラチ の カゲ の よう に クラチ の いる ところ には かならず いた。 レイ の ミズサキ アンナイ ギョウシャ クミアイ の セツリツ に ついて マサイ が いちばん はたらいて いる らしかった。 マサイ と いう オトコ は、 イッケン ホウマン な よう に みえて いて、 カミソリ の よう に メハシ の きく ヒト だった。 その ヒト が ゲンカン から はいったら、 その アト に いって みる と ハキモノ は ヒトツ のこらず そろえて あって、 カサ は カサ で イチグウ に ちゃんと あつめて あった。 ヨウコ も およばない スバヤサ で カビン の ハナ の しおれかけた の や、 チャ や カシ の たしなく なった の を みてとって、 ヨクジツ は わすれず に それ を かいととのえて きた。 ムクチ の くせ に どこ か に アイキョウ が ある か と おもう と、 バカワライ を して いる サイチュウ に フシギ に インケン な メツキ を ちらつかせたり した。 ヨウコ は その ヒト を カンサツ すれば する ほど その ショウタイ が わからない よう に おもった。 それ は ヨウコ を もどかしく させる ほど だった。 ときどき ヨウコ は クラチ が この オトコ と クミアイ セツリツ の ソウダン イガイ の ヒミツ らしい ハナシアイ を して いる の に かんづいた が、 それ は どうしても メイカク に しる こと が できなかった。 クラチ に きいて みて も、 クラチ は レイ の ノンキ な タイド で こともなげ に ワダイ を そらして しまった。
 ヨウコ は しかし なんと いって も ジブン が のぞみうる コウフク の ゼッチョウ に ちかい ところ に いた。 クラチ を よろこばせる こと が ジブン を よろこばせる こと で あり、 ジブン を よろこばせる こと が クラチ を よろこばせる こと で ある、 そうした サクイ の ない チョウワ は ヨウコ の ココロ を しとやか に カイカツ に した。 ナン に でも ジブン が しよう と さえ おもえば テキオウ しうる ヨウコ に とって は、 ヌケメ の ない セワ ニョウボウ に なる くらい の こと は なんでも なかった。 イモウト たち も この アネ を ムニ の もの と して、 アネ の して くれる こと は イチ も ニ も なく ただしい もの と おもう らしかった。 しじゅう ヨウコ から ママコ アツカイ に されて いる アイコ さえ、 ヨウコ の マエ には ただ ジュウジュン な しとやか な ショウジョ だった。 アイコ と して も すくなくとも ヒトツ は どうしても その アネ に カンシャ しなければ ならない こと が あった。 それ は ネンレイ の おかげ も ある。 アイコ は コトシ で 16 に なって いた。 しかし ヨウコ が いなかったら、 アイコ は これほど うつくしく は なれなかった に ちがいない。 2~3 シュウカン の うち に アイコ は ヤマ から ほりだされた ばかり の ルビー と ミガキ を かけあげた ルビー と ほど に かわって いた。 コブトリ で セタケ は アネ より も はるか に ひくい が、 ぴちぴち と しまった ニクヅキ と、 ぬけあがる ほど しろい ツヤ の ある ヒフ とは いい キンセイ を たもって、 みじかく は ある が ルイ の ない ほど ニッカンテキ な テアシ の ユビ の サキボソ な ところ に リテン を みせて いた。 むっくり と ギュウニュウイロ の ヒフ に つつまれた ジゾウガタ の ウエ に すえられた その カオ は また ヨウコ の クシン に ジュウニブン に むくいる もの だった。 ヨウコ が クビギワ を そって やる と そこ に あたらしい ビ が うまれでた。 カミ を ジブン の イショウ-どおり に たばねて やる と そこ に あたらしい コワク が わきあがった。 ヨウコ は アイコ を うつくしく する こと に、 セイコウ した サクヒン に たいする ゲイジュツカ と ドウヨウ の ホコリ と ヨロコビ と を かんじた。 くらい ところ に いて あかるい ほう に ふりむいた とき など の アイコ の タマゴガタ の カオカタチ は ビ の カミ ビーナス を さえ ねたます こと が できたろう。 カオ の リンカク と、 やや ヒタイギワ を せまく する まで に あつく はえそろった コクシツ の カミ とは ヤミ の ナカ に とけこむ よう に ぼかされて、 マエ から のみ くる コウセン の ため に ハナスジ は、 ギリシャジン の それ に みる よう な、 キソク ただしく ほそながい ゼンメン の ヘイメン を きわだたせ、 うるおいきった おおきな フタツ の ヒトミ と、 しまって あつい ジョウゲ の クチビル とは、 ヒフ を きりやぶって あらわれでた 2 ツイ の タマシイ の よう に なまなましい カンジ で みる ヒト を うった。 アイコ は そうした とき に いちばん うつくしい よう に、 ヤミ の ナカ に さびしく ヒトリ で いて、 その タコン な メ で じっと アカルミ を みつめて いる よう な ショウジョ だった。
 ヨウコ は クラチ が ヨウコ の ため に して みせた おおきな エイダン に むくいる ため に、 サダコ を ジブン の アイブ の ムネ から さいて すてよう と おもいきわめながら も、 どうしても それ が できない で いた。 あれ から イチド も おとずれ こそ しない が、 ときおり カネ を おくって やる こと と、 ウバ から アンピ を しらさせる こと だけ は つづけて いた。 ウバ の テガミ は いつでも ウラミツラミ で みたされて いた。 ニホン に かえって きて くださった カイ が どこ に ある。 オヤ が なくて コ が コ-らしく そだつ もの か そだたぬ もの か ちょっと でも かんがえて みて もらいたい。 ウバ も だんだん トシ を とって ゆく ミ だ。 ハシカ に かかって サダコ は マイニチ マイニチ ママ の ナ を よびつづけて いる、 その コエ が ヨウコ の ミミ に きこえない の が フシギ だ。 こんな こと が ショウソク の たび ごと に たどたどしく かきつらねて あった。 ヨウコ は いて も たって も たまらない よう な こと が あった。 けれども そんな とき には クラチ の こと を おもった。 ちょっと クラチ の こと を おもった だけ で、 ハ を くいしばりながら も、 タイコウエン の オモテモン から そっと イエ を ぬけでる ユウワク に うちかった。
 クラチ の ほう から テガミ を だす の は わすれた と みえて、 オカ は まだ おとずれて は こなかった。 キムラ に あれほど せつ な ココロモチ を かきおくった くらい だ から、 ヨウコ の ジュウショ さえ わかれば たずねて こない はず は ない の だ が、 クラチ には そんな こと は もう ネントウ に なくなって しまった らしい。 ダレ も くるな と ねがって いた ヨウコ も コノゴロ に なって みる と、 ふと オカ の こと など を おもいだす こと が あった。 ヨコハマ を たつ とき に ヨウコ に かじりついて はなれなかった セイネン を おもいだす こと なぞ も あった。 しかし こういう こと が ある たび ごと に クラチ の ココロ の ウゴキカタ をも きっと スイサツ した。 そうして は いつでも ガン を かける よう に そんな こと は ゆめにも おもいだすまい と ココロ に ちかった。
 クラチ が いっこう に ムトンジャク なので、 ヨウコ は まだ セキ を うつして は いなかった。 もっとも クラチ の センサイ が はたして セキ を ぬいて いる か どう か も しらなかった。 それ を しろう と もとめる の は ヨウコ の ホコリ が ゆるさなかった。 すべて そういう シュウカン を てんから カンガエ の ウチ に いれて いない クラチ に たいして いまさら そんな ケイシキゴト を せまる の は、 ジブン の ドキョウ を みすかされる と いう ウエ から も つらかった。 その ホコリ と いう ココロモチ も、 ドキョウ を みすかされる と いう オソレ も、 ホントウ を いう と ヨウコ が どこまでも クラチ に たいして ヒケメ に なって いる の を かたる に すぎない とは ヨウコ ジシン ぞんぶん に しりきって いる くせ に、 それ を カッテ に ふみにじって、 ジブン の おもう とおり を クラチ に して のけさす フテキサ を もつ こと は どうしても できなかった。 それなのに ヨウコ は ややともすると クラチ の センサイ の こと が キ に なった。 クラチ の ゲシュク の ほう に あそび に ゆく とき でも、 その キンジョ で ヒトヅマ らしい ヒト の オウライ する の を みかける と ヨウコ の メ は しらずしらず ジュクシ の ため に かがやいた。 イチド も カオ は あわせない が、 わずか な ジカン の シャシン の キオク から、 きっと その ヒト を みわけて みせる と ヨウコ は ジシン して いた。 ヨウコ は どこ を あるいて も かつて そんな ヒト を みかけた こと は なかった。 それ が また ミョウ に うらぎられて いる よう な カンジ を あたえる こと も あった。
 コウカイ の ショキ に おける ヒテン の ウチドコロ の ない よう な ケンコウ の イシキ は ソノゴ ヨウコ には もう かえって こなかった。 カンキ が つのる に つれて カフクブ が ドンツウ を おぼえる ばかり で なく、 コシ の ウシロ の ほう に つめたい イシ でも つりさげて ある よう な、 おもくるしい キブン を かんずる よう に なった。 ニホン に かえって から アシ の ひえだす の も しった。 ケッカン の ナカ には チ の カワリ に トロビ でも ながれて いる の では ない か と おもう くらい カンキ に たいして ヘイキ だった ヨウコ が、 トコ の ナカ で クラチ に アシ の ひどく ひえる の を チュウイ されたり する と フシギ に おもった。 カタ の こる の は ヨウショウ の とき から の コシツ だった が それ が チカゴロ に なって ことさら はげしく なった。 ヨウコ は ちょいちょい アンマ を よんだり した。 フクブ の イタミ が ゲッケイ と カンケイ が ある の を きづいて、 ヨウコ は フジンビョウ で ある に ソウイ ない とは おもった。 しかし そう でも ない と おもう よう な こと が ヨウコ の ムネ の ウチ には あった。 もしや カイニン では…… ヨウコ は ヨロコビ に ムネ を おどらせて そう おもって も みた。 メスブタ の よう に イクニン も コ を うむ の は とても たえられない。 しかし ヒトリ は どう あって も うみたい もの だ と ヨウコ は いのる よう に ねがって いた の だ。 サダコ の こと から かんがえる と ジブン には あんがい コウン が ある の かも しれない とも おもった。 しかし マエ の カイニン の ケイケン と コンド の チョウコウ とは イロイロ な テン で まったく ちがった もの だった。
 1 ガツ の スエ に なって キムラ から は はたして カネ を おくって きた。 ヨウコ は クラチ が ジュンタク に ツケトドケ する カネ より も この カネ を つかう こと に むしろ ココロヤスサ を おぼえた。 ヨウコ は すぐ おもいきった サンザイ を して みたい ユウワク に かりたてられた。
 ある ヒアタリ の いい ヒ に クラチ と サシムカイ で サケ を のんで いる と タイコウエン の ほう から ヤブウグイス の なく コエ が きこえた。 ヨウコ は かるく サケホテリ の した カオ を あげて クラチ を みやりながら、 ミミ では ウグイス の なきつづける の を チュウイ した。
「ハル が きます わ」
「はやい もん だな」
「どこ か へ いきましょう か」
「まだ さむい よ」
「そう ねえ…… クミアイ の ほう は」
「うむ あれ が かたづいたら でかけよう わい。 いいかげん くさくさ しおった」
 そう いって クラチ は さも メンドウ そう に サカズキ の サケ を ヒトアオリ に あおりつけた。
 ヨウコ は すぐ その シゴト が うまく はこんで いない の を かんづいた。 それにしても あの マイツキ の タガク な カネ は どこ から くる の だろう。 そう ちらっと おもいながら すばやく ハナシ を タ に そらした。


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