カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カッパ 2

2017-06-21 | アクタガワ リュウノスケ
 6

 じっさい また カッパ の レンアイ は ワレワレ ニンゲン の レンアイ とは よほど オモムキ を コト に して います。 メス の カッパ は これ ぞ と いう オス の カッパ を みつける が はやい か、 オス の カッパ を とらえる の に いかなる シュダン も かえりみません。 いちばん ショウジキ な メス の カッパ は しゃにむに オス の カッパ を おいかける の です。 げんに ボク は キチガイ の よう に オス の カッパ を おいかけて いる メス の カッパ を みかけました。 いや、 それ ばかり では ありません。 わかい メス の カッパ は もちろん、 その カッパ の リョウシン や キョウダイ まで イッショ に なって おいかける の です。 オス の カッパ こそ みじめ です。 なにしろ さんざん にげまわった アゲク、 ウン よく つかまらず に すんだ と して も、 2~3 カゲツ は トコ に ついて しまう の です から。 ボク は ある とき ボク の イエ に トック の シシュウ を よんで いました。 すると そこ へ かけこんで きた の は あの ラップ と いう ガクセイ です。 ラップ は ボク の イエ へ ころげこむ と、 ユカ の ウエ へ たおれた なり、 イキ も きれぎれ に こう いう の です。
「タイヘン だ! とうとう ボク は だきつかれて しまった!」
 ボク は トッサ に シシュウ を なげだし、 トグチ の ジョウ を おろして しまいました。 しかし カギアナ から のぞいて みる と、 イオウ の フンマツ を カオ に ぬった、 セ の ひくい メス の カッパ が 1 ピキ、 まだ トグチ に うろついて いる の です。 ラップ は その ヒ から ナン-シュウカン か ボク の トコ の ウエ に ねて いました。 のみならず いつか ラップ の クチバシ は すっかり くさって おちて しまいました。
 もっとも また ときには メス の カッパ を イッショウ ケンメイ に おいかける オス の カッパ も ない では ありません。 しかし それ も ホントウ の ところ は おいかけず には いられない よう に メス の カッパ が しむける の です。 ボク は やはり キチガイ の よう に メス の カッパ を おいかけて いる オス の カッパ も みかけました。 メス の カッパ は にげて ゆく うち にも、 ときどき わざと たちどまって みたり、 ヨツンバイ に なったり して みせる の です。 おまけに ちょうど いい ジブン に なる と、 さも がっかり した よう に らくらく と つかませて しまう の です。 ボク の みかけた オス の カッパ は メス の カッパ を だいた なり、 しばらく そこ に ころがって いました。 が、 やっと おきあがった の を みる と、 シツボウ と いう か、 コウカイ と いう か、 とにかく なんとも ケイヨウ できない、 キノドク な カオ を して いました。 しかし それ は まだ いい の です。 これ も ボク の みかけた ナカ に ちいさい オス の カッパ が 1 ピキ、 メス の カッパ を おいかけて いました。 メス の カッパ は レイ の とおり、 ユウワクテキ トンソウ を して いる の です。 すると そこ へ ムコウ の マチ から おおきい オス の カッパ が 1 ピキ、 ハナイキ を ならせて あるいて きました。 メス の カッパ は ナニ か の ヒョウシ に ふと この オス の カッパ を みる と 「タイヘン です! たすけて ください! あの カッパ は ワタシ を ころそう と する の です!」 と カナキリゴエ を だして さけびました。 もちろん おおきい オス の カッパ は たちまち ちいさい カッパ を つかまえ、 オウライ の マンナカ へ ねじふせました。 ちいさい カッパ は ミズカキ の ある テ に 2~3 ド クウ を つかんだ なり、 とうとう しんで しまいました。 けれども もう その とき には メス の カッパ は にやにや しながら、 おおきい カッパ の クビッタマ へ しっかり しがみついて しまって いた の です。
 ボク の しって いた オス の カッパ は ダレ も ミナ いいあわせた よう に メス の カッパ に おいかけられました。 もちろん サイシ を もって いる バッグ でも やはり おいかけられた の です。 のみならず 2~3 ド は つかまった の です。 ただ マッグ と いう テツガクシャ だけ は (これ は あの トック と いう シジン の トナリ に いる カッパ です。) イチド も つかまった こと は ありません。 これ は ヒトツ には マッグ ぐらい、 みにくい カッパ も すくない ため でしょう。 しかし また ヒトツ には マッグ だけ は あまり オウライ へ カオ を ださず に ウチ に ばかり いる ため です。 ボク は この マッグ の ウチ へも ときどき はなし に でかけました。 マッグ は いつも うすぐらい ヘヤ に ナナイロ の イロガラス の ランターン を ともし、 アシ の たかい ツクエ に むかいながら、 あつい ホン ばかり よんで いる の です。 ボク は ある とき こういう マッグ と カッパ の レンアイ を ろんじあいました。
「なぜ セイフ は メス の カッパ が オス の カッパ を おいかける の を もっと ゲンジュウ に とりしまらない の です?」
「それ は ヒトツ には カンリ の ナカ に メス の カッパ の すくない ため です よ。 メス の カッパ は オス の カッパ より も いっそう シットシン は つよい もの です から ね。 メス の カッパ の カンリ さえ ふえれば、 きっと イマ より も オス の カッパ は おいかけられず に くらせる でしょう。 しかし その コウリョク も しれた もの です ね。 なぜ と いって ごらんなさい。 カンリ ドウシ でも メス の カッパ は オス の カッパ を おいかけます から ね」
「じゃあ アナタ の よう に くらして いる の は いちばん コウフク な わけ です ね」
 すると マッグ は イス を はなれ、 ボク の リョウテ を にぎった まま、 タメイキ と イッショ に こう いいました。
「アナタ は ワレワレ カッパ では ありません から、 おわかり に ならない の も もっとも です。 しかし ワタシ も どうか する と、 あの おそろしい メス の カッパ に おいかけられたい キ も おこる の です よ」

 7

 ボク は また シジン の トック と たびたび オンガクカイ へも でかけました。 が、 いまだに わすれられない の は 3 ド-メ に きき に いった オンガクカイ の こと です。 もっとも カイジョウ の ヨウス など は あまり ニホン と かわって いません。 やはり だんだん せりあがった セキ に メスオス の カッパ が 300~400 ピキ、 いずれ も プログラム を テ に しながら、 イッシン に ミミ を すませて いる の です。 ボク は この 3 ド-メ の オンガクカイ の とき には トック や トック の メス の カッパ の ホカ にも テツガクシャ の マッグ と イッショ に なり、 いちばん マエ の セキ に すわって いました。 すると セロ の ドクソウ が おわった ノチ、 ミョウ に メ の ほそい カッパ が 1 ピキ、 ムゾウサ に フホン を かかえた まま、 ダン の ウエ へ あがって きました。 この カッパ は プログラム の おしえる とおり、 なだかい クラバック と いう サッキョクカ です。 プログラム の おしえる とおり、 ――いや、 プログラム を みる まで も ありません。 クラバック は トック が ぞくして いる チョウジン クラブ の カイイン です から、 ボク も また カオ だけ は しって いる の です。
「Lied――Craback」 (この クニ の プログラム も タイテイ は ドイツ-ゴ を ならべて いました。)
 クラバック は さかん な ハクシュ の ウチ に ちょっと ワレワレ へ イチレイ した ノチ、 しずか に ピアノ の マエ へ あゆみよりました。 それから やはり ムゾウサ に ジサク の リード を ひきはじめました。 クラバック は トック の コトバ に よれば、 この クニ の うんだ オンガクカ-チュウ、 ゼンゴ に ヒルイ の ない テンサイ だ そう です。 ボク は クラバック の オンガク は もちろん、 その また ヨギ の ジョジョウシ にも キョウミ を もって いました から、 おおきい ユミナリ の ピアノ の オト に ネッシン に ミミ を かたむけて いました。 トック や マッグ も こうこつ と して いた こと は あるいは ボク より も まさって いた でしょう。 が、 あの うつくしい (すくなくとも カッパ たち の ハナシ に よれば) メス の カッパ だけ は しっかり プログラム を にぎった なり、 ときどき さも いらだたしそう に ながい シタ を べろべろ だして いました。 これ は マッグ の ハナシ に よれば、 なんでも かれこれ 10 ネン-ゼン に クラバック を つかまえそこなった もの です から、 いまだに この オンガクカ を メノカタキ に して いる の だ とか いう こと です。
 クラバック は ゼンシン に ジョウネツ を こめ、 たたかう よう に ピアノ を ひきつづけました。 すると とつぜん カイジョウ の ナカ に カミナリ の よう に ひびきわたった の は 「エンソウ キンシ」 と いう コエ です。 ボク は この コエ に びっくり し、 おもわず ウシロ を ふりかえりました。 コエ の ヌシ は マギレ も ない、 いちばん ウシロ の セキ に いる ミノタケ バツグン の ジュンサ です。 ジュンサ は ボク が ふりむいた とき、 ゆうぜん と コシ を おろした まま、 もう イチド マエ より も オオゴエ に 「エンソウ キンシ」 と どなりました。 それから、――
 それから サキ は ダイコンラン です。 「ケイカン オウボウ!」 「クラバック、 ひけ! ひけ!」 「バカ!」 「チクショウ!」 「ひっこめ!」 「まけるな!」 ――こういう コエ の わきあがった ナカ に イス は たおれる、 プログラム は とぶ、 おまけに ダレ が なげる の か、 サイダー の アキビン や イシコロ や カジリカケ の キュウリ さえ ふって くる の です。 ボク は アッケ に とられました から、 トック に その リユウ を たずねよう と しました。 が、 トック も コウフン した と みえ、 イス の ウエ に つったちながら、 「クラバック、 ひけ! ひけ!」 と わめきつづけて います。 のみならず トック の メス の カッパ も いつのまに テキイ を わすれた の か、 「ケイカン オウボウ」 と さけんで いる こと は すこしも トック に かわりません。 ボク は やむ を えず マッグ に むかい、
「どうした の です?」 と たずねて みました。
「これ です か? これ は この クニ では よく ある こと です よ。 がんらい エ だの ブンゲイ だの は……」
 マッグ は ナニ か とんで くる たび に ちょっと クビ を ちぢめながら、 あいかわらず しずか に セツメイ しました。
「がんらい エ だの ブンゲイ だの は ダレ の メ にも ナニ を あらわして いる か は とにかく ちゃんと わかる はず です から、 この クニ では けっして ハツバイ キンシ や テンラン キンシ は おこなわれません。 その カワリ に ある の が エンソウ キンシ です。 なにしろ オンガク と いう もの だけ は どんな に フウゾク を カイラン する キョク でも、 ミミ の ない カッパ には わかりません から ね」
「しかし あの ジュンサ は ミミ が ある の です か?」
「さあ、 それ は ギモン です ね。 たぶん イマ の センリツ を きいて いる うち に サイクン と イッショ に ねて いる とき の シンゾウ の コドウ でも おもいだした の でしょう」
 こういう アイダ にも オオサワギ は いよいよ さかん に なる ばかり です。 クラバック は ピアノ に むかった まま、 ごうぜん と ワレワレ を ふりかえって いました。 が、 いくら ごうぜん と して いて も、 イロイロ の もの の とんで くる の は よけない わけ に ゆきません。 したがって つまり 2~3 ビョウ-オキ に せっかく の タイド も かわった わけ です。 しかし とにかく ダイタイ と して は ダイ オンガクカ の イゲン を たもちながら、 ほそい メ を すさまじく かがやかせて いました。 ボク は―― ボク も もちろん キケン を さける ため に トック を コダテ に とって いた もの です。 が、 やはり コウキシン に かられ、 ネッシン に マッグ と はなしつづけました。
「そんな ケンエツ は ランボウ じゃ ありません か?」
「なに、 どの クニ の ケンエツ より も かえって シンポ して いる くらい です よ。 たとえば ×× を ごらんなさい。 げんに つい ヒトツキ ばかり マエ にも、……」
 ちょうど こう いいかけた トタン です。 マッグ は あいにく ノウテン に アキビン が おちた もの です から、 quack (これ は ただ カントウシ です) と ヒトコエ さけんだ ぎり、 とうとう キ を うしなって しまいました。

 8

 ボク は ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル に フシギ にも コウイ を もって いました。 ゲエル は シホンカ-チュウ の シホンカ です。 おそらくは この クニ の カッパ の ナカ でも、 ゲエル ほど おおきい ハラ を した カッパ は 1 ピキ も いなかった の に チガイ ありません。 しかし レイシ に にた サイクン や キュウリ に にた コドモ を サユウ に しながら、 アンラク イス に すわって いる ところ は ほとんど コウフク ソノモノ です。 ボク は ときどき サイバンカン の ペップ や イシャ の チャック に つれられて ゲエル-ケ の バンサン へ でかけました。 また ゲエル の ショウカイジョウ を もって ゲエル や ゲエル の ユウジン たち が タショウ の カンケイ を もって いる イロイロ の コウジョウ も みて あるきました。 その イロイロ の コウジョウ の ナカ でも ことに ボク に おもしろかった の は ショセキ セイゾウ-ガイシャ の コウジョウ です。 ボク は トシ の わかい カッパ の ギシ と この コウジョウ の ナカ へ はいり、 スイリョク デンキ を ドウリョク に した、 おおきい キカイ を ながめた とき、 いまさら の よう に カッパ の クニ の キカイ コウギョウ の シンポ に キョウタン しました。 なんでも そこ では 1 ネン-カン に 700 マン-ブ の ホン を セイゾウ する そう です。 が、 ボク を おどろかした の は ホン の ブスウ では ありません。 それ だけ の ホン を セイゾウ する の に すこしも テスウ の かからない こと です。 なにしろ この クニ では ホン を つくる の に ただ キカイ の ジョウゴガタ の クチ へ カミ と インク と ハイイロ を した フンマツ と を いれる だけ なの です から。 それら の ゲンリョウ は キカイ の ナカ へ はいる と、 ほとんど 5 フン と たたない うち に キクバン、 シロクバン、 キクハンサイバン など の ムスウ の ホン に なって でて くる の です。 ボク は タキ の よう に ながれおちる イロイロ の ホン を ながめながら、 ソリミ に なった カッパ の ギシ に その ハイイロ の フンマツ は なんと いう もの か と たずねて みました。 すると ギシ は クロビカリ に ひかった キカイ の マエ に たたずんだ まま、 つまらなそう に こう ヘンジ を しました。
「これ です か? これ は ロバ の ノウズイ です よ。 ええ、 イチド カンソウ させて から、 ざっと フンマツ に した だけ の もの です。 ジカ は 1 トン 2~3 セン です がね」
 もちろん こういう コウギョウジョウ の キセキ は ショセキ セイゾウ-ガイシャ に ばかり おこって いる わけ では ありません。 カイガ セイゾウ-ガイシャ にも、 オンガク セイゾウ-ガイシャ にも、 おなじ よう に おこって いる の です。 じっさい また ゲエル の ハナシ に よれば、 この クニ では ヘイキン 1 カゲツ に 700~800 シュ の キカイ が シンアン され、 なんでも ずんずん ヒトデ を またず に タイリョウ セイサン が おこなわれる そう です。 したがって また ショッコウ の カイコ される の も 4~5 マン-ビキ を くだらない そう です。 そのくせ まだ この クニ では マイアサ シンブン を よんで いて も、 イチド も ヒギョウ と いう ジ に であいません。 ボク は これ を ミョウ に おもいました から、 ある とき また ペップ や チャック と ゲエル-ケ の バンサン に まねかれた キカイ に この こと を なぜか と たずねて みました。
「それ は ミンナ くって しまう の です よ」
 ショクゴ の ハマキ を くわえた ゲエル は いかにも ムゾウサ に こう いいました。 しかし 「くって しまう」 と いう の は なんの こと だ か わかりません。 すると ハナメガネ を かけた チャック は ボク の フシン を さっした と みえ、 ヨコアイ から セツメイ を くわえて くれました。
「その ショッコウ を ミンナ ころして しまって、 ニク を ショクリョウ に つかう の です。 ここ に ある シンブン を ごらんなさい。 コンゲツ は ちょうど 6 マン 4769 ヒキ の ショッコウ が カイコ されました から、 それだけ ニク の ネダン も さがった わけ です よ」
「ショッコウ は だまって ころされる の です か?」
「それ は さわいで も シカタ は ありません。 ショッコウ トサツ ホウ が ある の です から」
 これ は ヤマモモ の ハチウエ を ウシロ に にがい カオ を して いた ペップ の コトバ です。 ボク は もちろん フカイ を かんじました。 しかし シュジンコウ の ゲエル は もちろん、 ペップ や チャック も そんな こと は トウゼン と おもって いる らしい の です。 げんに チャック は わらいながら、 あざける よう に ボク に はなしかけました。
「つまり ガシ したり ジサツ したり する テスウ を コッカテキ に ショウリャク して やる の です ね。 ちょっと ユウドク ガス を かがせる だけ です から、 たいした クツウ は ありません よ」
「けれども その ニク を くう と いう の は、……」
「ジョウダン を いって は いけません。 あの マッグ に きかせたら、 さぞ オオワライ に わらう でしょう。 アナタ の クニ でも ダイヨン カイキュウ の ムスメ たち は バイショウフ に なって いる では ありません か? ショッコウ の ニク を くう こと など に フンガイ したり する の は カンショウ シュギ です よ」
 こういう モンドウ を きいて いた ゲエル は てぢかい テーブル の ウエ に あった サンドウィッチ の サラ を すすめながら、 てんぜん と ボク に こう いいました。
「どう です? ひとつ とりません か? これ も ショッコウ の ニク です がね」
 ボク は もちろん ヘキエキ しました。 いや、 それ ばかり では ありません。 ペップ や チャック の ワライゴエ を ウシロ に ゲエル-ケ の キャクマ を とびだしました。 それ は ちょうど イエイエ の ソラ に ホシアカリ も みえない アレモヨウ の ヨル です。 ボク は その ヤミ の ナカ を ボク の スマイ へ かえりながら、 のべつまくなし に ヘド を はきました。 ヨメ にも しらじら と ながれる ヘド を。

 9

 しかし ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル は ひとなつこい カッパ だった の に チガイ ありません。 ボク は たびたび ゲエル と イッショ に ゲエル の ぞくして いる クラブ へ ゆき、 ユカイ に ヒトバン を くらしました。 これ は ヒトツ には その クラブ は トック の ぞくして いる チョウジン クラブ より も はるか に イゴコロ の よかった ため です。 のみならず また ゲエル の ハナシ は テツガクシャ の マッグ の ハナシ の よう に フカミ を もって いなかった に せよ、 ボク には ぜんぜん あたらしい セカイ を、 ――ひろい セカイ を のぞかせました。 ゲエル は、 いつも ジュンキン の サジ に カッフェ の チャワン を かきまわしながら、 カイカツ に イロイロ の ハナシ を した もの です。
 なんでも ある キリ の ふかい バン、 ボク は フユバラ を もった カビン を ナカ に ゲエル の ハナシ を きいて いました。 それ は たしか ヘヤ ゼンタイ は もちろん、 イス や テーブル も しろい うえ に ほそい キン の フチ を とった セセッション-フウ の ヘヤ だった よう に おぼえて います。 ゲエル は フダン より も トクイ そう に カオジュウ に ビショウ を みなぎらせた まま、 ちょうど その コロ テンカ を とって いた Quorax トウ ナイカク の こと など を はなしました。 クオラックス と いう コトバ は ただ イミ の ない カントウシ です から、 「おや」 と でも やくす ホカ は ありません。 が、 とにかく ナニ より も サキ に 「カッパ ゼンタイ の リエキ」 と いう こと を ヒョウボウ して いた セイトウ だった の です。
「クオラックス トウ を シハイ して いる モノ は なだかい セイジカ の ロッペ です。 『ショウジキ は サイリョウ の ガイコウ で ある』 とは ビスマルク の いった コトバ でしょう。 しかし ロッペ は ショウジキ を ナイチ の ウエ にも およぼして いる の です。……」
「けれども ロッペ の エンゼツ は……」
「まあ、 ワタシ の いう こと を おききなさい。 あの エンゼツ は もちろん ことごとく ウソ です。 が、 ウソ と いう こと は ダレ でも しって います から、 ひっきょう ショウジキ と かわらない でしょう、 それ を イチガイ に ウソ と いう の は アナタガタ だけ の ヘンケン です よ。 ワレワレ カッパ は アナタガタ の よう に、 ……しかし それ は どうでも よろしい。 ワタシ の はなしたい の は ロッペ の こと です。 ロッペ は クオラックス トウ を シハイ して いる、 その また ロッペ を シハイ して いる モノ は Pou-Fou シンブン の (この 『プウ-フウ』 と いう コトバ も やはり イミ の ない カントウシ です。 もし しいて やくすれば、 『ああ』 と でも いう ホカ は ありません。) シャチョウ の クイクイ です。 が、 クイクイ も カレ ジシン の シュジン と いう わけ には いきません。 クイクイ を シハイ して いる モノ は アナタ の マエ に いる ゲエル です」
「けれども―― これ は シツレイ かも しれません けれども、 プウ-フウ シンブン は ロウドウシャ の ミカタ を する シンブン でしょう。 その シャチョウ の クイクイ も アナタ の シハイ を うけて いる と いう の は、……」
「プウ-フウ シンブン の キシャ たち は もちろん ロウドウシャ の ミカタ です。 しかし キシャ たち を シハイ する モノ は クイクイ の ホカ は ありますまい。 しかも クイクイ は この ゲエル の コウエン を うけず には いられない の です」
 ゲエル は あいかわらず ビショウ しながら、 ジュンキン の サジ を オモチャ に して います。 ボク は こういう ゲエル を みる と、 ゲエル ジシン を にくむ より も、 プウ-フウ シンブン の キシャ たち に ドウジョウ の おこる の を かんじました。 すると ゲエル は ボク の ムゴン に たちまち この ドウジョウ を かんじた と みえ、 おおきい ハラ を ふくらませて こう いう の です。
「なに、 プウ-フウ シンブン の キシャ たち も ゼンブ ロウドウシャ の ミカタ では ありません よ。 すくなくとも ワレワレ カッパ と いう もの は ダレ の ミカタ を する より も サキ に ワレワレ ジシン の ミカタ を します から ね。 ……しかし さらに ヤッカイ な こと には この ゲエル ジシン さえ やはり タニン の シハイ を うけて いる の です。 アナタ は それ を ダレ だ と おもいます か? それ は ワタシ の ツマ です よ。 うつくしい ゲエル フジン です よ」
 ゲエル は オオゴエ に わらいました。
「それ は むしろ シアワセ でしょう」
「とにかく ワタシ は マンゾク して います。 しかし これ も アナタ の マエ だけ に、 ――カッパ で ない アナタ の マエ だけ に テバナシ で フイチョウ できる の です」
「すると つまり クオラックス ナイカク は ゲエル フジン が シハイ して いる の です ね」
「さあ そう も いわれます かね。 ……しかし 7 ネン マエ の センソウ など は たしか に ある メス の カッパ の ため に はじまった もの に チガイ ありません」
「センソウ? この クニ にも センソウ は あった の です か?」
「ありました とも。 ショウライ も いつ ある か わかりません。 なにしろ リンゴク の ある カギリ は、……」
 ボク は じっさい この とき はじめて カッパ の クニ も コッカテキ に コリツ して いない こと を しりました。 ゲエル の セツメイ する ところ に よれば、 カッパ は いつも カワウソ を カセツテキ に して いる と いう こと です。 しかも カワウソ は カッパ に まけない グンビ を そなえて いる と いう こと です。 ボク は この カワウソ を アイテ に カッパ の センソウ した ハナシ に すくなからず キョウミ を かんじました。 (なにしろ カッパ の キョウテキ に カワウソ の いる など と いう こと は 「スイコ コウリャク」 の チョシャ は もちろん、 「サントウ ミンタンシュウ」 の チョシャ ヤナギタ クニオ さん さえ しらず に いたらしい シンジジツ です から。)
「あの センソウ の おこる マエ には もちろん リョウコク とも ユダン せず に じっと アイテ を うかがって いました。 と いう の は どちら も おなじ よう に アイテ を キョウフ して いた から です。 そこ へ この クニ に いた カワウソ が 1 ピキ、 ある カッパ の フウフ を ホウモン しました。 その また メス の カッパ と いう の は テイシュ を ころす つもり で いた の です。 なにしろ テイシュ は ドウラクモノ でした から ね。 おまけに セイメイ ホケン の ついて いた こと も タショウ の ユウワク に なった かも しれません」
「アナタ は その フウフ を ゴゾンジ です か?」
「ええ、 ――いや、 オス の カッパ だけ は しって います。 ワタシ の ツマ など は この カッパ を アクニン の よう に いって います がね。 しかし ワタシ に いわせれば、 アクニン より も むしろ メス の カッパ に つかまる こと を おそれて いる ヒガイ モウソウ の おおい キョウジン です。 ……そこで その メス の カッパ は テイシュ の ココア の チャワン の ナカ へ セイカ カリ を いれて おいた の です。 それ を また どう まちがえた か、 キャク の カワウソ に のませて しまった の です。 カワウソ は もちろん しんで しまいました。 それから……」
「それから センソウ に なった の です か?」
「ええ、 あいにく その カワウソ は クンショウ を もって いた もの です から ね」
「センソウ は どちら の カチ に なった の です か?」
「もちろん この クニ の カチ に なった の です。 36 マン 9500 ピキ の カッパ たち は その ため に けなげ にも センシ しました。 しかし テキコク に くらべれば、 その くらい の ソンガイ は なんとも ありません。 この クニ に ある ケガワ と いう ケガワ は たいてい カワウソ の ケガワ です。 ワタシ も あの センソウ の とき には ガラス を セイゾウ する ホカ にも セキタンガラ を センチ へ おくりました」
「セキタンガラ を ナニ に する の です か?」
「もちろん ショクリョウ に する の です。 ワレワレ は、 カッパ は ハラ さえ へれば、 なんでも くう の に きまって います から ね」
「それ は―― どうか おこらず に ください。 それ は センチ に いる カッパ たち には…… ワレワレ の クニ では シュウブン です がね」
「この クニ でも シュウブン には チガイ ありません。 しかし ワタシ ジシン こう いって いれば、 ダレ も シュウブン には しない もの です。 テツガクシャ の マッグ も いって いる でしょう。 『ナンジ の アク は ナンジ みずから いえ。 アク は おのずから ショウメツ す べし』 ……しかも ワタシ は リエキ の ホカ にも アイコクシン に もえたって いた の です から ね」
 ちょうど そこ へ はいって きた の は この クラブ の キュウジ です。 キュウジ は ゲエル に オジギ を した ノチ、 ロウドク でも する よう に こう いいました。
「オタク の オトナリ に カジ が ございます」
「カ―― カジ!」
 ゲエル は おどろいて たちあがりました。 ボク も たちあがった の は もちろん です。 が、 キュウジ は おちつきはらって ツギ の コトバ を つけくわえました。
「しかし もう けしとめました」
 ゲエル は キュウジ を みおくりながら、 ナキワライ に ちかい ヒョウジョウ を しました。 ボク は こういう カオ を みる と、 いつか この ガラス-ガイシャ の シャチョウ を にくんで いた こと に きづきました。 が、 ゲエル は もう イマ では ダイシホンカ でも なんでも ない タダ の カッパ に なって たって いる の です。 ボク は カビン の ナカ の フユバラ の ハナ を ぬき、 ゲエル の テ へ わたしました。
「しかし カジ は きえた と いって も、 オクサン は さぞ オオドロキ でしょう。 さあ、 これ を もって おかえりなさい」
「ありがとう」
 ゲエル は ボク の テ を にぎりました。 それから キュウ に にやり と わらい、 コゴエ に こう ボク に はなしかけました。
「トナリ は ワタシ の カサク です から ね。 カサイ ホケン の カネ だけ は とれる の です よ」
 ボク は この とき の ゲエル の ビショウ を―― ケイベツ する こと も できなければ、 ゾウオ する こと も できない ゲエル の ビショウ を いまだに ありあり と おぼえて います。

 10

「どうした ね? キョウ は また ミョウ に ふさいで いる じゃ ない か?」
 その カジ の あった ヨクジツ です。 ボク は マキタバコ を くわえながら、 ボク の キャクマ の イス に コシ を おろした ガクセイ の ラップ に こう いいました。 じっさい また ラップ は ミギ の アシ の ウエ へ ヒダリ の アシ を のせた まま、 くさった クチバシ も みえない ほど、 ぼんやり ユカ の ウエ ばかり みて いた の です。
「ラップ クン、 どうした ね と いえば」
「いや、 なに、 つまらない こと なの です よ。――」
 ラップ は やっと アタマ を あげ、 かなしい ハナゴエ を だしました。
「ボク は キョウ マド の ソト を みながら、 『おや ムシトリ スミレ が さいた』 と なにげなし に つぶやいた の です。 すると ボク の イモウト は キュウ に カオイロ を かえた と おもう と、 『どうせ ワタシ は ムシトリ スミレ よ』 と あたりちらす じゃ ありません か? おまけに また ボク の オフクロ も だいの イモウト-ビイキ です から、 やはり ボク に くって かかる の です」
「ムシトリ スミレ が さいた と いう こと は どうして イモウト さん には フカイ なの だね?」
「さあ、 たぶん オス の カッパ を つかまえる と いう イミ に でも とった の でしょう。 そこ へ オフクロ と ナカ わるい オバ も ケンカ の ナカマイリ を した の です から、 いよいよ オオソウドウ に なって しまいました。 しかも ネンジュウ よっぱらって いる オヤジ は この ケンカ を ききつける と、 タレカレ の サベツ なし に なぐりだした の です。 それ だけ でも シマツ の つかない ところ へ ボク の オトウト は その アイダ に オフクロ の サイフ を ぬすむ が はやい か、 キネマ か ナニ か を み に いって しまいました。 ボク は…… ホントウ に ボク は もう、……」
 ラップ は リョウテ に カオ を うずめ、 なにも いわず に ないて しまいました。 ボク の ドウジョウ した の は もちろん です。 ドウジ に また カゾク セイド に たいする シジン の トック の ケイベツ を おもいだした の も もちろん です。 ボク は ラップ の カタ を たたき、 イッショウ ケンメイ に なぐさめました。
「そんな こと は どこ でも ありがち だよ。 まあ ユウキ を だしたまえ」
「しかし…… しかし クチバシ でも くさって いなければ、……」
「それ は あきらめる ホカ は ない さ。 さあ、 トック クン の ウチ へ でも いこう」
「トック さん は ボク を ケイベツ して います。 ボク は トック さん の よう に ダイタン に カゾク を すてる こと が できません から」
「じゃ クラバック クン の ウチ へ いこう」
 ボク は あの オンガクカイ イライ、 クラバック にも トモダチ に なって いました から、 とにかく この ダイ オンガクカ の ウチ へ ラップ を つれだす こと に しました。 クラバック は トック に くらべれば、 はるか に ゼイタク に くらして います。 と いう の は シホンカ の ゲエル の よう に くらして いる と いう イミ では ありません。 ただ イロイロ の コットウ を、 ――タナグラ の ニンギョウ や ペルシア の トウキ を ヘヤ いっぱい に ならべた ナカ に トルコ-フウ の ナガイス を すえ、 クラバック ジシン の ショウゾウガ の シタ に いつも コドモ たち と あそんで いる の です。 が、 キョウ は どうした の か リョウウデ を ムネ へ くんだ まま、 にがい カオ を して すわって いました。 のみならず その また アシモト には カミクズ が イチメン に ちらばって いました。 ラップ も シジン トック と イッショ に たびたび クラバック には あって いる はず です。 しかし この ヨウス に おそれた と みえ、 キョウ は テイネイ に オジギ を した なり、 だまって ヘヤ の スミ に コシ を おろしました。
「どうした ね? クラバック クン」
 ボク は ほとんど アイサツ の カワリ に こう ダイ オンガクカ へ といかけました。
「どう する もの か? ヒヒョウカ の アホウ め! ボク の ジョジョウシ は トック の ジョジョウシ と クラベモノ に ならない と いやがる ん だ」
「しかし キミ は オンガクカ だし、……」
「それ だけ ならば ガマン も できる。 ボク は ロック に くらべれば、 オンガクカ の ナ に あたいしない と いやがる じゃ ない か?」
 ロック と いう の は クラバック と たびたび くらべられる オンガクカ です。 が、 あいにく チョウジン クラブ の カイイン に なって いない カンケイジョウ、 ボク は イチド も はなした こと は ありません。 もっとも クチバシ の そりあがった、 ヒトクセ ある らしい カオ だけ は たびたび シャシン でも みかけて いました。
「ロック も テンサイ には ちがいない。 しかし ロック の オンガク は キミ の オンガク に あふれて いる キンダイテキ ジョウネツ を もって いない」
「キミ は ホントウ に そう おもう か?」
「そう おもう とも」
 すると クラバック は たちあがる が はやい か、 タナグラ の ニンギョウ を ひっつかみ、 いきなり ユカ の ウエ に たたきつけました。 ラップ は よほど おどろいた と みえ、 ナニ か コエ を あげて にげよう と しました。 が、 クラバック は ラップ や ボク には ちょっと 「おどろくな」 と いう テマネ を した うえ、 コンド は ひややか に こう いう の です。
「それ は キミ も また ゾクジン の よう に ミミ を もって いない から だ。 ボク は ロック を おそれて いる。……」
「キミ が? ケンソンカ を きどる の は やめたまえ」
「ダレ が ケンソンカ を きどる もの か? だいいち キミタチ に きどって みせる くらい ならば、 ヒヒョウカ たち の マエ に きどって みせて いる。 ボク は―― クラバック は テンサイ だ。 その テン では ロック を おそれて いない」
「では ナニ を おそれて いる の だ?」
「ナニ か ショウタイ の しれない もの を、 ――いわば ロック を シハイ して いる ホシ を」
「どうも ボク には フ に おちない がね」
「では こう いえば わかる だろう。 ロック は ボク の エイキョウ を うけない。 が、 ボク は いつのまにか ロック の エイキョウ を うけて しまう の だ」
「それ は キミ の カンジュセイ の……」
「まあ、 ききたまえ。 カンジュセイ など の モンダイ では ない。 ロック は いつも やすんじて アイツ だけ に できる シゴト を して いる。 しかし ボク は いらいら する の だ。 それ は ロック の メ から みれば、 あるいは イッポ の サ かも しれない。 けれども ボク には 10 マイル も ちがう の だ」
「しかし センセイ の エイユウ キョク は……」
 クラバック は ほそい メ を いっそう ほそめ、 いまいましそう に ラップ を にらみつけました。
「だまりたまえ。 キミ など に ナニ が わかる? ボク は ロック を しって いる の だ。 ロック に ヘイシン テイトウ する イヌ ども より も ロック を しって いる の だ」
「まあ すこし しずか に したまえ」
「もし しずか に して いられる ならば、 ……ボク は いつも こう おもって いる。 ――ボクラ の しらない ナニモノ か は ボク を、 ――クラバック を あざける ため に ロック を ボク の マエ に たたせた の だ。 テツガクシャ の マッグ は こういう こと を なにもかも ショウチ して いる。 いつも あの イロガラス の ランターン の シタ に ふるぼけた ホン ばかり よんで いる くせ に」
「どうして?」
「この チカゴロ マッグ の かいた 『アホウ の コトバ』 と いう ホン を みたまえ。――」
 クラバック は ボク に 1 サツ の ホン を わたす―― と いう より も なげつけました。 それから また ウデ を くんだ まま、 つっけんどん に こう いいはなちました。
「じゃ キョウ は シッケイ しよう」
 ボク は しょげかえった ラップ と イッショ に もう イチド オウライ へ でる こと に しました。 ヒトドオリ の おおい オウライ は あいかわらず ブナ の ナミキ の カゲ に イロイロ の ミセ を ならべて います。 ボクラ は なんと いう こと も なし に だまって あるいて ゆきました。 すると そこ へ とおりかかった の は カミ の ながい シジン の トック です。 トック は ボクラ の カオ を みる と、 ハラ の フクロ から ハンケチ を だし、 ナンド も ヒタイ を ぬぐいました。
「やあ、 しばらく あわなかった ね。 ボク は キョウ は ヒサシブリ に クラバック を たずねよう と おもう の だ が、……」
 ボク は この ゲイジュツカ たち を ケンカ させて は わるい と おもい、 クラバック の いかにも フキゲン だった こと を エンキョク に トック に はなしました。
「そう か。 じゃ ヤメ に しよう。 なにしろ クラバック は シンケイ スイジャク だ から ね。 ……ボク も この 2~3 シュウカン は ねむられない の に よわって いる の だ」
「どう だね、 ボクラ と イッショ に サンポ を して は?」
「いや、 キョウ は ヤメ に しよう。 おや!」
 トック は こう さけぶ が はやい か、 しっかり ボク の ウデ を つかみました。 しかも いつか カラダジュウ に ヒヤアセ を ながして いる の です。
「どうした の だ?」
「どうした の です?」
「なに あの ジドウシャ の マド の ナカ から ミドリイロ の サル が 1 ピキ クビ を だした よう に みえた の だよ」
 ボク は たしょう シンパイ に なり、 とにかく あの イシャ の チャック に シンサツ して もらう よう に すすめました。 しかし トック は なんと いって も、 ショウチ する ケシキ さえ みせません。 のみならず ナニ か うたがわしそう に ボクラ の カオ を みくらべながら、 こんな こと さえ いいだす の です。
「ボク は けっして ムセイフ シュギシャ では ない よ。 それ だけ は きっと わすれず に いて くれたまえ。 ――では さようなら。 チャック など は マッピラ ゴメン だ」
 ボクラ は ぼんやり たたずんだ まま、 トック の ウシロスガタ を みおくって いました。 ボクラ は―― いや、 「ボクラ」 では ありません。 ガクセイ の ラップ は いつのまにか オウライ の マンナカ に アシ を ひろげ、 しっきりない ジドウシャ や ヒトドオリ を マタメガネ に のぞいて いる の です。 ボク は この カッパ も ハッキョウ した か と おもい、 おどろいて ラップ を ひきおこしました。
「ジョウダン じゃ ない。 ナニ を して いる?」
 しかし ラップ は メ を こすりながら、 イガイ にも おちついて ヘンジ を しました。
「いえ、 あまり ユウウツ です から、 サカサマ に ヨノナカ を ながめて みた の です。 けれども やはり おなじ こと です ね」

 11

 これ は テツガクシャ の マッグ の かいた 「アホウ の コトバ」 の ナカ の ナンショウ か です。――
     ×
 アホウ は いつも カレ イガイ の モノ を アホウ で ある と しんじて いる。
     ×
 ワレワレ の シゼン を あいする の は シゼン は ワレワレ を にくんだり シット したり しない ため も ない こと は ない。
     ×
 もっとも かしこい セイカツ は イチジダイ の シュウカン を ケイベツ しながら、 しかも その また シュウカン を すこしも やぶらない よう に くらす こと で ある。
     ×
 ワレワレ の もっとも ほこりたい もの は ワレワレ の もって いない もの だけ で ある。
     ×
 ナンビト も グウゾウ を ハカイ する こと に イゾン を もって いる モノ は ない。 ドウジ に また ナンビト も グウゾウ に なる こと に イゾン を もって いる モノ は ない。 しかし グウゾウ の ダイザ の ウエ に やすんじて すわって いられる モノ は もっとも カミガミ に めぐまれた モノ、 ――アホウ か、 アクニン か、 エイユウ か で ある。 (クラバック は この ショウ の ウエ へ ツメ の アト を つけて いました。)
     ×
 ワレワレ の セイカツ に ヒツヨウ な シソウ は 3000 ネン-ゼン に つきた かも しれない。 ワレワレ は ただ ふるい タキギ に あたらしい ホノオ を くわえる だけ で あろう。
     ×
 ワレワレ の トクショク は ワレワレ ジシン の イシキ を チョウエツ する の を ツネ と して いる。
     ×
 コウフク は クツウ を ともない、 ヘイワ は ケンタイ を ともなう と すれば、――?
     ×
 ジコ を ベンゴ する こと は タニン を ベンゴ する こと より も コンナン で ある。 うたがう モノ は ベンゴシ を みよ。
     ×
 キョウカ、 アイヨク、 ギワク―― あらゆる ツミ は 3000 ネン-ライ、 この 3 シャ から はっして いる。 ドウジ に また おそらくは あらゆる トク も。
     ×
 ブッシツテキ ヨクボウ を げんずる こと は かならずしも ヘイワ を もたらさない。 ワレワレ は ヘイワ を うる ため には セイシンテキ ヨクボウ も げんじなければ ならぬ。 (クラバック は この ショウ の ウエ にも ツメ の アト を のこして いました。)
     ×
 ワレワレ は ニンゲン より も フコウ で ある。 ニンゲン は カッパ ほど シンカ して いない。 (ボク は この ショウ を よんだ とき おもわず わらって しまいました。)
     ×
 なす こと は なしうる こと で あり、 なしうる こと は なす こと で ある。 ひっきょう ワレワレ の セイカツ は こういう ジュンカン ロンポウ を だっする こと は できない。 ――すなわち フゴウリ に シュウシ して いる。
     ×
 ボードレール は ハクチ に なった ノチ、 カレ の ジンセイカン を たった イチゴ に、 ――ジョイン の イチゴ に ヒョウハク した。 しかし カレ ジシン を かたる もの は かならずしも こう いった こと では ない。 むしろ カレ の テンサイ に、 ――カレ の セイカツ を イジ する に たる シテキ テンサイ に シンライ した ため に イブクロ の イチゴ を わすれた こと で ある。 (この ショウ にも やはり クラバック の ツメ の アト は のこって いました。)
     ×
 もし リセイ に シュウシ する と すれば、 ワレワレ は とうぜん ワレワレ ジシン の ソンザイ を ヒテイ しなければ ならぬ。 リセイ を カミ に した ヴォルテール の コウフク に イッショウ を おわった の は すなわち ニンゲン の カッパ より も シンカ して いない こと を しめす もの で ある。
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