カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ギンガ テツドウ の ヨル 1

2012-07-22 | ミヤザワ ケンジ
 ギンガ テツドウ の ヨル

 ミヤザワ ケンジ

 1、 ゴゴ の ジュギョウ

「では ミナサン は、 そういう ふう に カワ だ と いわれたり、 チチ の ながれた アト だ と いわれたり して いた この ぼんやり と しろい もの が ホントウ は ナニ か ゴショウチ です か」 センセイ は、 コクバン に つるした おおきな くろい セイザ の ズ の、 ウエ から シタ へ しろく けぶった ギンガタイ の よう な ところ を さしながら、 ミンナ に トイ を かけました。
 カムパネルラ が テ を あげました。 それから 4~5 ニン テ を あげました。 ジョバンニ も テ を あげよう と して、 いそいで そのまま やめました。 たしか に あれ が みんな ホシ だ と、 いつか ザッシ で よんだ の でした が、 コノゴロ は ジョバンニ は まるで マイニチ キョウシツ でも ねむく、 ホン を よむ ヒマ も よむ ホン も ない ので、 なんだか どんな こと も よく わからない と いう キモチ が する の でした。
 ところが センセイ は はやくも それ を みつけた の でした。
「ジョバンニ さん。 アナタ は わかって いる の でしょう」
 ジョバンニ は イキオイ よく たちあがりました が、 たって みる と もう はっきり と それ を こたえる こと が できない の でした。 ザネリ が マエ の セキ から ふりかえって、 ジョバンニ を みて くすっと わらいました。 ジョバンニ は もう どぎまぎ して マッカ に なって しまいました。 センセイ が また いいました。
「おおきな ボウエンキョウ で ギンガ を よっく しらべる と ギンガ は だいたい ナン でしょう」
 やっぱり ホシ だ と ジョバンニ は おもいました が、 コンド も すぐに こたえる こと が できません でした。
 センセイ は しばらく こまった ヨウス でした が、 メ を カムパネルラ の ほう へ むけて、
「では カムパネルラ さん」 と なざしました。 すると あんな に ゲンキ に テ を あげた カムパネルラ が、 やはり もじもじ たちあがった まま やはり コタエ が できません でした。
 センセイ は イガイ な よう に しばらく じっと カムパネルラ を みて いました が、 いそいで 「では。 よし」 と いいながら、 ジブン で セイズ を さしました。
「この ぼんやり と しろい ギンガ を おおきな いい ボウエンキョウ で みます と、 もう タクサン の ちいさな ホシ に みえる の です。 ジョバンニ さん そう でしょう」
 ジョバンニ は マッカ に なって うなずきました。 けれども いつか ジョバンニ の メ の ナカ には ナミダ が いっぱい に なりました。 そう だ ボク は しって いた の だ、 もちろん カムパネルラ も しって いる、 それ は いつか カムパネルラ の オトウサン の ハカセ の ウチ で、 カムパネルラ と イッショ に よんだ ザッシ の ナカ に あった の だ。 それ どこ で なく カムパネルラ は、 その ザッシ を よむ と、 すぐ オトウサン の ショサイ から おおきな ホン を もって きて、 ギンガ と いう ところ を ひろげ、 マックロ な ページ いっぱい に しろい テンテン の ある うつくしい シャシン を フタリ で いつまでも みた の でした。 それ を カムパネルラ が わすれる はず も なかった のに、 すぐに ヘンジ を しなかった の は、 コノゴロ ボク が、 アサ にも ゴゴ にも シゴト が つらく、 ガッコウ に でて も もう ミンナ とも はきはき あそばず、 カムパネルラ とも あんまり モノ を いわない よう に なった ので、 カムパネルラ が それ を しって キノドク-がって わざと ヘンジ を しなかった の だ、 そう かんがえる と たまらない ほど、 ジブン も カムパネルラ も あわれ な よう な キ が する の でした。
 センセイ は また いいました。
「ですから もしも この アマノガワ が ホントウ に カワ だ と かんがえる なら、 その ヒトツヒトツ の ちいさな ホシ は みんな その カワ の ソコ の スナ や ジャリ の ツブ にも あたる わけ です。 また これ を おおきな チチ の ナガレ と かんがえる なら もっと アマノガワ と よく にて います。 つまり その ホシ は みな、 チチ の ナカ に まるで こまか に うかんで いる アブラ の タマ にも あたる の です。 そんなら ナニ が その カワ の ミズ に あたる か と いいます と、 それ は シンクウ と いう ヒカリ を ある ハヤサ で つたえる もの で、 タイヨウ や チキュウ も やっぱり その ナカ に うかんで いる の です。 つまり は ワタシドモ も アマノガワ の ミズ の ナカ に すんで いる わけ です。 そして その アマノガワ の ミズ の ナカ から シホウ を みる と、 ちょうど ミズ が ふかい ほど あおく みえる よう に、 アマノガワ の ソコ の ふかく とおい ところ ほど ホシ が たくさん あつまって みえ、 したがって しろく ぼんやり みえる の です。 この モケイ を ごらんなさい」
 センセイ は ナカ に たくさん ひかる スナ の ツブ の はいった おおきな リョウメン の トツ-レンズ を さしました。
「アマノガワ の カタチ は ちょうど こんな なの です。 この イチイチ の ひかる ツブ が みんな ワタシドモ の タイヨウ と おなじ よう に ジブン で ひかって いる ホシ だ と かんがえます。 ワタシドモ の タイヨウ が この ほぼ ナカゴロ に あって チキュウ が その すぐ チカク に ある と します。 ミナサン は ヨル に この マンナカ に たって、 この レンズ の ナカ を みまわす と して ごらんなさい。 こっち の ほう は レンズ が うすい ので わずか の ひかる ツブ、 すなわち ホシ しか みえない の でしょう。 こっち や こっち の ほう は ガラス が あつい ので、 ひかる ツブ、 すなわち ホシ が たくさん みえ、 その とおい の は ぼうっと しろく みえる と いう、 これ が つまり コンニチ の ギンガ の セツ なの です。 そんなら この レンズ の オオキサ が どれ くらい ある か、 また その ナカ の サマザマ の ホシ に ついて は もう ジカン です から、 この ツギ の リカ の ジカン に おはなし します。 では キョウ は その ギンガ の オマツリ なの です から、 ミナサン は ソト へ でて よく ソラ を ごらんなさい。 では ここ まで です。 ホン や ノート を おしまいなさい」
 そして キョウシツ-ジュウ は しばらく ツクエ の フタ を あけたり しめたり ホン を かさねたり する オト が いっぱい でした が、 まもなく ミンナ は きちんと たって レイ を する と キョウシツ を でました。

 2、 カッパンジョ

 ジョバンニ が ガッコウ の モン を でる とき、 おなじ クミ の 7~8 ニン は イエ へ かえらず カムパネルラ を マンナカ に して コウテイ の スミ の サクラ の キ の ところ に あつまって いました。 それ は コンヤ の ホシマツリ に あおい アカリ を こしらえて カワ へ ながす カラスウリ を とり に いく ソウダン らしかった の です。
 けれども ジョバンニ は テ を おおきく ふって どしどし ガッコウ の モン を でて きました。 すると マチ の イエイエ では コンヤ の ギンガ の マツリ に イチイ の ハ の タマ を つるしたり、 ヒノキ の エダ に アカリ を つけたり、 いろいろ シタク を して いる の でした。
 イエ へは かえらず ジョバンニ が マチ を ミッツ まがって ある おおきな カッパンジョ に はいって、 すぐ イリグチ の ケイサンダイ に いた だぶだぶ の しろい シャツ を きた ヒト に オジギ を して ジョバンニ は クツ を ぬいで あがります と、 ツキアタリ の おおきな ト を あけました。 ナカ には まだ ヒル なのに デントウ が ついて タクサン の リンテンキ が ばたり ばたり と まわり、 キレ で アタマ を しばったり ラムプシェード を かけたり した ヒトタチ が、 ナニ か うたう よう に よんだり かぞえたり しながら たくさん はたらいて おりました。
 ジョバンニ は すぐ イリグチ から 3 バンメ の たかい テーブル に すわった ヒト の ところ へ いって オジギ を しました。 その ヒト は しばらく タナ を さがして から、
「これだけ ひろって いける かね」 と いいながら、 1 マイ の カミキレ を わたしました。 ジョバンニ は その ヒト の テーブル の アシモト から ヒトツ の ちいさな ひらたい ハコ を とりだして ムコウ の デントウ の たくさん ついた、 たてかけて ある カベ の スミ の ところ へ しゃがみこむ と、 ちいさな ピンセット で まるで アワツブ ぐらい の カツジ を ツギ から ツギ と ひろいはじめました。 あおい ムネアテ を した ヒト が ジョバンニ の ウシロ を とおりながら、
「よう、 ムシメガネ くん、 おはよう」 と いいます と、 チカク の 4~5 ニン の ヒトタチ が コエ も たてず こっち も むかず に つめたく わらいました。
 ジョバンニ は ナンベン も メ を ぬぐいながら カツジ を だんだん ひろいました。
 6 ジ が うって しばらく たった コロ、 ジョバンニ は ひろった カツジ を いっぱい に いれた ひらたい ハコ を もう イチド テ に もった カミキレ と ひきあわせて から、 サッキ の テーブル の ヒト へ もって きました。 その ヒト は だまって それ を うけとって かすか に うなずきました。
 ジョバンニ は オジギ を する と ト を あけて サッキ の ケイサンダイ の ところ に きました。 すると サッキ の シロフク を きた ヒト が やっぱり だまって ちいさな ギンカ を ヒトツ ジョバンニ に わたしました。 ジョバンニ は にわか に カオイロ が よく なって イセイ よく オジギ を する と、 ダイ の シタ に おいた カバン を もって オモテ へ とびだしました。 それから ゲンキ よく クチブエ を ふきながら パン-ヤ へ よって パン の カタマリ を ヒトツ と カクザトウ を ヒトフクロ かいます と イチモクサン に はしりだしました。

 3、 イエ

 ジョバンニ が イキオイ よく かえって きた の は、 ある ウラマチ の ちいさな イエ でした。 その ミッツ ならんだ イリグチ の いちばん ヒダリガワ には、 アキバコ に ムラサキイロ の ケール や アスパラガス が うえて あって、 ちいさな フタツ の マド には ヒオオイ が おりた まま に なって いました。
「オカアサン。 イマ かえった よ。 グアイ わるく なかった の」 ジョバンニ は クツ を ぬぎながら いいました。
「ああ、 ジョバンニ、 オシゴト が ひどかったろう。 キョウ は すずしくて ね。 ワタシ は ずうっと グアイ が いい よ」
 ジョバンニ は ゲンカン を あがって いきます と、 ジョバンニ の オカアサン が すぐ イリグチ の ヘヤ に しろい キレ を かぶって やすんで いた の でした。 ジョバンニ は マド を あけました。
「オカアサン。 キョウ は カクザトウ を かって きた よ。 ギュウニュウ に いれて あげよう と おもって」
「ああ、 オマエ サキ に おあがり。 アタシ は まだ ほしく ない ん だ から」
「オカアサン。 ネエサン は いつ かえった の」
「ああ 3 ジ コロ かえった よ。 みんな そこら を して くれて ね」
「オカアサン の ギュウニュウ は きて いない ん だろう か」
「こなかったろう かねえ」
「ボク いって とって こよう」
「ああ、 アタシ は ゆっくり で いい ん だ から オマエ サキ に おあがり、 ネエサン が ね、 トマト で ナニ か こしらえて そこ へ おいて いった よ」
「では ボク たべよう」
 ジョバンニ は マド の ところ から トマト の サラ を とって パン と イッショ に しばらく むしゃむしゃ たべました。
「ねえ オカアサン。 ボク オトウサン は きっと まもなく かえって くる と おもう よ」
「ああ アタシ も そう おもう。 けれども オマエ は どうして そう おもう の」
「だって ケサ の シンブン に コトシ は キタ の ほう の リョウ は たいへん よかった と かいて あった よ」
「ああ だけど ねえ、 オトウサン は リョウ へ でて いない かも しれない」
「きっと でて いる よ。 オトウサン が カンゴク へ はいる よう な そんな わるい こと を した はず が ない ん だ。 このまえ オトウサン が もって きて ガッコウ へ キゾウ した おおきな カニ の コウラ だの、 トナカイ の ツノ だの イマ だって みんな ヒョウホンシツ に ある ん だ。 6 ネンセイ なんか ジュギョウ の とき センセイ が かわるがわる キョウシツ へ もって いく よ。 イッサクネン シュウガク リョコウ で 〔イカ スウ-モジ ブン クウハク〕
「オトウサン は この ツギ は オマエ に ラッコ の ウワギ を もって くる と いった ねえ」
「ミンナ が ボク に あう と それ を いう よ。 ひやかす よう に いう ん だ」
「オマエ に ワルクチ を いう の」
「うん、 けれども カムパネルラ なんか けっして いわない。 カムパネルラ は ミンナ が そんな こと を いう とき は キノドク そう に して いる よ」
「あの ヒト は ウチ の オトウサン とは ちょうど オマエタチ の よう に ちいさい とき から の オトモダチ だった そう だよ」
「ああ、 だから オトウサン は ボク を つれて カムパネルラ の ウチ へも つれて いった よ。 あの コロ は よかった なあ。 ボク は ガッコウ から かえる トチュウ たびたび カムパネルラ の ウチ に よった。 カムパネルラ の ウチ には アルコール ラムプ で はしる キシャ が あった ん だ。 レール を ナナツ くみあわせる と まるく なって、 それ に デンチュウ や シンゴウヒョウ も ついて いて、 シンゴウヒョウ の アカリ は キシャ が とおる とき だけ あおく なる よう に なって いた ん だ。 いつか アルコール が なくなった とき セキユ を つかったら、 カマ が すっかり すすけた よ」
「そう かねえ」
「イマ も マイアサ シンブン を まわし に いく よ。 けれども いつでも イエジュウ まだ しぃん と して いる から な」
「はやい から ねえ」
「ザウエル と いう イヌ が いる よ。 シッポ が まるで ホウキ の よう だ。 ボク が いく と ハナ を ならして ついて くる よ。 ずうっと マチ の カド まで ついて くる。 もっと ついて くる こと も ある よ。 コンヤ は ミンナ で カラスウリ の アカリ を カワ へ ながし に いく ん だって。 きっと イヌ も ついて いく よ」
「そう だ。 コンバン は ギンガ の オマツリ だねえ」
「うん。 ボク ギュウニュウ を とりながら みて くる よ」
「ああ いって おいで。 カワ へは はいらないで ね」
「ああ ボク キシ から みる だけ なん だ。 1 ジカン で いって くる よ」
「もっと あそんで おいで。 カムパネルラ さん と イッショ なら シンパイ は ない から」
「ああ きっと イッショ だよ。 オカアサン、 マド を しめて おこう か」
「ああ、 どう か。 もう すずしい から ね」
 ジョバンニ は たって マド を しめ オサラ や パン の フクロ を かたづける と イキオイ よく クツ を はいて、
「では 1 ジカン ハン で かえって くる よ」 と いいながら くらい トグチ を でました。

 4、 ケンタウル-サイ の ヨル

 ジョバンニ は、 クチブエ を ふいて いる よう な さびしい クチツキ で、 ヒノキ の マックロ に ならんだ マチ の サカ を おりて きた の でした。
 サカ の シタ に おおきな ヒトツ の ガイトウ が、 あおじろく リッパ に ひかって たって いました。 ジョバンニ が、 どんどん デントウ の ほう へ おりて いきます と、 イマ まで バケモノ の よう に、 ながく ぼんやり、 ウシロ へ ひいて いた ジョバンニ の カゲボウシ は、 だんだん こく くろく はっきり なって、 アシ を あげたり テ を ふったり、 ジョバンニ の ヨコ の ほう へ まわって くる の でした。
(ボク は リッパ な キカンシャ だ。 ここ は コウバイ だ から はやい ぞ。 ボク は イマ その デントウ を とおりこす。 そうら、 コンド は ボク の カゲボウシ は コムパス だ。 あんな に くるっと まわって、 マエ の ほう へ きた。)
と ジョバンニ が おもいながら、 オオマタ に その ガイトウ の シタ を とおりすぎた とき、 いきなり ヒルマ の ザネリ が、 あたらしい エリ の とがった シャツ を きて デントウ の ムコウガワ の くらい コウジ から でて きて、 ひらっと ジョバンニ と すれちがいました。
「ザネリ、 カラスウリ ながし に いく の」 ジョバンニ が まだ そう いって しまわない うち に、
「ジョバンニ、 オトウサン から、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 その コ が なげつける よう に ウシロ から さけびました。
 ジョバンニ は、 ばっと ムネ が つめたく なり、 そこらじゅう きぃん と なる よう に おもいました。
「ナン だい。 ザネリ」 と ジョバンニ は たかく さけびかえしました が、 もう ザネリ は ムコウ の ヒバ の うわった イエ の ナカ へ はいって いました。
「ザネリ は どうして ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の だろう。 はしる とき は まるで ネズミ の よう な くせ に。 ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の は ザネリ が バカ な から だ」
 ジョバンニ は、 せわしく イロイロ の こと を かんがえながら、 サマザマ の アカリ や キ の エダ で、 すっかり きれい に かざられた マチ を とおって いきました。 トケイヤ の ミセ には あかるく ネオン-トウ が ついて、 1 ビョウ ごと に イシ で こさえた フクロウ の あかい メ が、 くるっくるっ と うごいたり、 イロイロ な ホウセキ が ウミ の よう な イロ を した あつい ガラス の バン に のって、 ホシ の よう に ゆっくり めぐったり、 また ムコウガワ から、 ドウ の ジンバ が ゆっくり こっち へ まわって きたり する の でした。 その マンナカ に まるい くろい セイザ ハヤミ が あおい アスパラガス の ハ で かざって ありました。
 ジョバンニ は ワレ を わすれて、 その セイザ の ズ に みいりました。
 それ は ヒル ガッコウ で みた あの ズ より は ずうっと ちいさかった の です が、 その ヒ と ジカン に あわせて バン を まわす と、 その とき でて いる ソラ が そのまま ダエンケイ の ナカ に めぐって あらわれる よう に なって おり、 やはり その マンナカ には ウエ から シタ へ かけて ギンガ が ぼうと けむった よう な オビ に なって、 その シタ の ほう では かすか に バクハツ して ユゲ でも あげて いる よう に みえる の でした。 また その ウシロ には 3 ボン の アシ の ついた ちいさな ボウエンキョウ が キイロ に ひかって たって いました し、 いちばん ウシロ の カベ には ソラジュウ の セイザ を フシギ な ケモノ や ヘビ や サカナ や ビン の カタチ に かいた おおきな ズ が かかって いました。 ホントウ に こんな よう な サソリ だの ユウシ だの ソラ に ぎっしり いる だろう か、 ああ ボク は その ナカ を どこまでも あるいて みたい、 と おもってたり して しばらく ぼんやり たって いました。
 それから にわか に オカアサン の ギュウニュウ の こと を おもいだして ジョバンニ は その ミセ を はなれました。 そして キュウクツ な ウワギ の カタ を キ に しながら、 それでも わざと ムネ を はって おおきく テ を ふって マチ を とおって いきました。
 クウキ は すみきって、 まるで ミズ の よう に トオリ や ミセ の ナカ を ながれました し、 ガイトウ は みな マッサオ な モミ や ナラ の エダ で つつまれ、 デンキ-ガイシャ の マエ の 6 ポン の プラタヌス の キ など は、 ナカ に タクサン の マメデントウ が ついて、 ホントウ に そこら は ニンギョ の ミヤコ の よう に みえる の でした。 コドモ ら は、 ミンナ あたらしい オリ の ついた キモノ を きて、 ホシメグリ の クチブエ を ふいたり、
「ケンタウルス、 ツユ を ふらせ」 と さけんで はしったり、 あおい マグネシヤ の ハナビ を もしたり して、 たのしそう に あそんで いる の でした。 けれども ジョバンニ は、 いつか また ふかく クビ を たれて、 そこら の ニギヤカサ とは まるで ちがった こと を かんがえながら、 ギュウニュウヤ の ほう へ いそぐ の でした。
 ジョバンニ は、 いつか マチハズレ の ポプラ の キ が イクホン も イクホン も、 たかく ホシゾラ に うかんで いる ところ に きて いました。 その ギュウニュウヤ の くろい モン を はいり、 ウシ の ニオイ の する うすくらい ダイドコロ の マエ に たって、 ジョバンニ は ボウシ を ぬいで 「こんばんわ、」 と いいましたら、 イエ の ナカ は しぃん と して ダレ も いた よう では ありません でした。
「こんばんわ、 ごめんなさい」 ジョバンニ は マッスグ に たって また さけびました。 すると しばらく たって から、 としとった オンナ の ヒト が、 どこ か グアイ が わるい よう に そろそろ と でて きて ナニ か ヨウ か と クチ の ナカ で いいました。
「あの、 キョウ、 ギュウニュウ が ボク ん とこ へ こなかった ので、 もらい に あがった ん です」 ジョバンニ が イッショウ ケンメイ イキオイ よく いいました。
「イマ ダレ も いない で わかりません。 アシタ に して ください」
 その ヒト は、 あかい メ の シタ の とこ を こすりながら、 ジョバンニ を みおろして いいました。
「オッカサン が ビョウキ なん です から コンバン で ない と こまる ん です」
「では もうすこし たって から きて ください」 その ヒト は もう いって しまいそう でした。
「そう です か。 では ありがとう」 ジョバンニ は、 オジギ を して ダイドコロ から でました。
 ジュウジ に なった マチ の カド を、 まがろう と しましたら、 ムコウ の ハシ へ いく ほう の ザッカテン の マエ で、 くろい カゲ や ぼんやり しろい シャツ が いりみだれて、 6~7 ニン の セイト ら が、 クチブエ を ふいたり わらったり して、 めいめい カラスウリ の アカリ を もって やって くる の を みました。 その ワライゴエ も クチブエ も、 みんな キキオボエ の ある もの でした。 ジョバンニ の ドウキュウ の コドモ ら だった の です。 ジョバンニ は おもわず どきっと して もどろう と しました が、 おもいなおして、 いっそう イキオイ よく そっち へ あるいて いきました。
「カワ へ いく の」 ジョバンニ が いおう と して、 すこし ノド が つまった よう に おもった とき、
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 サッキ の ザネリ が また さけびました。
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 すぐ ミンナ が、 つづいて さけびました。 ジョバンニ は マッカ に なって、 もう あるいて いる か も わからず、 いそいで いきすぎよう と しましたら、 その ナカ に カムパネルラ が いた の です。 カムパネルラ は キノドク そう に、 だまって すこし わらって、 おこらない だろう か と いう よう に ジョバンニ の ほう を みて いました。
 ジョバンニ は、 にげる よう に その メ を さけ、 そして カムパネルラ の セイ の たかい カタチ が すぎて いって まもなく、 ミンナ は てんでに クチブエ を ふきました。 マチカド を まがる とき、 ふりかえって みましたら、 ザネリ が やはり ふりかえって みて いました。 そして カムパネルラ も また、 たかく クチブエ を ふいて ムコウ に ぼんやり みえる ハシ の ほう へ あるいて いって しまった の でした。 ジョバンニ は、 なんとも いえず さびしく なって、 いきなり はしりだしました。 すると ミミ に テ を あてて、 わああ と いいながら カタアシ で ぴょんぴょん とんで いた ちいさな コドモ ら は、 ジョバンニ が おもしろくて かける の だ と おもって わあい と さけびました。 まもなく ジョバンニ は くろい オカ の ほう へ いそぎました。

 5、 テンキリン の ハシラ

 ボクジョウ の ウシロ は ゆるい オカ に なって、 その くろい たいら な チョウジョウ は、 キタ の オオグマボシ の シタ に、 ぼんやり フダン より も ひくく つらなって みえました。
 ジョバンニ は、 もう ツユ の ふりかかった ちいさな ハヤシ の コミチ を、 どんどん のぼって いきました。 マックラ な クサ や、 イロイロ な カタチ に みえる ヤブ の シゲミ の アイダ を、 その ちいさな ミチ が、 ヒトスジ しろく ホシアカリ に てらしだされて あった の です。 クサ の ナカ には、 ぴかぴか アオビカリ を だす ちいさな ムシ も いて、 ある ハ は あおく すかしだされ、 ジョバンニ は、 さっき ミンナ の もって いった カラスウリ の アカリ の よう だ とも おもいました。
 その マックロ な、 マツ や ナラ の ハヤシ を こえる と、 にわか に がらん と ソラ が ひらけて、 アマノガワ が しらしら と ミナミ から キタ へ わたって いる の が みえ、 また イタダキ の、 テンキリン の ハシラ も みわけられた の でした。 ツリガネソウ か ノギク か の ハナ が、 そこら イチメン に、 ユメ の ナカ から でも かおりだした と いう よう に さき、 トリ が 1 ピキ、 オカ の ウエ を なきつづけながら とおって いきました。
 ジョバンニ は、 イタダキ の テンキリン の ハシラ の シタ に きて、 どかどか する カラダ を、 つめたい クサ に なげました。
 マチ の アカリ は、 ヤミ の ナカ を まるで ウミ の ソコ の オミヤ の ケシキ の よう に ともり、 コドモ ら の うたう コエ や クチブエ、 きれぎれ の サケビゴエ も かすか に きこえて くる の でした。 カゼ が トオク で なり、 オカ の クサ も しずか に そよぎ、 ジョバンニ の アセ で ぬれた シャツ も つめたく ひやされました。 ジョバンニ は マチ の ハズレ から とおく くろく ひろがった ノハラ を みわたしました。
 そこ から キシャ の オト が きこえて きました。 その ちいさな レッシャ の マド は イチレツ ちいさく あかく みえ、 その ナカ には タクサン の タビビト が、 リンゴ を むいたり、 わらったり、 イロイロ な ふう に して いる と かんがえます と、 ジョバンニ は、 もう なんとも いえず かなしく なって、 また メ を ソラ に あげました。
 ああ あの しろい ソラ の オビ が みんな ホシ だ と いう ぞ。
 ところが いくら みて いて も、 その ソラ は ヒル センセイ の いった よう な、 がらん と した つめたい とこ だ とは おもわれません でした。 それ どころ で なく、 みれば みる ほど、 そこ は ちいさな ハヤシ や ボクジョウ やら ある ノハラ の よう に かんがえられて しかたなかった の です。 そして ジョバンニ は あおい コト の ホシ が、 ミッツ にも ヨッツ にも なって、 ちらちら またたき、 アシ が ナンベン も でたり ひっこんだり して、 とうとう キノコ の よう に ながく のびる の を みました。 また すぐ メノシタ の マチ まで が やっぱり ぼんやり した タクサン の ホシ の アツマリ か、 ヒトツ の おおきな ケムリ か の よう に みえる よう に おもいました。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ギンガ テツドウ の ヨル 2 | トップ | トロッコ »

コメントを投稿

ミヤザワ ケンジ 」カテゴリの最新記事