カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

キナダ ムラ

2019-06-06 | マキノ シンイチ
 キナダ ムラ

 マキノ シンイチ

 1

 モズ の コエ が するどく けたたましい。 カズトヨ の クリバヤシ から だ が、 まるで すぐ の マドウエ の ソラ で でも ある か の よう に ちかぢか と すんで ミミ を つく。 キョウ は はれる か と つぶやきながら、 ワタシ は マド を あけて みた。 マド の シタ は まだ アサギリ が たちこめて いた が、 イモバタケ の ムコウガワ に あたる クリバヤシ の ウエ には もう みずみずしい ヒカリ が さして、 クリヒロイ に かけて ゆく コドモ たち の カゲ が あざやか だった。 そして、 みるみる うち に ヒカリ の ツバサ は ひろい ハタケ を こえて マドシタ に たっしそう だった。 イモ の シュウカク は もう よほど マエ に すんで ハタケ は イチメン に ハイイロ の ヌマ の カン で、 ヒカリ が ながれる に したがって しろい ケムリ が ゆれた。 カズトヨ は そこ で コヤガケ の シバイ を うちたい ハラ だ が、 セイネンダン から の モウシコミ で きたる べき オンド コウタ タイカイ の カイジョウ に と キボウ されて ふしょうぶしょう に ふくれて いる そう だった。
 ワタシ と ドウキョ の オメンシ は、 とっく に テンキ を みさだめて シタボリ の メンガタ を トリゴヤ の ヤネ に ならべて いた。 ワタシ は オガクズ を ニカワ で ねって いた の だ。 カズトヨ の キリバタケ から しいれた ザイリョウ は、 ズイドウムシ や コブアナ の アト が おびただしくて、 シタボリ の アナウメ に よほど の テマ が かかった。 オメンシ は ヤマムコウ の ムラ へ シイレ に ゆく と、 つい フカク の サケ に まいって ヒガエリ も かなわなかった から、 よんどころなく カズトヨ の キリ で シンボウ しよう と する の だ が、 こう アナ や フシコブ-だらけ では ムダボネ が おれる ばかり で テマ が 3 バイ だ と こぼしぬいた。 コンゴ は もう けっして サケ には みむかず に と カレ は ワタシ に ユビキリ した が、 キュウ に シゴト の ほう が いそがしくて ザイリョウ の ギンミ に ヤマ を こえる ヒマ も なかった。 カズトヨ は ゲタ-ザイ の ハンパモノ を ゆずった。 ネダン を きく と その つど は、 まあまあ と オウヨウ そう に わらって いながら、 シゴト の シュウキン を みずから ひきうけ、 ニットウ とも ザイリョウ-ダイ とも つけず に シュウニュウ の ハンブン を とって しまう と オメンシ は グチ を こぼした。 カズトヨ は スベテ に はっきり した こと を クチ に する の が きらい で、 ヒトリ で あるいて いる とき も ナニ が おかしい の か いつも わらって いる よう な ヒョウジョウ だった。 では もともと そういう オンガン なの か と おもう と オオチガイ で、 ヤシキ の カキネ を こえる コドモ ら を おって とびだして くる とき の スガタ は まったく の オオカミ で、 フダン は レウマチス だ と しょうして ミチブシン や ハシ の カケカエ コウジ を ケッセキ して いる にも かかわらず、 カキ も ミゾ も サンダンガマエ で チュウ を とんだ。
 その うち にも、 サッキ の コドモ たち が ばらばら と カキネ を くぐりでて イモバタケ を ハッポウ に にげだして きた か と みる と、 おいて ゆけ おいて ゆけ ヤロウ ども、 たしか に カオ は しれてる ぞ など と さけびながら、 どっち を おって いい の やら と とまどうた カズトヨ が ハッポウ に むかって ムチュウ で コクウ を つかみながら あばれでた。 カズトヨ の クリヒロイ に ゆく には メン を もって ゆく に かぎる と コドモ たち が ソウダン して いた が、 なるほど にげて ゆく カレラ は たちまち メン を かむって あちこち から カズトヨ を レイショウ した。 オニ、 ヒョットコ、 キツネ、 テング、 ショウグン たち が、 メン を かむって いなくて も オニ の メン と かした オオオニ を、 トオマキ に して、 イッポウ を おえば イッポウ から イシ を なげ して、 やがて イモバタケ は よにも キミョウ な センジョウ と かした。
「やあ、 おもしろい ぞ おもしろい ぞ」
 ワタシ は おもい マブタ を あげて おもわず テ を たたいた。 ワタシ の ムネ は いつも イヨウ な サケ の ヨイ で とうぜん と して いる みたい だった から、 そんな コウケイ が いっそう フシギ な ユメ の よう に うつった。 ワタシタチ の シゴトベヤ は サカグラ の 2 カイ だった ので、 それに ワタシ は トウジ イカスイ の ショウジョウ で ジジツ は イッテキ の サケ も クチ に しなかった にも かかわらず、 ヒル と なく、 ヨル と なく、 イッポ も ソト へは でよう とは せず に、 メンツクリ の テツダイ に ボットウ して いる うち には、 いつか カンダン も ない サケ の カオリ だけ で デイスイ する の が しばしば だった。 かなう シギ なら ノド を ならして とびつきたい ウエット-ハ の カラステング が、 ショクヨク フシン の カラハラ を かかえて、 トオカ ハツカ と ヌマ の よう な オオダル に ゆれる もったいぶった アワダチ の オト を きき、 ふつふつ たる カオリ に ばかり あおられて いる と よった とも よわぬ とも メイジョウ も なしがたい、 ゼンセ に でも いただいた カラテンジク の オミキ の ヨイ が イマゴロ に なって きいて きた か の よう な、 まことに ありがたい よう な、 なさけない よう な、 げにも トリトメ の ない ジイシキ の ソウシツ に おそわれた。 ねむい よう な アタマ から、 サケ に よった タマシイ だけ が おもしろそう に ぬけだして ふわり ふわり と あちこち を とびまわって いる の を ながめて いる よう な ココロモチ だった。 その うち には シンシュ の フタアケ の コロ とも なって アキ の フカサ は こっこく に ムナソコ へ にじんだ。 クラ いっぱい に あふれる じゅんじゅん たる サケ の モヤ は、 うければ あわや さんさん と して したたらん ばかり の ミカク に みちよどんで いた。 ――トリゴヤ の カタワラ では オメンシ が しきり と リョウウデ を ひろげて ハライッパイ の シンコキュウ を くりかえして いた。 カレ も 「サケ の ヨイ」 を さまそう と して タイソウ に ヨネン が ない の だ。 ――カズトヨ が ジダンダ を ふみながら ひきかえして ゆく ウシロスガタ が クリバヤシ の ナカ で マダラ な ヒカリ を あびて いた。 センロ の ツツミ に、 アオオニ、 アカオニ、 テング、 キツネ、 ヒョットコ、 ショウグン など の コビト-レン が ならんで カチドキ を あげて いた。 ――もともと それら は ワタシタチ が つくった オトナヨウ の オメン なので、 ゴタイ に くらべて カオ ばかり が タイヘン に フツリアイ なの が キバツ に うつった。 オンド タイカイ の ヒドリ は まだ きまらない が、 シュツジョウシャ の オオク は メン を かむろう と いう こと に なって、 ヒビ に チュウモン が たえなかった。 たとえ これ が いまや ゼンコクテキ の リュウコウ で オドリ と なれば ロウニャク の ベツ も ない とは いう ものの、 まさか スメン では―― と たじろいて ニノアシ を ふむ モノ も おおかった が、 カメン を かむって、 ――と いう チエ が つく と、 ワレ も ワレ も と いさみたった。 メイヨショク も ブゲンシャ も キョウショクイン も みずから ノリキ に なって シュツエン の ケッシン を つけた。 どんな カシ か は しらぬ が キナダ オンド なる コウタ も できて 「トウキョウ オンド」 の フシ で うたわれる と いう こと で あった。
「メン を かむって いれば、 かつがれる と いう サワギ も なくなる だろう―― やがて は、 あの ナガネン の ヘイフウ が ネ を たつ こと に でも なれば イッキョ リョウトク とも なる では ない か」
 イッポウ では こういう ウワサ が たかかった。 ゆらい、 この アタリ では ムラビト の ハンカン を かった ジンブツ は しばしば この 「かつがれる」 なる メイショウ の モト に、 よにも さんたん たる リンチ に しょせられた。
 …… 「おいおい、 ツル クン、 はやく あがって こない か」
 ワタシ は、 いつまでも ガイキ に カオ を さらして いる こと に 「ある キグ」 を おぼえた ので、 まだ ヨイ を さまして も いなかった の だ が、 オメンシ に コエ を かけた。 それに ホシバ の メンガタ を かぞえて みる と かろうじて 12~13 の カズ で、 あれ が キノウ まで の ミッカ-ガカリ の シゴト では コンヤ アタリ は テッショウ でも しなければ おいつくまい と シンパイ した。 ワタシ は、 ウシロ の タナ から オニ の アカ、 アオ、 キツネ の ゴフン、 テング の ベニ の ツボ など を とりおろし、 ヌリバケ で マド を たたきながら もう イッペン よぶ の だ が、 カレ は ふりむき も しなかった。
「きこえない の か――」
 ワタシ は どなって から、 そう だ クチ に しない ヤクソク だった カレ の ナマエ を おもわず よんで しまった と きづいた。 カレ は ジブン の セイメイ を ヒジョウ に きらう と いう キヘキ の モチヌシ で、 うっかり その ナ を よばれる と トキ と バショ の サベツ も なく マッカ に なって、 あわや なきだしそう に しおれる の で あった。
「いや だ いや だ いや だ、 たまらない……」 と カレ は ミブルイ して リョウミミ を おおった。 それゆえ カレ は、 めった な こと には ヒト に ジブン の セイメイ を あかしたがらず、
「ええ、 もう ワタシ なんぞ の ナマエ なんて どうでも よろしい よう な もの で……」 と コトバタクミ に ごまかした が、 それ は いたずら な ケンソン と いう わけ でも なく、 じつは それ が シンケイテキ に、 そして さらに メイシンテキ に かなわぬ と いう の で あった。 それで ワタシ も ひさしい アイダ カレ の ナマエ を しらなかった し、 また ふとした キカイ から カレ と シリアイ に なり、 どうして セイカツ まで を ともに する まで に いたった か の スジミチ を タンペン ショウセツ に かいた こと も あり、 ジッサイ の ケイケン を とりあげる バアイ には いつも ワタシ は ジンブツ の ナマエ をも アリノママ を もちいる の が シュウカン なの だ が、 その とき も しゅうし カレ の ダイメイシ は たんに 「オメンシ」 と のみ キニュウ して いた。 ワタシ は その コロ 「オメンシ」 なる メイショウ の ソンザイ を カレ に よって はじめて しり、 やや キイ な カン も あって、 ジツメイ の トンジャク も なかった まで なの だった が、 ノチ に グウゼン の こと から カレ の ナマエ は ツル フナジロウ と よぶ の だ と しらされた。 ワタシ は ミズナガレ と よんだ が、 それ は ツル と よむ の だ そう だった。
「この ミョウジ は ワタシ の ムラ (ナラ ケンカ) では のきなみ なん です が――」 と カレ は その とき も、 フトコロ の ナカ に カオ を うずめる よう に して つぶやいた。 「ミョウジ と ナマエ と が まるで コシラエモノ の ジョウダン の よう に きわどく つりあって いる の が、 ワタシ は むしょうに はずかしい ん です。 それに どうも それ は ワタシ に とって は いろいろ と エンギ でも ない、 これまで の こと が……」
 カレ は ワケ も なく キョウシュク して ぜひとも わすれて ほしい など と テ を あわせたり する シマツ だった の で ある。 そんな オモイ など は ソウゾウ も つかなかった が、 ワタシ は なんなく わすれて クチ に した ためし も なかった のに、 つまらぬ レンソウ から ふいと その とき、 ヒト の ナマエ と いう ほど の イミ も なく、 その モジヅラ を おもいうかべた らしかった の で ある。
 それ は そう と、 その コロ ワタシ の ミ には とんだ サイナン が ふりかかろう と して いる らしい アタリ の クモユキ で あった。
「コンド、 オドリ の バン に、 かつがれる ヤツ は、 おそらく あの サカグラ の イソウロウ だろう」
「ひっきょう する に、 ヤロウ の ジュンバン だな」
 ワタシ を めざして、 この おそる べき フウヒョウ が しばしば あからさま の コエ と かして ワタシ の ミミ を うつ に いたって いた。 あの センリツ す べき リンチ は、 キ が じゅくした と なれば マツリ の バン を またず とも、 ヤミ に じょうじて ネクビ を かかれる サワギ も めずらしく は ない。 ワタシタチ が ここ に きた ハル イライ から で さえ も、 3 ド も ケッコウ されて いる。
 げんに ワタシ も モクゲキ した。 ハナミ の オリカラ で 「サクラ オンド」 なる ハヤシ が リュウセイ を きわめて いた。 ヨゴト ヨゴト、 チンジュ の モリ から は、 ヨウキ な ウタ や すばらしい ハヤシ の ヒビキ が なりわたって、 ムラビト は ヨ の ふける の も わすれた。 あまり おもしろそう なので ワタシ も おりおり オクレバセ に でかけて は イシドウロウ の ダイ に のぼったり して、 ナナエ ヤエ の ケンブツニン の ウエ から じっと エンブシャ-レン の スガタ を みまもって いた。 エンジン の チュウオウ には ヤグラ が しつらわれ、 はじめて はこびこまれた と いう、 カクセイキ から は レコード の オンドウタ が なり も やまず に くりかえされて コズエ から コズエ へ こだました。 それ と イッショ に ヤグラ の ウエ に じんどって いる オハヤシ-レン の フエ、 タイコ、 アタリガネ、 ヒョウシギ が フシ おもしろく チョウシ を あわせる と、 それっ と ばかり に クモ の よう な ケンブツ の ムレ が アイノテ を ガッショウ する ダイランチキ に うかされて、 ワレ も ワレ も と オドリテ の カズ を ます ばかり で、 ついには エンジン まで も が ミウゴキ も ならぬ ほど に たちこみ、 タイハン の モノ は アシブミ の まま に うかれほうけ、 おどりほうけて いた。 ――その うち に ムコウ の シャデン の アタリ から、 ミョウ に フチョウワ な ワライゴエ とも トキ の コエ とも つかぬ ドヨメキ が おこって、 とつぜん 20 ニン ちかい イチダン が わっと カゼ を まいて モリ を つきはしりでた。 でも、 オドリ の ほう は まったく そっち の ジケン には そしらぬ ケシキ で あいかわらず うかれつづけ ケンブツ の モノ も また、 ダレヒトリ メ も くれよう とも せず、 しって そらとぼけて いる ふう だった。 ヤジウマ の おう スキ も なさそう な、 まったく シップウ ジンライ の ハヤワザ で、 ダレ しも コト の シダイ を みとどけた モノ も あるまい が、 それにしても、 グンシュウ の ケハイ が あまり にも バジ トウフウ なの が むしろ ワタシ は キタイ だった。
「いったい、 イマ の あれ は なんの ソウドウ なん だろう。 ケンカ に して は どうも おかしい が……」 と ワタシ は クビ を かしげた。 すると ダレ やら が コゴエ で、
「カズトヨ が かつがれた ん だよ」 と いとも フシギ なさげ に ささやいた。
 オボロヅキヨ で あった。 あの イチダン が ムコウ の カイドウ を キョダイ な イノシシ の よう な モノスゴサ で まっしぐら に かけだして ゆく の が うかがわれた。 ダレヒトリ そっち を ふりむいて いる モノ さえ なかった が、 ワタシ の コウキシン は いっそう ふかまった ので、 ともかく ショウタイ を みさだめて こよう と ケッシン して なにげなさげ に その バ を ぬけて から、 ムギバタケ へ とびおりる や いなや キツネ の よう に マエ へ のめる と、 やにわに ミチ も えらばず イッチョクセン に ハタケ を つきぬいて、 カレラ の ユクテ を めざした。 カイドウ は しろく ユミナリ に ウカイ して いる ので たちまち ワタシ は カレラ の はるか ユクテ の バトウ カンノン の ホコラ の カタワラ に たっし、 じっと イキ を ころして うずくまった まま モノオト の ちかづく の を マチブセ した。 トツゲキ の グンバ が おしよせる か の よう な ジヒビキ を たてて、 まもなく ヒミツ ケッシャ の イチダン は、 スナ を まいて ワタシ の ガンカイ に オオウツシ と なった。 ヒジョウ な ハヤサ で、 ダレ も カケゴエ ヒトツ はっする モノ とて も なく、 ただ ブキミ な イキヅカイ の アラアラシサ が ヒトカタマリ と なって、 ちょうど キカンシャ の エントツ の オト と まちがう ばかり の ソウレツ なる ソクオン-チョウ を ひびかせながら、 イチジン の トップウ と ともに ワタシ の メ の サキ を かすめた。 みる と レンチュウ は こぞって オニ や テング、 ムシャ、 キツネ、 シオフキ-トウ の オメン を かむって まったく どこ の ダレ とも ミサカイ も つかぬ コウミョウ ムゾウサ な ヘンソウブリ だった。 ただ ヒトリ カレラ の ズジョウ に ささげあげられて コイ の よう に よこたわった まま、 ヒタン の クルシミ に もがきかえり、 めちゃくちゃ に コクウ を つかんで いる ジンブツ だけ が スメン で、 しかと は ミサダメ も つかなかった が、 やはり ショウメイ な カズトヨ の オモカゲ だった。 その イフク は おそらく トチュウ の アラシ で ふきとんで しまった の で あろう か、 カレ は みる も あさましい ラギョウ の ナリ で、 イノチカギリ の ヒメイ を あげて いた。 たしか に ナニ か の コトバ を はいて いる の だ が、 シナ か アフリカ の ヤバンジン の よう な オモムキ で、 まるきり イミ は つうじなかった。 ただ ドウブツテキ な ダンマツマ の ワメキ で キチガイ と なり、 スクイ を よぶ の か、 アワレミ を こう の か ハンダン も つかぬ が、 おりおり ひときわ するどく ゴイサギ の よう な ノド を ふりしぼって ヨイン も ながく さけびあげる コエ が オボロヨ の カスミ を やぶって セイサン コノウエ も なかった。 と、 その たび ごと に カツギテ の ウデ が イッセイ に たかく ウエ へ のびきる と、 たくましい カズトヨ の タイク は おもいきり ソラ たかく ほうりあげられて、 その つど クウチュウ に サマザマ なる ポーズ を えがきだした。 テッテイテキ な ギャクジョウ で コウチョク した カレ の シタイ は、 イチド は シャチホコ の よう な イサマシサ で ソラ を けって はねあがった か と おもう と、 ツギ には カッポレ の イキニンギョウ の よう な ヒョウイツ な スガタ で おどりあがり、 また 3 ド-メ には エビ の よう に コシ を まげて、 やおら みごと な チュウガエリ を うった。 そして ふたたび ウデ の ダイ に テンラク する と、 またもや ゲキリュウ に のった コブネ の イセイ で みる カゲ も なく、 らっしさられた。 ――ワタシ は たまらぬ ギフン に かられて、 ムチュウ で アト を おいはじめた が たちまち リョウアシ は ツララ の カン で すくみあがり、 むなしく この ザンコク なる ショケイ の アリサマ を みのがさねばならなかった。 クウチュウ に とびあがる あわれ な ジンブツ の スガタ が トリ の よう に ちいさく とおざかって ゆく まで、 ワタシ は クチビル を かみ、 ハテ は ナミダ を ながして みおくる より ホカ は スベ も なかった。 ――それにしても ワタシ は、 こんな キカイ な コウケイ を マノアタリ に みれば みる ほど、 みしらぬ バンチ の ユメ の よう で ならなかった。
 ノチ に きく ところ に よる と、 あの はげしい ドウアゲ を 10 ナンベン くりかえして も キゼツ を せぬ と、 ムラザカイ の カワ まで はこんで、 ナガレ の ウエ へ マッサカサマ に なげこむ の だ そう で ある。 ケッシャ の レンチュウ は かならず フクメン を して もくもく と ケイ を スイコウ する から、 ヒガイシャ は ダレ を コクソ する と いう ホウホウ も なく、 ヒトビト は いっさい しらぬ カオ を よそおう の が フウシュウ で あり、 なんと して も ナキネイリ より ホカ は なかった。
 あの とき の カズトヨ の サイゴ は、 あれなり ワタシ は みとどけそこなった が、 ねらわれた と なれば マツリ や ヤミ の バン に かぎった と いう の でも なく、 ホタル の ではじめた コロ の ある ユウグレドキ に、 ソンカイ ギイン の J シ が ヤクバ-ガエリ の トチュウ を まちぶせられて、 かつがれた ところ を、 ワタシ は フナツリ の カエリ に モクゲキ した。 カレ は タッシャ な オヨギテ で、 なんなく ムコウギシ へ ヌキテ を きって およぎついた が、 とぼとぼ と テブラ で ひきあげて いった オリ の スガタ は、 おもいだす も ムザン な コウケイ で ワタシ は メ を おおわず には いられなかった。
 モズ の コエ など を ミミ に して、 あの とき の こと を おもいだす と、 ワタシ には ありあり と カズトヨ の サケビ や ギイン の こと が レンソウ された。 やがて は しだいに ワタシ も メイシンテキ に でも おちいった せい か、 ツル フナジロウ など と いう モジ を かんがえた だけ でも、 オクビョウゲ な ヨカン に おびやかされた。 あの ドウアゲ も さる こと ながら、 この サムサ に むかって の ミズゾウスイ と きて は おもう だに ミノケ の よだつ ジゴク の フチ だ。 ワタシ は、 ミズ だの、 ナガレ だの と いう カワ に エン の ある モジ を かんじて も、 フキツ な クウソウ に ふるえた。 サダメ とて も ない ヒョウハク の タビ に てんてん と して ウキヨ を かこちがち な オメンシ が、 しだいに ジブン の ナマエ に まで も ジュソ を おぼえた と いう の が、 ばくぜん ながら ワタシ も ドウカン されて みる と、 ワタシ は カレ との アクエン が いまさら の ごとく サタン されたり した。
 すみわたった アオゾラ に、 モズ の コエ が するどかった。 オウライ の ヒトビト が、 ナニ か うさんくさい メツキ で こちら を ながめる キ が して ワタシ は、 いつまでも マド から カオ を だして いる こと も できなかった。
「そんな イロ に ぬられて は……」
 もどって きた オメンシ が、 あわてて ワタシ の ウデ を おさえた。 なるほど ワタシ は うかうか と アオ の ドロエノグ を、 ベニ を ぬる べき テング の メン に なぞって いる の に キ が ついた。

 2

 カズトヨ や J シ が どんな リユウ で かつがれた もの か、 ワタシ は しらなかった が、 ヒトビト が ワタシ への ハンカン の サイショ の ドウキ は、 J シ の サイナン の とき に、 ワタシ が みぬ フリ を よそおって その バ を たちさらなかった ばかり か、 カレ に カタ を かして ともども に ひきあげて いった と いう の が オコリ で あった。 もっとも それ が ムラ の フブンリツ を うらぎった コウイ で ある と いう の を しらなかった モノ で ある ゆえ、 アタリマエ なら ひとまず みのがさる べき はず だった が、 ヒゴロ から ワタシ の タイド を もくして 「オオフウ で ナマイキ だ」 と にらんで いた オリカラ だった ので、 これ が ジョウケン と して とりあげられ、 やがて リンチ の コウホシャ に シテキ される に いたった らしい の で ある が、 ワタシ と して みる と それ くらい の こと で ねらわれる リユウ にも ならぬ とも おもわれた。
「いいえ、 そりゃ、 タダ の オドカシ だ と いう こと です ぜ。 コンド から、 そんな バアイ を みたら そしらぬ カオ で ワキ さえ みて いれば いい の だ、 キ を つけろ と いう トオマワシ の チュウコク ですって さ。 やる と なれば マエブレ なんて する はず も ない じゃ ありません か」
 オメンシ は それとなく フキン の モヨウ を さぐって きて、 ワタシ に つたえた。 ―― 「コンド の アキ の オドリ まで には シュツエンシャ は ミナ メン を、 そろえよう と いう こと に なって いる ん だ から、 ワタシタチ が いなく なったら ダイナシ でしょう がな。 それに チカゴロ また ヒマシ に チュウモン が ふえる と いう の は、 なにも レンチュウ は テイサイ を つくる シギ ばかり じゃ なくって、 スネ に キズ もつ カタガタ が イガイ の カズ だ と いう ん です。 メン さえ かむって いれば かつがれる シンパイ が ない と いう ところ から……」
「でも、 いつか の J さん の バアイ など が ある ところ を みる と、 なにも オドリ の バン ばかり が――」
「いいえ、 あれ は、 タダ の ケンカ だった ん ですって さ。 かつぐ の は、 オドリ の バン に かぎられた シキタリ なんで」
「それなら なにも ボク は あの とき の こと を ヒナン される には あたらなかったろう に」
 そう も かんがえられた が、 ソンセイジョウ の こと で ムラビト の キュウテキ に なって いる J シ だった ので おもわぬ トバッチリ が ワタシ にも ふりかかった の で あろう、 と おもわれる だけ だった。
 サッキ から オメンシ は、 しきり と ワタシ を ソト へ さそいたがる の だ が、 ワタシ は どうも ヤミ が こわくて たじろいで いた ところ、 そんな ふう に はなされて みる と、 たとえ ジブン が ブラックリスト の ジンブツ と されて いよう とも、 トウブン は だいじょうぶ だ と いう ジシン も わいた。 それに オドリ の コロ に なった に しろ、 そんな に オオゼイ の コウホシャ が ある と おもえば、 なにも ジブン が かならず つかまる と いう わけ でも なかろう し、 そんな ケネン は むしろ すてる べき だ、 おまけに オオク の コウホシャ の ウチ では おそらく ジブン など は ツミ の かるい ブ では なかろう か―― など と ツゴウ の よさそう な ウヌボレ を もったり した。
 デアルキ を こわがって、 カズトヨ など に ツカイ を たのむ の は ムダ だ から、 これから フタリガカリ で ソレゾレ の チュウモンヌシ へ おさめ、 シバラクブリ で クラ の ソト で バンメシ を とろう では ない か と オメンシ が うながす の で あった。
「ひとおもいに、 ケイキ よく サケ でも のんだら あんがい ゲンキ が つく でしょう が」
「……ボク も そんな キ が する よ」 と ワタシ は ケッシン した。 シアゲ の すんだ メン を、 カレ が それぞれ カミ に つつんで、 ワタシ に わたす に したがって、 ワタシ は フデ を とって アテナ を しるした。
「ええ、 アカオニ、 アオオニ―― これ は ハシバ の ヤギシタ スギジュウロウ と マツジロウ。 オツギ は キツネ が ヒトツ、 トリイ マエ の ホッタ チュウキチ。 ――いい です か、 オツギ は テング が ダイショウ、 ヨウギョジョウ の ウサミ キンゾウ……」
 オメンシ は フシ を つけて ソレゾレ の アテナ を ワタシ に つげる の で あった。 ワタシ は アテナ を しるしながら、 つぎつぎ の チュウモンヌシ の カオ を おもいうかべ、 あの 4~5 ニン が まず サイキン の チマツリ に あげられる と いう もっぱら の ウワサ だ が と おもった。
 ナンジュウニチ も クラ の ナカ に こもった きり で、 たまたま ガイキ に あたって みる と クモ を ふんで いる よう な オモイ も した が、 さすが に ムネ の ソコ には いきかえった イズミ を おぼえた。 ――ずいぶん と みごと に メン の カズカズ が そちこち の イエ ごと に ゆきわたった もの で、 イエイエ の マエ に さしかかる たび に ふりかえって みる と、 ユウゲ の ショクタク を かこんだ アカリ の シタ で、 メン を もてあそんで いる コウケイ が ツヅケサマ に うかがわれた。 どこ の イエ も のどか な ダンラン の バンケイ で、 バンシャク に すわった オヤジ が ショウグン の メン を かむって みて カゾク の モノ を わらわせたり、 ヒトツ の メン を ミナ で じゅんじゅん に テ に とりあげて デキバエ を ヒヒョウ したり、 コドモ が テング の メン を かむって いばったり して いる バメン が みえた。 ソロイ の キモノ など も できあがり、 カベ には ハナガサ や ダシ の ハナ が かかって、 マツリ の ちかづいて いる ケシキ は どの イエ を ながめて も あらわ で あった。
「ミナ メン を もって よろこんで いる ね。 カズトヨ の クリヒロイ たち が、 よくも あんな に そろって メン を もちだした と おもった が―― とんだ ヤク に たてた もの だな」
「なにしろ オモチャ なんて もの を ふだん もちあつかわない ので、 コドモ の サワギ は タイヘン だ そう です よ」
 うっかり と ヨミチ を もどって きた ヨッパライ など が とつぜん キツネ や アカオニ に おどかされて キモ を つぶしたり ムスメ たち が ヒョットコ に おいかけられたり する サワギ が ヒンパン に おこったり する ので、 トウブン の アイダ は コドモ の ヨアソビ は ゲンキン しよう と カッコ で もうしあわせた そう だった。

 3

「ツル さん や、 オメエ も よっぽど ヨウジン しねえ と あぶねえ ぞ。 マルジュウ の シゲ から オレ は きいた ん だ が、 オメエ は とんだ エコ ヒイキ の シゴト を して いる って ハナシ じゃ ない か、 イエ に よって シゴト の シブリ が ちがう って こと だよ」
 スギジュウロウ は ジブン に わたされた メン を とって、 ウラガワ の フシアナ を キ に した。
「オレ あ べつだん どうとも おも や しない ん だ が、 ヒト の クチ は うるさい から な」
 カレ は イチド ソンチョウ を つとめた こと も ある そう だ が、 ニチジョウ の どんな バアイ に でも ジブン の イケン を ちょくせつ アイテ に つたえる と いう の では なくて、 ダレ が オマエ の こと を どう いって いた ぞ と いう ふう に ばかり フイチョウ して タニン と タニン との カンジョウ を そこなわせた。 そして、 その アイダ で ジブン だけ が ナニ か シンセツ な ジンブツ で ある と いう タイド を しめしたがった。 カレ も レイ の コクヒョウ の 1 メイ だ が、 おそらく その ゲンイン は、 その 「シンセツゴカシ」 なる アダナ に よった もの に ちがいなかった。 セガレ の マツジロウ が また セイシツ も ヨウボウ も チチ に イキウツシ で 「ショウジ の アナ」 と いう アダナ で あった。
 メ の カタチ が ショウジ の アナ の よう に ミョウ に ちいさく ムゾウサ で、 ツメ の サキ で ひっかいた よう だ から と いう セツ と、 ショウジ の アナ から のぞく よう に タニン の ウワサ を ひろいあつめて フイチョウ する から だ と いう セツ が あった が、 カレラ に たいする ヒトビト の ハンカン は セキネン の もの で、 イチド は どちら か が かつがれる だろう、 オヤ と コ と まちがえそう だ が、 まちがった ところ で ゴブ ゴブ だ と いわれた。
「シゲ ヒトリ が いって いる ん じゃ ない よ、 オトウサン――」 と マツ は なにやら にやり と ワライ を うかべながら チチオヤ へ ミミウチ した。
「ふふん、 サカグラ の イハチ や デン まで も―― だって オレタチ は べつに この ヒトタチ を かばう わけ でも ない ん だ が、 そんな に きいて みる と…… な、 つい キノドク に なって……」
「やめない か。 ボクラ は なにも ヒト の ウワサ を きき に きた わけ じゃ ない ぞ。 もし、 この ヒト の シゴト に ついて キミタチ ジシン が フマン を おぼえる と いう なら、 ソノママ の イケン は いちおう きこう ぜ」
 ワタシ は フタリ の カオ を トウブン に みつめた。 コウベン を しよう と して オメンシ は ヒトヒザ のりだした の だ が、 ジブン も やはり かつがれる ブ の ホケツ に なって いる の か と きづく と、 シタ が つって コトバ が だせぬ らしかった。 いまさら ここ で コウベン した ところ で ヤク にも たたぬ と カレ は あきらめよう と する の だ が クチビル が ふるえて、 おもわず うなだれて いた。
「ワシラ には なにも べつだん いう こと は ない よ。 だが、 だね……」
「いう こと が ない ん なら、 だが、 も、 しかし、 も あるまい」
「せっかく、 メン が できあがった と いう バン に いまさら コウロン も ない もの さ。 ハシバ の オジゴ の クチ も おおい が、 サカグラ の センセイ の リクツ は セケン には とおりません や、 だが、 も、 しかし も ない で すめば ウキヨ は タイヘイラク だろう じゃ ない か。 あははは」
 ホッタ チュウキチ は ジュウイ の 「ホラチュウ」 と いう アダナ だった。 ワタシタチ と して は なにも これら の ヒトビト の チュウモン を とくに おくらせた と いう わけ でも なく、 ただ ホウメン が ヒトカタマリ だった から、 つとめて とりまとめて とどけ に きた まで の こと で ある。 ちょうど、 ヨウギョジョウ の キンゾウ など も ヤギシタ の イエ に あつまって サケ を のみながら ナニ か ひそひそ と ヒタイ を あつめて ハカリゴト に ふけって いる ところ だった。 ――まあ イッパイ、 まあ イッパイ と むりやり に フタリ を とらえて ナカマ に いれた が、 カレラ の いう こと が いちいち ワタシタチ の カン に さわった。 「そんな の なら、 ええ、 もう、 よう ござんす、 シナモノ は もって かえりましょう。 ナンクセ を つけられる オボエ は ない ん です もの」
 オメンシ は ツツミ を なおして イクド も たちあがった が、 チュウキチ と キンゾウ が たくみ に なだめた。
「イナカ の ヒト は、 ホントウ に ヒト が わるい。 うっかり いう こと など を しんじられ や しない」
 ワタシ も そんな こと を いった。
「そ、 それ が、 オマエサン の サイナン の モト だよ。 せっかく ヒト の いう こと に カド を たてて、 むずかしい リクツ を くっつけたがる。 もともと、 オマエサン が ねらわれ、 ツル さん に まで ホコサキ が むいて きた と いう の は、 オマエサン の その タンキ な オオフウ が たたった と いう こと を かんがえて もらわなければ ならん の だ が、 イマ が イマ どう ショウネ を いれかえて くれ と いう ハナシ じゃ ない。 ヒト の いう こと を よく きいて もらいたい と いう もの だ―― オレタチ は イマ、 ムラ の モノ でも ない オマエサンタチ が かつがれて は キノドク だ と おもって、 タイサク を こうじて いる ところ なん じゃ ない か」
 スギジュウロウ が こんこん と さとしはじめる ので ワタシタチ も コシ を すえた が、 カレラ の いう こと は どうも うかうか とは しんぜられぬ の で あった。 その ハナシ を きく と、 ワタシタチ ばかり が、 ヤオモテ の ギセイシャ と みえた が、 ヤギシタ オヤコ を ハジメ と して、 ホラチュウ や キンゾウ の アクヒョウ は、 サクラ の ジブン に ここ に ワタシタチ が あらわれる と すぐに も きいた ハナシ で、 カレラ が ヨアルキ や オドリ ケンブツ に あらわれる の を みいだす モノ は なかった。
「ボクタチ と したって、 もしも ここ の セイネン だったら、 やはり カレラ を ねらう だろう な」
「それ あ、 もう ダレ に しろ トウゼン で、 ワタシ なら まず サイショ に ホラチュウ を――」
「カレラ は ジブン たち が ねらわれて いる の を かくそう と して、 オレ など を マキゾエ に する よう だよ。 どう かんがえて も オレ は ジブン が カレラ より サキ に かつがれよう など とは おもわれない よ」
「むろん その とおり です とも。 ヤツラ の いう こと なんて キ に する こと は ありません さ」
 ワタシ と オメンシ は、 そんな こと を はなしあい、 むしろ カズトヨ や J シ が サキ に ナン を こうむった の を フシギ と した こと も あった。
 ワタシ は、 イロリ の マワリ に、 グウゼン にも ヨウギシャ ばかり が あつまった の を、 あらためて みまわした。 そして、 ヒト の ハンカン や ゾウネン を あがなう ジンブツ と いう もの は、 その コウイ や ジンカク を ベツ に して、 ガイケイ を イチベツ した のみ で、 ただちに たまらぬ イヤミ を おぼえさせられる もの だ と おもった。 ヒト の ツウユウセイ など と いう もの は ヘイボン で、 そして テキカク だ。 ワタシ に しろ、 もしも スベテ の ムラビト を イチレツ に ならべて、 その ナカ から まったく リユウ も なく 「にくむ べき ジンブツ」 を シテキ せよ と めいぜられた ならば、 やはり これら の モノドモ と、 そして カズトヨ と J を えらんだ で あろう と おもわれた。
 スギジュウロウ と マツ は オヤコ の くせ に、 まるで ナカマ ドウシ の クチ を ききあい、 オリ に ふれて は たがいに ひそひそ と ミミウチ を かわして うなずいたり レイショウ を うかべて どうか する と タガイ の カタ を うつ マネ を した。 シンミツ の グアイ が サル の よう だ。 チチ と コ で ある から には よほど の ネンレイ が ソウイ する だろう にも かかわらず、 フタリ とも 40 くらい に みえ、 ゲンゴ は ききなおさない と いかにも ハンベツ も かなわぬ フメイリョウサ で、 タエマ も なく もぐもぐ と しゃべりつづける に つれて クチ の ハシ に しろい アワ が あふれた。 そして、 テノコウ で クチビル と シタ と を ヨコナデ して、 おまけに その テノコウ を ナニ で ぬぐおう と する でも なく、 そのまま アタマ を かいたり サカナ を つまんだり した。 ユビ の サキ は しじゅう こせこせ と して サラ や コバチ を タニン の もの も ジブン の もの も ちょっちょっ と イチ を うごかしたり、 イロイロ の クイモノ を ほんの マメ の ハシ ほど かんで ゼン の ヘリ に おきならべたり、 その アイマ には コヨウジ の サキ を サカズキ に ひたして ゼン の ウエ に モジ を かいた。 クセ まで が まったく おなじ よう で、 マツ が ときどき さしはさむ 「オトウサン」 と いう コエ に きづかなければ、 フタゴ の よう だった。
 ホラチュウ は ナニ か ヒトコト いう と、 あはは と ウマ の よう に おおきな キイロ の ハ を むきだして わらい、 それ に つれて げーっ、 げーっ と ハラ の ソコ から こみあげる ジョウキ の よう な ゲップ を エンリョ エシャク も なく ホウシュツ して 「どうも イサン カタ の よう だ」 と つぶやきながら オクバ の アタリ を オヤユビ の ハラ で ぐいぐい と なでた。 ハナ は いわゆる ザクロバナ と いう やつ だ が、 ただ あかい ばかり で なく アブラビカリ に ぬらついて フキデモノ が めだち、 クチ を あく ごと に フタツ の コバナ が ゲンコツ の よう に いかり ビコウ が ショウメン を むいた。 そして わらった か と おもう と、 その シュンカン に ワライ の ヒョウジョウ は きえうせて、 アイテ の カオイロ を ウワメヅカイ に にくにくしげ に ヌスミミ して いる の だ。
「よろしい、 オレ が ひきうけた ぞ」
 カレ は おりおり トツゼン に ひらきなおって、 いとも しかつめらしく うなりだす と オオギョウ な ミエ を きって ナナメ の コクウ を ねめつくした が、 おそらく その ヨウス は ダレ の メ にも そらぞらしく 「ホラチュウ」 と うつる に ちがいない の だ。
「チュウ さん が ひきうけた と なれば、 それ は もう オレタチ は アンシン だ けど、 だが――」 と マツ は シンミョウ に メ を ふせて ヨウジ の サキ を ろうしながら、 ダレダレ を だきこんで ひとまず ハイスイ の ジン を しき、 など と クビ を ひねって いた。 ホラチュウ の そんな オオギョウ な ミエ に せっして も しごく シゼン な アイヅチ を うてる マツ ども も、 また シゼン そう で あれば ある だけ シンソコ は フマジメ と さっせられる の だ。 カレラ は、 ナニ か センキョ ウンドウ に かんする オモワク でも ある らしかった。 ヤギシタ スギジュウロウ が サイド ソンカイ へ のりだそう と いう ケイカク で、 ホラチュウ や スッポン が ウンドウイン を もうしでた もの らしかった。 ジブン たち が トウコン ムラビト たち から、 あらぬ ハンカン を かって いる の は ハンタイトウ の シリオシ に よる もの で ある ゆえ、 トウメン の クモユキ を 「ある ホウホウ で」 のりきり さえ すれば、 ほんぜん と して イチジ に シンヨウ は うばいかえせる はず だ と いう ごとき ジフ に あんじて いる カタムキ で ある が、 カレラ へ よせる ムラビト ら の ハンカン は むしろ カレラ への シュクメイテキ な ゾウネン に はっする もの に ちがいなかった。 スッポン と いう の は ヨウギョジョウ の ウサミ キンゾウ の アダナ で、 カレ は みずから そらとぼける こと の タクミサ と くいついたら ヨウイ に はなさない と いう シツヨウブリ を ほこって いた。 カレ は マツ の いう こと を、 え? え? え? と シサイ-らしく ききなおして、 アイテ の ハナサキ へ ヨコガオ を のばし、 たしか に ききいれた と いう ハズミ に キュウ に クビ を ちぢめて、
「いったい それ は、 ホントウ の こと かね」 と ぎょうさん に あきれる の だ。 ―― 「だが、 しかし カズトヨ の イモバタケ を オドリブタイ に ナットク させる の は れっき と した コウキョウ ジギョウ だ。 ホッタ クン と ボク は、 まず この テン で テキ の キョ を つき……」 と カレ は ふと ワタシタチ に きかれて は こまる と いう らしく クチ を きって、 ホラチュウ や ショウジ の アナ へ じゅんじゅん と ナニゴト か を ささやいたり した。 そして、 うつらうつら と クビ を ふって いた。 カレ の メダマ は くぼんだ ガンカ の オク で ツネヅネ は ちいさく まるく ひかって いる が、 ヒト が ナニ か いう の を きく たび に、 いちいち ヒジョウ に おどろいた と いう ふう に ギョウテン する と、 たしか に それ は ぬっと マエ へ とびだして ギガン の よう に ひかった。 その ヨウス だけ は いかにも キモ に めいじて おどろいた と いう カッコウ だ が、 ホンシン は どんな こと にも おどろいて は いない ごとく、 メサキ は あらぬ ほう を きょとん と ながめて いる の だ。 たぶん カレ は、 シンジツ の オドロキ と いう カンジョウ は ケイケン した ためし は ない の では なかろう か。 ――アゴボネ が ぎっくり と ヒジ の よう に つきでて、 イロツヤ は ヌリモノ の よう な なめらかげ な ツヤ に とみ、 ノウカッショク で あった。 ヒタイ が モクギョ の よう な フクラミ を もって はりだし、 ミミ は ショウメン から でも シテキ も あたわぬ ほど ぴったり と コウトウブ へ すいつき、 クビ の フトサ に ヒカク して カオ ゼンタイ が ちいさく しかくばって、 どこ でも が こんこん と かたい オト を たてそう だった。 また クビ の グアイ が いかにも カメ の ごとく に、 のばしたり ちぢめたり する ドウサ に てきして ながく ぬらくら と して、 ノド の チュウオウ には ふかい ヨコジワ が イクスジ も きざまれて いた。 え? え? え? と ヨコガオ を のばして くる とき に、 ふと マヂカ に みる と マユゲ も マツゲ も はえて いない よう だった。
 むろん カレラ が ムラビト に ねらわれる の は、 サマザマ な ショギョウ の フセイジツサ から だった が、 ワタシ は ホカ の あらゆる ヒトビト の スガタ を おもいうかべて も、 カレラ ほど その ミブリ フウテイ まで が、 かつがれる の に テキトウ な もの を みいだせなかった。 カレラ の ショギョウ の ゼンアク は ニノツギ に して、 ただ まんぜん と カレラ に せっした だけ で、 もはや ジュウブン な ハンカン と ニクシミ を おぼえさせられる の は、 なにも ワタシ ヒトリ に かぎった ハナシ では ない の だ、 など と うなずかれた。 いつか の カズトヨ の よう に、 スッポン や ホラチュウ が かつぎだされて、 シニモノグルイ で わめきたてる コウケイ を ながめたら、 どんな に おもしろい こと だろう、 シンセツゴカシ や ショウジ の アナ の サル ども が ぽんぽん と テダマ に とられて チュウ に はねあがる ところ を みたら、 さぞかし ムネ の すく オモイ が する だろう―― ワタシ は、 カレラ の ワダイ など には ミミ も かさず、 ひたすら そんな ばかばかしい クウソウ に ふけって いる のみ だった。
「……オレ あ もう ちゃんと この メ で、 この ミミ で、 シゲ や クラ が オレタチ の わるい ウワサ を ふりまいて いる ところ を ミキキ して いる ん だ」
「ほほう、 それ あ また ホントウ の こと かね」
「ヤツラ の シリオシ が ヤブヅカ の オヌキ リンパチ だ って こと の タネ まで あがって いる ん だぜ」
「リンパチ を かつがせる テ に でれば ウム は ない ん だ がな」
 カレラ は クチ を つきだし、 おどろいたり、 ハガミ したり して カクサク に ムチュウ だった。 ――まれ に のまされた サケ なので、 イイカゲン に よって きそう だ と おもわれる のに いっこう ワタシ は しらじら と して いる のみ で、 アタマ の ナカ には あの ソウレツ な サワギ の キオク が つぎつぎ と はなばなしく よみがえって いる ばかり だった。
「どう でしょう ね。 ダイキン の こと は きりだす わけ には ゆかない もん でしょう かな。 まさか フルマイザケ で さしひこう って ハラ じゃ ない でしょう ね」
 オメンシ が そっと ワタシ に ささやいた。
「そんな こと かも しれない よ」 と ワタシ は ウワノソラ で こたえた。 それ より ワタシ は、 よくも こう ニクテイ な レンチュウ だけ が よりあつまって ウヌボレゴト を しゃべりあって いる もの だ、 こんな ところ に あの イチダン が ふみこんだら それこそ イチモウ ダジン の スバラシサ で アトクサレ が なくなる だろう に―― など と おもって、 カレラ の ヨウス ばかり を みまもる こと に あきなかった。 その とき スッポン が ワタシタチ の ササヤキ を キ に して、 え? え? え? と クビ を のばし、 オメンシ の カオイロ で ナニ か を さっする と 「まあまあ オマエガタ も ゆっくり のんで おいで よ。 うっかり ヨアルキ は あぶねえ から、 ひきあげる とき には オレタチ と ドウドウ で メン でも かむって……」
「あははは。 ためしに そのまま かえって みる の も よかろう ぜ」 と ホラチュウ は わらい、 ワタシ と オメンシ の カオ を トウブン に じっと にらめて いた。 ワタシ は なにげなく その シセン を だっして、 スッポン の ウシロ に かかって いる ハシラカガミ を みて いる と、 まもなく ハイゴ から ミズ を あびる よう な ツメタサ を おぼえて、 そのまま そこ に ギョウコ して しまいそう だった。 カガミ の ナカ に うつって いる ジブン の スガタ は、 せっかく ヒト が はなしかけて も むっと して、 ジブン ヒトリ が セイギテキ な こと でも かんがえて いる と でも いう ふう な カラステング-じみた ひとりよがりげ な カオ で、 ぼっと マエ を みつめて いた。 カオ の リンカク が シタツボミ に ちいさい わり に、 メ とか ハナ とか クチ とか が いやに どぎつく フツリアイ で、 けっして クビ は うごかぬ のに、 メダマ だけ が いかにも ヒト を うたぐる と でも いう ふう に サユウ に うごき、 おりおり イッポウ の メ だけ が ケイレンテキ に ほそく さがって、 それ に つれて クチ の ハシ が つりあがった。 ショウ トックリ の よう に シモブクレ の ハナ から は ハナゲ が つんつん と つきでて ドテ の よう に もりあがった ウワクチビル を つき、 そして シタクチビル は ウワクチビル に おおわれて ちぢみあがって いる の を むりやり に ぶばろう と して たえまなく ゴム の よう に のばしたがって いた。 ホラチュウ が サッキ から オリ に ふれて は こちら の カオ を にくにくしそう に ぬすみみる の は、 べつだん それ は カレ の クセ では なく、 ヒト を コバカ に する みたい な ワタシ の ツラツキ に たえられぬ ハンカン を しいられて いた もの と みえた。 そして ワタシ の モノ の イイカタ は、 ヒト の いう こと には ミミ も かさぬ と いう よう な つっぱなした テイ で、 ふとい よう な ほそい よう な カン の ちがった ウラゴエ だった。 ――ワタシ は つぎつぎ と ジブン の ヨウス を いまさら カガミ に うつして みる に つけ、 ヒト の ハンカン や ゾウネン を さそう と なれば、 スッポン や ホラチュウ に くらぶ べく も なく、 ワタシ ジシン と して も、 まず、 コヤツ を ねらう べき が ジュントウ だった と ガテン された。 コヤツ が かつがれて さんたん たる ヒメイ を あげる テイ を ソウゾウ する と、 そこ に いならぶ ダレ を クウソウ した とき より も いい キミ な、 ハラ の ソコ から の スガスガシサ に あおられた。 それ に つけて ワタシ は また カガミ の ナカ で トナリ の オメンシ を みる と、 キツネ の よう な フヘイガオ で、 はやく カネ を とりたい もの だ が ジブン が いいだす の は いや で、 ワタシ を せきたてよう と いらいら して はげしい ビンボウ ユスリ を たてたり、 きょろきょろ と ワタシ の ヨコガオ を うかがったり して いる の が オカン を もって ながめられた。 カレ は この ヒキョウ インジュン な タイド で ついに ヒトビト から ねらわれる に いたった の か と ワタシ は きづいた が、 フダン の よう に あえて ダイベン の ヤク を かって でよう とは しなかった。 そして ワタシ は わざと はっきり と、
「ミズナガレ フナジロウ クン、 ボク は もう しばらく ここ で あそんで ゆく から、 もし おちつかない なら サキ へ かえりたまえ な」 と いった。
「ミナガレ フナジロウ か―― こいつ は どうも ウッテツケ の ナマエ だな。 あはは」 と ホラチュウ が わらう と、 スッポン が たちまち キキミミ を たてて、 え? え? え? と クビ を のばした。 すると ホラチュウ は、 コウカ へ でも はしる らしく、 やおら たちあがる と、
「アイツ は いったい ナマイキ だよ。 ろくろく ヒト の いう こと も きかない で えらそう な ツラ ばかり して やがら、 よっぽど ヒト を バカ に して やがる ん だろう。 ナン だい、 ヒトリ で おつ に すまして、 ナニ を のびたり ちぢんだり して やがる ん だい。 ウヌボレ カガミ が みたかったら、 さっさと テメエ の ウチ へ かえる が いい ぞ。 チクショウ、 まごまご して やがる と、 オレラ が ヒトリ で ひっかついで ネ を あげさせて やる ぞ」 など と つぶやき、 たいそう カン の たかぶった アシドリ で あった。

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