カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ゼーロン

2016-11-22 | マキノ シンイチ
 ゼーロン

 マキノ シンイチ

 さらに ワタシ は あたらしい ゲンシ セイカツ に むかう ため に、 イッサイ の ショセキ、 カグ、 フサイ ソノタ の セイリ を おわった が、 サイゴ に、 バイキャク する こと の あたわぬ 1 コ の ブロンズ-セイ の キョウゾウ の シマツ に まよった。 ――ショクン は、 2 ネン ほど マエ の アキ の ニホン ビジュツイン テンランカイ で、 ドウジン ツネカワ マキオ サク の キボリ 「ニワトリ」 「ウシ」 「ミミズク」 -トウ の サクヒン と ならんで 「マキノ シ ゾウ」 なる ブロンズ の トウシン キョウゾウ を カンラン なされた で あろう。 メイヒン と して シキシャ の コウヒョウ を はくした イッサク で ある。
 いろいろ と ワタシ は その シマツ に ついて シアン した が、 けっきょく タツマキ ムラ の フジヤ シ の モト に はこんで ホゾン を こう より ホカ は ミチ は なかった。 かねがね フジヤ シ は ツネカワ の ロウサク 「マキノ シ ゾウ」 の ため に キネン の ウタゲ を はりたい イコウ を もって いた が、 ワタシ の テンテン セイカツ と ともに その サクヒン も もちまわられて いた ので、 ソノママ に なって いた ところ で ある から ワタシ の ケッシン ヒトツ で おりよき キカイ にも なる の で あった。
 ワタシ は トクベツ に ガンジョウ な オオガタ の トザンブクロ に それ を おさめて、 ふとい ツエ を つき、 ヒトフリ の ヤマガタナ を たばさんで シュッパツ した。 あたらしく ケイカク した セイカツジョウ の プロット が すでに モクショウ に せまって いる オリカラ だった ので、 この コウテイ は もっとも すみやか に ショチ して こなければ ならなかった。 で ワタシ は、 ソウチョウ に シンジュク を キテン と する キュウコウ デンシャ に セイキュウ な トザン スガタ の ミ を とうじ、 シュウテン の 4 エキ ほど テマエ の カシワ エキ で おりる と イキ を つく マ も なく ミチ を ホッポウ に ヤク 1 リ さかのぼった ツカダ ムラ に かけのぼって、 ヨテイ の ごとく シリアイ の スイシャゴヤ から バシャヒキウマ の ゼーロン を かりださなければ ならなかった。 チカミチ のみ を えらんで も トホ では ニチボツ まで に ゆきつく こと が コンナン で ある ばかり で なく、 トチュウ の サマザマ な ナンショ は ワタシ の シンライ する ゼーロン の ユウキ を かりなければ、 あまり に ダイタン-すぎる コウテイ だった から で ある。
 この デンシャ の この アタリ の エンセン から、 あるいは アタミ セン の オダワラ エキ に ゲシャ した ヒトビト が、 コウベ を めぐらせて メ を セイホッポウ の ソラ に あげる ならば ヒトビト は、 あたかも ハコネ レンザン と アシガラ レンザン の キョウカイセン に あたる ミョウジンガタケ の ヤマスソ と ドウリョウ の モリ の ハイゴ に くらいして、 むっくり と アタマ を もちあげて いる ダルマ の スガタ に にた ひょうぜん たる ミネ を みいだす で あろう。 ヤグラダケ と よばれて、 カイバツ およそ 3000 ジャク、 そして カイガン まで の キョリ が およそ 10 リ に あまり、 サンチュウ の イッカク から は ゲンザイ ホタテガイ や マホガイ の カセキ が サンシュツ する と いう ので イチブ の チシツ ガクシャ や コウコ ガクト から タショウ の キョウミ を もって カンサツ され、 また ウラガレ の キセツ に なる と フモト の ムラムラ を おそって しばしば ミンカ に キガイ を くわえる オオカミ や キツネ や または イノシシ の カクレガ なり と して、 キンザイ の ジンミン には こよなく おそれられ、 ボウケンズキ の シュリョウカ には アコガレ の マナコ を もって ながめられて いる ところ の ブロッケン で ある。
 ワタシ の ソンケイ する センパイ の フジヤ ハチロウ シ は、 ギリシャ コテン から オウシュウ チュウセイキ キシドウ ブンガク まで の、 もっとも かくれたる ケンキュウカ で その ジュウキョ を みずから ピエルフォン と よんで いる。 その ヤマカイ の モリカゲ に ある ヤシキウチ には、 イクムネ か の きわめて カンソ な マルキゴヤ が テンザイ して いて、 それら には それぞれ 「シャルルマーニュ の タイソウジョウ」 「ラ マンチア の トショシツ」 「P.R.B (プレ-ラファエレ ブラザフッド) の アトリエ」 「イデア の タテ」 「エンタク の ヤカタ」 ソノタ の メイショウ の モト に、 ゲイジュツ の ミチ に ショウジン する もっとも まずしい トモダチ の ため に キシュクシャ と して あたえられる こと に なって いた。 ワタシ は ひさしい アイダ 「イデア の タテ」 の ショッカク と なって フジヤ シ の クンイク を うけた ストア-ハ の ギンユウ サッカ で あり、 この キョウゾウ は その カン に おなじく 「P.R.B」 の チョウコクカ で ある ツネカワ が 2 ネン も の アイダ ワタシ を モデル に して つくった の で ある。 ワタシ が ツネカワ の モデル に なる と きまった とき には、 キンリン の ソンミン たち は ことごとく まずしい ツネカワ の ため に カンシャク の シタウチ を して なぜ もっと ベツヨウ の 「ウマ」 とか 「ウシ」 とか、 さよう な もの を ダイザイ に えらばぬ の だろう と、 その ムクチ な チョウコクカ の ため に ドウジョウ を おしまなかった。 なぜならば ツネカワ の かよう な サクヒン ならば、 ソクザ に バクダイ な カカク を もって バイヤク を もうしこむ キボウシャ が むらがって いた から で ある。 ジンブツ を えらむ ならば、 なぜ ソンチョウ や ジヌシ を モデル に しなかった の だろう。 ソンチョウ の ゾウ ならば ソンピ を もって キネンゾウ を つくる ギ が カケツ されて いる し、 ジヌシ ならば カレ ミズカラ が ミズカラ の ジントク を コウセイ の ソンミン に のこす ため の シルシ と して、 ヒヨウ を おしまず オノレ の ゾウ を ケンセツ して おきたい ノゾミ を もらして いる。 また この チ に エンコ の ふかい サカタ ノ キントキ や ニノミヤ キンジロウ の ゾウ ならば、 ジンジャ や ガッコウ で うやうやしく かいあげる テハズ に なって いる では ない か! それ を まあ、 より にも よって! ――と ワタシ は、 その とき ゲイジュツカ の カンキョウ を わきまえぬ ムラビト たち から、 もっとも フメイヨ な ケイヨウシ を あびせられた こと で あった。
「あんな!」 と カレラ は トジョウ で ワタシ に であう と、 おとなしい ワタシ に あたかも にくむ べき ツミ が ある か の よう に ケイベツ の ウシロユビ を さして、
「あんな ロクデナシ の、 バカヤロウ の ゾウ を つくる なんて!」
 さよう な ヒナン の コエ が ますます たかく なって、 ついには ワタシタチ が シゴトチュウ の アトリエ の マド に むかって イシ を なげつける モノ (それ は ツネカワ の サイケンシャ たち で あった) さえ あらわれる に いたった ので ワタシ は、 ゾウ の メイダイ を たんに 「オトコ の ゾウ」 とか、 ないしは イクブン の センセイショナル な イミ で 「アホウ の クビ」 とか 「ある シジン」 と でも かえた ならば この ナン を まぬかれうる で あろう と ツネカワ に はかった の で ある が、 シュッピン の とき に なる と カレ は ワタシ にも ムダン で やはり 「マキノ シ ゾウ」 ツネカワ マキオ サク と ほりつけた の で ある。 そして カレ は ワタシ の テ を とって、 カイシン の サク を えた こと を よろこび、 ワタシタチ の ピエルフォン セイカツ の キネン と して ワタシ に おくった。 その コロ ワタシ は ジシン の カゲ に のみ おびやかされて おもに ミズカラ を あざける ウタ を つくって いた コロ で あった。 ふたたび カイソウ したく ない ジブン の スガタ で あった。 この ゾウ に 「シジン の ゾウ」 あるいは 「オトコ の カオ」 と でも いう ダイ が ふせられて、 ツネカワ の サクヒン の ヨウゴシャ の テ に わたった ならば ワタシ は サイワイ だった の だ。 しかし フジヤ シ は、 もしも ワタシ が コンゴ の セイカツジョウ で この ゾウ の ショチ に まよった バアイ には、 ツネカワ の ジシン を きずつける こと なし に いつでも ひきとる こと を ワタシ に やくした ヒト で あった。
 フジヤ シ の ピエルフォン は、 ドウリョウ と サルヤマ の モリ を わかつ ノコギリガタ の ケイコク に したがって ミチ を みいだし、 のぼる こと 3 リ、 ヤグラダケ の フモト に うずくまる シンヨウジュ の ミツリン に かこまれた ヤマカイ の タツマキ と よばるる、 50 コ から なる ショウブラク で、 ユウスイ な キナダヌマ の ホトリ に ホウケン の ユメ を のこして いる。 カナガワ ケン アシガラカミ グン に ぞくし、 カシワ エキ から 9 リ の ゼンテイ で ある。
 ワタシ が キョウ の モクテキ に ついて スイシャゴヤ の アルジ に かたった アト に、 ツエ を すて、 ゼーロン を ひきだそう と する と カレ は、 その ツエ を ムチ に する ヨウ が ある だろう――
「コイツ とんでもない ロバ に なって しまった んで……」 と エンセイテキ な オモモチ を うかべた。 そして、 カレ は ワタシ が かよう な オモニ を もって クロウ しなければ ならない キョウ の コウテイ を シンソコ から ドウジョウ し、 それ が もし 「ウシ」 か 「ニワトリ」 で あった ならば イマ ここ で でも ソクザ に バイキャク して ヒサシブリ に ユカイ な サカズキ を あげる こと も できる の だ が 「マキノ シ ゾウ」 では どう する こと も できない、 はやく かたづけて きたまえ、 それから カエリ には チカゴロ ツネカワ が 「ウマ」 の ショウヒン を つくった そう だ から、 そいつ を ミヤゲ に もらって きて くれ、 シチ に でも あずけて のもう では ない か! など と いいながら、 ワタシ に あたらしい カンチク の ムチ を かそう と した。
「ゼーロン!」
 ワタシ は、 ムチ など おそろしい もの の よう に メ も くれず に アイバ の クビ に とりすがった。 「オマエ に ムチ が ヒツヨウ だ なんて どうして しんじられよう。 オマエ を うつ くらい ならば、 ボク は ジブン が うたれた ほう が まし だよ」
 アルジ の コトバ に よる と、 ゼーロン の もっとも カンダイ な アイブシャ で あった ワタシ が ムラズマイ を すてて ミヤコ へ さって から まもなく、 この クリゲ の オウマ は ずぶとい ロバ の セイシツ に かわり、 うたなければ けっして あゆまぬ モクバ の フリ を したり、 ことさら に ビッコ を ひいたり する よう な グブツ に なって しまった、 じつに フカカイ な デキゴト で ある、 キョウ はからずも ワタシ を みいだして ふたたび イゼン の ゼーロン に たちかえり でも したら サイワイ で ある が! との こと で あった。
「たちかえる とも たちかえる とも、 ボク の ゼーロン だ もの」
 ワタシ は むしろ トクイ と、 はかりしれない シンミツサ を いだいて ようよう と タヅナ を とった。
「1 ニチ でも アイツ の スガタ を みず に すむ か と おもえば かえって シアワセ だ」
 アルジ は ワタシ の ハイゴ から ゼーロン を ののしった。 ワタシ は、 ワタシ の たぐいなき ペット の ミミ を リョウテ で おおわず には いられなかった。 ――ゼーロン の ヒヅメ の オト は ワタシ の キライ を よろこんで いる が ごとく に ほがらか に なった。 ワタシ の セナカ では、 うすらおもい ニ が それ に つれて こころよく おどって いた。 ゼーロン の おかげ で ワタシ は、 ク も なく タツマキ ムラ へ ゆきつける で あろう と よろこんだ。 ――これまで スイシャゴヤ の アルジ は、 ツネカワ の サクヒン を バイキャク する ツカイ を さいさん みずから もうしでて、 マチ へ おもむく と それ を テイトウ に して あっちこっち の チャヤ や サカバ で ユウトウ に ふけって は、 ツネカワ に メンボク を つぶす の が ナライ だった が、 あいかわらず さよう な こと に ミ を もちくずして いる と みえる。 キョウ も ワタシ が、 ツネカワ の サクヒン を ジサン した と いう と、 コオドリ しながら フクロ の ナカ を のぞきこんだ が、 キタイ に はずれて ヒジョウ に ラクタン した。
「オマエ の アルジ が ツネカワ の サクヒン を たずさえて マチ へ いく とき には、 オマエ は いつも モクバ に なって やる が いい、 ビッコ を ひいて ふりおとして やって も かまわない さ」
 ワタシ は コキミヨサ を おぼえながら ゼーロン に むかって そんな ミミウチ を した。
 ところが わずか 2 リ ばかり の ツツミ を さかのぼった コロ に なる と、 ゼーロン の ビッコ は しだいに ロコツ の ド を まして ややともすると あやうく ワタシ に ワタシ の シタ を かませよう と したり、 テンラク を おそれる ワタシ を その タテガミ に しがみつかせたり する と いう よう な おそろしい ジョウタイ に なって きた。 そして ミチバタ の アオクサ を みいだす と、 ノリテ の ソンザイ も わすれて クサ を はみ、 どんな に ワタシ が いらだって も そしらぬ フウ を しめす に いたった。
 ワタシ は、 いぶかしく クビ を かたむけ カナシミ に あふれた ノド を ふりしぼって、
「ゼーロン!」 と さけんだ。 「オマエ は ボク を わすれた の か。 1 ネン マエ の ハル…… カワベリ の ネコヤナギ の メ が ふくらみ、 あの ムラザカイ の――」
 ワタシ は 1 ワ の トンビ が ラセン を えがきながら まいあがって いる はるか の チンジュ の モリ の カタワラ に ながめられる くろい モン の イエ を ゆびさして、 おなじ ホウガク に ゼーロン の クビ を もちあげて、
「ゴウヨクモノ の ヤシキ では モモ の ハナ が サカリ で あった コロ に、 オマエ に おくられて ミヤコ に のぼった ピエルフォン の ジャグラー だよ」 と カオ と カオ と を あらためて つきあわせながら うなった が、 ワタシ の ウデ の チカラ が ゆるむ と ドウジ に すぐ うなだれて クサ を はみつづける だけ で あった。 くろい モン は ワタシ の エンカサキ の ヤシキ で ワタシ は しばしば ゼーロン を かって そこ へ せめよせた こと が ある ので、 こう いって かなた を ゆびさした ならば さすが の ロバ も オウジ の はなやか な ユメ を おもいだして イキ を ふきかえす で あろう と かんがえた が ムダ に なった。 ワタシ は、 その うつろ な ミミ に じゅんじゅん と ささやく こと で ロバ の キオク を よびさまそう と した。
「ゼーロン。 オマエ は、 ゴウヨクモノ の サカグラ を おそって サカダル を ダツリャク する この ドロボウ シジン の、 ブセハラス では なかった か! あの とき の よう に もう イチド この タテガミ を ふりあげて かけだして くれ。 これ でも おもいだせぬ と いう ならば、 そう だ、 では あの コロ の ウタ を うたおう よ。 ボク が、 この バラッド を うたう と オマエ は ウタ の カンキュウ の ド に あわせて、 はやく も ゆるやか にも ジユウ に アシナミ を そろえた では ない か」
 サカズキ に ふれなば おもいおこせ よ、 かつて、 そ は、 キング ヒエロ の ウタゲ にて、 モリカゲ ふかき ジョウサイ の、 いと ふるびたる マル テーブル に、 ショウシ あまた まねかれにし―― ワタシ は、 カナシミ を こらえて ソウカイゲ な ミエ を きりながら ふるい ジサク の 「シン キャンタベリー」 と だいする ウマオイウタ を、 ロッキャクイン を ふんだ アイオン-チョウ で ロウギン しはじめた が いっこう キキメ が なかった。
「5 ガツ の アサマダキ に、 イッペン の はなやか なる クモ を おって、 この おろか な アルキメデス の コウハイ に ユレーカ! を さけばしめた オマエ は、 ボク の ペガサス では なかった か! ゼンノウ の アイ の ため に、 イシ の ウエ に サヨウ する ゼンビ の ため に、 クモン の トウスイ の ウチ に シンリ の ハナ を さがしもとめん が ため に、 エピクテート ガッコウ の タイイクジョウ へ はせさんずる ストア ガクセイ の、 オマエ は ユウカン な ロシナンテ では なかった か!」
 ワタシ は クラ を たたきながら、 ショウシ ミナ サカズキ と ツルギ を あげて オウ に ちかいたり、 ワレ こそ オウ の カンムリ の、 うしなわれたる ホウセキ を…… と、 うたいつづけて コブシ を ふりまわした が ガンキョウ な ロバ は びくとも しなかった。
 ワタシ は クラ から とびおりる と、 コンド は マンシン の チカラ を リョウウデ に こめて、 ボルガ の フナビト に にた ミガマエ で ウム なく タヅナ を えいや と ひっぱった が、 イシ に そわぬ ウマ の チカラ に ニンゲン の ワンリョク なんて およぶ べく も なかった。 たんに ワタシ の アシ が すべって、 いや と いう ほど ワタシ は ヒタイ を ジメン に うちつけた に すぎなかった。 ワタシ は、 ぽろぽろ と ナミダ を ながしながら ふたたび クラ に もどる と、
「あの コロ の オマエ は ムラ の イザカヤ で セイキ を うしなって いる ボク を――」 と ことさら に その とおり の オモイイレ で、 ぐったり と して、 あたかも ニンゲン に モノ いう が ごとく さめざめ と シンアイ の ジョウ を ふくめて、
「ちゃんと この セナカ に のせて、 シンヤ の ミチ を タヅナ を とる モノ も なく とも、 ボク の スミカ まで おくりとどけて くれた シンセツ な ゼーロン で あった じゃ ない かね!」 と かきくどきながら、 おお、 よいたりけり な、 ホシアカリ の ミチ に よいしれて、 ヤカタ へ かえる モノノフ の、 マボロシ の ウレイ を タレ ぞ しる、 ゆけ ルージャ の オナゴ たち…… ワタシ は ホメロス-チョウ の カンキュウイン で うたった が、 ゼーロン は あくまでも ふぬけた よう に しらじらしく ラチ も ない アリサマ で あった。 ドンジュウ な マブタ を ものうげ に ふせた まま、 マバタキ も せず しんじつ バジ トウフウ に そしらぬ スガタ を たもちつづける のみ だった。 そして、 ハオト を たてて まって いる メ の サキ の アブ を ながめて いた が、 ふと そいつ が ハナ の サキ に とまろう と する と、 この エイエン の モクバ は、 やにわに おそろしい ドウブルイ を あげて ウシロ の 2 キャク を もって はげしく ジメン を けり、 シニモノグルイ で ある か の よう な キョウフ の サケビ を あげた。 ワタシ も、 おもわず カレ の に ツイジュウ した ヒメイ を あげて、 その クビネ に カエル の よう に かじりつかず には いられなかった。 およそ イゼン の ゼーロン には みいだす こと の できなかった おどろく べき オクビョウサ で ある。
 これ に はじめて イキオイ を えた ゼーロン は、 ノバナ の さかん な カワヅツミ を まっしぐら に かけだした の で ある。 ワタシ は、 この とき と ばかり に つとめて、 クチブエ と コウゴ に カンキュウ な バラッド を ムチ に して、 「こわれかかった クルマ」 の スピード を あやつった。 ゼーロン の アシサバキ は ビッコ で あった から かければ かける ほど ランザツ な ヤバン な オンキョウ を まきおこし、 クチ を ダラシ も なく コクウ に むけて ハ を むきだし、 フタツ の ハナ から はきだす ふとい 2 ホン の ケムリ の ボウ で チョウメイ な ヒカリ を フンサイ した。 ワタシ は、 こんな モノオト ばかり すさまじい ボロ-キカンシャ を ソウジュウ して、 ユクテ の けわしい ヤマミチ を こえなければ ならない か と おもう と、 キュウ に セナカ の ニモツ が オモミ を まして きて、 ややともすると ソウチョウ な カレイ な セイチョウ を ようする はず の ショウカ が ふるえて たえいりそう に なった が、 そんな ケハイ を さとられて またもや ゼーロン の キセイ が くじけたら イチダイジ だ と うれえた から、 チ を はく オモイ の ヒソウ な ノド を しぼりあげて、 マ の すむ ヌマ も イバラ の ミチ も、 わが ゆく コマ の ヒヅメ に けられ…… と、 ランミャク な ヒクソス の シングンカ を わめきたてながら、 ワレ と わが ムネ を メッタウチ の ドラ と かきならす ランチキ サワギ の カゼ を まきおこして ここ を センド と トッシン した。 なぜなら ワタシ は、 ある リユウ で どんな ムラビト に であって も グアイ の わるい ジョウタイ で あった から、 ホンライ ならば もっとも すみやか な カゼ に なって ここら アタリ は かけぬけて しまわなければ ならなかった の で ある。 それゆえ ツカダ ムラ でも その ソンドウ を えらべば こんな カワラヅタイ を する より は バイ も チカミチ で あった が、 よぎなく かなた の チンジュ の モリ を ヒダリテ に アゼミチ を つたって ダイウカイ を しながら およそ 1 リ に ちかい コ を えがいた。 そして ツギ の イノハナ ムラ を めざして いる の で あった。 ワタシ は あちこち の ダンダンバタケ や ノラ の ナカ で たちはたらいて いる ヒトビト が、 この サワギ に カオ を あげよう と する の を おそれて、 ヒトビト の テンザイ の ウム に したがって、 コウゴ に あわただしく オノレ の ジョウタイ を コメツキ バッタ の よう に ゼーロン の タテガミ の カゲ に ひるがえしながら ソンダイ な ウタ を つづけて ヒヤアセ を しぼった。 この フキソク に ゲキレツ な ウンドウ に つれて セナカ の ニモツ は おもわず はねあがって ワタシ の コウトウブ に ごつん と つきあたったり、 セボネ いっぱい を イキ も とまれ と いわん ばかり に はたきつけたり した が ワタシ は、 やがて トウタツ す べき ピエルフォン の 「モリカゲ ふかき ジョウサイ の」 キョウエン の タク を マブタ の ウラ に えがきながら、 この モウレツ な クモン に じゅんじた。
 ようやく の オモイ で ツカダ ムラ を ブジ に とおりこす と、 コンド は、 オカ と いう より は むしろ コヤマ と いう べき ダンダン の ムギバタケ が つみかさなって ゆく サカ を のぼって、 イノハナ ムラ に おりる の で ある。 ワタシ は、 タテガミ の ナカ に カオ を うずめて その デコボコ の はげしい ジグザグ の サカ を のぼりながら、 ビッコウマ は ヘイタン な ミチ より も むしろ サカミチ の ほう が ノリテ に キラク を かんぜしめる と いう イチ ジジツ を みいだしたり など した。 オカ の イタダキ に たっする と ガンカ に イノハナ ムラ の ケシキ が イチボウ の モト に みおろせる が ワタシ は、 この イタダキ を ちょうど キョダイ な スリバチ の フチ を たどる よう に ハンシュウ して、 イッキ に ムラ の ムカイガワ へ とびこえる つもり で あった。 ――そう すれば、 その サキ は まったく ジンカ の とだえた モリ や ノ や タニマ の レンゾク で、 ジョウジン に とって は ナンショ で ある が ワタシ には むしろ キガル に なる はず だった。 しかし それら の ユクテ の ミチ を ソウゾウ する と ワタシ は もはや イッコク の ユウヨ も おしまねば ならなかった。 ヒ は すでに チュウテン を とおく はなれて、 ムラサキイロ の ヤグラダケ の ソラ を うすあかく そめて いた。 ミチ は まだ ナカバ にも たっして いない の だ。 ワタシ は、 ケンメイ に ゼーロン を あやつりながら ツナワタリ でも して いる か の よう な あやうい ココチ で スリバチ の フチ を たどりはじめた。 サキザキ の ミチ では どうしても ゼーロン の ジュウジュン な チカラ を かりなければ ならぬ こと を おもって ワタシ は クラ から おりて なるべく しずか な ヒトリアルキ を こころみせしめた。 サキ に たたせて あるかせて みる と ゼーロン の ビッコ は ワタシ に ヨウイ ならぬ フアン の ネン を いだかせた。 ワタシ は スイシャゴヤ で もらって きた スイトウ の サケ を ゼーロン の クチ に そそぎこんだり、 テイテツ を しらべたり、 キャクブ を サケ の シズク で シップ したり して ユクテ の ミチ の ため の ダイジ を とった。 なぜなら この スリバチ を のりこえて ツギ の ケイコク に さしかかる と そこ は まさしく ヒル なお くらい シンリン チタイ で、 この モリ ふかく にげこめば タイガイ の アクニン は オッテ の メ を くらませる こと が できる と いう ナンショ で ある。 ここ には フロウシャ の スガタ に ミ を やつした トウゾクダン の ケッキョ が あって、 ワタシ は その ダンチョウ で、 シガレット を ふかす の に ピストル を うって ライター の ヨウ に しなれて いる ケンジュウ ツカイ の メイジン と シリアイ だった が、 ワタシ が なんの コトバ も かけず に ミヤコ へ たちさった ヨシ を きいて カレ は フンゲキ の あまり、 ワタシ を みいだし-シダイ、 ぽん と 1 パツ アイツメ を シガレット の カワリ に ふかして やらず には おかない ぞ! と いきまいて いる との こと で あった から、 ワタシ は その おそろしい ライター の ツツサキ に みいだされぬ マ に ここ を オウダン しなければ ならない。 それ には ゼーロン の コンシン の シュンソク が ヒツヨウ だった から で ある。 それ で なく とも この モリ を タンドク で オウコウ した ジンブツ は コライ から キロク に のこされた キンショウ の ナマエ のみ で ある。 それ には この モリ を シンヤ に ヒトリ で ふみこえた ゴウタンモノ と して サカタ ノ キントキ や シンラ サブロウ の ナマエ が かぞえられて、 いまなお その キロク を やぶる ボウケンシャ は シュツゲン しない と リュウゲン されて いる。 ツウレイ は モリ を さけて、 イノハナ から、 オカミ、 ミタケ、 ヒリュウサン、 カラマツ、 サルヤマ など と いう ブラク-ヅタイ に タツマキ ムラ へ むかう の が ジュントウ なの で ある が、 ワタシ は すでに ツカダ ムラ で トオマワリ を した ばかり で なく ロバ ジケン の ため に おもわぬ ミチクサ を くって しまった アト で ある から ぜひとも この モリ を ふみこえなければ トチュウ で ヒグレ に であう オソレ が ある の だ。 たとい キロク に のこって カレラ ユウカン なる ツワモノ と カタ を ならべる ホマレ が あろう とも、 ワタシ は ヤコウ には ゼッタイ に ジシン は カイム で ある。 おもった だけ で ミノケ が よだつ――。 ワタシ は かつて トトウ を くんで この モリ を オウダン した ケイケン が ある から ヒルマ の ミチ には ジシン は ある が、 ガムシャラ に オク へ オク へ と ふみこんで タキ の ある ガケガワ に つきあたる と、 コンド は キュウ に ばかばかしく あかるい、 だが キフク の おびただしい シバクサ に おおわれた ノハラ に でる はず だ。 アンウツ な モリ を イキ を ころして ここ に いたった とき には おもわず ほっと して ミナミナ テ を とりあって カオ を みあわせた こと を おぼえて いる。 で、 ユメミ-ゴコチ で この ひろびろ と した ハラッパ を とおりすぎる と、 まもなく ものすごい ススキ の オオナミ が ほうほう と おいしげった しんに シバイ の ナンショ-めいた フルデラ の ある アレノ に ふみいる はず だ。 ここ では ノビ に おそわれて ムザン な オウシ を とげた タビビト の ハナシ が ナンケン とも なく いいつたえられて いる が、 まったく あの アレノ で ノビ に かこまれた ならば ダレ しも オウジョウ する の が トウゼン で あろう。 アキ から フユ に かけて は ムラムラ は いう まで も なく モリ の トウゾクダン でも ヒ に かんする オキテ が ゲンジュウ に まもられて いる の は ドウリ だ。
 さて これら の ブキミ な ミチ を とおりこして も さらに ワレワレ は やすむ ヒマ も なく、 コンド は ツマサキアガリ の アカツチ の とても すべりやすい インキ な サカ を よじのぼらなければ ならない。 この サカ は ぞくに ビンボウザカ と よばれて キンザイ の ヒトビト に コノウエ も なく いみきらわれて いる。 と いう の は この サカ に さしかかる と フトコロ の カネブクロ の オモミ で さえ も ニ に なって なげすてて しまいたく なる ほど の コンナン な わずらわしい キュウハン だ から で ある。 そのうえ この アタリ には ヒルマ でも ときとすると コリ の タグイ が シュツボツ する と いわれ、 その ガイ を こうむった みじめ な ハナシ が ムスウ に ルフ されて いる。 おそろしい ヤマミチ を たどった アト に ここ に さしかかる コロ には ダレ しも ヤマ の インキ に あてられて ヒンケツショウ に おそわれる ところ から かかる メイシンテキ な ソウワ が つたわって いる の だろう が、 じっさい ワタシタチ に しろ この サカ に たっした ジブン に なる と よほど ジブン では しっかり して いる つもり でも シンケイ が いらいら と して きて、 ヤブカゲ で コトリ が はばたいて も おもわず りつぜん と して クビ を ちぢめ、 いまどき キツネ など に ばかされて たまる もの か と りきみながら も、 イッパン の フウシュウ に したがって あわてて マユゲ を ツバ で ぬらさぬ モノ は なかった。
 ここ も かしこ も ワタシ は キョウ は ゼーロン の シュンソク に たよって イッキ に のりこえる カクゴ で、 かねて ケッシン の タヅナ を ひきしめて シュッパツ して きた の だ が、 こう それ から それ へ、 とぼとぼ と スリバチ の フチ を たどりながら ユクテ の ナンロ に オモイ を およぼす と おびただしい キグ の ネン に うたれず には いられなかった。 オリ も オリ、 ヤライ の アメ が ケサ はれて、 アタリ の フウケイ は みずみずしい キラビヤカサ に みちあふれ、 さんらん たる ヒカリ は げにも ゴウカ な ツバサ を ソラ いっぱい に のべひろげて うらうら と まどろんで いる が、 それ に ひきかえ、 ただでさえ ヒノメ に あたる こと なし に フダン に じめじめ と インケン な ジュウメン を つくって サイギ の メ ばかり を すえて いる あの にくたらしい サカミチ は、 どんな に か すべりやすい メンジョウ に、 イジワル な クショウ を たたえながら テグスネ ひいて キノドク な タビビト を まちかまえて いる こと だろう! ――ワタシ は、 この サカミチ と たたかう ため の ヨウイ に ジブン の と ゼーロン の と、 ヒトタバ に した ワラジ と イッポ イッポ ふみのぼる バアイ の アシバ を ほる ため の スコップ と を クラ の イッタン に むすびつけて きた の で ある が、 イマ、 それ が ワタシ の メ の サキ で、 ゼーロン の ビッコ の アシドリ に つれて ぶらん ぶらん と ゆれて いる の を ながめる と ムネ は ナマリ の よう な もの で いっぱい に なって しまった。
 ワタシ は ギヤマン モヨウ の よう に チョウメイ な イノハナ ムラ の パノラマ を とおく アシモト に ヨコメ で みおろしながら つとめて ノンキ そう に ウマオイウタ を うたって いった。 ムラ の イエイエ から たちのぼる ケムリ が、 おしめど も ハル の カギリ の キョウ の ヒ の ユウグレ に さえ なりにける かな―― と いいたげ な ウタ の フゼイ で カゲロウ と ミサカイ も つかず たなびきわたって いた。 ユウグレ まで には まだ よほど の マ が ある。 こんな ところ で ユウグレ に なったら オオゴト だ―― だが ワタシ は、 かすむ とも なく うらうら と はれわたった のどか な ムラ の ケシキ を ながめる と おもわず とうぜん と して、 コエ たからか に さよう な ウタ を フシ も ゆるやか に ロウエイ した。 そして さらに メ を こらして ながめる と ソンドウ を あるいて ゆく ヒトタチ の、 おお あれ は どこ の ダレ だ―― と いう こと まで が はっきり と わかった。 カレクサ を つんで ムラザカイ の ハシ を わたって ゆく バシャ は、 ツネカワ の 「ミミズク」 を バイシュウ した ボクジョウヌシ の ワカモノ だ。
「アイツ に さとられて は メンドウ だぞ!」
 ワタシ は つぶやいて ボウシ の ヒサシ を ふかく した。 ワタシ は、 その 「ミミズク」 を たんに カンショウ の リユウ で カレ から かりうけて おいた ところ が、 ドウキョ の R と いう ブンカ ダイガクセイ が ひそか に もちだして マチ の カフェー に ユウキョウヒ の ダイショウ に さしおさえられて いる。 カレ は ワタシ を みいだし-シダイ セキニン を とうて ワタシ の ムナグラ を とる に ソウイ ない の だ。 イチョウ の ある ジヌシ の イエ では イドガエ の モヨウ らしく、 イチダン の ヒトビト が ニワサキ に あつまって めまぐるしく たちはたらいて いる サマ が みえる。 この イチダン に きづかれたら、 やっぱり ワタシ は ツイセキ される で あろう、 なぜなら ジヌシ の イエ で バイシュウ した ツネカワ の 「ニワトリ」 を、 ワタシ は モリ の ピストル ツカイ の テサキ と なって ぬすみだした こと が ある。 「ニワトリ」 の ユクエ に かんして は ソノゴ ワタシ は しらなかった が、 ジヌシ の イットウ は ワタシ に よって それ の イトグチ を つかもう と して ワタシ の アリカ を くまなく ショホウ に もとめて いる そう だ。 ――また はるか ヒダリテ の ヤシロ の モンゼン に ある イザカヤ の ほう へ メ を てんじる と、 テイシュ が オウライ の ヒト を とらえて ナニ か しきり と げきした ミブリ で フンゲキ の ケムリ を あげて いる らしい。 カレ は じつに キミジカ な オトコ で、 ツネカワ と ワタシ が すこし ばかり の サカダイ の フサイ が できた ところ が、 いつか その シハライ メイレイ に ヤマ を こえて アトリエ に やって きた とき ちょうど ツネカワ の ロウサク の 「マキノ シ ゾウ」 が カンセイ して フタリ で それ を ながめて いる と、
「バカ に して いる、 こんな もの を つくりあがって!」 と ワタシタチ を ののしり、 おもわず カンシャク の コブシ を ふりあげて この ブロンズ ゾウ の アタマ を なぐりつけて、 ツキユビ の ヤク に あい、 ひさしい アイダ ツリウデ を して いた こと が ある。 キョウ も ヒト を とらえて ワタシタチ の ムセキニン を フイチョウ して いる の だろう。
 ―― 「おやっ イドガエ の レンチュウ が こっち を みあげて ナニ か ささやきあって いる ぞ!」
 ワタシ は ぎょっと して、 あわてて カオ を ハンタイ の ヤマ の ほう へ そむけた。 ようやく、 あの モリ が、 オカ の シタ に ヌマ の よう に みえる アタリ まで きて いた。 ユウエン ひょうびょう と して そこしれぬ カン で ある―― ふと ミミ を すます と、 モリ の ソコ から ときおり ジュウセイ が きこえた。 2~3 パツ ツヅケウチ に して、 やや しばらく たつ と、 また なる。
 ワタシ は さらに ブキミ に ムネ を うたれた。 あの ダンチョウ の キツエン では ない かしら? と おもわれた から で ある。 ワケ を しらぬ ムラビト は リョウシ の テッポウ の オト と おもって いる が、 ワタシ は しって いる―― あの ダンチョウ は かよう な コウテンキ の ヒ には かえって ミ を もちあつかって、 むやみ に シガレット を ふかす シュウカン で ある、 そんな とき には カレ は ヒジョウ に シンケイシツ な キツエンカ に なって、 1 パツ で テンカ しない と、 ワケ も ない コウフン に ウデ が ふるえて フシギ な イラダチ に かられる の で あった。 カレ は、 1 パツ の モト に テンカ しない シガレット は、 フキツ と しょうして ことごとく ふみにじって しまう の で ある。 カレ は、 それ で その ヒ の ウンメイ を みずから うらなう の だ と いう ゴヘイ を かついで いる。 だから サイショ の 1 パツ が うまく テンカ する と カレ は ヒジョウ な コウキゲン と なる が、 テモト が くるいはじめた と なる と セイゲン が なくなる。 がみがみ と トホウ も なく いらだって ツヅケザマ に ハッポウ する の だ が、 カンシャク を おこせば おこす ほど ウデ が ふるえて ラチ が あかず、 シマイ には ジンチク を そこねなければ リュウイン が さがらなく なって しまう と いう シマツ の わるい メイシンテキ ケッペキセイ に とんで いた。
 まだ それ と ハンメイ した わけ では なかった が、 なおも しきり に なりつづけて いる 「ライター の オト」 に チュウイ を むける と ワタシ は アシ が すくみそう に なった。 ヨユウ さえ あれば ここ で ワタシ は、 カレ の ハッカカン が タネギレ に なって イツモ の よう に カレ が フテネ を して しまう で あろう コロアイ を まって、 モリ に ふみいる の で あった が、 ヨウイ に ハッポウ の オト は たえなかった。 このうえ ここら で まごまご して いれば ムラ の レンチュウ に ホバク される オソレ が ある ばかり で なく、 もっとも おそろしい ユウグレ に せまられる キケン が ある。 ――カレ は ジンチク に ジュウショウ を おわせる ほど ドウモウ では ない が、 キミョウ な ネライ を もって、 その ミ チカク の クウキ を うって、 にげまどう ヒョウテキ の ロウバイ する アリサマ を ケンブツ する の が ドウラク で ある。 おそらく ワタシ を みいだした ならば カレ は カイシン の ビショウ を もらして もっとも ザンコク な ナブリウチ を あびせ、 はねて は ころび しながら にげまわる で あろう ワタシタチ の ヒサン な スガタ を ゲンシュツ させて ウックツ を はらす に ちがいない。 この オクビョウ な ロバ を ぎょし、 この キダイ な オモニ を せおって ワタシ は、 あの ライター の ヒブタ に ミ を ひるがえす コウケイ を ソウゾウ する と、 もう ヒタイ から は つめたい アブラアセ が にじみだした。 ジゴク の ゴウカ に やかるる セメク に ソウイ なかった。 ワタシ の アシ には たちまち おもい クサリ が つながれて しまった。 ワタシ は スリバチ の フチ で どちら を むいて も しんに シンタイ ここ に きわまった の カン で あった。 ワタシ は、 しかし、 ユウ を こして、 もう イチド ゆるやか に、 おしめど も キョウ を カギリ の―― と うたって、 ウマ を おいやろう と した が、 いたずらに クチ ばかり が ウタ の カタチ に カイヘイ する ばかり で けっして それ に オンセイ が ともなわない では ない か。
 その とき で あった、 ゼーロン が ふたたび ガンキョウ な ロバ に かして たちすくんで しまった の は――。 わーっ! と ワタシ は、 ゼッタイ ゼツメイ の ヒメイ を あげて、 ムチュウ で ゼーロン の シリッペタ を チカラマカセ に なぐりつけた。
 と カレ は、 おもしろそう に ぴょんぴょん と はねて、 ものの 10 ケン ばかり サキ へ いって、 ふたたび モクバ に なって いる。 まるで ワタシ を チョウロウ して いる みたい な カッコウ で、 ぼんやり こっち を ふりかえったり して いる の だ。
「これ だな!」
 と ワタシ は うなった。 「スイシャゴヤ の アルジ が、 アイツ は うたなければ あるかぬ ロバ と なった! と なげいた の は――」
 ワタシ は おいすがる と ドウジ に、 ムチ を すてて きた の を コウカイ しながら、 ミギウデ を コンボウ に ぎして ちからいっぱい の スウィング を あびせた。
「そう だ、 その イキ だよ、 もっと チカラ を こめて やって ごらん!」
 ゼーロン は そんな チョウシ で、 おどりだす と、 ユクテ の マツ の キ の ソバ まで すすんで、 また ふりかえって いる。 ちょうど、 くわえられた ツウヨウ が きえさる と ドウジ に たちどまる と いう ふう で あった。 ――ワタシ は、 こんな キキワケ を わすれた チクショウ に、 イゼン の シンアイ を もって、 ツイオク の ウタ を ムチ に して いた こと など を おもいだす と むしょうに ハラ が たって、
「バカ!」
 と さけびながら、 ふたたび おいつく と、 ワタシ は もう イキ も たえだえ の スガタ で あった が、 アシュラ に なって、 サユウ の ウデ で トコロ かまわず はりたおした。
 ゼーロン の ヒヅメ は、 うかれた よう に イシコロ を けって、 また すこし の サキ まで すすんだ。
「ジゴク の ロバ め!」
 ワタシ は ののしった。 もう リョウウデ は ぜんぜん カンカク を うしなって、 カタ から ぶらさがって いる エンピツ の よう に きかなく なって いた。 ワタシ は チ に はって、 にくい ゼーロン に おいつこう と した、 あまり の フンゲキ で もう アシコシ が たたなかった から――。 すると、 その とき、 イノハナ ムラ の ホウガク から、 にわか に けたたましい ハンショウ の オト が まきおこった。
「やあ! ヤツラ は とうとう オレ の スガタ を ハッケン して、 ドウイン の カネ を うちはじめた ぞ!」
 ハンショウ の オト は ものすごい ウナリ を ひいて ヤマヤマ に ハンキョウ し、 スリバチ の ソコ に トグロ を まきながら、 コクウ に むかって もうもう と うったえて いる。 ――ワタシ は、 メ を とじて、 ふるえる テノヒラ に イシ を つかんだ。 ワタシ は、 クチビル を かみ、
「この ゴリアテ の ウマ め!」
 と ドゴウ する と ドウジ に、 あわれ な ミキウデ を フウシャ の よう に カイテン して、 コントロール を つける と、 ダビデ が ガテ の ゴリアテ を ころした スリング モドキ の イキオイ で、 はっし と、 ゼーロン を めがけて なげつけた イシ は、 この ヒッシ の イットウ の ネライ たがわず、 ゼーロン の デンブ に、 めざましい デッド ボール と なった。
 ゼーロン は ウシロアシ で クウキ を けって とびだした。 ツヅケウチ に して、 かけぬけて しまわなければ ならない。 ワタシ は オモニ に おしつぶされそう に ぱくぱく と ヨツンバイ に なった まま、 ゼンソクリョク で おいすがる と、 もう しだいに アシナミ を ゆるめはじめた ゼーロン の アゴ の シタ に くぐりぬけて いきなり、 えいっ! と いう カケゴエ と イッショ に、 ヒチョウ の ハヤワザ で はねあがる や、 ムカシ、 ダイリキ サムソン が ロバ の アゴボネ を ひきぬいた ヨウリョウ に タン を はっする モハンテキ アッパーカット の イチゲキ を くらわした。 おしい かな、 それ は、 ゼーロン が クビ を ハンショウ の ほう に ふりむけた シュンカン で、 ワタシ の コブシ は むなしく クウ を つきあげて しまった。 ヨセイ を くらって、 ワタシ は アザミ の ハナ の ナカ に モンドリ を うった。 しかし ひるまず ワタシ は イキ も つかず に とびあがる と、 ムカシ、 シャムガル が ウシ を ころした チョクヅキ の ウデ を、 ゼーロン の ワキバラ めがけて つきおとした。 ゼーロン は、 ハ を むきだして いななく と、 ハードル を とびこす みたい な カケカタ で ぴょんぴょん と ナミガタ に とびだした。 ワタシ は チ を すって ゆく タヅナ を ひろう と ドウジ に、 2~3 ゲン の キョリ を ひきずられながら はしった アト に きれい に クラ の ウエ に とびのった。 そして、 トツゲキ の ジンダイコ の よう に ランミャク に その ハラ を けり、 タテガミ に むしゃぶりついて、 すすめ、 すすめ…… と レンコ した。
 ようやく ゼーロン も ヒッシ と なった ごとく、 さらに ハイ ハードル を とびこえる とおり な カッコウ で、 ユミナリ に スリバチ の フチ を かけつづけて、 いよいよ クダリザカ の デグチ に さしかかった。 ――ふりかえって みる と ムラ の ハンショウ は シュッカ の アイズ だった の で ある。 ジヌシ の ナヤ の アタリ に ヒノテ が あがって、 ハタ を セントウ に おしたてた ショホウ の ショウボウタイ が テオシ ポンプ を ひいて、 ハッポウ から よりあつまろう と して いる サイチュウ だった。 ラッパ が なる。 ワメキゴエ が きこえて くる。 おりあしく イドガエ の サイチュウ だった ので、 ミズ が つかえない ので、 ヒケシタイ の メンメン は ヒジョウ に ロウバイ して、 アゼミチ の オガワ まで ホース を のばそう と して いる らしい。 1 タイ の ショユウ する ホース では ナガサ が フソク して、 コガシラ らしい イチイン が ヒノミ の ハシゴ を のぼって ゆく と、 ボウシ を ふりながら エンポウ の 1 タイ に むかって、
「ホース…… ホース……」 と さけんで いる の が きこえた。 ヒノテ は ナヤ から オモヤ に せめよせた らしく、 ケムリ が しばし ソラ に たえた か と おもう と、 まもなく マッシロ に なって ノキ の アイダ から むくむく と ふきだした。
「ホース…… ホース…… ゼーロン……」
 ハシゴ の オトコ の コエ が ふと そう ワタシ に きこえた。 みる と もう、 ホース は アゼミチ の オガワ まで のびて、 それ に ツナヒキ の よう に ヒト が たかって いる。 そして まもなく ほそい ミズケムリ が ノキサキ を めがけて、 ほとばしって いた。 ポンプ を あおる ケッシ の タイイン の カケゴエ が ひびいて きた。
「オレ に オウエン に こい と でも いう の かしら?」
 …… 「おうい、 ゼーロン の ノリテ…… こっち を むいて くれ、 タノミ が ある ぞ!」
 と きこえた。 ワタシ は、 タテガミ の ナカ に カオ を ふせながら ウスメ で、 そっち を のぞいた。 ――よくよく みる と、 ハシゴ の オトコ は、 モリ の、 あの キツエンカ だった。 たくみ に ショウボウタイ の イチイン に ミ を やつして いる。 そして、 カレ は ハンショウウチ に かわって、 カネ を たたいて いる が、 ヒトビト は ショウボウ に ネッチュウ して いる ので、 その カネ の ウチカタ が、 カレ が ハイカ の モノ と レンラク を とる ため の アンゴウホウ に よって いる の に きづこう とも しない。
 カネ の アイマ を みて は カレ は、 しきり と ウデ を ふって ワタシ を よんで いる。 また、 デンポウシキ に たたく カネ の アンゴウホウ を ハンダン する と、 それ は ワタシ に、 よく オマエ は かえって きた な、 オレ は コノゴロ たいへん さびしく くらして いる から、 これ を キカイ に して もう イッペン ナカマ に なって くれ、 まず キョウ の エモノ を ヤマワケ に しよう ぜ―― と ツウシン して いる の で あった。
「ヨロイ を とりもどした ぞ」 と カレ は つげた。 それ は ある フサイ の ダイショウ に ワタシ が ジヌシ の イエ に あずけた ワタシ の ソセン の イブツ で ある。 ワタシ の ロウボ は、 ワタシ が かよう な もの まで インシュ の ため に ヒトデ に わたした こと を しって、 ワタシ に セップク を せまって いる。 ワタシ が もし この タカラモノ を とりもどして キタク した ならば、 ナガネン の カンドウ を ゆるす と いう ショ を よせて いる。 ハンショウ は さらに、
「クウフク を かかえて シ を つくる グ を やめよ」
 と うながした。
 ワタシ は、 あの ヒオドシ の ヨロイ を きて セイカ に ガイセン する サマ の ユウワク にも かられた が、 あの、 ぎょろり と まるく みはって は いる ものの およそ どこ にも ケントウ の つかぬ と いう よう な マヌケ な フゼイ の メ と、 クチビル を こころもち ツツガタ に して ニガサ を みせた オモムキ が、 かえって みる モノ の ムネ に コッケイカン を さそう か の よう な、 おおきな しかつめらしい ブアクメン に ちがいない ワタシ の チチ の ショウゾウガ の かかって いる、 あの うすぐらい ショサイ に かえって、 のろわれた ザゼン を くむ こと を おもう と あんたん と した。 チチオヤ の スガタ に せっする とき ほど ワタシ は インキ な キョムカン に さそわれる とき は ない。 ワタシ は しばしば その ショウゾウガ を ハキ しよう と はかって、 いまだに はたしえない の で ある が、 やがて は きっと ケッコウ する つもり で いる。 ――シ は、 キガ に めんした メイロウ な ヤ から より ホカ に ワタシ には うまれぬ。
「オマエ の、 その セナカ の オモニ の バイキャクホウ を おしえて やろう よ」
 と ハンショウ は シンゴウ した。
「それ は?」
 ワタシ は おもわず、 メ を みはって、 サンイ の うごいた オモムキ を コリント-シキ の タイソウ シンゴウホウ に したがって ハンモン した。
「セイカ に うれ、 R. マキノ の ゾウ と して――。 スンブン たがわぬ から うたがう モノ は なかろう」
 R と いう の は 10 ネン も マエ に なくなった あの ショウゾウガ の トウニン で ある。 ワタシ の ホウロウ も 10 ネン-メ で ある。
「なるほど!」
 メイアン だ! と ワタシ は きづいた が、 ドウジ に えも いわれぬ おそろしい インガ の イナズマ に うたれて、 ワタシ は おそらく ジブン の と まちがえた の で あろう、 ゼーロン の ミミ を ちからいっぱい つかんだ。 そして クラ から テンラク した。
「はしれ!」
 と ワタシ は さけんだ。
 ワタシ は、 ゼーロン の デンブ を テキ に ゲキレツ な ヒッシ の ケントウ を つづけて、 クダリザカ に さしかかった。 ロバ の シッポ は スイシャ の シブキ の よう に ワタシ の カオ に ふりかかった。 その スキマ から ちらちら と ユクテ を ながめる と、 クニザカイ の ダイサンミャク は マムラサキ に さえて、 ヤグラダケ の イタダキ が わずか に アカネイロ に ひかって いた。 ヤマスソ イチメン の モリ は しんかん と して、 もう うすぐらく、 つきとばされる ごと に バッタ の よう に おどろいて ハードル-トビ を つづけて ゆく キタイ な ビッコウマ と、 その ザンコク な ギョシャ との チョッカ の ガンカ から シンタン の よう に こうばく と した ムマ を たたえて いた。 ――セナカ の ゾウ が セイ を えて、 そして また、 あの ショウゾウガ の ヌシ が クウ に ぬけでて、 ヌマ を わたり、 ヤマ へ とび、 ひるがえって は ワタシ の ウデ を とり、 ゼーロン が ウシロアシ で たちあがり―― チュウ に まい、 カスミ を くらいながら、 へんてこ な ミブリ で おもしろそう に ロココ-フウ の 「カドリール」 を おどって いた。 きれい な ナガメ だ! と おもって ワタシ は ふるえながら ソウゴン な ケシキ に みとれた。
 ハンショウ が かすか に きこえて いた が、 もう イミ の ハンベツ は つかなかった。 しかし それ は ワタシタチ の カドリール の たえざる バンソウ に なって いた。
「こいつ は――」
 ふと ワタシ は ワレ に かえって、 セナカ の オモニ を、 コモリ が する よう に キュウ に ゆすりあげながら つぶやいた。 ―― 「キナダヌマ の ソコ へ なげこんで しまう より ホカ に テダテ は ない ぞ」
 タエマ も ない トツゲキ を ゼーロン の デンブ に くわえながら、 ヌマ の ソコ に にた モリ に さしかかった。 キギ の コズエ が ミナソコ の モ に みえ、 「ミナモ」 を あおぐ と ネグラ へ かえる カラス の ムレ が サカナ に みえ、 ゼーロン にも ワタシ にも エラ が ある らしかった。 ――それにしても オモニ の ため に セナカ の ヒフ が やぶれて、 びりびり と やかるる よう に ミズ が しみる! チ でも ながれて い は しない か? と ワタシ は おもった。

(フキ―― ツネカワ マキオ サク 「マキノ シ ゾウ」 は ゲンザイ ソウシュウ アシガラカミ グン ツカハラ ムラ フルヤ サタロウ の ショゾウ に まかして ある。 カレ の ジュウライ の サクヒン モクロク-チュウ の ダイヒョウサク の ヨシ で あり、 カレ ジシン は もはや ブロンズ に さえ なって いれば ヌマ の ソコ へ ホゾン さるる も いとわぬ と いって いた が、 ユウジン たち の ホッキ で かく ホゾン さる こと と なり、 キボウシャ の カンラン には ズイジ テイキョウ されて いる。 1929 ネンド の ニホン ビジュツイン の モクロク を ひらけば シャシン も ケイサイ されて いる ヨシ で ある。 ツネカワ は コトシ ゼーロン の ゾウ を 「ゼーロン」 と だいして サクセイチュウ との こと で ある。 ワタシ は ミガル な きわめて まずしい ホウロウ セイカツ に ある。)

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