カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カッパ 3

2017-06-05 | アクタガワ リュウノスケ
 12

 ある わりあい に さむい ゴゴ です。 ボク は 「アホウ の コトバ」 を よみあきました から、 テツガクシャ の マッグ を たずね に でかけました。 すると ある さびしい マチ の カド に カ の よう に やせた カッパ が 1 ピキ、 ぼんやり カベ に よりかかって いました。 しかも それ は マギレ も ない、 いつか ボク の マンネンヒツ を ぬすんで いった カッパ なの です。 ボク は しめた と おもいました から、 ちょうど そこ へ とおりかかった、 たくましい ジュンサ を よびとめました。
「ちょっと あの カッパ を とりしらべて ください。 あの カッパ は ちょうど ヒトツキ ばかり マエ に ワタシ の マンネンヒツ を ぬすんだ の です から」
 ジュンサ は ミギテ の ボウ を あげ、 (この クニ の ジュンサ は ケン の カワリ に イチイ の ボウ を もって いる の です。) 「おい、 キミ」 と その カッパ へ コエ を かけました。 ボク は あるいは その カッパ は にげだし は しない か と おもって いました。 が、 ぞんがい おちつきはらって ジュンサ の マエ へ あゆみよりました。 のみならず ウデ を くんだ まま、 いかにも ごうぜん と ボク の カオ や ジュンサ の カオ を じろじろ みて いる の です。 しかし ジュンサ は おこり も せず、 ハラ の フクロ から テチョウ を だして さっそく ジンモン に とりかかりました。
「オマエ の ナ は?」
「グルック」
「ショクギョウ は?」
「つい 2~3 ニチ マエ まで は ユウビン ハイタツフ を して いました」
「よろしい。 そこで この ヒト の モウシタテ に よれば、 キミ は この ヒト の マンネンヒツ を ぬすんで いった と いう こと だ がね」
「ええ、 ヒトツキ ばかり マエ に ぬすみました」
「なんの ため に?」
「コドモ の オモチャ に しよう と おもった の です」
「その コドモ は?」
 ジュンサ は はじめて アイテ の カッパ へ するどい メ を そそぎました。
「1 シュウカン マエ に しんで しまいました」
「シボウ ショウメイショ を もって いる かね?」
 やせた カッパ は ハラ の フクロ から 1 マイ の カミ を とりだしました。 ジュンサ は その カミ へ メ を とおす と、 キュウ に にやにや わらいながら、 アイテ の カタ を たたきました。
「よろしい。 どうも ゴクロウ だった ね」
 ボク は アッケ に とられた まま、 ジュンサ の カオ を ながめて いました。 しかも その うち に やせた カッパ は ナニ か ぶつぶつ つぶやきながら、 ボクラ を ウシロ に して いって しまう の です。 ボク は やっと キ を とりなおし、 こう ジュンサ に たずねて みました。
「どうして あの カッパ を つかまえない の です?」
「あの カッパ は ムザイ です よ」
「しかし ボク の マンネンヒツ を ぬすんだ の は……」
「コドモ の オモチャ に する ため だった の でしょう。 けれども その コドモ は しんで いる の です。 もし ナニ か ゴフシン だったら、 ケイホウ 1285 ジョウ を おしらべなさい」
 ジュンサ は こう いいすてた なり、 さっさと どこ か へ いって しまいました。 ボク は シカタ が ありません から、 「ケイホウ 1285 ジョウ」 を クチ の ナカ に くりかえし、 マッグ の ウチ へ いそいで ゆきました。 テツガクシャ の マッグ は キャクズキ です。 げんに キョウ も うすぐらい ヘヤ には サイバンカン の ペップ や イシャ の チャック や ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル など が あつまり、 ナナイロ の イロガラス の ランターン の シタ に タバコ の ケムリ を たちのぼらせて いました。 そこ に サイバンカン の ペップ が きて いた の は ナニ より も ボク には コウツゴウ です。 ボク は イス に かける が はやい か、 ケイホウ ダイ 1285 ジョウ を しらべる カワリ に さっそく ペップ へ といかけました。
「ペップ クン、 はなはだ シツレイ です が、 この クニ では ザイニン を ばっしない の です か?」
 ペップ は キングチ の タバコ の ケムリ を まず ゆうゆう と ふきあげて から、 いかにも つまらなそう に ヘンジ を しました。
「ばっします とも。 シケイ さえ おこなわれる くらい です から ね」
「しかし ボク は ヒトツキ ばかり マエ に、……」
 ボク は イサイ を はなした ノチ、 レイ の ケイホウ 1285 ジョウ の こと を たずねて みました。
「ふむ、 それ は こういう の です。 ―― 『いかなる ハンザイ を おこないたり と いえど も、 ガイ-ハンザイ を おこなわしめたる ジジョウ の ショウシツ したる ノチ は ガイ-ハンザイシャ を ショバツ する こと を えず』 つまり アナタ の バアイ で いえば、 その カッパ は かつて は オヤ だった の です が、 イマ は もう オヤ では ありません から、 ハンザイ も しぜん と ショウメツ する の です」
「それ は どうも フゴウリ です ね」
「ジョウダン を いって は いけません。 オヤ だった カッパ も オヤ で ある カッパ も ドウイツ に みる の こそ フゴウリ です。 そうそう、 ニホン の ホウリツ では ドウイツ に みる こと に なって いる の です ね。 それ は どうも ワレワレ には コッケイ です。 ふふふふふふふふふふ」
 ペップ は マキタバコ を ほうりだしながら、 キ の ない ウスワライ を もらして いました。 そこ へ クチ を だした の は ホウリツ には エン の とおい チャック です。 チャック は ちょっと ハナメガネ を なおし、 こう ボク に シツモン しました。
「ニホン にも シケイ は あります か?」
「あります とも。 ニホン では コウザイ です」
 ボク は れいぜん と かまえこんだ ペップ に たしょう ハンカン を かんじて いました から、 この キカイ に ヒニク を あびせて やりました。
「この クニ の シケイ は ニホン より も ブンメイテキ に できて いる でしょう ね?」
「それ は もちろん ブンメイテキ です」
 ペップ は やはり おちついて いました。
「この クニ では コウザイ など は もちいません。 まれ には デンキ を もちいる こと も あります。 しかし タイテイ は デンキ も もちいません。 ただ その ハンザイ の ナ を いって きかせる だけ です」
「それ だけ で カッパ は しぬ の です か?」
「しにます とも。 ワレワレ カッパ の シンケイ サヨウ は アナタガタ の より も ビミョウ です から ね」
「それ は シケイ ばかり では ありません。 サツジン にも その テ を つかう の が あります――」
 シャチョウ の ゲエル は イロガラス の ヒカリ に カオジュウ ムラサキ に そまりながら、 ひとなつこい エガオ を して みせました。
「ワタシ は コノアイダ も ある シャカイ シュギシャ に 『キサマ は ヌスビト だ』 と いわれた ため に シンゾウ マヒ を おこしかかった もの です」
「それ は あんがい おおい よう です ね。 ワタシ の しって いた ある ベンゴシ など は やはり その ため に しんで しまった の です から ね」
 ボク は こう クチ を いれた カッパ、 ――テツガクシャ の マッグ を ふりかえりました。 マッグ は やはり イツモ の よう に ヒニク な ビショウ を うかべた まま、 ダレ の カオ も みず に しゃべって いる の です。
「その カッパ は ダレ か に カエル だ と いわれ、 ――もちろん アナタ も ゴショウチ でしょう、 この クニ で カエル だ と いわれる の は ニンピニン と いう イミ に なる こと ぐらい は。 ――オレ は カエル かな? カエル では ない かな? と マイニチ かんがえて いる うち に とうとう しんで しまった もの です」
「それ は つまり ジサツ です ね」
「もっとも その カッパ を カエル だ と いった ヤツ は ころす つもり で いった の です がね。 アナタガタ の メ から みれば、 やはり それ も ジサツ と いう……」
 ちょうど マッグ が こう いった とき です。 とつぜん その ヘヤ の カベ の ムコウ に、 ――たしか に シジン の トック の イエ に するどい ピストル の オト が 1 パツ、 クウキ を はねかえす よう に ひびきわたりました。

 13

 ボクラ は トック の イエ へ かけつけました。 トック は ミギ の テ に ピストル を にぎり、 アタマ の サラ から チ を だした まま、 コウザン ショクブツ の ハチウエ の ナカ に アオムケ に なって たおれて いました。 その また ソバ には メス の カッパ が 1 ピキ、 トック の ムネ に カオ を うずめ、 オオゴエ を あげて ないて いました。 ボク は メス の カッパ を だきおこしながら、 (いったい ボク は ぬらぬら する カッパ の ヒフ に テ を ふれる こと を あまり このんで は いない の です が。) 「どうした の です?」 と たずねました。
「どうした の だ か、 わかりません。 ただ ナニ か かいて いた と おもう と、 いきなり ピストル で アタマ を うった の です。 ああ、 ワタシ は どう しましょう? qur-r-r-r-r, qur-r-r-r-r」 (これ は カッパ の ナキゴエ です。)
「なにしろ トック クン は ワガママ だった から ね」
 ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル は かなしそう に アタマ を ふりながら、 サイバンカン の ペップ に こう いいました。 しかし ペップ は なにも いわず に キングチ の マキタバコ に ヒ を つけて いました。 すると イマ まで ひざまずいて、 トック の キズグチ など を しらべて いた チャック は いかにも イシャ-らしい タイド を した まま、 ボクラ 5 ニン に センゲン しました。 (じつは ヒトリ と 4 ヒキ と です。)
「もう ダメ です。 トック クン は がんらい イビョウ でした から、 それ だけ でも ユウウツ に なりやすかった の です」
「ナニ か かいて いた と いう こと です が」
 テツガクシャ の マッグ は ベンカイ する よう に こう ヒトリゴト を もらしながら、 ツクエ の ウエ の カミ を とりあげました。 ボクラ は ミナ クビ を のばし、 (もっとも ボク だけ は レイガイ です。) ハバ の ひろい マッグ の カタゴシ に 1 マイ の カミ を のぞきこみました。
 「いざ、 たちて ゆかん。 シャバカイ を へだつる タニ へ。
  イワムラ は こごしく、 ヤマミズ は きよく、
  ヤクソウ の ハナ は におえる タニ へ」
 マッグ は ボクラ を ふりかえりながら、 ビクショウ と イッショ に こう いいました。
「これ は ゲーテ の 『ミニヨン の ウタ』 の ヒョウセツ です よ。 すると トック クン の ジサツ した の は シジン と して も つかれて いた の です ね」
 そこ へ ぐうぜん ジドウシャ を のりつけた の は あの オンガクカ の クラバック です。 クラバック は こういう コウケイ を みる と、 しばらく トグチ に たたずんで いました。 が、 ボクラ の マエ へ あゆみよる と、 どなりつける よう に マッグ に はなしかけました。
「それ は トック の ユイゴンジョウ です か?」
「いや、 サイゴ に かいて いた シ です」
「シ?」
 やはり すこしも さわがない マッグ は カミ を さかだてた クラバック に トック の シコウ を わたしました。 クラバック は アタリ には メ も やらず に ネッシン に その シコウ を よみだしました。 しかも マッグ の コトバ には ほとんど ヘンジ さえ しない の です。
「アナタ は トック クン の シ を どう おもいます か?」
「いざ、 たちて、 ……ボク も また いつ しぬ か わかりません。 ……シャバカイ を へだつる タニ へ。……」
「しかし アナタ は トック クン とは やはり シンユウ の ヒトリ だった の でしょう?」
「シンユウ? トック は いつも コドク だった の です。 ……シャバカイ を へだつる タニ へ、 ……ただ トック は フコウ にも、 ……イワムラ は こごしく……」
「フコウ にも?」
「ヤマミズ は きよく、 ……アナタガタ は コウフク です。 ……イワムラ は こごしく。……」
 ボク は いまだに ナキゴエ を たたない メス の カッパ に ドウジョウ しました から、 そっと カタ を かかえる よう に し、 ヘヤ の スミ の ナガイス へ つれて ゆきました。 そこ には 2 サイ か 3 サイ か の カッパ が 1 ピキ、 なにも しらず に わらって いる の です。 ボク は メス の カッパ の カワリ に コドモ の カッパ を あやして やりました。 すると いつか ボク の メ にも ナミダ の たまる の を かんじました。 ボク が カッパ の クニ に すんで いる うち に ナミダ と いう もの を こぼした の は マエ にも アト にも この とき だけ です。
「しかし こういう ワガママ な カッパ と イッショ に なった カゾク は キノドク です ね」
「なにしろ アト の こと も かんがえない の です から」
 サイバンカン の ペップ は あいかわらず、 あたらしい マキタバコ に ヒ を つけながら、 シホンカ の ゲエル に ヘンジ を して いました。 すると ボクラ を おどろかせた の は オンガクカ の クラバック の オオゴエ です。 クラバック は シコウ を にぎった まま、 ダレ に とも なし に よびかけました。
「しめた! すばらしい ソウソウキョク が できる ぞ」
 クラバック は ほそい メ を かがやかせた まま、 ちょっと マッグ の テ を にぎる と、 いきなり トグチ へ とんで ゆきました。 もちろん もう この とき には トナリキンジョ の カッパ が オオゼイ、 トック の イエ の トグチ に あつまり、 めずらしそう に イエ の ナカ を のぞいて いる の です。 しかし クラバック は この カッパ たち を しゃにむに サユウ へ おしのける が はやい か、 ひらり と ジドウシャ へ とびのりました。 ドウジ に また ジドウシャ は バクオン を たてて たちまち どこ か へ いって しまいました。
「こら、 こら、 そう のぞいて は いかん」
 サイバンカン の ペップ は ジュンサ の カワリ に オオゼイ の カッパ を おしだした ノチ、 トック の イエ の ト を しめて しまいました。 ヘヤ の ナカ は その せい か キュウ に ひっそり なった もの です。 ボクラ は こういう シズカサ の ナカ に、 ――コウザン ショクブツ の ハナ の カ に まじった トック の チ の ニオイ の ナカ に アトシマツ の こと など を ソウダン しました。 しかし あの テツガクシャ の マッグ だけ は トック の シガイ を ながめた まま、 ぼんやり ナニ か かんがえて います。 ボク は マッグ の カタ を たたき、 「ナニ を かんがえて いる の です?」 と たずねました。
「カッパ の セイカツ と いう もの を ね」
「カッパ の セイカツ が どう なる の です?」
「ワレワレ カッパ は なんと いって も、 カッパ の セイカツ を まっとうする ため には、……」
 マッグ は たしょう はずかしそう に こう コゴエ で つけくわえました。
「とにかく ワレワレ カッパ イガイ の ナニモノ か の チカラ を しんずる こと です ね」

 14

 ボク に シュウキョウ と いう もの を おもいださせた の は こういう マッグ の コトバ です。 ボク は もちろん ブッシツ シュギシャ です から、 マジメ に シュウキョウ を かんがえた こと は イチド も なかった の に チガイ ありません。 が、 この とき は トック の シ に ある カンドウ を うけて いた ため に いったい カッパ の シュウキョウ は ナン で ある か と かんがえだした の です。 ボク は さっそく ガクセイ の ラップ に この モンダイ を たずねて みました。
「それ は キリスト-キョウ、 ブッキョウ、 モハメット-キョウ、 ハイカキョウ など も おこなわれて います。 まず いちばん セイリョク の ある もの は なんと いって も キンダイキョウ でしょう。 セイカツキョウ とも いいます がね」 (「セイカツキョウ」 と いう ヤクゴ は あたって いない かも しれません。 この ゲンゴ は Quemoocha です。 Cha は イギリス-ゴ の ism と いう イミ に あたる でしょう。 Quemoo の ゲンケイ quemal の ヤク は たんに 「いきる」 と いう より も 「メシ を くったり、 サケ を のんだり、 コウゴウ を おこなったり」 する イミ です。)
「じゃ この クニ にも キョウカイ だの ジイン だの は ある わけ なの だね?」
「ジョウダン を いって は いけません。 キンダイキョウ の ダイジイン など は この クニ ダイイチ の ダイケンチク です よ。 どう です、 ちょっと ケンブツ に いって は?」
 ある なまあたたかい ドンテン の ゴゴ、 ラップ は とくとく と ボク と イッショ に この ダイジイン へ でかけました。 なるほど それ は ニコライ ドウ の 10 バイ も ある ダイケンチク です。 のみならず あらゆる ケンチク ヨウシキ を ヒトツ に くみあげた ダイケンチク です。 ボク は この ダイジイン の マエ に たち、 たかい トウ や マルヤネ を ながめた とき、 ナニ か ブキミ に さえ かんじました。 じっさい それら は テン に むかって のびた ムスウ の ショクシュ の よう に みえた もの です。 ボクラ は ゲンカン の マエ に たたずんだ まま、 (その また ゲンカン に くらべて みて も、 どの くらい ボクラ は ちいさかった の でしょう!) しばらく この ケンチク より も むしろ トホウ も ない カイブツ に ちかい キダイ の ダイジイン を みあげて いました。
 ダイジイン の ナイブ も また コウダイ です。 その コリント-フウ の エンチュウ の たった ナカ には サンケイニン が ナンニン も あるいて いました。 しかし それら は ボクラ の よう に ヒジョウ に ちいさく みえた もの です。 その うち に ボクラ は コシ の まがった 1 ピキ の カッパ に であいました。 すると ラップ は この カッパ に ちょっと アタマ を さげた うえ、 テイネイ に こう はなしかけました。
「チョウロウ、 ゴタッシャ なの は ナニ より も です」
 アイテ の カッパ も オジギ を した ノチ、 やはり テイネイ に ヘンジ を しました。
「これ は ラップ さん です か? アナタ も あいかわらず、 ―― (と いいかけながら、 ちょっと コトバ を つがなかった の は ラップ の クチバシ の くさって いる の に やっと キ が ついた ため だった でしょう。) ――ああ、 とにかく ゴジョウブ らしい よう です ね。 が、 キョウ は どうして また……」
「キョウ は この カタ の オトモ を して きた の です。 この カタ は たぶん ゴショウチ の とおり、――」
 それから ラップ は とうとう と ボク の こと を はなしました。 どうも また それ は この ダイジイン へ ラップ が めった に こない こと の ベンカイ にも なって いた らしい の です。
「ついては どうか この カタ の ゴアンナイ を ねがいたい と おもう の です が」
 チョウロウ は おおよう に ビショウ しながら、 まず ボク に アイサツ を し、 しずか に ショウメン の サイダン を ゆびさしました。
「ゴアンナイ と もうして も、 なにも オヤク に たつ こと は できません。 ワレワレ シント の ライハイ する の は ショウメン の サイダン に ある 『セイメイ の キ』 です。 『セイメイ の キ』 には ゴラン の とおり、 キン と ミドリ との ミ が なって います。 あの キン の ミ を 『ゼン の ミ』 と いい、 あの ミドリ の ミ を 『アク の ミ』 と いいます。……」
 ボク は こういう セツメイ の うち に もう タイクツ を かんじだしました。 それ は せっかく の チョウロウ の コトバ も ふるい ヒユ の よう に きこえた から です。 ボク は もちろん ネッシン に きいて いる ヨウス を よそおって いました。 が、 ときどき は ダイジイン の ナイブ へ そっと メ を やる の を わすれず に いました。
 コリント-フウ の ハシラ、 ゴシック-フウ の キュウリュウ、 アラビア-じみた イチマツ モヨウ の ユカ、 セセッション マガイ の キトウヅクエ、 ――こういう もの の つくって いる チョウワ は ミョウ に ヤバン な ビ を そなえて いました。 しかし ボク の メ を ひいた の は ナニ より も リョウガワ の ガン の ナカ に ある ダイリセキ の ハンシンゾウ です。 ボク は ナニ か それら の ゾウ を みしって いる よう に おもいました。 それ も また フシギ では ありません。 あの コシ の まがった カッパ は 「セイメイ の キ」 の セツメイ を おわる と、 コンド は ボク や ラップ と イッショ に ミギガワ の ガン の マエ へ あゆみより、 その ガン の ナカ の ハンシンゾウ に こういう セツメイ を くわえだしました。
「これ は ワレワレ の セイト の ヒトリ、 ――あらゆる もの に ハンギャク した セイト ストリントベリー です。 この セイト は さんざん くるしんだ アゲク、 スウェデンボルグ の テツガク の ため に すくわれた よう に いわれて います。 が、 じつは すくわれなかった の です。 この セイト は ただ ワレワレ の よう に セイカツキョウ を しんじて いました。 ――と いう より も しんじる ホカ は なかった の でしょう。 この セイト の ワレワレ に のこした 『デンセツ』 と いう ホン を よんで ごらんなさい。 この セイト も ジサツ ミスイシャ だった こと は セイト ジシン コクハク して います」
 ボク は ちょっと ユウウツ に なり、 ツギ の ガン へ メ を やりました。 ツギ の ガン に ある ハンシンゾウ は クチヒゲ の ふとい ドイツジン です。
「これ は ツァラトストラ の シジン ニーチェ です。 その セイト は セイト ジシン の つくった チョウジン に スクイ を もとめました。 が、 やはり すくわれず に キチガイ に なって しまった の です。 もし キチガイ に ならなかった と すれば、 あるいは セイト の カズ へ はいる こと も できなかった かも しれません。……」
 チョウロウ は ちょっと だまった ノチ、 ダイサン の ガン の マエ へ アンナイ しました。
「3 バンメ に ある の は トルストイ です。 この セイト は ダレ より も クギョウ を しました。 それ は がんらい キゾク だった ため に コウキシン の おおい コウシュウ に クルシミ を みせる こと を きらった から です。 この セイト は ジジツジョウ しんぜられない キリスト を しんじよう と ドリョク しました。 いや、 しんじて いる よう に さえ コウゲン した こと も あった の です。 しかし とうとう バンネン には ヒソウ な ウソツキ だった こと に たえられない よう に なりました。 この セイト も ときどき ショサイ の ハリ に キョウフ を かんじた の は ユウメイ です。 けれども セイト の カズ に はいって いる くらい です から、 もちろん ジサツ した の では ありません」
 ダイシ の ガン の ナカ の ハンシンゾウ は ワレワレ ニホンジン の ヒトリ です。 ボク は この ニホンジン の カオ を みた とき、 さすが に ナツカシサ を かんじました。
「これ は クニキダ ドッポ です。 レキシ する ニンソク の ココロモチ を はっきり しって いた シジン です。 しかし それ イジョウ の セツメイ は アナタ には フヒツヨウ に チガイ ありません。 では 5 バンメ の ガン の ナカ を ゴラン ください。――」
「これ は ワグネル では ありません か?」
「そう です。 コクオウ の トモダチ だった カクメイカ です。 セイト ワグネル は バンネン には ショクゼン の キトウ さえ して いました。 しかし もちろん キリスト-キョウ より も セイカツキョウ の シント の ヒトリ だった の です。 ワグネル の のこした テガミ に よれば、 シャバク は ナンド この セイト を シ の マエ に かりやった か わかりません」
 ボクラ は もう その とき には ダイロク の ガン の マエ に たって いました。
「これ は セイト ストリントベリー の トモダチ です。 コドモ の オオゼイ ある サイクン の カワリ に 13~14 の タイティ の オンナ を めとった ショウバイニン アガリ の フランス の ガカ です。 この セイト は ふとい ケッカン の ナカ に スイフ の チ を ながして いました。 が、 クチビル を ごらんなさい。 ヒソ か ナニ か の アト が のこって います。 ダイシチ の ガン の ナカ に ある の は…… もう アナタ は オツカレ でしょう。 では どうか こちら へ おいで ください」
 ボク は じっさい つかれて いました から、 ラップ と イッショ に チョウロウ に したがい、 コウ の ニオイ の する ロウカヅタイ に ある ヘヤ へ はいりました。 その また ちいさい ヘヤ の スミ には くろい ヴェヌス の ゾウ の シタ に ヤマブドウ が ヒトフサ けんじて ある の です。 ボク は なんの ソウショク も ない ソウボウ を ソウゾウ して いた だけ に ちょっと イガイ に かんじました。 すると チョウロウ は ボク の ヨウス に こういう キモチ を かんじた と みえ、 ボクラ に イス を すすめる マエ に なかば キノドク そう に セツメイ しました。
「どうか ワレワレ の シュウキョウ の セイカツキョウ で ある こと を わすれず に ください。 ワレワレ の カミ、 ―― 『セイメイ の キ』 の オシエ は 『オウセイ に いきよ』 と いう の です から。 ……ラップ さん、 アナタ は この カタ に ワレワレ の セイショ を ゴラン に いれました か?」
「いえ、 ……じつは ワタシ ジシン も ほとんど よんだ こと は ない の です」
 ラップ は アタマ の サラ を かきながら、 ショウジキ に こう ヘンジ を しました。 が、 チョウロウ は あいかわらず しずか に ビショウ して はなしつづけました。
「それでは おわかり なりますまい。 ワレワレ の カミ は イチニチ の うち に この セカイ を つくりました。 (『セイメイ の キ』 は キ と いう ものの、 なしあたわない こと は ない の です。) のみならず メス の カッパ を つくりました。 すると メス の カッパ は タイクツ の あまり、 オス の カッパ を もとめました。 ワレワレ の カミ は この ナゲキ を あわれみ、 メス の カッパ の ノウズイ を とり、 オス の カッパ を つくりました。 ワレワレ の カミ は この 2 ヒキ の カッパ に 『くえ よ、 コウゴウ せよ、 オウセイ に いきよ』 と いう シュクフク を あたえました。……」
 ボク は チョウロウ の コトバ の ウチ に シジン の トック を おもいだしました。 シジン の トック は フコウ にも ボク の よう に ムシンロンシャ です。 ボク は カッパ では ありません から、 セイカツキョウ を しらなかった の も ムリ は ありません。 けれども カッパ の クニ に うまれた トック は もちろん 「セイメイ の キ」 を しって いた はず です。 ボク は この オシエ に したがわなかった トック の サイゴ を あわれみました から、 チョウロウ の コトバ を さえぎる よう に トック の こと を はなしだしました。
「ああ、 あの キノドク な シジン です ね」
 チョウロウ は ボク の ハナシ を きき、 ふかい イキ を もらしました。
「ワレワレ の ウンメイ を さだめる もの は シンコウ と キョウグウ と グウゼン と だけ です。 (もっとも アナタガタ は その ホカ に イデン を おかぞえ なさる でしょう。) トック さん は フコウ にも シンコウ を おもち に ならなかった の です」
「トック は アナタ を うらやんで いた でしょう。 いや、 ボク も うらやんで います。 ラップ クン など は トシ も わかい し、……」
「ボク も クチバシ さえ ちゃんと して いれば あるいは ラクテンテキ だった かも しれません」
 チョウロウ は ボクラ に こう いわれる と、 もう イチド ふかい イキ を もらしました。 しかも その メ は なみだぐんだ まま、 じっと くろい ヴェヌス を みつめて いる の です。
「ワタシ も じつは、 ――これ は ワタシ の ヒミツ です から、 どうか ダレ にも おっしゃらず に ください。 ――ワタシ も じつは ワレワレ の カミ を しんずる わけ に いかない の です。 しかし いつか ワタシ の キトウ は、――」
 ちょうど チョウロウ の こう いった とき です。 とつぜん ヘヤ の ト が あいた と おもう と、 おおきい メス の カッパ が 1ピキ、 いきなり チョウロウ へ とびかかりました。 ボクラ が この メス の カッパ を だきとめよう と した の は もちろん です。 が、 メス の カッパ は トッサ の アイダ に ユカ の ウエ へ チョウロウ を なげたおしました。
「この オヤジ め! キョウ も また ワタシ の サイフ から イッパイ やる カネ を ぬすんで いった な!」
 10 プン ばかり たった ノチ、 ボクラ は じっさい にげださない ばかり に チョウロウ フウフ を アト に のこし、 ダイジイン の ゲンカン を おりて ゆきました。
「あれ では あの チョウロウ も 『セイメイ の キ』 を しんじない はず です ね」
 しばらく だまって あるいた ノチ、 ラップ は ボク に こう いいました。 が、 ボク は ヘンジ を する より も おもわず ダイジイン を ふりかえりました。 ダイジイン は どんより くもった ソラ に やはり たかい トウ や マルヤネ を ムスウ の ショクシュ の よう に のばして います。 ナニ か サバク の ソラ に みえる シンキロウ の ブキミサ を ただよわせた まま。……

 15

 それから かれこれ 1 シュウカン の ノチ、 ボク は ふと イシャ の チャック に めずらしい ハナシ を ききました。 と いう の は あの トック の ウチ に ユウレイ の でる と いう ハナシ なの です。 その コロ には もう メス の カッパ は どこ か ホカ へ いって しまい、 ボクラ の トモダチ の シジン の ウチ も シャシンシ の ステュディオ に かわって いました。 なんでも チャック の ハナシ に よれば、 この ステュディオ では シャシン を とる と、 トック の スガタ も いつのまにか かならず もうろう と キャク の ウシロ に うつって いる とか いう こと です。 もっとも チャック は ブッシツ シュギシャ です から、 シゴ の セイメイ など を しんじて いません。 げんに その ハナシ を した とき にも アクイ の ある ビショウ を うかべながら、 「やはり レイコン と いう もの も ブッシツテキ ソンザイ と みえます ね」 など と チュウシャク-めいた こと を つけくわえて いました。 ボク も ユウレイ を しんじない こと は チャック と あまり かわりません。 けれども シジン の トック には シタシミ を かんじて いました から、 さっそく ホンヤ の ミセ へ かけつけ、 トック の ユウレイ に かんする キジ や トック の ユウレイ の シャシン の でて いる シンブン や ザッシ を かって きました。 なるほど それら の シャシン を みる と、 どこ か トック らしい カッパ が 1 ピキ、 ロウニャク ナンニョ の カッパ の ウシロ に ぼんやり と スガタ を あらわして いました。 しかし ボク を おどろかせた の は トック の ユウレイ の シャシン より も トック の ユウレイ に かんする キジ、 ――ことに トック の ユウレイ に かんする シンレイガク キョウカイ の ホウコク です。 ボク は かなり チクゴテキ に その ホウコク を やくして おきました から、 シモ に タイリャク を かかげる こと に しましょう。 ただし カッコ の ナカ に ある の は ボク ジシン の くわえた チュウシャク なの です。――
 シジン トック クン の ユウレイ に かんする ホウコク。 (シンレイガク キョウカイ ザッシ ダイ 8274 ゴウ ショサイ)
 わが シンレイガク キョウカイ は センパン ジサツ したる シジン トック クン の キュウキョ に して ゲンザイ は ×× シャシンシ の ステュディオ なる □□-ガイ ダイ 251 ゴウ に リンジ チョウサカイ を カイサイ せり。 レッセキ せる カイイン は シモ の ごとし。 (シメイ を りゃくす。)
 ワレラ 17 メイ の カイイン は シンレイ キョウカイ カイチョウ ペック シ と ともに 9 ガツ 17 ニチ ゴゼン 10 ジ 30 プン、 ワレラ の もっとも シンライ する メディアム、 ホップ フジン を ドウハン し、 ガイ-ステュディオ の イッシツ に サンシュウ せり。 ホップ フジン は ガイ-ステュディオ に いる や、 すでに シンレイテキ クウキ を かんじ、 ゼンシン に ケイレン を もよおしつつ、 オウト する こと スウカイ に およべり。 フジン の かたる ところ に よれば、 こ は シジン トック クン の キョウレツ なる タバコ を あいしたる ケッカ、 その シンレイテキ クウキ も また ニコティン を ガンユウ する ため なり と いう。
 ワレラ カイイン は ホップ フジン と ともに エンタク を めぐりて モクザ したり。 フジン は 3 プン 25 ビョウ の ノチ、 きわめて キュウゲキ なる ムユウ ジョウタイ に おちいり、 かつ シジン トック クン の シンレイ の ヒョウイ する ところ と なれり。 ワレラ カイイン は ネンレイジュン に したがい、 フジン に ヒョウイ せる トック クン の シンレイ と サ の ごとき モンドウ を カイシ したり。
 トイ、 キミ は なにゆえに ユウレイ に いずる か?
 コタエ、 シゴ の メイセイ を しらん が ため なり。
 トイ、 キミ―― あるいは シンレイ ショクン は シゴ も なお メイセイ を ほっする や?
 コタエ、 すくなくとも ヨ は ほっせざる あたわず。 しかれども ヨ の カイコウ したる ニホン の イチ シジン の ごとき は シゴ の メイセイ を ケイベツ しいたり。
 トイ、 キミ は その シジン の セイメイ を しれり や?
 コタエ、 ヨ は フコウ にも わすれたり。 ただ カレ の このんで つくれる ジュウシチジシ の イッショウ を キオク する のみ。
 トイ、 その シ は いかん?
 コタエ、 「フルイケ や カワズ とびこむ ミズ の オト」
 トイ、 キミ は その シ を カサク なり と なす や?
 コタエ、 ヨ は かならずしも アクサク なり と なさず。 ただ 「カワズ」 を 「カッパ」 と せん か、 さらに コウサイ りくり たる べし。
 トイ、 しからば その リユウ は いかん?
 コタエ、 ワレラ カッパ は いかなる ゲイジュツ にも カッパ を もとむる こと ツウセツ なれば なり。
 カイチョウ ペック シ は この とき に あたり、 ワレラ 17 メイ の カイイン に こ は シンレイガク キョウカイ の リンジ チョウサカイ に して ガッピョウカイ に あらざる を チュウイ したり。
 トイ、 シンレイ ショクン の セイカツ は いかん?
 コタエ、 ショクン の セイカツ と ことなる こと なし。
 トイ、 しからば キミ は キミ ジシン の ジサツ せし を コウカイ する や?
 コタエ、 かならずしも コウカイ せず。 ヨ は シンレイテキ セイカツ に うまば、 さらに ピストル を とりて ジカツ す べし。
 トイ、 ジカツ する は ヨウイ なり や いなや?
 トック クン の シンレイ は この トイ に こたうる に さらに トイ を もって したり。 こ は トック クン を しれる モノ には すこぶる シゼン なる オウシュウ なる べし。
 コタエ、 ジサツ する は ヨウイ なり や いなや?
 トイ、 ショクン の セイメイ は エイエン なり や?
 コタエ、 ワレラ の セイメイ に かんして は ショセツ ふんぷん と して しんず べからず。 サイワイ に ワレラ の アイダ にも キリスト-キョウ、 ブッキョウ、 モハメット-キョウ、 ハイカキョウ-トウ の ショシュウ ある こと を わするる なかれ。
 トイ、 キミ ジシン の しんずる ところ は?
 コタエ、 ヨ は つねに カイギ シュギシャ なり。
 トイ、 しかれども キミ は すくなくとも シンレイ の ソンザイ を うたがわざる べし?
 コタエ、 ショクン の ごとく カクシン する あたわず。
 トイ、 キミ の コウユウ の タショウ は いかん?
 コタエ、 ヨ の コウユウ は ココン トウザイ に わたり、 300 ニン を くだらざる べし。 その チョメイ なる モノ を あぐれば、 クライスト、 マインレンデル、 ワイニンゲル……
 トイ、 キミ の コウユウ は ジサツシャ のみ なり や?
 コタエ、 かならずしも しかり と せず。 ジサツ を ベンゴ せる モンテーニュ の ごとき は ヨ が イユウ の 1 ニン なり。 ただ ヨ は ジサツ せざりし エンセイ シュギシャ、 ――ショーペンハウエル の ハイ とは コウサイ せず。
 トイ、 ショーペンハウエル は ケンザイ なり や?
 コタエ、 カレ は モッカ シンレイテキ エンセイ シュギ を ジュリツ し、 ジカツ する カヒ を ろんじつつ あり。 しかれども コレラ も バイキンビョウ なりし を しり、 すこぶる アンド せる もの の ごとし。
 ワレラ カイイン は あいついで ナポレオン、 コウシ、 ドストエフスキー、 ダーウィン、 クレオパトラ、 シャカ、 デモステネス、 ダンテ、 セン ノ リキュウ-トウ の シンレイ の ショウソク を シツモン したり。 しかれども トック クン は フコウ にも ショウサイ に こたうる こと を なさず、 かえって トック クン ジシン に かんする シュジュ の ゴシップ を シツモン したり。
 トイ、 ヨ の シゴ の メイセイ は いかん?
 コタエ、 ある ヒヒョウカ は 「グンショウ シジン の ヒトリ」 と いえり。
 トイ、 カレ は ヨ が シシュウ を おくらざりし に エンコン を ふくめる ヒトリ なる べし。 ヨ の ゼンシュウ は シュッパン せられし や?
 コタエ、 キミ の ゼンシュウ は シュッパン せられたれど も、 ウレユキ はなはだ ふるわざる が ごとし。
 トイ、 ヨ の ゼンシュウ は 300 ネン の ノチ、 ――すなわち チョサクケン の うしなわれたる ノチ、 バンジン の あがなう ところ と なる べし。 ヨ の ドウセイ せる オンナ トモダチ は いかん?
 コタエ、 カノジョ は ショシ ラック クン の フジン と なれり。
 トイ、 カノジョ は いまだ フコウ にも ラック の ギガン なる を しらざる なる べし。 ヨ が コ は いかん?
 コタエ、 コクリツ コジイン に あり と きけり。
 トック クン は しばらく チンモク せる ノチ、 あらた に シツモン を カイシ したり。
 トイ、 ヨ が イエ は いかん?
 コタエ、 ボウ-シャシンシ の ステュディオ と なれり。
 トイ、 ヨ の ツクエ は いかに なれる か?
 コタエ、 いかなれる か を しる モノ なし。
 トイ、 ヨ は ヨ の ツクエ の ヒキダシ に ヨ の ヒゾウ せる ヒトタバ の テガミ を―― しかれども こ は サイワイ にも タボウ なる ショクン の かんする ところ に あらず。 いまや わが シンレイカイ は おもむろに ハクボ に しずまん と す。 ヨ は ショクン と ケツベツ す べし。 さらば。 ショクン。 さらば。 わが ゼンリョウ なる ショクン。
 ホップ フジン は サイゴ の コトバ と ともに ふたたび キュウゲキ に カクセイ したり。 ワレラ 17 メイ の カイイン は この モンドウ の シン なりし こと を ジョウテン の カミ に ちかって ホショウ せん と す。 (なおまた ワレラ の シンライ する ホップ フジン に たいする ホウシュウ は かつて フジン が ジョユウ たりし とき の ニットウ に したがいて シベン したり。)

 16

 ボク は こういう キジ を よんだ ノチ、 だんだん この クニ に いる こと も ユウウツ に なって きました から、 どうか ワレワレ ニンゲン の クニ へ かえる こと に したい と おもいました。 しかし いくら さがして あるいて も、 ボク の おちた アナ は みつかりません。 その うち に あの バッグ と いう リョウシ の カッパ の ハナシ には、 なんでも この クニ の マチハズレ に ある トシ を とった カッパ が 1 ピキ、 ホン を よんだり、 フエ を ふいたり、 しずか に くらして いる と いう こと です。 ボク は この カッパ に たずねて みれば、 あるいは この クニ を にげだす ミチ も わかり は しない か と おもいました から、 さっそく マチハズレ へ でかけて ゆきました。 しかし そこ へ いって みる と、 いかにも ちいさい イエ の ナカ に トシ を とった カッパ どころ か、 アタマ の サラ も かたまらない、 やっと 12~13 の カッパ が 1 ピキ、 ゆうゆう と フエ を ふいて いました。 ボク は もちろん まちがった イエ へ はいった では ない か と おもいました。 が、 ネン の ため に ナ を きいて みる と、 やはり バッグ の おしえて くれた トシヨリ の カッパ に ちがいない の です。
「しかし アナタ は コドモ の よう です が……」
「オマエサン は まだ しらない の かい? ワタシ は どういう ウンメイ か、 ハハオヤ の ハラ を でた とき には シラガアタマ を して いた の だよ。 それから だんだん トシ が わかく なり、 イマ では こんな コドモ に なった の だよ。 けれども トシ を カンジョウ すれば うまれる マエ を 60 と して も、 かれこれ 115~116 には なる かも しれない」
 ボク は ヘヤ の ナカ を みまわしました。 そこ には ボク の キ の せい か、 シッソ な イス や テーブル の アイダ に ナニ か きよらか な コウフク が ただよって いる よう に みえる の です。
「アナタ は どうも ホカ の カッパ より も シアワセ に くらして いる よう です ね?」
「さあ、 それ は そう かも しれない。 ワタシ は わかい とき は トシヨリ だった し、 トシ を とった とき は わかい モノ に なって いる。 したがって トシヨリ の よう に ヨク にも かわかず、 わかい モノ の よう に イロ にも おぼれない。 とにかく ワタシ の ショウガイ は たとい シアワセ では ない にも しろ、 やすらか だった の には チガイ あるまい」
「なるほど それ では やすらか でしょう」
「いや、 まだ それ だけ では やすらか には ならない。 ワタシ は カラダ も ジョウブ だった し、 イッショウ くう に こまらぬ くらい の ザイサン を もって いた の だよ。 しかし いちばん シアワセ だった の は やはり うまれて きた とき に トシヨリ だった こと だ と おもって いる」
 ボク は しばらく この カッパ と ジサツ した トック の ハナシ だの マイニチ イシャ に みて もらって いる ゲエル の ハナシ だの を して いました。 が、 なぜか トシ を とった カッパ は あまり ボク の ハナシ など に キョウミ の ない よう な カオ を して いました。
「では アナタ は ホカ の カッパ の よう に かくべつ いきて いる こと に シュウチャク を もって は いない の です ね?」
 トシ を とった カッパ は ボク の カオ を みながら、 しずか に こう ヘンジ を しました。
「ワタシ も ホカ の カッパ の よう に この クニ へ うまれて くる か どう か、 いちおう チチオヤ に たずねられて から ハハオヤ の タイナイ を はなれた の だよ」
「しかし ボク は ふとした ヒョウシ に、 この クニ へ ころげおちて しまった の です。 どうか ボク に この クニ から でて ゆかれる ミチ を おしえて ください」
「でて ゆかれる ミチ は ヒトツ しか ない」
「と いう の は?」
「それ は オマエサン の ここ へ きた ミチ だ」
 ボク は この コタエ を きいた とき に なぜか ミノケ が よだちました。
「その ミチ が あいにく みつからない の です」
 トシ を とった カッパ は みずみずしい メ に じっと ボク の カオ を みつめました。 それから やっと カラダ を おこし、 ヘヤ の スミ へ あゆみよる と、 テンジョウ から そこ に さがって いた 1 ポン の ツナ を ひきました。 すると イマ まで キ の つかなかった テンマド が ヒトツ ひらきました。 その また まるい テンマド の ソト には マツ や ヒノキ が エダ を はった ムコウ に オオゾラ が あおあお と はれわたって います。 いや、 おおきい ヤジリ に にた ヤリガタケ の ミネ も そびえて います。 ボク は ヒコウキ を みた コドモ の よう に じっさい とびあがって よろこびました。
「さあ、 あすこ から でて ゆく が いい」
 トシ を とった カッパ は こう いいながら、 サッキ の ツナ を ゆびさしました。 イマ まで ボク の ツナ と おもって いた の は じつは ツナバシゴ に できて いた の です。
「では あすこ から ださして もらいます」
「ただ ワタシ は まえもって いう がね。 でて いって コウカイ しない よう に」
「だいじょうぶ です。 ボク は コウカイ など は しません」
 ボク は こう ヘンジ を する が はやい か、 もう ツナバシゴ を よじのぼって いました。 トシ を とった カッパ の アタマ の サラ を はるか シタ に ながめながら。

 17

 ボク は カッパ の クニ から かえって きた ノチ、 しばらく は ワレワレ ニンゲン の ヒフ の ニオイ に ヘイコウ しました。 ワレワレ ニンゲン に くらべれば、 カッパ は じつに セイケツ な もの です。 のみならず ワレワレ ニンゲン の アタマ は カッパ ばかり みて いた ボク には いかにも キミ の わるい もの に みえました。 これ は あるいは アナタ には おわかり に ならない かも しれません。 しかし メ や クチ は ともかくも、 この ハナ と いう もの は ミョウ に おそろしい キ を おこさせる もの です。 ボク は もちろん できる だけ、 ダレ にも あわない サンダン を しました。 が、 ワレワレ ニンゲン にも いつか しだいに なれだした と みえ、 ハントシ ばかり たつ うち に どこ へ でも でる よう に なりました。 ただ それでも こまった こと は ナニ か ハナシ を して いる うち に うっかり カッパ の クニ の コトバ を クチ に だして しまう こと です。
「キミ は アシタ は ウチ に いる かね?」
「Qua」
「なんだって?」
「いや、 いる と いう こと だよ」
 だいたい こういう チョウシ だった もの です。
 しかし カッパ の クニ から かえって きた ノチ、 ちょうど 1 ネン ほど たった とき、 ボク は ある ジギョウ の シッパイ した ため に……
(S ハカセ は カレ が こう いった とき、 「その ハナシ は およしなさい」 と チュウイ を した。 なんでも ハカセ の ハナシ に よれば、 カレ は この ハナシ を する たび に カンゴニン の テ にも おえない くらい、 ランボウ に なる とか いう こと で ある。)
 では その ハナシ は やめましょう。 しかし ある ジギョウ の シッパイ した ため に ボク は また カッパ の クニ へ かえりたい と おもいだしました。 そう です。 「ゆきたい」 の では ありません。 「かえりたい」 と おもいだした の です。 カッパ の クニ は トウジ の ボク には コキョウ の よう に かんぜられました から。
 ボク は そっと ウチ を ぬけだし、 チュウオウ セン の キシャ へ のろう と しました。 そこ を あいにく ジュンサ に つかまり、 とうとう ビョウイン へ いれられた の です。 ボク は この ビョウイン へ はいった トウザ も カッパ の クニ の こと を おもいつづけました。 イシャ の チャック は どうして いる でしょう? テツガクシャ の マッグ も あいかわらず ナナイロ の イロガラス の ランターン の シタ に ナニ か かんがえて いる かも しれません。 ことに ボク の シンユウ だった、 クチバシ の くさった ガクセイ の ラップ は、 ――ある キョウ の よう に くもった ゴゴ です。 こんな ツイオク に ふけって いた ボク は おもわず コエ を あげよう と しました。 それ は いつのまに はいって きた か、 バッグ と いう リョウシ の カッパ が 1 ピキ、 ボク の マエ に たたずみながら、 ナンド も アタマ を さげて いた から です。 ボク は ココロ を とりなおした ノチ、 ――ないた か わらった か も おぼえて いません。 が、 とにかく ヒサシブリ に カッパ の クニ の コトバ を つかう こと に カンドウ して いた こと は たしか です。
「おい、 バッグ、 どうして きた?」
「へい、 オミマイ に あがった の です。 なんでも ゴビョウキ だ とか いう こと です から」
「どうして そんな こと を しって いる?」
「ラディオ の ニウス で しった の です」
 バッグ は トクイ そう に わらって いる の です。
「それにしても よく こられた ね?」
「なに、 ゾウサ は ありません。 トウキョウ の カワ や ホリワリ は カッパ には オウライ も ドウヨウ です から」
 ボク は カッパ も カエル の よう に スイリク リョウセイ の ドウブツ だった こと に いまさら の よう に キ が つきました。
「しかし この ヘン には カワ は ない がね」
「いえ、 こちら へ あがった の は スイドウ の テッカン を ぬけて きた の です。 それから ちょっと ショウカセン を あけて……」
「ショウカセン を あけて?」
「ダンナ は おわすれ なすった の です か? カッパ にも キカイヤ の いる と いう こと を」
 それから ボク は 2~3 ニチ ごと に イロイロ の カッパ の ホウモン を うけました。 ボク の ヤマイ は S ハカセ に よれば ソウハツセイ チホウショウ と いう こと です。 しかし あの イシャ の チャック は (これ は はなはだ アナタ にも シツレイ に あたる の に チガイ ありません。) ボク は ソウハツセイ チホウショウ カンジャ では ない、 ソウハツセイ チホウショウ カンジャ は S ハカセ を ハジメ、 アナタガタ ジシン だ と いって いました。 イシャ の チャック も くる くらい です から、 ガクセイ の ラップ や テツガクシャ の マッグ の ミマイ に きた こと は もちろん です。 が、 あの リョウシ の バッグ の ホカ に ヒルマ は ダレ も たずねて きません。 ことに 2~3 ビキ イッショ に くる の は ヨル、 ――それ も ツキ の ある ヨル です。 ボク は ユウベ も ツキアカリ の ナカ に ガラス-ガイシャ の シャチョウ の ゲエル や テツガクシャ の マッグ と ハナシ を しました。 のみならず オンガクカ の クラバック にも ヴァイオリン を 1 キョク ひいて もらいました。 そら、 ムコウ の ツクエ の ウエ に クロユリ の ハナタバ が のって いる でしょう? あれ も ユウベ クラバック が ミヤゲ に もって きて くれた もの です。……
(ボク は ウシロ を ふりかえって みた。 が、 もちろん ツクエ の ウエ には ハナタバ も なにも のって いなかった。)
 それから この ホン も テツガクシャ の マッグ が わざわざ もって きて くれた もの です。 ちょっと サイショ の シ を よんで ごらんなさい。 いや、 アナタ は カッパ の クニ の コトバ を ゴゾンジ に なる はず は ありません。 では カワリ に よんで みましょう。 これ は チカゴロ シュッパン に なった トック の ゼンシュウ の 1 サツ です。――
(カレ は ふるい デンワチョウ を ひろげ、 こういう シ を オオゴエ に よみはじめた。)

 ――ヤシ の ハナ や タケ の ナカ に
   ブッダ は とうに ねむって いる。

   ミチバタ に かれた イチジク と イッショ に
   キリスト も もう しんだ らしい。

   しかし ワレワレ は やすまなければ ならぬ
   たとい シバイ の ハイケイ の マエ にも。

  (その また ハイケイ の ウラ を みれば、 ツギハギ-だらけ の カンヴァス ばかり だ?)――

 けれども ボク は この シジン の よう に エンセイテキ では ありません。 カッパ たち の ときどき きて くれる カギリ は、 ――ああ、 この こと は わすれて いました。 アナタ は ボク の トモダチ だった サイバンカン の ペップ を おぼえて いる でしょう。 あの カッパ は ショク を うしなった ノチ、 ホントウ に ハッキョウ して しまいました。 なんでも イマ は カッパ の クニ の セイシン ビョウイン に いる と いう こと です。 ボク は S ハカセ さえ ショウチ して くれれば、 ミマイ に いって やりたい の です がね……。
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