カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ノギク の ハカ 3

2013-08-23 | イトウ サチオ
 10 ヨッカ は マツリ の ショニチ で ただ ものせわしく ヒ が くれた。 おたがいに キ の ない フウ は して いて も、 テ に せわしい シゴト の ある ばかり に、 とにかく おもいまぎらす こと が できた。
 15 ニチ と 16 ニチ とは、 ショクジ の ホカ ヨウジ も ない まま に、 ショシツ へ こもりとおして いた。 ぼんやり ツクエ に もたれた なり ナニ を する でも なく、 また フタリ の カンケイ を どう しよう か と いう よう な こと すら も かんがえて は いない。 ただ タミコ の こと が アタマ に みちて いる ばかり で、 きわめて タンジュン に タミコ を おもうて いる ホカ に カンガエ は はたらいて おらぬ。 この フツカ の アイダ に タミコ と 3~4 カイ は あった けれど、 ハナシ も できず ビショウ を コウカン する ゲンキ も なく、 うらさびしい ココロモチ を たがいに メ に うったうる のみ で あった。 フタリ の ココロモチ が いますこし ませて おった ならば、 この フツカ の アイダ にも ショウライ の こと など ずいぶん はなしあう こと が できた の で あろう けれど、 しぶとい ココロモチ など は ケ ほど も なかった フタリ には、 その バアイ に なかなか そんな こと は できなかった。 それでも ボク は 16 ニチ の ゴゴ に なって、 なんとはなし に イカ の よう な こと を マキガミ へ かいて、 ヒグレ に ちょっと きた タミコ に ボク が いなく なって から みて くれ と いって わたした。

 アサ から ここ へ はいった きり、 ナニ を する キ にも ならない。 ソト へ でる キ にも ならず、 ホン を よむ キ にも ならず、 ただ くりかえし くりかえし タミ さん の こと ばかり おもって いる。 タミ さん と イッショ に いれば カミサマ に だかれて クモ に でも のって いる よう だ。 ボク は どうして こんな に なった ん だろう。 ガクモン を せねば ならない ミ だ から、 ガッコウ へは ゆく けれど、 ココロ では タミ さん と はなれたく ない。 タミ さん は ジブン の トシ の おおい の を キ に して いる らしい が、 ボク は そんな こと は なんとも おもわない。 ボク は タミ さん の おもう とおり に なる つもり です から、 タミ さん も そう おもって いて ください。 アシタ は はやく たちます。 トウキ の ヤスミ には かえって きて タミ さん に あう の を タノシミ に して おります。
 10 ガツ 16 ニチ          マサオ
 タミコ サマ

 ガッコウ へ ゆく とは いえ、 ツミ が あって はやく やられる と いう キョウグウ で ある から、 ヒト の ワライゴエ ハナシゴエ にも いちいち ヒガミゴコロ が おきる。 みな フタリ に たいする チョウショウ か の よう に きかれる。 いっそ はやく ガッコウ へ いって しまいたく なった。 ケッシン が きまれば ゲンキ も カイフク して くる。 この ヨ は アタマ も すこしく さえて ユウメシ も ココロモチ よく たべた。 ガッコウ の こと なにくれ と なく ハハ と ハナシ を する。 やがて シン に ついて から も、
「ナン だ ばかばかしい、 15 か そこら の コゾウ の くせ に、 オンナ の こと など ばかり くよくよ かんがえて…… そう だ そう だ、 アシタ は さっそく ガッコウ へ ゆこう。 タミコ は かわいそう だ けれど…… もう かんがえまい、 かんがえたって シカタ が ない、 ガッコウ ガッコウ……」
 ヒトリグチ ききつつ ネムリ に いった よう な わけ で あった。

 フネ で カワ から イチカワ へ でる つもり だ から、 17 ニチ の アサ、 コサメ の ふる の に、 イッサイ の モチモノ を カバン ヒトツ に つめこみ タミコ と オマス に おくられて ヤギリ の ワタシ へ おりた。 ムラ の モノ の ニブネ に ビンジョウ する わけ で もう フネ は きて いる。 ボク は タミ さん それじゃ…… と いう つもり でも ノド が つまって コエ が でない。 タミコ は ボク に ツツミ を わたして から は、 ジブン の テ の ヤリバ に こまって ムネ を なでたり エリ を なでたり して、 シタ ばかり むいて いる。 メ に もつ ナミダ を オマス に みられまい と して、 カラダ を ワキ へ そらして いる。 タミコ が あわれ な スガタ を みて は ボク も ナミダ が おさえきれなかった。 タミコ は キョウ を ワカレ と おもって か、 カミ は さっぱり と した イチョウガエシ に うすく ケショウ を して いる。 ススイロ と コン の こまかい ベンケイジマ で、 ハオリ も ナガギ も おなじい ヨネザワ ツムギ に、 ヒン の よい ユウゼン チリメン の オビ を しめて いた。 タスキ を かけた タミコ も よかった けれど キョウ の タミコ は また いっそう ひきたって みえた。
 ボク の キ の せい で でも ある か、 タミコ は 13 ニチ の ヨ から は ヒトヒ ヒトヒ と やつれて きて、 この ヒ の イタイタシサ、 ボク は なかず には いられなかった。 ムシ が しらせる と でも いう の か、 これ が ショウガイ の ワカレ に なろう とは、 ボク は もちろん タミコ とて、 よもや そう は おもわなかったろう けれど、 この とき の ツラサ カナシサ は、 とても タニン に はなして も しんじて くれる モノ は ない と おもう くらい で あった。
 もっとも タミコ の オモイ は ボク より ふかかった に ソウイ ない。 ボク は チュウガッコウ を ソツギョウ する まで にも、 4~5 ネン アイダ の ある カラダ で ある のに、 タミコ は 17 で コトシ の うち にも エンダン の ハナシ が あって リョウシン から そう いわれれば、 ムゾウサ に こばむ こと の できない ミ で ある から、 ユクスエ の こと を いろいろ かんがえて みる と シンパイ の おおい わけ で ある。 トウジ の ボク は そこ まで は かんがえなかった けれど、 したしく メ に しみた タミコ の いたいたしい スガタ は イクネン たって も キノウ の こと の よう に メ に うかんで いる の で ある。
 ヨソ から みた ならば、 わかい うち に よく ある イタズラ の カッテ な ナキガオ と みぐるしく も あった で あろう けれど、 フタリ の ミ に とって は、 しんに あわれ に かなしき ワカレ で あった。 たがいに テ を とって コウライ を かたる こと も できず、 コサメ の しょぼしょぼ ふる ワタシバ に、 ナキ の ナミダ も ヒトメ を はばかり、 ヒトコト の コトバ も かわしえない で エイキュウ の ワカレ を して しまった の で ある。 ムジョウ の フネ は ナガレ を くだって はやく、 10 プン-カン と たたぬ うち に 5 チョウ と さがらぬ うち に、 オタガイ の スガタ は アメ の クモリ に へだてられて しまった。 モノ も いいえない で、 しょんぼり と しおれて いた フビン な タミ さん の オモカゲ、 どうして わすれる こと が できよう。 タミ さん を おもう ため に カミ の イカリ に ふれて ソクザ に うちころさるる よう な こと が ある とて も ボク には タミ さん を おもわず に いられない。 トシ を とって の ノチ の カンガエ から いえば、 ああ も したら こう も したら と おもわぬ こと も なかった けれど、 トウジ の わかい ドウシ の シリョ には なんら の クフウ も なかった の で ある。 ヤオヤ オシチ は イエ を やいたらば、 ふたたび おもう ヒト に あわれる こと と クフウ を した の で ある が、 ワレワレ フタリ は ツマド 1 マイ を しのんで あける ほど の チエ も でなかった。 それほど に ムジャキ な カレン な コイ で ありながら、 なお オヤ に おじ キョウダイ に はばかり、 タニン の マエ にて ナミダ も ふきえなかった の は いかに キ の よわい ドウシ で あったろう。

 ボク は ガッコウ へ いって から も、 とかく タミコ の こと ばかり おもわれて シカタ が ない。 ガッコウ に おって こんな こと を かんがえて どう する もの か など と、 ジブン で ジブン を しかりはげまして みて も なんの カイ も ない。 そういう コトバ の シリ から すぐ タミコ の こと が わいて くる。 オオク の ヒトナカ に いれば どうにか まぎれる ので、 ヒノウチ は なるたけ ヒトリ で いない よう に こころがけて いた。 ヨ に なって も ねる と シカタ が ない から、 なるたけ ヒトナカ で さわいで いて つかれて ねる クフウ を して いた。 そういう シマツ で ようやく トシ も くれ トウキ キュウギョウ に なった。
 ボク が 12 ガツ 25 ニチ の ゴゼン に かえって みる と、 ニワ イチメン に モミ を ほして あって、 ハハ は マエ の エンガワ に フトン を しいて ヒナタボッコ を して いた。 チカゴロ は よほど カラダ の グアイ も よい。 キョウ は アニフウフ と オトコ と オマス とは ヤマ へ クズ を はき に いった との ハナシ で ある。 ボク は タミ さん は と クチ の サキ まで でた けれど ついに いいきらなかった。 ハハ も いじわるく なんとも いわない。 ボク は カエリ そうそう タミコ の こと を とう の が いかにも きまりわるく、 そのまま レイ の ショシツ を かたづけて ここ に おちついた。 しかし ヒグレ まで には タミコ も かえって くる こと と おもいながら、 おろおろ して まって いる。 ミナ が かえって いよいよ ユウメシ と いう こと に なって も タミコ の スガタ は みえない、 タレ も また タミコ の こと を ヒトコト も いう モノ も ない。 ボク は もう タミコ は イチカワ へ かえった もの と さっして、 ヒト に とう の も いまいましい から、 ホカ の ハナシ も せず、 メシ が すむ と それなり ショシツ へ はいって しまった。
 キョウ は かならず タミコ に あわれる こと と ヒトカタ ならず タノシミ に して かえって きた のに、 この シマツ で なんとも いえず チカラ が おちて さびしかった。 さりとて タレ に この クモン を ハナシヨウ も なく、 タミコ の シャシン など を とりだして みて おった けれど、 ちっとも キ が はれない。 また あの ヤツ タミコ が いない から かんがえこんで いやがる と おもわれる も くちおしく、 ようやく ココロ を とりなおし、 ハハ の マクラモト へ いって ヨル おそく まで ガッコウ の ハナシ を して きかせた。
 あくる ヒ は 9 ジ-ゴロ に ようやく おきた。 ハハ は まだ ねて いる。 ダイドコロ へ でて みる と ホカ の モノ は ミナ また ヤマ へ いった とか で、 オマス が ヒトリ ダイドコロ カタヅケ に のこって いる。 ボク は カオ を あらった なり メシ も くわず に、 セド の ハタケ へ でて しまった。 この アキ、 タミコ と フタリ で ナス を とった ハタケ が イマ は あおあお と ナ が ほきて いる。 ボク は しばらく たって いずこ を ながめる とも なく、 タミコ の オモカゲ を ノウチュウ に えがきつつ オモイ に しずんで いる。
「マサオ さん、 ナニ を そんな に かんがえて いる の」
 オマス が だしぬけ に ウシロ から そ いって、 チカク へ よって きた。 ボク が ヨイカゲン な こと を ヒトコト フタコト いう と、 オマス は いきなり ボク の テ を とって、 もすこし こっち へ きて ここ へ コシ を かけなさい まあ と いいつつ、 ワラ を つんで ある ところ へ ジブン も コシ を かけて ボク にも かけさせた。
「マサオ さん…… オタミ さん は ホント に かわいそう でした よ。 ウチ の ネエサン たら ホント に イジマガリ です から ね。 なんと いう コンジョウ の わるい ヒト だ か、 ワタシ も はあ ここ の ウチ に いる の は いや に なって しまった。 キノウ マサオ さん が くる の は わかりきって いる のに、 ネエサン が いろんな こと を いって、 オトトイ オタミ さん を イチカワ へ かえした ん です よ。 まつ ヒト が ある だっぺ とか あいたい ヒト が まちどおかっぺ とか、 アテコスリ を いって オタミ さん を なかせたり して ね、 オカアサン にも なんでも イロイロ な こと を いった らしい、 とうとう オトトイ オヒルマエ に かえして しまった の でさ。 マサオ さん が オトトイ きたら あわれた ん です よ。 マサオ さん、 ワタシ は オタミ さん が かわいそう で かわいそう で ならない だよ。 なんだって アナタ が いなく なって から は まるで ナキ の ナミダ で ヒ を くらして いる ん だ もの、 マサオ さん に テガミ を やりたい けれど、 それ が よく ジブン には できない から くやしい と いって ね。 ワタシ の ヘヤ へ ミバン も スズリ と カミ を もって きて は ないて いました。 オタミ さん も ハジマリ は ワタシ にも かくして いた けれど、 ノチ には かくして いられなく なった のさ。 ワタシ も オタミ さん の ため に いくら ないた か しれない……」
 みれば オマス は もう ぽろぽろ ナミダ を こぼして いる。 いったい オマス は ごく ヒト の よい シンセツ な オンナ で、 ボク と タミコ が メノマエ で ナカ よい フウ を する と、 シットシン を おこす けれど、 もとより シュウネン-ぶかい ショウ で ない から、 タミコ が ヒトリ に なれば タミコ と ナカ が よく、 ボク が ヒトリ に なれば ボク を オオサワギ する の で ある。
 それから なお オマス は、 ボク が いない アト で タミコ が ヒジョウ に ハハ に しかられた こと など を はなした。 それ は ガイリャク こう で ある。 イジワル の アニヨメ が ナニ を いうて も、 ハハ が タミコ を あいする こと は すこしも かわらない けれど、 フタツ も トシ の おおい タミコ を ボク の ヨメ に する こと は どうしても いけぬ と いう こと に なった らしく、 それ には アニヨメ も いろいろ いうて、 ヨメ に しない と すれば、 フタリ の ナカ は なるたけ さく よう な クフウ を せねば ならぬ。 ハハ も アニヨメ も そういう ココロモチ に なって いる から、 タミコ に たいする シムケ は、 マサオ の こと を おもうて いて も とうてい ダメ で ある と トオマワシ に フウジ して いた。 そこ へ きて タミコ が あけて も くれて も くよくよ して、 ヒト の メ にも とまる ほど で ある から、 ときどき は モノワスレ を したり、 よんで も ヘンジ が おそかったり して、 ハハ の カンシャク に さわった こと も たびたび あった。 ボク が いなく なって から ハツカ ばかり たって 11 ガツ の ツキハジメ の コロ、 タミコ も ホカ の モノ と ノ へ でる こと と なって、 ハハ が タミコ に オマエ は ヒトアシ アト に なって、 ザシキ の マワリ を ゾウキンガケ して それから ニワ に ひろげて ある ムシロ を クラ へ かたづけて から ノ へ ゆけ と いいつけた。 タミコ は ゾウキンガケ を して から うっかり わすれて しまって、 ムシロ を いれず に ノ へ でた ところ、 マ が わるく その ヒ アメ が ふった から、 その ムシロ 10 マイ ばかり を ぬらして しまった。 タミコ は アメ が ふって から キ が ついた けれど、 もう まにあわない。 ウチ へ かえって さっそく ハハ に わびた けれど ハハ は ヘイジツ の こと が ムネ に ある から、
「なにも 10 マイ ばかり の ムシロ が おしい では ない けれど、 いったい ワタシ の イイツケ を おろそか に きいて いる から おこった こと だ。 モト の タミコ は そう で なかった。 エテ カッテ な カンガエゴト など して いる から、 ヒト の いう こと も ミミ へ はいらない の だ……」
 と いう よう な ずいぶん いたい コゴト を いった。 タミコ は ハハ の マクラモト チカク へ いって、 どうか ワタシ が わるかった の です から カンニン して…… と リョウテ を ついて あやまった。 そう する と ハハ は また そう なにも タニン-らしく あらたまって あやまらなく とも だ と しかった そう で、 タミコ は たまらなく なって わっと なきふした。 そのまま タミコ が なきやんで しまえば なんの こと も なく すんだ で あろう が、 タミコ は とうとう ヒトバンジュウ なきとおした ので あくる アサ は メ を あかく して いた。 ハハ も ヨル ときどき メ を さまして みる と、 タミコ は いつでも、 すくすく ないて いる コエ が して いた と いう ので、 コンド は ハハ が ヒジョウ に リップク して、 オマス と タミコ と フタリ よんで ハハ が フルエゴエ に なって いう には、
「アイタイ では ワタシ が どんな ワガママ な こと を いう かも しれない から オマス は キキテ に なって くれ。 タミコ は ユウベ ヒトバンジュウ なきとおした。 さだめし ワタシ に いわれた こと が ムネン で たまらなかった から でしょう」
 タミコ は ここ で ワタシ は そう で ありません と ナキゴエ で いうた けれど、 ハハ は ミミ にも かけず に、
「なるほど ワタシ の コゴト も すこし イイスギ かも しれない が、 タミコ だって なにも それほど くやしがって くれなくて も よさそう な もの じゃ ない か。 ワタシ は ホント に かんがえる と なさけなく なって しまった。 かわいがった の を オン に きせる では ない が、 モト を いえば タニン だ けれど、 チノミゴ の とき から、 タミコ は しょっちゅう ウチ へ きて いて イマ の マサオ と フタツ の チブサ を ヒトツ ずつ ふくませて いた くらい、 オマス が きて から も あの とおり で、 フタツ の もの は ヒトツ ずつ ヨッツ の もの は フタツ ずつ、 キモノ を こしらえて も あれ に 1 マイ これ に 1 マイ と すこしも ワケヘダテ を せない で きた。 タミコ も シン の オヤ の よう に おもって くれ ワタシ も ワガコ と おもって ヨソ の ヒト は ダレ だって フタリ を キョウダイ と おもわない モノ は なかった ほど で ある のに、 アト にも サキ にも イチド の コゴト を あんな に くやしがって ヨジュウ ないて くれなく とも よさそう な もの。 イチカワ の ヒトタチ に きかれたらば、 サイトウ の バア が どんな ひどい こと を いった か と おもう だろう。 10 ナンネン と いう アイダ ワガコ の よう に おもって きた こと も ただ イチド の コゴト で わすれられて しまった か と おもう と ワタシ は くやしい。 ニンゲン と いう もの は そうした もの かしら。 オマス、 よく きいて くれ、 ワタシ が ムリ か タミコ が ムリ か。 なあ オマス」
 ハハ は メ に ナミダ を いっぱい に ためて そう いった。 タミコ は ミ も ヨ も あらぬ サマ で いきなり に オマス の ヒザ へ すがりついて なきなき、
「オマス や、 オカアサン に モウシワケ を して おくれ。 ワタシ は そんな だいそれた リョウケン では ない。 ユンベ あんな に ないた は まったく ワタシ が わるかった から、 まったく ワタシ が とどかなかった の だ から、 オマス や、 オマエ が よく モウシワケ を そう いって おくれ……」
 それから オマス が、
「オカアサン の ゴリップク も ごもっとも です けれど、 ワタシ が おもう にゃ オカアサン も すこし カンチガイ を して おいで なさいます。 オカアサン は ナガネン オタミ さん を かわいがって おいで です から、 オタミ さん の キダテ は わかって おりましょう。 ワタシ も こうして 1 ネン ゴヤッカイ に なって いて みれば、 オタミ さん は ホント やさしい おとなしい ヒト です。 オカアサン に すこし ばかり しかられたって、 それ を くやしがって ないたり なんぞ する よう な ヒト では ありますまい。 ワタシ が こんな こと もうして は おかしい です が、 マサオ さん と オタミ さん とは、 ああして なかよく して いた の を、 ナニ か の ゴツゴウ で キュウ に おわかれ なさった もん です から、 それから と いう もの、 オタミ さん は かわいそう な ほど ゲンキ が ない の です。 コノハ の そよぐ にも タメイキ を つき カラス の なく にも なみだぐんで、 さわれば なきそう な ふう で いた ところ へ、 オカアサン から すこし きつく しかられた から トメド なく ないた の でしょう。 オカアサン、 ワタシ は まったく そう おもいます わ。 オタミ さん は けっして アナタ に しかられた とて くやしがる よう な ヒト では ありません。 オタミ さん の よう な おとなしい ヒト を、 オカアサン の よう に ああ いって しかって は、 あんまり かわいそう です わ」
 オマス が トモナキ を して イイワケ を いうた ので、 もとより タミコ は にくく ない ハハ だ から、 にわか に カオイロ を なおして、
「なるほど オマス が そう いえば、 ワタシ も すこし カンチガイ を して いました。 よく オマス そう いうて くれた。 ワタシ は もう すっかり ココロモチ が なおった。 タミ や、 だまって おくれ、 もう ないて くれるな。 タミ や も かわいそう で あった。 なに マサオ は ガッコウ へ いった ん じゃ ない か、 クレ には かえって くる よ。 なあ オマス、 オマエ は キョウ は シゴト を やすんで、 うまい もの でも こしらえて くれ」
 その ヒ は 3 ニン が イクタビ も よりあって、 イロイロ な もの を こしらえて は チャゴト を やり、 イチニチ おもしろく ハナシ を した。 タミコ も この ヒ は いつ に なく タカワライ を し ゲンキ よく あそんだ。 なんと いって も ハハ の ほう は すぐ ハナシ が わかる けれど、 アニヨメ が まがなすきがな イロイロ な こと を いう ので、 とうとう ボク の かえらない うち に タミコ を イチカワ へ かえした との ハナシ で あった。 オマス は ながい ハナシ を おわる や いなや すぐ ウチ へ かえった。
 なるほど そう で あった か、 アネ は もちろん ハハ まで が そういう ココロ に なった では、 かよわい ノゾミ も たえた も ドウヨウ。 ココロボソサ の ヤルセ が なく、 なく より ホカ に セン が なかった の だろう。 そんな に ハハ に しかられた か…… ヒトバンジュウ なきとおした…… なるほど など と おもう と、 ふたたび あつい ナミダ が みなぎりだして トメド が ない。 ボク は しばらく の アイダ、 ナミダ の でる が まま に そこ に ぼんやり して おった。 その ヒ は とうとう アサハン も たべず、 ヒルスギ まで ハタケ の アタリ を うろついて しまった。
 そう なる と にわか に ウチ に いる の が いや で たまらない。 できる ならば クレ の うち に ガッコウ へ かえって しまいたかった けれど、 そう も ならない で ようやく こらえて、 トシ を こし ガンジツ 1 ニチ おいて フツカ の ヒ には アサ はやく ガッコウ へ たって しまった。
 コンド は リクロ イチカワ へ でて、 イチカワ から キシャ に のった から、 タミコ の キンジョ を とおった の で あれど、 ボク は キマリ が わるくて どうしても タミコ の イエ へ よれなかった。 また ボク に よられたらば、 タミコ が こまる だろう とも おもって、 イクタビ よろう と おもった けれど ついに よらなかった。
 おもえば じつに ヒト の キョウグウ は ヘンカ する もの で ある。 その 1 ネン マエ まで は、 タミコ が ボク の ところ へ きて いなければ、 ボク は ニチヨウ の たび に タミコ の イエ へ いった の で ある。 ボク は タミコ の イエ へ いって も ホカ の ヒト には ヨウ は ない。 いつでも、
「オバアサン、 タミ さん は」
 そら 「タミ さん は」 が きた と いわれる くらい で、 ある とき など は ボク が ゆく と、 タミコ は ニワ に キク の ハナ を つんで いた。 ボク は タミ さん ちょっと おいで と ムリ に セド へ ひっぱって いって、 ニケン-バシゴ を フタリ で にないだし、 カキ の キ へ かけた の を タミコ に おさえさせ、 ボク が のぼって カキ を ムッツ ばかり とる。 タミコ に ハンブン やれば タミコ は ヒトツ で タクサン と いう から、 ボク は その イツツ を もって そのまま ウラ から ぬけて かえって しまった。 さすが に この とき は トムラ の イエ でも ウチジュウ で ボク を わるく いった そう だ けれど、 タミコ ヒトリ は ただ にこにこ わらって いて、 けっして マサオ さん わるい とは いわなかった そう だ。 これ くらい ヘダテ なくした アイダガラ だに、 コイ と いう こと おぼえて から は、 イチカワ の マチ を とおる すら はずかしく なった の で ある。
 この トシ の ショチュウ ヤスミ には イエ に かえらなかった。 クレ にも かえるまい と おもった けれど、 トシ の クレ だ から 1 ニチ でも フツカ でも かえれ と いうて ハハ から テガミ が きた ゆえ、 オオミソカ の ヨル かえって きた。 オマス も コトシ きり で さがった との ハナシ で いよいよ ハナシアイテ も ない から、 また ガンジツ 1 ニチ で フツカ の ヒ に でかけよう と する と、 ハハ が オマエ にも いうて おく が タミコ は ヨメ に いった、 キョネン の シモツキ やはり イチカワ の ウチ で、 たいへん ユウフク な イエ だ そう だ、 と カンタン に いう の で あった。 ボク は はあ そう です か と ムゾウサ に こたえて でて しまった。
 タミコ は ヨメ に いった。 この イチゴ を きいた とき の ボク の ココロモチ は ジブン ながら フシギ と おもう ほど の ヘイキ で あった。 ボク が タミコ を おもって いる カンジョウ に なんら の ドウヨウ を おこさなかった。 これ には ナニ か ソウトウ の リユウ が ある かも しれねど、 ともかくも ジジツ は そう で ある。 ボク は ただ リクツ なし に タミコ は いかな キョウガイ に いろう とも、 ボク を おもって いる ココロ は けっして かわらぬ もの と しんじて いる。 ヨメ に いこう が どう しよう が、 タミコ は いぜん タミコ で、 ボク が タミコ を おもう ココロ に スンブン の カワリ ない よう に タミコ にも けっして カワリ ない よう に おもわれて、 その カンネン は ほとんど オオイシ の ウエ に ざして いる よう で ケ の サキ ほど の キグシン も ない。 それ で ある から タミコ は ヨメ に いった と きいて も すこしも おどろかなかった。 しかし その コロ から イマ まで に ない カンガエ も でて きた。 タミコ は ただただ すこしも ゲンキ が なく、 やせおとろえて ふさいで ばかり いる だろう と のみ おもわれて ならない。 かわいそう な タミ さん と いう カンネン ばかり たかまって きた の で ある。 そういう ワケ で ある から、 ガッコウ へ いって も イゼン とは ほとんど ハンタイ に なって、 イゼン は つとめて ヒトナカ へ はいって、 クモン を まぎらそう と した けれど、 コンド は なるべく ヒト を さけて、 ヒトリ で タミコ の ウエ に オモイ を はせて たのしんで おった。 ナスバタケ の こと や ワタバタケ の こと や、 13 ニチ の バン の さびしい カゼ や、 また ヤギリ の ワタシ で わかれた とき の こと や を、 くりかえし くりかえし かんがえて は ヒトリ なぐさんで おった。 タミコ の こと さえ かんがえれば いつでも キブン が よく なる。 もちろん かなしい ココロモチ に なる こと が しばしば ある けれど、 さんざん ナミダ を だせば やはり アト は キブン が よく なる。 タミコ の こと を おもって いれば かえって ガッカ の セイセキ も わるく ない の で ある。 これら も フシギ の ヒトツ で、 いかなる リユウ か しらねど、 ボク は じっさい そう で あった。
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