カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ギンガ テツドウ の ヨル 3

2012-06-21 | ミヤザワ ケンジ
 9、 ジョバンニ の キップ

「もう ここら は ハクチョウ-ク の オシマイ です。 ごらんなさい。 あれ が なだかい アルビレオ の カンソクジョ です」
 マド の ソト の、 まるで ハナビ で いっぱい の よう な、 アマノガワ の マンナカ に、 くろい おおきな タテモノ が 4 ムネ ばかり たって、 その ヒトツ の ヒラヤネ の ウエ に、 メ も さめる よう な、 サファイア と トパース の おおきな フタツ の すきとおった タマ が、 ワ に なって しずか に くるくる と まわって いました。 キイロ の が だんだん ムコウ へ まわって いって、 あおい ちいさい の が こっち へ すすんで き、 まもなく フタツ の ハジ は、 かさなりあって、 きれい な ミドリイロ の リョウメン トツ-レンズ の カタチ を つくり、 それ も だんだん、 マンナカ が ふくらみだして、 とうとう あおい の は、 すっかり トパース の ショウメン に きました ので、 ミドリ の チュウシン と キイロ な あかるい ワ と が できました。 それ が また だんだん ヨコ へ それて、 マエ の レンズ の カタチ を ギャク に くりかえし、 とうとう すっと はなれて、 サファイア は ムコウ へ めぐり、 キイロ の は こっち へ すすみ、 また ちょうど サッキ の よう な ふう に なりました。 ギンガ の、 カタチ も なく オト も ない ミズ に かこまれて、 ホントウ に その くろい ソッコウジョ が、 ねむって いる よう に、 しずか に よこたわった の です。
「あれ は、 ミズ の ハヤサ を はかる キカイ です。 ミズ も……」 トリトリ が いいかけた とき、
「キップ を ハイケン いたします」 3 ニン の セキ の ヨコ に、 あかい ボウシ を かぶった セイ の たかい シャショウ が、 いつか マッスグ に たって いて いいました。 トリトリ は、 だまって カクシ から、 ちいさな カミキレ を だしました。 シャショウ は ちょっと みて、 すぐ メ を そらして、 (アナタガタ の は?) と いう よう に、 ユビ を うごかしながら、 テ を ジョバンニ たち の ほう へ だしました。
「さあ、」 ジョバンニ は こまって、 もじもじ して いましたら、 カムパネルラ は、 ワケ も ない と いう ふう で、 ちいさな ネズミイロ の キップ を だしました。 ジョバンニ は、 すっかり あわてて しまって、 もしか ウワギ の ポケット に でも、 はいって いた か と おもいながら、 テ を いれて みましたら、 ナニ か おおきな たたんだ カミキレ に あたりました。 こんな もの はいって いたろう か と おもって、 いそいで だして みましたら、 それ は ヨッツ に おった ハガキ ぐらい の オオキサ の ミドリイロ の カミ でした。 シャショウ が テ を だして いる もん です から なんでも かまわない、 やっちまえ と おもって わたしましたら、 シャショウ は マッスグ に たちなおって テイネイ に それ を ひらいて みて いました。 そして よみながら ウワギ の ボタン や なんか しきり に なおしたり して いました し、 トウダイ カンシュ も シタ から それ を ネッシン に のぞいて いました から、 ジョバンニ は たしか に あれ は ショウメイショ か ナニ か だった と かんがえて すこし ムネ が あつく なる よう な キ が しました。
「これ は サンジ クウカン の ほう から おもち に なった の です か」 シャショウ が たずねました。
「なんだか わかりません」 もう だいじょうぶ だ と アンシン しながら ジョバンニ は そっち を みあげて くつくつ わらいました。
「よろしゅう ございます。 サウザン クロス へ つきます の は、 ツギ の ダイ 3 ジ コロ に なります」 シャショウ は カミ を ジョバンニ に わたして ムコウ へ いきました。
 カムパネルラ は、 その カミキレ が ナン だった か まちかねた と いう よう に いそいで のぞきこみました。 ジョバンニ も まったく はやく みたかった の です。 ところが それ は イチメン くろい カラクサ の よう な モヨウ の ナカ に、 おかしな トオ ばかり の ジ を インサツ した もの で、 だまって みて いる と なんだか その ナカ へ すいこまれて しまう よう な キ が する の でした。 すると トリトリ が ヨコ から ちらっと それ を みて あわてた よう に いいました。
「おや、 こいつ は たいした もん です ぜ。 こいつ は もう、 ホントウ の テンジョウ へ さえ いける キップ だ。 テンジョウ どこ じゃ ない、 どこ でも カッテ に あるける ツウコウケン です。 こいつ を おもち に なりゃ、 なるほど、 こんな フカンゼン な ゲンソウ ダイ 4 ジ の ギンガ テツドウ なんか、 どこ まで でも いける はず でさあ、 アナタガタ たいした もん です ね」
「なんだか わかりません」 ジョバンニ が あかく なって こたえながら それ を また たたんで カクシ に いれました。 そして キマリ が わるい ので カムパネルラ と フタリ、 また マド の ソト を ながめて いました が、 その トリトリ の ときどき たいした もん だ と いう よう に ちらちら こっち を みて いる の が ぼんやり わかりました。
「もう じき ワシ の テイシャバ だよ」 カムパネルラ が ムコウギシ の、 ミッツ ならんだ ちいさな あおじろい サンカクヒョウ と チズ と を みくらべて いいました。
 ジョバンニ は なんだか ワケ も わからず に、 にわか に トナリ の トリトリ が キノドク で たまらなく なりました。 サギ を つかまえて せいせい した と よろこんだり、 しろい キレ で それ を くるくる つつんだり、 ヒト の キップ を びっくり した よう に ヨコメ で みて あわてて ほめだしたり、 そんな こと を いちいち かんがえて いる と、 もう その ミズシラズ の トリトリ の ため に、 ジョバンニ の もって いる もの でも たべる もの でも なんでも やって しまいたい、 もう この ヒト の ホントウ の サイワイ に なる なら、 ジブン が あの ひかる アマノガワ の カワラ に たって 100 ネン つづけて たって トリ を とって やって も いい と いう よう な キ が して、 どうしても もう だまって いられなく なりました。 ホントウ に アナタ の ほしい もの は いったい ナン です か、 と きこう と して、 それ では あんまり だしぬけ だ から、 どう しよう か と かんがえて ふりかえって みましたら、 そこ には もう あの トリトリ が いません でした。 アミダナ の ウエ には しろい ニモツ も みえなかった の です。 また マド の ソト で アシ を ふんばって ソラ を みあげて サギ を とる シタク を して いる の か と おもって、 いそいで そっち を みました が、 ソト は イチメン の うつくしい スナゴ と しろい ススキ の ナミ ばかり、 あの トリトリ の ひろい セナカ も とがった ボウシ も みえません でした。
「あの ヒト どこ へ いったろう」 カムパネルラ も ぼんやり そう いって いました。
「どこ へ いったろう。 いったい どこ で また あう の だろう。 ボク は どうして もすこし あの ヒト に モノ を いわなかったろう」
「ああ、 ボク も そう おもって いる よ」
「ボク は あの ヒト が ジャマ な よう な キ が した ん だ。 だから ボク は たいへん つらい」 ジョバンニ は こんな へんてこ な キモチ は、 ホントウ に はじめて だし、 こんな こと イマ まで いった こと も ない と おもいました。
「なんだか リンゴ の ニオイ が する。 ボク イマ リンゴ の こと かんがえた ため だろう か」 カムパネルラ が フシギ そう に アタリ を みまわしました。
「ホントウ に リンゴ の ニオイ だよ。 それから ノイバラ の ニオイ も する」 ジョバンニ も そこら を みました が やっぱり それ は マド から でも はいって くる らしい の でした。 イマ アキ だ から ノイバラ の ハナ の ニオイ の する はず は ない と ジョバンニ は おもいました。
 そしたら にわか に そこ に、 つやつや した くろい カミ の ムッツ ばかり の オトコ の コ が あかい ジャケツ の ボタン も かけず、 ひどく びっくり した よう な カオ を して がたがた ふるえて ハダシ で たって いました。 トナリ には くろい ヨウフク を きちんと きた セイ の たかい セイネン が いっぱい に カゼ に ふかれて いる ケヤキ の キ の よう な シセイ で、 オトコ の コ の テ を しっかり ひいて たって いました。
「あら、 ここ どこ でしょう。 まあ、 きれい だわ」 セイネン の ウシロ にも ヒトリ 12 ばかり の メ の チャイロ な かわいらしい オンナ の コ が くろい ガイトウ を きて、 セイネン の ウデ に すがって フシギ そう に マド の ソト を みて いる の でした。
「ああ、 ここ は ランカシャイヤ だ。 いや、 コンネクテカット シュウ だ。 いや、 ああ、 ボクタチ は ソラ へ きた の だ。 ワタシタチ は テン へ いく の です。 ごらんなさい。 あの シルシ は テンジョウ の シルシ です。 もう なんにも こわい こと ありません。 ワタクシタチ は カミサマ に めされて いる の です」 クロフク の セイネン は ヨロコビ に かがやいて その オンナ の コ に いいました。 けれども なぜか また ヒタイ に ふかく シワ を きざんで、 それに たいへん つかれて いる らしく、 ムリ に わらいながら オトコ の コ を ジョバンニ の トナリ に すわらせました。
 それから オンナ の コ に やさしく カムパネルラ の トナリ の セキ を ゆびさしました。 オンナ の コ は すなお に そこ へ すわって、 きちんと リョウテ を くみあわせました。
「ボク、 オオネエサン の とこ へ いく ん だよう」 こしかけた ばかり の オトコ の コ は カオ を ヘン に して トウダイ カンシュ の ムコウ の セキ に すわった ばかり の セイネン に いいました。 セイネン は なんとも いえず かなしそう な カオ を して、 じっと その コ の、 ちぢれて ぬれた アタマ を みました。 オンナ の コ は、 いきなり リョウテ を カオ に あてて しくしく ないて しまいました。
「オトウサン や キクヨ ネエサン は まだ いろいろ オシゴト が ある の です。 けれども もう すぐ アト から いらっしゃいます。 それ より も、 オッカサン は どんな に ながく まって いらっしゃった でしょう。 ワタシ の ダイジ な タダシ は イマ どんな ウタ を うたって いる だろう、 ユキ の ふる アサ に ミンナ と テ を つないで ぐるぐる ニワトコ の ヤブ を まわって あそんで いる だろう か と かんがえたり ホントウ に まって シンパイ して いらっしゃる ん です から、 はやく いって オッカサン に オメ に かかりましょう ね」
「うん、 だけど ボク、 フネ に のらなきゃ よかった なあ」
「ええ、 けれど、 ごらんなさい、 そら、 どう です、 あの リッパ な カワ、 ね、 あすこ は あの ナツジュウ、 ツインクル、 ツインクル、 リトル スター を うたって やすむ とき、 いつも マド から ぼんやり しろく みえて いた でしょう。 あすこ です よ。 ね、 きれい でしょう。 あんな に ひかって います」
 ないて いた アネ も ハンケチ で メ を ふいて ソト を みました。 セイネン は おしえる よう に そっと キョウダイ に また いいました。
「ワタシタチ は もう なんにも かなしい こと ない の です。 ワタシタチ は こんな いい とこ を たびして、 じき カミサマ の とこ へ いきます。 そこ なら もう ホントウ に あかるくて ニオイ が よくて リッパ な ヒトタチ で いっぱい です。 そして ワタシタチ の カワリ に ボート へ のれた ヒトタチ は、 きっと ミンナ たすけられて、 シンパイ して まって いる メイメイ の オトウサン や オカアサン や ジブン の オウチ へ やら いく の です。 さあ、 もう じき です から ゲンキ を だして おもしろく うたって いきましょう」 セイネン は オトコ の コ の ぬれた よう な くろい カミ を なで、 ミンナ を なぐさめながら、 ジブン も だんだん カオイロ が かがやいて きました。
「アナタガタ は どちら から いらっしゃった の です か。 どう なすった の です か」 サッキ の トウダイ カンシュ が やっと すこし わかった よう に セイネン に たずねました。 セイネン は かすか に わらいました。
「いえ、 ヒョウザン に ぶっつかって フネ が しずみまして ね、 ワタシタチ は こちら の オトウサン が キュウ な ヨウ で 2 カゲツ マエ ヒトアシ サキ に ホンゴク へ おかえり に なった ので アト から たった の です。 ワタシ は ダイガク へ はいって いて、 カテイ キョウシ に やとわれて いた の です。 ところが ちょうど 12 ニチ-メ、 キョウ か キノウ の アタリ です、 フネ が ヒョウザン に ぶっつかって イッペン に かたむき もう しずみかけました。 ツキ の アカリ は どこ か ぼんやり ありました が、 キリ が ヒジョウ に ふかかった の です。 ところが ボート は サゲン の ほう ハンブン は もう ダメ に なって いました から、 とても ミンナ は のりきらない の です。 もう その うち にも フネ は しずみます し、 ワタシ は ヒッシ と なって、 どうか ちいさな ヒトタチ を のせて ください と さけびました。 チカク の ヒトタチ は すぐ ミチ を ひらいて、 そして コドモ たち の ため に いのって くれました。 けれども そこ から ボート まで の ところ には まだまだ ちいさな コドモ たち や オヤ たち や なんか いて、 とても おしのける ユウキ が なかった の です。 それでも ワタクシ は どうしても この カタタチ を おたすけ する の が ワタシ の ギム だ と おもいました から、 マエ に いる コドモ ら を おしのけよう と しました。 けれども また そんな に して たすけて あげる より は、 このまま カミ の オマエ に ミンナ で いく ほう が ホントウ に この カタタチ の コウフク だ とも おもいました。 それから また その カミ に そむく ツミ は ワタクシ ヒトリ で しょって、 ぜひとも たすけて あげよう と おもいました。 けれども どうして みて いる と それ が できない の でした。 コドモ ら ばかり ボート の ナカ へ はなして やって、 オカアサン が キョウキ の よう に キス を おくり、 オトウサン が かなしい の を じっと こらえて マッスグ に たって いる など、 とても もう ハラワタ も ちぎれる よう でした。 そのうち フネ は もう ずんずん しずみます から、 ワタシ は もう すっかり カクゴ して この ヒトタチ フタリ を だいて、 うかべる だけ は うかぼう と かたまって フネ の しずむ の を まって いました。 ダレ が なげた か ライフブイ が ヒトツ とんで きました けれども、 すべって ずうっと ムコウ へ いって しまいました。 ワタシ は イッショウ ケンメイ で カンパン の コウシ に なった とこ を はなして、 3 ニン それ に しっかり とりつきました。 どこ から とも なく 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の コエ が あがりました。 たちまち ミンナ は イロイロ な コクゴ で イッペン に それ を うたいました。 その とき にわか に おおきな オト が して ワタシタチ は ミズ に おち、 もう ウズ に はいった と おもいながら しっかり この ヒトタチ を だいて、 それから ぼうっと した と おもったら もう ここ へ きて いた の です。 この カタタチ の オカアサン は イッサクネン なくなられました。 ええ ボート は きっと たすかった に チガイ ありません。 なにせ よほど ジュクレン な スイフ たち が こいで すばやく フネ から はなれて いました から」
 そこら から ちいさな イノリ の コエ が きこえ ジョバンニ も カムパネルラ も イマ まで わすれて いた イロイロ の こと を ぼんやり おもいだして メ が あつく なりました。
(ああ、 その おおきな ウミ は パシフィック と いう の では なかったろう か。 その ヒョウザン の ながれる キタ の ハテ の ウミ で、 ちいさな フネ に のって、 カゼ や こおりつく シオミズ や、 はげしい サムサ と たたかって、 ダレ か が イッショウ ケンメイ はたらいて いる。 ボク は その ヒト に ホントウ に キノドク で そして すまない よう な キ が する。 ボク は その ヒト の サイワイ の ため に いったい どう したら いい の だろう。) ジョバンニ は クビ を たれて、 すっかり ふさぎこんで しまいました。
「ナニ が シアワセ か わからない です。 ホントウ に どんな つらい こと でも それ が ただしい ミチ を すすむ ナカ での デキゴト なら、 トウゲ の ノボリ も クダリ も みんな ホントウ の コウフク に ちかづく ヒトアシ ずつ です から」
 トウダイモリ が なぐさめて いました。
「ああ そう です。 ただ イチバン の サイワイ に いたる ため に イロイロ の カナシミ も みんな オボシメシ です」
 セイネン が いのる よう に そう こたえました。
 そして あの キョウダイ は もう つかれて めいめい ぐったり セキ に よりかかって ねむって いました。 サッキ の あの ハダシ だった アシ には いつか しろい やわらか な クツ を はいて いた の です。
 ごとごと ごとごと キシャ は きらびやか な リンコウ の カワ の キシ を すすみました。 ムコウ の ほう の マド を みる と、 ノハラ は まるで ゲントウ の よう でした。 100 も 1000 も の ダイショウ サマザマ の サンカクヒョウ、 その おおきな もの の ウエ には あかい テンテン を うった ソクリョウキ も みえ、 ノハラ の ハテ は それら が イチメン、 たくさん たくさん あつまって ぼおっと あおじろい キリ の よう、 そこ から か、 または もっと ムコウ から か、 ときどき サマザマ の カタチ の ぼんやり した ノロシ の よう な もの が、 かわるがわる きれい な キキョウイロ の ソラ に うちあげられる の でした。 じつに その すきとおった きれい な カゼ は、 バラ の ニオイ で いっぱい でした。
「いかが です か。 こういう リンゴ は おはじめて でしょう」 ムコウ の セキ の トウダイ カンシュ が いつか キン と ベニ で うつくしく いろどられた おおきな リンゴ を おとさない よう に リョウテ で ヒザ の ウエ に かかえて いました。
「おや、 どっから きた の です か。 リッパ です ねえ。 ここら では こんな リンゴ が できる の です か」 セイネン は ホントウ に びっくり した らしく トウダイ カンシュ の リョウテ に かかえられた ヒトモリ の リンゴ を、 メ を ほそく したり クビ を まげたり しながら ワレ を わすれて ながめて いました。
「いや、 まあ おとり ください。 どうか、 まあ おとり ください」
 セイネン は ヒトツ とって ジョバンニ たち の ほう を ちょっと みました。
「さあ、 ムコウ の ボッチャン がた。 いかが です か。 おとり ください」
 ジョバンニ は ボッチャン と いわれた ので すこし シャク に さわって だまって いました が、 カムパネルラ は、
「ありがとう、」 と いいました。 すると セイネン は ジブン で とって ヒトツ ずつ フタリ に おくって よこしました ので ジョバンニ も たって ありがとう と いいました。
 トウダイ カンシュ は やっと リョウウデ が あいた ので、 コンド は ジブン で ヒトツ ずつ ねむって いる キョウダイ の ヒザ に そっと おきました。
「どうも ありがとう。 どこ で できる の です か。 こんな リッパ な リンゴ は」
 セイネン は つくづく みながら いいました。
「この ヘン では もちろん ノウギョウ は いたします けれども たいてい ひとりでに いい もの が できる よう な ヤクソク に なって おります。 ノウギョウ だって そんな に ホネ は おれ は しません。 たいてい ジブン の のぞむ タネ さえ まけば ひとりでに どんどん できます。 コメ だって パシフィック ヘン の よう に カラ も ない し 10 バイ も おおきくて ニオイ も いい の です。 けれども アナタガタ の いらっしゃる ほう なら ノウギョウ は もう ありません。 リンゴ だって オカシ だって カス が すこしも ありません から、 みんな その ヒト その ヒト に よって、 ちがった わずか の いい カオリ に なって ケアナ から ちらけて しまう の です」
 にわか に オトコ の コ が ぱっちり メ を あいて いいました。
「ああ ボク イマ オカアサン の ユメ を みて いた よ。 オカアサン が ね、 リッパ な トダナ や ホン の ある とこ に いて ね、 ボク の ほう を みて テ を だして にこにこ にこにこ わらった よ。 ボク オッカサン。 リンゴ を ひろって きて あげましょう か、 いったら メ が さめちゃった。 ああ ここ サッキ の キシャ の ナカ だねえ」
「その リンゴ が そこ に あります。 この オジサン に いただいた の です よ」 セイネン が いいました。
「ありがとう オジサン。 おや、 カオル ネエサン まだ ねてる ねえ、 ボク おこして やろう。 ネエサン。 ごらん、 リンゴ を もらった よ。 おきて ごらん」
 アネ は わらって メ を さまし、 まぶしそう に リョウテ を メ に あてて それから リンゴ を みました。 オトコ の コ は まるで パイ を たべる よう に もう それ を たべて いました。 また せっかく むいた その きれい な カワ も、 くるくる コルク-ヌキ の よう な カタチ に なって ユカ へ おちる まで の アイダ には すうっと、 ハイイロ に ひかって ジョウハツ して しまう の でした。
 フタリ は リンゴ を タイセツ に ポケット に しまいました。
 カワシモ の ムコウギシ に あおく しげった おおきな ハヤシ が みえ、 その エダ には じゅくして マッカ に ひかる まるい ミ が いっぱい、 その ハヤシ の マンナカ に たかい たかい サンカクヒョウ が たって、 モリ の ナカ から は オーケストラ ベル や ジロフォン に まじって なんとも いえず きれい な ネイロ が、 とける よう に しみる よう に カゼ に つれて ながれて くる の でした。
 セイネン は ぞくっと して カラダ を ふるう よう に しました。
 だまって その フ を きいて いる と、 そこら に イチメン キイロ や うすい ミドリ の あかるい ノハラ か シキモノ か が ひろがり、 また マッシロ な ロウ の よう な ツユ が タイヨウ の オモテ を かすめて いく よう に おもわれました。
「まあ、 あの カラス」 カムパネルラ の トナリ の カオル と よばれた オンナ の コ が さけびました。
「カラス で ない。 みんな カササギ だ」 カムパネルラ が また なにげなく しかる よう に さけびました ので、 ジョバンニ は また おもわず わらい、 オンナ の コ は きまりわるそう に しました。 まったく カワラ の あおじろい アカリ の ウエ に、 くろい トリ が たくさん たくさん いっぱい に レツ に なって とまって じっと カワ の ビコウ を うけて いる の でした。
「カササギ です ねえ、 アタマ の ウシロ の とこ に ケ が ぴんと のびて ます から」 セイネン は とりなす よう に いいました。
 ムコウ の あおい モリ の ナカ の サンカクヒョウ は すっかり キシャ の ショウメン に きました。 その とき キシャ の ずうっと ウシロ の ほう から あの ききなれた 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の サンビカ の フシ が きこえて きました。 よほど の ニンズウ で ガッショウ して いる らしい の でした。 セイネン は さっと カオイロ が あおざめ、 たって イッペン そっち へ いきそう に しました が おもいかえして また すわりました。 カオルコ は ハンケチ を カオ に あてて しまいました。 ジョバンニ まで なんだか ハナ が ヘン に なりました。 けれども いつ とも なく ダレ とも なく その ウタ は うたいだされ だんだん はっきり つよく なりました。 おもわず ジョバンニ も カムパネルラ も イッショ に うたいだした の です。
 そして あおい カンラン の モリ が みえない アマノガワ の ムコウ に さめざめ と ひかりながら だんだん ウシロ の ほう へ いって しまい、 そこ から ながれて くる あやしい ガッキ の オト も もう キシャ の ヒビキ や カゼ の オト に すりへらされて ずうっと かすか に なりました。
「あ、 クジャク が いる よ」
「ええ たくさん いた わ」 オンナ の コ が こたえました。
 ジョバンニ は その ちいさく ちいさく なって イマ は もう ヒトツ の ミドリイロ の カイボタン の よう に みえる モリ の ウエ に、 さっさっ と あおじろく ときどき ひかって その クジャク が ハネ を ひろげたり とじたり する ヒカリ の ハンシャ を みました。
「そう だ、 クジャク の コエ だって さっき きこえた」 カムパネルラ が カオルコ に いいました。
「ええ、 30 ピキ ぐらい は たしか に いた わ。 ハープ の よう に きこえた の は みんな クジャク よ」 オンナ の コ が こたえました。 ジョバンニ は にわか に なんとも いえず かなしい キ が して おもわず、
「カムパネルラ、 ここ から はねおりて あそんで いこう よ」 と こわい カオ を して いおう と した くらい でした。
 カワ は フタツ に わかれました。 その マックラ な シマ の マンナカ に たかい たかい ヤグラ が ヒトツ くまれて、 その ウエ に ヒトリ の ゆるい フク を きて あかい ボウシ を かぶった オトコ が たって いました。 そして リョウテ に アカ と アオ の ハタ を もって ソラ を みあげて シンゴウ して いる の でした。 ジョバンニ が みて いる アイダ その ヒト は しきり に あかい ハタ を ふって いました が にわか に アカハタ を おろして ウシロ に かくす よう に し、 あおい ハタ を たかく たかく あげて まるで オーケストラ の シキシャ の よう に はげしく ふりました。 すると クウチュウ に ざあっ と アメ の よう な オト が して、 ナニ か マックラ な もの が イクカタマリ も イクカタマリ も テッポウダマ の よう に カワ の ムコウ の ほう へ とんで いく の でした。 ジョバンニ は おもわず マド から カラダ を ハンブン だして そっち を みあげました。 うつくしい うつくしい キキョウイロ の がらん と した ソラ の シタ を じつに ナンマン と いう ちいさな トリ ども が イククミ も イククミ も めいめい せわしく せわしく ないて とおって いく の でした。
「トリ が とんで いく な」 ジョバンニ が マド の ソト で いいました。
「どら、」 カムパネルラ も ソラ を みました。 その とき あの ヤグラ の ウエ の ゆるい フク の オトコ は、 にわか に あかい ハタ を あげて キョウキ の よう に ふりうごかしました。 すると ぴたっと トリ の ムレ は とおらなく なり、 それ と ドウジ に ぴしゃあん と いう つぶれた よう な オト が カワシモ の ほう で おこって、 それから しばらく しいん と しました。 と おもったら あの アカボウ の シンゴウシュ が また あおい ハタ を ふって さけんで いた の です。
「イマ こそ わたれ ワタリドリ、 イマ こそ わたれ ワタリドリ」 その コエ も はっきり きこえました。 それ と イッショ に また イクマン と いう トリ の ムレ が ソラ を マッスグ に かけた の です。 フタリ の カオ を だして いる マンナカ の マド から あの オンナ の コ が カオ を だして うつくしい ホオ を かがやかせながら ソラ を あおぎました。
「まあ、 この トリ、 タクサン です わねえ、 あらまあ ソラ の きれい な こと」 オンナ の コ は ジョバンニ に はなしかけました けれども、 ジョバンニ は ナマイキ な、 いや だい と おもいながら だまって クチ を むすんで ソラ を みあげて いました。 オンナ の コ は ちいさく ほっと イキ を して だまって セキ へ もどりました。 カムパネルラ が キノドク そう に マド から カオ を ひっこめて チズ を みて いました。
「あの ヒト トリ へ おしえてる ん でしょう か」 オンナ の コ が そっと カムパネルラ に たずねました。
「ワタリドリ へ シンゴウ してる ん です。 きっと どこ から か ノロシ が あがる ため でしょう」 カムパネルラ が すこし おぼつかなそう に こたえました。 そして クルマ の ナカ は しぃん と なりました。 ジョバンニ は もう アタマ を ひっこめたかった の です けれども、 あかるい とこ へ カオ を だす の が つらかった ので だまって こらえて そのまま たって クチブエ を ふいて いました。
(どうして ボク は こんな に かなしい の だろう。 ボク は もっと ココロモチ を きれい に おおきく もたなければ いけない。 あすこ の キシ の ずうっと ムコウ に まるで ケムリ の よう な ちいさな あおい ヒ が みえる。 あれ は ホントウ に しずか で つめたい。 ボク は あれ を よく みて ココロモチ を しずめる ん だ。) ジョバンニ は ほてって いたい アタマ を リョウテ で おさえる よう に して そっち の ほう を みました。
(ああ ホントウ に どこまでも どこまでも ボク と イッショ に いく ヒト は ない だろう か。 カムパネルラ だって あんな オンナ の コ と おもしろそう に はなして いる し、 ボク は ホントウ に つらい なあ。) ジョバンニ の メ は また ナミダ で いっぱい に なり アマノガワ も まるで トオク へ いった よう に ぼんやり しろく みえる だけ でした。
 その とき キシャ は だんだん カワ から はなれて ガケ の ウエ を とおる よう に なりました。 ムコウギシ も また くろい イロ の ガケ が カワ の キシ を カリュウ に くだる に したがって だんだん たかく なって いく の でした。 そして ちらっと おおきな トウモロコシ の キ を みました。 その ハ は ぐるぐる に ちぢれ ハ の シタ には もう うつくしい ミドリイロ の おおきな ホウ が あかい ケ を はいて シンジュ の よう な ミ も ちらっと みえた の でした。 それ は だんだん カズ を まして きて、 もう イマ は レツ の よう に ガケ と センロ との アイダ に ならび、 おもわず ジョバンニ が マド から カオ を ひっこめて ムコウガワ の マド を みました とき は、 うつくしい ソラ の ノハラ の チヘイセン の ハテ まで、 その おおきな トウモロコシ の キ が ほとんど イチメン に うえられて さやさや カゼ に ゆらぎ、 その リッパ な ちぢれた ハ の サキ から は まるで ヒル の アイダ に いっぱい ニッコウ を すった コンゴウセキ の よう に、 ツユ が いっぱい に ついて アカ や ミドリ や きらきら もえて ひかって いる の でした。
 カムパネルラ が 「あれ トウモロコシ だねえ」 と ジョバンニ に いいました けれども ジョバンニ は どうしても キモチ が なおりません でした から、 ただ ブッキリボウ に ノハラ を みた まま 「そう だろう」 と こたえました。 その とき キシャ は だんだん しずか に なって イクツ か の シグナル と テンテツキ の アカリ を すぎ ちいさな テイシャバ に とまりました。
 その ショウメン の あおじろい トケイ は かっきり ダイ 2 ジ を しめし、 その フリコ は カゼ も なくなり キシャ も うごかず しずか な しずか な ノハラ の ナカ に かちっかちっ と ただしく トキ を きざんで いく の でした。
 そして まったく その フリコ の オト の タエマ を トオク の トオク の ノハラ の ハテ から、 かすか な かすか な センリツ が イト の よう に ながれて くる の でした。 「シンセカイ コウキョウガク だわ」 アネ が ヒトリゴト の よう に こっち を みながら そっと いいました。 まったく もう クルマ の ナカ では あの クロフク の タケ たかい セイネン も ダレ も ミンナ やさしい ユメ を みて いる の でした。
(こんな しずか な いい とこ で ボク は どうして もっと ユカイ に なれない だろう。 どうして こんな に ヒトリ さびしい の だろう。 けれども カムパネルラ なんか あんまり ひどい、 ボク と イッショ に キシャ に のって いながら まるで あんな オンナ の コ と ばかり はなして いる ん だ もの。 ボク は ホントウ に つらい。) ジョバンニ は また リョウテ で カオ を ハンブン かくす よう に して ムコウ の マド の ソト を みつめて いました。 すきとおった ガラス の よう な フエ が なって キシャ は しずか に うごきだし、 カムパネルラ も さびしそう に ホシメグリ の クチブエ を ふきました。
「ええ、 ええ、 もう この ヘン は ひどい コウゲン です から」 ウシロ の ほう で ダレ か トシヨリ らしい ヒト の イマ メ が さめた と いう ふう で はきはき はなして いる コエ が しました。
「トウモロコシ だって ボウ で 2 シャク も アナ を あけて おいて、 そこ へ まかない と はえない ん です」
「そう です か。 カワ まで は よほど ありましょう かねえ、」
「ええ、 ええ、 カワ まで は 2000 ジャク から 6000 ジャク あります。 もう まるで ひどい キョウコク に なって いる ん です」
 そうそう ここ は コロラド の コウゲン じゃ なかったろう か、 ジョバンニ は おもわず そう おもいました。 カムパネルラ は まだ さびしそう に ヒトリ クチブエ を ふき、 オンナ の コ は まるで キヌ で つつんだ リンゴ の よう な カオイロ を して ジョバンニ の みる ほう を みて いる の でした。
 とつぜん トウモロコシ が なくなって おおきな くろい ノハラ が いっぱい に ひらけました。 シンセカイ コウキョウガク は いよいよ はっきり チヘイセン の ハテ から わき、 その マックロ な ノハラ の ナカ を ヒトリ の インデアン が しろい トリ の ハネ を アタマ に つけ タクサン の イシ を ウデ と ムネ に かざり、 ちいさな ユミ に ヤ を つがえて イチモクサン に キシャ を おって くる の でした。
「あら、 インデアン です よ。 インデアン です よ。 ごらんなさい」
 クロフク の セイネン も メ を さましました。 ジョバンニ も カムパネルラ も たちあがりました。
「はしって くる わ、 あら、 はしって くる わ。 おいかけて いる ん でしょう」
「いいえ、 キシャ を おってる ん じゃ ない ん です よ。 リョウ を する か おどる か してる ん です よ」 セイネン は イマ どこ に いる か わすれた と いう ふう に ポケット に テ を いれて たちながら いいました。
 まったく インデアン は ハンブン は おどって いる よう でした。 だいいち かける に して も アシ の フミヨウ が もっと ケイザイ も とれ ホンキ にも なれそう でした。 にわか に くっきり しろい その ハネ は マエ の ほう へ たおれる よう に なり、 インデアン は ぴたっと たちどまって すばやく ユミ を ソラ に ひきました。 そこ から 1 ワ の ツル が ふらふら と おちて きて、 また はしりだした インデアン の おおきく ひろげた リョウテ に おちこみました。 インデアン は うれしそう に たって わらいました。 そして その ツル を もって こっち を みて いる カゲ も、 もう どんどん ちいさく とおく なり、 デンシンバシラ の ガイシ が きらっきらっ と つづいて フタツ ばかり ひかって、 また トウモロコシ の ハヤシ に なって しまいました。 コッチガワ の マド を みます と キシャ は ホントウ に たかい たかい ガケ の ウエ を はしって いて、 その タニ の ソコ には カワ が やっぱり はばひろく あかるく ながれて いた の です。
「ええ、 もう この ヘン から クダリ です。 なんせ コンド は イッペン に あの スイメン まで おりて いく ん です から ヨウイ じゃ ありません。 この ケイシャ が ある もん です から キシャ は けっして ムコウ から こっち へは こない ん です。 そら、 もう だんだん はやく なった でしょう」 サッキ の ロウジン らしい コエ が いいました。
 どんどん どんどん キシャ は おりて いきました。 ガケ の ハジ に テツドウ が かかる とき は カワ が あかるく シタ に のぞけた の です。 ジョバンニ は だんだん ココロモチ が あかるく なって きました。 キシャ が ちいさな コヤ の マエ を とおって、 その マエ に しょんぼり ヒトリ の コドモ が たって こっち を みて いる とき など は おもわず、 ほう、 と さけびました。
 どんどん どんどん キシャ は はしって いきました。 ヘヤジュウ の ヒトタチ は ハンブン ウシロ の ほう へ たおれる よう に なりながら コシカケ に しっかり しがみついて いました。 ジョバンニ は おもわず カムパネルラ と わらいました。 もう そして アマノガワ は キシャ の すぐ ヨコテ を イマ まで よほど はげしく ながれて きた らしく、 ときどき ちらちら ひかって ながれて いる の でした。 うすあかい カワラ ナデシコ の ハナ が あちこち さいて いました。 キシャ は ようやく おちついた よう に ゆっくり と はしって いました。
 ムコウ と こっち の キシ に ホシ の カタチ と ツルハシ を かいた ハタ が たって いました。
「あれ なんの ハタ だろう ね」 ジョバンニ が やっと モノ を いいました。
「さあ、 わからない ねえ、 チズ にも ない ん だ もの。 テツ の フネ が おいて ある ねえ」
「ああ」
「ハシ を かける とこ じゃ ない ん でしょう か」 オンナ の コ が いいました。
「ああ あれ コウヘイ の ハタ だねえ。 カキョウ エンシュウ を してる ん だ。 けれど ヘイタイ の カタチ が みえない ねえ」
 その とき、 ムコウギシ チカク の すこし カリュウ の ほう で みえない アマノガワ の ミズ が ぎらっと ひかって、 ハシラ の よう に たかく はねあがり、 どぉ と はげしい オト が しました。
「ハッパ だよ、 ハッパ だよ」 カムパネルラ は コオドリ しました。
 その ハシラ の よう に なった ミズ は みえなく なり、 おおきな サケ や マス が きらっきらっ と しろく ハラ を ひからせて クウチュウ に ほうりだされて、 まるい ワ を えがいて また ミズ に おちました。 ジョバンニ は もう はねあがりたい くらい キモチ が かるく なって いいました。
「ソラ の コウヘイ ダイタイ だ。 どう だ、 マス や なんか が まるで こんな に なって はねあげられた ねえ。 ボク こんな ユカイ な タビ は した こと ない。 いい ねえ」
「あの マス なら チカク で みたら これ くらい ある ねえ、 たくさん サカナ いる ん だな、 この ミズ の ナカ に」
「ちいさな オサカナ も いる ん でしょう か」 オンナ の コ が ハナシ に つりこまれて いいました。
「いる ん でしょう。 おおきな の が いる ん だ から ちいさい の も いる ん でしょう。 けれど トオク だ から イマ ちいさい の みえなかった ねえ」 ジョバンニ は もう すっかり キゲン が なおって おもしろそう に わらって オンナ の コ に こたえました。
「あれ きっと フタゴ の オホシサマ の オミヤ だよ」 オトコ の コ が いきなり マド の ソト を さして さけびました。
 ミギテ の ひくい オカ の ウエ に ちいさな スイショウ で でも こさえた よう な フタツ の オミヤ が ならんで たって いました。
「フタゴ の オホシサマ の オミヤ って ナン だい」
「アタシ マエ に ナンベン も オカアサン から きいた わ。 ちゃんと ちいさな スイショウ の オミヤ で フタツ ならんで いる から きっと そう だわ」
「はなして ごらん。 フタゴ の オホシサマ が ナニ した って の」
「ボク も しってらい。 フタゴ の オホシサマ が ノハラ へ あそび に でて、 カラス と ケンカ した ん だろう」
「そう じゃ ない わよ。 あのね、 アマノガワ の キシ に ね、 オッカサン おはなし なすった わ、……」
「それから ホウキボシ が ぎーぎーふー ぎーぎーふー て いって きた ねえ」
「いや だわ タア ちゃん、 そう じゃ ない わよ。 それ は ベツ の ほう だわ」
「すると あすこ に イマ フエ を ふいて いる ん だろう か」
「イマ ウミ へ いってらあ」
「いけない わよ。 もう ウミ から あがって いらっしゃった のよ」
「そうそう。 ボク しってらあ、 ボク おはなし しよう」
コメント
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