カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ギンガ テツドウ の ヨル 4

2012-06-05 | ミヤザワ ケンジ
 カワ の ムコウギシ が にわか に あかく なりました。 ヤナギ の キ や ナニ か も マックロ に すかしだされ、 みえない アマノガワ の ナミ も ときどき ちらちら ハリ の よう に あかく ひかりました。 まったく ムコウギシ の ノハラ に おおきな マッカ な ヒ が もやされ、 その くろい ケムリ は たかく キキョウイロ の つめたそう な テン をも こがしそう でした。 ルビー より も あかく すきとおり リチウム より も うつくしく よった よう に なって その ヒ は もえて いる の でした。
「あれ は なんの ヒ だろう。 あんな あかく ひかる ヒ は ナニ を もやせば できる ん だろう」 ジョバンニ が いいました。
「サソリ の ヒ だな」 カムパネルラ が また チズ と クビッピキ して こたえました。
「あら、 サソリ の ヒ の こと なら アタシ しってる わ」
「サソリ の ヒ って ナン だい」 ジョバンニ が ききました。
「サソリ が やけて しんだ のよ。 その ヒ が イマ でも もえてる って アタシ ナンベン も オトウサン から きいた わ」
「サソリ って、 ムシ だろう」
「ええ、 サソリ は ムシ よ。 だけど いい ムシ だわ」
「サソリ いい ムシ じゃ ない よ。 ボク ハクブツカン で アルコール に つけて ある の みた。 オ に こんな カギ が あって それ で さされる と しぬ って センセイ が いった よ」
「そう よ。 だけど いい ムシ だわ、 オトウサン こう いった のよ。 ムカシ の バルドラ の ノハラ に 1 ピキ の サソリ が いて ちいさな ムシ や なんか ころして たべて いきて いた ん ですって。 すると ある ヒ イタチ に みつかって たべられそう に なった ん ですって。 サソリ は イッショウ ケンメイ にげて にげた けど、 とうとう イタチ に おさえられそう に なった わ、 その とき、 いきなり マエ に イド が あって その ナカ に おちて しまった わ、 もう どうしても あがられない で サソリ は おぼれはじめた のよ。 その とき サソリ は こう いって おいのり した と いう の。
 ああ、 ワタシ は イマ まで イクツ の もの の イノチ を とった か わからない、 そして その ワタシ が コンド イタチ に とられよう と した とき は あんな に イッショウ ケンメイ にげた。 それでも とうとう こんな に なって しまった。 ああ なんにも アテ に ならない。 どうして ワタシ は ワタシ の カラダ を だまって イタチ に くれて やらなかったろう。 そしたら イタチ も 1 ニチ いきのびたろう に。 どうか カミサマ。 ワタシ の ココロ を ゴラン ください。 こんな に むなしく イノチ を すてず、 どうか この ツギ には マコト の ミンナ の サイワイ の ため に ワタシ の カラダ を おつかい ください。 って いった と いう の。 そしたら いつか サソリ は ジブン の カラダ が マッカ な うつくしい ヒ に なって もえて、 ヨル の ヤミ を てらして いる の を みた って。 イマ でも もえてる って オトウサン おっしゃった わ。 ホントウ に あの ヒ それ だわ」
「そう だ。 みたまえ。 そこら の サンカクヒョウ は ちょうど サソリ の カタチ に ならんで いる よ」
 ジョバンニ は まったく その おおきな ヒ の ムコウ に ミッツ の サンカクヒョウ が、 ちょうど サソリ の ウデ の よう に、 こっち に イツツ の サンカクヒョウ が サソリ の オ や カギ の よう に ならんで いる の を みました。 そして ホントウ に その マッカ な うつくしい サソリ の ヒ は オト なく あかるく あかるく もえた の です。
 その ヒ が だんだん ウシロ の ほう に なる に つれて、 ミンナ は なんとも いえず にぎやか な サマザマ の ガク の ネ や クサバナ の ニオイ の よう な もの、 クチブエ や ヒトビト の ざわざわ いう コエ やら を ききました。 それ は もう じき チカク に マチ か ナニ か が あって そこ に オマツリ でも ある と いう よう な キ が する の でした。
「ケンタウル ツユ を ふらせ」 いきなり イマ まで ねむって いた ジョバンニ の トナリ の オトコ の コ が ムコウ の マド を みながら さけんで いました。
 ああ そこ には クリスマス トリー の よう に マッサオ な トウヒ か モミ の キ が たって、 その ナカ には タクサン の タクサン の マメデントウ が まるで セン の ホタル でも あつまった よう に ついて いました。
「ああ、 そう だ、 コンヤ ケンタウル-サイ だねえ」
「ああ、 ここ は ケンタウル の ムラ だよ」 カムパネルラ が すぐ いいました。 〔イカ ゲンコウ 1 マイ? なし〕

「ボール-ナゲ なら ボク けっして はずさない」
 オトコ の コ が オオイバリ で いいました。
「もう じき サウザン クロス です。 おりる シタク を して ください」 セイネン が ミンナ に いいました。
「ボク もすこし キシャ へ のってる ん だよ」 オトコ の コ が いいました。 カムパネルラ の トナリ の オンナ の コ は そわそわ たって シタク を はじめました けれども、 やっぱり ジョバンニ たち と わかれたく ない よう な ヨウス でした。
「ここ で おりなきゃ いけない の です」 セイネン は きちっと クチ を むすんで オトコ の コ を みおろしながら いいました。
「いや だい。 ボク もうすこし キシャ へ のって から いく ん だい」
 ジョバンニ が こらえかねて いいました。
「ボクタチ と イッショ に のって いこう。 ボクタチ どこ まで だって いける キップ もってる ん だ」
「だけど アタシタチ もう ここ で おりなきゃ いけない のよ。 ここ テンジョウ へ いく とこ なん だ から」 オンナ の コ が さびしそう に いいました。
「テンジョウ へ なんか いかなくたって いい じゃ ない か。 ボクタチ ここ で テンジョウ より も もっと いい とこ を こさえなきゃ いけない って ボク の センセイ が いった よ」
「だって オッカサン も いって らっしゃる し、 それに カミサマ が おっしゃる ん だわ」
「そんな カミサマ ウソ の カミサマ だい」
「アナタ の カミサマ ウソ の カミサマ よ」
「そう じゃ ない よ」
「アナタ の カミサマ って どんな カミサマ です か」 セイネン は わらいながら いいました。
「ボク ホントウ は よく しりません、 けれども そんな ん で なし に ホントウ の たった ヒトリ の カミサマ です」
「ホントウ の カミサマ は もちろん たった ヒトリ です」
「ああ、 そんな ん で なし に たった ヒトリ の ホントウ の ホントウ の カミサマ です」
「だから そう じゃ ありません か。 ワタクシ は アナタガタ が いまに その ホントウ の カミサマ の マエ に ワタクシタチ と おあい に なる こと を いのります」 セイネン は つつましく リョウテ を くみました。 オンナ の コ も ちょうど その とおり に しました。 ミンナ ホントウ に ワカレ が おしそう で その カオイロ も すこし あおざめて みえました。 ジョバンニ は あぶなく コエ を あげて なきだそう と しました。
「さあ もう シタク は いい ん です か。 じき サウザン クロス です から」
 ああ その とき でした。 みえない アマノガワ の ずうっと カワシモ に、 アオ や ダイダイ や、 もう あらゆる ヒカリ で ちりばめられた ジュウジカ が まるで 1 ポン の キ と いう ふう に カワ の ナカ から たって かがやき、 その ウエ には あおじろい クモ が まるい ワ に なって ゴコウ の よう に かかって いる の でした。 キシャ の ナカ が まるで ざわざわ しました。 ミンナ あの キタ の ジュウジ の とき の よう に マッスグ に たって オイノリ を はじめました。 あっち にも こっち にも コドモ が ウリ に とびついた とき の よう な ヨロコビ の コエ や、 なんとも イイヨウ ない ふかい つつましい タメイキ の オト ばかり きこえました。 そして だんだん ジュウジカ は マド の ショウメン に なり、 あの リンゴ の ニク の よう な あおじろい ワ の クモ も ゆるやか に ゆるやか に めぐって いる の が みえました。
「ハルレヤ ハルレヤ」 あかるく たのしく ミンナ の コエ は ひびき、 ミンナ は その ソラ の トオク から、 つめたい ソラ の トオク から、 すきとおった なんとも いえず さわやか な ラッパ の コエ を ききました。 そして タクサン の シグナル や デントウ の アカリ の ナカ を キシャ は だんだん ゆるやか に なり、 とうとう ジュウジカ の ちょうど マムカイ に いって すっかり とまりました。
「さあ、 おりる ん です よ」 セイネン は オトコ の コ の テ を ひき、 だんだん ムコウ の デグチ の ほう へ あるきだしました。
「じゃ さよなら」 オンナ の コ が ふりかえって フタリ に いいました。
「さよなら」 ジョバンニ は まるで なきだしたい の を こらえて おこった よう に ブッキリボウ に いいました。 オンナ の コ は いかにも つらそう に メ を おおきく して も イチド こっち を ふりかえって、 それから アト は もう だまって でて いって しまいました。 キシャ の ナカ は もう ハンブン イジョウ も あいて しまい、 にわか に がらん と して さびしく なり カゼ が いっぱい に ふきこみました。
 そして みて いる と ミンナ は つつましく レツ を くんで、 あの ジュウジカ の マエ の アマノガワ の ナギサ に ひざまずいて いました。 そして その みえない アマノガワ の ミズ を わたって、 ヒトリ の こうごうしい しろい キモノ の ヒト が テ を のばして こっち へ くる の を フタリ は みました。 けれども その とき は もう ガラス の ヨビコ は ならされ、 キシャ は うごきだし、 と おもう うち に ギンイロ の キリ が カワシモ の ほう から すうっと ながれて きて、 もう そっち は なにも みえなく なりました。 ただ タクサン の クルミ の キ が ハ を さんさん と ひからして その キリ の ナカ に たち、 キン の エンコウ を もった デンキ リス が かわいい カオ を その ナカ から ちらちら のぞいて いる だけ でした。

 その とき すうっと キリ が はれかかりました。 どこ か へ いく カイドウ らしく ちいさな デントウ の イチレツ に ついた トオリ が ありました。 それ は しばらく センロ に そって すすんで いました。 そして フタリ が その アカシ の マエ を とおって いく とき は、 その ちいさな マメイロ の ヒ は ちょうど アイサツ でも する よう に ぽかっと きえ、 フタリ が すぎて いく とき また つく の でした。
 ふりかえって みる と サッキ の ジュウジカ は すっかり ちいさく なって しまい、 ホントウ に もう そのまま ムネ にも つるされそう に なり、 サッキ の オンナ の コ や セイネン たち が その マエ の しろい ナギサ に まだ ひざまずいて いる の か、 それとも どこ か ホウガク も わからない その テンジョウ へ いった の か ぼんやり して みわけられません でした。
 ジョバンニ は ああ と ふかく イキ しました。
「カムパネルラ、 また ボクタチ フタリ きり に なった ねえ、 どこまでも どこまでも イッショ に いこう。 ボク は もう あの サソリ の よう に ホントウ に ミンナ の サイワイ の ため ならば ボク の カラダ なんか 100 ペン やいて も かまわない」
「うん。 ボク だって そう だ」 カムパネルラ の メ には きれい な ナミダ が うかんで いました。
「けれども ホントウ の サイワイ は いったい ナン だろう」 ジョバンニ が いいました。
「ボク わからない」 カムパネルラ が ぼんやり いいました。
「ボクタチ しっかり やろう ねえ」 ジョバンニ が ムネイッパイ あたらしい チカラ が わく よう に ふう と イキ を しながら いいました。
「あ、 あすこ セキタンブクロ だよ。 ソラ の アナ だよ」 カムパネルラ が すこし そっち を さける よう に しながら アマノガワ の ヒトトコ を ゆびさしました。 ジョバンニ は そっち を みて まるで ぎくっと して しまいました。 アマノガワ の ヒトトコ に おおきな マックラ な アナ が どおん と あいて いる の です。 その ソコ が どれほど ふかい か その オク に ナニ が ある か、 いくら メ を こすって のぞいて も なんにも みえず、 ただ メ が しんしん と いたむ の でした。 ジョバンニ が いいました。
「ボク もう あんな おおきな ヤミ の ナカ だって こわく ない。 きっと ミンナ の ホントウ の サイワイ を さがし に いく。 どこまでも どこまでも ボクタチ イッショ に すすんで いこう」
「ああ きっと いく よ。 ああ、 あすこ の ノハラ は なんて きれい だろう。 ミンナ あつまってる ねえ。 あすこ が ホントウ の テンジョウ なん だ。 あっ あすこ に いる の ボク の オカアサン だよ」 カムパネルラ は にわか に マド の トオク に みえる きれい な ノハラ を さして さけびました。
 ジョバンニ も そっち を みました けれども そこ は ぼんやり しろく けむって いる ばかり、 どうしても カムパネルラ が いった よう に おもわれません でした。 なんとも いえず さびしい キ が して ぼんやり そっち を みて いましたら、 ムコウ の カワギシ に 2 ホン の デンシンバシラ が ちょうど リョウホウ から ウデ を くんだ よう に あかい ウデギ を つらねて たって いました。
「カムパネルラ、 ボクタチ イッショ に いこう ねえ」 ジョバンニ が こう いいながら ふりかえって みましたら、 その イマ まで カムパネルラ の すわって いた セキ に もう カムパネルラ の カタチ は みえず ただ くろい ビロウド ばかり ひかって いました。 ジョバンニ は まるで テッポウダマ の よう に たちあがりました。 そして ダレ にも きこえない よう に マド の ソト へ カラダ を のりだして、 ちからいっぱい はげしく ムネ を うって さけび、 それから もう ノド いっぱい なきだしました。 もう そこら が イッペン に マックラ に なった よう に おもいました。

 ジョバンニ は メ を ひらきました。 モト の オカ の クサ の ナカ に つかれて ねむって いた の でした。 ムネ は なんだか おかしく ほてり、 ホオ には つめたい ナミダ が ながれて いました。
 ジョバンニ は バネ の よう に はねおきました。 マチ は すっかり サッキ の とおり に シタ で タクサン の アカリ を つづって は いました が、 その ヒカリ は なんだか サッキ より は ねっした と いう ふう でした。 そして たったいま ユメ で あるいた アマノガワ も やっぱり サッキ の とおり に しろく ぼんやり かかり、 マックロ な ミナミ の チヘイセン の ウエ では ことに けむった よう に なって、 その ミギ には サソリ-ザ の あかい ホシ が うつくしく きらめき、 ソラ ゼンタイ の イチ は そんな に かわって も いない よう でした。
 ジョバンニ は イッサン に オカ を はしって くだりました。 まだ ユウゴハン を たべない で まって いる オカアサン の こと が ムネイッパイ に おもいだされた の です。 どんどん くろい マツ の ハヤシ の ナカ を とおって、 それから ほのじろい ボクジョウ の サク を まわって サッキ の イリグチ から くらい ギュウシャ の マエ へ また きました。 そこ には ダレ か が イマ かえった らしく、 さっき なかった ヒトツ の クルマ が ナニ か の タル を フタツ のっけて おいて ありました。
「こんばんわ、」 ジョバンニ は さけびました。
「はい」 しろい ふとい ズボン を はいた ヒト が すぐ でて きて たちました。
「なんの ゴヨウ です か」
「キョウ ギュウニュウ が ボク の ところ へ こなかった の です が」
「あ、 すみません でした」 その ヒト は すぐ オク へ いって 1 ポン の ギュウニュウビン を もって きて ジョバンニ に わたしながら また いいました。
「ホントウ に、 すみません でした。 キョウ は ヒルスギ うっかり して コウシ の サク を あけて おいた もん です から、 タイショウ さっそく オヤウシ の ところ へ いって ハンブン ばかり のんで しまいまして ね……」 その ヒト は わらいました。
「そう です か。 では いただいて いきます」
「ええ、 どうも すみません でした」
「いいえ」
 ジョバンニ は まだ あつい チチ の ビン を リョウホウ の テノヒラ で つつむ よう に もって ボクジョウ の サク を でました。
 そして しばらく キ の ある マチ を とおって オオドオリ へ でて、 また しばらく いきます と ミチ は ジュウモンジ に なって、 その ミギテ の ほう、 トオリ の ハズレ に さっき カムパネルラ たち の アカリ を ながし に いった カワ へ かかった おおきな ハシ の ヤグラ が、 ヨル の ソラ に ぼんやり たって いました。
 ところが その ジュウジ に なった マチカド や ミセ の マエ に、 オンナ たち が 7~8 ニン ぐらい ずつ あつまって ハシ の ほう を みながら、 ナニ か ひそひそ はなして いる の です。 それから ハシ の ウエ にも イロイロ な アカリ が いっぱい なの でした。
 ジョバンニ は なぜか さあっと ムネ が つめたく なった よう に おもいました。 そして いきなり チカク の ヒトタチ へ、
「ナニ か あった ん です か」 と さけぶ よう に ききました。
「コドモ が ミズ へ おちた ん です よ」 ヒトリ が いいます と その ヒトタチ は イッセイ に ジョバンニ の ほう を みました。 ジョバンニ は まるで ムチュウ で ハシ の ほう へ はしりました。 ハシ の ウエ は ヒト で いっぱい で カワ が みえません でした。 しろい フク を きた ジュンサ も でて いました。
 ジョバンニ は ハシ の タモト から とぶ よう に シタ の ひろい カワラ へ おりました。
 その カワラ の ミズギワ に そって タクサン の アカリ が せわしく のぼったり くだったり して いました。 ムコウギシ の くらい ドテ にも ヒ が ナナツ ヤッツ うごいて いました。 その マンナカ を もう カラスウリ の アカリ も ない カワ が、 わずか に オト を たてて ハイイロ に しずか に ながれて いた の でした。
 カワラ の いちばん カリュウ の ほう へ ス の よう に なって でた ところ に ヒト の アツマリ が くっきり マックロ に たって いました。 ジョバンニ は どんどん そっち へ はしりました。 すると ジョバンニ は いきなり さっき カムパネルラ と イッショ だった マルソ に あいました。 マルソ が ジョバンニ に はしりよって きました。
「ジョバンニ、 カムパネルラ が カワ へ はいった よ」
「どうして、 いつ」
「ザネリ が ね、 フネ の ウエ から カラスウリ の アカリ を ミズ の ながれる ほう へ おして やろう と した ん だ。 その とき フネ が ゆれた もん だ から ミズ へ おっこったろう。 すると カムパネルラ が すぐ とびこんだ ん だ。 そして ザネリ を フネ の ほう へ おして よこした。 ザネリ は カトウ に つかまった。 けれども アト カムパネルラ が みえない ん だ」
「ミンナ さがしてる ん だろう」
「ああ すぐ ミンナ きた。 カムパネルラ の オトウサン も きた。 けれども みつからない ん だ。 ザネリ は ウチ へ つれられてった」
 ジョバンニ は ミンナ の いる そっち の ほう へ いきました。 そこ に ガクセイ たち マチ の ヒトタチ に かこまれて、 あおじろい とがった アゴ を した カムパネルラ の オトウサン が、 くろい フク を きて マッスグ に たって ミギテ に もった トケイ を じっと みつめて いた の です。
 ミンナ も じっと カワ を みて いました。 ダレ も ヒトコト も モノ を いう ヒト も ありません でした。 ジョバンニ は わくわく わくわく アシ が ふるえました。 サカナ を とる とき の アセチレン ランプ が たくさん せわしく いったり きたり して、 くろい カワ の ミズ は ちらちら ちいさな ナミ を たてて ながれて いる の が みえる の でした。
 カリュウ の ほう は カワハバ いっぱい ギンガ が おおきく うつって、 まるで ミズ の ない ソノママ の ソラ の よう に みえました。
 ジョバンニ は、 その カムパネルラ は もう あの ギンガ の ハズレ に しか いない と いう よう な キ が して しかたなかった の です。
 けれども ミンナ は まだ、 どこ か の ナミ の アイダ から、
「ボク ずいぶん およいだ ぞ」 と いいながら カムパネルラ が でて くる か、 あるいは カムパネルラ が どこ か の ヒト の しらない ス に でも ついて たって いて、 ダレ か の くる の を まって いる か と いう よう な キ が して しかたない らしい の でした。 けれども にわか に カムパネルラ の オトウサン が きっぱり いいました。
「もう ダメ です。 おちて から 45 フン たちました から」
 ジョバンニ は おもわず かけよって ハカセ の マエ に たって、 ボク は カムパネルラ の いった ほう を しって います、 ボク は カムパネルラ と イッショ に あるいて いた の です と いおう と しました が、 もう ノド が つまって なんとも いえません でした。 すると ハカセ は ジョバンニ が アイサツ に きた と でも おもった もの です か、 しばらく しげしげ ジョバンニ を みて いました が、
「アナタ は ジョバンニ さん でした ね。 どうも コンバン は ありがとう」 と テイネイ に いいました。
 ジョバンニ は なにも いえず に ただ オジギ を しました。
「アナタ の オトウサン は もう かえって います か」 ハカセ は かたく トケイ を にぎった まま、 また ききました。
「いいえ」 ジョバンニ は かすか に アタマ を ふりました。
「どうした の かなあ、 ボク には オトトイ たいへん ゲンキ な タヨリ が あった ん だ が。 キョウ アタリ もう つく コロ なん だ が。 フネ が おくれた ん だな。 ジョバンニ さん。 アシタ ホウカゴ ミナサン と ウチ へ あそび に きて ください ね」
 そう いいながら ハカセ は また カワシモ の ギンガ の いっぱい に うつった ほう へ じっと メ を おくりました。
 ジョバンニ は もう イロイロ な こと で ムネ が いっぱい で なんにも いえず に ハカセ の マエ を はなれて、 はやく オカアサン に ギュウニュウ を もって いって、 オトウサン の かえる こと を しらせよう と おもう と、 もう イチモクサン に カワラ を マチ の ほう へ はしりました。
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