カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ネコ と ショウゾウ と フタリ の オンナ 4

2018-10-08 | タニザキ ジュンイチロウ
さて この バアイ、 シナコ が この ネコ の ミガラ に ついて フクコ に イヤミ な テガミ を だしたり、 ツカモト を とおして あんな に しつっこく たのんだり した ドウキ と いう もの を、 ちょっと セツメイ して おかなければ ならない の で ある が、 ショウジキ の ところ、 そこ には イタズラ や イジワル の キョウミ が てつだって いた こと も たしか で あり、 また ショウゾウ が ネコ に つられて たずねて くる かも しれない と いう マンイチ の ノゾミ も あった で あろう が、 そんな メノマエ の こと より も、 じつは もっと とおい とおい サキ の こと、 ―――ま、 はやくて ハントシ、 おそくて 1 ネン か 2 ネン も すれば、 たぶん フクコ と ショウゾウ の ナカ が ブジ に ゆく はず は ない の だ から と、 その とき を みこして いる の で あった。 それ と いう の が、 もともと ツカモト の ナコウドグチ に のせられて ヨメ に いった の が フカク だった ので、 いまさら あんな ナマケモノ の、 イクジナシ の、 ハタラキ の ない オトコ なんぞ に、 すてられた ほう が シアワセ だった かも しれない の だ が、 でも カノジョ と して どう かんがえて も いまいましく、 あきらめきれない キ が する の は、 トウニン ドウシ が あき も あかれ も した わけ では ない のに、 ハタ の ニンゲン が コザイク を して おいだした の だ と、 そういう イチネン が ある から だった。 もっとも そんな こと を いう と、 いや、 そう おもう の は オマエサン の ウヌボレ だ、 それ は なるほど、 シュウトメ との オリアイ も わるかった に ちがいない けれども、 フウフナカ だって ちっとも よい こと は なかった では ない か、 オマエサン は ゴテイシュ を ノロマ だ と いって テイノウジ アツカイ に する し、 ゴテイシュ は オマエサン を ガ が つよい と いって うっとうしがる し、 いつも ケンカ ばかり して いた の を みる と、 よくよく ショウ が あわない の だ、 もし ゴテイシュ が ホント に オマエサン を すいて いる なら、 いくら ハタ から おしつけたって、 ホカ に オンナ を こしらえる わけ が ありますまい と、 そう ロコツ には いわない まで も、 ツカモト など の オナカ の ナカ は たいがい そう に きまって いる の だ が、 それ は ショウゾウ と いう ヒト の セイシツ を しらない から の こと なの で、 カノジョ に いわせれば、 いったい あの ヒト は ハタ から つよく おしつけられたら、 いや も オウ も ない の で ある。 ノンキ と いう の か、 グウタラ と いう の か、 その ヒト より も この ヒト が いい と いわれる と、 すぐ ふらふら と その キ に なって しまう の だ けれども、 ジブン から オンナ を こしらえて ふるい ニョウボウ を おいだしたり する ほど、 イチズ に おもいつめる ショウブン では ない の で ある。 だから シナコ は ネツレツ に ほれられた オボエ は ない が、 きらわれた と いう キ も しない ので、 マワリ の モノ が チエ を つけたり そそのかしたり しなかったら、 よもや フエン には ならなかったろう、 ジブン が こんな ウキメ を みる の は、 まったく オリン だの、 フクコ だの、 フクコ の オヤジ だの と いう モノ が オゼンダテ を した から なの だ と、 そう おもわれて、 すこし コチョウ した イイカタ を すれば、 ナマキ を さかれた よう な カンジ が ムネ の オク の ほう に くすぶって いる ので、 みれんがましい よう だ けれども、 どうも コノママ では カンニン できない の で あった。
しかし、 それなら、 うすうす オリン など の して いる こと を かんづかない でも なかった ジブン に、 なんとか シュダン の ホドコシヨウ が あった だろう に、 ―――いよいよ アシヤ を おいだされる マギワ に だって、 もっと がんばって みたら よかったろう に、 ―――じたい そういう サクリャク に かけて は シュウトメ の オリン と いい トリクミ だ と いわれた カノジョ が、 あんがい あっさり ハタ を まいて、 おとなしく おんでて しまった の は なぜ で あろう か、 ヒゴロ の マケズギライ にも にあわない と いう こと に なる が、 そこ には やっぱり カノジョ-らしい オモワク が ない でも なかった。 アリテイ に いう と、 コンド の こと は カノジョ の ほう に サイショ イクブン の ユダン が あった から こう なった ので、 それ と いう の も、 あの タジョウモノ の、 フリョウ ショウジョ アガリ の フクコ を、 なんぼ なんでも セガレ の ヨメ に しよう と まで は オリン も かんがえて いない で あろう し、 また シリ の かるい フクコ が、 まさか シンボウ する キ も あるまい と、 タカ を くくって いた から なの だ が、 そこ に タショウ の モクサン チガイ が あった と して も、 どうせ ナガツヅキ の する フタリ で ない と いう ミトオシ に、 イマ も カワリ は ない の で あった。 もっとも フクコ は トシ も わかい し、 オトコズキ の する カオダチ だし、 ハナ に かける ほど の ガクモン は ない が ジョガッコウ へも 1~2 ネン いって いた の だし、 それに ナニ より ジサンキン が ついて いる の だ から、 ショウゾウ と して は スエゼン の ハシ を とらぬ はず は なく、 まず トウブン は ウケ に いった キ で いる だろう けれども、 フクコ の ほう が やがて ショウゾウ では くいたらなく なって、 ウワキ を せず には いない で あろう。 なにしろ あの オンナ は オトコ ヒトリ を まもれない タチ で、 もう その ほう では フダツキ に なって いる の だ から、 どうせ コンド も はじまる こと は わかりきって いる の だ が、 それ が メ に あまる よう に なれば、 いくら ヒト の いい ショウゾウ だって だまって いられない で あろう し、 オリン に して も サジ を なげる に きまって いる。 ぜんたい ショウゾウ は とにかく と して、 シッカリモノ と いわれる オリン に その くらい な こと が みえない はず は ない の だ けれども、 コンド は ヨク が てつだった ので、 つい ムリ な サイク を した の かも しれない。 だから シナコ は、 ここ で なまじ な ワルアガキ を する より は、 ひとまず テキ に かたして おいて、 おもむろに コウト を さくして も おそく は ない と いう ハラ なので、 なかなか あきらめて は いない の だった が、 でも そんな こと は、 むろん ツカモト に たいして も オクビ にも だし は しなかった。 ウワベ は ドウジョウ が よる よう に、 なるべく あわれっぽい ところ を みせて、 ココロ の ナカ では、 どうしても もう イッペン だけ あそこ の イエ へ もどって やる、 いまに みて いろ と おもい も し、 また その オモイ が いつかは とげられる だろう と いう ノゾミ に いきて も いる の だった。
それに、 シナコ は、 ショウゾウ の こと を たよりない ヒト とは おもう けれども、 どういう もの か にくむ こと が できなかった。 あんな グアイ に、 なんの フンベツ も なく ふらふら して いて、 マワリ の ヒトタチ が ミギ と いえば ミギ を むき、 ヒダリ と いえば ヒダリ を むく と いう ふう だ から、 コンド に して も あの レンチュウ の いい よう に されて いる の で あろう が、 それ を かんがえる と、 コドモ を ヒトリアルキ させて いる よう な、 こころもとない、 かわいそう な カンジ が する の で ある。 そして もともと、 そういう テン に ヘン な カワイゲ の ある ヒト なので、 イチニンマエ の オトコ と おもえば ハラ が たつ こと も あった けれども、 いくらか ジブン より シタ に みおろして あつかう と、 ミョウ に アタリ の やわらかい、 やさしい ハダアイ が ある もの だ から、 だんだん それ に ほだされて ヌキサシ が ならない よう に なり、 もって きた もの まで みんな つぎこんで、 ハダカ に されて ほうりだされて しまった の だ が、 カノジョ と して は そんな に まで して つくして やった と いう ところ に、 なおさら ミレン が のこる の で ある。 まったく、 この 1~2 ネン-カン の あの イエ の クラシ は、 ハンブン イジョウ は カノジョ の ヤセウデ で ささえて いた よう な もの では ない か。 いい アンバイ に オハリ が タッシャ だった から、 キンジョ の シゴト を もらって きて は ヨノメ も ねず に ヌイモノ を して、 どうやら シノギ を つけて いた ので、 カノジョ の ハタラキ が なかったら、 ハハオヤ なぞ が いくら いばって も どうにも なり は しなかった では ない か。 オリン は トチ での キラワレモノ、 ショウゾウ は あの とおり で さっぱり シンヨウ が なかった から、 ショバライ の トドコオリ など も やかましく サイソク された もの だ が、 カノジョ への ドウジョウ が あったれば こそ セッキ が こせて いった の では ない か。 それだのに あの オンシラズ の オヤコ が、 ヨク に メ が くれて ああいう モノ を ひきずりこんで、 ウシ を ウマ に のりかえた キ で いる けれども、 まあ みて いる が いい、 あの オンナ に あの イエ の キリモリ が できる か どう か、 ジサンキン-ツキ は ケッコウ だ けれど、 なまじ そんな もの が あったら、 いっそう ヨメ の キズイ キママ が つのる で あろう し、 ショウゾウ も それ を アテ に して なまける で あろう し、 けっきょく オヤコ 3 ニン の オモワク が ミナ ソレゾレ に はずれて くる ところ から、 アラソイ の タネ が つきない で あろう。 その ジブン に なって、 マエ の ニョウボウ の アリガタミ が はじめて ホントウ に わかる の だ。 シナコ は こんな フシダラ では なかった、 こういう とき に ああ も して くれた、 こう も して くれた と、 ショウゾウ ばかり で なく、 ハハオヤ まで が きっと ジブン の シッサク を みとめて、 コウカイ する の だ。 あの オンナ は また あの オンナ で、 さんざん あの イエ を かきまわした アゲク の ハテ に、 とびだして しまう の が オチ なの だ。 そう なる こと は イマ から メイメイ ハクハク で、 タイコバン を おして やりたい くらい で ある のに、 それ が わからない とは あわれ な ヒトタチ も あれば ある もの よ と、 ナイシン せせらわらいながら ジキ を まつ つもり で いる の だ が、 しかし ヨウジン-ぶかい カノジョ は、 まつ に つけて は リリー を あずかって おく と いう イッサク を かんがえついた の で あった。
カノジョ は いつも、 ウエ の ガッコウ を 1~2 ネン でも のぞいた こと が ある と いう フクコ に たいして、 キョウイク の テン では ヒケメ を かんじて いた の で ある が、 でも ホントウ の チエクラベ なら、 フクコ に だって オリン に だって まける もの か と いう ジフシン が ある ので、 リリー を あずかる と いう シュダン を おもいついた とき は、 われながら の ミョウアン に ヒトリ で カンシン して しまった。 なぜか と いって、 リリー さえ こちら へ ひきとって おいたら、 おそらく ショウゾウ は アメ に つけ、 カゼ に つけ、 リリー の こと を おもいだす たび に カノジョ の こと を おもいだし、 リリー を フビン と おもう ココロ が、 しらずしらず カノジョ を あわれむ ココロ にも なろう から で ある。 そして、 そう すれば、 いつまで たって も セイシンテキ に エン が きれない リクツ で ある し、 そこ へ もって きて フクコ との ナカ が しっくり ゆかない よう に なる と、 いよいよ リリー が こいしい と ともに マエ の ニョウボウ が こいしく なろう。 カノジョ が いまだに サイエン も せず、 ネコ を アイテ に わびしく くらして いる と きいて は、 イッパン の ドウジョウ が あつまる の は むろん の こと、 ショウゾウ だって わるい キモチ は する はず が なく、 ますます フクコ に イヤケ が さす よう に なる で あろう から、 テ を くださず して カレラ の ナカ を さく こと に セイコウ し、 フクエン の ジキ を はやめる こと が できる。 ―――ま、 そう オアツラエムキ に いって くれたら シアワセ で ある が、 カノジョ ジシン は そう なる ミコミ を たてて いた。 ただ モンダイ は リリー を すなお に ひきわたす か どう か と いう こと で あった が、 それ とて も、 フクコ の シットシン を あおりたてたら だいじょうぶ うまく ゆく つもり で いた。 だから あの テガミ の モンク なんぞ も、 そういう シンボウ エンリョ を もって かかれて いた ので、 タンジュン な イタズラ や イヤガラセ では なかった の で ある が、 オキノドク ながら アタマ の わるい レンチュウ には、 どうして ワタシ が すき でも ない ネコ を ほしがる の か、 とても その シンイ が つかめっこ あるまい、 そして いろいろ コッケイ きわまる ジャスイ を したり、 こどもじみた サワギカタ を する で あろう と いう ところ に、 おさえきれない ユウエツカン を おぼえた の で あった。
とにかく、 そんな ワケ で ある から、 その せっかく の リリー に にげられた とき の ラクタン と、 おもいがけなく それ が もどって きた とき の ヨロコビ と が どんな に おおきかった と して も、 ひっきょう それ は トクイ の 「シンボウ エンリョ」 に もとづく ダサンテキ な カンジョウ で あって、 ホントウ の アイチャク では ない はず なの だ が、 あの とき イライ、 イッショ に 2 カイ で くらす よう に なって みる と、 まったく ヨソウ も しなかった ケッカ が あらわれて きた の で ある。 カノジョ は よなよな、 その 1 ピキ の ひなたくさい ケモノ を かかえて おなじ ネドコ の ナカ に ねながら、 どうして ネコ と いう もの は こんな にも かわいらしい の で あろう、 それだのに また、 ムカシ は どうして この カワイサ が リカイ できなかった の で あろう と、 イマ では カイコン と ジセキ の ネン に かられる の で あった。 おおかた アシヤ ジダイ には、 サイショ に ヘン な ハンカン を いだいて しまった ので、 この ネコ の ビテン が メ に はいらなかった の で あろう が、 それ と いう の も、 ヤキモチ が あった から なの で ある。 ヤキモチ の ため に、 ほんらい かわいらしい シグサ が ただ もう にくらしく みえた の で ある。 たとえば カノジョ は、 さむい ジブン に オット の ネドコ へ もぐりこんで ゆく この ネコ を にくみ、 ドウジ に オット を うらんだ もの だ が、 イマ に なって みれば なんの にくむ こと も うらむ こと も あり は しない。 げんに カノジョ も、 もう コノゴロ では ヒトリネ の サムサ が しみじみ こたえて いる では ない か。 まして ネコ と いう ケモノ は ニンゲン より も タイオン が たかい ので、 ひとしお サムガリ なの で ある。 ネコ に あつい ヒ は ドヨウ の ミッカ-カン だけ しか ない と いわれる の で ある。 そう だ と すれば、 イマ は アキ の ナカバ で ある から、 ロウネン の リリー が あたたかい ネドコ へ したいよる の は トウゼン では ない か。 いや、 それ より も、 カノジョ ジシン が、 こうして ネコ と ねて いる と、 この あたたかい こと は どう だ! レイネン ならば、 コンヤ アタリ は ユタンポ なし では ねられない で あろう のに、 コトシ は まだ そんな もの も つかわない で、 さむい オモイ も せず に いる の は、 リリー が はいって きて くれる おかげ では ない か。 カノジョ ジシン が、 ヨゴト ヨゴト に リリー を はなせなく なって いる では ない か。 その ホカ ムカシ は、 この ネコ の ワガママ を にくみ、 アイテ に よって タイド を かえる の を にくみ、 カゲヒナタ の ある の を にくんだ けれども、 それ も これ も、 みんな こちら の アイジョウ が たらなかった から なの だ。 ネコ には ネコ の チエ が あって、 ちゃんと ニンゲン の ココロモチ が わかる。 その ショウコ には、 こちら が イマ まで の よう で なく、 ホントウ の アイジョウ を もつ よう に なったら、 すぐ もどって きて この とおり なれなれしく する では ない か。 カノジョ が ジブン の キモチ の ヘンカ を イシキ する より、 リリー の ほう が より はやく かぎつけた くらい では ない か。
シナコ は イマ まで、 ネコ は おろか ニンゲン に たいして も、 こんな に こまやか な ジョウアイ を かんじた こと も なく、 しめした こと も ない よう な キ が した。 それ は ヒトツ には、 オリン を ハジメ イロイロ な ヒト から ジョウ の こわい オンナ だ と いわれて いた もの だ から、 いつか ジブン でも そう おもわされて いた せい で あった が、 コノアイダ から リリー の ため に ささげつくした シンロウ と ココロヅカイ と を かんがえる とき、 ジブン の どこ に こんな あたたかい、 やさしい ジョウチョ が ひそんで いた の か と、 いまさら おどろかれる の で あった。 そう いえば ムカシ、 ショウゾウ が この ネコ の セワ を けっして タニン の テ に ゆだねず、 マイニチ ショクジ の シンパイ を し、 2~3 ニチ-オキ に フンシ の スナ を カイガン まで トリカエ に ゆき、 ヒマ が ある と ノミ を とって やったり ブラシ を かけて やったり し、 ハナ が かわいて い は しない か、 ベン が やわらかすぎ は しない か、 ケ が ぬけ は しない か と しじゅう キ を つけて、 すこし でも イジョウ が あれば クスリ を あたえる と いう ふう に、 まめまめしく つくして やる の を みて、 あの ナマケモノ に よく あんな メンドウ が みられる こと よ と、 ますます ハンカン を つのらした もの だ が、 あの ショウゾウ の した こと を イマ は ジブン が して いる では ない か。 しかも カノジョ は、 ジブン の イエ に すんで いる の では ない の で ある。 ジブン の たべる だけ の もの は、 ジブン で もうけて イモウト フウフ へ はらいこむ と いう ジョウケン だ から、 まるきり の イソウロウ では ない が、 なにかと キ が おける ナカ に いて、 この ネコ を かって いる の で ある。 これ が ジブン の イエ で あったら、 ダイドコロ を あさって ノコリモノ を さがす けれども、 タニン の イエ では そう も できない ところ から、 ジブン が たべる もの を たべず に おく か、 イチバ へ いって なにかしら みつけて きて やらねば ならない。 そう で なくて も、 つましい うえ にも つましく して いる バアイ で ある のに、 たとい わずか の カイモノ にも せよ、 リリー の ため に デセン が ふえる と いう こと は、 ずいぶん イタゴト なの で ある。 それに もう ヒトツ ヤッカイ なの は、 フンシ で あった。 アシヤ の イエ は ハマ まで 5~6 チョウ の キョリ だった から、 スナ を える には ベンリ で あった が、 この ハンキュウ の エンセン から は、 ウミ は ヒジョウ に とおい の で ある。 もっとも サイショ の 2~3 カイ は、 フシンバ の スナ が あった おかげ で たすかった けれども、 あいにく チカゴロ は どこ にも スナ なんか あり は しない。 そう か と いって、 スナ を かえず に ほうって おく と、 とても シュウキ が はげしく なって、 シマイ に シタ へ まで におって くる ので、 イモウト フウフ が いや な カオ を する。 よんどころなく、 ヨ が ふけて から カノジョ は そうっと スコップ を もって でかけて いって、 その ヘン の ハタケ の ツチ を かいて きたり、 ショウガッコウ の ウンドウジョウ から スベリダイ の スナ を ぬすんで きたり、 そんな バン には また よく イヌ に ほえられたり、 あやしい オトコ に つけられたり、 ―――まったく、 リリー の ため で なかったら、 ダレ に たのまれて こんな いや な シゴト を しよう、 だが また リリー の ため ならば こういう クロウ を いとわない とは、 なんと した こと で あろう と おもう と、 かえすがえす も、 アシヤ の ジブン に、 なぜ この ハンブン も の アイジョウ を もって、 この ケモノ を いつくしんで やらなかった か、 ジブン に そういう ココロガケ が あったら、 よもや オット との ナカ が フエン に なり は しなかった で あろう し、 このよう な ウキメ は みなかった で あろう もの を と、 いまさら それ が くやまれて ならない。 かんがえて みれば、 ダレ が わるかった の でも ない、 みんな ジブン が いたらなかった の だ。 この ツミ の ない、 やさしい 1 ピキ の ケモノ を さえ あいする こと が できない よう な オンナ だ から こそ、 オット に きらわれた の では ない か。 ジブン に そういう ケッテン が あった から こそ、 ハタ の ニンゲン が つけこんだ の では ない か。………
11 ガツ に なる と、 アサユウ の サムサ が めっきり くわわって、 ヨル は ときどき ロッコウ の ほう から ふきおろす カゼ が、 ト の スキマ から ひえびえ と しみこむ よう に なって きた ので、 シナコ と リリー とは マエ より も いっそう くっついて、 ひしと だきあって、 ふるえながら ねた。 そして とうとう こらえきれず に、 ユタンポ を つかいはじめた の で あった が、 その とき の リリー の ヨロコビカタ と いったら なかった。 シナコ は よなよな、 ユタンポ の ヌクモリ と ネコ の カッキ と で ぽかぽか して いる ネドコ の ナカ で、 あの ごろごろ いう オト を ききながら、 ジブン の フトコロ の ナカ に いる ケモノ の ミミ へ クチ を よせて、
「オマエ の ほう が ワテ より よっぽど ニンジョウ が あってん なあ」
と いって みたり、
「ワテ の おかげ で、 オマエ に まで こんな さびしい オモイ さして、 カンニン なあ」
と いって みたり、
「けど もう じき やで。 もう ちょっと シンボウ してて くれたら、 ワテ と イッショ に アシヤ の ウチ へ かえれる よう に なる ねん で。 そしたら コンド と いう コンド は、 3 ニン なかよう くらそう なあ」
と いって みたり して、 ひとりでに ナミダ が わいて くる と、 ヨフケ の、 マックラ な ヘヤ の ナカ で、 リリー より ホカ には ダレ に みられる わけ でも ない のに、 あわてて カケブトン を すっぽり かぶって しまう の で あった。

フクコ が ゴゴ の 4 ジ-スギ に、 イマヅ の ジッカ へ いって くる と いって でかけて しまう と、 それまで オク の エンガワ で ラン の ハチ を いじくって いた ショウゾウ は、 まちかまえて いた よう に たちあがって、
「オカアサン」
と、 カッテグチ へ コエ を かけた が、 センタク を して いる ハハオヤ には、 ミズ の オト が ジャマ に なって きこえない らしい ので、
「オカアサン」
と、 もう イチド コエ を はりあげて いった。
「ミセ を たのむ で。 ―――ちょっと そこ まで いって くる よって に なあ」
と、 じゃぶじゃぶ いう オト が ふいと とまって、
「ナン や て?」
と、 ハハオヤ の しっかり した コエ が ショウジゴシ に きこえた。
「ボク、 ちょっと そこ まで いって くる よって に―――」
「どこ へ?」
「つい そこ や」
「なにしに?」
「そない に ひつこう きかん かて―――」
そう いって、 イッシュンカン むっと した カオツキ で、 ハナ の アナ を ふくらました が、 すぐ また おもいかえした らしく、 あの モチマエ の あまえる よう な クチョウ に なって、
「あのなあ、 ちょっと 30 プン ほど、 タマツキ に いかして くれへん か」
「そう かて オマエ、 タマ は つかん ちゅう ヤクソク した のん や ない か」
「イッペン だけ いかしてえ な。 なんせ もう ハンツキ も ついてえ へん よって に。 たのみまっさ、 ホンマ に」
「ええ か、 わるい か、 ワテ には わからん。 フクコ の いる とき に、 こたえて いっとくなはれ」
「なんでえ な」
その ミョウ に りきばった よう な コエ を きく と、 ウラグチ の ほう で タライ の ウエ に つくばって いる ハハオヤ にも、 セガレ が おこった とき に する ダダッコ-じみた ヒョウジョウ が、 はっきり ソウゾウ できる の で あった。
「なんで いちいち、 ニョウボウ に こたえん なりまへん ねん。 ええ も わるい も フクコ に きいて みなんだら、 オカアサン には いわれしまへん のん か」
「そう や ない けど、 キ を つけてて ください て たのまれてる ねん が」
「そしたら オカアサン、 フクコ の マワシモノ だっかい な」
「あほらしいもない」
そう いった きり とりあわない で、 また ミズ の オト を さかん に じゃぶじゃぶ と たてはじめた。
「いったい オカアサン ボク の オカアサン か、 フクコ の オカアサン か、 どっち だす? なあ、 どっち だす いな」
「もう やめん かいな、 そんな おおきな コエ だして、 キンジョ へ きこえたら みっともない がな」
「そしたら、 センタク アト に して、 ちょっと ここ へ きとくなはれ」
「もう わかってる、 もう なんも いわへん さかい に、 どこ なと すき な とこ へ いきなはれ」
「ま、 そない いわん と、 ちょっと きなはれ」
なんと おもった か ショウゾウ は、 いきなり カッテグチ へ いって、 ナガシモト に しゃがんで いる ハハオヤ の、 シャボン の アワダラケ な テクビ を つかむ と、 ムリ に オクノマ へ ひきたてて きた。
「なあ、 オカアサン、 ええ オリ や よって に、 ちょっと これ みて もらいまっさ」
「ナン や、 せからしゅう、………」
「これ、 みて ごらん、………」
フウフ の イマ に なって いる オク の 6 ジョウ の オシイレ を あける と、 シタ の ダン の スミッコ の、 ヤナギゴウリ と ヨウダンス の スキマ の くらい アナボコ に なった ところ に、 あかく もくもく かたまって いる もの が みえる。
「あすこ に ある のん、 ナン や おもいなはる」
「あれ かいな。………」
「あれ みんな フクコ の ヨゴレモノ だっせ。 あんな グアイ に アト から アト から つっこんどいて、 ちょっとも センタク せえへん ので、 きたない もん が あそこ に いっぱい たまってて、 タンス の ヒキダシ かて あけられへん ねん が」
「おかしい なあ、 あの コ の もん は セングリ センタクヤ へ だしてる のんに、………」
「そう かて、 まさか オコシ だけ は だされへん やろ が」
「ふうむ、 あれ は オコシ かいな」
「そう だん が。 なんぼ なんでも オンナ の くせ に あんまり だらしない さかい に、 ボク もう あきれて まん ねん けど、 オカアサン かて ヨウス みてたら わかってる のんに、 なんで コゴト いうて くれしまへん? ボク に ばっかり やかましい こと いうといて、 フクコ に やったら、 こない な ドウラク されてて も みん フリ して なはん のん か」
「こんな ところ に こんな もん が つっこんで ある こと、 ワテ が なんで しる かいな。………」
「オカアサン」
フイ に ショウゾウ は びっくり した よう な コエ を あげた。 ハハ が オシイレ の ダン の シタ へ もぐりこんで いって、 その ヨゴレモノ を ごそごそ ひきだしはじめた から で ある。
「それ、 どない する ねん?」
「この ナカ きれい に して やろ おもうて、………」
「やめなはれ、 きたない!……… やめなはれ!」
「ええ がな、 ワテ に まかしといたら、………」
「ナン じゃ いな、 シュウトメ が ヨメ の そんな もん いろうたり して! ボク オカアサン に そんな こと して くれ いえしまへん で。 フクコ に さしなはれ いうてん で」
オリン は きこえない フリ を して、 その うすぐらい オク の ほう から、 まるく つくねて ある あかい エイネル の タバ を およそ イツツ ムッツ とりだす と、 それ を リョウテ に かかえながら カッテグチ へ はこんで いって、 センタク バケツ の ナカ へ いれた。
「それ、 あろうて やんなはん のん か?」
「そんな こと キ に せん と、 オトコ は だまってる もん や」
「ジブン の オコシ の センタク ぐらい、 なんで フクコ に さされまへん、 なあ オカアサン」
「うるさい なあ、 ワテ は これ を バケツ に いれて、 ミズ はっとく だけ や。 こない しといたら、 ジブン で キイ ついて センタク する やろ が」
「あほらしい、 キイ つく よう な オンナ だっかい な」
ハハ は あんな こと を いって いる けれど、 きっと ジブン が あらって やる キ に ちがいない ので、 なおさら ショウゾウ は ハラ の ムシ が おさまらなかった。 そして キモノ も きがえず に、 アツシ スガタ の まま ドマ の イタゾウリ を つっかける と、 ぷいと ジテンシャ へ とびのって、 でかけて しまった。
さっき タマツキ に いきたい と いった の は、 ホントウ に その つもり だった の で ある が、 イマ の イッケン で キュウ に ムネ が むしゃくしゃ して きて、 タマ なんか どうでも よく なった ので、 なんと いう アテ も なし に、 ベル を やけに ならしながら アシヤガワ-ゾイ の ユウホドウ を まっすぐ シン コクドウ へ あがる と、 つい ナリヒラバシ を わたって、 ハンドル を コウベ の ほう へ むけた。 まだ 5 ジ すこし マエ-ゴロ で あった が、 イッチョクセン に つづいて いる コクドウ の ムコウ に、 はやくも バンシュウ の タイヨウ が しずみかけて いて、 ふとい オビ に なった ヨコナガレ の ニシビ が、 ほとんど ロメン と ヘイコウ に さして いる ナカ を、 ヒト だの クルマ だの が みんな ハンメン に あかい イロ を あびて、 おそろしく ながい カゲ を ひきながら とおる。 ちょうど マトモ に その コウセン の ほう へ むかって はしって いる ショウゾウ は、 コウテツ の よう に ぴかぴか ひかる ホソウ ドウロ の マブシサ を さけて、 ウツムキ カゲン に、 クビ を マヨコ に しながら、 モリ の コウセツ イチバ マエ を すぎ、 ショウジ の テイリュウジョ へ さしかかった が、 ふと、 デンシャ センロ の ムコウガワ の、 とある ビョウイン の ヘイソト に、 タタミヤ の ツカモト が ダイ を すえて せっせと タタミ を さして いる の が メ に とまる と、 キュウ に ゲンキ-づいた よう に のりつけて いって、
「いそがし おまっか」
と、 コエ を かけた。
「やあ」
と ツカモト は、 テ は やすめず に メ で うなずいた が、 ヒ が くれぬ アイダ に シゴト を かたづけて しまおう と、 タタミ へ きゅっと ハリ を さしこんで は ぬきとりながら、
「イマジブン、 どこ へ いきはりまん ね?」
「べつに どこ へも いかしまへん。 ちょっと この ヘン まで きて みましてん」
「ボク に ヨウジ でも おました ん か」
「いいえ、 ちがいま。―――」
そう いって しまって はっと した が、 シカタ が なし に メ と ハナ の アイダ へ くしゃくしゃ と した シワ を きざんで、 アイマイ な ツクリワライ を した。
「イマ ここ とおりかかった のんで、 コエ かけて みました ん や」
「そう だっか」
そして ツカモト は、 ジブン の メノマエ に ジテンシャ を とめて つったって いる ニンゲン に なんか、 かまって いられない と いわん ばかり に、 すぐ シタ を むいて サギョウ を つづけた が、 ショウゾウ の ミ に なって みれば、 いくら いそがしい に した ところ で、 「チカゴロ どうして いる か」 とか、 「リリー の こと は あきらめた か」 とか、 その くらい な アイサツ は して くれて も よさそう な もの だ のに、 シンガイ な キ が して ならなかった。 それ と いう の が、 フクコ の マエ では リリー コイシサ を イッショウ ケンメイ に おしかくして、 リリー の 「リ」 の ジ も クチ に ださない で いる もの だ から、 それだけ センマン ムリョウ の オモイ が ムネ に ウッセキ して いる わけ で、 イマ はからずも ツカモト に であって みる と、 やれやれ この オトコ に すこし は せつない ココロ の ウチ を きいて もらおう、 そう したら いくらか キ が はれる だろう と、 すっかり あてこんで いた の で あった が、 ツカモト と して も せめて ナグサメ の コトバ ぐらい、 で なければ ブサタ の ワビ ぐらい、 いわなければ ならない はず なの で ある。 なぜか と いって、 そもそも リリー を シナコ の ほう へ わたす とき に、 ソノゴ どういう タイグウ を うけつつ ある か、 ときどき ツカモト が ショウゾウ の カワリ に ミマイ に いって、 ヨウス を みとどけて、 ホウコク を する と いう かたい ヤクソク が あった の で ある。 もちろん それ は フタリ の アイダ だけ の モウシアワセ で、 オリン や フクコ には ぜったい ヒミツ に なって いた の だ が、 しかし そういう ジョウケン が あった から こそ ダイジ な ネコ を わたして やった のに、 あれきり イチド も その ヤクソク を ジッコウ して くれた こと が なく、 うまうま ヒト を ペテン に かけて、 しらん カオ を して いる の で あった。
だが、 ツカモト は、 そらとぼけて いる わけ では なくて、 ヒゴロ の ショウバイ の イシガシサ に とりまぎれて しまった の で あろう か。 ここ で あった の を サイワイ に、 ヒトコト ぐらい ウラミ を いって やりたい けれども、 こんな に ムチュウ で はたらいて いる モノ に、 いまさら ノンキ-らしく ネコ の こと なんぞ いいだせ も しない し、 いいだした ところ で、 アベコベ に どなりつけられ は しない で あろう か。 ショウゾウ は、 ユウヒ が だんだん にぶく なって ゆく ナカ で、 ツカモト の テ に ある タタミバリ ばかり が いつまでも きらきら ひかって いる の を、 みとれる とも なく みとれながら ぼんやり たたずんで いる の で あった が、 ちょうど この アタリ は コクドウスジ でも ジンカ が まばら に なって いて、 ミナミガワ の ほう には ショクヨウガエル を かう イケ が あり、 キタガワ の ほう には、 ショウトツ ジコ で しんだ ヒトビト の クヨウ の ため に、 まだ まあたらしい、 おおきな イシ の コクドウ ジゾウ が たって いる ばかり。 この ビョウイン の ウシロ の ほう は タンボ ツヅキ で、 ずうと ムコウ に ハンキュウ エンセン の ヤマヤマ が、 つい サッキ まで は すみきった クウキ の ソコ に くっきり と ヒダ を かさねて いた の が、 もう タソガレ の あおい ウスモヤ に つつまれかけて いる の で ある。
「そんなら、 ボク、 シッケイ しまっさ。―――」
「ちと やって きなはれ」
「そのうち ゆっくり よせて もらいま」
カタアシ を ペダル へ かけて、 2~3 ポ とっとっ と ゆきかけた けれども、 やっぱり あきらめきれない らしく、
「あのなあ、―――」
と いいながら、 また もどって きた。
「ツカモト クン、 えらい オジャマ しまっけど、 じつは ちょっと ききたい こと が おまん ねん」
「ナン だす?」
「ボク これから、 ロッコウ まで いって みたろ か おもいまん ねん けど、………」
やっと 1 ジョウ ぬいおえた ところ で、 たちあがりかけて いた ツカモト は、
「なにしに いな?」
と あきれた カオ を して、 かかえた タタミ を もう イッペン とん と ダイ へ もどした。
「そう かて、 あれきり どない してる やら、 さっぱり ヨウス わかれしまへん さかい に な。………」
「キミ、 そんな こと、 マジメ で いうて なはん のん か。 おきなはれ、 おとこらしい も ない!」
「ちがいまん が、 ツカモト クン!……… そう や あれへん が」
「そや さかい に ボク あの とき にも ネン おしたら、 あの オンナ に なんの ミレン も ない、 カオ みる だけ でも ケッタクソ が わるい いいなはった や おまへん か」
「ま、 ツカモト クン、 まっとくなはれ! シナコ の こと や あれへん が。 ネコ の こと だん が」
「なんと、 ネコ?―――」
ツカモト の メモト と クチモト に、 とつぜん にっこり と ホホエミ が うかんだ。
「ああ、 ネコ の こと だっか」
「そう だん が。 ―――キミ あの とき に、 シナコ が あれ を かわいがる か どう か、 ときどき ヨウス み に いって くれる いいなはった のん、 おぼえたはりまっしゃろ?」
「そんな こと いいました かいな、 なんせ コトシ は、 スイガイ から こっち えらい いそがし おました さかい に、―――」
「そら わかって ま。 そや よって に、 キミ に いって もらおう おもうてえ しまへん」
せいぜい ヒニク に そう いった つもり だった の で ある が、 アイテ は いっこう かんじて くれない で、
「キミ、 まだ あの ネコ の こと わすれられしまへん のん か」
「なんで わすれまっかい な。 あれ から こっち、 シナコ の ヤツ が いじめてえ へん やろ か、 あんじょう なついてる やろ か おもうたら、 もう その こと が シンパイ で なあ、 マイバン ユメ に みる ぐらい だす ねん けど、 フクコ の マエ やったら、 そんな こと ちょっとも いわれしまへん よって に、 なお の こと ここ が つろうて つろうて、………」
と、 ショウゾウ は ムネ を たたいて みせながら ベソ を かいた。
「………ホンマ の とこ、 もう イマ まで にも イッペン み に いこ おもうて ましてん けど、 なんせ このところ ヒトツキ ほど、 ヒトリ やったら めった に だして もらわれしまへん。 それに ボク、 シナコ に あわん ならん のん かないまへん よって に、 アイツ に みられん よう に して、 リリー に だけ そうっと おうて くる よう な こと、 できしまへん やろ か?」
「そら、 むずかしい おまん なあ。―――」
イイカゲン に カンニン して くれ と いう サイソク の つもり で、 ツカモト は おろした タタミ へ テ を かけながら、
「どない した かて みられまん なあ。 それに だいいち、 ネコ に あい に きた おもわん と、 シナコ さん に ミレン ある のん や おもわれたら、 ヤッカイ な こと に なりまん がな」
「ボク かて そない おもわれたら かないまへん ねん」
「もう あきらめて しまいなはれ。 ヒト に やって しもうた もん、 どない おもうた かて しょうがない や おまへん か、 なあ イシイ クン。―――」
「あのなあ、」
と、 それ には こたえない で、 ベツ な こと を きいた。
「あの、 シナコ は いつも 2 カイ だっか、 シタ だっか?」
「2 カイ らし おまっけど、 シタ へ かて おりて きまっしゃろ」
「ウチ あける こと おまへん やろ か?」
「わかりまへん なあ。 ―――サイホウ したはります さかい に、 たいがい ウチ らし おまっけど」
「フロ へ いく ジカン、 ナンジ-ゴロ だっしゃろ?」
「わかりまへん なあ」
「そう だっか。 そしたら、 えらい オジャマ しました わ」
「イシイ クン」
ツカモト は、 タタミ を かかえて たちあがった アイダ に、 はやくも 1~2 ケン はなれかけた ジテンシャ の ウシロスガタ に いった。
「キミ、 ホンマ に いきはりまん の か」
「どう する か まだ わかれしまへん。 とにかく キンジョ まで いって みまっさ」
「いきなはる のん は カッテ だす けど、 アト で ゴタゴタ おこった かて、 かかわりあう のん いや だっせ」
「キミ も こんな こと、 フクコ や オフクロ に いわん と おいとくなはれ。 たのみまっさ」
そして ショウゾウ は、 クビ を ミギヒダリ へ ゆさぶり ゆさぶり、 デンシャ センロ を ムコウガワ へ わたった。