カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ノギク の ハカ 4

2013-08-07 | イトウ サチオ
 いつしか ツキ も たって、 わすれ も せぬ 6 ガツ 22 ニチ、 ボク が サンジュツ の カイダイ に くるしんで かんがえて いる と、 コヅカイ が サイトウ さん オウチ から デンポウ です、 と いって ツクエ の ハタ へ おいて いった。 レイ の すぐ かえれ で ある から、 さっそく シャカン に ハナシ を して ソクジツ キセイ した。 ナニゴト が おこった か と ムネ に ドウキ を はずませて かえって みる と、 ヨイヤミ の イエ の アリサマ は イガイ に しずか だ。 ダイドコロ で ウチジュウ ユウメシドキ で あった が、 ただ そこ に ハハ が みえない ばかり、 なんの かわった ヨウス も ない。 ボク は ダイドコロ へは カオ も ださず、 すぐと ハハ の シンジョ へ きた。 アンドウ の ヒ も うすぐらく、 ハハ は ひったり マクラ に ついて ふせって いる。
「オカアサン、 どうか しました か」
「ああ マサオ、 よく はやく かえって くれた。 イマ ワタシ も おきる から オマエ ゴハン マエ なら ゴハン を すまして しまえ」
 ボク は なんの こと か しきり に キ に なる けれど、 ハハ が そう いう まま に そうそう に メシ を すまして ふたたび ハハ の ところ へ くる。 ハハ は オビ を ゆうて フトン の ウエ に おきて いた。 ボク が マエ に すわって も ただ ムゴン で いる。 みる と ハハ は アメ の よう に ナミダ を おとして うつむいて いる。
「オカアサン、 まあ どうした ん でしょう」
 ボク の コトバ に はげまされて ハハ は ようやく ナミダ を ふき、
「マサオ、 カンニン して くれ…… タミコ は しんで しまった…… ワタシ が ころした よう な もの だ……」
「そりゃ いつ です。 どうして タミ さん は しんだ ん です」
 ボク が ムチュウ に なって といかえす と、 ハハ は むせびかえって カオ を おさえて いる。
「シジュウ を きいたら、 さだめし ひどい オヤ だ と おもう だろう が、 こらえて くれ、 マサオ…… オマエ に イチゴン の ハナシ も せず、 たって いや だ と いう タミコ を ムリ に すすめて ヨメ に やった の が、 こういう こと に なって しまった…… たとい オンナ の ほう が トシウエ で あろう とも ホンニン ドウシ が トクシン で あらば、 なにも オヤ だ から とて ヨケイ な クチダシ を せなく も よい のに、 この ハハ が トシガイ も なく オヤ-だてら に いらぬ オセワ を やいて、 トリカエシ の つかぬ こと を して しまった。 タミコ は ワタシ が テ を かけて ころした も おなじ。 どうぞ カンニン して くれ、 マサオ…… ワタシ は タミコ の アト おって ゆきたい……」
 ハハ は もう おいおい おいおい コエ を たてて ないて いる。 タミコ の シ と いう こと だけ は わかった けれど、 ナニ が なにやら さらに わからぬ。 ボク とて タミコ の シ と きいて、 シッシン する ほど の オモイ で あれど、 イマ メノマエ で ハハ の ナゲキ の ヒトトオリ ならぬ を みて は、 なく にも なかれず、 ボク が おろおろ して いる ところ へ アニフウフ が でて きた。
「オカアサン、 まあ そう ないたって シカタ が ない」
 と いえば ハハ は、 かまわず に なかして おくれ なかして おくれ と いう の で ある、 どう シヨウ も ない。
 その アイダ で アニヨメ が わずか に はなす ところ を きけば、 イチカワ の ソレガシ と いう イエ で サキ の オトコ の キショウ も しれて いる に ザイサン も トムラ の イエ に バイ イジョウ で あり、 それ で ムコウ から タミコ を たって の ショモウ、 ナコウド と いう の も トムラ が セワ に なる ヒト で ある、 ぜひ やりたい ぜひ いって くれ と いう こと に なった。 タミコ は どうでも いや だ と いう。 タミコ の いや だ と いう ココロ は よく わかって いる けれど、 マサオ さん の ほう は トシ も ちがい サキ の ながい こと だ から、 どうでも ソレガシ の イエ へ やりたい とは、 トムラ の ヒトタチ は もちろん シンルイ まで の キボウ で あった。 それで いよいよ サイトウ の オッカサン に イケン を して もらう と いう こと に ソウダン が きまり、 それで ウチ の オカアサン が タミコ に イクタビ イケン を して も ないて ばかり ショウチ しない から、 トド の ツマリ、 オマエ が そう ゴウジョウ はる の も マサオ の ところ へ きたい カンガエ から だろう けれど、 それ は この ハハ が フショウチ で ならない よ、 オマエ は それでも コンド の エンダン が フショウチ か。 こんな ふう に いわれた から、 タミコ は すっかり ジブン を あきらめた らしく、 とうとう ミナサマ の よい よう に と いって ショウチ を した。 それから は なにもかも ヒト の イウナリ に なって、 シモツキ ナカバ に シュウギ を した けれど、 タミコ の ココロモチ が ホントウ の ショウチ で ない から、 ムコウ でも いくらか イヤキ に なり、 タミコ は ミモチ に なった が、 ムツキ で おりて しまった。 アト の ヒダチ が ヒジョウ に わるく ついに 6 ガツ 19 ニチ に イキ を ひきとった。 ビョウチュウ ボク に しらせよう との ハナシ も あった が、 いまさら マサオ に しらせる カオ も ない と いう ワケ から しらせなかった。 ウチ の オカアサン は タミコ が まだ クチ を きく とき から、 イチカワ へ いって おって、 タミコ が いけなく なる と、 もう ないて ないて なきぬいた。 ヒトクチマゼ に、 タミコ は ワタシ が ころした よう な もの だ、 と ばかり いって いて、 イチカワ へ おいた では どう なる か しれぬ と いう ワケ から、 キノウ クルマ で ウチ へ おくられて きた の だ。 はなし さえ すれば なく、 なけば ワタシ が わるかった わるかった と いって いる。 タレ にも シヨウ が ない から、 マサオ さん の ところ へ デンポウ を うった。 タミコ も かわいそう だし オカアサン も かわいそう だし、 とんだ こと に なって しまった。 マサオ さん、 どう したら よい でしょう。
 アニヨメ の ハナシ で オオカタ は わかった けれど、 ボク も どうして よい やら ほとんど トホウ に くれた。 ハハ は もう ハンキチガイ だ。 なにしろ ここ では ハハ の ココロ を しずめる の が ダイイチ とは おもった けれど、 ナグサメヨウ が ない。 ボク だって いっそ キチガイ に なって しまったら と おもった くらい だ から、 ハハ を なぐさめる ほど の キリョク は ない。 そうこう して いる うち に ようやく ハハ も すこし おちついて きて、 また はなしだした。
「マサオ や、 きいて くれ。 ワタシ は もう ジブン の アクトウ に あきれて しまった。 なんだって あんな ひどい こと を タミコ に いったっけ かしら。 いまさら なんぼ くいて も シカタ が ない けど、 ワタシ は マサオ…… タミコ に こう いった ん だ。 マサオ と フウフ に する こと は この ハハ が フショウチ だ から オマエ は ヨソ へ ヨメ に ゆけ。 なるほど タミコ は ワタシ に そう いわれて みれば ジブン の ミ を あきらめる ホカ は ない わけ だ。 どうして あんな むごたらしい こと を いった の だろう。 ああ かわいそう な こと を して しまった。 まったく ワタシ が アクトウ を いうた ため に タミコ は しんだ。 オマエ は ね、 アシタ は ヨ が あけたら すぐに いって よおく タミコ の ハカ に まいって くれ。 それで オカアサン の わるかった こと を よく わびて くれ。 ねえ マサオ」
 ボク も ようやく なく こと が できた。 たとい どういう ツゴウ が あった に せよ、 いよいよ ミコミ が なくなった とき には あわせて くれて も よかったろう に、 しんで から しらせる とは ずいぶん ひどい わけ だ。 タミ さん だって ボク には あいたかったろう。 ヨメ に いって しまって は モウシワケ が なく おもったろう けれど、 それでも いよいよ の マギワ に なって は ボク に あいたかった に ちがいない。 じつに なさけない こと だ。 かんがえて みれば ボク も あんまり コドモ で あった。 ソノゴ イチカワ を 3 カイ も とおりながら たずねなかった は、 いまさら ザンネン で ならぬ。 ボク は タミコ が ヨメ に ゆこう が ゆくまい が、 ただ タミコ に あい さえ せば よい の だ。 いま ヒトメ あいたかった…… ツギ から ツギ と はてしなく オモイ は あふれて くる。 しかし ハハ に そういう こと を いえば、 コンド は ボク が ハハ を ころす よう な こと に なる かも しれない。 ボク は きっと ココロ を とりなおした。
「オカアサン、 ホント に タミコ は かわいそう で ありました。 しかし とって かえらぬ こと を いくら くやんで も シカタ が ない です から、 アト の こと を ねんごろ に して やる ホカ は ない。 オカアサン は ただただ ゴジブン の わるい よう に ばかり とって いる けれど、 オカアサン とて ココロ は ただ タミコ の ため マサオ の ため と ヒトスジ に おもって くれた こと です から、 よし それ が おもう よう に ならなかった とて、 タミコ や ワタシラ が なにとて オカアサン を うらみましょう。 オカアサン の ココロ は どこまでも ナサケゴコロ で した もの を、 タミコ も けっして うらんで は い や しまい。 なにもかも こう なる ウンメイ で あった の でしょう。 ワタシ は もう あきらめました。 どうぞ このうえ オカアサン も あきらめて ください。 アス の アサ は ヨ が あけたら すぐ イチカワ へ まいります」
 ハハ は なお コトバ を ついで、
「なるほど なにもかも こう なる ウンメイ かも しらねど コンド と いう コンド ワタシ は よくよく コウカイ しました。 ぞくに オヤバカ と いう こと が ある が、 その オヤバカ が とんでもない わるい こと を した。 オヤ が いつまでも モノ の わかった つもり で いる が、 タイヘン な マチガイ で あった。 ジブン は アミダサマ に おすがり もうして すくうて いただく ホカ に たすかる ミチ は ない。 マサオ や、 オマエ は カラダ を ダイジ に して くれ。 おもえば タミコ は ナガネン の アイダ にも ついぞ ワタシ に さからった こと は なかった、 おとなしい コ で あった だけ、 ジブン の した こと が くいられて ならない、 どうしても かわいそう で たまらない。 タミコ が イマワ の トキ の こと も オマエ に はなして きかせたい けれど ワタシ には とても それ が できない」
 など と また コエ を くもらして きた。 もう はなせば はなす ほど かなしく なる から とて しいて イチドウ ねる こと に した。
 ハハ の テマエ アニフウフ の テマエ、 なくまい と こらえて ようやく こらえて いた ボク は、 ジブン の カヤ へ はいり フトン に たおれる と、 もう たまらなく イチド に こみあげて くる。 クチ へは テヌグイ を かんで、 ナンダ を しぼった。 どれだけ ナミダ が でた か、 リンシツ の ハハ から ヨ が あけた よう だよ と コエ を かけられる まで、 すこしも やまず ナミダ が でた。 きた まま で ねて いた ボク は そのまま おきて カオ を あらう や いなや、 まだ ほのぐらい のに イエ を でる。 ユメ の よう に 2 リ の ミチ を はしって、 タイヨウ が ようやく チヘイセン に あらわれた ジブン に トムラ の イエ の モンゼン まで きた。 この ヤ の カマド の ある ところ は ニワ から ショウメン に みとおして みえる。 アサダキ に ムギワラ を たいて ぱちぱち オト が する。 ボク が マエ の エンサキ に たつ と オク に いた オバアサン が、 めざとく みつけて でて くる。
「カネ や、 カネ や、 トミ や…… マサオ さん が きました。 まあ マサオ さん よく きて くれました。 たいそう はやく。 さあ おあがんなさい。 オキヌキ でしょう。 さあ…… カネ や……」
 タミコ の オトウサン と オカアサン、 タミコ の ネエサン も きた。
「まあ よく きて くれました。 アナタ の くる の を まって ました。 とにかくに あがって ゴハン を たべて……」
 ボク は あがり も せず コシ も かけず、 しばらく ムゴン で たって いた。 ようやく と、
「タミ さん の オハカ に まいり に きました」
 せつなる サマ は メ に あまった と みえ、 ヨッタリ とも クチ が きけなく なって しまった。 ……やがて オトウサン が、
「それでも まあ ちょっと ゴハン を すまして いったら…… ああ そう です か。 それでは ミナ して まいって くる が よかろう…… いや キモノ など きかえん で よい じゃ ない か」
 オンナ たち は、 もう ハナススリ を しながら、 それじゃあ とて たちあがる。 ミズ を もち、 センコウ を もち、 ニワ の ハナ を タクサン に とる。 オダマキソウ、 センニチソウ、 テンジク ボタン と てんでん テ に とりわけて でかける。 カキ の キ の シタ から セド へ ぬけ マキベイ の ウラモン を でる と マツバヤシ で ある。 モモバタケ ナシバタケ の アイダ を ゆく と わずか の タ が ある。 その サキ の マツバヤシ の カタスミ に ゾウキ の モリ が あって あまた の ハカ が みえる。 トムラ-ケ の ボチ は モチノキ 4~5 ホン を チュウシン と して ムツボ ばかり を クワケ して ある。 その ほどよい ところ の ニイハカ が タミコ が トワ の スミカ で あった。 ホウムリ を して から アメ にも あわない ので、 ほんの あたらしい まま で、 チカラガミ など も イマ むすんだ よう で ある。 オバアサン が サキ に いでて、
「さあ マサオ さん、 なにもかも アナタ の テ で やって ください。 タミコ の ため には ほんに センソウ の クヨウ に まさる アナタ の コウゲ、 どうぞ マサオ さん、 よおく オマイリ を して ください…… キョウ は タミコ も さだめて クサバ の カゲ で うれしかろう…… なあ この ヒト に せめて イチド でも、 メ を ねむらない タミコ に…… まあ せめて イチド でも あわせて やりたかった……」
 3 ニン は メ を こすって いる ヨウス。 ボク は コウ を あげ ハナ を あげ ミズ を そそいで から、 マエ に つくばって ココロ の ゆく まで おがんだ。 しんに なさけない わけ だ。 ジュミョウ で しぬ は しかたない に して も、 ながく わずらって いる マ に、 ああ みまって やりたかった。 ヒトメ あいたかった。 ボク も タミ さん に あいたかった もの、 タミ さん だって ボク に あいたかった に ちがいない。 むりむり に しいられた とは いえ、 ヨメ に いって は ボク に あわせる カオ が ない と おもった に ちがいない。 おもえば それ が ビンゼン で ならない。 あんな おとなしい タミ さん だ もの、 リョウシン から シンルイ-ジュウ かかって しいられて、 どうして それ が こばまれよう。 タミ さん が キ の つよい ヒト なら きっと ジサツ を した の だ けれど、 おとなしい ヒト だけ に それ も できなかった の だ。 タミ さん は ヨメ に いって も ボク の ココロ に カワリ は ない と、 せめて ボク の クチ から ヒトコト いって しなせたかった。 ヨノナカ に なさけない と いって こういう なさけない こと が あろう か。 もう ワタシ も いきて いたく ない…… われしらず コエ を だして ボク は リョウヒザ と リョウテ を ジベタ へ ついて しまった。
 ボク の ヨウス を みて、 ウシロ に いた 3 ニン が どんな に ないた か。 ボク も ワレ ヒトリ で ない に キ が ついて ようやく たちあがった。 3 ニン の ナカ の タレ が いう の か、
「なんだって タミコ は、 マサオ さん と いう こと をば ヒトコト も いわなかった の だろう……」
「それほど に おもいあってる ナカ と しったら あんな に すすめ は せぬ もの を」
「うすうす は しれて いた の だに、 この ヒト の ムネ も きいて みず、 タミコ も あれほど いやがった もの を…… いくら わかい から とて あんまり で あった…… かわいそう に……」
 3 ニン も コウゲ を たむけ ミズ を そそいだ。 オバアサン が また、
「マサオ さん、 アナタ チカラガミ を むすんで ください。 たくさん むすんで ください。 タミコ は アナタ が ナサケ の チカラ を タヨリ に アノヨ へ ゆきます。 ナム アミダブツ、 ナム アミダブツ」
 ボク は フトコロ に あった カミ の アリタケ を チカラヅエ に むすぶ。 この とき ふっと キ が ついた。 タミ さん は ノギク が たいへん すき で あった に ノギク を ほって きて うえれば よかった。 いや すぐ ほって きて うえよう。 こう かんがえて アタリ を みる と、 フシギ に ノギク が しげってる。 トブライ の ヒト に ふまれた らしい が なお くきだって あおあお と して いる。 タミ さん は ノギク の ナカ へ ほうむられた の だ。 ボク は ようやく すこし おちついて ヒトビト と ともに ハカバ を じした。

 ボク は なにも ほしく ありません。 ゴハン は もちろん チャ も ほしく ない です。 このまま オイトマ ねがいます、 アス は また はやく あがります から と いって かえろう と する と、 ウチジュウ で ひきとめる。 タミコ の オカアサン は もう たまらなそう な ふう で、
「マサオ さん、 アナタ に そうして かえられて は ワタシドモ は いて も たって も いられません。 アナタ が おもしろく ない オココロモチ は じゅうじゅう さっして います。 かんがえて みれば ワタシドモ の とどかなかった ため に、 タミコ にも フビン な シニヨウ を させ、 マサオ さん にも モウシワケ の ない こと を した の です。 ワタシドモ は いかよう にも アナタ に オワビ を いたします。 タミコ かわいそう と おぼしめしたら、 どうぞ タミコ が イマワ の ハナシ も きいて いって ください な。 アナタ が おいで に なったら、 おはなし もうす つもり で、 キョウ は オイデ か アス は オイデ か と、 じつは ウチジュウ が おまち もうした の です から どうぞ……」
 そう いわれて は ボク も かえる わけ に ゆかず、 ハハ も そう いった の に キ が ついて ザシキ へ あがった。 チャ や ゴハン や と だされた けれど マネ ばかり で すます。 その うち に ヒトビト ミナ オク へ あつまり オバアサン が はなしだした。
「マサオ さん、 タミコ の こと に ついて は、 ワタシドモ イチドウ まことに モウシワケ が なく、 アナタ に あわせる カオ は ない の です。 アナタ に いろいろ ゴムネン な ところ も ありましょう けれど、 どうぞ マサオ さん、 すぎさった こと と あきらめて、 ゴカンベン を ねがいます。 アナタ に オワビ を する の が ナニ より タミコ の クヨウ に なる の です」
 ボク は ただ もう ムネイッパイ で なにも いう こと が できない。 オバアサン は ハナシ を つづける。
「じつは と もうす と、 アナタ の オカアサン ハジメ、 ワタクシ また タミコ の リョウシン とも、 アナタ と タミコ が それほど ふかい ナカ で あった とは しらなかった もん です から」
 ボク は ここ で ヒトコト いいだす。
「タミ さん と ワタシ と ふかい ナカ と おっしゃって も、 タミ さん と ワタシ とは どうも し や しません」
「いいえ、 アナタ と タミコ が どうした と もうす では ない です。 もとから アナタ と タミコ は ヒジョウ な ナカヨシ でした から、 それ が わからなかった ん です。 それに タミコ は あの とおり の ウチキ な コ でした から、 アナタ の こと は ヒトコト も クチ に ださない。 それ は まるきり しらなかった とは もうされません。 それ です から オワビ を もうす よう な わけ……」
 ボク は ミナサン に そんな に オワビ を いわれる ワケ は ない と いう。 タミコ の オトウサン は オワビ を いわして くれ と いう。
「そりゃ マサオ さん の いう の は ごもっとも です、 ワタシドモ が カッテ な こと を して、 カッテ な こと を オマエサン に いう と いう もの です が、 マサオ さん きいて ください、 リクツ の ウエ の こと では ない です。 オトコオヤ の クチ から こんな こと いう も いかが です が、 タミコ は イノチ に かえられない オモイ を すてて フタオヤ の キボウ に したがった の です。 オヤ の イイツケ で そむかれない と おもうて も、 ドウリ で カンジョウ を おさえる は ムリ な ところ も ありましょう。 タミコ の シ は まったく それ ゆえ です から、 オヤ の ミ に なって みる と、 どうも ザンネン で ありまして、 どうも し や しません と マサオ さん が いう とおり、 オマエサンタチ フタリ に なんの ツミ も ない だけ、 オヤ の メ から は フビン が いっそう で な。 あの とおり おとなしかった タミコ は、 ジブン の しぬ の は ココロガラ と あきらめて か、 ついぞ イチド フソク-らしい フウ も みせなかった です。 それ や これ や を おもいます と な、 どう かんがえて も ちと オヤ が ムジヒ で あった よう で……。 マサオ さん、 さっして ください。 みる とおり ウチジュウ が もう、 カナシミ の ヤミ に とざされて いる の です。 おろか な こと でしょう が、 この バアイ オマエサン に タミコ の ハナシ を きいて もらう の が ナニ より の イセキ に おもわれます から、 トシガイ も ない こと もうす よう だ が、 どうぞ きいて ください」
 オバアサン が また ハナシ を つづける。 ケッコン の ハナシ から いよいよ むずかしく なった まで の ハナシ は アニヨメ が ウチ での ハナシ と おなじ で、 イマワ と いう ヒ の ハナシ は こう で あった。
「6 ガツ 17 ニチ の ゴゴ に イシャ が きて、 もう 1 ニチ フツカ の ところ だ から、 シンルイ など に しらせる ならば キョウジュウ にも しらせる が よい と いいます から、 それでは とて とりあえず アナタ の オカアサン に つげる と 18 ニチ の アサ とんで きました。 その ヒ は タミコ は カオイロ が よく、 はっきり と ハナシ も いたしました。 アナタ の オッカサン が きまして、 タミ や、 けっして キ を よわく して は ならない よ、 どうしても いま イチド なおる キ に なって おくれ よ、 タミ や…… タミコ は にっこり エガオ さえ みせて、 ヤギリ の オカアサン、 いろいろ ありがとう ございます。 ながなが かわいがって いただいた ゴオン は しんで も わすれません。 ワタクシ も、 もう ながい こと は ありますまい……。 タミ や、 そんな キ の よわい こと は おもって は いけない。 けっして そんな こと は ない から、 しっかり しなくて は いけない と、 アナタ の オカアサン が いいましたら、 タミコ は しばらく たって、 ヤギリ の オカアサン、 ワタシ は しぬ が ホンモウ で あります、 しねば それ で よい の です…… と いいまして から なお クチ の ウチ で ナニ か いった よう で、 なんでも、 マサオ さん、 アナタ の こと を いった に ちがいない です が、 よく ききとれません でした。 それきり クチ は きかない で、 その ヨ の アケガタ に イキ を ひきとりました……。 それから マサオ さん、 こういう ワケ です…… ヨ が あけて から、 マクラ を なおさせます とき、 あれ の ハハ が みつけました。 タミコ は ヒダリ の テ に モミ の キレ に つつんだ ちいさな もの を にぎって その テ を ムネ へ のせて いる の です。 それで ウチジュウ の ヒト が ミナ あつまって、 これ を どう しよう か と ソウダン しました が、 かわいそう な よう な キモチ も する けれど、 みず に おく の も キ に かかる、 とにかく ひらいて みる が よい と、 あれ の チチ が いいだしまして、 ミナ の いる ナカ で あけました。 それ が マサオ さん、 アナタ の シャシン と アナタ の オテガミ で ありまして……」
 オバアサン が なきだして、 そこ に いた ヒト ミナ ナミダ を ふいて いる。 ボク は イッシン に タタミ を みつめて いた。 やがて オバアサン が ようよう ハナシ を つぐ。
「その オテガミ を オトミ が よみましたら、 ダレ も カレ も イチド に コエ を たって なきました。 あれ の チチ は オトコ ながら オオゴエ して なく の です。 アナタ の オカアサン は、 キ が ふれ は しない か と おもう ほど、 くどいて なく。 オマエタチ フタリ が これほど の カタライ とは しらず に、 ムリ ムタイ に すすめて ヨメ に やった は わるかった。 ああ わるい こと を した、 フビン だった。 タミ や、 カンニン して、 ワタシ が わるかった から カンニン して くれ。 にわか の サワギ です から、 キンジョ の ヒトタチ が、 どう しました と いって たずね に きた くらい で ありました。 それで アナタ の オカアサン は どうしても なきやまない です。 カラダ に さわって は と おもいまして ソウシキ が すむ と クルマ で おおくり もうした シダイ です。 ミ を あきらめた タミコ の ココロモチ が、 こう わかって みる と、 ダレ も カレ も おなじ こと で いまさら の よう に ムリ に ヨメ に やった こと が コウカイ され、 たまらない です よ。 かんがえれば かんがえる ほど あの コ が かわいそう で かわいそう で いて も たって も いられない…… せめて アナタ に きて いただいて、 ミナ が わるかった こと を じゅうぶん アナタ に オワビ を し、 また あれ の ハカ にも コウゲ を アナタ の テ から たむけて いただいたら、 すこし は ウチジュウ の ココロモチ も やすまる か と おまいまして…… キョウ の こと を なんぼう まちましたろ。 マサオ さん、 どうぞ ききわけて ください。 ねえ タミコ は アナタ には そむいて は いません。 どうぞ フビン と おもうて やって ください……」
 イチゴ イック ミナ ナミダ で、 ボク も イチジ なきふして しまった。 タミコ は しぬ の が ホンモウ だ と いった か、 そう いった か…… ウチ の ハハ が あんな に ミ を せめて なかれる の も、 その はず で あった。 ボク は、
「オバアサン、 よく わかりました。 ワタシ は タミ さん の ココロモチ は よく しって います。 キョネン の クレ、 タミ さん が ヨメ に ゆかれた と きいた とき で さえ、 ワタシ は タミ さん を ケ ほど も うたがわなかった です もの。 どのよう な こと が あろう とも、 ワタシ が タミ さん を おもう ココロモチ は かわりません。 ウチ の ハハ など も ただ それ ばかり いって なげいて います が、 それ も みな ワルギ が あって の ワザ で ない の です から、 ワタシ は もちろん タミ さん だって けっして ウラミ に おも や しません。 なにもかも さだまった エン と あきらめます。 ワタシ は とうぶん マイニチ オハカ へ まいります……」
 はなして は なき ないて は はなし、 コウ イチゴ オツ イチゴ いくら ないて も ハテシ が ない。 ボク は ハハ の こと も キ に かかる ので、 もう オヒル だ と いう ジブン に トムラ の イエ を じした。 トムラ の オカアサン は、 タミコ の ハカ の マエ で ボク の ソブリ が あまり いたわしかった から、 トチュウ が シンパイ に なる とて、 ジブン で ヤギリ の イリグチ まで おくって きて くれた。 タミコ の ビンゼン な こと は いくら おもうて も おもいきれない。 いくら ないて も なききれない。 しかしながら また メノマエ の ハハ が、 カイゴ の ネン に せめられ、 みずから タイザイ を おかした と しんじて なげいて いる ビンゼンサ を みる と、 ボク は どうしても イマ は タミコ を ないて は いられない。 ボク が めそめそ して おった では、 ハハ の クルシミ は ます ばかり と キ が ついた。 それから イッシン に ジブン で ジブン を はげまし、 ゲンキ を よそおうて ひたすら ハハ を なぐさめる クフウ を した。 それでも ココロ に ない こと は シカタ の ない もの、 ハハ は いつしか それ と キ が ついてる ヨウス、 そう なって は ボク が ウチ に いない より ホカ は ない。
 マイニチ ナヌカ の アイダ イチカワ へ かよって、 タミコ の ハカ の シュウイ には ノギク が イチメン に うえられた。 その あくる ヒ に ボク は じゅうぶん ハハ の セイシン の やすまる よう に ジブン の ココロモチ を はなして、 けつぜん ガッコウ へ でた。

     *     *     *     *

 タミコ は よぎなき ケッコン を して ついに ヨ を さり、 ボク は よぎなき ケッコン を して ながらえて いる。 タミコ は ボク の シャシン と ボク の テガミ と を ムネ を はなさず に もって いよう。 ユウメイ はるけく へだつ とも ボク の ココロ は 1 ニチ も タミコ の ウエ を さらぬ。
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