カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ココロ 「リョウシン と ワタクシ 2」

2015-07-07 | ナツメ ソウセキ
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 チチ の ビョウキ は おなじ よう な ジョウタイ で 1 シュウカン イジョウ つづいた。 ワタクシ は その アイダ に ながい テガミ を キュウシュウ に いる アニ-アテ で だした。 イモウト へは ハハ から ださせた。 ワタクシ は ハラ の ナカ で、 おそらく これ が チチ の ケンコウ に かんして フタリ へ やる サイゴ の タヨリ だろう と おもった。 それで リョウホウ へ いよいよ と いう バアイ には デンポウ を うつ から でて こい と いう イミ を かきこめた。
 アニ は いそがしい ショク に いた。 イモウト は ニンシンチュウ で あった。 だから チチ の キケン が メノマエ に せまらない うち に よびよせる ジユウ は きかなかった。 と いって、 せっかく ツゴウ して きた には きた が、 まにあわなかった と いわれる の も つらかった。 ワタクシ は デンポウ を かける ジキ に ついて、 ヒト の しらない セキニン を かんじた。
「そう はっきり した こと に なる と ワタクシ にも わかりません。 しかし キケン は いつ くる か わからない と いう こと だけ は ショウチ して いて ください」
 ステーション の ある マチ から むかえた イシャ は ワタクシ に こう いった。 ワタクシ は ハハ と ソウダン して、 その イシャ の シュウセン で、 マチ の ビョウイン から カンゴフ を ヒトリ たのむ こと に した。 チチ は マクラモト へ きて アイサツ する しろい フク を きた オンナ を みて ヘン な カオ を した。
 チチ は シビョウ に かかって いる こと を とうから ジカク して いた。 それでいて、 ガンゼン に せまりつつ ある シ ソノモノ には キ が つかなかった。
「いまに なおったら もう イッペン トウキョウ へ あそび に いって みよう。 ニンゲン は いつ しぬ か わからない から な。 なんでも やりたい こと は、 いきてる うち に やって おく に かぎる」
 ハハ は しかたなし に 「その とき は ワタクシ も イッショ に つれて いって いただきましょう」 など と チョウシ を あわせて いた。
 ときとすると また ヒジョウ に さみしがった。
「オレ が しんだら、 どうか オカアサン を ダイジ に して やって くれ」
 ワタクシ は この 「オレ が しんだら」 と いう コトバ に イッシュ の キオク を もって いた。 トウキョウ を たつ とき、 センセイ が オクサン に むかって ナンベン も それ を くりかえした の は、 ワタクシ が ソツギョウ した ヒ の バン の こと で あった。 ワタクシ は ワライ を おびた センセイ の カオ と、 エンギ でも ない と ミミ を ふさいだ オクサン の ヨウス と を おもいだした。 あの とき の 「オレ が しんだら」 は タンジュン な カテイ で あった。 イマ ワタクシ が きく の は いつ おこる か わからない ジジツ で あった。 ワタクシ は センセイ に たいする オクサン の タイド を まなぶ こと が できなかった。 しかし クチ の サキ では なんとか チチ を まぎらさなければ ならなかった。
「そんな よわい こと を おっしゃっちゃ いけません よ。 いまに なおったら トウキョウ へ あそび に いらっしゃる はず じゃ ありません か。 オカアサン と イッショ に。 コンド いらっしゃる と きっと びっくり します よ、 かわって いる んで。 デンシャ の あたらしい センロ だけ でも たいへん ふえて います から ね。 デンシャ が とおる よう に なれば しぜん マチナミ も かわる し、 その うえ に シク カイセイ も ある し、 トウキョウ が じっと して いる とき は、 まあ ニロクジチュウ 1 プン も ない と いって いい くらい です」
 ワタクシ は シカタ が ない から いわない で いい こと まで しゃべった。 チチ は また マンゾク-らしく それ を きいて いた。
 ビョウニン が ある ので しぜん イエ の デイリ も おおく なった。 キンジョ に いる シンルイ など は、 フツカ に ヒトリ ぐらい の ワリ で かわるがわる ミマイ に きた。 ナカ には ヒカクテキ トオク に いて ヘイゼイ ソエン な モノ も あった。 「どう か と おもったら、 この ヨウス じゃ だいじょうぶ だ。 ハナシ も ジユウ だし、 だいち カオ が ちっとも やせて いない じゃ ない か」 など と いって かえる モノ が あった。 ワタクシ の かえった トウジ は ひっそり しすぎる ほど しずか で あった カテイ が、 こんな こと で だんだん ざわざわ しはじめた。
 その ナカ に うごかず に いる チチ の ビョウキ は、 ただ おもしろく ない ほう へ うつって ゆく ばかり で あった。 ワタクシ は ハハ や オジ と ソウダン して、 とうとう アニ と イモウト に デンポウ を うった。 アニ から は すぐ ゆく と いう ヘンジ が きた。 イモウト の オット から も たつ と いう シラセ が あった。 イモウト は このまえ カイニン した とき に リュウザン した ので、 コンド こそ は クセ に ならない よう に ダイジ を とらせる つもり だ と、 かねて いいこした その オット は、 イモウト の カワリ に ジブン で でて くる かも しれなかった。

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 こうした オチツキ の ない アイダ にも、 ワタクシ は まだ しずか に すわる ヨユウ を もって いた。 たまに は ショモツ を あけて 10 ページ も ツヅケザマ に よむ ジカン さえ でて きた。 いったん かたく くくられた ワタクシ の コウリ は、 いつのまにか とかれて しまった。 ワタクシ は いる に まかせて、 その ナカ から イロイロ な もの を とりだした。 ワタクシ は トウキョウ を たつ とき、 ココロ の ウチ で きめた、 この ナツジュウ の ニッカ を かえりみた。 ワタクシ の やった こと は この ニッカ の 3 が 1 にも たらなかった。 ワタクシ は イマ まで も こういう フユカイ を ナンド と なく かさねて きた。 しかし この ナツ ほど おもった とおり シゴト の はこばない ためし も すくなかった。 これ が ヒト の ヨ の ツネ だろう と おもいながら も ワタクシ は いや な キモチ に おさえつけられた。
 ワタクシ は この フカイ の ウチ に すわりながら、 イッポウ に チチ の ビョウキ を かんがえた。 チチ の しんだ アト の こと を ソウゾウ した。 そうして それ と ドウジ に、 センセイ の こと を イッポウ に おもいうかべた。 ワタクシ は この フカイ な ココロモチ の リョウタン に チイ、 キョウイク、 セイカク の ぜんぜん ことなった フタリ の オモカゲ を ながめた。
 ワタクシ が チチ の マクラモト を はなれて、 ヒトリ とりみだした ショモツ の ナカ に ウデグミ を して いる ところ へ ハハ が カオ を だした。
「すこし ヒルネ でも おし よ。 オマエ も さぞ くたびれる だろう」
 ハハ は ワタクシ の キブン を リョウカイ して いなかった。 ワタクシ も ハハ から それ を ヨキ する ほど の コドモ でも なかった。 ワタクシ は タンカン に レイ を のべた。 ハハ は まだ ヘヤ の イリグチ に たって いた。
「オトウサン は?」 と ワタクシ が きいた。
「イマ よく ねて おいで だよ」 と ハハ が こたえた。
 ハハ は とつぜん はいって きて ワタクシ の ソバ に すわった。
「センセイ から まだ なんとも いって こない かい」 と きいた。
 ハハ は その とき の ワタクシ の コトバ を しんじて いた。 その とき の ワタクシ は センセイ から きっと ヘンジ が ある と ハハ に ホショウ した。 しかし チチ や ハハ の キボウ する よう な ヘンジ が くる とは、 その とき の ワタクシ も まるで キタイ しなかった。 ワタクシ は ココロエ が あって ハハ を あざむいた と おなじ ケッカ に おちいった。
「もう イッペン テガミ を だして ごらん な」 と ハハ が いった。
 ヤク に たたない テガミ を ナンツウ かこう と、 それ が ハハ の イアン に なる なら、 テスウ を いとう よう な ワタクシ では なかった。 けれども こういう ヨウケン で センセイ に せまる の は ワタクシ の クツウ で あった。 ワタクシ は チチ に しかられたり、 ハハ の キゲン を そんじたり する より も、 センセイ から みさげられる の を はるか に おそれて いた。 あの イライ に たいして イマ まで ヘンジ の もらえない の も、 あるいは そうした ワケ から じゃ ない かしら と いう ジャスイ も あった。
「テガミ を かく の は ワケ は ない です が、 こういう こと は ユウビン じゃ とても ラチ は あきません よ。 どうしても ジブン で トウキョウ へ でて、 じかに たのんで まわらなくっちゃ」
「だって オトウサン が あの ヨウス じゃ、 オマエ、 いつ トウキョウ へ でられる か わからない じゃ ない か」
「だから で や しません。 なおる とも なおらない とも かたづかない うち は、 ちゃんと こうして いる つもり です」
「そりゃ わかりきった ハナシ だね。 いまにも むずかしい と いう タイビョウニン を ほうちらかして おいて、 ダレ が カッテ に トウキョウ へ なんか いける もの かね」
 ワタクシ は はじめ ココロ の ナカ で、 なにも しらない ハハ を あわれんだ。 しかし ハハ が なぜ こんな モンダイ を この ざわざわ した サイ に もちだした の か リカイ できなかった。 ワタクシ が チチ の ビョウキ を ヨソ に、 しずか に すわったり ショケン したり する ヨユウ の ある ごとく に、 ハハ も メノマエ の ビョウニン を わすれて、 ホカ の こと を かんがえる だけ、 ムネ に スキマ が ある の かしら と うたぐった。 その とき 「じつは ね」 と ハハ が いいだした。
「じつは オトウサン の いきて おいで の うち に、 オマエ の クチ が きまったら さぞ アンシン なさる だろう と おもう ん だ がね。 この ヨウス じゃ、 とても まにあわない かも しれない けれども、 それにしても、 まだ ああ やって クチ も たしか なら キ も たしか なん だ から、 ああして おいで の うち に よろこばして あげる よう に オヤコウコウ を おし な」
 あわれ な ワタクシ は オヤコウコウ の できない キョウグウ に いた。 ワタクシ は ついに 1 ギョウ の テガミ も センセイ に ださなかった。

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 アニ が かえって きた とき、 チチ は ねながら シンブン を よんで いた。 チチ は ヘイゼイ から ナニ を おいて も シンブン だけ には メ を とおす シュウカン で あった が、 トコ に ついて から は、 タイクツ の ため なおさら それ を よみたがった。 ハハ も ワタクシ も しいて は ハンタイ せず に、 なるべく ビョウニン の オモイドオリ に させて おいた。
「そういう ゲンキ なら ケッコウ な もの だ。 よっぽど わるい か と おもって きたら、 たいへん いい よう じゃ ありません か」
 アニ は こんな こと を いいながら チチ と ハナシ を した。 その にぎやかすぎる チョウシ が ワタクシ には かえって フチョウワ に きこえた。 それでも チチ の マエ を はずして ワタクシ と サシムカイ に なった とき は、 むしろ しずんで いた。
「シンブン なんか よましちゃ いけなか ない か」
「ワタシ も そう おもう ん だ けれども、 よまない と ショウチ しない ん だ から、 シヨウ が ない」
 アニ は ワタクシ の ベンカイ を だまって きいて いた。 やがて、 「よく わかる の かな」 と いった。 アニ は チチ の リカイリョク が ビョウキ の ため に、 ヘイゼイ より は よっぽど にぶって いる よう に カンサツ した らしい。
「そりゃ たしか です。 ワタシ は さっき 20 プン ばかり マクラモト に すわって いろいろ はなして みた が、 チョウシ の くるった ところ は すこしも ない です。 あの ヨウス じゃ コト に よる と まだ なかなか もつ かも しれません よ」
 アニ と ゼンゴ して ついた イモウト の オット の イケン は、 ワレワレ より も よほど ラッカンテキ で あった。 チチ は カレ に むかって イモウト の こと を あれこれ と たずねて いた。 「カラダ が カラダ だ から むやみ に キシャ に なんぞ のって ゆれない ほう が いい。 ムリ を して ミマイ に こられたり する と、 かえって こっち が シンパイ だ から」 と いって いた。 「なに いまに なおったら アカンボウ の カオ でも み に、 ヒサシブリ に こっち から でかける から さしつかえない」 とも いって いた。
 ノギ タイショウ の しんだ とき も、 チチ は いちばん サキ に シンブン で それ を しった。
「タイヘン だ タイヘン だ」 と いった。
 ナニゴト も しらない ワタクシタチ は この トツゼン な コトバ に おどろかされた。
「あの とき は いよいよ アタマ が ヘン に なった の か と おもって、 ひやり と した」 と アト で アニ が ワタクシ に いった。 「ワタシ も じつは おどろきました」 と イモウト の オット も ドウカン らしい コトバツキ で あった。
 その コロ の シンブン は じっさい イナカモノ には ヒゴト に まちうけられる よう な キジ ばかり あった。 ワタクシ は チチ の マクラモト に すわって テイネイ に それ を よんだ。 よむ ジカン の ない とき は、 そっと ジブン の ヘヤ へ もって きて、 のこらず メ を とおした。 ワタクシ の メ は ながい アイダ、 グンプク を きた ノギ タイショウ と、 それから カンジョ みた よう な ナリ を した その フジン の スガタ を わすれる こと が できなかった。
 ヒツウ な カゼ が イナカ の スミ まで ふいて きて、 ねむたそう な キ や クサ を ふるわせて いる サイチュウ に、 とつぜん ワタクシ は 1 ツウ の デンポウ を センセイ から うけとった。 ヨウフク を きた ヒト を みる と イヌ が ほえる よう な ところ では、 1 ツウ の デンポウ すら ダイジケン で あった。 それ を うけとった ハハ は、 はたして おどろいた よう な ヨウス を して、 わざわざ ワタクシ を ヒト の いない ところ へ よびだした。
「ナン だい」 と いって、 ワタクシ の フウ を ひらく の を ソバ に たって まって いた。
 デンポウ には ちょっと あいたい が こられる か と いう イミ が カンタン に かいて あった。 ワタクシ は クビ を かたむけた。
「きっと おたの もうして おいた クチ の こと だよ」 と ハハ が スイダン して くれた。
 ワタクシ も あるいは そう かも しれない と おもった。 しかし それにしては すこし ヘン だ とも かんがえた。 とにかく アニ や イモウト の オット まで よびよせた ワタクシ が、 チチ の ビョウキ を うちやって、 トウキョウ へ いく わけ には いかなかった。 ワタクシ は ハハ と ソウダン して、 いかれない と いう ヘンデン を うつ こと に した。 できる だけ カンリャク な コトバ で チチ の ビョウキ の キトク に おちいりつつ ある ムネ も つけくわえた が、 それでも キ が すまなかった から、 イサイ テガミ と して、 こまかい ジジョウ を その ヒ の うち に したためて ユウビン で だした。 たのんだ イチ の こと と ばかり しんじきった ハハ は、 「ホントウ に マ の わるい とき は シカタ の ない もの だね」 と いって ザンネン そう な カオ を した。

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 ワタクシ の かいた テガミ は かなり ながい もの で あった。 ハハ も ワタクシ も コンド こそ センセイ から なんとか いって くる だろう と かんがえて いた。 すると テガミ を だして フツカ-メ に また デンポウ が ワタクシ-アテ で とどいた。 それ には こない でも よろしい と いう モンク だけ しか なかった。 ワタクシ は それ を ハハ に みせた。
「おおかた テガミ で なんとか いって きて くださる つもり だろう よ」
 ハハ は どこまでも センセイ が ワタクシ の ため に イショク の クチ を シュウセン して くれる もの と ばかり カイシャク して いる らしかった。 ワタクシ も あるいは そう か とも かんがえた が、 センセイ の ヘイゼイ から おして みる と、 どうも ヘン に おもわれた。 「センセイ が クチ を さがして くれる」。 これ は ありう べからざる こと の よう に ワタクシ には みえた。
「とにかく ワタクシ の テガミ は まだ ムコウ へ ついて いない はず だ から、 この デンポウ は その マエ に だした もの に ちがいない です ね」
 ワタクシ は ハハ に むかって こんな わかりきった こと を いった。 ハハ は また もっともらしく シアン しながら 「そう だね」 と こたえた。 ワタクシ の テガミ を よまない マエ に、 センセイ が この デンポウ を うった と いう こと が、 センセイ を カイシャク する うえ に おいて、 なんの ヤク にも たたない の は しれて いる のに。
 その ヒ は ちょうど シュジイ が マチ から インチョウ を つれて くる はず に なって いた ので、 ハハ と ワタクシ は それぎり この ジケン に ついて ハナシ を する キカイ が なかった。 フタリ の イシャ は タチアイ の うえ、 ビョウニン に カンチョウ など を して かえって いった。
 チチ は イシャ から アンガ を めいぜられて イライ、 リョウベン とも ねた まま ヒト の テ で シマツ して もらって いた。 ケッペキ な チチ は、 サイショ の アイダ こそ はなはだしく それ を いみきらった が、 カラダ が きかない ので、 やむ を えず いやいや トコ の ウエ で ヨウ を たした。 それ が ビョウキ の カゲン で アタマ が だんだん にぶく なる の か なんだか、 ヒ を ふる に したがって、 ブショウ な ハイセツ を イ と しない よう に なった。 たまに は フトン や シキフ を よごして、 ハタ の モノ が マユ を よせる のに、 トウニン は かえって ヘイキ で いたり した。 もっとも ニョウ の リョウ は ビョウキ の セイシツ と して、 きわめて すくなく なった。 イシャ は それ を ク に した。 ショクヨク も しだいに おとろえた。 たまに ナニ か ほしがって も、 シタ が ほしがる だけ で、 ノド から シタ へは ごく わずか しか とおらなかった。 すき な シンブン も テ に とる キリョク が なくなった。 マクラ の ソバ に ある ロウガンキョウ は、 いつまでも くろい サヤ に おさめられた まま で あった。 コドモ の ジブン から ナカ の よかった サク さん と いう イマ では 1 リ ばかり へだたった ところ に すんで いる ヒト が ミマイ に きた とき、 チチ は 「ああ サク さん か」 と いって、 どんより した メ を サク さん の ほう に むけた。
「サク さん よく きて くれた。 サク さん は ジョウブ で うらやましい ね。 オレ は もう ダメ だ」
「そんな こと は ない よ。 オマエ なんか コドモ は フタリ とも ダイガク を ソツギョウ する し、 すこし ぐらい ビョウキ に なったって、 モウシブン は ない ん だ。 オレ を ごらん よ。 カカア には しなれる し さ、 コドモ は なし さ。 ただ こうして いきて いる だけ の こと だよ。 タッシャ だって なんの タノシミ も ない じゃ ない か」
 カンチョウ を した の は サク さん が きて から 2~3 ニチ アト の こと で あった。 チチ は イシャ の おかげ で たいへん ラク に なった と いって よろこんだ。 すこし ジブン の ジュミョウ に たいする ドキョウ が できた と いう ふう に キゲン が なおった。 ソバ に いる ハハ は、 それ に つりこまれた の か、 ビョウニン に キリョク を つける ため か、 センセイ から デンポウ の きた こと を、 あたかも ワタクシ の イチ が チチ の キボウ する とおり トウキョウ に あった よう に はなした。 ソバ に いる ワタクシ は むずがゆい ココロモチ が した が、 ハハ の コトバ を さえぎる わけ にも ゆかない ので、 だまって きいて いた。 ビョウニン は うれしそう な カオ を した。
「そりゃ ケッコウ です」 と イモウト の オット も いった。
「なんの クチ だ か まだ わからない の か」 と アニ が きいた。
 ワタクシ は いまさら それ を ヒテイ する ユウキ を うしなった。 ジブン にも なんとも ワケ の わからない アイマイ な ヘンジ を して、 わざと セキ を たった。

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 チチ の ビョウキ は サイゴ の イチゲキ を まつ マギワ まで すすんで きて、 そこ で しばらく チュウチョ する よう に みえた。 イエ の モノ は ウンメイ の センコク が、 キョウ くだる か、 キョウ くだる か と おもって、 マイヨ トコ に はいった。
 チチ は ハタ の モノ を つらく する ほど の クツウ を どこ にも かんじて いなかった。 その テン に なる と カンビョウ は むしろ ラク で あった。 ヨウジン の ため に、 ダレ か ヒトリ ぐらい ずつ かわるがわる おきて は いた が、 アト の モノ は ソウトウ の ジカン に メイメイ の ネドコ へ ひきとって さしつかえなかった。 ナニ か の ヒョウシ で ねむれなかった とき、 ビョウニン の うなる よう な コエ を かすか に きいた と おもいあやまった ワタクシ は、 イッペン ヨナカ に トコ を ぬけだして、 ネン の ため チチ の マクラモト まで いって みた こと が あった。 その ヨ は ハハ が おきて いる バン に あたって いた。 しかし その ハハ は チチ の ヨコ に ヒジ を まげて マクラ と した なり ねいって いた。 チチ も ふかい ネムリ の ウチ に そっと おかれた ヒト の よう に しずか に して いた。 ワタクシ は シノビアシ で また ジブン の ネドコ へ かえった。
 ワタクシ は アニ と イッショ の カヤ の ナカ に ねた。 イモウト の オット だけ は、 キャクアツカイ を うけて いる せい か、 ヒトリ はなれた ザシキ に いって やすんだ。
「セキ さん も キノドク だね。 ああ イクニチ も ひっぱられて かえれなくっちゃあ」
 セキ と いう の は その ヒト の ミョウジ で あった。
「しかし そんな いそがしい カラダ でも ない ん だ から、 ああして とまって いて くれる ん でしょう。 セキ さん より も ニイサン の ほう が こまる でしょう、 こう ながく なっちゃ」
「こまって も シカタ が ない。 ホカ の こと と ちがう から な」
 アニ と トコ を ならべて ねる ワタクシ は、 こんな ネモノガタリ を した。 アニ の アタマ にも ワタクシ の ムネ にも、 チチ は どうせ たすからない と いう カンガエ が あった。 どうせ たすからない もの ならば と いう カンガエ も あった。 ワレワレ は コ と して オヤ の しぬ の を まって いる よう な もの で あった。 しかし コ と して の ワレワレ は それ を コトバ の ウエ に あらわす の を はばかった。 そうして おたがいに オタガイ が どんな こと を おもって いる か を よく リカイ しあって いた。
「オトウサン は、 まだ なおる キ で いる よう だな」 と アニ が ワタクシ に いった。
 じっさい アニ の いう とおり に みえる ところ も ない では なかった。 キンジョ の モノ が ミマイ に くる と、 チチ は かならず あう と いって ショウチ しなかった。 あえば きっと、 ワタクシ の ソツギョウ イワイ に よぶ こと が できなかった の を ザンネン-がった。 そのかわり ジブン の ビョウキ が なおったら と いう よう な こと も ときどき つけくわえた。
「オマエ の ソツギョウ イワイ は ヤメ に なって ケッコウ だ。 オレ の とき には よわった から ね」 と アニ は ワタクシ の キオク を つっついた。 ワタクシ は アルコール に あおられた その とき の ランザツ な アリサマ を おもいだして クショウ した。 のむ もの や くう もの を しいて まわる チチ の タイド も、 にがにがしく ワタクシ の メ に うつった。
 ワタクシタチ は それほど ナカ の いい キョウダイ では なかった。 ちいさい うち は よく ケンカ を して、 トシ の すくない ワタクシ の ほう が いつでも なかされた。 ガッコウ へ はいって から の センモン の ソウイ も、 まったく セイカク の ソウイ から でて いた。 ダイガク に いる ジブン の ワタクシ は、 ことに センセイ に セッショク した ワタクシ は、 トオク から アニ を ながめて、 つねに ドウブツテキ だ と おもって いた。 ワタクシ は ながく アニ に あわなかった ので、 また かけへだたった トオク に いた ので、 トキ から いって も キョリ から いって も、 アニ は いつでも ワタクシ には ちかく なかった の で ある。 それでも ヒサシブリ に こう おちあって みる と、 キョウダイ の やさしい ココロモチ が どこ から か シゼン に わいて でた。 バアイ が バアイ なの も その おおきな ゲンイン に なって いた。 フタリ に キョウツウ な チチ、 その チチ の しのう と して いる マクラモト で、 アニ と ワタクシ は アクシュ した の で あった。
「オマエ これから どう する」 と アニ は きいた。 ワタクシ は また まったく ケントウ の ちがった シツモン を アニ に かけた。
「いったい ウチ の ザイサン は どう なってる ん だろう」
「オレ は しらない。 オトウサン は まだ なんとも いわない から。 しかし ザイサン って いった ところ で カネ と して は タカ の しれた もの だろう」
 ハハ は また ハハ で センセイ の ヘンジ の くる の を ク に して いた。
「まだ テガミ は こない かい」 と ワタクシ を せめた。

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「センセイ センセイ と いう の は いったい ダレ の こと だい」 と アニ が きいた。
「こないだ はなした じゃ ない か」 と ワタクシ は こたえた。 ワタクシ は ジブン で シツモン して おきながら、 すぐ ヒト の セツメイ を わすれて しまう アニ に たいして フカイ の ネン を おこした。
「きいた こと は きいた けれども」
 アニ は ひっきょう きいて も わからない と いう の で あった。 ワタクシ から みれば なにも ムリ に センセイ を アニ に リカイ して もらう ヒツヨウ は なかった。 けれども ハラ は たった。 また レイ の アニ-らしい ところ が でて きた と おもった。
 センセイ センセイ と ワタクシ が ソンケイ する イジョウ、 その ヒト は かならず チョメイ の シ で なくて は ならない よう に アニ は かんがえて いた。 すくなくとも ダイガク の キョウジュ ぐらい だろう と スイサツ して いた。 ナ も ない ヒト、 なにも して いない ヒト、 それ が どこ に カチ を もって いる だろう。 アニ の ハラ は この テン に おいて、 チチ と まったく おなじ もの で あった。 けれども チチ が なにも できない から あそんで いる の だ と ソクダン する の に ひきかえて、 アニ は ナニ か やれる ノウリョク が ある のに、 ぶらぶら して いる の は つまらん ニンゲン に かぎる と いった フウ の コウフン を もらした。
「イゴイスト は いけない ね。 なにも しない で いきて いよう と いう の は オウチャク な リョウケン だ から ね。 ヒト は ジブン の もって いる サイノウ を できる だけ はたらかせなくっちゃ ウソ だ」
 ワタクシ は アニ に むかって、 ジブン の つかって いる イゴイスト と いう コトバ の イミ が よく わかる か と ききかえして やりたかった。
「それでも その ヒト の おかげ で チイ が できれば まあ ケッコウ だ。 オトウサン も よろこんでる よう じゃ ない か」
 アニ は アト から こんな こと を いった。 センセイ から メイリョウ な テガミ の こない イジョウ、 ワタクシ は そう しんずる こと も できず、 また そう クチ に だす ユウキ も なかった。 それ を ハハ の ハヤノミコミ で ミンナ に そう フイチョウ して しまった イマ と なって みる と、 ワタクシ は キュウ に それ を うちけす わけ に ゆかなく なった。 ワタクシ は ハハ に サイソク される まで も なく、 センセイ の テガミ を まちうけた。 そうして その テガミ に、 どうか ミンナ の かんがえて いる よう な イショク の クチ の こと が かいて あれば いい が と ねんじた。 ワタクシ は シ に ひんして いる チチ の テマエ、 その チチ に イクブン でも アンシン させて やりたい と いのりつつ ある ハハ の テマエ、 はたらかなければ ニンゲン で ない よう に いう アニ の テマエ、 ソノタ イモウト の オット だの オジ だの オバ だの の テマエ、 ワタクシ の ちっとも トンジャク して いない こと に、 シンケイ を なやまさなければ ならなかった。
 チチ が ヘン な きいろい もの を はいた とき、 ワタクシ は かつて センセイ と オクサン から きかされた キケン を おもいだした。 「ああして ながく ねて いる ん だ から イ も わるく なる はず だね」 と いった ハハ の カオ を みて、 なにも しらない その ヒト の マエ に なみだぐんだ。
 アニ と ワタクシ が チャノマ で おちあった とき、 アニ は 「きいた か」 と いった。 それ は イシャ が カエリギワ に アニ に むかって いった こと を きいた か と いう イミ で あった。 ワタクシ には セツメイ を またない でも その イミ が よく わかって いた。
「オマエ ここ へ かえって きて、 ウチ の こと を カンリ する キ は ない か」 と アニ が ワタクシ を かえりみた。 ワタクシ は なんとも こたえなかった。
「オカアサン ヒトリ じゃ、 どう する こと も できない だろう」 と アニ が また いった。 アニ は ワタクシ を ツチ の ニオイ を かいで くちて いって も おしく ない よう に みて いた。
「ホン を よむ だけ なら、 イナカ でも じゅうぶん できる し、 それに はたらく ヒツヨウ も なくなる し、 ちょうど いい だろう」
「ニイサン が かえって くる の が ジュン です ね」 と ワタクシ が いった。
「オレ に そんな こと が できる もの か」 と アニ は ヒトクチ に しりぞけた。 アニ の ハラ の ナカ には、 ヨノナカ で これから シゴト を しよう と いう キ が みちみちて いた。
「オマエ が いや なら、 まあ オジサン に でも セワ を たのむ ん だ が、 それにしても オカアサン は どっち か で ひきとらなくっちゃ なるまい」
「オカアサン が ここ を うごく か うごかない か が すでに おおきな ギモン です よ」
 キョウダイ は まだ チチ の しなない マエ から、 チチ の しんだ アト に ついて、 こんな ふう に かたりあった。

 16

 チチ は ときどき ウワゴト を いう よう に なった。
「ノギ タイショウ に すまない。 じつに メンボク シダイ が ない。 いえ ワタクシ も すぐ オアト から」
 こんな コトバ を ひょいひょい だした。 ハハ は キミ を わるがった。 なるべく ミンナ を マクラモト へ あつめて おきたがった。 キ の たしか な とき は しきり に さびしがる ビョウニン にも それ が キボウ らしく みえた。 ことに ヘヤ の ウチ を みまわして ハハ の カゲ が みえない と、 チチ は かならず 「オミツ は」 と きいた。 きかない でも、 メ が それ を ものがたって いた。 ワタクシ は よく たって ハハ を よび に いった。 「ナニ か ゴヨウ です か」 と、 ハハ が しかけた ヨウ を ソノママ に して おいて ビョウシツ へ くる と、 チチ は ただ ハハ の カオ を みつめる だけ で なにも いわない こと が あった。 そう か と おもう と、 まるで かけはなれた ハナシ を した。 とつぜん 「オミツ オマエ にも いろいろ セワ に なった ね」 など と やさしい コトバ を だす とき も あった。 ハハ は そういう コトバ の マエ に きっと なみだぐんだ。 そうした アト では また きっと ジョウブ で あった ムカシ の チチ を その タイショウ と して おもいだす らしかった。
「あんな あわれっぽい こと を オイイ だ がね、 あれ で モト は ずいぶん ひどかった ん だよ」
 ハハ は チチ の ため に ホウキ で セナカ を どやされた とき の こと など を はなした。 イマ まで ナンベン も それ を きかされた ワタクシ と アニ は、 イツモ とは まるで ちがった キブン で、 ハハ の コトバ を チチ の カタミ の よう に ミミ へ うけいれた。
 チチ は ジブン の メノマエ に うすぐらく うつる シ の カゲ を ながめながら、 まだ ユイゴン らしい もの を クチ に ださなかった。
「イマ の うち ナニ か きいて おく ヒツヨウ は ない かな」 と アニ が ワタクシ の カオ を みた。
「そう だなあ」 と ワタクシ は こたえた。 ワタクシ は こちら から すすんで そんな こと を もちだす の も ビョウニン の ため に ヨシアシ だ と かんがえて いた。 フタリ は けっしかねて ついに オジ に ソウダン を かけた。 オジ も クビ を かたむけた。
「いいたい こと が ある のに、 いわない で しぬ の も ザンネン だろう し、 と いって、 こっち から サイソク する の も わるい かも しれず」
 ハナシ は とうとう ぐずぐず に なって しまった。 その うち に コンスイ が きた。 レイ の とおり なにも しらない ハハ は それ を タダ の ネムリ と おもいちがえて かえって よろこんだ。 「まあ ああして ラク に ねられれば、 ハタ に いる モノ も たすかります」 と いった。
 チチ は ときどき メ を あけて、 ダレ は どうした など と とつぜん きいた。 その ダレ は つい サッキ まで そこ に すわって いた ヒト の ナ に かぎられて いた。 チチ の イシキ には くらい ところ と あかるい ところ と できて、 その あかるい ところ だけ が、 ヤミ を ぬう しろい イト の よう に、 ある キョリ を おいて レンゾク する よう に みえた。 ハハ が コンスイ ジョウタイ を フツウ の ネムリ と とりちがえた の も ムリ は なかった。
 そのうち シタ が だんだん もつれて きた。 ナニ か いいだして も シリ が フメイリョウ に おわる ため に、 ヨウリョウ を えない で しまう こと が おおく あった。 そのくせ はなしはじめる とき は、 キトク の ビョウニン とは おもわれない ほど、 つよい コエ を だした。 ワレワレ は もとより フダン イジョウ に チョウシ を はりあげて、 ミミモト へ クチ を よせる よう に しなければ ならなかった。
「アタマ を ひやす と いい ココロモチ です か」
「うん」
 ワタクシ は カンゴフ を アイテ に、 チチ の ミズマクラ を とりかえて、 それから あたらしい コオリ を いれた ヒョウノウ を アタマ の ウエ へ のせた。 がさがさ に わられて とがりきった コオリ の ハヘン が、 フクロ の ナカ で おちつく アイダ、 ワタクシ は チチ の はげあがった ヒタイ の ハズレ で それ を やわらか に おさえて いた。 その とき アニ が ロウカヅタイ に はいって きて、 1 ツウ の ユウビン を ムゴン の まま ワタクシ の テ に わたした。 あいた ほう の ヒダリテ を だして、 その ユウビン を うけとった ワタクシ は すぐ フシン を おこした。
 それ は フツウ の テガミ に くらべる と よほど メカタ の おもい もの で あった。 ナミ の ジョウブクロ にも いれて なかった。 また ナミ の ジョウブクロ に いれられ べき ブンリョウ でも なかった。 ハンシ で つつんで、 フウジメ を テイネイ に ノリ で はりつけて あった。 ワタクシ は それ を アニ の テ から うけとった とき、 すぐ その カキトメ で ある こと に キ が ついた。 ウラ を かえして みる と そこ に センセイ の ナ が つつしんだ ジ で かいて あった。 テ の はなせない ワタクシ は、 すぐ フウ を きる わけ に いかない ので、 ちょっと それ を フトコロ に さしこんだ。

 17

 その ヒ は ビョウニン の デキ が ことに わるい よう に みえた。 ワタクシ が カワヤ へ ゆこう と して セキ を たった とき、 ロウカ で ゆきあった アニ は 「どこ へ ゆく」 と バンペイ の よう な クチョウ で スイカ した。
「どうも ヨウス が すこし ヘン だ から なるべく ソバ に いる よう に しなくっちゃ いけない よ」 と チュウイ した。
 ワタクシ も そう おもって いた。 カイチュウ した テガミ は ソノママ に して また ビョウシツ へ かえった。 チチ は メ を あけて、 そこ に ならんで いる ヒト の ナマエ を ハハ に たずねた。 ハハ が あれ は ダレ、 これ は ダレ と いちいち セツメイ して やる と、 チチ は その たび に うなずいた。 うなずかない とき は、 ハハ が コエ を はりあげて、 ナニナニ さん です、 わかりました か と ネン を おした。
「どうも いろいろ オセワ に なります」
 チチ は こう いった。 そうして また コンスイ ジョウタイ に おちいった。 マクラベ を とりまいて いる ヒト は ムゴン の まま しばらく ビョウニン の ヨウス を みつめて いた。 やがて その ウチ の ヒトリ が たって ツギノマ へ でた。 すると また ヒトリ たった。 ワタクシ も 3 ニン-メ に とうとう セキ を はずして、 ジブン の ヘヤ へ きた。 ワタクシ には さっき フトコロ へ いれた ユウビンブツ の ナカ を あけて みよう と いう モクテキ が あった。 それ は ビョウニン の マクラモト でも ヨウイ に できる ショサ には ちがいなかった。 しかし かかれた もの の ブンリョウ が あまり に おおすぎる ので、 ヒトイキ に そこ で よみとおす わけ には いかなかった。 ワタクシ は トクベツ の ジカン を ぬすんで それ に あてた。
 ワタクシ は センイ の つよい ツツミガミ を ひきかく よう に さきやぶった。 ナカ から でた もの は、 タテヨコ に ひいた ケイ の ナカ へ ギョウギ よく かいた ゲンコウ-ヨウ の もの で あった。 そうして ふうじる ベンギ の ため に、 ヨツオリ に たたまれて あった。 ワタクシ は クセ の ついた セイヨウシ を、 ギャク に おりかえして よみやすい よう に ひらたく した。
 ワタクシ の ココロ は この タリョウ の カミ と インキ が、 ワタクシ に ナニゴト を かたる の だろう か と おもって おどろいた。 ワタクシ は ドウジ に ビョウシツ の こと が キ に かかった。 ワタクシ が この カキモノ を よみはじめて、 よみおわらない マエ に、 チチ は きっと どうか なる、 すくなくとも、 ワタクシ は アニ から か ハハ から か、 それ で なければ オジ から か、 よばれる に きまって いる と いう ヨカク が あった。 ワタクシ は おちついて センセイ の かいた もの を よむ キ に なれなかった。 ワタクシ は そわそわ しながら ただ サイショ の 1 ページ を よんだ。 その ページ は シモ の よう に つづられて いた。
「アナタ から カコ を といただされた とき、 こたえる こと の できなかった ユウキ の ない ワタクシ は、 イマ アナタ の マエ に、 それ を メイハク に ものがたる ジユウ を えた と しんじます。 しかし その ジユウ は アナタ の ジョウキョウ を まって いる うち には また うしなわれて しまう セケンテキ の ジユウ に すぎない の で あります。 したがって、 それ を リヨウ できる とき に リヨウ しなければ、 ワタクシ の カコ を アナタ の アタマ に カンセツ の ケイケン と して おしえて あげる キカイ を エイキュウ に いっする よう に なります。 そう する と、 あの とき あれほど かたく ヤクソク した コトバ が まるで ウソ に なります。 ワタクシ は やむ を えず、 クチ で いう べき ところ を、 フデ で もうしあげる こと に しました」
 ワタクシ は そこ まで よんで、 はじめて この ながい もの が なんの ため に かかれた の か、 その リユウ を あきらか に しる こと が できた。 ワタクシ の イショク の クチ、 そんな もの に ついて センセイ が テガミ を よこす キヅカイ は ない と、 ワタクシ は ショテ から しんじて いた。 しかし フデ を とる こと の きらい な センセイ が、 どうして あの ジケン を こう ながく かいて、 ワタクシ に みせる キ に なった の だろう。 センセイ は なぜ ワタクシ の ジョウキョウ する まで まって いられない だろう。
「ジユウ が きた から はなす。 しかし その ジユウ は また エイキュウ に うしなわれなければ ならない」
 ワタクシ は ココロ の ウチ で こう くりかえしながら、 その イミ を しる に くるしんだ。 ワタクシ は とつぜん フアン に おそわれた。 ワタクシ は つづいて アト を よもう と した。 その とき ビョウシツ の ほう から、 ワタクシ を よぶ おおきな アニ の コエ が きこえた。 ワタクシ は また おどろいて たちあがった。 ロウカ を かけぬける よう に して ミンナ の いる ほう へ いった。 ワタクシ は いよいよ チチ の ウエ に サイゴ の シュンカン が きた の だ と カクゴ した。

 18

 ビョウシツ には いつのまにか イシャ が きて いた。 なるべく ビョウニン を ラク に する と いう シュイ から また カンチョウ を こころみる ところ で あった。 カンゴフ は ユウベ の ツカレ を やすめる ため に ベッシツ で ねて いた。 なれない アニ は たって まごまご して いた。 ワタクシ の カオ を みる と、 「ちょっと テ を おかし」 と いった まま、 ジブン は セキ に ついた。 ワタクシ は アニ に かわって、 アブラガミ を チチ の シリ の シタ に あてがったり した。
 チチ の ヨウス は すこし くつろいで きた。 30 プン ほど マクラモト に すわって いた イシャ は、 カンチョウ の ケッカ を みとめた うえ、 また くる と いって、 かえって いった。 カエリギワ に、 もしも の こと が あったら いつでも よんで くれる よう に わざわざ ことわって いた。
 ワタクシ は いまにも ヘン が ありそう な ビョウシツ を しりぞいて また センセイ の テガミ を よもう と した。 しかし ワタクシ は すこしも ゆっくり した キブン に なれなかった。 ツクエ の マエ に すわる や いなや、 また アニ から おおきな コエ で よばれそう で ならなかった。 そうして コンド よばれれば、 それ が サイゴ だ と いう イフ が ワタクシ の テ を ふるわした。 ワタクシ は センセイ の テガミ を ただ ムイミ に ページ だけ はぐって いった。 ワタクシ の メ は キチョウメン に ワク の ナカ に はめられた ジカク を みた。 けれども それ を よむ ヨユウ は なかった。 ヒロイヨミ に する ヨユウ すら おぼつかなかった。 ワタクシ は いちばん シマイ の ページ まで じゅんじゅん に あけて みて、 また それ を モト の とおり に たたんで ツクエ の ウエ に おこう と した。 その とき ふと ケツマツ に ちかい イック が ワタクシ の メ に はいった。
「この テガミ が アナタ の テ に おちる コロ には、 ワタクシ は もう コノヨ には いない でしょう。 とくに しんで いる でしょう」
 ワタクシ は はっと おもった。 イマ まで ざわざわ と うごいて いた ワタクシ の ムネ が イチド に ギョウケツ した よう に かんじた。 ワタクシ は また ギャク に ページ を はぐりかえした。 そうして 1 マイ に イック ぐらい ずつ の ワリ で サカサ に よんで いった。 ワタクシ は トッサ の アイダ に、 ワタクシ の しらなければ ならない こと を しろう と して、 ちらちら する モンジ を、 メ で さしとおそう と こころみた。 その とき ワタクシ の しろう と する の は、 ただ センセイ の アンピ だけ で あった。 センセイ の カコ、 かつて センセイ が ワタクシ に はなそう と ヤクソク した うすぐらい その カコ、 そんな もの は ワタクシ に とって、 まったく ムヨウ で あった。 ワタクシ は サカサマ に ページ を はぐりながら、 ワタクシ に ヒツヨウ な チシキ を ヨウイ に あたえて くれない この ながい テガミ を じれったそう に たたんだ。
 ワタクシ は また チチ の ヨウス を み に ビョウシツ の トグチ まで いった。 ビョウニン の マクラベ は ぞんがい しずか で あった。 たよりなさそう に つかれた カオ を して そこ に すわって いる ハハ を テマネギ して、 「どう です か ヨウス は」 と きいた。 ハハ は 「いますこし もちあってる よう だよ」 と こたえた。 ワタクシ は チチ の メノマエ へ カオ を だして、 「どう です、 カンチョウ して すこし は ココロモチ が よく なりました か」 と たずねた。 チチ は うなずいた。 チチ は はっきり 「ありがとう」 と いった。 チチ の セイシン は ぞんがい もうろう と して いなかった。
 ワタクシ は また ビョウシツ を しりぞいて ジブン の ヘヤ に かえった。 そこ で トケイ を みながら、 キシャ の ハッチャクヒョウ を しらべた。 ワタクシ は とつぜん たって オビ を しめなおして、 タモト の ナカ へ センセイ の テガミ を なげこんだ。 それから カッテグチ から オモテ へ でた。 ワタクシ は ムチュウ で イシャ の イエ へ かけこんだ。 ワタクシ は イシャ から チチ が もう 2~3 チ もつ だろう か、 そこ の ところ を はっきり きこう と した。 チュウシャ でも なんでも して、 もたして くれ と たのもう と した。 イシャ は あいにく ルス で あった。 ワタクシ には じっと して カレ の かえる の を まちうける ジカン が なかった。 ココロ の オチツキ も なかった。 ワタクシ は すぐ クルマ を ステーション へ いそがせた。
 ワタクシ は ステーション の カベ へ カミギレ を あてがって、 その ウエ から エンピツ で ハハ と アニ-アテ で テガミ を かいた。 テガミ は ごく カンタン な もの で あった が、 ことわらない で はしる より まだ まし だろう と おもって、 それ を いそいで ウチ へ とどける よう に シャフ に たのんだ。 そうして おもいきった イキオイ で トウキョウ-ユキ の キシャ に とびのって しまった。 ワタクシ は ごうごう なる サントウ レッシャ の ナカ で、 また タモト から センセイ の テガミ を だして、 ようやく ハジメ から シマイ まで メ を とおした。

ココロ 「センセイ と イショ 1」

2015-06-22 | ナツメ ソウセキ
 ココロ

 ナツメ ソウセキ

 ゲ、 センセイ と イショ

 1

 ……ワタクシ は この ナツ アナタ から 2~3 ド テガミ を うけとりました。 トウキョウ で ソウトウ の チイ を えたい から よろしく たのむ と かいて あった の は、 たしか 2 ド-メ に テ に いった もの と キオク して います。 ワタクシ は それ を よんだ とき なんとか したい と おもった の です。 すくなくとも ヘンジ を あげなければ すまん とは かんがえた の です。 しかし ジハク する と、 ワタクシ は アナタ の イライ に たいして、 まるで ドリョク を しなかった の です。 ゴショウチ の とおり、 コウサイ クイキ の せまい と いう より も、 ヨノナカ に たった ヒトリ で くらして いる と いった ほう が テキセツ な くらい の ワタクシ には、 そういう ドリョク を あえて する ヨチ が まったく ない の です。 しかし それ は モンダイ では ありません。 ジツ を いう と、 ワタクシ は この ジブン を どう すれば いい の か と おもいわずらって いた ところ なの です。 このまま ニンゲン の ナカ に とりのこされた ミイラ の よう に ソンザイ して いこう か、 それとも…… その ジブン の ワタクシ は 「それとも」 と いう コトバ を ココロ の ウチ で くりかえす たび に ぞっと しました。 カケアシ で ゼッペキ の ハジ まで きて、 キュウ に ソコ の みえない タニ を のぞきこんだ ヒト の よう に。 ワタクシ は ヒキョウ でした。 そうして オオク の ヒキョウ な ヒト と おなじ テイド に おいて ハンモン した の です。 イカン ながら、 その とき の ワタクシ には、 アナタ と いう もの が ほとんど ソンザイ して いなかった と いって も コチョウ では ありません。 イッポ すすめて いう と、 アナタ の チイ、 アナタ の ココウ の シ、 そんな もの は ワタクシ に とって まるで ムイミ なの でした。 どうでも かまわなかった の です。 ワタクシ は それ どころ の サワギ で なかった の です。 ワタクシ は ジョウサシ へ アナタ の テガミ を さした なり、 いぜん と して ウデグミ を して かんがえこんで いました。 ウチ に ソウオウ の ザイサン が ある モノ が、 ナニ を くるしんで、 ソツギョウ する か しない のに、 チイ チイ と いって もがきまわる の か。 ワタクシ は むしろ にがにがしい キブン で、 トオク に いる アナタ に こんな イチベツ を あたえた だけ でした。 ワタクシ は ヘンジ を あげなければ すまない アナタ に たいして、 イイワケ の ため に こんな こと を うちあける の です。 アナタ を おこらす ため に わざと ブシツケ な コトバ を ろうする の では ありません。 ワタクシ の ホンイ は アト を ゴラン に なれば よく わかる こと と しんじます。 とにかく ワタクシ は なんとか アイサツ す べき ところ を だまって いた の です から、 ワタクシ は この タイマン の ツミ を アナタ の マエ に しゃしたい と おもいます。
 ソノゴ ワタクシ は アナタ に デンポウ を うちました。 アリテイ に いえば、 あの とき ワタクシ は ちょっと アナタ に あいたかった の です。 それから アナタ の キボウドオリ ワタクシ の カコ を アナタ の ため に ものがたりたかった の です。 アナタ は ヘンデン を かけて、 イマ トウキョウ へは でられない と ことわって きました が、 ワタクシ は シツボウ して ながらく あの デンポウ を ながめて いました。 アナタ も デンポウ だけ では キ が すまなかった と みえて、 また アト から ながい テガミ を よこして くれた ので、 アナタ の シュッキョウ できない ジジョウ が よく わかりました。 ワタクシ は アナタ を シツレイ な オトコ だ とも なんとも おもう わけ が ありません。 アナタ の ダイジ な オトウサン の ビョウキ を ソッチノケ に して、 なんで アナタ が ウチ を あけられる もの です か。 その オトウサン の ショウシ を わすれて いる よう な ワタクシ の タイド こそ フツゴウ です。 ――ワタクシ は じっさい あの デンポウ を うつ とき に、 アナタ の オトウサン の こと を わすれて いた の です。 そのくせ アナタ が トウキョウ に いる コロ には、 ナンショウ だ から よく チュウイ しなくって は いけない と、 あれほど チュウコク した の は ワタクシ です のに。 ワタクシ は こういう ムジュン な ニンゲン なの です。 あるいは ワタクシ の ノウズイ より も、 ワタクシ の カコ が ワタクシ を アッパク する ケッカ こんな ムジュン な ニンゲン に ワタクシ を ヘンカ させる の かも しれません。 ワタクシ は この テン に おいて も じゅうぶん ワタクシ の ガ を みとめて います。 アナタ に ゆるして もらわなくて は なりません。
 アナタ の テガミ、 ――アナタ から きた サイゴ の テガミ―― を よんだ とき、 ワタクシ は わるい こと を した と おもいました。 それで その イミ の ヘンジ を だそう か と かんがえて、 フデ を とりかけました が、 1 ギョウ も かかず に やめました。 どうせ かく なら、 この テガミ を かいて あげたかった から、 そうして この テガミ を かく には まだ ジキ が すこし はやすぎた から、 ヤメ に した の です。 ワタクシ が ただ くる に およばない と いう カンタン な デンポウ を ふたたび うった の は、 それ が ため です。

 2

 ワタクシ は それから この テガミ を かきだしました。 ヘイゼイ フデ を もちつけない ワタクシ には、 ジブン の おもう よう に、 ジケン なり シソウ なり が はこばない の が おもい クツウ でした。 ワタクシ は もうすこし で、 アナタ に たいする ワタクシ の この ギム を ホウテキ する ところ でした。 しかし いくら よそう と おもって フデ を おいて も、 なんにも なりません でした。 ワタクシ は 1 ジカン たたない うち に また かきたく なりました。 アナタ から みたら、 これ が ギム の スイコウ を おもんずる ワタクシ の セイカク の よう に おもわれる かも しれません。 ワタクシ も それ は いなみません。 ワタクシ は アナタ の しって いる とおり、 ほとんど セケン と コウショウ の ない コドク な ニンゲン です から、 ギム と いう ほど の ギム は、 ジブン の サユウ ゼンゴ を みまわして も、 どの ホウガク にも ネ を はって おりません。 コイ か シゼン か、 ワタクシ は それ を できる だけ きりつめた セイカツ を して いた の です。 けれども ワタクシ は ギム に レイタン だ から こう なった の では ありません。 むしろ エイビン-すぎて シゲキ に たえる だけ の セイリョク が ない から、 ゴラン の よう に ショウキョクテキ な ツキヒ を おくる こと に なった の です。 だから いったん ヤクソク した イジョウ、 それ を はたさない の は、 たいへん いや な ココロモチ です。 ワタクシ は アナタ に たいして この いや な ココロモチ を さける ため に でも、 おいた フデ を また とりあげなければ ならない の です。
 そのうえ ワタクシ は かきたい の です。 ギム は ベツ と して ワタクシ の カコ を かきたい の です。 ワタクシ の カコ は ワタクシ だけ の ケイケン だ から、 ワタクシ だけ の ショユウ と いって も さしつかえない でしょう。 それ を ヒト に あたえない で しぬ の は、 おしい とも いわれる でしょう。 ワタクシ にも たしょう そんな ココロモチ が あります。 ただし うけいれる こと の できない ヒト に あたえる くらい なら、 ワタクシ は むしろ ワタクシ の ケイケン を ワタクシ の イノチ と ともに ほうむった ほう が いい と おもいます。 じっさい ここ に アナタ と いう ヒトリ の オトコ が ソンザイ して いない ならば、 ワタクシ の カコ は ついに ワタクシ の カコ で、 カンセツ にも タニン の チシキ には ならない で すんだ でしょう。 ワタクシ は ナンゼンマン と いる ニホンジン の ウチ で、 ただ アナタ だけ に、 ワタクシ の カコ を ものがたりたい の です。 アナタ は マジメ だ から。 アナタ は マジメ に ジンセイ ソノモノ から いきた キョウクン を えたい と いった から。
 ワタクシ は くらい ジンセイ の カゲ を エンリョ なく アナタ の アタマ の ウエ に なげかけて あげます。 しかし おそれて は いけません。 くらい もの を じっと みつめて、 その ナカ から アナタ の サンコウ に なる もの を おつかみなさい。 ワタクシ の くらい と いう の は、 もとより リンリテキ に くらい の です。 ワタクシ は リンリテキ に うまれた オトコ です。 また リンリテキ に そだてられた オトコ です。 その リンリジョウ の カンガエ は、 イマ の わかい ヒト と だいぶ ちがった ところ が ある かも しれません。 しかし どう まちがって も、 ワタクシ ジシン の もの です。 マニアワセ に かりた ソンリョウギ では ありません。 だから これから ハッタツ しよう と いう アナタ には イクブン か サンコウ に なる だろう と おもう の です。
 アナタ は ゲンダイ の シソウ モンダイ に ついて、 よく ワタクシ に ギロン を むけた こと を キオク して いる でしょう。 ワタクシ の それ に たいする タイド も よく わかって いる でしょう。 ワタクシ は アナタ の イケン を ケイベツ まで しなかった けれども、 けっして ソンケイ を はらいうる テイド には なれなかった。 アナタ の カンガエ には なんら の ハイケイ も なかった し、 アナタ は ジブン の カコ を もつ には あまり に わかすぎた から です。 ワタクシ は ときどき わらった。 アナタ は ものたりなそう な カオ を ちょいちょい ワタクシ に みせた。 その キョク アナタ は ワタクシ の カコ を エマキモノ の よう に、 アナタ の マエ に テンカイ して くれ と せまった。 ワタクシ は その とき ココロ の ウチ で、 はじめて アナタ を ソンケイ した。 アナタ が ブエンリョ に ワタクシ の ハラ の ナカ から、 ある いきた もの を つらまえよう と いう ケッシン を みせた から です。 ワタクシ の シンゾウ を たちわって、 あたたかく ながれる チシオ を すすろう と した から です。 その とき ワタクシ は まだ いきて いた。 しぬ の が いや で あった。 それで タジツ を やくして、 アナタ の ヨウキュウ を しりぞけて しまった。 ワタクシ は イマ ジブン で ジブン の シンゾウ を やぶって、 その チ を アナタ の カオ に あびせかけよう と して いる の です。 ワタクシ の コドウ が とまった とき、 アナタ の ムネ に あたらしい イノチ が やどる こと が できる なら マンゾク です。

 3

 ワタクシ が リョウシン を なくした の は、 まだ ワタクシ の ハタチ に ならない ジブン でした。 いつか サイ が アナタ に はなして いた よう にも キオク して います が、 フタリ は おなじ ビョウキ で しんだ の です。 しかも サイ が アナタ に フシン を おこさせた とおり、 ほとんど ドウジ と いって いい くらい に、 ゼンゴ して しんだ の です。 ジツ を いう と、 チチ の ビョウキ は おそる べき チョウ チフス でした。 それ が ソバ に いて カンゴ を した ハハ に デンセン した の です。
 ワタクシ は フタリ の アイダ に できた たった ヒトリ の オトコ の コ でした。 ウチ には ソウトウ の ザイサン が あった ので、 むしろ オウヨウ に そだてられました。 ワタクシ は ジブン の カコ を かえりみて、 あの とき リョウシン が しなず に いて くれた なら、 すくなくとも チチ か ハハ か どっち か、 カタホウ で いい から いきて いて くれた なら、 ワタクシ は あの オウヨウ な キブン を イマ まで もちつづける こと が できたろう に と おもいます。
 ワタクシ は フタリ の アト に ぼうぜん と して とりのこされました。 ワタクシ には チシキ も なく、 ケイケン も なく、 また フンベツ も ありません でした。 チチ の しぬ とき、 ハハ は ソバ に いる こと が できません でした。 ハハ の しぬ とき、 ハハ には チチ の しんだ こと さえ まだ しらせて なかった の です。 ハハ は それ を さとって いた か、 または ハタ の モノ の いう ごとく、 じっさい チチ は カイフクキ に むかいつつ ある もの と しんじて いた か、 それ は わかりません。 ハハ は ただ オジ に バンジ を たのんで いました。 そこ に いあわせた ワタクシ を ゆびさす よう に して、 「この コ を どうぞ なにぶん」 と いいました。 ワタクシ は その マエ から リョウシン の キョカ を えて、 トウキョウ へ でる はず に なって いました ので、 ハハ は それ も ついでに いう つもり らしかった の です。 それで 「トウキョウ へ」 と だけ つけくわえましたら、 オジ が すぐ アト を ひきとって、 「よろしい けっして シンパイ しない が いい」 と こたえました。 ハハ は つよい ネツ に たえうる タイシツ の オンナ なん でしたろう か、 オジ は 「しっかり した もの だ」 と いって、 ワタクシ に むかって ハハ の こと を ほめて いました。 しかし これ が はたして ハハ の ユイゴン で あった の か どう だ か、 イマ かんがえる と わからない の です。 ハハ は むろん チチ の かかった ビョウキ の おそる べき ナマエ を しって いた の です。 そうして、 ジブン が それ に デンセン して いた こと も ショウチ して いた の です。 けれども ジブン は きっと この ビョウキ で イノチ を とられる と まで しんじて いた か どう か、 そこ に なる と うたがう ヨチ は まだ いくらでも ある だろう と おもわれる の です。 そのうえ ネツ の たかい とき に でる ハハ の コトバ は、 いかに それ が スジミチ の とおった あきらか な もの に せよ、 いっこう キオク と なって ハハ の アタマ に カゲ さえ のこして いない こと が しばしば あった の です。 だから…… しかし そんな こと は モンダイ では ありません。 ただ こういう ふう に モノ を ときほどいて みたり、 また ぐるぐる まわして ながめたり する クセ は、 もう その ジブン から、 ワタクシ には ちゃんと そなわって いた の です。 それ は アナタ にも ハジメ から おことわり して おかなければ ならない と おもいます が、 その ジツレイ と して は トウメン の モンダイ に たいした カンケイ の ない こんな キジュツ が、 かえって ヤク に たち は しない か と かんがえます。 アナタ の ほう でも まあ その つもり で よんで ください。 この ショウブン が リンリテキ に コジン の コウイ やら ドウサ の ウエ に およんで、 ワタクシ は コウライ ますます ヒト の トクギシン を うたがう よう に なった の だろう と おもう の です。 それ が ワタクシ の ハンモン や クノウ に むかって、 セッキョクテキ に おおきな チカラ を そえて いる の は たしか です から おぼえて いて ください。
 ハナシ が ホンスジ を はずれる と、 わかりにくく なります から また アト へ ひきかえしましょう。 これ でも ワタクシ は この ながい テガミ を かく の に、 ワタクシ と おなじ チイ に おかれた ホカ の ヒト と くらべたら、 あるいは たしょう おちついて い や しない か と おもって いる の です。 ヨノナカ が ねむる と きこえだす あの デンシャ の ヒビキ も もう とだえました。 アマド の ソト には いつのまにか あわれ な ムシ の コエ が、 ツユ の アキ を また しのびやか に おもいださせる よう な チョウシ で かすか に ないて います。 なにも しらない サイ は ツギ の ヘヤ で ムジャキ に すやすや ねいって います。 ワタクシ が フデ を とる と、 イチジ イッカク が できあがりつつ ペン の サキ で なって います。 ワタクシ は むしろ おちついた キブン で カミ に むかって いる の です。 フナレ の ため に ペン が ヨコ へ それる かも しれません が、 アタマ が ノウラン して フデ が しどろ に はしる の では ない よう に おもいます。

 4

 とにかく たった ヒトリ とりのこされた ワタクシ は、 ハハ の イイツケドオリ、 この オジ を たよる より ホカ に ミチ は なかった の です。 オジ は また イッサイ を ひきうけて スベテ の セワ を して くれました。 そうして ワタクシ を ワタクシ の キボウ する トウキョウ へ でられる よう に とりはからって くれました。
 ワタクシ は トウキョウ へ きて コウトウ ガッコウ へ はいりました。 その とき の コウトウ ガッコウ の セイト は イマ より も よほど サツバツ で ソヤ でした。 ワタクシ の しった モノ に、 ヨル ショクニン と ケンカ を して、 アイテ の アタマ へ ゲタ で キズ を おわせた の が ありました。 それ が サケ を のんだ アゲク の こと なので、 ムチュウ に ナグリアイ を して いる アイダ に、 ガッコウ の セイボウ を とうとう ムコウ の モノ に とられて しまった の です。 ところが その ボウシ の ウラ には トウニン の ナマエ が ちゃんと、 ヒシガタ の しろい キレ の ウエ に かいて あった の です。 それで コト が メンドウ に なって、 その オトコ は もうすこし で ケイサツ から ガッコウ へ ショウカイ される ところ でした。 しかし トモダチ が いろいろ と ホネ を おって、 ついに オモテザタ に せず に すむ よう に して やりました。 こんな ランボウ な コウイ を、 ジョウヒン な イマ の クウキ の ナカ に そだった アナタガタ に きかせたら、 さだめて ばかばかしい カンジ を おこす でしょう。 ワタクシ も じっさい ばかばかしく おもいます。 しかし カレラ は イマ の ガクセイ に ない イッシュ シツボク な テン を その カワリ に もって いた の です。 トウジ ワタクシ の ツキヅキ オジ から もらって いた カネ は、 アナタ が イマ、 オトウサン から おくって もらう ガクシ に くらべる と はるか に すくない もの でした。 (むろん ブッカ も ちがいましょう が)。 それでいて ワタクシ は すこし の フソク も かんじません でした。 のみならず カズ ある ドウキュウセイ の ウチ で、 ケイザイ の テン に かけて は、 けっして ヒト を うらやましがる あわれ な キョウグウ に いた わけ では ない の です。 イマ から カイコ する と、 むしろ ヒト に うらやましがられる ほう だった の でしょう。 と いう の は、 ワタクシ は ツキヅキ きまった ソウキン の ホカ に、 ショセキヒ、 (ワタクシ は その ジブン から ショモツ を かう こと が すき でした)、 および リンジ の ヒヨウ を、 よく オジ から セイキュウ して、 ずんずん それ を ジブン の おもう よう に ショウヒ する こと が できた の です から。
 なにも しらない ワタクシ は、 オジ を しんじて いた ばかり で なく、 つねに カンシャ の ココロ を もって、 オジ を ありがたい もの の よう に ソンケイ して いました。 オジ は ジギョウカ でした。 ケンカイ ギイン にも なりました。 その カンケイ から でも ありましょう、 セイトウ にも エンコ が あった よう に キオク して います。 チチ の じつの オトウト です けれども、 そういう テン で、 セイカク から いう と チチ とは まるで ちがった ほう へ むいて ハッタツ した よう にも みえます。 チチ は センゾ から ゆずられた イサン を ダイジ に まもって ゆく トクジツ イッポウ の オトコ でした。 タノシミ には、 チャ だの ハナ だの を やりました。 それから シシュウ など を よむ こと も すき でした。 ショガ コットウ と いった フウ の もの にも、 オオク の シュミ を もって いる ヨウス でした。 イエ は イナカ に ありました けれども、 2 リ ばかり へだたった シ、 ――その シ には オジ が すんで いた の です、 ――その シ から ときどき ドウグヤ が カケモノ だの、 コウロ だの を もって、 わざわざ チチ に みせ に きました。 チチ は ヒトクチ に いう と、 まあ マン オフ ミーンズ と でも ひょうしたら いい の でしょう。 ヒカクテキ ジョウヒン な シコウ を もった イナカ シンシ だった の です。 だから キショウ から いう と、 カッタツ な オジ とは よほど の ケンカク が ありました。 それでいて フタリ は また ミョウ に ナカ が よかった の です。 チチ は よく オジ を ひょうして、 ジブン より も はるか に ハタラキ の ある たのもしい ヒト の よう に いって いました。 ジブン の よう に、 オヤ から ザイサン を ゆずられた モノ は、 どうしても コユウ の サイカン が にぶる、 つまり ヨノナカ と たたかう ヒツヨウ が ない から いけない の だ とも いって いました。 この コトバ は ハハ も ききました。 ワタクシ も ききました。 チチ は むしろ ワタクシ の ココロエ に なる つもり で、 それ を いった らしく おもわれます。 「オマエ も よく おぼえて いる が いい」 と チチ は その とき わざわざ ワタクシ の カオ を みた の です。 だから ワタクシ は まだ それ を わすれず に います。 この くらい ワタクシ の チチ から シンヨウ されたり、 ほめられたり して いた オジ を、 ワタクシ が どうして うたがう こと が できる でしょう。 ワタクシ には ただでさえ ホコリ に なる べき オジ でした。 チチ や ハハ が なくなって、 バンジ その ヒト の セワ に ならなければ ならない ワタクシ には、 もう たんなる ホコリ では なかった の です。 ワタクシ の ソンザイ に ヒツヨウ な ニンゲン に なって いた の です。

 5

 ワタクシ が ナツヤスミ を リヨウ して はじめて クニ へ かえった とき、 リョウシン の しにたえた ワタクシ の スマイ には、 あたらしい シュジン と して、 オジ フウフ が いれかわって すんで いました。 これ は ワタクシ が トウキョウ へ でる マエ から の ヤクソク でした。 たった ヒトリ とりのこされた ワタクシ が イエ に いない イジョウ、 そう でも する より ホカ に シカタ が なかった の です。
 オジ は その コロ シ に ある イロイロ な カイシャ に カンケイ して いた よう です。 ギョウム の ツゴウ から いえば、 イマ まで の キョタク に ネオキ する ほう が、 2 リ も へだたった ワタクシ の イエ に うつる より はるか に ベンリ だ と いって わらいました。 これ は ワタクシ の フボ が なくなった アト、 どう ヤシキ を シマツ して、 ワタクシ が トウキョウ へ でる か と いう ソウダン の とき、 オジ の クチ を もれた コトバ で あります。 ワタクシ の イエ は ふるい レキシ を もって いる ので、 すこし は その カイワイ で ヒト に しられて いました。 アナタ の キョウリ でも おなじ こと だろう と おもいます が、 イナカ では ユイショ の ある イエ を、 ソウゾクニン が ある のに こわしたり うったり する の は ダイジケン です。 イマ の ワタクシ なら その くらい の こと は なんとも おもいません が、 その コロ は まだ コドモ でした から、 トウキョウ へは でた し、 ウチ は ソノママ に して おかなければ ならず、 はなはだ ショチ に くるしんだ の です。
 オジ は しかたなし に ワタクシ の アキヤ へ はいる こと を ショウダク して くれました。 しかし シ の ほう に ある スマイ も ソノママ に して おいて、 リョウホウ の アイダ を いったり きたり する ベンギ を あたえて もらわなければ こまる と いいました。 ワタクシ に もとより イギ の ありよう はず が ありません。 ワタクシ は どんな ジョウケン でも トウキョウ へ でられれば いい くらい に かんがえて いた の です。
 こどもらしい ワタクシ は、 フルサト を はなれて も、 まだ ココロ の メ で、 なつかしげ に フルサト の イエ を のぞんで いました。 もとより そこ には まだ ジブン の かえる べき イエ が ある と いう タビビト の ココロ で のぞんで いた の です。 ヤスミ が くれば かえらなくて は ならない と いう キブン は、 いくら トウキョウ を こいしがって でて きた ワタクシ にも、 ちからづよく あった の です。 ワタクシ は ネッシン に ベンキョウ し、 ユカイ に あそんだ アト、 ヤスミ には かえれる と おもう その フルサト の イエ を よく ユメ に みました。
 ワタクシ の ルス の アイダ、 オジ は どんな ふう に リョウホウ の アイダ を ユキキ して いた か しりません。 ワタクシ の ついた とき は、 カゾク の モノ が、 ミンナ ヒトツイエ の ウチ に あつまって いました。 ガッコウ へ でる コドモ など は ヘイゼイ おそらく シ の ほう に いた の でしょう が、 これ も キュウカ の ため に イナカ へ アソビ ハンブン と いった カク で ひきとられて いました。
 ミンナ ワタクシ の カオ を みて よろこびました。 ワタクシ は また チチ や ハハ の いた とき より、 かえって にぎやか で ヨウキ に なった イエ の ヨウス を みて うれしがりました。 オジ は もと ワタクシ の ヘヤ に なって いた ヒトマ を センリョウ して いる 1 バンメ の オトコ の コ を おいだして、 ワタクシ を そこ へ いれました。 ザシキ の カズ も すくなく ない の だ から、 ワタクシ は ホカ の ヘヤ で かまわない と ジタイ した の です けれども、 オジ は オマエ の ウチ だ から と いって、 ききません でした。
 ワタクシ は おりおり なくなった チチ や ハハ の こと を おもいだす ホカ に、 なんの フユカイ も なく、 その ヒトナツ を オジ の カゾク と ともに すごして、 また トウキョウ へ かえった の です。 ただ ヒトツ その ナツ の デキゴト と して、 ワタクシ の ココロ に むしろ うすぐらい カゲ を なげた の は、 オジ フウフ が クチ を そろえて、 まだ コウトウ ガッコウ へ はいった ばかり の ワタクシ に ケッコン を すすめる こと でした。 それ は ゼンゴ で ちょうど 3~4 カイ も くりかえされた でしょう。 ワタクシ も ハジメ は ただ その トツゼン なの に おどろいた だけ でした。 2 ド-メ には はっきり ことわりました。 3 ド-メ には こっち から とうとう その リユウ を ハンモン しなければ ならなく なりました。 カレラ の シュイ は タンカン でした。 はやく ヨメ を もらって ここ の イエ へ かえって きて、 なくなった チチ の アト を ソウゾク しろ と いう だけ なの です。 イエ は ヤスミ に なって かえり さえ すれば、 それ で いい もの と ワタクシ は かんがえて いました。 チチ の アト を ソウゾク する、 それ には ヨメ が ヒツヨウ だ から もらう、 リョウホウ とも リクツ と して は ひととおり きこえます。 ことに イナカ の ジジョウ を しって いる ワタクシ には、 よく わかります。 ワタクシ も ゼッタイ に それ を きらって は いなかった の でしょう。 しかし トウキョウ へ シュギョウ に でた ばかり の ワタクシ には、 それ が トオメガネ で モノ を みる よう に、 はるか サキ の キョリ に のぞまれる だけ でした。 ワタクシ は オジ の キボウ に ショウダク を あたえない で、 ついに また ワタクシ の イエ を さりました。

 6

 ワタクシ は エンダン の こと を それなり わすれて しまいました。 ワタクシ の グルリ を とりまいて いる セイネン の カオ を みる と、 ショタイ-じみた モノ は ヒトリ も いません。 ミンナ ジユウ です、 そうして ことごとく タンドク らしく おもわれた の です。 こういう キラク な ヒト の ウチ にも、 リメン に はいりこんだら、 あるいは カテイ の ジジョウ に よぎなく されて、 すでに ツマ を むかえて いた モノ が あった かも しれません が、 こどもらしい ワタクシ は そこ に キ が つきません でした。 それから そういう トクベツ の キョウグウ に おかれた ヒト の ほう でも、 アタリ に キガネ を して、 なるべく は ショセイ に エン の とおい そんな ウチワ の ハナシ は しない よう に つつしんで いた の でしょう。 アト から かんがえる と、 ワタクシ ジシン が すでに その クミ だった の です が、 ワタクシ は それ さえ わからず に、 ただ こどもらしく ユカイ に シュウガク の ミチ を あるいて いきました。
 ガクネン の オワリ に、 ワタクシ は また コウリ を からげて、 オヤ の ハカ の ある イナカ へ かえって きました。 そうして キョネン と おなじ よう に、 チチハハ の いた わが イエ の ナカ で、 また オジ フウフ と その コドモ の かわらない カオ を みました。 ワタクシ は ふたたび そこ で フルサト の ニオイ を かぎました。 その ニオイ は ワタクシ に とって いぜん と して なつかしい もの で ありました。 1 ガクネン の タンチョウ を やぶる ヘンカ と して も ありがたい もの に ちがいなかった の です。
 しかし この ジブン を そだてあげた と おなじ よう な ニオイ の ナカ で、 ワタクシ は また とつぜん ケッコン モンダイ を オジ から ハナ の サキ へ つきつけられました。 オジ の いう ところ は、 キョネン の カンユウ を ふたたび くりかえした のみ です。 リユウ も キョネン と おなじ でした。 ただ このまえ すすめられた とき には、 なんら の モクテキブツ が なかった のに、 コンド は ちゃんと カンジン の トウニン を つらまえて いた ので、 ワタクシ は なお こまらせられた の です。 その トウニン と いう の は オジ の ムスメ すなわち ワタクシ の イトコ に あたる オンナ でした。 その オンナ を もらって くれれば、 オタガイ の ため に ベンギ で ある、 チチ も ゾンショウチュウ そんな こと を はなして いた、 と オジ が いう の です。 ワタクシ も そう すれば ベンギ だ とは おもいました。 チチ が オジ に そういう ふう な ハナシ を した と いう の も ありう べき こと と かんがえました。 しかし それ は ワタクシ が オジ に いわれて、 はじめて キ が ついた ので、 いわれない マエ から、 さとって いた コトガラ では ない の です。 だから ワタクシ は おどろきました。 おどろいた けれども、 オジ の キボウ に ムリ の ない ところ も、 それ が ため に よく わかりました。 ワタクシ は ウカツ なの でしょう か。 あるいは そう なの かも しれません が、 おそらく その イトコ に ムトンジャク で あった の が、 おも な ゲンイン に なって いる の でしょう。 ワタクシ は コドモ の うち から シ に いる オジ の ウチ へ しじゅう あそび に ゆきました。 ただ ゆく ばかり で なく、 よく そこ に とまりました。 そうして この イトコ とは その ジブン から したしかった の です。 アナタ も ゴショウチ でしょう、 キョウダイ の アイダ に コイ の セイリツ した ためし の ない の を。 ワタクシ は この コウニン された ジジツ を カッテ に フエン して いる かも しれない が、 しじゅう セッショク して したしく なりすぎた ナンニョ の アイダ には、 コイ に ヒツヨウ な シゲキ の おこる セイシン な カンジ が うしなわれて しまう よう に かんがえて います。 コウ を かぎうる の は、 コウ を たきだした シュンカン に かぎる ごとく、 サケ を あじわう の は、 サケ を のみはじめた セツナ に ある ごとく、 コイ の ショウドウ にも こういう きわどい イッテン が、 ジカン の ウエ に ソンザイ して いる と しか おもわれない の です。 イチド ヘイキ で そこ を とおりぬけたら、 なれれば なれる ほど、 シタシミ が ます だけ で、 コイ の シンケイ は だんだん マヒ して くる だけ です。 ワタクシ は どう かんがえなおして も、 この イトコ を ツマ に する キ には なれません でした。
 オジ は もし ワタクシ が シュチョウ する なら、 ワタクシ の ソツギョウ まで ケッコン を のばして も いい と いいました。 けれども ゼン は いそげ と いう コトワザ も ある から、 できる なら イマ の うち に シュウゲン の サカズキ だけ は すませて おきたい とも いいました。 トウニン に ノゾミ の ない ワタクシ には どっち に したって おなじ こと です。 ワタクシ は また ことわりました。 オジ は いや な カオ を しました。 イトコ は なきました。 ワタクシ に そわれない から かなしい の では ありません。 ケッコン の モウシコミ を キョゼツ された の が、 オンナ と して つらかった から です。 ワタクシ が イトコ を あいして いない ごとく、 イトコ も ワタクシ を あいして いない こと は、 ワタクシ に よく しれて いました。 ワタクシ は また トウキョウ へ でました。

 7

 ワタクシ が 3 ド-メ に キコク した の は、 それから また 1 ネン たった ナツ の トッツキ でした。 ワタクシ は いつでも ガクネン シケン の すむ の を まちかねて トウキョウ を にげました。 ワタクシ には フルサト が それほど なつかしかった から です。 アナタ にも オボエ が ある でしょう、 うまれた ところ は クウキ の イロ が ちがいます、 トチ の ニオイ も カクベツ です、 チチ や ハハ の キオク も こまやか に ただよって います。 イチネン の うち で、 7、 8 の フタツキ を その ナカ に くるまれて、 アナ に はいった ヘビ の よう に じっと して いる の は、 ワタクシ に とって ナニ より も あたたかい いい ココロモチ だった の です。
 タンジュン な ワタクシ は イトコ との ケッコン モンダイ に ついて、 さほど アタマ を いためる ヒツヨウ は ない と おもって いました。 いや な もの は ことわる、 ことわって さえ しまえば アト には なにも のこらない、 ワタクシ は こう しんじて いた の です。 だから オジ の キボウドオリ に イシ を まげなかった にも かかわらず、 ワタクシ は むしろ ヘイキ でした。 カコ 1 ネン の アイダ いまだかつて そんな こと に クッタク した オボエ も なく、 あいかわらず の ゲンキ で クニ へ かえった の です。
 ところが かえって みる と オジ の タイド が ちがって います。 モト の よう に いい カオ を して ワタクシ を ジブン の フトコロ に だこう と しません。 それでも オウヨウ に そだった ワタクシ は、 かえって 4~5 ニチ の アイダ は キ が つかず に いました。 ただ ナニ か の キカイ に ふと ヘン に おもいだした の です。 すると ミョウ なの は、 オジ ばかり では ない の です。 オバ も ミョウ なの です。 イトコ も ミョウ なの です。 チュウガッコウ を でて、 これから トウキョウ の コウトウ ショウギョウ へ はいる つもり だ と いって、 テガミ で その ヨウス を ききあわせたり した オジ の オトコ の コ まで ミョウ なの です。
 ワタクシ の ショウブン と して かんがえず には いられなく なりました。 どうして ワタクシ の ココロモチ が こう かわった の だろう。 いや どうして ムコウ が こう かわった の だろう。 ワタクシ は とつぜん しんだ チチ や ハハ が、 にぶい ワタクシ の メ を あらって、 キュウ に ヨノナカ が はっきり みえる よう に して くれた の では ない か と うたがいました。 ワタクシ は チチ や ハハ が コノヨ に いなく なった アト でも、 いた とき と おなじ よう に ワタクシ を あいして くれる もの と、 どこ か ココロ の オク で しんじて いた の です。 もっとも その コロ でも ワタクシ は けっして リ に くらい タチ では ありません でした。 しかし センゾ から ゆずられた メイシン の カタマリ も、 つよい チカラ で ワタクシ の チ の ナカ に ひそんで いた の です。 イマ でも ひそんで いる でしょう。
 ワタクシ は たった ヒトリ ヤマ へ いって、 フボ の ハカ の マエ に ひざまずきました。 ナカバ は アイトウ の イミ、 ナカバ は カンシャ の ココロモチ で ひざまずいた の です。 そうして ワタクシ の ミライ の コウフク が、 この つめたい イシ の シタ に よこたわる カレラ の テ に まだ にぎられて でも いる よう な キブン で、 ワタクシ の ウンメイ を まもる べく カレラ に いのりました。 アナタ は わらう かも しれない。 ワタクシ も わらわれて も シカタ が ない と おもいます。 しかし ワタクシ は そうした ニンゲン だった の です。
 ワタクシ の セカイ は タナゴコロ を ひるがえす よう に かわりました。 もっとも これ は ワタクシ に とって はじめて の ケイケン では なかった の です。 ワタクシ が 16~17 の とき でしたろう、 はじめて ヨノナカ に うつくしい もの が ある と いう ジジツ を ハッケン した とき には、 イチド に はっと おどろきました。 ナンベン も ジブン の メ を うたぐって、 ナンベン も ジブン の メ を こすりました。 そうして ココロ の ウチ で ああ うつくしい と さけびました。 16~17 と いえば、 オトコ でも オンナ でも、 ぞくに いう イロケ の つく コロ です。 イロケ の ついた ワタクシ は ヨノナカ に ある うつくしい もの の ダイヒョウシャ と して、 はじめて オンナ を みる こと が できた の です。 イマ まで その ソンザイ に すこしも キ の つかなかった イセイ に たいして、 メクラ の メ が たちまち あいた の です。 それ イライ ワタクシ の テンチ は まったく あたらしい もの と なりました。
 ワタクシ が オジ の タイド に こころづいた の も、 まったく これ と おなじ なん でしょう。 がぜん と して こころづいた の です。 なんの ヨカン も ジュンビ も なく、 フイ に きた の です。 フイ に カレ と カレ の カゾク が、 イマ まで とは まるで ベツモノ の よう に ワタクシ の メ に うつった の です。 ワタクシ は おどろきました。 そうして コノママ に して おいて は、 ジブン の ユクサキ が どう なる か わからない と いう キ に なりました。

 8

 ワタクシ は イマ まで オジ マカセ に して おいた イエ の ザイサン に ついて、 くわしい チシキ を えなければ、 しんだ チチハハ に たいして すまない と いう キ を おこした の です。 オジ は いそがしい カラダ だ と ジショウ する ごとく、 マイバン おなじ ところ に ネトマリ は して いません でした。 フツカ ウチ へ かえる と ミッカ は シ の ほう で くらす と いった ふう に、 リョウホウ の アイダ を ユキキ して、 その ヒ その ヒ を オチツキ の ない カオ で すごして いました。 そうして いそがしい と いう コトバ を クチグセ の よう に つかいました。 なんの ウタガイ も おこらない とき は、 ワタクシ も ジッサイ に いそがしい の だろう と おもって いた の です。 それから、 いそがしがらなくて は トウセイリュウ で ない の だろう と、 ヒニク にも カイシャク して いた の です。 けれども ザイサン の こと に ついて、 ジカン の かかる ハナシ を しよう と いう モクテキ が できた メ で、 この いそがしがる ヨウス を みる と、 それ が たんに ワタクシ を さける コウジツ と しか うけとれなく なって きた の です。 ワタクシ は ヨウイ に オジ を つらまえる キカイ を えません でした。
 ワタクシ は オジ が シ の ほう に メカケ を もって いる と いう ウワサ を ききました。 ワタクシ は その ウワサ を ムカシ チュウガク の ドウキュウセイ で あった ある トモダチ から きいた の です。 メカケ を おく ぐらい の こと は、 この オジ と して すこしも あやしむ に たらない の です が、 チチ の いきて いる うち に、 そんな ヒョウバン を ミミ に いれた オボエ の ない ワタクシ は おどろきました。 トモダチ は その ホカ にも いろいろ オジ に ついて の ウワサ を かたって きかせました。 イチジ ジギョウ で シッパイ しかかって いた よう に ヒト から おもわれて いた のに、 この 2~3 ネン-ライ また キュウ に もりかえして きた と いう の も、 その ヒトツ でした。 しかも ワタクシ の ギワク を つよく そめつけた もの の ヒトツ でした。
 ワタクシ は とうとう オジ と ダンパン を ひらきました。 ダンパン と いう の は すこし フオントウ かも しれません が、 ハナシ の ナリユキ から いう と、 そんな コトバ で ケイヨウ する より ホカ に ミチ の ない ところ へ、 シゼン の チョウシ が おちて きた の です。 オジ は どこまでも ワタクシ を コドモ アツカイ に しよう と します。 ワタクシ は また ハジメ から サイギ の メ で オジ に たいして います。 おだやか に カイケツ の つく はず は なかった の です。
 イカン ながら ワタクシ は イマ その ダンパン の テンマツ を くわしく ここ に かく こと の できない ほど サキ を いそいで います。 ジツ を いう と、 ワタクシ は これ より イジョウ に、 もっと ダイジ な もの を ひかえて いる の です。 ワタクシ の ペン は はやく から そこ へ たどりつきたがって いる の を、 やっと の こと で おさえつけて いる くらい です。 アナタ に あって しずか に はなす キカイ を エイキュウ に うしなった ワタクシ は、 フデ を とる スベ に なれない ばかり で なく、 たっとい ジカン を おしむ と いう イミ から して、 かきたい こと も はぶかなければ なりません。
 アナタ は まだ おぼえて いる でしょう、 ワタクシ が いつか アナタ に、 ツクリツケ の アクニン が ヨノナカ に いる もの では ない と いった こと を。 オオク の ゼンニン が いざ と いう バアイ に とつぜん アクニン に なる の だ から ユダン して は いけない と いった こと を。 あの とき アナタ は ワタクシ に コウフン して いる と チュウイ して くれました。 そうして どんな バアイ に、 ゼンニン が アクニン に ヘンカ する の か と たずねました。 ワタクシ が ただ ヒトクチ カネ と こたえた とき、 アナタ は フマン な カオ を しました。 ワタクシ は アナタ の フマン な カオ を よく キオク して います。 ワタクシ は イマ アナタ の マエ に うちあける が、 ワタクシ は あの とき この オジ の こと を かんがえて いた の です。 フツウ の モノ が カネ を みて キュウ に アクニン に なる レイ と して、 ヨノナカ に シンヨウ する に たる モノ が ソンザイ しえない レイ と して、 ゾウオ と ともに ワタクシ は この オジ を かんがえて いた の です。 ワタクシ の コタエ は、 シソウカイ の オク へ つきすすんで ゆこう と する アナタ に とって ものたりなかった かも しれません、 チンプ だった かも しれません。 けれども ワタクシ には あれ が いきた コタエ でした。 げんに ワタクシ は コウフン して いた では ありません か。 ワタクシ は ひややか な アタマ で あたらしい こと を クチ に する より も、 ねっした シタ で ヘイボン な セツ を のべる ほう が いきて いる と しんじて います。 チ の チカラ で タイ が うごく から です。 コトバ が クウキ に ハドウ を つたえる ばかり で なく、 もっと つよい もの に もっと つよく はたらきかける こと が できる から です。

ココロ 「センセイ と イショ 2」

2015-06-06 | ナツメ ソウセキ
 9

 ヒトクチ で いう と、 オジ は ワタクシ の ザイサン を ごまかした の です。 コト は ワタクシ が トウキョウ へ でて いる 3 ネン の アイダ に たやすく おこなわれた の です。 スベテ を オジ マカセ に して ヘイキ で いた ワタクシ は、 セケンテキ に いえば ホントウ の バカ でした。 セケンテキ イジョウ の ケンチ から ひょうすれば、 あるいは ジュン なる たっとい オトコ と でも いえましょう か。 ワタクシ は その とき の オノレ を かえりみて、 なぜ もっと ヒト が わるく うまれて こなかった か と おもう と、 ショウジキ-すぎた ジブン が くやしくって たまりません。 しかし また どうか して、 もう イチド ああいう うまれた まま の スガタ に たちかえって いきて みたい と いう ココロモチ も おこる の です。 キオク して ください、 アナタ の しって いる ワタクシ は チリ に よごれた アト の ワタクシ です。 きたなく なった ネンスウ の おおい モノ を センパイ と よぶ ならば、 ワタクシ は たしか に アナタ より センパイ でしょう。
 もし ワタクシ が オジ の キボウドオリ オジ の ムスメ と ケッコン した ならば、 その ケッカ は ブッシツテキ に ワタクシ に とって ユウリ な もの でしたろう か。 これ は かんがえる まで も ない こと と おもいます。 オジ は サクリャク で ムスメ を ワタクシ に おしつけよう と した の です。 コウイテキ に リョウケ の ベンギ を はかる と いう より も、 ずっと げびた リガイシン に かられて、 ケッコン モンダイ を ワタクシ に むけた の です。 ワタクシ は イトコ を あいして いない だけ で、 きらって は いなかった の です が、 アト から かんがえて みる と、 それ を ことわった の が ワタクシ には タショウ の ユカイ に なる と おもいます。 ごまかされる の は どっち に して も おなじ でしょう けれども、 ノセラレカタ から いえば、 イトコ を もらわない ほう が、 ムコウ の オモイドオリ に ならない と いう テン から みて、 すこし は ワタクシ の ガ が とおった こと に なる の です から。 しかし それ は ほとんど モンダイ と する に たりない ササイ な コトガラ です。 ことに カンケイ の ない アナタ に いわせたら、 さぞ ばかげた イジ に みえる でしょう。
 ワタクシ と オジ の アイダ に タ の シンセキ の モノ が はいりました。 その シンセキ の モノ も ワタクシ は まるで シンヨウ して いません でした。 シンヨウ しない ばかり で なく、 むしろ テキシ して いました。 ワタクシ は オジ が ワタクシ を あざむいた と さとる と ともに、 ホカ の モノ も かならず ジブン を あざむく に ちがいない と おもいつめました。 チチ が あれだけ ほめぬいて いた オジ で すら こう だ から、 ホカ の モノ は と いう の が ワタクシ の ロジック でした。
 それでも カレラ は ワタクシ の ため に、 ワタクシ の ショユウ に かかる イッサイ の もの を まとめて くれました。 それ は キンガク に みつもる と、 ワタクシ の ヨキ より はるか に すくない もの でした。 ワタクシ と して は だまって それ を うけとる か、 で なければ オジ を あいてどって オオヤケザタ に する か、 フタツ の ホウホウ しか なかった の です。 ワタクシ は いきどおりました。 また まよいました。 ソショウ に する と ラクチャク まで に ながい ジカン の かかる こと も おそれました。 ワタクシ は シュギョウチュウ の カラダ です から、 ガクセイ と して タイセツ な ジカン を うばわれる の は ヒジョウ の クツウ だ とも かんがえました。 ワタクシ は シアン の ケッカ、 シ に おる チュウガク の キュウユウ に たのんで、 ワタクシ の うけとった もの を、 すべて カネ の カタチ に かえよう と しました。 キュウユウ は よした ほう が トク だ と いって チュウコク して くれました が、 ワタクシ は ききません でした。 ワタクシ は ながく コキョウ を はなれる ケッシン を その とき に おこした の です。 オジ の カオ を みまい と ココロ の ウチ で ちかった の です。
 ワタクシ は クニ を たつ マエ に、 また チチ と ハハ の ハカ へ まいりました。 ワタクシ は それぎり その ハカ を みた こと が ありません。 もう エイキュウ に みる キカイ も こない でしょう。
 ワタクシ の キュウユウ は ワタクシ の コトバドオリ に とりはからって くれました。 もっとも それ は ワタクシ が トウキョウ へ ついて から よほど たった ノチ の こと です。 イナカ で ハタチ など を うろう と したって ヨウイ には うれません し、 いざ と なる と アシモト を みて ふみたおされる オソレ が ある ので、 ワタクシ の うけとった キンガク は、 ジカ に くらべる と よほど すくない もの でした。 ジハク する と、 ワタクシ の ザイサン は ジブン が フトコロ に して イエ を でた ジャッカン の コウサイ と、 アト から この ユウジン に おくって もらった カネ だけ なの です。 オヤ の イサン と して は もとより ヒジョウ に へって いた に ソウイ ありません。 しかも ワタクシ が セッキョクテキ に へらした の で ない から、 なお ココロモチ が わるかった の です。 けれども ガクセイ と して セイカツ する には それ で ジュウブン イジョウ でした。 ジツ を いう と ワタクシ は それ から でる リシ の ハンブン も つかえません でした。 この ヨユウ ある ワタクシ の ガクセイ セイカツ が ワタクシ を おもい も よらない キョウグウ に おとしいれた の です。

 10

 カネ に フジユウ の ない ワタクシ は、 そうぞうしい ゲシュク を でて、 あたらしく イッコ を かまえて みよう か と いう キ に なった の です。 しかし それ には ショタイ ドウグ を かう メンドウ も あります し、 セワ を して くれる バアサン の ヒツヨウ も おこります し、 その バアサン が また ショウジキ で なければ こまる し、 ウチ を ルス に して も だいじょうぶ な モノ で なければ シンパイ だし、 と いった わけ で、 ちょくらちょいと ジッコウ する こと は おぼつかなく みえた の です。 ある ヒ ワタクシ は まあ ウチ だけ でも さがして みよう か と いう ソゾロゴコロ から、 サンポ-がてら に ホンゴウダイ を ニシ へ おりて コイシカワ の サカ を マッスグ に デンズウイン の ほう へ あがりました。 デンシャ の ツウロ に なって から、 あそこいら の ヨウス が まるで ちがって しまいました が、 その コロ は ヒダリテ が ホウヘイ コウショウ の ドベイ で、 ミギ は ハラ とも オカ とも つかない クウチ に クサ が イチメン に はえて いた もの です。 ワタクシ は その クサ の ナカ に たって、 なにごころなく ムコウ の ガケ を ながめました。 イマ でも わるい ケシキ では ありません が、 その コロ は また ずっと あの ニシガワ の オモムキ が ちがって いました。 みわたす かぎり ミドリ が イチメン に ふかく しげって いる だけ でも、 シンケイ が やすまります。 ワタクシ は ふと ここいら に テキトウ な ウチ は ない だろう か と おもいました。 それで すぐ クサハラ を よこぎって、 ほそい トオリ を キタ の ほう へ すすんで ゆきました。 いまだに いい マチ に なりきれない で、 がたぴし して いる あの ヘン の イエナミ は、 その ジブン の こと です から ずいぶん きたならしい もの でした。 ワタクシ は ロジ を ぬけたり、 ヨコチョウ を まがったり、 ぐるぐる あるきまわりました。 シマイ に ダガシヤ の カミサン に、 ここいら に こぢんまり した カシヤ は ない か と たずねて みました。 カミサン は 「そう です ね」 と いって、 しばらく クビ を かしげて いました が、 「カシヤ は ちょいと……」 と まったく おもいあたらない ふう でした。 ワタクシ は ノゾミ の ない もの と あきらめて かえりかけました。 すると カミサン が また、 「シロウト ゲシュク じゃ いけません か」 と きく の です。 ワタクシ は ちょっと キ が かわりました。 しずか な シロウトヤ に ヒトリ で ゲシュク して いる の は、 かえって ウチ を もつ メンドウ が なくって ケッコウ だろう と かんがえだした の です。 それから その ダガシヤ の ミセ に コシ を かけて、 カミサン に くわしい こと を おしえて もらいました。
 それ は ある グンジン の カゾク、 と いう より も むしろ イゾク、 の すんで いる イエ でした。 シュジン は なんでも ニッシン センソウ の とき か ナニ か に しんだ の だ と カミサン が いいました。 1 ネン ばかり マエ まで は、 イチガヤ の シカン ガッコウ の ソバ とか に すんで いた の だ が、 ウマヤ など が あって、 ヤシキ が ひろすぎる ので、 そこ を うりはらって、 ここ へ ひっこして きた けれども、 ブニン で さむしくって こまる から ソウトウ の ヒト が あったら セワ を して くれ と たのまれて いた の だ そう です。 ワタクシ は カミサン から、 その イエ には ビボウジン と ヒトリムスメ と ゲジョ より ホカ に いない の だ と いう こと を たしかめました。 ワタクシ は カンセイ で しごく よかろう と ココロ の ウチ に おもいました。 けれども そんな カゾク の ウチ に、 ワタクシ の よう な モノ が、 とつぜん いった ところ で、 スジョウ の しれない ショセイ さん と いう メイショウ の モト に、 すぐ キョゼツ され は しまい か と いう ケネン も ありました。 ワタクシ は よそう か とも かんがえました。 しかし ワタクシ は ショセイ と して そんな に みぐるしい ナリ は して いません でした。 それから ダイガク の セイボウ を かぶって いました。 アナタ は わらう でしょう、 ダイガク の セイボウ が どうした ん だ と いって。 けれども その コロ の ダイガクセイ は イマ と ちがって、 だいぶ セケン に シンヨウ の あった もの です。 ワタクシ は その バアイ この シカク な ボウシ に イッシュ の ジシン を みいだした くらい です。 そうして ダガシヤ の カミサン に おそわった とおり、 ショウカイ も なにも なし に その グンジン の イゾク の ウチ を たずねました。
 ワタクシ は ビボウジン に あって ライイ を つげました。 ビボウジン は ワタクシ の ミモト やら ガッコウ やら センモン やら に ついて いろいろ シツモン しました。 そうして これ なら だいじょうぶ だ と いう ところ を どこ か に にぎった の でしょう、 いつでも ひっこして きて さしつかえない と いう アイサツ を ソクザ に あたえて くれました。 ビボウジン は ただしい ヒト でした、 また はっきり した ヒト でした。 ワタクシ は グンジン の サイクン と いう もの は ミンナ こんな もの か と おもって カンプク しました。 カンプク も した が、 おどろき も しました。 この キショウ で どこ が さむしい の だろう と うたがい も しました。

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 ワタクシ は さっそく その イエ へ ひきうつりました。 ワタクシ は サイショ きた とき に ビボウジン と ハナシ を した ザシキ を かりた の です。 そこ は ウチジュウ で いちばん いい ヘヤ でした。 ホンゴウ ヘン に コウトウ ゲシュク と いった フウ の イエ が ぽつぽつ たてられた ジブン の こと です から、 ワタクシ は ショセイ と して センリョウ しうる もっとも いい マ の ヨウス を こころえて いました。 ワタクシ の あたらしく シュジン と なった ヘヤ は、 それら より も ずっと リッパ でした。 うつった トウザ は、 ガクセイ と して の ワタクシ には すぎる くらい に おもわれた の です。
 ヘヤ の ヒロサ は 8 ジョウ でした。 トコ の ヨコ に チガイダナ が あって、 エン と ハンタイ の ガワ には 1 ケン の オシイレ が ついて いました。 マド は ヒトツ も なかった の です が、 そのかわり ミナミムキ の エン に あかるい ヒ が よく さしました。
 ワタクシ は うつった ヒ に、 その ヘヤ の トコ に いけられた ハナ と、 その ヨコ に たてかけられた コト を みました。 どっち も ワタクシ の キ に いりません でした。 ワタクシ は シ や ショ や センチャ を たしなむ チチ の ソバ で そだった ので、 からめいた シュミ を コドモ の うち から もって いました。 その ため でも ありましょう か、 こういう なまめかしい ソウショク を いつのまにか ケイベツ する クセ が ついて いた の です。
 ワタクシ の チチ が ゾンショウチュウ に あつめた ドウグルイ は、 レイ の オジ の ため に めちゃめちゃ に されて しまった の です が、 それでも タショウ は のこって いました。 ワタクシ は クニ を たつ とき それ を チュウガク の キュウユウ に あずかって もらいました。 それから その ウチ で おもしろそう な もの を 4~5 フク ハダカ に して コウリ の ソコ へ いれて きました。 ワタクシ は うつる や いなや、 それ を とりだして トコ へ かけて たのしむ つもり で いた の です。 ところが イマ いった コト と イケバナ を みた ので、 キュウ に ユウキ が なくなって しまいました。 アト から きいて はじめて この ハナ が ワタクシ に たいする ゴチソウ に いけられた の だ と いう こと を しった とき、 ワタクシ は ココロ の ウチ で クショウ しました。 もっとも コト は マエ から そこ に あった の です から、 これ は オキドコロ が ない ため、 やむ を えず ソノママ に たてかけて あった の でしょう。
 こんな ハナシ を する と、 しぜん その ウラ に わかい オンナ の カゲ が アナタ の アタマ を かすめて とおる でしょう。 うつった ワタクシ にも、 うつらない ハジメ から そういう コウキシン が すでに うごいて いた の です。 こうした ジャキ が ヨビテキ に ワタクシ の シゼン を そこなった ため か、 または ワタクシ が まだ ひとなれなかった ため か、 ワタクシ は はじめて そこ の オジョウサン に あった とき、 へどもど した アイサツ を しました。 そのかわり オジョウサン の ほう でも あかい カオ を しました。
 ワタクシ は それまで ビボウジン の フウサイ や タイド から おして、 この オジョウサン の スベテ を ソウゾウ して いた の です。 しかし その ソウゾウ は オジョウサン に とって あまり ユウリ な もの では ありません でした。 グンジン の サイクン だ から ああ なの だろう、 その サイクン の ムスメ だ から こう だろう と いった ジュンジョ で、 ワタクシ の スイソク は だんだん のびて ゆきました。 ところが その スイソク が、 オジョウサン の カオ を みた シュンカン に、 ことごとく うちけされました。 そうして ワタクシ の アタマ の ナカ へ イマ まで ソウゾウ も およばなかった イセイ の ニオイ が あたらしく はいって きました。 ワタクシ は それから トコ の ショウメン に いけて ある ハナ が いや で なくなりました。 おなじ トコ に たてかけて ある コト も ジャマ に ならなく なりました。
 その ハナ は また キソク ただしく しおれる コロ に なる と いけかえられる の です。 コト も たびたび カギノテ に おれまがった スジカイ の ヘヤ に はこびさられる の です。 ワタクシ は ジブン の イマ で ツクエ の ウエ に ホオヅエ を つきながら、 その コト の ネ を きいて いました。 ワタクシ には その コト が ジョウズ なの か ヘタ なの か よく わからない の です。 けれども あまり こみいった テ を ひかない ところ を みる と、 ジョウズ なの じゃ なかろう と かんがえました。 まあ イケバナ の テイド ぐらい な もの だろう と おもいました。 ハナ なら ワタクシ にも よく わかる の です が、 オジョウサン は けっして うまい ほう では なかった の です。
 それでも オクメン なく イロイロ の ハナ が ワタクシ の トコ を かざって くれました。 もっとも イケカタ は いつ みて も おなじ こと でした。 それから カヘイ も ついぞ かわった ためし が ありません でした。 しかし カタホウ の オンガク に なる と ハナ より も もっと ヘン でした。 ぽつん ぽつん イト を ならす だけ で、 いっこう ニクセイ を きかせない の です。 うたわない の では ありません が、 まるで ナイショバナシ でも する よう に ちいさな コエ しか ださない の です。 しかも しかられる と まったく でなく なる の です。
 ワタクシ は よろこんで この ヘタ な イケバナ を ながめて は、 まずそう な コト の ネ に ミミ を かたむけました。

 12

 ワタクシ の キブン は クニ を たつ とき すでに エンセイテキ に なって いました。 ヒト は タヨリ に ならない もの だ と いう カンネン が、 その とき ホネ の ナカ まで しみこんで しまった よう に おもわれた の です。 ワタクシ は ワタクシ の テキシ する オジ だの オバ だの、 ソノタ の シンセキ だの を、 あたかも ジンルイ の ダイヒョウシャ の ごとく かんがえだしました。 キシャ へ のって さえ トナリ の モノ の ヨウス を、 それとなく チュウイ しはじめました。 たまに ムコウ から はなしかけられ でも する と、 なお の こと ケイカイ を くわえたく なりました。 ワタクシ の ココロ は チンウツ でした。 ナマリ を のんだ よう に おもくるしく なる こと が ときどき ありました。 それでいて ワタクシ の シンケイ は、 イマ いった ごとく に するどく とがって しまった の です。
 ワタクシ が トウキョウ へ きて ゲシュク を でよう と した の も、 これ が おおきな ゲンイン に なって いる よう に おもわれます。 カネ に フジユウ が なければ こそ、 イッコ を かまえて みる キ にも なった の だ と いえば それまで です が、 モト の とおり の ワタクシ ならば、 たとい フトコロ に ヨユウ が できて も、 このんで そんな メンドウ な マネ は しなかった でしょう。
 ワタクシ は コイシカワ へ ひきうつって から も、 とうぶん この キンチョウ した キブン に クツロギ を あたえる こと が できません でした。 ワタクシ は ジブン で ジブン が はずかしい ほど、 きょときょと シュウイ を みまわして いました。 フシギ にも よく はたらく の は アタマ と メ だけ で、 クチ の ほう は それ と ハンタイ に、 だんだん うごかなく なって きました。 ワタクシ は ウチ の モノ の ヨウス を ネコ の よう に よく カンサツ しながら、 だまって ツクエ の マエ に すわって いました。 ときどき は カレラ に たいして キノドク だ と おもう ほど、 ワタクシ は ユダン の ない チュウイ を カレラ の ウエ に そそいで いた の です。 オレ は モノ を ぬすまない キンチャクキリ みた よう な もの だ、 ワタクシ は こう かんがえて、 ジブン が いや に なる こと さえ あった の です。
 アナタ は さだめて ヘン に おもう でしょう。 その ワタクシ が そこ の オジョウサン を どうして すく ヨユウ を もって いる か。 その オジョウサン の ヘタ な イケバナ を、 どうして うれしがって ながめる ヨユウ が ある か。 おなじく ヘタ な その ヒト の コト を どうして よろこんで きく ヨユウ が ある か。 そう シツモン された とき、 ワタクシ は ただ リョウホウ とも ジジツ で あった の だ から、 ジジツ と して アナタ に おしえて あげる と いう より ホカ に シカタ が ない の です。 カイシャク は アタマ の ある アナタ に まかせる と して、 ワタクシ は ただ イチゴン つけたして おきましょう。 ワタクシ は カネ に たいして ジンルイ を うたぐった けれども、 アイ に たいして は、 まだ ジンルイ を うたがわなかった の です。 だから ヒト から みる と ヘン な もの でも、 また ジブン で かんがえて みて、 ムジュン した もの でも、 ワタクシ の ムネ の ナカ では ヘイキ で リョウリツ して いた の です。
 ワタクシ は ビボウジン の こと を つねに オクサン と いって いました から、 これから ビボウジン と よばず に オクサン と いいます。 オクサン は ワタクシ を しずか な ヒト、 おとなしい オトコ と ひょうしました。 それから ベンキョウカ だ とも ほめて くれました。 けれども ワタクシ の フアン な メツキ や、 きょときょと した ヨウス に ついて は、 ナニゴト も クチ へ だしません でした。 キ が つかなかった の か、 エンリョ して いた の か、 どっち だ か よく わかりません が、 なにしろ そこ には まるで チュウイ を はらって いない らしく みえました。 それ のみ ならず、 ある バアイ に ワタクシ を オウヨウ な カタ だ と いって、 さも ソンケイ した らしい クチ の キキカタ を した こと が あります。 その とき ショウジキ な ワタクシ は すこし カオ を あからめて、 ムコウ の コトバ を ヒテイ しました。 すると オクサン は 「アナタ は ジブン で キ が つかない から、 そう おっしゃる ん です」 と マジメ に セツメイ して くれました。 オクサン は はじめ ワタクシ の よう な ショセイ を ウチ へ おく つもり では なかった らしい の です。 どこ か の ヤクショ へ つとめる ヒト か ナニ か に ザシキ を かす リョウケン で、 キンジョ の モノ に シュウセン を たのんで いた らしい の です。 ホウキュウ が ゆたか で なくって、 やむ を えず シロウトヤ に ゲシュク する くらい の ヒト だ から と いう カンガエ が、 それで マエカタ から オクサン の アタマ の どこ か に はいって いた の でしょう。 オクサン は ジブン の ムネ に えがいた その ソウゾウ の オキャク と ワタクシ と を ヒカク して、 こっち の ほう を オウヨウ だ と いって ほめる の です。 なるほど そんな きりつめた セイカツ を する ヒト に くらべたら、 ワタクシ は キンセン に かけて、 オウヨウ だった かも しれません。 しかし それ は キショウ の モンダイ では ありません から、 ワタクシ の ナイセイカツ に とって ほとんど カンケイ の ない の と イッパン でした。 オクサン は また オンナ だけ に それ を ワタクシ の ゼンタイ に おしひろげて、 おなじ コトバ を オウヨウ しよう と つとめる の です。

 13

 オクサン の この タイド が しぜん ワタクシ の キブン に エイキョウ して きました。 しばらく する うち に、 ワタクシ の メ は モト ほど きょろつかなく なりました。 ジブン の ココロ が ジブン の すわって いる ところ に、 ちゃんと おちついて いる よう な キ にも なれました。 ようするに オクサン ハジメ ウチ の モノ が、 ひがんだ ワタクシ の メ や うたがいぶかい ワタクシ の ヨウス に、 てんから とりあわなかった の が、 ワタクシ に おおきな コウフク を あたえた の でしょう。 ワタクシ の シンケイ は アイテ から てりかえして くる ハンシャ の ない ため に だんだん しずまりました。
 オクサン は ココロエ の ある ヒト でした から、 わざと ワタクシ を そんな ふう に とりあつかって くれた もの とも おもわれます し、 また ジブン で コウゲン する ごとく、 じっさい ワタクシ を オウヨウ だ と カンサツ して いた の かも しれません。 ワタクシ の コセツキカタ は アタマ の ナカ の ゲンショウ で、 それほど ソト へ でなかった よう にも かんがえられます から、 あるいは オクサン の ほう で ごまかされて いた の かも わかりません。
 ワタクシ の ココロ が しずまる と ともに、 ワタクシ は だんだん カゾク の モノ と セッキン して きました。 オクサン とも オジョウサン とも ジョウダン を いう よう に なりました。 チャ を いれた から と いって ムコウ の ヘヤ へ よばれる ヒ も ありました。 また ワタクシ の ほう で カシ を かって きて、 フタリ を こっち へ まねいたり する バン も ありました。 ワタクシ は キュウ に コウサイ の クイキ が ふえた よう に かんじました。 それ が ため に タイセツ な ベンキョウ の ジカン を つぶされる こと も ナンド と なく ありました。 フシギ にも、 その ボウガイ が ワタクシ には いっこう ジャマ に ならなかった の です。 オクサン は もとより ヒマジン でした。 オジョウサン は ガッコウ へ ゆく うえ に、 ハナ だの コト だの を ならって いる ん だ から、 さだめて いそがしかろう と おもう と、 それ が また アンガイ な もの で、 いくらでも ジカン に ヨユウ を もって いる よう に みえました。 それで 3 ニン は カオ さえ みる と イッショ に あつまって、 セケンバナシ を しながら あそんだ の です。
 ワタクシ を よび に くる の は、 たいてい オジョウサン でした。 オジョウサン は エンガワ を チョッカク に まがって、 ワタクシ の ヘヤ の マエ に たつ こと も あります し、 チャノマ を ぬけて、 ツギ の ヘヤ の フスマ の カゲ から スガタ を みせる こと も ありました。 オジョウサン は、 そこ へ きて ちょっと とまります。 それから きっと ワタクシ の ナ を よんで、 「ゴベンキョウ?」 と ききます。 ワタクシ は たいてい むずかしい ショモツ を ツクエ の マエ に あけて、 それ を みつめて いました から、 ハタ で みたら さぞ ベンキョウカ の よう に みえた の でしょう。 しかし ジッサイ を いう と、 それほど ネッシン に ショモツ を ケンキュウ して は いなかった の です。 ページ の ウエ に メ は つけて いながら、 オジョウサン の よび に くる の を まって いる くらい な もの でした。 まって いて こない と、 シカタ が ない から ワタクシ の ほう で たちあがる の です。 そうして ムコウ の ヘヤ の マエ へ いって、 こっち から 「ゴベンキョウ です か」 と きく の です。
 オジョウサン の ヘヤ は チャノマ と つづいた 6 ジョウ でした。 オクサン は その チャノマ に いる こと も ある し、 また オジョウサン の ヘヤ に いる こと も ありました。 つまり この フタツ の ヘヤ は シキリ が あって も、 ない と おなじ こと で、 オヤコ フタリ が いったり きたり して、 ドッチツカズ に センリョウ して いた の です。 ワタクシ が ソト から コエ を かける と、 「おはいんなさい」 と こたえる の は きっと オクサン でした。 オジョウサン は そこ に いて も めった に ヘンジ を した こと が ありません でした。
 ときたま オジョウサン ヒトリ で、 ヨウ が あって ワタクシ の ヘヤ へ はいった ツイデ に、 そこ に すわって はなしこむ よう な バアイ も その うち に でて きました。 そういう とき には、 ワタクシ の ココロ が ミョウ に フアン に おかされて くる の です。 そうして わかい オンナ と ただ サシムカイ で すわって いる の が フアン なの だ と ばかり は おもえません でした。 ワタクシ は なんだか そわそわ しだす の です。 ジブン で ジブン を うらぎる よう な フシゼン な タイド が ワタクシ を くるしめる の です。 しかし アイテ の ほう は かえって ヘイキ でした。 これ が コト を さらう の に コエ さえ ろくに だせなかった あの オンナ かしら と うたがわれる くらい、 はずかしがらない の です。 あまり ながく なる ので、 チャノマ から ハハ に よばれて も、 「はい」 と ヘンジ を する だけ で、 ヨウイ に コシ を あげない こと さえ ありました。 それでいて オジョウサン は けっして コドモ では なかった の です。 ワタクシ の メ には よく それ が わかって いました。 よく わかる よう に ふるまって みせる コンセキ さえ あきらか でした。

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 ワタクシ は オジョウサン の たった アト で、 ほっと ヒトイキ する の です。 それ と ドウジ に、 ものたりない よう な また すまない よう な キモチ に なる の です。 ワタクシ は おんならしかった の かも しれません。 イマ の セイネン の アナタガタ から みたら なお そう みえる でしょう。 しかし その コロ の ワタクシタチ は たいてい そんな もの だった の です。
 オクサン は めった に ガイシュツ した こと が ありません でした。 たまに ウチ を ルス に する とき でも、 オジョウサン と ワタクシ を フタリ ぎり のこして ゆく よう な こと は なかった の です。 それ が また グウゼン なの か、 コイ なの か、 ワタクシ には わからない の です。 ワタクシ の クチ から いう の は ヘン です が、 オクサン の ヨウス を よく カンサツ して いる と、 なんだか ジブン の ムスメ と ワタクシ と を セッキン させたがって いる らしく も みえる の です。 それでいて、 ある バアイ には、 ワタクシ に たいして あんに ケイカイ する ところ も ある よう なの です から、 はじめて こんな バアイ に であった ワタクシ は、 ときどき ココロモチ を わるく しました。
 ワタクシ は オクサン の タイド を どっち か に かたづけて もらいたかった の です。 アタマ の ハタラキ から いえば、 それ が あきらか な ムジュン に ちがいなかった から です。 しかし オジ に あざむかれた キオク の まだ あたらしい ワタクシ は、 もう イッポ ふみこんだ ウタガイ を さしはさまず には いられません でした。 ワタクシ は オクサン の この タイド の どっち か が ホントウ で、 どっち か が イツワリ だろう と スイテイ しました。 そうして ハンダン に まよいました。 ただ ハンダン に まよう ばかり で なく、 なんで そんな ミョウ な こと を する か その イミ が ワタクシ には のみこめなかった の です。 ワケ を かんがえだそう と して も、 かんがえだせない ワタクシ は、 ツミ を オンナ と いう イチジ に なすりつけて ガマン した こと も ありました。 ひっきょう オンナ だ から ああ なの だ、 オンナ と いう もの は どうせ グ な もの だ。 ワタクシ の カンガエ は ゆきつまれば いつでも ここ へ おちて きました。
 それほど オンナ を みくびって いた ワタクシ が、 また どうしても オジョウサン を みくびる こと が できなかった の です。 ワタクシ の リクツ は その ヒト の マエ に まったく ヨウ を なさない ほど うごきません でした。 ワタクシ は その ヒト に たいして、 ほとんど シンコウ に ちかい アイ を もって いた の です。 ワタクシ が シュウキョウ だけ に もちいる この コトバ を、 わかい オンナ に オウヨウ する の を みて、 アナタ は ヘン に おもう かも しれません が、 ワタクシ は イマ でも かたく しんじて いる の です。 ホントウ の アイ は シュウキョウシン と そう ちがった もの で ない と いう こと を かたく しんじて いる の です。 ワタクシ は オジョウサン の カオ を みる たび に、 ジブン が うつくしく なる よう な ココロモチ が しました。 オジョウサン の こと を かんがえる と、 けだかい キブン が すぐ ジブン に のりうつって くる よう に おもいました。 もし アイ と いう フカシギ な もの に リョウハジ が あって、 その たかい ハジ には シンセイ な カンジ が はたらいて、 ひくい ハジ には セイヨク が うごいて いる と すれば、 ワタクシ の アイ は たしか に その たかい キョクテン を つらまえた もの です。 ワタクシ は もとより ニンゲン と して ニク を はなれる こと の できない カラダ でした。 けれども オジョウサン を みる ワタクシ の メ や、 オジョウサン を かんがえる ワタクシ の ココロ は、 まったく ニク の ニオイ を おびて いません でした。
 ワタクシ は ハハ に たいして ハンカン を いだく と ともに、 コ に たいして レンアイ の ド を まして いった の です から、 3 ニン の カンケイ は、 ゲシュク した ハジメ より は だんだん フクザツ に なって きました。 もっとも その ヘンカ は ほとんど ナイメンテキ で ソト へは あらわれて こなかった の です。 そのうち ワタクシ は ある ひょっと した キカイ から、 イマ まで オクサン を ゴカイ して いた の では なかろう か と いう キ に なりました。 オクサン の ワタクシ に たいする ムジュン した タイド が、 どっち も イツワリ では ない の だろう と かんがえなおして きた の です。 そのうえ、 それ が タガイチガイ に オクサン の ココロ を シハイ する の で なくって、 いつでも リョウホウ が ドウジ に オクサン の ムネ に ソンザイ して いる の だ と おもう よう に なった の です。 つまり オクサン が できる だけ オジョウサン を ワタクシ に セッキン させよう と して いながら、 ドウジ に ワタクシ に ケイカイ を くわえて いる の は ムジュン の よう だ けれども、 その ケイカイ を くわえる とき に、 カタホウ の タイド を わすれる の でも ひるがえす の でも なんでも なく、 やはり いぜん と して フタリ を セッキン させたがって いた の だ と カンサツ した の です。 ただ ジブン が セイトウ と みとめる テイド イジョウ に、 フタリ が ミッチャク する の を いむ の だ と カイシャク した の です。 オジョウサン に たいして、 ニク の ホウメン から ちかづく ネン の きざさなかった ワタクシ は、 その とき いらぬ シンパイ だ と おもいました。 しかし オクサン を わるく おもう キ は それから なくなりました。

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 ワタクシ は オクサン の タイド を いろいろ ソウゴウ して みて、 ワタクシ が ここ の ウチ で じゅうぶん シンヨウ されて いる こと を たしかめました。 しかも その シンヨウ は ショタイメン の とき から あった の だ と いう ショウコ さえ ハッケン しました。 ヒト を うたぐりはじめた ワタクシ の ムネ には、 この ハッケン が すこし キイ な くらい に ひびいた の です。 ワタクシ は オトコ に くらべる と オンナ の ほう が それだけ チョッカク に とんで いる の だろう と おもいました。 ドウジ に、 オンナ が オトコ の ため に、 だまされる の も ここ に ある の では なかろう か と おもいました。 オクサン を そう カンサツ する ワタクシ が、 オジョウサン に たいして おなじ よう な チョッカク を つよく はたらかせて いた の だ から、 イマ かんがえる と おかしい の です。 ワタクシ は ヒト を しんじない と ココロ に ちかいながら、 ゼッタイ に オジョウサン を しんじて いた の です から。 それでいて、 ワタクシ を しんじて いる オクサン を キイ に おもった の です から。
 ワタクシ は キョウリ の こと に ついて あまり オオク を かたらなかった の です。 ことに コンド の ジケン に ついて は なんにも いわなかった の です。 ワタクシ は それ を ネントウ に うかべて さえ すでに イッシュ の フユカイ を かんじました。 ワタクシ は なるべく オクサン の ほう の ハナシ だけ を きこう と つとめました。 ところが それ では ムコウ が ショウチ しません。 ナニカ に つけて、 ワタクシ の クニモト の ジジョウ を しりたがる の です。 ワタクシ は とうとう なにもかも はなして しまいました。 ワタクシ は ニド と クニ へは かえらない。 かえって も なんにも ない、 ある の は ただ チチ と ハハ の ハカ ばかり だ と つげた とき、 オクサン は たいへん カンドウ した らしい ヨウス を みせました。 オジョウサン は なきました。 ワタクシ は はなして いい こと を した と おもいました。 ワタクシ は うれしかった の です。
 ワタクシ の スベテ を きいた オクサン は、 はたして ジブン の チョッカク が テキチュウ した と いわない ばかり の カオ を しだしました。 それから は ワタクシ を ジブン の ミヨリ に あたる わかい モノ か ナニ か を とりあつかう よう に タイグウ する の です。 ワタクシ は ハラ も たちません でした。 むしろ ユカイ に かんじた くらい です。 ところが その うち に ワタクシ の サイギシン が また おこって きました。
 ワタクシ が オクサン を うたぐりはじめた の は、 ごく ササイ な こと から でした。 しかし その ササイ な こと を かさねて ゆく うち に、 ギワク は だんだん と ネ を はって きます。 ワタクシ は どういう ヒョウシ か ふと オクサン が、 オジ と おなじ よう な イミ で、 オジョウサン を ワタクシ に セッキン させよう と つとめる の では ない か と かんがえだした の です。 すると イマ まで シンセツ に みえた ヒト が、 キュウ に コウカツ な サクリャクカ と して ワタクシ の メ に えいじて きた の です。 ワタクシ は にがにがしい クチビル を かみました。
 オクサン は サイショ から、 ブニン で さむしい から、 キャク を おいて セワ を する の だ と コウゲン して いました。 ワタクシ も それ を ウソ とは おもいません でした。 コンイ に なって いろいろ ウチアケバナシ を きいた アト でも、 そこ に マチガイ は なかった よう に おもわれます。 しかし イッパン の ケイザイ ジョウタイ は たいして ゆたか だ と いう ほど では ありません でした。 リガイ モンダイ から かんがえて みて、 ワタクシ と トクシュ の カンケイ を つける の は、 センポウ に とって けっして ソン では なかった の です。
 ワタクシ は また ケイカイ を くわえました。 けれども ムスメ に たいして マエ いった くらい の つよい アイ を もって いる ワタクシ が、 その ハハ に たいして いくら ケイカイ を くわえたって ナン に なる でしょう。 ワタクシ は ヒトリ で ジブン を チョウショウ しました。 バカ だな と いって、 ジブン を ののしった こと も あります。 しかし それ だけ の ムジュン なら いくら バカ でも ワタクシ は たいした クツウ も かんぜず に すんだ の です。 ワタクシ の ハンモン は、 オクサン と おなじ よう に オジョウサン も サクリャクカ では なかろう か と いう ギモン に あって はじめて おこる の です。 フタリ が ワタクシ の ハイゴ で ウチアワセ を した うえ、 バンジ を やって いる の だろう と おもう と、 ワタクシ は キュウ に くるしくって たまらなく なる の です。 フユカイ なの では ありません、 ゼッタイ ゼツメイ の よう な ゆきつまった ココロモチ に なる の です。 それでいて ワタクシ は、 イッポウ に オジョウサン を かたく しんじて うたがわなかった の です。 だから ワタクシ は シンネン と マヨイ の トチュウ に たって、 すこしも うごく こと が できなく なって しまいました。 ワタクシ には どっち も ソウゾウ で あり、 また どっち も シンジツ で あった の です。

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 ワタクシ は あいかわらず ガッコウ へ シュッセキ して いました。 しかし キョウダン に たつ ヒト の コウギ が、 トオク の ほう で きこえる よう な ココロモチ が しました。 ベンキョウ も その とおり でした。 メ の ナカ へ はいる カツジ は ココロ の ソコ まで しみわたらない うち に ケム の ごとく きえて ゆく の です。 ワタクシ は そのうえ ムクチ に なりました。 それ を 2~3 の トモダチ が ゴカイ して、 メイソウ に ふけって でも いる か の よう に、 タ の トモダチ に つたえました。 ワタクシ は この ゴカイ を とこう とは しません でした。 ツゴウ の いい カメン を ヒト が かして くれた の を、 かえって シアワセ と して よろこびました。 それでも ときどき は キ が すまなかった の でしょう、 ホッサテキ に はしゃぎまわって カレラ を おどろかした こと も あります。
 ワタクシ の ヤド は ヒトデイリ の すくない ウチ でした。 シンルイ も おおく は ない よう でした。 オジョウサン の ガッコウ トモダチ が ときたま あそび に くる こと は ありました が、 きわめて ちいさな コエ で、 いる の だ か いない の だ か わからない よう な ハナシ を して かえって しまう の が ツネ でした。 それ が ワタクシ に たいする エンリョ から だ とは、 いかな ワタクシ にも キ が つきません でした。 ワタクシ の ところ へ たずねて くる モノ は、 たいした ランボウモノ でも ありません でした けれども、 ウチ の ヒト に キガネ を する ほど な オトコ は ヒトリ も なかった の です から。 そんな ところ に なる と、 ゲシュクニン の ワタクシ は アルジ の よう な もの で、 カンジン の オジョウサン が かえって イソウロウ の イチ に いた と おなじ こと です。
 しかし これ は ただ おもいだした ツイデ に かいた だけ で、 じつは どうでも かまわない テン です。 ただ そこ に どうでも よく ない こと が ヒトツ あった の です。 チャノマ か、 さも なければ オジョウサン の ヘヤ で、 とつぜん オトコ の コエ が きこえる の です。 その コエ が また ワタクシ の キャク と ちがって、 すこぶる ひくい の です。 だから ナニ を はなして いる の か まるで わからない の です。 そうして わからなければ わからない ほど、 ワタクシ の シンケイ に イッシュ の コウフン を あたえる の です。 ワタクシ は すわって いて へんに いらいら しだします。 ワタクシ は あれ は シンルイ なの だろう か、 それとも タダ の シリアイ なの だろう か と まず かんがえて みる の です。 それから わかい オトコ だろう か ネンパイ の ヒト だろう か と シアン して みる の です。 すわって いて そんな こと の しれよう はず が ありません。 そう か と いって、 たって いって ショウジ を あけて みる わけ には なお いきません。 ワタクシ の シンケイ は ふるえる と いう より も、 おおきな ハドウ を うって ワタクシ を くるしめます。 ワタクシ は キャク の かえった アト で、 きっと わすれず に その ヒト の ナ を ききました。 オジョウサン や オクサン の ヘンジ は、 また きわめて カンタン でした。 ワタクシ は ものたりない カオ を フタリ に みせながら、 ものたりる まで ツイキュウ する ユウキ を もって いなかった の です。 ケンリ は むろん もって いなかった の でしょう。 ワタクシ は ジブン の ヒンカク を おもんじなければ ならない と いう キョウイク から きた ジソンシン と、 げんに その ジソンシン を ウラギリ して いる ものほしそう な カオツキ と を ドウジ に カレラ の マエ に しめす の です。 カレラ は わらいました。 それ が チョウショウ の イミ で なくって、 コウイ から きた もの か、 また コウイ-らしく みせる つもり なの か、 ワタクシ は ソクザ に カイシャク の ヨチ を みいだしえない ほど オチツキ を うしなって しまう の です。 そうして コト が すんだ アト で、 いつまでも、 バカ に された の だ、 バカ に された ん じゃ なかろう か と、 ナンベン も ココロ の ウチ で くりかえす の です。
 ワタクシ は ジユウ な カラダ でした。 たとい ガッコウ を チュウト で やめよう が、 また どこ へ いって どう くらそう が、 あるいは どこ の ナニモノ と ケッコン しよう が、 ダレ とも ソウダン する ヒツヨウ の ない イチ に たって いました。 ワタクシ は おもいきって オクサン に オジョウサン を もらいうける ハナシ を して みよう か と いう ケッシン を した こと が それまで に ナンド と なく ありました。 けれども その たび ごと に ワタクシ は チュウチョ して、 クチ へは とうとう ださず に しまった の です。 ことわられる の が おそろしい から では ありません。 もし ことわられたら、 ワタクシ の ウンメイ が どう ヘンカ する か わかりません けれども、 そのかわり イマ まで とは ホウガク の ちがった バショ に たって、 あたらしい ヨノナカ を みわたす ベンギ も しょうじて くる の です から、 その くらい の ユウキ は だせば だせた の です。 しかし ワタクシ は おびきよせられる の が いや でした。 ヒト の テ に のる の は ナニ より も ゴウハラ でした。 オジ に だまされた ワタクシ は、 これから サキ どんな こと が あって も、 ヒト には だまされまい と ケッシン した の です。

ココロ 「センセイ と イショ 3」

2015-05-21 | ナツメ ソウセキ
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 ワタクシ が ショモツ ばかり かう の を みて、 オクサン は すこし キモノ を こしらえろ と いいました。 ワタクシ は じっさい イナカ で おった モメンモノ しか もって いなかった の です。 その コロ の ガクセイ は イト の はいった キモノ を ハダ に つけません でした。 ワタクシ の トモダチ に ヨコハマ の アキンド か ナニ か で、 ウチ は なかなか ハデ に くらして いる モノ が ありました が、 そこ へ ある とき ハブタエ の ドウギ が ハイタツ で とどいた こと が あります。 すると ミンナ が それ を みて わらいました。 その オトコ は はずかしがって いろいろ ベンカイ しました が、 せっかく の ドウギ を コウリ の ソコ へ ほうりこんで リヨウ しない の です。 それ を また オオゼイ が よって たかって、 わざと きせました。 すると ウン わるく その ドウギ に シラミ が たかりました。 トモダチ は ちょうど サイワイ と でも おもった の でしょう。 ヒョウバン の ドウギ を ぐるぐる と まるめて、 サンポ に でた ツイデ に、 ネヅ の おおきな ドブ の ナカ へ すてて しまいました。 その とき イッショ に あるいて いた ワタクシ は、 ハシ の ウエ に たって わらいながら トモダチ の ショサ を ながめて いました が、 ワタクシ の ムネ の どこ にも もったいない と いう キ は すこしも おこりません でした。
 その コロ から みる と ワタクシ も だいぶ オトナ に なって いました。 けれども まだ ジブン で ヨソユキ の キモノ を こしらえる と いう ほど の フンベツ は でなかった の です。 ワタクシ は ソツギョウ して ヒゲ を はやす ジダイ が こなければ、 フクソウ の シンパイ など は する に およばない もの だ と いう ヘン な カンガエ を もって いた の です。 それで オクサン に ショモツ は いる が キモノ は いらない と いいました。 オクサン は ワタクシ の かう ショモツ の ブンリョウ を しって いました。 かった ホン を みんな よむ の か と きく の です。 ワタクシ の かう もの の ウチ には ジビキ も あります が、 とうぜん メ を とおす べき はず で ありながら、 ページ さえ きって ない の も たしょう あった の です から、 ワタクシ は ヘンジ に きゅうしました。 ワタクシ は どうせ いらない もの を かう なら、 ショモツ でも イフク でも おなじ だ と いう こと に キ が つきました。 そのうえ ワタクシ は いろいろ セワ に なる と いう コウジツ の モト に、 オジョウサン の キ に いる よう な オビ か タンモノ を かって やりたかった の です。 それで バンジ を オクサン に イライ しました。
 オクサン は ジブン ヒトリ で ゆく とは いいません。 ワタクシ にも イッショ に こい と メイレイ する の です。 オジョウサン も ゆかなくて は いけない と いう の です。 イマ と ちがった クウキ の ナカ に そだてられた ワタクシドモ は、 ガクセイ の ミブン と して、 あまり わかい オンナ など と イッショ に あるきまわる シュウカン を もって いなかった もの です。 その コロ の ワタクシ は イマ より も まだ シュウカン の ドレイ でした から、 たしょう チュウチョ しました が、 おもいきって でかけました。
 オジョウサン は たいそう きかざって いました。 ジタイ が イロ の しろい くせ に、 オシロイ を ホウフ に ぬった もの だ から なお めだちます。 オウライ の ヒト が じろじろ みて ゆく の です。 そうして オジョウサン を みた モノ は きっと その シセン を ひるがえして、 ワタクシ の カオ を みる の だ から、 ヘン な もの でした。
 3 ニン は ニホンバシ へ いって かいたい もの を かいました。 かう アイダ にも いろいろ キ が かわる ので、 おもった より ヒマ が かかりました。 オクサン は わざわざ ワタクシ の ナ を よんで どう だろう と ソウダン を する の です。 ときどき タンモノ を オジョウサン の カタ から ムネ へ タテ に あてて おいて、 ワタクシ に 2~3 ポ とおのいて みて くれろ と いう の です。 ワタクシ は その たび ごと に、 それ は ダメ だ とか、 それ は よく にあう とか、 とにかく イチニンマエ の クチ を ききました。
 こんな こと で ジカン が かかって カエリ は ユウメシ の ジコク に なりました。 オクサン は ワタクシ に たいする オレイ に ナニ か ゴチソウ する と いって、 キハラダナ と いう ヨセ の ある せまい ヨコチョウ へ ワタクシ を つれこみました。 ヨコチョウ も せまい が、 メシ を くわせる ウチ も せまい もの でした。 この ヘン の チリ を いっこう こころえない ワタクシ は、 オクサン の チシキ に おどろいた くらい です。
 ワレワレ は ヨ に いって ウチ へ かえりました。 その あくる ヒ は ニチヨウ でした から、 ワタクシ は シュウジツ ヘヤ の ウチ に とじこもって いました。 ゲツヨウ に なって、 ガッコウ へ でる と、 ワタクシ は アサッパラ そうそう キュウユウ の ヒトリ から からかわれました。 いつ サイ を むかえた の か と いって わざとらしく きかれる の です。 それから ワタクシ の サイクン は ヒジョウ に ビジン だ と いって ほめる の です。 ワタクシ は 3 ニン-ヅレ で ニホンバシ へ でかけた ところ を、 その オトコ に どこ か で みられた もの と みえます。

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 ワタクシ は ウチ へ かえって オクサン と オジョウサン に その ハナシ を しました。 オクサン は わらいました。 しかし さだめて メイワク だろう と いって ワタクシ の カオ を みました。 ワタクシ は その とき ハラ の ナカ で、 オトコ は こんな ふう に して、 オンナ から キ を ひいて みられる の か と おもいました。 オクサン の メ は じゅうぶん ワタクシ に そう おもわせる だけ の イミ を もって いた の です。 ワタクシ は その とき ジブン の かんがえて いる とおり を チョクセツ に うちあけて しまえば よかった かも しれません。 しかし ワタクシ には もう コギ と いう さっぱり しない カタマリ が こびりついて いました。 ワタクシ は うちあけよう と して、 ひょいと とまりました。 そうして ハナシ の カクド を コイ に すこし そらしました。
 ワタクシ は カンジン の ジブン と いう もの を モンダイ の ナカ から ひきぬいて しまいました。 そうして オジョウサン の ケッコン に ついて、 オクサン の イチュウ を さぐった の です。 オクサン は 2~3 そういう ハナシ の ない でも ない よう な こと を、 あきらか に ワタクシ に つげました。 しかし まだ ガッコウ へ でて いる くらい で トシ が わかい から、 こちら では さほど いそがない の だ と セツメイ しました。 オクサン は クチ へは ださない けれども、 オジョウサン の ヨウショク に だいぶ オモキ を おいて いる らしく みえました。 きめよう と おもえば いつでも きめられる ん だ から と いう よう な こと さえ コウガイ しました。 それから オジョウサン より ホカ に コドモ が ない の も、 ヨウイ に てばなしたがらない ゲンイン に なって いました。 ヨメ に やる か、 ムコ を とる か、 それ に さえ まよって いる の では なかろう か と おもわれる ところ も ありました。
 はなして いる うち に、 ワタクシ は イロイロ の チシキ を オクサン から えた よう な キ が しました。 しかし それ が ため に、 ワタクシ は キカイ を いっした と ドウヨウ の ケッカ に おちいって しまいました。 ワタクシ は ジブン に ついて、 ついに イチゴン も クチ を ひらく こと が できません でした。 ワタクシ は イイカゲン な ところ で ハナシ を きりあげて、 ジブン の ヘヤ へ かえろう と しました。
 サッキ まで ソバ に いて、 あんまり だわ とか なんとか いって わらった オジョウサン は、 いつのまにか ムコウ の スミ に いって、 セナカ を こっち へ むけて いました。 ワタクシ は たとう と して ふりかえった とき、 その ウシロスガタ を みた の です。 ウシロスガタ だけ で ニンゲン の ココロ が よめる はず は ありません。 オジョウサン が この モンダイ に ついて どう かんがえて いる か、 ワタクシ には ケントウ が つきません でした。 オジョウサン は トダナ を マエ に して すわって いました。 その トダナ の 1 シャク ばかり あいて いる スキマ から、 オジョウサン は ナニ か ひきだして ヒザ の ウエ へ おいて ながめて いる らしかった の です。 ワタクシ の メ は その スキマ の ハジ に、 オトトイ かった タンモノ を みつけだしました。 ワタクシ の キモノ も オジョウサン の も おなじ トダナ の スミ に かさねて あった の です。
 ワタクシ が なんとも いわず に セキ を たちかける と、 オクサン は キュウ に あらたまった チョウシ に なって、 ワタクシ に どう おもう か と きく の です。 その キキカタ は ナニ を どう おもう の か と ハンモン しなければ わからない ほど フイ でした。 それ が オジョウサン を はやく かたづけた ほう が トクサク だろう か と いう イミ だ と はっきり した とき、 ワタクシ は なるべく ゆっくら な ほう が いい だろう と こたえました。 オクサン は ジブン も そう おもう と いいました。
 オクサン と オジョウサン と ワタクシ の カンケイ が こう なって いる ところ へ、 もう ヒトリ オトコ が いりこまなければ ならない こと に なりました。 その オトコ が この カテイ の イチイン と なった ケッカ は、 ワタクシ の ウンメイ に ヒジョウ な ヘンカ を きたして います。 もし その オトコ が ワタクシ の セイカツ の コウロ を よこぎらなかった ならば、 おそらく こういう ながい もの を アナタ に かきのこす ヒツヨウ も おこらなかった でしょう。 ワタクシ は テ も なく、 マ の とおる マエ に たって、 その シュンカン の カゲ に イッショウ を うすぐらく されて キ が つかず に いた の と おなじ こと です。 ジハク する と、 ワタクシ は ジブン で その オトコ を ウチ へ ひっぱって きた の です。 むろん オクサン の キョダク も ヒツヨウ です から、 ワタクシ は サイショ なにもかも かくさず うちあけて、 オクサン に たのんだ の です。 ところが オクサン は よせ と いいました。 ワタクシ には つれて こなければ すまない ジジョウ が じゅうぶん ある のに、 よせ と いう オクサン の ほう には、 スジ の たった リクツ は まるで なかった の です。 だから ワタクシ は ワタクシ の いい と おもう ところ を しいて ダンコウ して しまいました。

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 ワタクシ は その トモダチ の ナ を ここ に K と よんで おきます。 ワタクシ は この K と コドモ の とき から の ナカヨシ でした。 コドモ の とき から と いえば ことわらない でも わかって いる でしょう。 フタリ には ドウキョウ の エンコ が あった の です。 K は シンシュウ の ボウサン の コ でした。 もっとも チョウナン では ありません、 ジナン でした。 それで ある イシャ の ところ へ ヨウシ に やられた の です。 ワタクシ の うまれた チホウ は たいへん ホンガンジ-ハ の セイリョク の つよい ところ でした から、 シンシュウ の ボウサン は ホカ の もの に くらべる と、 ブッシツテキ に ワリ が よかった よう です。 イチレイ を あげる と、 もし ボウサン に オンナ の コ が あって、 その オンナ の コ が トシゴロ に なった と する と、 ダンカ の モノ が ソウダン して、 どこ か テキトウ な ところ へ ヨメ に やって くれます。 むろん ヒヨウ は ボウサン の フトコロ から でる の では ありません。 そんな ワケ で シンシュウデラ は たいてい ユウフク でした。
 K の うまれた イエ も ソウオウ に くらして いた の です。 しかし ジナン を トウキョウ へ シュギョウ に だす ほど の ヨリョク が あった か どう か しりません。 また シュギョウ に でられる ベンギ が ある ので、 ヨウシ の ソウダン が まとまった もの か どう か、 そこ も ワタクシ には わかりません。 とにかく K は イシャ の ウチ へ ヨウシ に いった の です。 それ は ワタクシタチ が まだ チュウガク に いる とき の こと でした。 ワタクシ は キョウジョウ で センセイ が メイボ を よぶ とき に、 K の セイ が キュウ に かわって いた ので おどろいた の を イマ でも キオク して います。
 K の ヨウシサキ も かなり な ザイサンカ でした。 K は そこ から ガクシ を もらって トウキョウ へ でて きた の です。 でて きた の は ワタクシ と イッショ で なかった けれども、 トウキョウ へ ついて から は、 すぐ おなじ ゲシュク に はいりました。 その ジブン は ヒトツヘヤ に よく フタリ も 3 ニン も ツクエ を ならべて ネオキ した もの です。 K と ワタクシ も フタリ で おなじ マ に いました。 ヤマ で いけどられた ドウブツ が、 オリ の ナカ で だきあいながら、 ソト を にらめる よう な もの でしたろう。 フタリ は トウキョウ と トウキョウ の ヒト を おそれました。 それでいて 6 ジョウ の マ の ナカ では、 テンカ を ヘイゲイ する よう な こと を いって いた の です。
 しかし ワレワレ は マジメ でした。 ワレワレ は じっさい えらく なる つもり で いた の です。 ことに K は つよかった の です。 テラ に うまれた カレ は、 つねに ショウジン と いう コトバ を つかいました。 そうして カレ の コウイ ドウサ は ことごとく この ショウジン の イチゴ で ケイヨウ される よう に、 ワタクシ には みえた の です。 ワタクシ は ココロ の ウチ で つねに K を イケイ して いました。
 K は チュウガク に いた コロ から、 シュウキョウ とか テツガク とか いう むずかしい モンダイ で、 ワタクシ を こまらせました。 これ は カレ の チチ の カンカ なの か、 または ジブン の うまれた イエ、 すなわち テラ と いう イッシュ トクベツ な タテモノ に ぞくする クウキ の エイキョウ なの か、 わかりません。 ともかくも カレ は フツウ の ボウサン より は はるか に ボウサン-らしい セイカク を もって いた よう に みうけられます。 がんらい K の ヨウカ では カレ を イシャ に する つもり で トウキョウ へ だした の です。 しかるに ガンコ な カレ は イシャ には ならない ケッシン を もって、 トウキョウ へ でて きた の です。 ワタクシ は カレ に むかって、 それ では ヨウフボ を あざむく と おなじ こと では ない か と なじりました。 ダイタン な カレ は そう だ と こたえる の です。 ミチ の ため なら、 その くらい の こと を して も かまわない と いう の です。 その とき カレ の もちいた ミチ と いう コトバ は、 おそらく カレ にも よく わかって いなかった でしょう。 ワタクシ は むろん わかった とは いえません。 しかし トシ の わかい ワタクシタチ には、 この ばくぜん と した コトバ が たっとく ひびいた の です。 よし わからない に して も けだかい ココロモチ に シハイ されて、 そちら の ほう へ うごいて ゆこう と する イキグミ に いやしい ところ の みえる はず は ありません。 ワタクシ は K の セツ に サンセイ しました。 ワタクシ の ドウイ が K に とって どの くらい ユウリョク で あった か、 それ は ワタクシ も しりません。 イチズ な カレ は、 たとい ワタクシ が いくら ハンタイ しよう とも、 やはり ジブン の オモイドオリ を つらぬいた に ちがいなかろう とは さっせられます。 しかし マンイチ の バアイ、 サンセイ の セイエン を あたえた ワタクシ に、 タショウ の セキニン が できて くる ぐらい の こと は、 コドモ ながら ワタクシ は よく ショウチ して いた つもり です。 よし その とき に それ だけ の カクゴ が ない に して も、 セイジン した メ で、 カコ を ふりかえる ヒツヨウ が おこった バアイ には、 ワタクシ に わりあてられた だけ の セキニン は、 ワタクシ の ほう で おびる の が シトウ に なる くらい な ゴキ で ワタクシ は サンセイ した の です。

 20

 K と ワタクシ は おなじ カ へ ニュウガク しました。 K は すました カオ を して、 ヨウカ から おくって くれる カネ で、 ジブン の すき な ミチ を あるきだした の です。 しれ は しない と いう アンシン と、 しれたって かまう もの か と いう ドキョウ と が、 フタツ ながら K の ココロ に あった もの と みる より ほか シカタ が ありません。 K は ワタクシ より も ヘイキ でした。
 サイショ の ナツヤスミ に K は クニ へ かえりません でした。 コマゴメ の ある テラ の ヒトマ を かりて ベンキョウ する の だ と いって いました。 ワタクシ が かえって きた の は 9 ガツ ジョウジュン でした が、 カレ は はたして オオガンノン の ソバ の きたない テラ の ナカ に とじこもって いました。 カレ の ザシキ は ホンドウ の すぐ ソバ の せまい ヘヤ でした が、 カレ は そこ で ジブン の おもう とおり に ベンキョウ が できた の を よろこんで いる らしく みえました。 ワタクシ は その とき カレ の セイカツ の だんだん ボウサン-らしく なって ゆく の を みとめた よう に おもいます。 カレ は テクビ に ジュズ を かけて いました。 ワタクシ が それ は なんの ため だ と たずねたら、 カレ は オヤユビ で ヒトツ フタツ と カンジョウ する マネ を して みせました。 カレ は こうして ヒ に ナンベン も ジュズ の ワ を カンジョウ する らしかった の です。 ただし その イミ は ワタクシ には わかりません。 まるい ワ に なって いる もの を ヒトツブ ずつ かぞえて ゆけば、 どこ まで かぞえて いって も シュウキョク は ありません。 K は どんな ところ で どんな ココロモチ が して、 つまぐる テ を とめた でしょう。 つまらない こと です が、 ワタクシ は よく それ を おもう の です。
 ワタクシ は また カレ の ヘヤ に セイショ を みました。 ワタクシ は それまで に オキョウ の ナ を たびたび カレ の クチ から きいた オボエ が あります が、 キリスト-キョウ に ついて は、 とわれた こと も こたえられた ためし も なかった の です から、 ちょっと おどろきました。 ワタクシ は その ワケ を たずねず には いられません でした。 K は ワケ は ない と いいました。 これほど ヒト の ありがたがる ショモツ なら よんで みる の が アタリマエ だろう とも いいました。 そのうえ カレ は キカイ が あったら、 コーラン も よんで みる つもり だ と いいました。 カレ は モハメッド と ケン と いう コトバ に おおいなる キョウミ を もって いる よう でした。
 2 ネン-メ の ナツ に カレ は クニ から サイソク を うけて ようやく かえりました。 かえって も センモン の こと は なんにも いわなかった もの と みえます。 ウチ でも また そこ に キ が つかなかった の です。 アナタ は ガッコウ キョウイク を うけた ヒト だ から、 こういう ショウソク を よく かいして いる でしょう が、 セケン は ガクセイ の セイカツ だの、 ガッコウ の キソク だの に かんして、 おどろく べく ムチ な もの です。 ワレワレ に なんでも ない こと が いっこう ガイブ へは つうじて いません。 ワレワレ は また ヒカクテキ ナイブ の クウキ ばかり すって いる ので、 コウナイ の こと は サイダイ ともに ヨノナカ に しれわたって いる はず だ と おもいすぎる クセ が あります。 K は その テン に かけて、 ワタクシ より セケン を しって いた の でしょう、 すました カオ で また もどって きました。 クニ を たつ とき は ワタクシ も イッショ でした から、 キシャ へ のる や いなや すぐ どう だった と K に といました。 K は どうでも なかった と こたえた の です。
 3 ド-メ の ナツ は ちょうど ワタクシ が エイキュウ に フボ の フンボ の チ を さろう と ケッシン した トシ です。 ワタクシ は その とき K に キコク を すすめました が、 K は おうじません でした。 そう マイトシ ウチ へ かえって ナニ を する の だ と いう の です。 カレ は また ふみとどまって ベンキョウ する つもり らしかった の です。 ワタクシ は しかたなし に ヒトリ で トウキョウ を たつ こと に しました。 ワタクシ の キョウリ で くらした その 2 カゲツ-カン が、 ワタクシ の ウンメイ に とって、 いかに ハラン に とんだ もの か は、 マエ に かいた とおり です から くりかえしません。 ワタクシ は フヘイ と ユウウツ と コドク の サビシサ と を ヒトツムネ に いだいて、 9 ガツ に いって また K に あいました。 すると カレ の ウンメイ も また ワタクシ と ドウヨウ に ヘンチョウ を しめして いました。 カレ は ワタクシ の しらない うち に、 ヨウカサキ へ テガミ を だして、 こっち から ジブン の イツワリ を ハクジョウ して しまった の です。 カレ は サイショ から その カクゴ で いた の だ そう です。 いまさら シカタ が ない から、 オマエ の すき な もの を やる より ホカ に ミチ は あるまい と、 ムコウ に いわせる つもり も あった の でしょう か。 とにかく ダイガク へ はいって まで も ヨウフボ を あざむきとおす キ は なかった らしい の です。 また あざむこう と して も、 そう ながく つづく もの では ない と みぬいた の かも しれません。

 21

 K の テガミ を みた ヨウフ は たいへん おこりました。 オヤ を だます よう な フラチ な モノ に ガクシ を おくる こと は できない と いう きびしい ヘンジ を すぐ よこした の です。 K は それ を ワタクシ に みせました。 K は また それ と ゼンゴ して ジッカ から うけとった ショカン も みせました。 これ にも マエ に おとらない ほど きびしい キッセキ の コトバ が ありました。 ヨウカサキ へ たいして すまない と いう ギリ が くわわって いる から でも ありましょう が、 こっち でも いっさい かまわない と かいて ありました。 K が この ジケン の ため に フクセキ して しまう か、 それとも タ に ダキョウ の ミチ を こうじて、 いぜん ヨウカ に とどまる か、 そこ は これから おこる モンダイ と して、 さしあたり どうか しなければ ならない の は、 ツキヅキ に ヒツヨウ な ガクシ でした。
 ワタクシ は その テン に ついて K に ナニ か カンガエ が ある の か と たずねました。 K は ヤガッコウ の キョウシ でも する つもり だ と こたえました。 その ジブン は イマ に くらべる と、 ぞんがい ヨノナカ が くつろいで いました から、 ナイショク の クチ は アナタ が かんがえる ほど フッテイ でも なかった の です。 ワタクシ は K が それ で じゅうぶん やって ゆける だろう と かんがえました。 しかし ワタクシ には ワタクシ の セキニン が あります。 K が ヨウカ の キボウ に そむいて、 ジブン の ゆきたい ミチ を いこう と した とき、 サンセイ した モノ は ワタクシ です。 ワタクシ は そう か と いって テ を こまぬいで いる わけ に ゆきません。 ワタクシ は その バ で ブッシツテキ の ホジョ を すぐ もうしだしました。 すると K は イチ も ニ も なく それ を はねつけました。 カレ の セイカク から いって、 ジカツ の ほう が トモダチ の ホゴ の モト に たつ より はるか に こころよく おもわれた の でしょう。 カレ は ダイガク へ はいった イジョウ、 ジブン ヒトリ ぐらい どうか できなければ オトコ で ない よう な こと を いいました。 ワタクシ は ワタクシ の セキニン を まっとうする ため に、 K の カンジョウ を きずつける に しのびません でした。 それで カレ の おもう とおり に させて、 ワタクシ は テ を ひきました。
 K は ジブン の のぞむ よう な クチ を ほどなく さがしだしました。 しかし ジカン を おしむ カレ に とって、 この シゴト が どの くらい つらかった か は ソウゾウ する まで も ない こと です。 カレ は イマ まで-どおり ベンキョウ の テ を ちっとも ゆるめず に、 あたらしい ニ を しょって モウシン した の です。 ワタクシ は カレ の ケンコウ を きづかいました。 しかし ゴウキ な カレ は わらう だけ で、 すこしも ワタクシ の チュウイ に とりあいません でした。
 ドウジ に カレ と ヨウカ との カンケイ は、 だんだん こんがらがって きました。 ジカン に ヨユウ の なくなった カレ は、 マエ の よう に ワタクシ と はなす キカイ を うばわれた ので、 ワタクシ は ついに その テンマツ を くわしく きかず に しまいました が、 カイケツ の ますます コンナン に なって ゆく こと だけ は ショウチ して いました。 ヒト が ナカ に はいって チョウテイ を こころみた こと も しって いました。 その ヒト は テガミ で K に キコク を うながした の です が、 K は とうてい ダメ だ と いって、 おうじません でした。 この ゴウジョウ な ところ が、 ――K は ガクネンチュウ で かえれない の だ から シカタ が ない と いいました けれども、 ムコウ から みれば ゴウジョウ でしょう。 そこ が ジタイ を ますます ケンアク に した よう にも みえました。 カレ は ヨウカ の カンジョウ を がいする と ともに、 ジッカ の イカリ も かう よう に なりました。 ワタクシ が シンパイ して ソウホウ を ユウワ する ため に テガミ を かいた とき は、 もう なんの キキメ も ありません でした。 ワタクシ の テガミ は ヒトコト の ヘンジ さえ うけず に ほうむられて しまった の です。 ワタクシ も ハラ が たちました。 イマ まで も ユキガカリジョウ、 K に ドウジョウ して いた ワタクシ は、 それ イゴ は リヒ を ドガイ に おいて も K の ミカタ を する キ に なりました。
 サイゴ に K は とうとう フクセキ に けっしました。 ヨウカ から だして もらった ガクシ は、 ジッカ で ベンショウ する こと に なった の です。 そのかわり ジッカ の ほう でも かまわない から、 これから は カッテ に しろ と いう の です。 ムカシ の コトバ で いえば、 まあ カンドウ なの でしょう。 あるいは それほど つよい もの で なかった かも しれません が、 トウニン は そう カイシャク して いました。 K は ハハ の ない オトコ でした。 カレ の セイカク の イチメン は、 たしか に ケイボ に そだてられた ケッカ とも みる こと が できる よう です。 もし カレ の じつの ハハ が いきて いたら、 あるいは カレ と ジッカ との カンケイ に、 こう まで ヘダタリ が できず に すんだ かも しれない と ワタクシ は おもう の です。 カレ の チチ は いう まで も なく ソウリョ でした。 けれども ギリ-がたい テン に おいて、 むしろ サムライ に にた ところ が あり は しない か と うたがわれます。

 22

 K の ジケン が イチダンラク ついた アト で、 ワタクシ は カレ の アネ の オット から ながい フウショ を うけとりました。 K の ヨウシ に いった サキ は、 この ヒト の シンルイ に あたる の です から、 カレ を シュウセン した とき にも、 カレ を フクセキ させた とき にも、 この ヒト の イケン が オモキ を なして いた の だ と、 K は ワタクシ に はなして きかせました。
 テガミ には ソノゴ K が どうして いる か しらせて くれ と かいて ありました。 アネ が シンパイ して いる から、 なるべく はやく ヘンジ を もらいたい と いう イライ も つけくわえて ありました。 K は テラ を ついだ アニ より も、 タケ へ えんづいた この アネ を すいて いました。 カレラ は ミンナ ヒトツハラ から うまれた キョウダイ です けれども、 この アネ と K の アイダ には だいぶ トシ の サ が あった の です。 それで K の コドモ の ジブン には、 ママハハ より も この アネ の ほう が、 かえって ホントウ の ハハ-らしく みえた の でしょう。
 ワタクシ は K に テガミ を みせました。 K は なんとも いいません でした けれども、 ジブン の ところ へ この アネ から おなじ よう な イミ の ショジョウ が 2~3 ド きた と いう こと を うちあけました。 K は その たび に シンパイ する に およばない と こたえて やった の だ そう です。 ウン わるく この アネ は セイカツ に ヨユウ の ない イエ に かたづいた ため に、 いくら K に ドウジョウ が あって も、 ブッシツテキ に オトウト を どうして やる わけ にも ゆかなかった の です。
 ワタクシ は K と おなじ よう な ヘンジ を カレ の ギケイ-アテ で だしました。 その ウチ に、 マンイチ の バアイ には ワタクシ が どうでも する から、 アンシン する よう に と いう イミ を つよい コトバ で かきあらわしました。 これ は もとより ワタクシ の イチゾン でした。 K の ユクサキ を シンパイ する この アネ に アンシン を あたえよう と いう コウイ は むろん ふくまれて いました が、 ワタクシ を ケイベツ した と より ホカ に トリヨウ の ない カレ の ジッカ や ヨウカ に たいする イジ も あった の です。
 K の フクセキ した の は 1 ネンセイ の とき でした。 それから 2 ネンセイ の ナカゴロ に なる まで、 ヤク 1 ネン ハン の アイダ、 カレ は ドクリョク で オノレ を ささえて いった の です。 ところが この カド の ロウリョク が しだいに カレ の ケンコウ と セイシン の ウエ に エイキョウ して きた よう に みえだしました。 それ には むろん ヨウカ を でる でない の うるさい モンダイ も てつだって いた でしょう。 カレ は だんだん センチメンタル に なって きた の です。 トキ に よる と、 ジブン だけ が ヨノナカ の フコウ を ヒトリ で しょって たって いる よう な こと を いいます。 そうして それ を うちけせば すぐ げきする の です。 それから ジブン の ミライ に よこたわる コウミョウ が、 しだいに カレ の メ を とおのいて ゆく よう にも おもって、 いらいら する の です。 ガクモン を やりはじめた とき には、 ダレ しも イダイ な ホウフ を もって、 あたらしい タビ に のぼる の が ツネ です が、 1 ネン と たち 2 ネン と すぎ、 もう ソツギョウ も マヂカ に なる と、 キュウ に ジブン の アシ の ハコビ の のろい の に キ が ついて、 カハン は そこ で シツボウ する の が アタリマエ に なって います から、 K の バアイ も おなじ なの です が、 カレ の アセリカタ は また フツウ に くらべる と はるか に はなはだしかった の です。 ワタクシ は ついに カレ の キブン を おちつける の が センイチ だ と かんがえました。
 ワタクシ は カレ に むかって、 ヨケイ な シゴト を する の は よせ と いいました。 そうして とうぶん カラダ を ラク に して、 あそぶ ほう が おおきな ショウライ の ため に トクサク だ と チュウコク しました。 ゴウジョウ な K の こと です から、 ヨウイ に ワタクシ の いう こと など は きくまい と、 かねて ヨキ して いた の です が、 じっさい いいだして みる と、 おもった より も ときおとす の に ホネ が おれた ので よわりました。 K は ただ ガクモン が ジブン の モクテキ では ない と シュチョウ する の です。 イシ の チカラ を やしなって つよい ヒト に なる の が ジブン の カンガエ だ と いう の です。 それ には なるべく キュウクツ な キョウグウ に いなくて は ならない と ケツロン する の です。 フツウ の ヒト から みれば、 まるで スイキョウ です。 そのうえ キュウクツ な キョウグウ に いる カレ の イシ は、 ちっとも つよく なって いない の です。 カレ は むしろ シンケイ スイジャク に かかって いる くらい なの です。 ワタクシ は シカタ が ない から、 カレ に むかって しごく ドウカン で ある よう な ヨウス を みせました。 ジブン も そういう テン に むかって、 ジンセイ を すすむ つもり だった と ついには メイゲン しました。 (もっとも これ は ワタクシ に とって まんざら クウキョ な コトバ でも なかった の です。 K の セツ を きいて いる と、 だんだん そういう ところ に つりこまれて くる くらい、 カレ には チカラ が あった の です から)。 サイゴ に ワタクシ は K と イッショ に すんで、 イッショ に コウジョウ の ミチ を たどって ゆきたい と ホツギ しました。 ワタクシ は カレ の ゴウジョウ を おりまげる ため に、 カレ の マエ に ひざまずく こと を あえて した の です。 そうして やっと の こと で カレ を ワタクシ の イエ に つれて きました。

 23

 ワタクシ の ザシキ には ヒカエ の マ と いう よう な 4 ジョウ が フゾク して いました。 ゲンカン を あがって ワタクシ の いる ところ へ とおろう と する には、 ぜひ この 4 ジョウ を よこぎらなければ ならない の だ から、 ジツヨウ の テン から みる と、 しごく フベン な ヘヤ でした。 ワタクシ は ここ へ K を いれた の です。 もっとも サイショ は おなじ 8 ジョウ に フタツ ツクエ を ならべて、 ツギノマ を キョウユウ に して おく カンガエ だった の です が、 K は せまくるしくって も ヒトリ で いる ほう が いい と いって、 ジブン で そっち の ほう を えらんだ の です。
 マエ にも はなした とおり、 オクサン は ワタクシ の この ショチ に たいして ハジメ は フサンセイ だった の です。 ゲシュクヤ ならば、 ヒトリ より フタリ が ベンリ だし、 フタリ より 3 ニン が トク に なる けれども、 ショウバイ で ない の だ から、 なるべく なら よした ほう が いい と いう の です。 ワタクシ が けっして セワ の やける ヒト で ない から かまうまい と いう と、 セワ は やけない でも、 キゴコロ の しれない ヒト は いや だ と こたえる の です。 それでは イマ ヤッカイ に なって いる ワタクシ だって おなじ こと では ない か と なじる と、 ワタクシ の キゴコロ は ハジメ から よく わかって いる と ベンカイ して やまない の です。 ワタクシ は クショウ しました。 すると オクサン は また リクツ の ホウコウ を かえます。 そんな ヒト を つれて くる の は、 ワタクシ の ため に わるい から よせ と いいなおします。 なぜ ワタクシ の ため に わるい か と きく と、 コンド は ムコウ で クショウ する の です。
 ジツ を いう と ワタクシ だって しいて K と イッショ に いる ヒツヨウ は なかった の です。 けれども ツキヅキ の ヒヨウ を カネ の カタチ で カレ の マエ に ならべて みせる と、 カレ は きっと それ を うけとる とき に チュウチョ する だろう と おもった の です。 カレ は それほど ドクリツシン の つよい オトコ でした。 だから ワタクシ は カレ を ワタクシ の ウチ へ おいて、 フタリ-マエ の ショクリョウ を カレ の しらない マ に そっと オクサン の テ に わたそう と した の です。 しかし ワタクシ は K の ケイザイ モンダイ に ついて、 イチゴン も オクサン に うちあける キ は ありません でした。
 ワタクシ は ただ K の ケンコウ に ついて ウンヌン しました。 ヒトリ で おく と ますます ニンゲン が ヘンクツ に なる ばかり だ から と いいました。 それ に つけたして、 K が ヨウカ と オリアイ の わるかった こと や、 ジッカ と はなれて しまった こと や、 いろいろ はなして きかせました。 ワタクシ は おぼれかかった ヒト を だいて、 ジブン の ネツ を ムコウ に うつして やる カクゴ で、 K を ひきとる の だ と つげました。 その つもり で あたたかい メンドウ を みて やって くれ と、 オクサン にも オジョウサン にも たのみました。 ワタクシ は ここ まで きて ようよう オクサン を ときふせた の です。 しかし ワタクシ から なんにも きかない K は、 この テンマツ を まるで しらず に いました。 ワタクシ も かえって それ を マンゾク に おもって、 のっそり ひきうつって きた K を、 しらん カオ で むかえました。
 オクサン と オジョウサン は、 シンセツ に カレ の ニモツ を かたづける セワ や ナニ か を して くれました。 すべて それ を ワタクシ に たいする コウイ から きた の だ と カイシャク した ワタクシ は、 ココロ の ウチ で よろこびました。 ――K が あいかわらず むっちり した ヨウス を して いる にも かかわらず。
 ワタクシ が K に むかって あたらしい スマイ の ココロモチ は どう だ と きいた とき に、 カレ は ただ イチゲン わるく ない と いった だけ でした。 ワタクシ から いわせれば わるく ない どころ では ない の です。 カレ の イマ まで いた ところ は キタムキ の しめっぽい ニオイ の する きたない ヘヤ でした。 クイモノ も ヘヤ ソウオウ に ソマツ でした。 ワタクシ の イエ へ ひきうつった カレ は、 ユウコク から キョウボク に うつった オモムキ が あった くらい です。 それ を さほど に おもう ケシキ を みせない の は、 ヒトツ は カレ の ゴウジョウ から きて いる の です が、 ヒトツ は カレ の シュチョウ から も でて いる の です。 ブッキョウ の キョウギ で やしなわれた カレ は、 イショクジュウ に ついて とかく の ゼイタク を いう の を あたかも フドウトク の よう に かんがえて いました。 なまじい ムカシ の コウソウ だ とか セーント だ とか の デン を よんだ カレ には、 ややともすると セイシン と ニクタイ と を きりはなしたがる クセ が ありました。 ニク を ベンタツ すれば レイ の コウキ が ます よう に かんずる バアイ さえ あった の かも しれません。
 ワタクシ は なるべく カレ に さからわない ホウシン を とりました。 ワタクシ は コオリ を ヒナタ へ だして とかす クフウ を した の です。 いまに とけて あたたかい ミズ に なれば、 ジブン で ジブン に キ が つく ジキ が くる に ちがいない と おもった の です。

 24

 ワタクシ は オクサン から そういう ふう に とりあつかわれた ケッカ、 だんだん カイカツ に なって きた の です。 それ を ジカク して いた から、 おなじ もの を コンド は K の ウエ に オウヨウ しよう と こころみた の です。 K と ワタクシ と が セイカク の ウエ に おいて、 だいぶ ソウイ の ある こと は、 ながく つきあって きた ワタクシ に よく わかって いました けれども、 ワタクシ の シンケイ が この カテイ に はいって から たしょう カド が とれた ごとく、 K の ココロ も ここ に おけば いつか しずまる こと が ある だろう と かんがえた の です。
 K は ワタクシ より つよい ケッシン を ゆうして いる オトコ でした。 ベンキョウ も ワタクシ の バイ ぐらい は した でしょう。 そのうえ もって うまれた アタマ の タチ が ワタクシ より も ずっと よかった の です。 アト では センモン が ちがいました から なんとも いえません が、 おなじ キュウ に いる アイダ は、 チュウガク でも コウトウ ガッコウ でも、 K の ほう が つねに ジョウセキ を しめて いました。 ワタクシ には ヘイゼイ から ナニ を して も K に およばない と いう ジカク が あった くらい です。 けれども ワタクシ が しいて K を ワタクシ の ウチ へ ひっぱって きた とき には、 ワタクシ の ほう が よく ジリ を わきまえて いる と しんじて いました。 ワタクシ に いわせる と、 カレ は ガマン と ニンタイ の クベツ を リョウカイ して いない よう に おもわれた の です。 これ は とくに アナタ の ため に つけたして おきたい の です から きいて ください。 ニクタイ なり セイシン なり すべて ワレワレ の ノウリョク は、 ガイブ の シゲキ で、 ハッタツ も する し、 ハカイ され も する でしょう が、 どっち に して も シゲキ を だんだん に つよく する ヒツヨウ の ある の は むろん です から、 よく かんがえない と、 ヒジョウ に ケンアク な ホウコウ へ むいて すすんで ゆきながら、 ジブン は もちろん ハタ の モノ も キ が つかず に いる オソレ が しょうじて きます。 イシャ の セツメイ を きく と、 ニンゲン の イブクロ ほど オウチャク な もの は ない そう です。 カユ ばかり くって いる と、 それ イジョウ の かたい もの を こなす チカラ が いつのまにか なくなって しまう の だ そう です。 だから なんでも くう ケイコ を して おけ と イシャ は いう の です。 けれども これ は ただ なれる と いう イミ では なかろう と おもいます。 しだいに シゲキ を ます に したがって、 しだいに エイヨウ キノウ の テイコウリョク が つよく なる と いう イミ で なくて は なりますまい。 もし ハンタイ に イ の チカラ の ほう が じりじり よわって いった なら ケッカ は どう なる だろう と ソウゾウ して みれば すぐ わかる こと です。 K は ワタクシ より イダイ な オトコ でした けれども、 まったく ここ に キ が ついて いなかった の です。 ただ コンナン に なれて しまえば、 シマイ に その コンナン は なんでも なくなる もの だ と きめて いた らしい の です。 カンク を くりかえせば、 くりかえす と いう だけ の クドク で、 その カンク が キ に かからなく なる ジキ に めぐりあえる もの と しんじきって いた らしい の です。
 ワタクシ は K を とく とき に、 ぜひ そこ を あきらか に して やりたかった の です。 しかし いえば きっと ハンコウ される に きまって いました。 また ムカシ の ヒト の レイ など を、 ヒキアイ に もって くる に ちがいない と おもいました。 そう なれば ワタクシ だって、 その ヒトタチ と K と ちがって いる テン を メイハク に のべなければ ならなく なります。 それ を うけがって くれる よう な K なら いい の です けれども、 カレ の セイシツ と して、 ギロン が そこ まで ゆく と ヨウイ に アト へは かえりません。 なお サキ へ でます。 そうして、 クチ で サキ へ でた とおり を、 コウイ で ジツゲン し に かかります。 カレ は こう なる と おそる べき オトコ でした。 イダイ でした。 ジブン で ジブン を ハカイ しつつ すすみます。 ケッカ から みれば、 カレ は ただ ジコ の セイコウ を うちくだく イミ に おいて、 イダイ なの に すぎない の です けれども、 それでも けっして ヘイボン では ありません でした。 カレ の キショウ を よく しった ワタクシ は ついに なんとも いう こと が できなかった の です。 そのうえ ワタクシ から みる と、 カレ は マエ にも のべた とおり、 たしょう シンケイ スイジャク に かかって いた よう に おもわれた の です。 よし ワタクシ が カレ を ときふせた ところ で、 カレ は かならず げきする に ちがいない の です。 ワタクシ は カレ と ケンカ を する こと は おそれて は いません でした けれども、 ワタクシ が コドク の カン に たえなかった ジブン の キョウグウ を かえりみる と、 シンユウ の カレ を、 おなじ コドク の キョウグウ に おく の は、 ワタクシ に とって しのびない こと でした。 イッポ すすんで、 より コドク な キョウグウ に つきおとす の は なお いや でした。 それで ワタクシ は カレ が ウチ へ ひきうつって から も、 トウブン の アイダ は ヒヒョウ-がましい ヒヒョウ を カレ の ウエ に くわえず に いました。 ただ おだやか に シュウイ の カレ に およぼす ケッカ を みる こと に した の です。

ココロ 「センセイ と イショ 4」

2015-05-06 | ナツメ ソウセキ
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 ワタクシ は カゲ へ まわって、 オクサン と オジョウサン に、 なるべく K と ハナシ を する よう に たのみました。 ワタクシ は カレ の これまで とおって きた ムゴン セイカツ が カレ に たたって いる の だろう と しんじた から です。 つかわない テツ が くさる よう に、 カレ の ココロ には サビ が でて いた と しか、 ワタクシ には おもわれなかった の です。
 オクサン は トリツキハ の ない ヒト だ と いって わらって いました。 オジョウサン は また わざわざ その レイ を あげて ワタクシ に セツメイ して きかせる の です。 ヒバチ に ヒ が ある か と たずねる と、 K は ない と こたえる そう です。 では もって きよう と いう と、 いらない と ことわる そう です。 さむく は ない か と きく と、 さむい けれども いらない ん だ と いった ぎり オウタイ を しない の だ そう です。 ワタクシ は ただ クショウ して いる わけ にも ゆきません。 キノドク だ から、 なんとか いって その バ を とりつくろって おかなければ すまなく なります。 もっとも それ は ハル の こと です から、 しいて ヒ に あたる ヒツヨウ も なかった の です が、 これ では トリツキハ が ない と いわれる の も ムリ は ない と おもいました。
 それで ワタクシ は なるべく、 ジブン が チュウシン に なって、 オンナ フタリ と K との レンラク を はかる よう に つとめました。 K と ワタクシ が はなして いる ところ へ ウチ の ヒト を よぶ とか、 または ウチ の ヒト と ワタクシ が ヒトツヘヤ に おちあった ところ へ、 K を ひっぱりだす とか、 どっち でも その バアイ に おうじた ホウホウ を とって、 カレラ を セッキン させよう と した の です。 もちろん K は それ を あまり このみません でした。 ある とき は ふいと たって ヘヤ の ソト へ でました。 また ある とき は いくら よんで も なかなか でて きません でした。 K は あんな ムダバナシ を して どこ が おもしろい と いう の です。 ワタクシ は ただ わらって いました。 しかし ココロ の ウチ では、 K が その ため に ワタクシ を ケイベツ して いる こと が よく わかりました。
 ワタクシ は ある イミ から みて じっさい カレ の ケイベツ に あたいして いた かも しれません。 カレ の メ の ツケドコロ は ワタクシ より はるか に たかい ところ に あった とも いわれる でしょう。 ワタクシ も それ を いなみ は しません。 しかし メ だけ たかくって、 ホカ が つりあわない の は テ も なく カタワ です。 ワタクシ は ナニ を おいて も、 この サイ カレ を ニンゲン-らしく する の が センイチ だ と かんがえた の です。 いくら カレ の アタマ が えらい ヒト の イメジ で うずまって いて も、 カレ ジシン が えらく なって ゆかない イジョウ は、 なんの ヤク にも たたない と いう こと を ハッケン した の です。 ワタクシ は カレ を ニンゲン-らしく する ダイイチ の シュダン と して、 まず イセイ の ソバ に カレ を すわらせる ホウホウ を こうじた の です。 そうして そこ から でる クウキ に カレ を さらした うえ、 さびつきかかった カレ の ケツエキ を あたらしく しよう と こころみた の です。
 この ココロミ は しだいに セイコウ しました。 ハジメ の うち ユウゴウ しにくい よう に みえた もの が、 だんだん ヒトツ に まとまって きだしました。 カレ は ジブン イガイ に セカイ の ある こと を すこし ずつ さとって ゆく よう でした。 カレ は ある ヒ ワタクシ に むかって、 オンナ は そう ケイベツ す べき もの で ない と いう よう な こと を いいました。 K は はじめ オンナ から も、 ワタクシ ドウヨウ の チシキ と ガクモン を ヨウキュウ して いた らしい の です。 そうして それ が みつからない と、 すぐ ケイベツ の ネン を しょうじた もの と おもわれます。 イマ まで の カレ は、 セイ に よって タチバ を かえる こと を しらず に、 おなじ シセン で スベテ の ナンニョ を イチヨウ に カンサツ して いた の です。 ワタクシ は カレ に、 もし ワレラ フタリ だけ が オトコ ドウシ で エイキュウ に ハナシ を コウカン して いる ならば、 フタリ は ただ チョクセンテキ に サキ へ のびて ゆく に すぎない だろう と いいました。 カレ は もっとも だ と こたえました。 ワタクシ は その とき オジョウサン の こと で、 たしょう ムチュウ に なって いる コロ でした から、 しぜん そんな コトバ も つかう よう に なった の でしょう。 しかし リメン の ショウソク は カレ には ヒトクチ も うちあけません でした。
 イマ まで ショモツ で ジョウヘキ を きずいて その ナカ に たてこもって いた よう な K の ココロ が、 だんだん うちとけて くる の を みて いる の は、 ワタクシ に とって ナニ より も ユカイ でした。 ワタクシ は サイショ から そうした モクテキ で コト を やりだした の です から、 ジブン の セイコウ に ともなう キエツ を かんぜず には いられなかった の です。 ワタクシ は ホンニン に いわない カワリ に、 オクサン と オジョウサン に ジブン の おもった とおり を はなしました。 フタリ も マンゾク の ヨウス でした。

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 K と ワタクシ は おなじ カ に おりながら、 センコウ の ガクモン が ちがって いました から、 しぜん でる とき や かえる とき に チソク が ありました。 ワタクシ の ほう が はやければ、 ただ カレ の クウシツ を とおりぬける だけ です が、 おそい と カンタン な アイサツ を して ジブン の ヘヤ へ はいる の を レイ に して いました。 K は イツモ の メ を ショモツ から はなして、 フスマ を あける ワタクシ を ちょっと みます。 そうして きっと イマ かえった の か と いいます。 ワタクシ は なにも こたえない で うなずく こと も あります し、 あるいは ただ 「うん」 と こたえて ゆきすぎる バアイ も ありました。
 ある ヒ ワタクシ は カンダ に ヨウ が あって、 カエリ が イツモ より ずっと おくれました。 ワタクシ は イソギアシ に モンゼン まで きて、 コウシ を がらり と あけました。 それ と ドウジ に、 ワタクシ は オジョウサン の コエ を きいた の です。 コエ は たしか に K の ヘヤ から でた と おもいました。 ゲンカン から マッスグ に ゆけば、 チャノマ、 オジョウサン の ヘヤ と フタツ つづいて いて、 それ を ヒダリ へ おれる と、 K の ヘヤ、 ワタクシ の ヘヤ、 と いう マドリ なの です から、 どこ で ダレ の コエ が した ぐらい は、 ひさしく ヤッカイ に なって いる ワタクシ には よく わかる の です。 ワタクシ は すぐ コウシ を しめました。 すると オジョウサン の コエ も すぐ やみました。 ワタクシ が クツ を ぬいで いる うち、 ――ワタクシ は その ジブン から ハイカラ で テカズ の かかる アミアゲ を はいて いた の です が、 ――ワタクシ が こごんで その クツヒモ を といて いる うち、 K の ヘヤ では ダレ の コエ も しません でした。 ワタクシ は ヘン に おもいました。 コト に よる と、 ワタクシ の カンチガイ かも しれない と かんがえた の です。 しかし ワタクシ が イツモ の とおり K の ヘヤ を ぬけよう と して、 フスマ を あける と、 そこ に フタリ は ちゃんと すわって いました。 K は レイ の とおり イマ かえった か と いいました。 オジョウサン も 「おかえり」 と すわった まま で アイサツ しました。 ワタクシ には キ の せい か その カンタン な アイサツ が すこし かたい よう に きこえました。 どこ か で シゼン を ふみはずして いる よう な チョウシ と して、 ワタクシ の コマク に ひびいた の です。 ワタクシ は オジョウサン に、 オクサン は と たずねました。 ワタクシ の シツモン には なんの イミ も ありません でした。 イエ の ウチ が ヘイジョウ より なんだか ひっそり して いた から きいて みた だけ の こと です。
 オクサン は はたして ルス でした。 ゲジョ も オクサン と イッショ に でた の でした。 だから ウチ に のこって いる の は、 K と オジョウサン だけ だった の です。 ワタクシ は ちょっと クビ を かたむけました。 イマ まで ながい アイダ セワ に なって いた けれども、 オクサン が オジョウサン と ワタクシ だけ を オキザリ に して、 ウチ を あけた ためし は まだ なかった の です から。 ワタクシ は ナニ か キュウヨウ でも できた の か と オジョウサン に ききかえしました。 オジョウサン は ただ わらって いる の です。 ワタクシ は こんな とき に わらう オンナ が きらい でした。 わかい オンナ に キョウツウ な テン だ と いえば それまで かも しれません が、 オジョウサン も くだらない こと に よく わらいたがる オンナ でした。 しかし オジョウサン は ワタクシ の カオイロ を みて、 すぐ フダン の ヒョウジョウ に かえりました。 キュウヨウ では ない が、 ちょっと ヨウ が あって でた の だ と マジメ に こたえました。 ゲシュクニン の ワタクシ には それ イジョウ といつめる ケンリ は ありません。 ワタクシ は チンモク しました。
 ワタクシ が キモノ を あらためて セキ に つく か つかない うち に、 オクサン も ゲジョ も かえって きました。 やがて バンメシ の ショクタク で ミンナ が カオ を あわせる ジコク が きました。 ゲシュク した トウザ は バンジ キャクアツカイ だった ので、 ショクジ の たび に ゲジョ が ゼン を はこんで きて くれた の です が、 それ が いつのまにか くずれて、 メシドキ には ムコウ へ よばれて ゆく シュウカン に なって いた の です。 K が あたらしく ひきうつった とき も、 ワタクシ が シュチョウ して カレ を ワタクシ と おなじ よう に とりあつかわせる こと に きめました。 そのかわり ワタクシ は うすい イタ で つくった アシ の たたみこめる きゃしゃ な ショクタク を オクサン に キフ しました。 イマ では どこ の ウチ でも つかって いる よう です が、 その コロ そんな タク の シュウイ に ならんで メシ を くう カゾク は ほとんど なかった の です。 ワタクシ は わざわざ オチャノミズ の カグヤ へ いって、 ワタクシ の クフウドオリ に それ を つくりあげさせた の です。
 ワタクシ は その タクジョウ で オクサン から その ヒ イツモ の ジコク に サカナヤ が こなかった ので、 ワタクシタチ に くわせる もの を かい に マチ へ いかなければ ならなかった の だ と いう セツメイ を きかされました。 なるほど キャク を おいて いる イジョウ、 それ も もっとも な こと だ と ワタクシ が かんがえた とき、 オジョウサン は ワタクシ の カオ を みて また わらいだしました。 しかし コンド は オクサン に しかられて すぐ やめました。

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 1 シュウカン ばかり して ワタクシ は また K と オジョウサン が イッショ に はなして いる ヘヤ を とおりぬけました。 その とき オジョウサン は ワタクシ の カオ を みる や いなや わらいだしました。 ワタクシ は すぐ ナニ が おかしい の か と きけば よかった の でしょう。 それ を つい だまって ジブン の イマ まで きて しまった の です。 だから K も イツモ の よう に、 イマ かえった か と コエ を かける こと が できなく なりました。 オジョウサン は すぐ ショウジ を あけて チャノマ へ はいった よう でした。
 ユウメシ の とき、 オジョウサン は ワタクシ を ヘン な ヒト だ と いいました。 ワタクシ は その とき も なぜ ヘン なの か きかず に しまいました。 ただ オクサン が にらめる よう な メ を オジョウサン に むける の に キ が ついた だけ でした。
 ワタクシ は ショクゴ K を サンポ に つれだしました。 フタリ は デンズウイン の ウラテ から ショクブツエン の トオリ を ぐるり と まわって また トミザカ の シタ へ でました。 サンポ と して は みじかい ほう では ありません でした が、 その アイダ に はなした こと は きわめて すくなかった の です。 セイシツ から いう と、 K は ワタクシ より も ムクチ な オトコ でした。 ワタクシ も タベン な ほう では なかった の です。 しかし ワタクシ は あるきながら、 できる だけ ハナシ を カレ に しかけて みました。 ワタクシ の モンダイ は おもに フタリ の ゲシュク して いる カゾク に ついて でした。 ワタクシ は オクサン や オジョウサン を カレ が どう みて いる か しりたかった の です。 ところが カレ は ウミ の もの とも ヤマ の もの とも ミワケ の つかない よう な ヘンジ ばかり する の です。 しかも その ヘンジ は ヨウリョウ を えない くせ に、 きわめて カンタン でした。 カレ は フタリ の オンナ に かんして より も、 センコウ の ガッカ の ほう に オオク の チュウイ を はらって いる よう に みえました。 もっとも それ は 2 ガクネン-メ の シケン が メノマエ に せまって いる コロ でした から、 フツウ の ニンゲン の タチバ から みて、 カレ の ほう が ガクセイ-らしい ガクセイ だった の でしょう。 そのうえ カレ は シュエデンボルグ が どう だ とか こう だ とか いって、 ムガク な ワタクシ を おどろかせました。
 ワレワレ が シュビ よく シケン を すましました とき、 フタリ とも もう あと 1 ネン だ と いって オクサン は よろこんで くれました。 そういう オクサン の ユイイツ の ホコリ とも みられる オジョウサン の ソツギョウ も、 まもなく くる ジュン に なって いた の です。 K は ワタクシ に むかって、 オンナ と いう もの は なんにも しらない で ガッコウ を でる の だ と いいました。 K は オジョウサン が ガクモン イガイ に ケイコ して いる ヌイハリ だの コト だの イケバナ だの を、 まるで ガンチュウ に おいて いない よう でした。 ワタクシ は カレ の ウカツ を わらって やりました。 そうして オンナ の カチ は そんな ところ に ある もの で ない と いう ムカシ の ギロン を また カレ の マエ で くりかえしました。 カレ は べつだん ハンバク も しません でした。 そのかわり なるほど と いう ヨウス も みせません でした。 ワタクシ には そこ が ユカイ でした。 カレ の ふん と いった よう な チョウシ が、 いぜん と して オンナ を ケイベツ して いる よう に みえた から です。 オンナ の ダイヒョウシャ と して ワタクシ の しって いる オジョウサン を、 モノ の カズ とも おもって いない らしかった から です。 イマ から カイコ する と、 ワタクシ の K に たいする シット は、 その とき に もう じゅうぶん きざして いた の です。
 ワタクシ は ナツヤスミ に どこ か へ ゆこう か と K に ソウダン しました。 K は ゆきたく ない よう な クチブリ を みせました。 むろん カレ は ジブン の ジユウ イシ で どこ へも ゆける カラダ では ありません が、 ワタクシ が さそい さえ すれば、 また どこ へ いって も さしつかえない カラダ だった の です。 ワタクシ は なぜ ゆきたく ない の か と カレ に たずねて みました。 カレ は リユウ も なんにも ない と いう の です。 ウチ で ショモツ を よんだ ほう が ジブン の カッテ だ と いう の です。 ワタクシ が ヒショチ へ いって すずしい ところ で ベンキョウ した ほう が、 カラダ の ため だ と シュチョウ する と、 それなら ワタクシ ヒトリ いったら よかろう と いう の です。 しかし ワタクシ は K ヒトリ を ここ に のこして ゆく キ には なれない の です。 ワタクシ は ただでさえ K と ウチ の モノ が だんだん したしく なって ゆく の を みて いる の が、 あまり いい ココロモチ では なかった の です。 ワタクシ が サイショ キボウ した とおり に なる の が、 なんで ワタクシ の ココロモチ を わるく する の か と いわれれば それまで です。 ワタクシ は バカ に ちがいない の です。 ハテシ の つかない フタリ の ギロン を みる に みかねて オクサン が ナカ へ はいりました。 フタリ は とうとう イッショ に ボウシュウ へ ゆく こと に なりました。

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 K は あまり タビ へ でない オトコ でした。 ワタクシ にも ボウシュウ は はじめて でした。 フタリ は なんにも しらない で、 フネ が いちばん サキ へ ついた ところ から ジョウリク した の です。 たしか ホタ とか いいました。 イマ では どんな に かわって いる か しりません が、 その コロ は ひどい ギョソン でした。 だいいち どこ も かしこ も なまぐさい の です。 それから ウミ へ はいる と、 ナミ に おしたおされて、 すぐ テ だの アシ だの を すりむく の です。 コブシ の よう な おおきな イシ が うちよせる ナミ に もまれて、 しじゅう ごろごろ して いる の です。
 ワタクシ は すぐ いや に なりました。 しかし K は いい とも わるい とも いいません。 すくなくとも カオツキ だけ は ヘイキ な もの でした。 そのくせ カレ は ウミ へ はいる たんび に どこ か に ケガ を しない こと は なかった の です。 ワタクシ は とうとう カレ を ときふせて、 そこ から トミウラ に ゆきました。 トミウラ から また ナコ に うつりました。 すべて この エンガン は その ジブン から おもに ガクセイ の あつまる ところ でした から、 どこ でも ワレワレ には ちょうど テゴロ の カイスイヨクジョウ だった の です。 K と ワタクシ は よく カイガン の イワ の ウエ に すわって、 とおい ウミ の イロ や、 ちかい ミズ の ソコ を ながめました。 イワ の ウエ から みおろす ミズ は、 また トクベツ に きれい な もの でした。 あかい イロ だの アイ の イロ だの、 ふつう シジョウ に のぼらない よう な イロ を した コウオ が、 すきとおる ナミ の ナカ を あちらこちら と およいで いる の が あざやか に ゆびさされました。
 ワタクシ は そこ に すわって、 よく ショモツ を ひろげました。 K は なにも せず に だまって いる ほう が おおかった の です。 ワタクシ には それ が カンガエ に ふけって いる の か、 ケシキ に みとれて いる の か、 もしくは すき な ソウゾウ を えがいて いる の か、 まったく わからなかった の です。 ワタクシ は ときどき メ を あげて、 K に ナニ を して いる の だ と ききました。 K は なにも して いない と ヒトクチ こたえる だけ でした。 ワタクシ は ジブン の ソバ に こう じっと して すわって いる モノ が、 K で なくって、 オジョウサン だったら さぞ ユカイ だろう と おもう こと が よく ありました。 それ だけ なら まだ いい の です が、 ときには K の ほう でも ワタクシ と おなじ よう な キボウ を いだいて イワ の ウエ に すわって いる の では ない かしら と こつぜん うたがいだす の です。 すると おちついて そこ に ショモツ を ひろげて いる の が キュウ に いや に なります。 ワタクシ は フイ に たちあがります。 そうして エンリョ の ない おおきな コエ を だして どなります。 まとまった シ だの ウタ だの を おもしろそう に ぎんずる よう な てぬるい こと は できない の です。 ただ ヤバンジン の ごとく に わめく の です。 ある とき ワタクシ は とつぜん カレ の エリクビ を ウシロ から ぐいと つかみました。 こうして ウミ の ナカ へ つきおとしたら どう する と いって K に ききました。 K は うごきません でした。 ウシロムキ の まま、 ちょうど いい、 やって くれ と こたえました。 ワタクシ は すぐ クビスジ を おさえた テ を はなしました。
 K の シンケイ スイジャク は この とき もう だいぶ よく なって いた らしい の です。 それ と ハンピレイ に、 ワタクシ の ほう は だんだん カビン に なって きて いた の です。 ワタクシ は ジブン より おちついて いる K を みて、 うらやましがりました。 また にくらしがりました。 カレ は どうしても ワタクシ に とりあう ケシキ を みせなかった から です。 ワタクシ には それ が イッシュ の ジシン の ごとく うつりました。 しかし その ジシン を カレ に みとめた ところ で、 ワタクシ は けっして マンゾク できなかった の です。 ワタクシ の ウタガイ は もう イッポ マエ へ でて、 その セイシツ を あきらめたがりました。 カレ は ガクモン なり ジギョウ なり に ついて、 これから ジブン の すすんで ゆく べき ゼント の コウミョウ を ふたたび とりかえした ココロモチ に なった の だろう か。 たんに それ だけ ならば、 K と ワタクシ との リガイ に なんの ショウトツ の おこる わけ は ない の です。 ワタクシ は かえって セワ の シガイ が あった の を うれしく おもう くらい な もの です。 けれども カレ の アンシン が もし オジョウサン に たいして で ある と すれば、 ワタクシ は けっして カレ を ゆるす こと が できなく なる の です。 フシギ にも カレ は ワタクシ の オジョウサン を あいして いる ソブリ に まったく キ が ついて いない よう に みえました。 むろん ワタクシ も それ が K の メ に つく よう に わざとらしく は ふるまいません でした けれども。 K は がんらい そういう テン に かける と にぶい ヒト なの です。 ワタクシ には サイショ から K なら だいじょうぶ と いう アンシン が あった ので、 カレ を わざわざ ウチ へ つれて きた の です。

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 ワタクシ は おもいきって ジブン の ココロ を K に うちあけよう と しました。 もっとも これ は その とき に はじまった わけ でも なかった の です。 タビ に でない マエ から、 ワタクシ には そうした ハラ が できて いた の です けれども、 うちあける キカイ を つらまえる こと も、 その キカイ を つくりだす こと も、 ワタクシ の テギワ では うまく ゆかなかった の です。 イマ から おもう と、 その コロ ワタクシ の シュウイ に いた ニンゲン は ミンナ ミョウ でした。 オンナ に かんして たちいった ハナシ など を する モノ は ヒトリ も ありません でした。 ナカ には はなす タネ を もたない の も だいぶ いた でしょう が、 たとい もって いて も だまって いる の が フツウ の よう でした。 ヒカクテキ ジユウ な クウキ を コキュウ して いる イマ の アナタガタ から みたら、 さだめし ヘン に おもわれる でしょう。 それ が ドウガク の ヨシュウ なの か、 または イッシュ の ハニカミ なの か、 ハンダン は アナタ の リカイ に まかせて おきます。
 K と ワタクシ は なんでも はなしあえる ナカ でした。 たまに は アイ とか コイ とか いう モンダイ も、 クチ に のぼらない では ありません でした が、 いつでも チュウショウテキ な リロン に おちて しまう だけ でした。 それ も めった には ワダイ に ならなかった の です。 タイテイ は ショモツ の ハナシ と ガクモン の ハナシ と、 ミライ の ジギョウ と、 ホウフ と、 シュウヨウ の ハナシ ぐらい で もちきって いた の です。 いくら したしくって も こう かたく なった ヒ には、 とつぜん チョウシ を くずせる もの では ありません。 フタリ は ただ かたい なり に したしく なる だけ です。 ワタクシ は オジョウサン の こと を K に うちあけよう と おもいたって から、 ナンベン はがゆい フカイ に なやまされた か しれません。 ワタクシ は K の アタマ の どこ か 1 カショ を つきやぶって、 そこ から やわらかい クウキ を ふきこんで やりたい キ が しました。
 アナタガタ から みて ショウシ センバン な こと も その とき の ワタクシ には じっさい ダイコンナン だった の です。 ワタクシ は タビサキ でも ウチ に いた とき と おなじ よう に ヒキョウ でした。 ワタクシ は しじゅう キカイ を とらえる キ で K を カンサツ して いながら、 へんに コウトウテキ な カレ の タイド を どう する こと も できなかった の です。 ワタクシ に いわせる と、 カレ の シンゾウ の シュウイ は くろい ウルシ で あつく ぬりかためられた の も ドウゼン でした。 ワタクシ の そそぎかけよう と する チシオ は、 イッテキ も その シンゾウ の ナカ へは はいらない で、 ことごとく はじきかえされて しまう の です。
 ある とき は あまり に K の ヨウス が つよくて たかい ので、 ワタクシ は かえって アンシン した こと も あります。 そうして ジブン の ウタガイ を ハラ の ナカ で コウカイ する と ともに、 おなじ ハラ の ナカ で、 K に わびました。 わびながら ジブン が ヒジョウ に カトウ な ニンゲン の よう に みえて、 キュウ に いや な ココロモチ に なる の です。 しかし しばらく する と、 イゼン の ウタガイ が また ギャクモドリ を して、 つよく うちかえして きます。 スベテ が ウタガイ から わりだされる の です から、 スベテ が ワタクシ には フリエキ でした。 ヨウボウ も K の ほう が オンナ に すかれる よう に みえました。 セイシツ も ワタクシ の よう に こせこせ して いない ところ が、 イセイ には キ に いる だろう と おもわれました。 どこ か マ が ぬけて いて、 それ で どこ か に しっかり した おとこらしい ところ の ある テン も、 ワタクシ より は ユウセイ に みえました。 ガクリョク に なれば センモン こそ ちがいます が、 ワタクシ は むろん K の テキ で ない と ジカク して いました。 ――すべて ムコウ の いい ところ だけ が こう イチド に メサキ へ ちらつきだす と、 ちょっと アンシン した ワタクシ は すぐ モト の フアン に たちかえる の です。
 K は おちつかない ワタクシ の ヨウス を みて、 いや なら ひとまず トウキョウ へ かえって も いい と いった の です が、 そう いわれる と、 ワタクシ は キュウ に かえりたく なくなりました。 じつは K を トウキョウ へ かえしたく なかった の かも しれません。 フタリ は ボウシュウ の ハナ を まわって ムコウガワ へ でました。 ワレワレ は あつい ヒ に いられながら、 くるしい オモイ を して、 カズサ の そこ イチリ に だまされながら、 うんうん あるきました。 ワタクシ には そうして あるいて いる イミ が まるで わからなかった くらい です。 ワタクシ は ジョウダン ハンブン K に そう いいました。 すると K は アシ が ある から あるく の だ と こたえました。 そうして あつく なる と、 ウミ に はいって いこう と いって、 どこ でも かまわず シオ へ つかりました。 その アト を また つよい ヒ で てりつけられる の です から、 カラダ が だるくて ぐたぐた に なりました。

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 こんな ふう に して あるいて いる と、 アツサ と ヒロウ と で しぜん カラダ の チョウシ が くるって くる もの です。 もっとも ビョウキ とは ちがいます。 キュウ に ヒト の カラダ の ナカ へ、 ジブン の レイコン が ヤドガエ を した よう な キブン に なる の です。 ワタクシ は ヘイゼイ の とおり K と クチ を ききながら、 どこ か で ヘイゼイ の ココロモチ と はなれる よう に なりました。 カレ に たいする シタシミ も ニクシミ も、 リョチュウ カギリ と いう トクベツ な セイシツ を おびる ふう に なった の です。 つまり フタリ は アツサ の ため、 シオ の ため、 また ホコウ の ため、 ザイライ と ことなった あたらしい カンケイ に いる こと が できた の でしょう。 その とき の ワレワレ は あたかも ミチヅレ に なった ギョウショウ の よう な もの でした。 いくら ハナシ を して も イツモ と ちがって、 アタマ を つかう こみいった モンダイ には ふれません でした。
 ワレワレ は この チョウシ で とうとう チョウシ まで いった の です が、 ドウチュウ たった ヒトツ の レイガイ が あった の を いまに わすれる こと が できない の です。 まだ ボウシュウ を はなれない マエ、 フタリ は コミナト と いう ところ で、 タイノウラ を ケンブツ しました。 もう ネンスウ も よほど たって います し、 それに ワタクシ には それほど キョウミ の ない こと です から、 はんぜん とは おぼえて いません が、 なんでも そこ は ニチレン の うまれた ムラ だ とか いう ハナシ でした。 ニチレン の うまれた ヒ に、 タイ が 2 ビ イソ に うちあげられて いた とか いう イイツタエ に なって いる の です。 それ イライ ムラ の リョウシ が タイ を とる こと を エンリョ して イマ に いたった の だ から、 ウラ には タイ が たくさん いる の です。 ワレワレ は コブネ を やとって、 その タイ を わざわざ み に でかけた の です。
 その とき ワタクシ は ただ イチズ に ナミ を みて いました。 そうして その ナミ の ナカ に うごく すこし むらさきがかった タイ の イロ を、 おもしろい ゲンショウ の ヒトツ と して あかず ながめました。 しかし K は ワタクシ ほど それ に キョウミ を もちえなかった もの と みえます。 カレ は タイ より も かえって ニチレン の ほう を アタマ の ナカ で ソウゾウ して いた らしい の です。 ちょうど そこ に タンジョウジ と いう テラ が ありました。 ニチレン の うまれた ムラ だ から タンジョウジ と でも ナ を つけた もの でしょう、 リッパ な ガラン でした。 K は その テラ に いって ジュウジ に あって みる と いいだしました。 ジツ を いう と、 ワレワレ は ずいぶん ヘン な ナリ を して いた の です。 ことに K は カゼ の ため に ボウシ を ウミ に ふきとばされた ケッカ、 スゲガサ を かって かぶって いました。 キモノ は もとより ソウホウ とも あかじみた うえ に アセ で くさく なって いました。 ワタクシ は ボウサン など に あう の は よそう と いいました。 K は ゴウジョウ だ から ききません。 いや なら ワタクシ だけ ソト に まって いろ と いう の です。 ワタクシ は シカタ が ない から イッショ に ゲンカン に かかりました が、 ココロ の ウチ では きっと ことわられる に ちがいない と おもって いました。 ところが ボウサン と いう もの は あんがい テイネイ な もの で、 ひろい リッパ な ザシキ へ ワタクシタチ を とおして、 すぐ あって くれました。 その ジブン の ワタクシ は K と だいぶ カンガエ が ちがって いました から、 ボウサン と K の ダンワ に それほど ミミ を かたむける キ も おこりません でした が、 K は しきり に ニチレン の こと を きいて いた よう です。 ニチレン は ソウ ニチレン と いわれる くらい で、 ソウショ が たいへん ジョウズ で あった と ボウサン が いった とき、 ジ の まずい K は、 ナン だ くだらない と いう カオ を した の を ワタクシ は まだ おぼえて います。 K は そんな こと より も、 もっと ふかい イミ の ニチレン が しりたかった の でしょう。 ボウサン が その テン で K を マンゾク させた か どう か は ギモン です が、 カレ は テラ の ケイダイ を でる と、 しきり に ワタクシ に むかって ニチレン の こと を ウンヌン しだしました。 ワタクシ は あつくて くたびれて、 それ どころ では ありません でした から、 ただ クチ の サキ で イイカゲン な アイサツ を して いました。 それ も メンドウ に なって シマイ には まったく だまって しまった の です。
 たしか その あくる バン の こと だ と おもいます が、 フタリ は ヤド へ ついて メシ を くって、 もう ねよう と いう すこし マエ に なって から、 キュウ に むずかしい モンダイ を ろんじあいだしました。 K は キノウ ジブン の ほう から はなしかけた ニチレン の こと に ついて、 ワタクシ が とりあわなかった の を、 こころよく おもって いなかった の です。 セイシンテキ に コウジョウシン が ない モノ は バカ だ と いって、 なんだか ワタクシ を さも ケイハクモノ の よう に やりこめる の です。 ところが ワタクシ の ムネ には オジョウサン の こと が わだかまって います から、 カレ の ブベツ に ちかい コトバ を ただ わらって うけとる わけ に いきません。 ワタクシ は ワタクシ で ベンカイ を はじめた の です。

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 その とき ワタクシ は しきり に ニンゲン-らしい と いう コトバ を つかいました。 K は この ニンゲン-らしい と いう コトバ の ウチ に、 ワタクシ が ジブン の ジャクテン の スベテ を かくして いる と いう の です。 なるほど アト から かんがえれば、 K の いう とおり でした。 しかし ニンゲン-らしく ない イミ を K に ナットク させる ため に その コトバ を つかいだした ワタクシ には、 シュッタツテン が すでに ハンコウテキ でした から、 それ を ハンセイ する よう な ヨユウ は ありません。 ワタクシ は なお の こと ジセツ を シュチョウ しました。 すると K が カレ の どこ を つらまえて ニンゲン-らしく ない と いう の か と ワタクシ に きく の です。 ワタクシ は カレ に つげました。 ――キミ は ニンゲン-らしい の だ。 あるいは ニンゲン-らしすぎる かも しれない の だ。 けれども クチ の サキ だけ では ニンゲン-らしく ない よう な こと を いう の だ。 また ニンゲン-らしく ない よう に ふるまおう と する の だ。
 ワタクシ が こう いった とき、 カレ は ただ ジブン の シュウヨウ が たりない から、 ヒト には そう みえる かも しれない と こたえた だけ で、 いっこう ワタクシ を ハンバク しよう と しません でした。 ワタクシ は ハリアイ が ぬけた と いう より も、 かえって キノドク に なりました。 ワタクシ は すぐ ギロン を そこ で きりあげました。 カレ の チョウシ も だんだん しずんで きました。 もし ワタクシ が カレ の しって いる とおり ムカシ の ヒト を しる ならば、 そんな コウゲキ は しない だろう と いって ちょうぜん と して いました。 K の クチ に した ムカシ の ヒト とは、 むろん エイユウ でも なければ ゴウケツ でも ない の です。 レイ の ため に ニク を しいたげたり、 ミチ の ため に タイ を むちうったり した いわゆる ナンギョウ クギョウ の ヒト を さす の です。 K は ワタクシ に、 カレ が どの くらい その ため に くるしんで いる か わからない の が、 いかにも ザンネン だ と メイゲン しました。
 K と ワタクシ とは それぎり ねて しまいました。 そうして その あくる ヒ から また フツウ の ギョウショウ の タイド に かえって、 うんうん アセ を ながしながら あるきだした の です。 しかし ワタクシ は みちみち その バン の こと を ひょいひょい と おもいだしました。 ワタクシ には コノウエ も ない いい キカイ が あたえられた のに、 しらない フリ を して なぜ それ を やりすごした の だろう と いう カイコン の ネン が もえた の です。 ワタクシ は ニンゲン-らしい と いう チュウショウテキ な コトバ を もちいる カワリ に、 もっと チョクセツ で カンタン な ハナシ を K に うちあけて しまえば よかった と おもいだした の です。 ジツ を いう と、 ワタクシ が そんな コトバ を ソウゾウ した の も、 オジョウサン に たいする ワタクシ の カンジョウ が ドダイ に なって いた の です から、 ジジツ を ジョウリュウ して こしらえた リロン など を K の ミミ に ふきこむ より も、 モト の カタチ ソノママ を カレ の メノマエ に ロシュツ した ほう が、 ワタクシ には たしか に リエキ だった でしょう。 ワタクシ に それ が できなかった の は、 ガクモン の コウサイ が キチョウ を コウセイ して いる フタリ の シタシミ に、 おのずから イッシュ の ダセイ が あった ため、 おもいきって それ を つきやぶる だけ の ユウキ が ワタクシ に かけて いた の だ と いう こと を ここ に ジハク します。 きどりすぎた と いって も、 キョエイシン が たたった と いって も おなじ でしょう が、 ワタクシ の いう きどる とか キョエイ とか いう イミ は、 フツウ の とは すこし ちがいます。 それ が アナタ に つうじ さえ すれば、 ワタクシ は マンゾク なの です。
 ワレワレ は マックロ に なって トウキョウ へ かえりました。 かえった とき は ワタクシ の キブン が また かわって いました。 ニンゲン-らしい とか、 ニンゲン-らしく ない とか いう コリクツ は ほとんど アタマ の ナカ に のこって いません でした。 K にも シュウキョウカ-らしい ヨウス が まったく みえなく なりました。 おそらく カレ の ココロ の どこ にも レイ が どう の ニク が どう の と いう モンダイ は、 その とき やどって いなかった でしょう。 フタリ は イジンシュ の よう な カオ を して、 いそがしそう に みえる トウキョウ を ぐるぐる ながめました。 それから リョウゴク へ きて、 あつい のに シャモ を くいました。 K は その イキオイ で コイシカワ まで あるいて かえろう と いう の です。 タイリョク から いえば K より も ワタクシ の ほう が つよい の です から、 ワタクシ は すぐ おうじました。
 ウチ へ ついた とき、 オクサン は フタリ の スガタ を みて おどろきました。 フタリ は ただ イロ が くろく なった ばかり で なく、 むやみ に あるいて いた うち に たいへん やせて しまった の です。 オクサン は それでも ジョウブ そう に なった と いって ほめて くれる の です。 オジョウサン は オクサン の ムジュン が おかしい と いって また わらいだしました。 リョコウ マエ ときどき ハラ の たった ワタクシ も、 その とき だけ は ユカイ な ココロモチ が しました。 バアイ が バアイ なの と、 ヒサシブリ に きいた せい でしょう。

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 それ のみ ならず ワタクシ は オジョウサン の タイド の すこし マエ と かわって いる の に キ が つきました。 ヒサシブリ で タビ から かえった ワタクシタチ が ヘイゼイ の とおり おちつく まで には、 バンジ に ついて オンナ の テ が ヒツヨウ だった の です が、 その セワ を して くれる オクサン は とにかく、 オジョウサン が すべて ワタクシ の ほう を サキ に して、 K を アトマワシ に する よう に みえた の です。 それ を ロコツ に やられて は、 ワタクシ も メイワク した かも しれません。 バアイ に よって は かえって フカイ の ネン さえ おこしかねなかったろう と おもう の です が、 オジョウサン の ショサ は その テン で はなはだ ヨウリョウ を えて いた から、 ワタクシ は うれしかった の です。 つまり オジョウサン は ワタクシ だけ に わかる よう に、 モチマエ の シンセツ を ヨブン に ワタクシ の ほう へ わりあてて くれた の です。 だから K は べつに いや な カオ も せず に ヘイキ で いました。 ワタクシ は ココロ の ウチ で ひそか に カレ に たいする ガイカ を そうしました。
 やがて ナツ も すぎて 9 ガツ の ナカゴロ から ワレワレ は また ガッコウ の カギョウ に シュッセキ しなければ ならない こと に なりました。 K と ワタクシ とは テンデン の ジカン の ツゴウ で、 デイリ の コクゲン に また チソク が できて きました。 ワタクシ が K より おくれて かえる とき は 1 シュウ に 3 ド ほど ありました が、 いつ かえって も オジョウサン の カゲ を K の ヘヤ に みとめる こと は ない よう に なりました。 K は レイ の メ を ワタクシ の ほう に むけて、 「イマ かえった の か」 を キソク の ごとく くりかえしました。 ワタクシ の エシャク も ほとんど キカイ の ごとく カンタン で かつ ムイミ でした。
 たしか 10 ガツ の ナカゴロ と おもいます。 ワタクシ は ネボウ を した ケッカ、 ニホンフク の まま いそいで ガッコウ へ でた こと が あります。 ハキモノ も アミアゲ など を むすんで いる ジカン が おしい ので、 ゾウリ を つっかけた なり とびだした の です。 その ヒ は ジカンワリ から いう と、 K より も ワタクシ の ほう が サキ へ かえる はず に なって いました。 ワタクシ は もどって くる と、 その つもり で ゲンカン の コウシ を がらり と あけた の です。 すると いない と おもって いた K の コエ が ひょいと きこえました。 ドウジ に オジョウサン の ワライゴエ が ワタクシ の ミミ に ひびきました。 ワタクシ は イツモ の よう に テカズ の かかる クツ を はいて いない から、 すぐ ゲンカン に あがって シキリ の フスマ を あけました。 ワタクシ は レイ の とおり ツクエ の マエ に すわって いる K を みました。 しかし オジョウサン は もう そこ には いなかった の です。 ワタクシ は あたかも K の ヘヤ から のがれでる よう に さる その ウシロスガタ を ちらり と みとめた だけ でした。 ワタクシ は K に どうして はやく かえった の か と といました。 K は ココロモチ が わるい から やすんだ の だ と こたえました。 ワタクシ が ジブン の ヘヤ に はいって そのまま すわって いる と、 まもなく オジョウサン が チャ を もって きて くれました。 その とき オジョウサン は はじめて おかえり と いって ワタクシ に アイサツ を しました。 ワタクシ は わらいながら サッキ は なぜ にげた ん です と きける よう な さばけた オトコ では ありません。 それでいて ハラ の ナカ では なんだか その こと が キ に かかる よう な ニンゲン だった の です。 オジョウサン は すぐ ザ を たって エンガワヅタイ に ムコウ へ いって しまいました。 しかし K の ヘヤ の マエ に たちどまって、 フタコト ミコト ウチ と ソト と で ハナシ を して いました。 それ は サッキ の ツヅキ らしかった の です が、 マエ を きかない ワタクシ には まるで わかりません でした。
 そのうち オジョウサン の タイド が だんだん ヘイキ に なって きました。 K と ワタクシ が イッショ に ウチ に いる とき でも、 よく K の ヘヤ の エンガワ へ きて カレ の ナ を よびました。 そうして そこ へ はいって、 ゆっくり して いました。 むろん ユウビン を もって くる こと も ある し、 センタクモノ を おいて ゆく こと も ある の です から、 その くらい の コウツウ は おなじ ウチ に いる フタリ の カンケイジョウ、 トウゼン と みなければ ならない の でしょう が、 ぜひ オジョウサン を センユウ したい と いう キョウレツ な イチネン に うごかされて いる ワタクシ には、 どうしても それ が トウゼン イジョウ に みえた の です。 ある とき は オジョウサン が わざわざ ワタクシ の ヘヤ へ くる の を カイヒ して、 K の ほう ばかり へ ゆく よう に おもわれる こと さえ あった くらい です。 それなら なぜ K に ウチ を でて もらわない の か と アナタ は きく でしょう。 しかし そう すれば ワタクシ が K を ムリ に ひっぱって きた シュイ が たたなく なる だけ です。 ワタクシ には それ が できない の です。

ココロ 「センセイ と イショ 5」

2015-04-20 | ナツメ ソウセキ
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 11 ガツ の さむい アメ の ふる ヒ の こと でした。 ワタクシ は ガイトウ を ぬらして レイ の とおり コンニャク エンマ を ぬけて ほそい サカミチ を あがって ウチ へ かえりました。 K の ヘヤ は ガランドウ でした けれども、 ヒバチ には ツギタテ の ヒ が あたたかそう に もえて いました。 ワタクシ も つめたい テ を はやく あかい スミ の ウエ に かざそう と おもって、 いそいで ジブン の ヘヤ の シキリ を あけました。 すると ワタクシ の ヒバチ には つめたい ハイ が しろく のこって いる だけ で、 ヒダネ さえ つきて いる の です。 ワタクシ は キュウ に フユカイ に なりました。
 その とき ワタクシ の アシオト を きいて でて きた の は、 オクサン でした。 オクサン は だまって ヘヤ の マンナカ に たって いる ワタクシ を みて、 キノドク そう に ガイトウ を ぬがせて くれたり、 ニホンフク を きせて くれたり しました。 それから ワタクシ が さむい と いう の を きいて、 すぐ ツギノマ から K の ヒバチ を もって きて くれました。 ワタクシ が K は もう かえった の か と ききましたら、 オクサン は かえって また でた と こたえました。 その ヒ も K は ワタクシ より おくれて かえる ジカンワリ だった の です から、 ワタクシ は どうした ワケ か と おもいました。 オクサン は おおかた ヨウジ でも できた の だろう と いって いました。
 ワタクシ は しばらく そこ に すわった まま ショケン を しました。 ウチ の ナカ が しんと しずまって、 ダレ の ハナシゴエ も きこえない うち に、 ハツフユ の サムサ と ワビシサ と が、 ワタクシ の カラダ に くいこむ よう な カンジ が しました。 ワタクシ は すぐ ショモツ を ふせて たちあがりました。 ワタクシ は ふと にぎやか な ところ へ ゆきたく なった の です。 アメ は やっと あがった よう です が、 ソラ は まだ つめたい ナマリ の よう に おもく みえた ので、 ワタクシ は ヨウジン の ため、 ジャノメ を カタ に かついで、 ホウヘイ コウショウ の ウラテ の ドベイ に ついて ヒガシ へ サカ を おりました。 その ジブン は まだ ドウロ の カイセイ が できない コロ なので、 サカ の コウバイ が イマ より も ずっと キュウ でした。 ミチハバ も せまくて、 ああ マッスグ では なかった の です。 そのうえ あの タニ へ おりる と、 ミナミ が たかい タテモノ で ふさがって いる の と、 ミズハキ が よく ない の と で、 オウライ は どろどろ でした。 ことに ほそい イシバシ を わたって ヤナギチョウ の トオリ へ でる アイダ が ひどかった の です。 アシダ でも ナガグツ でも むやみ に あるく わけ には ゆきません。 ダレ でも ミチ の マンナカ に しぜん と ほそながく ドロ が かきわけられた ところ を、 ゴショウ ダイジ に たどって ゆかなければ ならない の です。 その ハバ は わずか 1~2 シャク しか ない の です から、 てもなく オウライ に しいて ある オビ の ウエ を ふんで ムコウ へ こす の と おなじ こと です。 ゆく ヒト は ミンナ イチレツ に なって そろそろ とおりぬけます。 ワタクシ は この ホソオビ の ウエ で、 はたり と K に であいました。 アシ の ほう に ばかり キ を とられて いた ワタクシ は、 カレ と むきあう まで、 カレ の ソンザイ に まるで キ が つかず に いた の です。 ワタクシ は フイ に ジブン の マエ が ふさがった ので ぐうぜん メ を あげた とき、 はじめて そこ に たって いる K を みとめた の です。 ワタクシ は K に どこ へ いった の か と ききました。 K は ちょっと そこ まで と いった ぎり でした。 カレ の コタエ は イツモ の とおり ふん と いう チョウシ でした。 K と ワタクシ は ほそい オビ の ウエ で カラダ を かわせました。 すると K の すぐ ウシロ に ヒトリ の わかい オンナ が たって いる の が みえました。 キンガン の ワタクシ には、 イマ まで それ が よく わからなかった の です が、 K を やりこした アト で、 その オンナ の カオ を みる と、 それ が ウチ の オジョウサン だった ので、 ワタクシ は すくなからず おどろきました。 オジョウサン は こころもち うすあかい カオ を して、 ワタクシ に アイサツ を しました。 その ジブン の ソクハツ は イマ と ちがって ヒサシ が でて いない の です、 そうして アタマ の マンナカ に ヘビ の よう に ぐるぐる まきつけて あった もの です。 ワタクシ は ぼんやり オジョウサン の アタマ を みて いました が、 ツギ の シュンカン に、 どっち か ミチ を ゆずらなければ ならない の だ と いう こと に キ が つきました。 ワタクシ は おもいきって どろどろ の ナカ へ カタアシ ふんごみました。 そうして ヒカクテキ とおりやすい ところ を あけて、 オジョウサン を わたして やりました。
 それから ヤナギチョウ の トオリ へ でた ワタクシ は どこ へ いって いい か ジブン にも わからなく なりました。 どこ へ いって も おもしろく ない よう な ココロモチ が する の です。 ワタクシ は ハネ の あがる の も かまわず に、 ヌカルミ の ナカ を やけに どしどし あるきました。 それから すぐ ウチ へ かえって きました。

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 ワタクシ は K に むかって オジョウサン と イッショ に でた の か と ききました。 K は そう では ない と こたえました。 マサゴ-チョウ で ぐうぜん であった から つれだって かえって きた の だ と セツメイ しました。 ワタクシ は それ イジョウ に たちいった シツモン を ひかえなければ なりません でした。 しかし ショクジ の とき、 また オジョウサン に むかって、 おなじ トイ を かけたく なりました。 すると オジョウサン は ワタクシ の きらい な レイ の ワライカタ を する の です。 そうして どこ へ いった か あてて みろ と シマイ に いう の です。 その コロ の ワタクシ は まだ カンシャクモチ でした から、 そう フマジメ に わかい オンナ から とりあつかわれる と ハラ が たちました。 ところが そこ に キ の つく の は、 おなじ ショクタク に ついて いる モノ の ウチ で オクサン ヒトリ だった の です。 K は むしろ ヘイキ でした。 オジョウサン の タイド に なる と、 しって わざと やる の か、 しらない で ムジャキ に やる の か、 そこ の クベツ が ちょっと ハンゼン しない テン が ありました。 わかい オンナ と して オジョウサン は シリョ に とんだ ほう でした けれども、 その わかい オンナ に キョウツウ な ワタクシ の きらい な ところ も、 ある と おもえば おもえなく も なかった の です。 そうして その きらい な ところ は、 K が ウチ へ きて から、 はじめて ワタクシ の メ に つきだした の です。 ワタクシ は それ を K に たいする ワタクシ の シット に きして いい もの か、 または ワタクシ に たいする オジョウサン の ギコウ と みなして しかるべき もの か、 ちょっと フンベツ に まよいました。 ワタクシ は イマ でも けっして その とき の ワタクシ の シットシン を うちけす キ は ありません。 ワタクシ は たびたび くりかえした とおり、 アイ の リメン に この カンジョウ の ハタラキ を あきらか に イシキ して いた の です から。 しかも ハタ の モノ から みる と、 ほとんど とる に たりない サジ に、 この カンジョウ が きっと クビ を もちあげたがる の でした から。 これ は ヨジ です が、 こういう シット は アイ の ハンメン じゃ ない でしょう か。 ワタクシ は ケッコン して から、 この カンジョウ が だんだん うすらいで ゆく の を ジカク しました。 そのかわり アイジョウ の ほう も けっして モト の よう に モウレツ では ない の です。
 ワタクシ は それまで チュウチョ して いた ジブン の ココロ を ひとおもいに アイテ の ムネ へ たたきつけよう か と かんがえだしました。 ワタクシ の アイテ と いう の は オジョウサン では ありません。 オクサン の こと です。 オクサン に オジョウサン を くれろ と メイハク な ダンパン を ひらこう か と かんがえた の です。 しかし そう ケッシン しながら、 イチニチ イチニチ と ワタクシ は ダンコウ の ヒ を のばして いった の です。 そう いう と ワタクシ は いかにも ユウジュウ な オトコ の よう に みえます、 また みえて も かまいません が、 じっさい ワタクシ の すすみかねた の は、 イシ の チカラ に フソク が あった ため では ありません。 K の こない うち は、 ヒト の テ に のる の が いや だ と いう ガマン が ワタクシ を おさえつけて、 イッポ も うごけない よう に して いました。 K の きた ノチ は、 もしか する と オジョウサン が K の ほう に イ が ある の では なかろう か と いう ギネン が たえず ワタクシ を せいする よう に なった の です。 はたして オジョウサン が ワタクシ より も K に ココロ を かたむけて いる ならば、 この コイ は クチ へ いいだす カチ の ない もの と ワタクシ は ケッシン して いた の です。 ハジ を かかせられる の が つらい など と いう の とは すこし ワケ が ちがいます。 こっち で いくら おもって も、 ムコウ が ナイシン ホカ の ヒト に アイ の マナコ を そそいで いる ならば、 ワタクシ は そんな オンナ と イッショ に なる の は いや なの です。 ヨノナカ では イヤオウ なし に ジブン の すいた オンナ を ヨメ に もらって うれしがって いる ヒト も あります が、 それ は ワタクシタチ より よっぽど セケンズレ の した オトコ か、 さも なければ アイ の シンリ が よく のみこめない ドンブツ の する こと と、 トウジ の ワタクシ は かんがえて いた の です。 イチド もらって しまえば どうか こうか おちつく もの だ ぐらい の テツリ では、 ショウチ する こと が できない くらい ワタクシ は ねっして いました。 つまり ワタクシ は きわめて コウショウ な アイ の リロンカ だった の です。 ドウジ に もっとも ウエン な アイ の ジッサイカ だった の です。
 カンジン の オジョウサン に、 ちょくせつ この ワタクシ と いう もの を うちあける キカイ も、 ながく イッショ に いる うち には ときどき でて きた の です が、 ワタクシ は わざと それ を さけました。 ニホン の シュウカン と して、 そういう こと は ゆるされて いない の だ と いう ジカク が、 その コロ の ワタクシ には つよく ありました。 しかし けっして それ ばかり が ワタクシ を ソクバク した とは いえません。 ニホンジン、 ことに ニホン の わかい オンナ は、 そんな バアイ に、 アイテ に キガネ なく ジブン の おもった とおり を エンリョ せず に クチ に する だけ の ユウキ に とぼしい もの と ワタクシ は みこんで いた の です。

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 こんな ワケ で ワタクシ は どちら の ホウメン へ むかって も すすむ こと が できず に たちすくんで いました。 カラダ の わるい とき に ヒルネ など を する と、 メ だけ さめて シュウイ の もの が はっきり みえる のに、 どうしても テアシ の うごかせない バアイ が ありましょう。 ワタクシ は ときとして ああいう クルシミ を ひとしれず かんじた の です。
 そのうち トシ が くれて ハル に なりました。 ある ヒ オクサン が K に カルタ を やる から ダレ か トモダチ を つれて こない か と いった こと が あります。 すると K は すぐ トモダチ なぞ は ヒトリ も ない と こたえた ので、 オクサン は おどろいて しまいました。 なるほど K に トモダチ と いう ほど の トモダチ は ヒトリ も なかった の です。 オウライ で あった とき アイサツ を する くらい の モノ は たしょう ありました が、 それら だって けっして カルタ など を とる ガラ では なかった の です。 オクサン は それじゃ ワタクシ の しった モノ でも よんで きたら どう か と いいなおしました が、 ワタクシ も あいにく そんな ヨウキ な アソビ を する ココロモチ に なれない ので、 イイカゲン な ナマヘンジ を した なり、 うちやって おきました。 ところが バン に なって K と ワタクシ は とうとう オジョウサン に ひっぱりだされて しまいました。 キャク も ダレ も こない のに、 ウチウチ の コニンズ だけ で とろう と いう カルタ です から すこぶる しずか な もの でした。 そのうえ こういう ユウギ を やりつけない K は、 まるで フトコロデ を して いる ヒト と ドウヨウ でした。 ワタクシ は K に いったい ヒャクニン イッシュ の ウタ を しって いる の か と たずねました。 K は よく しらない と こたえました。 ワタクシ の コトバ を きいた オジョウサン は、 おおかた K を ケイベツ する と でも とった の でしょう。 それから メ に たつ よう に K の カセイ を しだしました。 シマイ には フタリ が ほとんど クミ に なって ワタクシ に あたる と いう アリサマ に なって きました。 ワタクシ は アイテ-シダイ では ケンカ を はじめた かも しれなかった の です。 サイワイ に K の タイド は すこしも サイショ と かわりません でした。 カレ の どこ にも トクイ-らしい ヨウス を みとめなかった ワタクシ は、 ブジ に その バ を きりあげる こと が できました。
 それから 2~3 ニチ たった ノチ の こと でしたろう、 オクサン と オジョウサン は アサ から イチガヤ に いる シンルイ の ところ へ いく と いって ウチ を でました。 K も ワタクシ も まだ ガッコウ の はじまらない コロ でした から、 ルスイ ドウヨウ アト に のこって いました。 ワタクシ は ショモツ を よむ の も サンポ に でる の も いや だった ので、 ただ ばくぜん と ヒバチ の フチ に ヒジ を のせて じっと アゴ を ささえた なり かんがえて いました。 トナリ の ヘヤ に いる K も いっこう オト を たてません でした。 ソウホウ とも いる の だ か いない の だ か わからない くらい しずか でした。 もっとも こういう こと は、 フタリ の アイダガラ と して べつに めずらしく も なんとも なかった の です から、 ワタクシ は べつだん それ を キ にも とめません でした。
 10 ジ-ゴロ に なって、 K は フイ に シキリ の フスマ を あけて ワタクシ と カオ を みあわせました。 カレ は シキイ の ウエ に たった まま、 ワタクシ に ナニ を かんがえて いる と ききました。 ワタクシ は もとより なにも かんがえて いなかった の です。 もし かんがえて いた と すれば、 イツモ の とおり オジョウサン が モンダイ だった かも しれません。 その オジョウサン には むろん オクサン も くっついて います が、 チカゴロ では K ジシン が きりはなす べからざる ヒト の よう に、 ワタクシ の アタマ の ナカ を ぐるぐる めぐって、 この モンダイ を フクザツ に して いる の です。 K と カオ を みあわせた ワタクシ は、 イマ まで おぼろげ に カレ を イッシュ の ジャマモノ の ごとく イシキ して いながら、 あきらか に そう と こたえる わけ に いかなかった の です。 ワタクシ は いぜん と して カレ の カオ を みて だまって いました。 すると K の ほう から つかつか と ワタクシ の ザシキ へ はいって きて、 ワタクシ の あたって いる ヒバチ の マエ に すわりました。 ワタクシ は すぐ リョウヒジ を ヒバチ の フチ から とりのけて、 こころもち それ を K の ほう へ おしやる よう に しました。
 K は イツモ に にあわない ハナシ を はじめました。 オクサン と オジョウサン は イチガヤ の どこ へ いった の だろう と いう の です。 ワタクシ は おおかた オバサン の ところ だろう と こたえました。 K は その オバサン は ナン だ と また ききます。 ワタクシ は やはり グンジン の サイクン だ と おしえて やりました。 すると オンナ の ネンシ は たいてい 15 ニチ-スギ だ のに、 なぜ そんな に はやく でかけた の だろう と シツモン する の です。 ワタクシ は なぜ だ か しらない と アイサツ する より ホカ に シカタ が ありません でした。

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 K は なかなか オクサン と オジョウサン の ハナシ を やめません でした。 シマイ には ワタクシ も こたえられない よう な たちいった こと まで きく の です。 ワタクシ は メンドウ より も フシギ の カン に うたれました。 イゼン ワタクシ の ほう から フタリ を モンダイ に して はなしかけた とき の カレ を おもいだす と、 ワタクシ は どうしても カレ の チョウシ の かわって いる ところ に キ が つかず には いられない の です。 ワタクシ は とうとう なぜ キョウ に かぎって そんな こと ばかり いう の か と カレ に たずねました。 その とき カレ は とつぜん だまりました。 しかし ワタクシ は カレ の むすんだ クチモト の ニク が ふるえる よう に うごいて いる の を チュウシ しました。 カレ は がんらい ムクチ な オトコ でした。 ヘイゼイ から ナニ か いおう と する と、 いう マエ に よく クチ の アタリ を もぐもぐ させる クセ が ありました。 カレ の クチビル が わざと カレ の イシ に ハンコウ する よう に たやすく あかない ところ に、 カレ の コトバ の オモミ も こもって いた の でしょう。 いったん コエ が クチ を やぶって でる と なる と、 その コエ には フツウ の ヒト より も バイ の つよい チカラ が ありました。
 カレ の クチモト を ちょっと ながめた とき、 ワタクシ は また ナニ か でて くる な と すぐ かんづいた の です が、 それ が はたして なんの ジュンビ なの か、 ワタクシ の ヨカク は まるで なかった の です。 だから おどろいた の です。 カレ の おもおもしい クチ から、 カレ の オジョウサン に たいする せつない コイ を うちあけられた とき の ワタクシ を ソウゾウ して みて ください。 ワタクシ は カレ の マホウボウ の ため に イチド に カセキ された よう な もの です。 クチ を もぐもぐ させる ハタラキ さえ、 ワタクシ には なくなって しまった の です。
 その とき の ワタクシ は オソロシサ の カタマリ と いいましょう か、 または クルシサ の カタマリ と いいましょう か、 なにしろ ヒトツ の カタマリ でした。 イシ か テツ の よう に アタマ から アシ の サキ まで が キュウ に かたく なった の です。 コキュウ を する ダンリョクセイ さえ うしなわれた くらい に かたく なった の です。 サイワイ な こと に その ジョウタイ は ながく つづきません でした。 ワタクシ は イッシュンカン の ノチ に、 また ニンゲン-らしい キブン を とりもどしました。 そうして、 すぐ しまった と おもいました。 セン を こされた な と おもいました。
 しかし その サキ を どう しよう と いう フンベツ は まるで おこりません。 おそらく おこる だけ の ヨユウ が なかった の でしょう。 ワタクシ は ワキノシタ から でる キミ の わるい アセ が シャツ に しみとおる の を じっと ガマン して うごかず に いました。 K は その アイダ イツモ の とおり おもい クチ を きって は、 ぽつり ぽつり と ジブン の ココロ を うちあけて ゆきます。 ワタクシ は くるしくって たまりません でした。 おそらく その クルシサ は、 おおきな コウコク の よう に、 ワタクシ の カオ の ウエ に はっきり した ジ で はりつけられて あったろう と ワタクシ は おもう の です。 いくら K でも そこ に キ の つかない はず は ない の です が、 カレ は また カレ で、 ジブン の こと に イッサイ を シュウチュウ して いる から、 ワタクシ の ヒョウジョウ など に チュウイ する ヒマ が なかった の でしょう。 カレ の ジハク は サイショ から サイゴ まで おなじ チョウシ で つらぬいて いました。 おもくて のろい カワリ に、 とても ヨウイ な こと では うごかせない と いう カンジ を ワタクシ に あたえた の です。 ワタクシ の ココロ は ハンブン その ジハク を きいて いながら、 ハンブン どう しよう どう しよう と いう ネン に たえず かきみだされて いました から、 こまかい テン に なる と ほとんど ミミ へ はいらない と ドウヨウ でした が、 それでも カレ の クチ に だす コトバ の チョウシ だけ は つよく ムネ に ひびきました。 その ため に ワタクシ は マエ いった クツウ ばかり で なく、 ときには イッシュ の オソロシサ を かんずる よう に なった の です。 つまり アイテ は ジブン より つよい の だ と いう キョウフ の ネン が きざしはじめた の です。
 K の ハナシ が ひととおり すんだ とき、 ワタクシ は なんとも いう こと が できません でした。 こっち も カレ の マエ に おなじ イミ の ジハク を した もの だろう か、 それとも うちあけず に いる ほう が トクサク だろう か、 ワタクシ は そんな リガイ を かんがえて だまって いた の では ありません。 ただ ナニゴト も いえなかった の です。 また いう キ にも ならなかった の です。
 ヒルメシ の とき、 K と ワタクシ は ムカイアワセ に セキ を しめました。 ゲジョ に キュウジ を して もらって、 ワタクシ は いつ に ない まずい メシ を すませました。 フタリ は ショクジチュウ も ほとんど クチ を ききません でした。 オクサン と オジョウサン は いつ かえる の だ か わかりません でした。

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 フタリ は メイメイ の ヘヤ に ひきとった ぎり カオ を あわせません でした。 K の しずか な こと は アサ と おなじ でした。 ワタクシ も じっと かんがえこんで いました。
 ワタクシ は とうぜん ジブン の ココロ を K に うちあける べき はず だ と おもいました。 しかし それ には もう ジキ が おくれて しまった と いう キ も おこりました。 なぜ さっき K の コトバ を さえぎって、 こっち から ギャクシュウ しなかった の か、 そこ が ヒジョウ な テヌカリ の よう に みえて きました。 せめて K の アト に つづいて、 ジブン は ジブン の おもう とおり を その バ で はなして しまったら、 まだ よかったろう に とも かんがえました。 K の ジハク に イチダンラク が ついた イマ と なって、 こっち から また おなじ こと を きりだす の は、 どう シアン して も ヘン でした。 ワタクシ は この フシゼン に うちかつ ホウホウ を しらなかった の です。 ワタクシ の アタマ は カイコン に ゆられて ぐらぐら しました。
 ワタクシ は K が ふたたび シキリ の フスマ を あけて ムコウ から トッシン して きて くれれば いい と おもいました。 ワタクシ に いわせれば、 サッキ は まるで フイウチ に あった も おなじ でした。 ワタクシ には K に おうずる ジュンビ も なにも なかった の です。 ワタクシ は ゴゼン に うしなった もの を、 コンド は とりもどそう と いう シタゴコロ を もって いました。 それで ときどき メ を あげて、 フスマ を ながめました。 しかし その フスマ は いつまで たって も あきません。 そうして K は エイキュウ に しずか なの です。
 そのうち ワタクシ の アタマ は だんだん この シズカサ に かきみだされる よう に なって きました。 K は イマ フスマ の ムコウ で ナニ を かんがえて いる だろう と おもう と、 それ が キ に なって たまらない の です。 フダン も こんな ふう に オタガイ が シキリ 1 マイ を アイダ に おいて だまりあって いる バアイ は しじゅう あった の です が、 ワタクシ は K が しずか で あれば ある ほど、 カレ の ソンザイ を わすれる の が フツウ の ジョウタイ だった の です から、 その とき の ワタクシ は よほど チョウシ が くるって いた もの と みなければ なりません。 それでいて ワタクシ は こっち から すすんで フスマ を あける こと が できなかった の です。 いったん いいそびれた ワタクシ は、 また ムコウ から はたらきかけられる ジキ を まつ より ホカ に シカタ が なかった の です。
 シマイ に ワタクシ は じっと して おられなく なりました。 ムリ に じっと して いれば、 K の ヘヤ へ とびこみたく なる の です。 ワタクシ は しかたなし に たって エンガワ へ でました。 そこ から チャノマ へ きて、 なんと いう モクテキ も なく、 テツビン の ユ を ユノミ に ついで 1 パイ のみました。 それから ゲンカン へ でました。 ワタクシ は わざと K の ヘヤ を カイヒ する よう に して、 こんな ふう に ジブン を オウライ の マンナカ に みいだした の です。 ワタクシ には むろん どこ へ ゆく と いう アテ も ありません。 ただ じっと して いられない だけ でした。 それで ホウガク も なにも かまわず に、 ショウガツ の マチ を、 むやみ に あるきまわった の です。 ワタクシ の アタマ は いくら あるいて も K の こと で いっぱい に なって いました。 ワタクシ も K を ふるいおとす キ で あるきまわる わけ では なかった の です。 むしろ ジブン から すすんで カレ の スガタ を ソシャク しながら うろついて いた の です。
 ワタクシ には ダイイチ に カレ が かいしがたい オトコ の よう に みえました。 どうして あんな こと を とつぜん ワタクシ に うちあけた の か、 また どうして うちあけなければ いられない ほど に、 カレ の コイ が つのって きた の か、 そうして ヘイゼイ の カレ は どこ に ふきとばされて しまった の か、 すべて ワタクシ には かいしにくい モンダイ でした。 ワタクシ は カレ の つよい こと を しって いました。 また カレ の マジメ な こと を しって いました。 ワタクシ は これから ワタクシ の とる べき タイド を けっする マエ に、 カレ に ついて きかなければ ならない オオク を もって いる と しんじました。 ドウジ に これから サキ カレ を アイテ に する の が へんに キミ が わるかった の です。 ワタクシ は ムチュウ に マチ の ナカ を あるきながら、 ジブン の ヘヤ に じっと すわって いる カレ の ヨウボウ を しじゅう メノマエ に えがきだしました。 しかも いくら ワタクシ が あるいて も カレ を うごかす こと は とうてい できない の だ と いう コエ が どこ か で きこえる の です。 つまり ワタクシ には カレ が イッシュ の マモノ の よう に おもえた から でしょう。 ワタクシ は エイキュウ カレ に たたられた の では なかろう か と いう キ さえ しました。
 ワタクシ が つかれて ウチ へ かえった とき、 カレ の ヘヤ は いぜん と して ヒトケ の ない よう に しずか でした。

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 ワタクシ が ウチ へ はいる と まもなく クルマ の オト が きこえました。 イマ の よう に ゴムワ の ない ジブン でした から、 がらがら いう いや な ヒビキ が かなり の キョリ でも ミミ に たつ の です。 クルマ は やがて モンゼン で とまりました。
 ワタクシ が ユウメシ に よびだされた の は、 それから 30 プン ばかり たった アト の こと でした が、 まだ オクサン と オジョウサン の ハレギ が ぬぎすてられた まま、 ツギ の ヘヤ を ランザツ に いろどって いました。 フタリ は おそく なる と ワタクシタチ に すまない と いう ので、 メシ の シタク に まにあう よう に、 いそいで かえって きた の だ そう です。 しかし オクサン の シンセツ は K と ワタクシ と に とって ほとんど ムコウ も おなじ こと でした。 ワタクシ は ショクタク に すわりながら、 コトバ を おしがる ヒト の よう に、 そっけない アイサツ ばかり して いました。 K は ワタクシ より も なお カゲン でした。 たまに オヤコヅレ で ガイシュツ した オンナ フタリ の キブン が、 また ヘイゼイ より は すぐれて はれやか だった ので、 ワレワレ の タイド は なお の こと メ に つきます。 オクサン は ワタクシ に どうか した の か と ききました。 ワタクシ は すこし ココロモチ が わるい と こたえました。 じっさい ワタクシ は ココロモチ が わるかった の です。 すると コンド は オジョウサン が K に おなじ トイ を かけました。 K は ワタクシ の よう に ココロモチ が わるい とは こたえません。 ただ クチ が ききたく ない から だ と いいました。 オジョウサン は なぜ クチ が ききたく ない の か と ツイキュウ しました。 ワタクシ は その とき ふと おもたい マブタ を あげて K の カオ を みました。 ワタクシ には K が なんと こたえる だろう か と いう コウキシン が あった の です。 K の クチビル は レイ の よう に すこし ふるえて いました。 それ が しらない ヒト から みる と、 まるで ヘンジ に まよって いる と しか おもわれない の です。 オジョウサン は わらいながら また ナニ か むずかしい こと を かんがえて いる の だろう と いいました。 K の カオ は こころもち うすあかく なりました。
 その バン ワタクシ は イツモ より はやく トコ へ はいりました。 ワタクシ が ショクジ の とき キブン が わるい と いった の を キ に して、 オクサン は 10 ジ-ゴロ ソバユ を もって きて くれました。 しかし ワタクシ の ヘヤ は もう マックラ でした。 オクサン は おやおや と いって、 シキリ の フスマ を ホソメ に あけました。 ランプ の ヒカリ が K の ツクエ から ナナメ に ぼんやり と ワタクシ の ヘヤ に さしこみました。 K は まだ おきて いた もの と みえます。 オクサン は マクラモト に すわって、 おおかた カゼ を ひいた の だろう から カラダ を あっためる が いい と いって、 ユノミ を カオ の ソバ へ つきつける の です。 ワタクシ は やむ を えず、 どろどろ した ソバユ を オクサン の みて いる マエ で のみました。
 ワタクシ は おそく なる まで くらい ナカ で かんがえて いました。 むろん ヒトツ モンダイ を ぐるぐる カイテン させる だけ で、 ホカ に なんの コウリョク も なかった の です。 ワタクシ は とつぜん K が イマ トナリ の ヘヤ で ナニ を して いる だろう と おもいだしました。 ワタクシ は なかば ムイシキ に おい と コエ を かけました。 すると ムコウ でも おい と ヘンジ を しました。 K も まだ おきて いた の です。 ワタクシ は まだ ねない の か と フスマゴシ に ききました。 もう ねる と いう カンタン な アイサツ が ありました。 ナニ を して いる の だ と ワタクシ は かさねて といました。 コンド は K の コタエ が ありません。 そのかわり 5~6 プン たった と おもう コロ に、 オシイレ を がらり と あけて、 トコ を のべる オト が テ に とる よう に きこえました。 ワタクシ は もう ナンジ か と また たずねました。 K は 1 ジ 20 プン だ と こたえました。 やがて ランプ を ふっと ふきけす オト が して、 ウチジュウ が マックラ な ウチ に、 しんと しずまりました。
 しかし ワタクシ の メ は その くらい ナカ で いよいよ さえて くる ばかり です。 ワタクシ は また なかば ムイシキ な ジョウタイ で、 おい と K に コエ を かけました。 K も イゼン と おなじ よう な チョウシ で、 おい と こたえました。 ワタクシ は ケサ カレ から きいた こと に ついて、 もっと くわしい ハナシ を したい が、 カレ の ツゴウ は どう だ と、 とうとう こっち から きりだしました。 ワタクシ は むろん フスマゴシ に そんな ダンワ を コウカン する キ は なかった の です が、 K の ヘントウ だけ は ソクザ に えられる こと と かんがえた の です。 ところが K は サッキ から 2 ド おい と よばれて、 2 ド おい と こたえた よう な すなお な チョウシ で、 コンド は おうじません。 そう だなあ と ひくい コエ で しぶって います。 ワタクシ は また はっと おもわせられました。

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 K の ナマヘンジ は ヨクジツ に なって も、 その ヨクジツ に なって も、 カレ の タイド に よく あらわれて いました。 カレ は ジブン から すすんで レイ の モンダイ に ふれよう と する ケシキ を けっして みせません でした。 もっとも キカイ も なかった の です。 オクサン と オジョウサン が そろって イチニチ ウチ を あけ でも しなければ、 フタリ は ゆっくり おちついて、 そういう こと を はなしあう わけ にも いかない の です から。 ワタクシ は それ を よく こころえて いました。 こころえて いながら、 へんに いらいら しだす の です。 その ケッカ ハジメ は ムコウ から くる の を まつ つもり で、 あんに ヨウイ を して いた ワタクシ が、 オリ が あったら こっち で クチ を きろう と ケッシン する よう に なった の です。
 ドウジ に ワタクシ は だまって ウチ の モノ の ヨウス を カンサツ して みました。 しかし オクサン の タイド にも オジョウサン の ソブリ にも、 べつに ヘイゼイ と かわった テン は ありません でした。 K の ジハク イゼン と ジハク イゴ と で、 カレラ の キョドウ に これ と いう サイ が しょうじない ならば、 カレ の ジハク は たんに ワタクシ だけ に かぎられた ジハク で、 カンジン の ホンニン にも、 また その カントクシャ たる オクサン にも、 まだ つうじて いない の は たしか でした。 そう かんがえた とき ワタクシ は すこし アンシン しました。 それで ムリ に キカイ を こしらえて、 わざとらしく ハナシ を もちだす より は、 シゼン の あたえて くれる もの を とりにがさない よう に する ほう が よかろう と おもって、 レイ の モンダイ には しばらく テ を つけず に そっと して おく こと に しました。
 こう いって しまえば たいへん カンタン に きこえます が、 そうした ココロ の ケイカ には、 シオ の ミチヒ と おなじ よう に、 イロイロ の タカビク が あった の です。 ワタクシ は K の うごかない ヨウス を みて、 それ に サマザマ の イミ を つけくわえました。 オクサン と オジョウサン の ゲンゴ ドウサ を カンサツ して、 フタリ の ココロ が はたして そこ に あらわれて いる とおり なの だろう か と うたがって も みました。 そうして ニンゲン の ムネ の ナカ に ソウチ された フクザツ な キカイ が、 トケイ の ハリ の よう に、 メイリョウ に イツワリ なく、 バンジョウ の スウジ を さしうる もの だろう か と かんがえました。 ようするに ワタクシ は おなじ こと を こう も とり、 ああ も とり した アゲク、 ようやく ここ に おちついた もの と おもって ください。 さらに むずかしく いえば、 おちつく など と いう コトバ は、 この サイ けっして つかわれた ギリ で なかった の かも しれません。
 そのうち ガッコウ が また はじまりました。 ワタクシタチ は ジカン の おなじ ヒ には つれだって ウチ を でます。 ツゴウ が よければ かえる とき にも やはり イッショ に かえりました。 ガイブ から みた K と ワタクシ は、 なんにも マエ と ちがった ところ が ない よう に したしく なった の です。 けれども ハラ の ナカ では、 テンデン に テンデン の こと を カッテ に かんがえて いた に チガイ ありません。 ある ヒ ワタクシ は とつぜん オウライ で K に ニクハク しました。 ワタクシ が ダイイチ に きいた の は、 コノアイダ の ジハク が ワタクシ だけ に かぎられて いる か、 または オクサン や オジョウサン にも つうじて いる か の テン に あった の です。 ワタクシ の これから とる べき タイド は、 この トイ に たいする カレ の コタエ-シダイ で きめなければ ならない と、 ワタクシ は おもった の です。 すると カレ は ホカ の ヒト には まだ ダレ にも うちあけて いない と メイゲン しました。 ワタクシ は ジジョウ が ジブン の スイサツドオリ だった ので、 ナイシン うれしがりました。 ワタクシ は K の ワタクシ より オウチャク なの を よく しって いました。 カレ の ドキョウ にも かなわない と いう ジカク が あった の です。 けれども イッポウ では また ミョウ に カレ を しんじて いました。 ガクシ の こと で ヨウカ を 3 ネン も あざむいて いた カレ です けれども、 カレ の シンヨウ は ワタクシ に たいして すこしも そこなわれて いなかった の です。 ワタクシ は それ が ため に かえって カレ を しんじだした くらい です。 だから いくら うたがいぶかい ワタクシ でも、 メイハク な カレ の コタエ を ハラ の ナカ で ヒテイ する キ は オコリヨウ が なかった の です。
 ワタクシ は また カレ に むかって、 カレ の コイ を どう とりあつかう つもり か と たずねました。 それ が たんなる ジハク に すぎない の か、 または その ジハク に ついで、 ジッサイテキ の コウカ をも おさめる キ なの か と とうた の です。 しかるに カレ は そこ に なる と、 なんにも こたえません。 だまって シタ を むいて あるきだします。 ワタクシ は カレ に カクシダテ を して くれるな、 すべて おもった とおり を はなして くれ と たのみました。 カレ は なにも ワタクシ に かくす ヒツヨウ は ない と はっきり ダンゲン しました。 しかし ワタクシ の しろう と する テン には、 イチゴン の ヘンジ も あたえない の です。 ワタクシ も オウライ だ から わざわざ たちどまって ソコ まで つきとめる わけ に いきません。 つい ソレナリ に して しまいました。

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 ある ヒ ワタクシ は ヒサシブリ に ガッコウ の トショカン に はいりました。 ワタクシ は ひろい ツクエ の カタスミ で マド から さす コウセン を ハンシン に うけながら、 シンチャク の ガイコク ザッシ を、 あちらこちら と ひっくりかえして みて いました。 ワタクシ は タンニン キョウシ から センコウ の ガッカ に かんして、 ツギ の シュウ まで に ある ジコウ を しらべて こい と めいぜられた の です。 しかし ワタクシ に ヒツヨウ な コトガラ が なかなか みつからない ので、 ワタクシ は 2 ド も 3 ド も ザッシ を かりかえなければ なりません でした。 サイゴ に ワタクシ は やっと ジブン に ヒツヨウ な ロンブン を さがしだして、 イッシン に それ を よみだしました。 すると とつぜん ハバ の ひろい ツクエ の ムコウガワ から ちいさな コエ で ワタクシ の ナ を よぶ モノ が あります。 ワタクシ は ふと メ を あげて そこ に たって いる K を みました。 K は その ジョウハンシン を ツクエ の ウエ に おりまげる よう に して、 カレ の カオ を ワタクシ に ちかづけました。 ゴショウチ の とおり トショカン では ホカ の ヒト の ジャマ に なる よう な おおきな コエ で ハナシ を する わけ に ゆかない の です から、 K の この ショサ は ダレ でも やる フツウ の こと なの です が、 ワタクシ は その とき に かぎって、 イッシュ ヘン な ココロモチ が しました。
 K は ひくい コエ で ベンキョウ か と ききました。 ワタクシ は ちょっと シラベモノ が ある の だ と こたえました。 それでも K は まだ その カオ を ワタクシ から はなしません。 おなじ ひくい チョウシ で イッショ に サンポ を しない か と いう の です。 ワタクシ は すこし まって いれば して も いい と こたえました。 カレ は まって いる と いった まま、 すぐ ワタクシ の マエ の クウセキ に コシ を おろしました。 すると ワタクシ は キ が ちって キュウ に ザッシ が よめなく なりました。 なんだか K の ムネ に イチモツ が あって、 ダンパン でも し に こられた よう に おもわれて シカタ が ない の です。 ワタクシ は やむ を えず よみかけた ザッシ を ふせて、 たちあがろう と しました。 K は おちつきはらって もう すんだ の か と ききます。 ワタクシ は どうでも いい の だ と こたえて、 ザッシ を かえす と ともに、 K と トショカン を でました。
 フタリ は べつに ゆく ところ も なかった ので、 タツオカ-チョウ から イケノハタ へ でて、 ウエノ の コウエン の ナカ へ はいりました。 その とき カレ は レイ の ジケン に ついて、 とつぜん ムコウ から クチ を きりました。 ゼンゴ の ヨウス を ソウゴウ して かんがえる と、 K は その ため に ワタクシ を わざわざ サンポ に ひっぱりだした らしい の です。 けれども カレ の タイド は まだ ジッサイテキ の ホウメン へ むかって ちっとも すすんで いません でした。 カレ は ワタクシ に むかって、 ただ ばくぜん と、 どう おもう と いう の です。 どう おもう と いう の は、 そうした レンアイ の フチ に おちいった カレ を、 どんな メ で ワタクシ が ながめる か と いう シツモン なの です。 イチゴン で いう と、 カレ は ゲンザイ の ジブン に ついて、 ワタクシ の ヒハン を もとめたい よう なの です。 そこ に ワタクシ は カレ の ヘイゼイ と ことなる テン を たしか に みとめる こと が できた と おもいました。 たびたび くりかえす よう です が、 カレ の テンセイ は ヒト の オモワク を はばかる ほど よわく できあがって は いなかった の です。 こう と しんじたら ヒトリ で どんどん すすんで ゆく だけ の ドキョウ も あり ユウキ も ある オトコ なの です。 ヨウカ ジケン で その トクショク を つよく ムネ の ウチ に ほりつけられた ワタクシ が、 これ は ヨウス が ちがう と あきらか に イシキ した の は トウゼン の ケッカ なの です。
 ワタクシ が K に むかって、 この サイ なんで ワタクシ の ヒヒョウ が ヒツヨウ なの か と たずねた とき、 カレ は イツモ にも にない しょうぜん と した クチョウ で、 ジブン の よわい ニンゲン で ある の が じっさい はずかしい と いいました。 そうして まよって いる から ジブン で ジブン が わからなく なって しまった ので、 ワタクシ に コウヘイ な ヒヒョウ を もとめる より ホカ に シカタ が ない と いいました。 ワタクシ は すかさず まよう と いう イミ を ききただしました。 カレ は すすんで いい か しりぞいて いい か、 それ に まよう の だ と セツメイ しました。 ワタクシ は すぐ イッポ サキ へ でました。 そうして しりぞこう と おもえば しりぞける の か と カレ に ききました。 すると カレ の コトバ が そこ で フイ に ゆきつまりました。 カレ は ただ くるしい と いった だけ でした。 じっさい カレ の ヒョウジョウ には くるしそう な ところ が ありあり と みえて いました。 もし アイテ が オジョウサン で なかった ならば、 ワタクシ は どんな に カレ に ツゴウ の いい ヘンジ を、 その かわききった カオ の ウエ に ジウ の ごとく そそいで やった か わかりません。 ワタクシ は その くらい の うつくしい ドウジョウ を もって うまれて きた ニンゲン と ジブン ながら しんじて います。 しかし その とき の ワタクシ は ちがって いました。

ココロ 「センセイ と イショ 6」

2015-04-05 | ナツメ ソウセキ
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 ワタクシ は ちょうど タリュウ-ジアイ でも する ヒト の よう に K を チュウイ して みて いた の です。 ワタクシ は、 ワタクシ の メ、 ワタクシ の ココロ、 ワタクシ の カラダ、 すべて ワタクシ と いう ナ の つく もの を ゴブ の スキマ も ない よう に ヨウイ して、 K に むかった の です。 ツミ の ない K は アナ-だらけ と いう より むしろ アケハナシ と ひょうする の が テキトウ な くらい に ブヨウジン でした。 ワタクシ は カレ ジシン の テ から、 カレ の ホカン して いる ヨウサイ の チズ を うけとって、 カレ の メノマエ で ゆっくり それ を ながめる こと が できた も おなじ でした。
 K が リソウ と ゲンジツ の アイダ に ホウコウ して ふらふら して いる の を ハッケン した ワタクシ は、 ただ ヒトウチ で カレ を たおす こと が できる だろう と いう テン に ばかり メ を つけました。 そうして すぐ カレ の キョ に つけこんだ の です。 ワタクシ は カレ に むかって キュウ に ゲンシュク な あらたまった タイド を しめしだしました。 むろん サクリャク から です が、 その タイド に ソウオウ する くらい な キンチョウ した キブン も あった の です から、 ジブン に コッケイ だの シュウチ だの を かんずる ヨユウ は ありません でした。 ワタクシ は まず 「セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は バカ だ」 と いいはなちました。 これ は フタリ で ボウシュウ を リョコウ して いる サイ、 K が ワタクシ に むかって つかった コトバ です。 ワタクシ は カレ の つかった とおり を、 カレ と おなじ よう な クチョウ で、 ふたたび カレ に なげかえした の です。 しかし けっして フクシュウ では ありません。 ワタクシ は フクシュウ イジョウ に ザンコク な イミ を もって いた と いう こと を ジハク します。 ワタクシ は その イチゴン で K の マエ に よこたわる コイ の ユクテ を ふさごう と した の です。
 K は シンシュウデラ に うまれた オトコ でした。 しかし カレ の ケイコウ は チュウガク ジダイ から けっして セイカ の シュウシ に ちかい もの では なかった の です。 キョウギジョウ の クベツ を よく しらない ワタクシ が、 こんな こと を いう シカク に とぼしい の は ショウチ して います が、 ワタクシ は ただ ナンニョ に カンケイ した テン に ついて のみ、 そう みとめて いた の です。 K は ムカシ から ショウジン と いう コトバ が すき でした。 ワタクシ は その コトバ の ナカ に、 キンヨク と いう イミ も こもって いる の だろう と カイシャク して いました。 しかし アト で ジッサイ を きいて みる と、 それ より も まだ ゲンジュウ な イミ が ふくまれて いる ので、 ワタクシ は おどろきました。 ミチ の ため には スベテ を ギセイ に す べき もの だ と いう の が カレ の ダイイチ シンジョウ なの です から、 セツヨク や キンヨク は むろん、 たとい ヨク を はなれた コイ ソノモノ でも ミチ の サマタゲ に なる の です。 K が ジカツ セイカツ を して いる ジブン に、 ワタクシ は よく カレ から カレ の シュチョウ を きかされた の でした。 その コロ から オジョウサン を おもって いた ワタクシ は、 いきおい どうしても カレ に ハンタイ しなければ ならなかった の です。 ワタクシ が ハンタイ する と、 カレ は いつでも キノドク そう な カオ を しました。 そこ には ドウジョウ より も ブベツ の ほう が ヨケイ に あらわれて いました。
 こういう カコ を フタリ の アイダ に とおりぬけて きて いる の です から、 セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は バカ だ と いう コトバ は、 K に とって いたい に ちがいなかった の です。 しかし マエ にも いった とおり、 ワタクシ は この イチゴン で、 カレ が せっかく つみあげた カコ を けちらした つもり では ありません。 かえって それ を イマ まで-どおり つみかさねて ゆかせよう と した の です。 それ が ミチ に たっしよう が、 テン に とどこう が、 ワタクシ は かまいません。 ワタクシ は ただ K が キュウ に セイカツ の ホウコウ を テンカン して、 ワタクシ の リガイ と ショウトツ する の を おそれた の です。 ようするに ワタクシ の コトバ は たんなる リコシン の ハツゲン でした。
「セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は、 バカ だ」
 ワタクシ は 2 ド おなじ コトバ を くりかえしました。 そうして、 その コトバ が K の ウエ に どう エイキョウ する か を みつめて いました。
「バカ だ」 と やがて K が こたえました。 「ボク は バカ だ」
 K は ぴたり と そこ へ たちどまった まま うごきません。 カレ は ジメン の ウエ を みつめて います。 ワタクシ は おもわず ぎょっと しました。 ワタクシ には K が その セツナ に イナオリ ゴウトウ の ごとく かんぜられた の です。 しかし それにしては カレ の コエ が いかにも チカラ に とぼしい と いう こと に キ が つきました。 ワタクシ は カレ の メヅカイ を サンコウ に したかった の です が、 カレ は サイゴ まで ワタクシ の カオ を みない の です。 そうして、 そろそろ と また あるきだしました。

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 ワタクシ は K と ならんで アシ を はこばせながら、 カレ の クチ を でる ツギ の コトバ を ハラ の ナカ で あんに まちうけました。 あるいは マチブセ と いった ほう が まだ テキトウ かも しれません。 その とき の ワタクシ は たとい K を ダマシウチ に して も かまわない くらい に おもって いた の です。 しかし ワタクシ にも キョウイク ソウトウ の リョウシン は あります から、 もし ダレ か ワタクシ の ソバ へ きて、 オマエ は ヒキョウ だ と ヒトコト ささやいて くれる モノ が あった なら、 ワタクシ は その シュンカン に、 はっと ワレ に たちかえった かも しれません。 もし K が その ヒト で あった なら、 ワタクシ は おそらく カレ の マエ に セキメン した でしょう。 ただ K は ワタクシ を たしなめる には あまり に ショウジキ でした。 あまり に タンジュン でした。 あまり に ジンカク が ゼンリョウ だった の です。 メ の くらんだ ワタクシ は、 そこ に ケイイ を はらう こと を わすれて、 かえって そこ に つけこんだ の です。 そこ を リヨウ して カレ を うちたおそう と した の です。
 K は しばらく して、 ワタクシ の ナ を よんで ワタクシ の ほう を みました。 コンド は ワタクシ の ほう で しぜん と アシ を とめました。 すると K も とまりました。 ワタクシ は その とき やっと K の メ を マムキ に みる こと が できた の です。 K は ワタクシ より セイ の たかい オトコ でした から、 ワタクシ は いきおい カレ の カオ を みあげる よう に しなければ なりません。 ワタクシ は そうした タイド で、 オオカミ の ごとき ココロ を ツミ の ない ヒツジ に むけた の です。
「もう その ハナシ は やめよう」 と カレ が いいました。 カレ の メ にも カレ の コトバ にも へんに ヒツウ な ところ が ありました。 ワタクシ は ちょっと アイサツ が できなかった の です。 すると K は、 「やめて くれ」 と コンド は たのむ よう に いいなおしました。 ワタクシ は その とき カレ に むかって ザンコク な コタエ を あたえた の です。 オオカミ が スキ を みて ヒツジ の ノドブエ へ くらいつく よう に。
「やめて くれ って、 ボク が いいだした こと じゃ ない、 もともと キミ の ほう から もちだした ハナシ じゃ ない か。 しかし キミ が やめたければ、 やめて も いい が、 ただ クチ の サキ で やめたって シカタ が あるまい。 キミ の ココロ で それ を やめる だけ の カクゴ が なければ。 いったい キミ は キミ の ヘイゼイ の シュチョウ を どう する つもり なの か」
 ワタクシ が こう いった とき、 セイ の たかい カレ は しぜん と ワタクシ の マエ に イシュク して ちいさく なる よう な カンジ が しました。 カレ は いつも はなす とおり すこぶる ゴウジョウ な オトコ でした けれども、 イッポウ では また ヒトイチバイ の ショウジキモノ でした から、 ジブン の ムジュン など を ひどく ヒナン される バアイ には、 けっして ヘイキ で いられない タチ だった の です。 ワタクシ は カレ の ヨウス を みて ようやく アンシン しました。 すると カレ は そつぜん 「カクゴ?」 と ききました。 そうして ワタクシ が まだ なんとも こたえない サキ に 「カクゴ、 ――カクゴ なら ない こと も ない」 と つけくわえました。 カレ の チョウシ は ヒトリゴト の よう でした。 また ユメ の ナカ の コトバ の よう でした。
 フタリ は それぎり ハナシ を きりあげて、 コイシカワ の ヤド の ほう に アシ を むけました。 わりあい に カゼ の ない あたたか な ヒ でした けれども、 なにしろ フユ の こと です から、 コウエン の ナカ は さびしい もの でした。 ことに シモ に うたれて アオミ を うしなった スギ の コダチ の チャカッショク が、 うすぐろい ソラ の ナカ に、 コズエ を ならべて そびえて いる の を ふりかえって みた とき は、 サムサ が セナカ へ かじりついた よう な ココロモチ が しました。 ワレワレ は ユウグレ の ホンゴウダイ を イソギアシ で どしどし とおりぬけて、 また ムコウ の オカ へ のぼる べく コイシカワ の タニ へ おりた の です。 ワタクシ は その コロ に なって、 ようやく ガイトウ の シタ に タイ の アタタカミ を かんじだした くらい です。
 いそいだ ため でも ありましょう が、 ワレワレ は カエリミチ には ほとんど クチ を ききません でした。 ウチ へ かえって ショクタク に むかった とき、 オクサン は どうして おそく なった の か と たずねました。 ワタクシ は K に さそわれて ウエノ へ いった と こたえました。 オクサン は この さむい のに と いって おどろいた ヨウス を みせました。 オジョウサン は ウエノ に ナニ が あった の か と ききたがります。 ワタクシ は なにも ない が、 ただ サンポ した の だ と いう ヘンジ だけ して おきました。 ヘイゼイ から ムクチ な K は、 イツモ より なお だまって いました。 オクサン が はなしかけて も、 オジョウサン が わらって も、 ろく な アイサツ は しません でした。 それから メシ を のみこむ よう に かきこんで、 ワタクシ が まだ セキ を たたない うち に、 ジブン の ヘヤ へ ひきとりました。

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 その コロ は カクセイ とか あたらしい セイカツ とか いう モンジ の まだ ない ジブン でした。 しかし K が ふるい ジブン を さらり と なげだして、 イチイ に あたらしい ホウガク へ はしりださなかった の は、 ゲンダイジン の カンガエ が カレ に かけて いた から では ない の です。 カレ には なげだす こと の できない ほど たっとい カコ が あった から です。 カレ は その ため に コンニチ まで いきて きた と いって も いい くらい なの です。 だから K が イッチョクセン に アイ の モクテキブツ に むかって モウシン しない と いって、 けっして その アイ の なまぬるい こと を ショウコ-だてる わけ には ゆきません。 いくら シレツ な カンジョウ が もえて いて も、 カレ は むやみ に うごけない の です。 ゼンゴ を わすれる ほど の ショウドウ が おこる キカイ を カレ に あたえない イジョウ、 K は どうしても ちょっと ふみとどまって ジブン の カコ を ふりかえらなければ ならなかった の です。 そう する と カコ が さししめす ミチ を イマ まで-どおり あるかなければ ならなく なる の です。 そのうえ カレ には ゲンダイジン の もたない ゴウジョウ と ガマン が ありました。 ワタクシ は この ソウホウ の テン に おいて よく カレ の ココロ を みぬいて いた つもり なの です。
 ウエノ から かえった バン は、 ワタクシ に とって ヒカクテキ アンセイ な ヨ でした。 ワタクシ は K が ヘヤ へ ひきあげた アト を おいかけて、 カレ の ツクエ の ソバ に すわりこみました。 そうして トリトメ も ない セケンバナシ を わざと カレ に しむけました。 カレ は メイワク そう でした。 ワタクシ の メ には ショウリ の イロ が たしょう かがやいて いた でしょう、 ワタクシ の コエ には たしか に トクイ の ヒビキ が あった の です。 ワタクシ は しばらく K と ヒトツ ヒバチ に テ を かざした アト、 ジブン の ヘヤ に かえりました。 ホカ の こと に かけて は ナニ を して も カレ に およばなかった ワタクシ も、 その とき だけ は おそるる に たりない と いう ジカク を カレ に たいして もって いた の です。
 ワタクシ は ほどなく おだやか な ネムリ に おちました。 しかし とつぜん ワタクシ の ナ を よぶ コエ で メ を さましました。 みる と、 アイダ の フスマ が 2 シャク ばかり あいて、 そこ に K の くろい カゲ が たって います。 そうして カレ の ヘヤ には ヨイ の とおり まだ アカリ が ついて いる の です。 キュウ に セカイ の かわった ワタクシ は、 すこし の アイダ クチ を きく こと も できず に、 ぼうっと して、 その コウケイ を ながめて いました。
 その とき K は もう ねた の か と ききました。 K は いつでも おそく まで おきて いる オトコ でした。 ワタクシ は くろい カゲボウシ の よう な K に むかって、 ナニ か ヨウ か と ききかえしました。 K は たいした ヨウ でも ない、 ただ もう ねた か、 まだ おきて いる か と おもって、 ベンジョ へ いった ツイデ に きいて みた だけ だ と こたえました。 K は ランプ の ヒ を セナカ に うけて いる ので、 カレ の カオイロ や メツキ は、 まったく ワタクシ には わかりません でした。 けれども カレ の コエ は フダン より も かえって おちついて いた くらい でした。
 K は やがて あけた フスマ を ぴたり と たてきりました。 ワタクシ の ヘヤ は すぐ モト の クラヤミ に かえりました。 ワタクシ は その クラヤミ より しずか な ユメ を みる べく また メ を とじました。 ワタクシ は それぎり なにも しりません。 しかし ヨクアサ に なって、 ユウベ の こと を かんがえて みる と、 なんだか フシギ でした。 ワタクシ は コト に よる と、 スベテ が ユメ では ない か と おもいました。 それで メシ を くう とき、 K に ききました。 K は たしか に フスマ を あけて ワタクシ の ナ を よんだ と いいます。 なぜ そんな こと を した の か と たずねる と、 べつに はっきり した ヘンジ も しません。 チョウシ の ぬけた コロ に なって、 チカゴロ は ジュクスイ が できる の か と かえって ムコウ から ワタクシ に とう の です。 ワタクシ は なんだか ヘン に かんじました。
 その ヒ は ちょうど おなじ ジカン に コウギ の はじまる ジカンワリ に なって いた ので、 フタリ は やがて イッショ に ウチ を でました。 ケサ から ユウベ の こと が キ に かかって いる ワタクシ は、 トチュウ で また K を ツイキュウ しました。 けれども K は やはり ワタクシ を マンゾク させる よう な コタエ を しません。 ワタクシ は あの ジケン に ついて ナニ か はなす つもり では なかった の か と ネン を おして みました。 K は そう では ない と つよい チョウシ で いいきりました。 キノウ ウエノ で 「その ハナシ は もう やめよう」 と いった では ない か と チュウイ する ごとく にも きこえました。 K は そういう テン に かけて するどい ジソンシン を もった オトコ なの です。 ふと そこ に キ の ついた ワタクシ は とつぜん カレ の もちいた 「カクゴ」 と いう コトバ を レンソウ しだしました。 すると イマ まで まるで キ に ならなかった その 2 ジ が ミョウ な チカラ で ワタクシ の アタマ を おさえはじめた の です。

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 K の カダン に とんだ セイカク は ワタクシ に よく しれて いました。 カレ の この ジケン に ついて のみ ユウジュウ な ワケ も ワタクシ には ちゃんと のみこめて いた の です。 つまり ワタクシ は イッパン を こころえた うえ で、 レイガイ の バアイ を しっかり つらまえた つもり で トクイ だった の です。 ところが 「カクゴ」 と いう カレ の コトバ を、 アタマ の ナカ で ナンベン も ソシャク して いる うち に、 ワタクシ の トクイ は だんだん イロ を うしなって、 シマイ には ぐらぐら うごきはじめる よう に なりました。 ワタクシ は この バアイ も あるいは カレ に とって レイガイ で ない の かも しれない と おもいだした の です。 スベテ の ギワク、 ハンモン、 オウノウ、 を イチド に カイケツ する サイゴ の シュダン を、 カレ は ムネ の ナカ に たたみこんで いる の では なかろう か と うたぐりはじめた の です。 そうした あたらしい ヒカリ で カクゴ の 2 ジ を ながめかえして みた ワタクシ は、 はっと おどろきました。 その とき の ワタクシ が もし この オドロキ を もって、 もう イッペン カレ の クチ に した カクゴ の ナイヨウ を コウヘイ に みまわしたらば、 まだ よかった かも しれません。 かなしい こと に ワタクシ は メッカチ でした。 ワタクシ は ただ K が オジョウサン に たいして すすんで ゆく と いう イミ に その コトバ を カイシャク しました。 カダン に とんだ カレ の セイカク が、 コイ の ホウメン に ハッキ される の が すなわち カレ の カクゴ だろう と イチズ に おもいこんで しまった の です。
 ワタクシ は ワタクシ にも サイゴ の ケツダン が ヒツヨウ だ と いう コエ を ココロ の ミミ で ききました。 ワタクシ は すぐ その コエ に おうじて ユウキ を ふりおこしました。 ワタクシ は K より サキ に、 しかも K の しらない マ に、 コト を はこばなくて は ならない と カクゴ を きめました。 ワタクシ は だまって キカイ を ねらって いました。 しかし フツカ たって も ミッカ たって も、 ワタクシ は それ を つらまえる こと が できません。 ワタクシ は K の いない とき、 また オジョウサン の ルス な オリ を まって、 オクサン に ダンパン を ひらこう と かんがえた の です。 しかし カタホウ が いなければ、 カタホウ が ジャマ を する と いった フウ の ヒ ばかり つづいて、 どうしても 「イマ だ」 と おもう コウツゴウ が でて きて くれない の です。 ワタクシ は いらいら しました。
 1 シュウカン の ノチ ワタクシ は とうとう たえきれなく なって ケビョウ を つかいました。 オクサン から も オジョウサン から も、 K ジシン から も、 おきろ と いう サイソク を うけた ワタクシ は、 ナマヘンジ を した だけ で、 10 ジ-ゴロ まで フトン を かぶって ねて いました。 ワタクシ は K も オジョウサン も いなく なって、 イエ の ナカ が ひっそり しずまった コロ を みはからって ネドコ を でました。 ワタクシ の カオ を みた オクサン は、 すぐ どこ が わるい か と たずねました。 タベモノ は マクラモト へ はこんで やる から、 もっと ねて いたら よかろう と チュウコク して も くれました。 カラダ に イジョウ の ない ワタクシ は、 とても ねる キ には なれません。 カオ を あらって イツモ の とおり チャノマ で メシ を くいました。 その とき オクサン は ナガヒバチ の ムコウガワ から キュウジ を して くれた の です。 ワタクシ は アサメシ とも ヒルメシ とも かたづかない チャワン を テ に もった まま、 どんな ふう に モンダイ を きりだした もの だろう か と、 それ ばかり に クッタク して いた から、 ガイカン から は じっさい キブン の よく ない ビョウニン-らしく みえた だろう と おもいます。
 ワタクシ は メシ を しまって タバコ を ふかしだしました。 ワタクシ が たたない ので オクサン も ヒバチ の ソバ を はなれる わけ に ゆきません。 ゲジョ を よんで ゼン を さげさせた うえ、 テツビン に ミズ を さしたり、 ヒバチ の フチ を ふいたり して、 ワタクシ に チョウシ を あわせて います。 ワタクシ は オクサン に トクベツ な ヨウジ でも ある の か と といました。 オクサン は いいえ と こたえました が、 コンド は ムコウ で なぜ です と ききかえして きました。 ワタクシ は じつは すこし はなしたい こと が ある の だ と いいました。 オクサン は ナン です か と いって、 ワタクシ の カオ を みました。 オクサン の チョウシ は まるで ワタクシ の キブン に はいりこめない よう な かるい もの でした から、 ワタクシ は ツギ に だす べき モンク も すこし しぶりました。
 ワタクシ は しかたなし に コトバ の ウエ で、 イイカゲン に うろつきまわった スエ、 K が チカゴロ ナニ か いい は しなかった か と オクサン に きいて みました。 オクサン は おもい も よらない と いう フウ を して、 「ナニ を?」 と また ハンモン して きました。 そうして ワタクシ の こたえる マエ に、 「アナタ には ナニ か おっしゃった ん です か」 と かえって ムコウ で きく の です。

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 K から きかされた ウチアケバナシ を、 オクサン に つたえる キ の なかった ワタクシ は、 「いいえ」 と いって しまった アト で、 すぐ ジブン の ウソ を こころよからず かんじました。 シカタ が ない から、 べつだん なにも たのまれた オボエ は ない の だ から、 K に かんする ヨウケン では ない の だ と いいなおしました。 オクサン は 「そう です か」 と いって、 アト を まって います。 ワタクシ は どうしても きりださなければ ならなく なりました。 ワタクシ は とつぜん 「オクサン、 オジョウサン を ワタクシ に ください」 と いいました。 オクサン は ワタクシ の ヨキ して かかった ほど おどろいた ヨウス も みせません でした が、 それでも しばらく ヘンジ が できなかった もの と みえて、 だまって ワタクシ の カオ を ながめて いました。 イチド いいだした ワタクシ は、 いくら カオ を みられて も、 それ に トンジャク など は して いられません。 「ください、 ぜひ ください」 と いいました。 「ワタクシ の ツマ と して ぜひ ください」 と いいました。 オクサン は トシ を とって いる だけ に、 ワタクシ より も ずっと おちついて いました。 「あげて も いい が、 あんまり キュウ じゃ ありません か」 と きく の です。 ワタクシ が 「キュウ に もらいたい の だ」 と すぐ こたえたら わらいだしました。 そうして 「よく かんがえた の です か」 と ネン を おす の です。 ワタクシ は いいだした の は トツゼン でも、 かんがえた の は トツゼン で ない と いう ワケ を つよい コトバ で セツメイ しました。
 それから まだ フタツ ミッツ の モンドウ が ありました が、 ワタクシ は それ を わすれて しまいました。 オトコ の よう に はきはき した ところ の ある オクサン は、 フツウ の オンナ と ちがって こんな バアイ には たいへん ココロモチ よく ハナシ の できる ヒト でした。 「よ ござんす、 さしあげましょう」 と いいました。 「さしあげる なんて いばった クチ の きける キョウグウ では ありません。 どうぞ もらって ください。 ゴゾンジ の とおり チチオヤ の ない あわれ な コ です」 と アト では ムコウ から たのみました。
 ハナシ は カンタン で かつ メイリョウ に かたづいて しまいました。 サイショ から シマイ まで に おそらく 15 フン とは かからなかった でしょう。 オクサン は なんの ジョウケン も もちださなかった の です。 シンルイ に ソウダン する ヒツヨウ も ない、 アト から ことわれば それ で タクサン だ と いいました。 ホンニン の イコウ さえ たしかめる に およばない と メイゲン しました。 そんな テン に なる と、 ガクモン を した ワタクシ の ほう が、 かえって ケイシキ に コウデイ する くらい に おもわれた の です。 シンルイ は とにかく、 トウニン には あらかじめ はなして ショウダク を うる の が ジュンジョ-らしい と ワタクシ が チュウイ した とき、 オクサン は 「だいじょうぶ です。 ホンニン が フショウチ の ところ へ、 ワタクシ が あの コ を やる はず が ありません から」 と いいました。
 ジブン の ヘヤ へ かえった ワタクシ は、 コト の あまり に ワケ も なく シンコウ した の を かんがえて、 かえって ヘン な キモチ に なりました。 はたして だいじょうぶ なの だろう か と いう ギネン さえ、 どこ から か アタマ の ソコ に はいこんで きた くらい です。 けれども ダイタイ の ウエ に おいて、 ワタクシ の ミライ の ウンメイ は、 これ で さだめられた の だ と いう カンネン が ワタクシ の スベテ を あらた に しました。
 ワタクシ は ヒルゴロ また チャノマ へ でかけて いって、 オクサン に、 ケサ の ハナシ を オジョウサン に いつ つうじて くれる つもり か と たずねました。 オクサン は、 ジブン さえ ショウチ して いれば、 いつ はなして も かまわなかろう と いう よう な こと を いう の です。 こう なる と なんだか ワタクシ より も アイテ の ほう が オトコ みた よう なので、 ワタクシ は それぎり ひきこもう と しました。 すると オクサン が ワタクシ を ひきとめて、 もし はやい ほう が キボウ ならば、 キョウ でも いい、 ケイコ から かえって きたら、 すぐ はなそう と いう の です。 ワタクシ は そうして もらう ほう が ツゴウ が いい と こたえて また ジブン の ヘヤ に かえりました。 しかし だまって ジブン の ツクエ の マエ に すわって、 フタリ の コソコソバナシ を トオク から きいて いる ワタクシ を ソウゾウ して みる と、 なんだか おちついて いられない よう な キ も する の です。 ワタクシ は とうとう ボウシ を かぶって オモテ へ でました。 そうして また サカ の シタ で オジョウサン に ゆきあいました。 なんにも しらない オジョウサン は ワタクシ を みて おどろいた らしかった の です。 ワタクシ が ボウシ を とって 「イマ オカエリ」 と たずねる と、 ムコウ では もう ビョウキ は なおった の か と フシギ そう に きく の です。 ワタクシ は 「ええ なおりました、 なおりました」 と こたえて、 ずんずん スイドウバシ の ほう へ まがって しまいました。

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 ワタクシ は サルガク-チョウ から ジンボウ-チョウ の トオリ へ でて、 オガワマチ の ほう へ まがりました。 ワタクシ が この カイワイ を あるく の は、 いつも フルホンヤ を ひやかす の が モクテキ でした が、 その ヒ は テズレ の した ショモツ など を ながめる キ が、 どうしても おこらない の です。 ワタクシ は あるきながら たえず ウチ の こと を かんがえて いました。 ワタクシ には サッキ の オクサン の キオク が ありました。 それから オジョウサン が ウチ へ かえって から の ソウゾウ が ありました。 ワタクシ は つまり この フタツ の もの で あるかせられて いた よう な もの です。 そのうえ ワタクシ は ときどき オウライ の マンナカ で われしらず ふと たちどまりました。 そうして イマゴロ は オクサン が オジョウサン に もう あの ハナシ を して いる ジブン だろう など と かんがえました。 また ある とき は、 もう あの ハナシ が すんだ コロ だ とも おもいました。
 ワタクシ は とうとう マンセイバシ を わたって、 ミョウジン の サカ を あがって、 ホンゴウダイ へ きて、 それから また キクザカ を おりて、 シマイ に コイシカワ の タニ へ おりた の です。 ワタクシ の あるいた キョリ は この 3 ク に またがって、 イビツ な エン を えがいた とも いわれる でしょう が、 ワタクシ は この ながい サンポ の アイダ ほとんど K の こと を かんがえなかった の です。 イマ その とき の ワタクシ を カイコ して、 なぜ だ と ジブン に きいて みて も いっこう わかりません。 ただ フシギ に おもう だけ です。 ワタクシ の ココロ が K を わすれうる くらい、 イッポウ に キンチョウ して いた と みれば それまで です が、 ワタクシ の リョウシン が また それ を ゆるす べき はず は なかった の です から。
 K に たいする ワタクシ の リョウシン が フッカツ した の は、 ワタクシ が ウチ の コウシ を あけて、 ゲンカン から ザシキ へ とおる とき、 すなわち レイ の ごとく カレ の ヘヤ を ぬけよう と した シュンカン でした。 カレ は イツモ の とおり ツクエ に むかって ショケン を して いました。 カレ は イツモ の とおり ショモツ から メ を はなして、 ワタクシ を みました。 しかし カレ は イツモ の とおり イマ かえった の か とは いいません でした。 カレ は 「ビョウキ は もう いい の か、 イシャ へ でも いった の か」 と ききました。 ワタクシ は その セツナ に、 カレ の マエ に テ を ついて、 あやまりたく なった の です。 しかも ワタクシ の うけた その とき の ショウドウ は けっして よわい もの では なかった の です。 もし K と ワタクシ が たった フタリ コウヤ の マンナカ に でも たって いた ならば、 ワタクシ は きっと リョウシン の メイレイ に したがって、 その バ で カレ に シャザイ したろう と おもいます。 しかし オク には ヒト が います。 ワタクシ の シゼン は すぐ そこ で くいとめられて しまった の です。 そうして かなしい こと に エイキュウ に フッカツ しなかった の です。
 ユウメシ の とき K と ワタクシ は また カオ を あわせました。 なんにも しらない K は ただ しずんで いた だけ で、 すこしも うたがいぶかい メ を ワタクシ に むけません。 なんにも しらない オクサン は イツモ より うれしそう でした。 ワタクシ だけ が スベテ を しって いた の です。 ワタクシ は ナマリ の よう な メシ を くいました。 その とき オジョウサン は イツモ の よう に ミンナ と おなじ ショクタク に ならびません でした。 オクサン が サイソク する と、 ツギ の ヘヤ で ただいま と こたえる だけ でした。 それ を K は フシギ そう に きいて いました。 シマイ に どうした の か と オクサン に たずねました。 オクサン は おおかた キマリ が わるい の だろう と いって、 ちょっと ワタクシ の カオ を みました。 K は なお フシギ そう に、 なんで キマリ が わるい の か と ツイキュウ し に かかりました。 オクサン は ビショウ しながら また ワタクシ の カオ を みる の です。
 ワタクシ は ショクタク に ついた ハジメ から、 オクサン の カオツキ で、 コト の ナリユキ を ほぼ スイサツ して いました。 しかし K に セツメイ を あたえる ため に、 ワタクシ の いる マエ で、 それ を ことごとく はなされて は たまらない と かんがえました。 オクサン は また その くらい の こと を ヘイキ で する オンナ なの です から、 ワタクシ は ひやひや した の です。 サイワイ に K は また モト の チンモク に かえりました。 ヘイゼイ より たしょう キゲン の よかった オクサン も、 とうとう ワタクシ の オソレ を いだいて いる テン まで は ハナシ を すすめず に しまいました。 ワタクシ は ほっと ヒトイキ して ヘヤ へ かえりました。 しかし ワタクシ が これから サキ K に たいして とる べき タイド は、 どうした もの だろう か、 ワタクシ は それ を かんがえず には いられません でした。 ワタクシ は イロイロ の ベンゴ を ジブン の ムネ で こしらえて みました。 けれども どの ベンゴ も K に たいして メン と むかう には たりません でした。 ヒキョウ な ワタクシ は ついに ジブン で ジブン を K に セツメイ する の が いや に なった の です。

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 ワタクシ は そのまま 2~3 ニチ すごしました。 その 2~3 ニチ の アイダ K に たいする たえざる フアン が ワタクシ の ムネ を おもく して いた の は いう まで も ありません。 ワタクシ は ただでさえ なんとか しなければ、 カレ に すまない と おもった の です。 そのうえ オクサン の チョウシ や、 オジョウサン の タイド が、 しじゅう ワタクシ を つっつく よう に シゲキ する の です から、 ワタクシ は なお つらかった の です。 どこ か おとこらしい キショウ を そなえた オクサン は、 いつ ワタクシ の こと を ショクタク で K に すっぱぬかない とも かぎりません。 それ イライ ことに めだつ よう に おもえた ワタクシ に たいする オジョウサン の キョシ ドウサ も、 K の ココロ を くもらす フシン の タネ と ならない とは ダンゲン できません。 ワタクシ は なんとか して、 ワタクシ と この カゾク との アイダ に なりたった あたらしい カンケイ を、 K に しらせなければ ならない イチ に たちました。 しかし リンリテキ に ジャクテン を もって いる と、 ジブン で ジブン を みとめて いる ワタクシ には、 それ が また シナン の こと の よう に かんぜられた の です。
 ワタクシ は シカタ が ない から、 オクサン に たのんで K に あらためて そう いって もらおう か と かんがえました。 むろん ワタクシ の いない とき に です。 しかし アリノママ を つげられて は、 チョクセツ と カンセツ の クベツ が ある だけ で、 メンボク の ない の に カワリ は ありません。 と いって、 コシラエゴト を はなして もらおう と すれば、 オクサン から その リユウ を キツモン される に きまって います。 もし オクサン に スベテ の ジジョウ を うちあけて たのむ と すれば、 ワタクシ は このんで ジブン の ジャクテン を ジブン の アイジン と その ハハオヤ の マエ に さらけださなければ なりません。 マジメ な ワタクシ には、 それ が ワタクシ の ミライ の シンヨウ に かんする と しか おもわれなかった の です。 ケッコン する マエ から コイビト の シンヨウ を うしなう の は、 たとい イチブ イチリン でも、 ワタクシ には たえきれない フコウ の よう に みえました。
 ようするに ワタクシ は ショウジキ な ミチ を あるく つもり で、 つい アシ を すべらした バカモノ でした。 もしくは コウカツ な オトコ でした。 そうして そこ に キ の ついて いる もの は、 イマ の ところ ただ テン と ワタクシ の ココロ だけ だった の です。 しかし たちなおって、 もう イッポ マエ へ ふみだそう と する には、 イマ すべった こと を ぜひとも シュウイ の ヒト に しられなければ ならない キュウキョウ に おちいった の です。 ワタクシ は あくまで すべった こと を かくしたがりました。 ドウジ に、 どうしても マエ へ でず には いられなかった の です。 ワタクシ は この アイダ に はさまって また たちすくみました。
 5~6 ニチ たった ノチ、 オクサン は とつぜん ワタクシ に むかって、 K に あの こと を はなした か と きく の です。 ワタクシ は まだ はなさない と こたえました。 すると なぜ はなさない の か と、 オクサン が ワタクシ を なじる の です。 ワタクシ は この トイ の マエ に かたく なりました。 その とき オクサン が ワタクシ を おどろかした コトバ を、 ワタクシ は イマ でも わすれず に おぼえて います。
「どうりで ワタシ が はなしたら ヘン な カオ を して いました よ。 アナタ も よく ない じゃ ありません か、 ヘイゼイ あんな に したしく して いる アイダガラ だ のに、 だまって しらん カオ を して いる の は」
 ワタクシ は K が その とき ナニ か いい は しなかった か と オクサン に ききました。 オクサン は べつだん なんにも いわない と こたえました。 しかし ワタクシ は すすんで もっと こまかい こと を たずねず には いられません でした。 オクサン は もとより なにも かくす わけ が ありません。 たいした ハナシ も ない が と いいながら、 いちいち K の ヨウス を かたって きかせて くれました。
 オクサン の いう ところ を ソウゴウ して かんがえて みる と、 K は この サイゴ の ダゲキ を、 もっとも おちついた オドロキ を もって むかえた らしい の です。 K は オジョウサン と ワタクシ との アイダ に むすばれた あたらしい カンケイ に ついて、 サイショ は そう です か と ただ ヒトクチ いった だけ だった そう です。 しかし オクサン が、 「アナタ も よろこんで ください」 と のべた とき、 カレ は はじめて オクサン の カオ を みて ビショウ を もらしながら、 「おめでとう ございます」 と いった まま セキ を たった そう です。 そうして チャノマ の ショウジ を あける マエ に、 また オクサン を ふりかえって、 「ケッコン は いつ です か」 と きいた そう です。 それから 「ナニ か オイワイ を あげたい が、 ワタクシ は カネ が ない から あげる こと が できません」 と いった そう です。 オクサン の マエ に すわって いた ワタクシ は、 その ハナシ を きいて ムネ が ふさがる よう な クルシサ を おぼえました。

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 カンジョウ して みる と オクサン が K に ハナシ を して から もう フツカ あまり に なります。 その アイダ K は ワタクシ に たいして すこしも イゼン と ことなった ヨウス を みせなかった ので、 ワタクシ は まったく それ に キ が つかず に いた の です。 カレ の ちょうぜん と した タイド は たとい ガイカン だけ にも せよ、 ケイフク に あたいす べき だ と ワタクシ は かんがえました。 カレ と ワタクシ を アタマ の ナカ で ならべて みる と、 カレ の ほう が はるか に リッパ に みえました。 「オレ は サクリャク で かって も ニンゲン と して は まけた の だ」 と いう カンジ が ワタクシ の ムネ に うずまいて おこりました。 ワタクシ は その とき さぞ K が ケイベツ して いる こと だろう と おもって、 ヒトリ で カオ を あからめました。 しかし いまさら K の マエ に でて、 ハジ を かかせられる の は、 ワタクシ の ジソンシン に とって おおいな クツウ でした。
 ワタクシ が すすもう か よそう か と かんがえて、 ともかくも あくる ヒ まで まとう と ケッシン した の は ドヨウ の バン でした。 ところが その バン に、 K は ジサツ して しんで しまった の です。 ワタクシ は イマ でも その コウケイ を おもいだす と ぞっと します。 いつも ヒガシマクラ で ねる ワタクシ が、 その バン に かぎって、 ぐうぜん ニシマクラ に トコ を しいた の も、 ナニ か の インネン かも しれません。 ワタクシ は マクラモト から ふきこむ さむい カゼ で ふと メ を さました の です。 みる と、 いつも たてきって ある K と ワタクシ の ヘヤ との シキリ の フスマ が、 コノアイダ の バン と おなじ くらい あいて います。 けれども コノアイダ の よう に、 K の くろい スガタ は そこ には たって いません。 ワタクシ は アンジ を うけた ヒト の よう に、 トコ の ウエ に ヒジ を ついて おきあがりながら、 きっと K の ヘヤ を のぞきました。 ランプ が くらく ともって いる の です。 それ で トコ も しいて ある の です。 しかし カケブトン は はねかえされた よう に スソ の ほう に かさなりあって いる の です。 そうして K ジシン は ムコウムキ に つっぷして いる の です。
 ワタクシ は おい と いって コエ を かけました。 しかし なんの コタエ も ありません。 おい どうか した の か と ワタクシ は また K を よびました。 それでも K の カラダ は ちっとも うごきません。 ワタクシ は すぐ おきあがって、 シキイギワ まで ゆきました。 そこ から カレ の ヘヤ の ヨウス を、 くらい ランプ の ヒカリ で みまわして みました。
 その とき ワタクシ の うけた ダイイチ の カンジ は、 K から とつぜん コイ の ジハク を きかされた とき の それ と ほぼ おなじ でした。 ワタクシ の メ は カレ の ヘヤ の ナカ を ヒトメ みる や いなや、 あたかも ガラス で つくった ギガン の よう に、 うごく ノウリョク を うしないました。 ワタクシ は ボウダチ に たちすくみました。 それ が シップウ の ごとく ワタクシ を ツウカ した アト で、 ワタクシ は また ああ しまった と おもいました。 もう トリカエシ が つかない と いう くろい ヒカリ が、 ワタクシ の ミライ を つらぬいて、 イッシュンカン に ワタクシ の マエ に よこたわる ゼンショウガイ を ものすごく てらしました。 そうして ワタクシ は がたがた ふるえだした の です。
 それでも ワタクシ は ついに ワタクシ を わすれる こと が できません でした。 ワタクシ は すぐ ツクエ の ウエ に おいて ある テガミ に メ を つけました。 それ は ヨキドオリ ワタクシ の ナアテ に なって いました。 ワタクシ は ムチュウ で フウ を きりました。 しかし ナカ には ワタクシ の ヨキ した よう な こと は なんにも かいて ありません でした。 ワタクシ は ワタクシ に とって どんな に つらい モンク が その ナカ に かきつらねて ある だろう と ヨキ した の です。 そうして、 もし それ が オクサン や オジョウサン の メ に ふれたら、 どんな に ケイベツ される かも しれない と いう キョウフ が あった の です。 ワタクシ は ちょっと メ を とおした だけ で、 まず たすかった と おもいました。 (もとより セケンテイ の ウエ だけ で たすかった の です が、 その セケンテイ が この バアイ、 ワタクシ に とって は ヒジョウ な ジュウダイ ジケン に みえた の です。)
 テガミ の ナイヨウ は カンタン でした。 そうして むしろ チュウショウテキ でした。 ジブン は ハクシ ジャッコウ で とうてい ユクサキ の ノゾミ が ない から、 ジサツ する と いう だけ なの です。 それから イマ まで ワタクシ に セワ に なった レイ が、 ごく あっさり した モンク で その アト に つけくわえて ありました。 セワ ツイデ に シゴ の カタヅケカタ も たのみたい と いう コトバ も ありました。 オクサン に メイワク を かけて すまん から よろしく ワビ を して くれ と いう ク も ありました。 クニモト へは ワタクシ から しらせて もらいたい と いう イライ も ありました。 ヒツヨウ な こと は みんな ヒトクチ ずつ かいて ある ナカ に オジョウサン の ナマエ だけ は どこ にも みえません。 ワタクシ は シマイ まで よんで、 すぐ K が わざと カイヒ した の だ と いう こと に キ が つきました。 しかし ワタクシ の もっとも ツウセツ に かんじた の は、 サイゴ に スミ の アマリ で かきそえた らしく みえる、 もっと はやく しぬ べき だ のに なぜ イマ まで いきて いた の だろう と いう イミ の モンク でした。
 ワタクシ は ふるえる テ で、 テガミ を まきおさめて、 ふたたび フウ の ナカ へ いれました。 ワタクシ は わざと それ を ミンナ の メ に つく よう に、 モト の とおり ツクエ の ウエ に おきました。 そうして ふりかえって、 フスマ に ほとばしって いる チシオ を はじめて みた の です。

ココロ 「センセイ と イショ 7」

2015-03-21 | ナツメ ソウセキ
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 ワタクシ は とつぜん K の アタマ を かかえる よう に リョウテ で すこし もちあげました。 ワタクシ は K の シニガオ が ヒトメ みたかった の です。 しかし ウツブシ に なって いる カレ の カオ を、 こうして シタ から のぞきこんだ とき、 ワタクシ は すぐ その テ を はなして しまいました。 ぞっと した ばかり では ない の です。 カレ の アタマ が ヒジョウ に おもたく かんぜられた の です。 ワタクシ は ウエ から イマ さわった つめたい ミミ と、 ヘイゼイ に かわらない ゴブガリ の こい カミノケ を しばらく ながめて いました。 ワタクシ は すこしも なく キ には なれません でした。 ワタクシ は ただ おそろしかった の です。 そうして その オソロシサ は、 メノマエ の コウケイ が カンノウ を シゲキ して おこる タンチョウ な オソロシサ ばかり では ありません。 ワタクシ は こつぜん と つめたく なった この トモダチ に よって アンジ された ウンメイ の オソロシサ を ふかく かんじた の です。
 ワタクシ は なんの フンベツ も なく また ワタクシ の ヘヤ に かえりました。 そうして 8 ジョウ の ナカ を ぐるぐる まわりはじめました。 ワタクシ の アタマ は ムイミ でも とうぶん そうして うごいて いろ と ワタクシ に メイレイ する の です。 ワタクシ は どうか しなければ ならない と おもいました。 ドウジ に もう どう する こと も できない の だ と おもいました。 ザシキ の ナカ を ぐるぐる まわらなければ いられなく なった の です。 オリ の ナカ へ いれられた クマ の よう な タイド で。
 ワタクシ は ときどき オク へ いって オクサン を おこそう と いう キ に なります。 けれども オンナ に この おそろしい アリサマ を みせて は わるい と いう ココロモチ が すぐ ワタクシ を さえぎります。 オクサン は とにかく、 オジョウサン を おどろかす こと は、 とても できない と いう つよい イシ が ワタクシ を おさえつけます。 ワタクシ は また ぐるぐる まわりはじめる の です。
 ワタクシ は その アイダ に ジブン の ヘヤ の ランプ を つけました。 それから トケイ を おりおり みました。 その とき の トケイ ほど ラチ の あかない おそい もの は ありません でした。 ワタクシ の おきた ジカン は、 セイカク に わからない の です けれども、 もう ヨアケ に マ も なかった こと だけ は あきらか です。 ぐるぐる まわりながら、 その ヨアケ を まちこがれた ワタクシ は、 エイキュウ に くらい ヨル が つづく の では なかろう か と いう オモイ に なやまされました。
 ワレワレ は 7 ジ マエ に おきる シュウカン でした。 ガッコウ は 8 ジ に はじまる こと が おおい ので、 それ で ない と ジュギョウ に まにあわない の です。 ゲジョ は その カンケイ で 6 ジ-ゴロ に おきる わけ に なって いました。 しかし その ヒ ワタクシ が ゲジョ を おこし に いった の は まだ 6 ジ マエ でした。 すると オクサン が キョウ は ニチヨウ だ と いって チュウイ して くれました。 オクサン は ワタクシ の アシオト で メ を さました の です。 ワタクシ は オクサン に メ が さめて いる なら、 ちょっと ワタクシ の ヘヤ まで きて くれ と たのみました。 オクサン は ネマキ の ウエ へ フダンギ の ハオリ を ひっかけて、 ワタクシ の アト に ついて きました。 ワタクシ は ヘヤ へ はいる や いなや、 イマ まで あいて いた シキリ の フスマ を すぐ たてきりました。 そうして オクサン に とんだ こと が できた と コゴエ で つげました。 オクサン は ナン だ と ききました。 ワタクシ は アゴ で トナリ の ヘヤ を さす よう に して、 「おどろいちゃ いけません」 と いいました。 オクサン は あおい カオ を しました。 「オクサン、 K は ジサツ しました」 と ワタクシ が また いいました。 オクサン は そこ に いすくまった よう に、 ワタクシ の カオ を みて だまって いました。 その とき ワタクシ は とつぜん オクサン の マエ へ テ を ついて アタマ を さげました。 「すみません。 ワタクシ が わるかった の です。 アナタ にも オジョウサン にも すまない こと に なりました」 と あやまりました。 ワタクシ は オクサン と むかいあう まで、 そんな コトバ を クチ に する キ は まるで なかった の です。 しかし オクサン の カオ を みた とき フイ に ワレ とも しらず そう いって しまった の です。 K に あやまる こと の できない ワタクシ は、 こうして オクサン と オジョウサン に わびなければ いられなく なった の だ と おもって ください。 つまり ワタクシ の シゼン が ヘイゼイ の ワタクシ を だしぬいて ふらふら と ザンゲ の クチ を ひらかした の です。 オクサン が そんな ふかい イミ に、 ワタクシ の コトバ を カイシャク しなかった の は ワタクシ に とって サイワイ でした。 あおい カオ を しながら、 「フリョ の デキゴト なら シカタ が ない じゃ ありません か」 と なぐさめる よう に いって くれました。 しかし その カオ には オドロキ と オソレ と が、 ほりつけられた よう に、 かたく キンニク を つかんで いました。

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 ワタクシ は オクサン に キノドク でした けれども、 また たって イマ しめた ばかり の カラカミ を あけました。 その とき K の ランプ に アブラ が つきた と みえて、 ヘヤ の ナカ は ほとんど マックラ でした。 ワタクシ は ひきかえして ジブン の ランプ を テ に もった まま、 イリグチ に たって オクサン を かえりみました。 オクサン は ワタクシ の ウシロ から かくれる よう に して、 4 ジョウ の ナカ を のぞきこみました。 しかし はいろう とは しません。 そこ は ソノママ に して おいて、 アマド を あけて くれ と ワタクシ に いいました。
 それから アト の オクサン の タイド は、 さすが に グンジン の ビボウジン だけ あって ヨウリョウ を えて いました。 ワタクシ は イシャ の ところ へも ゆきました。 また ケイサツ へも ゆきました。 しかし みんな オクサン に メイレイ されて いった の です。 オクサン は そうした テツヅキ の すむ まで、 ダレ も K の ヘヤ へは いれません でした。
 K は ちいさな ナイフ で ケイドウミャク を きって ヒトイキ に しんで しまった の です。 ホカ に キズ らしい もの は なんにも ありません でした。 ワタクシ が ユメ の よう な うすぐらい ヒ で みた カラカミ の チシオ は、 カレ の クビスジ から イチド に ほとばしった もの と しれました。 ワタクシ は ニッチュウ の ヒカリ で あきらか に その アト を ふたたび ながめました。 そうして ニンゲン の チ の イキオイ と いう もの の はげしい の に おどろきました。
 オクサン と ワタクシ は できる だけ の テギワ と クフウ を もちいて、 K の ヘヤ を ソウジ しました。 カレ の チシオ の ダイブブン は、 さいわい カレ の フトン に キュウシュウ されて しまった ので、 タタミ は それほど よごれない で すみました から、 アトシマツ は まだ ラク でした。 フタリ は カレ の シガイ を ワタクシ の ヘヤ に いれて、 フダン の とおり ねて いる テイ に ヨコ に しました。 ワタクシ は それから カレ の ジッカ へ デンポウ を うち に でた の です。
 ワタクシ が かえった とき は、 K の マクラモト に もう センコウ が たてられて いました。 ヘヤ へ はいる と すぐ ほとけくさい ケムリ で ハナ を うたれた ワタクシ は、 その ケムリ の ナカ に すわって いる オンナ フタリ を みとめました。 ワタクシ が オジョウサン の カオ を みた の は、 サクヤライ この とき が はじめて でした。 オジョウサン は ないて いました。 オクサン も メ を あかく して いました。 ジケン が おこって から それまで なく こと を わすれて いた ワタクシ は、 その とき ようやく かなしい キブン に さそわれる こと が できた の です。 ワタクシ の ムネ は その カナシサ の ため に、 どの くらい くつろいだ か しれません。 クツウ と キョウフ で ぐいと にぎりしめられた ワタクシ の ココロ に、 イッテキ の ウルオイ を あたえて くれた もの は、 その とき の カナシサ でした。
 ワタクシ は だまって フタリ の ソバ に すわって いました。 オクサン は ワタクシ にも センコウ を あげて やれ と いいます。 ワタクシ は センコウ を あげて また だまって すわって いました。 オジョウサン は ワタクシ には なんとも いいません。 たまに オクサン と ヒトクチ フタクチ コトバ を かわす こと が ありました が、 それ は トウザ の ヨウジ に ついて のみ でした。 オジョウサン には K の セイゼン に ついて かたる ほど の ヨユウ が まだ でて こなかった の です。 ワタクシ は それでも ユウベ の ものすごい アリサマ を みせず に すんで まだ よかった と ココロ の ウチ で おもいました。 わかい うつくしい ヒト に おそろしい もの を みせる と、 せっかく の ウツクシサ が、 その ため に ハカイ されて しまいそう で ワタクシ は こわかった の です。 ワタクシ の オソロシサ が ワタクシ の カミノケ の マッタン まで きた とき で すら、 ワタクシ は その カンガエ を ドガイ に おいて コウドウ する こと は できません でした。 ワタクシ には きれい な ハナ を ツミ も ない のに みだり に むちうつ と おなじ よう な フカイ が その ウチ に こもって いた の です。
 クニモト から K の チチ と アニ が でて きた とき、 ワタクシ は K の イコツ を どこ へ うめる か に ついて ジブン の イケン を のべました。 ワタクシ は カレ の セイゼン に ゾウシガヤ キンペン を よく イッショ に サンポ した こと が あります。 K には そこ が たいへん キ に いって いた の です。 それで ワタクシ は ジョウダン ハンブン に、 そんな に すき なら しんだら ここ へ うめて やろう と ヤクソク した オボエ が ある の です。 ワタクシ も イマ その ヤクソクドオリ K を ゾウシガヤ へ ほうむった ところ で、 どの くらい の クドク に なる もの か とは おもいました。 けれども ワタクシ は ワタクシ の いきて いる かぎり、 K の ハカ の マエ に ひざまずいて ツキヅキ ワタクシ の ザンゲ を あらた に したかった の です。 イマ まで かまいつけなかった K を、 ワタクシ が バンジ セワ を して きた と いう ギリ も あった の でしょう、 K の チチ も アニ も ワタクシ の いう こと を きいて くれました。

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 K の ソウシキ の カエリミチ に、 ワタクシ は その ユウジン の ヒトリ から、 K が どうして ジサツ した の だろう と いう シツモン を うけました。 ジケン が あって イライ ワタクシ は もう ナンド と なく この シツモン で くるしめられて いた の です。 オクサン も オジョウサン も、 クニ から でて きた K の フケイ も、 ツウチ を だした シリアイ も、 カレ とは なんの エンコ も ない シンブン キシャ まで も、 かならず ドウヨウ の シツモン を ワタクシ に かけない こと は なかった の です。 ワタクシ の リョウシン は その たび に ちくちく さされる よう に いたみました。 そうして ワタクシ は この シツモン の ウラ に、 はやく オマエ が ころした と ハクジョウ して しまえ と いう コエ を きいた の です。
 ワタクシ の コタエ は ダレ に たいして も おなじ でした。 ワタクシ は ただ カレ の ワタクシ-アテ で かきのこした テガミ を くりかえす だけ で、 ホカ に ヒトクチ も つけくわえる こと は しません でした。 ソウシキ の カエリ に おなじ トイ を かけて、 おなじ コタエ を えた K の ユウジン は、 フトコロ から 1 マイ の シンブン を だして ワタクシ に みせました。 ワタクシ は あるきながら その ユウジン に よって さししめされた カショ を よみました。 それ には K が フケイ から カンドウ された ケッカ エンセイテキ な カンガエ を おこして ジサツ した と かいて ある の です。 ワタクシ は なんにも いわず に、 その シンブン を たたんで ユウジン の テ に かえしました。 ユウジン は この ホカ にも K が キ が くるって ジサツ した と かいた シンブン が ある と いって おしえて くれました。 いしがしい ので、 ほとんど シンブン を よむ ヒマ が なかった ワタクシ は、 まるで そうした ホウメン の チシキ を かいて いました が、 ハラ の ナカ では しじゅう キ に かかって いた ところ でした。 ワタクシ は ナニ より も ウチ の モノ の メイワク に なる よう な キジ の でる の を おそれた の です。 ことに ナマエ だけ に せよ オジョウサン が ヒキアイ に でたら たまらない と おもって いた の です。 ワタクシ は その ユウジン に ホカ に なんとか かいた の は ない か と ききました。 ユウジン は ジブン の メ に ついた の は、 ただ その 2 シュ ぎり だ と こたえました。
 ワタクシ が イマ おる イエ へ ひっこした の は それから まもなく でした。 オクサン も オジョウサン も マエ の ところ に いる の を いやがります し、 ワタクシ も その ヨ の キオク を マイバン くりかえす の が クツウ だった ので、 ソウダン の うえ うつる こと に きめた の です。
 うつって 2 カゲツ ほど して から ワタクシ は ブジ に ダイガク を ソツギョウ しました。 ソツギョウ して ハントシ も たたない うち に、 ワタクシ は とうとう オジョウサン と ケッコン しました。 ソトガワ から みれば、 バンジ が ヨキドオリ に はこんだ の です から、 めでたい と いわなければ なりません。 オクサン も オジョウサン も いかにも コウフク-らしく みえました。 ワタクシ も コウフク だった の です。 けれども ワタクシ の コウフク には くろい カゲ が ついて いました。 ワタクシ は この コウフク が サイゴ に ワタクシ を かなしい ウンメイ に つれて ゆく ドウカセン では なかろう か と おもいました。
 ケッコン した とき オジョウサン が、 ――もう オジョウサン では ありません から、 サイ と いいます。 ――サイ が、 ナニ を おもいだした の か、 フタリ で K の ハカマイリ を しよう と いいだしました。 ワタクシ は イミ も なく ただ ぎょっと しました。 どうして そんな こと を キュウ に おもいたった の か と ききました。 サイ は フタリ そろって オマイリ を したら、 K が さぞ よろこぶ だろう と いう の です。 ワタクシ は ナニゴト も しらない サイ の カオ を しけじけ ながめて いました が、 サイ から なぜ そんな カオ を する の か と とわれて はじめて キ が つきました。
 ワタクシ は サイ の ノゾミドオリ フタリ つれだって ゾウシガヤ へ ゆきました。 ワタクシ は あたらしい K の ハカ へ ミズ を かけて あらって やりました。 サイ は その マエ へ センコウ と ハナ を たてました。 フタリ は アタマ を さげて、 ガッショウ しました。 サイ は さだめて ワタクシ と イッショ に なった テンマツ を のべて K に よろこんで もらう つもり でしたろう。 ワタクシ は ハラ の ナカ で、 ただ ジブン が わるかった と くりかえす だけ でした。
 その とき サイ は K の ハカ を なでて みて リッパ だ と ひょうして いました。 その ハカ は たいした もの では ない の です けれども、 ワタクシ が ジブン で イシヤ へ いって みたてたり した インネン が ある ので、 サイ は とくに そう いいたかった の でしょう。 ワタクシ は その あたらしい ハカ と、 あたらしい ワタクシ の サイ と、 それから ジメン の シタ に うずめられた K の あたらしい ハッコツ と を おもいくらべて、 ウンメイ の レイバ を かんぜず には いられなかった の です。 ワタクシ は それ イゴ けっして サイ と イッショ に K の ハカマイリ を しない こと に しました。

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 ワタクシ の ボウユウ に たいする こうした カンジ は いつまでも つづきました。 じつは ワタクシ も ハジメ から それ を おそれて いた の です。 ネンライ の キボウ で あった ケッコン すら、 フアン の ウチ に シキ を あげた と いえば いえない こと も ない でしょう。 しかし ジブン で ジブン の サキ が みえない ニンゲン の こと です から、 コト に よる と あるいは これ が ワタクシ の ココロモチ を イッテン して あたらしい ショウガイ に はいる イトグチ に なる かも しれない とも おもった の です。 ところが いよいよ オット と して アサユウ サイ と カオ を あわせて みる と、 ワタクシ の はかない キボウ は てきびしい ゲンジツ の ため に もろくも ハカイ されて しまいました。 ワタクシ は サイ と カオ を あわせて いる うち に、 そつぜん K に おびやかされる の です。 つまり サイ が チュウカン に たって、 K と ワタクシ を どこまでも むすびつけて はなさない よう に する の です。 サイ の どこ にも フソク を かんじない ワタクシ は、 ただ この イッテン に おいて カノジョ を とおざけたがりました。 すると オンナ の ムネ には すぐ それ が うつります。 うつる けれども、 リユウ は わからない の です。 ワタクシ は ときどき サイ から なぜ そんな に かんがえて いる の だ とか、 ナニ か キ に いらない こと が ある の だろう とか いう キツモン を うけました。 わらって すませる とき は それ で さしつかえない の です が、 トキ に よる と、 サイ の カン も こうじて きます。 シマイ には 「アナタ は ワタクシ を きらって いらっしゃる ん でしょう」 とか、 「なんでも ワタクシ に かくして いらっしゃる こと が ある に ちがいない」 とか いう エンゲン も きかなくて は なりません。 ワタクシ は その たび に くるしみました。
 ワタクシ は いっそ おもいきって、 アリノママ を サイ に うちあけよう と した こと が ナンド も あります。 しかし いざ と いう マギワ に なる と ジブン イガイ の ある チカラ が フイ に きて ワタクシ を おさえつける の です。 ワタクシ を リカイ して くれる アナタ の こと だ から、 セツメイ する ヒツヨウ も あるまい と おもいます が、 はなす べき スジ だ から はなして おきます。 その ジブン の ワタクシ は サイ に たいして オノレ を かざる キ は まるで なかった の です。 もし ワタクシ が ボウユウ に たいする と おなじ よう な ゼンリョウ な ココロ で、 サイ の マエ に ザンゲ の コトバ を ならべた なら、 サイ は ウレシナミダ を こぼして も ワタクシ の ツミ を ゆるして くれた に ちがいない の です。 それ を あえて しない ワタクシ に リガイ の ダサン が ある はず は ありません。 ワタクシ は ただ サイ の キオク に アンコク な イッテン を いんする に しのびなかった から うちあけなかった の です。 ジュンパク な もの に ヒトシズク の インキ でも ヨウシャ なく ふりかける の は、 ワタクシ に とって タイヘン な クツウ だった の だ と カイシャク して ください。
 1 ネン たって も K を わすれる こと の できなかった ワタクシ の ココロ は つねに フアン でした。 ワタクシ は この フアン を クチク する ため に ショモツ に おぼれよう と つとめました。 ワタクシ は モウレツ な イキオイ を もって ベンキョウ しはじめた の です。 そうして その ケッカ を ヨノナカ に オオヤケ に する ヒ の くる の を まちました。 けれども ムリ に モクテキ を こしらえて、 ムリ に その モクテキ の たっせられる ヒ を まつ の は ウソ です から フユカイ です。 ワタクシ は どうしても ショモツ の ナカ に ココロ を うずめて いられなく なりました。 ワタクシ は また ウデグミ を して ヨノナカ を ながめだした の です。
 サイ は それ を コンニチ に こまらない から ココロ に タルミ が でる の だ と カンサツ して いた よう でした。 サイ の イエ にも オヤコ フタリ ぐらい は すわって いて どうか こうか くらして ゆける ザイサン が ある うえ に、 ワタクシ も ショクギョウ を もとめない で サシツカエ の ない キョウグウ に いた の です から、 そう おもわれる の も もっとも です。 ワタクシ も イクブン か スポイル された キミ が ありましょう。 しかし ワタクシ の うごかなく なった ゲンイン の おも な もの は、 まったく そこ には なかった の です。 オジ に あざむかれた トウジ の ワタクシ は、 ヒト の タノミ に ならない こと を つくづく と かんじた には ソウイ ありません が、 ヒト を わるく とる だけ あって、 ジブン は まだ たしか な キ が して いました。 セケン は どう あろう とも この オレ は リッパ な ニンゲン だ と いう シンネン が どこ か に あった の です。 それ が K の ため に みごと に ハカイ されて しまって、 ジブン も あの オジ と おなじ ニンゲン だ と イシキ した とき、 ワタクシ は キュウ に ふらふら しました。 ヒト に アイソ を つかした ワタクシ は、 ジブン にも アイソ を つかして うごけなく なった の です。

 53

 ショモツ の ナカ に ジブン を イキウメ に する こと の できなかった ワタクシ は、 サケ に タマシイ を ひたして、 オノレ を わすれよう と こころみた ジキ も あります。 ワタクシ は サケ が すき だ とは いいません。 けれども のめば のめる タチ でした から、 ただ リョウ を タノミ に ココロ を もりつぶそう と つとめた の です。 この センパク な ホウベン は しばらく する うち に ワタクシ を なお エンセイテキ に しました。 ワタクシ は ランスイ の マッサイチュウ に ふと ジブン の イチ に キ が つく の です。 ジブン は わざと こんな マネ を して オノレ を いつわって いる グブツ だ と いう こと に キ が つく の です。 すると ミブルイ と ともに メ も ココロ も さめて しまいます。 ときには いくら のんで も こうした カソウ ジョウタイ に さえ はいりこめない で むやみ に しずんで ゆく バアイ も でて きます。 そのうえ ギコウ で ユカイ を かった アト には、 きっと チンウツ な ハンドウ が ある の です。 ワタクシ は ジブン の もっとも あいして いる サイ と その ハハオヤ に、 いつでも そこ を みせなければ ならなかった の です。 しかも カレラ は カレラ に シゼン な タチバ から ワタクシ を カイシャク して かかります。
 サイ の ハハ は ときどき きまずい こと を サイ に いう よう でした。 それ を サイ は ワタクシ に かくして いました。 しかし ジブン は ジブン で、 タンドク に ワタクシ を せめなければ キ が すまなかった らしい の です。 せめる と いって も、 けっして つよい コトバ では ありません。 サイ から ナニ か いわれた ため に、 ワタクシ が げきした ためし は ほとんど なかった くらい です から。 サイ は たびたび どこ が キ に いらない の か エンリョ なく いって くれ と たのみました。 それから ワタクシ の ミライ の ため に サケ を やめろ と チュウコク しました。 ある とき は ないて 「アナタ は コノゴロ ニンゲン が ちがった」 と いいました。 それ だけ なら まだ いい の です けれども、 「K さん が いきて いたら、 アナタ も そんな には ならなかった でしょう」 と いう の です。 ワタクシ は そう かも しれない と こたえた こと が ありました が、 ワタクシ の こたえた イミ と、 サイ の リョウカイ した イミ とは まったく ちがって いた の です から、 ワタクシ は ココロ の ウチ で かなしかった の です。 それでも ワタクシ は サイ に ナニゴト も セツメイ する キ には なれません でした。
 ワタクシ は ときどき サイ に あやまりました。 それ は おおく サケ に よって おそく かえった あくる ヒ の アサ でした。 サイ は わらいました。 あるいは だまって いました。 たまに ぽろぽろ と ナミダ を おとす こと も ありました。 ワタクシ は どっち に して も ジブン が フユカイ で たまらなかった の です。 だから ワタクシ の サイ に あやまる の は、 ジブン に あやまる の と つまり おなじ こと に なる の です。 ワタクシ は シマイ に サケ を やめました。 サイ の チュウコク で やめた と いう より、 ジブン で いや に なった から やめた と いった ほう が テキトウ でしょう。
 サケ は やめた けれども、 なにも する キ には なりません。 シカタ が ない から ショモツ を よみます。 しかし よめば よんだ なり で、 うちやって おきます。 ワタクシ は サイ から なんの ため に ベンキョウ する の か と いう シツモン を たびたび うけました。 ワタクシ は ただ クショウ して いました。 しかし ハラ の ソコ では、 ヨノナカ で ジブン が もっとも シンアイ して いる たった ヒトリ の ニンゲン すら、 ジブン を リカイ して いない の か と おもう と、 かなしかった の です。 リカイ させる シュダン が ある のに、 リカイ させる ユウキ が だせない の だ と おもう と ますます かなしかった の です。 ワタクシ は セキバク でした。 どこ から も きりはなされて ヨノナカ に たった ヒトリ すんで いる よう な キ の した こと も よく ありました。
 ドウジ に ワタクシ は K の シイン を くりかえし くりかえし かんがえた の です。 その トウザ は アタマ が ただ コイ の イチジ で シハイ されて いた せい でも ありましょう が、 ワタクシ の カンサツ は むしろ カンタン で しかも チョクセンテキ でした。 K は まさしく シツレン の ため に しんだ もの と すぐ きめて しまった の です。 しかし だんだん おちついた キブン で、 おなじ ゲンショウ に むかって みる と、 そう たやすく は カイケツ が つかない よう に おもわれて きました。 ゲンジツ と リソウ の ショウトツ、 ――それでも まだ フジュウブン でした。 ワタクシ は シマイ に K が ワタクシ の よう に たった ヒトリ で さむしくって シカタ が なくなった ケッカ、 キュウ に ショケツ した の では なかろう か と うたがいだしました。 そうして また ぞっと した の です。 ワタクシ も K の あるいた ミチ を、 K と おなじ よう に たどって いる の だ と いう ヨカク が、 おりおり カゼ の よう に ワタクシ の ムネ を よこぎりはじめた から です。

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 そのうち サイ の ハハ が ビョウキ に なりました。 イシャ に みせる と とうてい なおらない と いう シンダン でした。 ワタクシ は チカラ の およぶ かぎり コンセツ に カンゴ を して やりました。 これ は ビョウニン ジシン の ため でも あります し、 また あいする サイ の ため でも ありました が、 もっと おおきな イミ から いう と、 ついに ニンゲン の ため でした。 ワタクシ は それまで にも ナニ か したくって たまらなかった の だ けれども、 なにも する こと が できない ので やむ を えず フトコロデ を して いた に チガイ ありません。 セケン と きりはなされた ワタクシ が、 はじめて ジブン から テ を だして、 イクブン でも いい こと を した と いう ジカク を えた の は この とき でした。 ワタクシ は ツミホロボシ と でも なづけなければ ならない、 イッシュ の キブン に シハイ されて いた の です。
 ハハ は しにました。 ワタクシ と サイ は たった フタリ ぎり に なりました。 サイ は ワタクシ に むかって、 これから ヨノナカ で タヨリ に する モノ は ヒトリ しか なくなった と いいました。 ジブン ジシン さえ タヨリ に する こと の できない ワタクシ は、 サイ の カオ を みて おもわず なみだぐみました。 そうして サイ を フコウ な オンナ だ と おもいました。 また フコウ な オンナ だ と クチ へ だして も いいました。 サイ は なぜ だ と ききます。 サイ には ワタクシ の イミ が わからない の です。 ワタクシ も それ を セツメイ して やる こと が できない の です。 サイ は なきました。 ワタクシ が フダン から ひねくれた カンガエ で カノジョ を カンサツ して いる ため に、 そんな こと も いう よう に なる の だ と うらみました。
 ハハ の なくなった アト、 ワタクシ は できる だけ サイ を シンセツ に とりあつかって やりました。 ただ トウニン を あいして いた から ばかり では ありません。 ワタクシ の シンセツ には コジン を はなれて もっと ひろい ハイケイ が あった よう です。 ちょうど サイ の ハハ の カンゴ を した と おなじ イミ で、 ワタクシ の ココロ は うごいた らしい の です。 サイ は マンゾク-らしく みえました。 けれども その マンゾク の ウチ には、 ワタクシ を リカイ しえない ため に おこる ぼんやり した キハク な テン が どこ か に ふくまれて いる よう でした。 しかし サイ が ワタクシ を リカイ しえた に した ところ で、 この モノタリナサ は ます とも へる キヅカイ は なかった の です。 オンナ には おおきな ジンドウ の タチバ から くる アイジョウ より も、 たしょう ギリ を はずれて も ジブン だけ に シュウチュウ される シンセツ を うれしがる セイシツ が、 オトコ より も つよい よう に おもわれます から。
 サイ は ある とき、 オトコ の ココロ と オンナ の ココロ とは どうしても ぴたり と ヒトツ に なれない もの だろう か と いいました。 ワタクシ は ただ わかい とき なら なれる だろう と アイマイ な ヘンジ を して おきました。 サイ は ジブン の カコ を ふりかえって ながめて いる よう でした が、 やがて かすか な タメイキ を もらしました。
 ワタクシ の ムネ には その ジブン から ときどき おそろしい カゲ が ひらめきました。 ハジメ は それ が ぐうぜん ソト から おそって くる の です。 ワタクシ は おどろきました。 ワタクシ は ぞっと しました。 しかし しばらく して いる うち に、 ワタクシ の ココロ が その ものすごい ヒラメキ に おうずる よう に なりました。 シマイ には ソト から こない でも、 ジブン の ムネ の ソコ に うまれた とき から ひそんで いる もの の ごとく に おもわれだして きた の です。 ワタクシ は そうした ココロモチ に なる たび に、 ジブン の アタマ が どうか した の では なかろう か と うたぐって みました。 けれども ワタクシ は イシャ にも ダレ にも みて もらう キ には なりません でした。
 ワタクシ は ただ ニンゲン の ツミ と いう もの を ふかく かんじた の です。 その カンジ が ワタクシ を K の ハカ へ マイゲツ ゆかせます。 その カンジ が ワタクシ に サイ の ハハ の カンゴ を させます。 そうして その カンジ が サイ に やさしく して やれ と ワタクシ に めいじます。 ワタクシ は その カンジ の ため に、 しらない ロボウ の ヒト から むちうたれたい と まで おもった こと も あります。 こうした カイダン を だんだん ケイカ して ゆく うち に、 ヒト に むちうたれる より も、 ジブン で ジブン を むちうつ べき だ と いう キ に なります。 ジブン で ジブン を むちうつ より も、 ジブン で ジブン を ころす べき だ と いう カンガエ が おこります。 ワタクシ は シカタ が ない から、 しんだ キ で いきて いこう と ケッシン しました。
 ワタクシ が そう ケッシン して から コンニチ まで ナンネン に なる でしょう。 ワタクシ と サイ とは モト の とおり なかよく くらして きました。 ワタクシ と サイ とは けっして フコウ では ありません、 コウフク でした。 しかし ワタクシ の もって いる イッテン、 ワタクシ に とって は ヨウイ ならん この イッテン が、 サイ には つねに アンコク に みえた らしい の です。 それ を おもう と、 ワタクシ は サイ に たいして ヒジョウ に キノドク な キ が します。

 55

 しんだ つもり で いきて ゆこう と ケッシン した ワタクシ の ココロ は、 ときどき ガイカイ の シゲキ で おどりあがりました。 しかし ワタクシ が どの ホウメン か へ きって でよう と おもいたつ や いなや、 おそろしい チカラ が どこ から か でて きて、 ワタクシ の ココロ を ぐいと にぎりしめて すこしも うごけない よう に する の です。 そうして その チカラ が ワタクシ に オマエ は ナニ を する シカク も ない オトコ だ と おさえつける よう に いって きかせます。 すると ワタクシ は その イチゲン で すぐ ぐたり と しおれて しまいます。 しばらく して また たちあがろう と する と、 また しめつけられます。 ワタクシ は ハ を くいしばって、 なんで ヒト の ジャマ を する の か と どなりつけます。 フカシギ な チカラ は ひややか な コエ で わらいます。 ジブン で よく しって いる くせ に と いいます。 ワタクシ は また ぐたり と なります。
 ハラン も キョクセツ も ない タンチョウ な セイカツ を つづけて きた ワタクシ の ナイメン には、 つねに こうした くるしい センソウ が あった もの と おもって ください。 サイ が みて はがゆがる マエ に、 ワタクシ ジシン が ナン-ゾウバイ はがゆい オモイ を かさねて きた か しれない くらい です。 ワタクシ が この ロウヤ の ウチ に じっと して いる こと が どうしても できなく なった とき、 また その ロウヤ を どうしても つきやぶる こと が できなく なった とき、 ひっきょう ワタクシ に とって いちばん ラク な ドリョク で スイコウ できる もの は ジサツ より ホカ に ない と ワタクシ は かんずる よう に なった の です。 アナタ は なぜ と いって メ を みはる かも しれません が、 いつも ワタクシ の ココロ を ニギリシメ に くる その フカシギ な おそろしい チカラ は、 ワタクシ の カツドウ を あらゆる ホウメン で くいとめながら、 シ の ミチ だけ を ジユウ に ワタクシ の ため に あけて おく の です。 うごかず に いれば ともかくも、 すこし でも うごく イジョウ は、 その ミチ を あるいて すすまなければ ワタクシ には ススミヨウ が なくなった の です。
 ワタクシ は コンニチ に いたる まで すでに 2~3 ド ウンメイ の みちびいて ゆく もっとも ラク な ホウコウ へ すすもう と した こと が あります。 しかし ワタクシ は いつでも サイ に ココロ を ひかされました。 そうして その サイ を イッショ に つれて ゆく ユウキ は むろん ない の です。 サイ に スベテ を うちあける こと の できない くらい な ワタクシ です から、 ジブン の ウンメイ の ギセイ と して、 サイ の テンジュ を うばう など と いう てあら な ショサ は、 かんがえて さえ おそろしかった の です。 ワタクシ に ワタクシ の シュクメイ が ある とおり、 サイ には サイ の マワリアワセ が あります。 フタリ を ヒトタバ に して ヒ に くべる の は、 ムリ と いう テン から みて も、 いたましい キョクタン と しか ワタクシ には おもえません でした。
 ドウジ に ワタクシ だけ が いなく なった アト の サイ を ソウゾウ して みる と いかにも フビン でした。 ハハ の しんだ とき、 これから ヨノナカ で タヨリ に する モノ は ワタクシ より ホカ に なくなった と いった カノジョ の ジュッカイ を、 ワタクシ は ハラワタ に しみこむ よう に キオク させられて いた の です。 ワタクシ は いつも チュウチョ しました。 サイ の カオ を みて、 よして よかった と おもう こと も ありました。 そうして また じっと すくんで しまいます。 そうして サイ から ときどき ものたりなそう な メ で ながめられる の です。
 キオク して ください。 ワタクシ は こんな ふう に して いきて きた の です。 はじめて アナタ に カマクラ で あった とき も、 アナタ と イッショ に コウガイ を サンポ した とき も、 ワタクシ の キブン に たいした カワリ は なかった の です。 ワタクシ の ウシロ には いつでも くろい カゲ が くっついて いました。 ワタクシ は サイ の ため に、 イノチ を ひきずって ヨノナカ を あるいて いた よう な もの です。 アナタ が ソツギョウ して クニ へ かえる とき も おなじ こと でした。 9 ガツ に なったら また アナタ に あおう と ヤクソク した ワタクシ は、 ウソ を ついた の では ありません。 まったく あう キ で いた の です。 アキ が さって、 フユ が きて、 その フユ が つきて も、 きっと あう つもり で いた の です。
 すると ナツ の あつい サカリ に メイジ テンノウ が ホウギョ に なりました。 その とき ワタクシ は メイジ の セイシン が テンノウ に はじまって テンノウ に おわった よう な キ が しました。 もっとも つよく メイジ の エイキョウ を うけた ワタクシドモ が、 その アト に いきのこって いる の は ひっきょう ジセイオクレ だ と いう カンジ が はげしく ワタクシ の ムネ を うちました。 ワタクシ は あからさま に サイ に そう いいました。 サイ は わらって とりあいません でした が、 ナニ を おもった もの か、 とつぜん ワタクシ に、 では ジュンシ でも したら よかろう と からかいました。

 56

 ワタクシ は ジュンシ と いう コトバ を ほとんど わすれて いました。 ヘイゼイ つかう ヒツヨウ の ない ジ だ から、 キオク の ソコ に しずんだ まま、 くされかけて いた もの と みえます。 サイ の ジョウダン を きいて はじめて それ を おもいだした とき、 ワタクシ は サイ に むかって もし ジブン が ジュンシ する ならば、 メイジ の セイシン に ジュンシ する つもり だ と こたえました。 ワタクシ の コタエ も むろん ジョウダン に すぎなかった の です が、 ワタクシ は その とき なんだか ふるい フヨウ な コトバ に あたらしい イギ を もりえた よう な ココロモチ が した の です。
 それから ヤク 1 カゲツ ほど たちました。 ゴタイソウ の ヨル ワタクシ は イツモ の とおり ショサイ に すわって、 アイズ の ゴウホウ を ききました。 ワタクシ には それ が メイジ が エイキュウ に さった ホウチ の ごとく きこえました。 アト で かんがえる と、 それ が ノギ タイショウ の エイキュウ に さった ホウチ にも なって いた の です。 ワタクシ は ゴウガイ を テ に して、 おもわず サイ に ジュンシ だ ジュンシ だ と いいました。
 ワタクシ は シンブン で ノギ タイショウ の しぬ マエ に かきのこして いった もの を よみました。 セイナン センソウ の とき テキ に ハタ を とられて イライ、 モウシワケ の ため に しのう しのう と おもって、 つい コンニチ まで いきて いた と いう イミ の ク を みた とき、 ワタクシ は おもわず ユビ を おって、 ノギ さん が しぬ カクゴ を しながら いきながらえて きた トシツキ を カンジョウ して みました。 セイナン センソウ は メイジ 10 ネン です から、 メイジ 45 ネン まで には 35 ネン の キョリ が あります。 ノギ さん は この 35 ネン の アイダ しのう しのう と おもって、 しぬ キカイ を まって いた らしい の です。 ワタクシ は そういう ヒト に とって、 いきて いた 35 ネン が くるしい か、 また カタナ を ハラ へ つきたてた イッセツナ が くるしい か、 どっち が くるしい だろう と かんがえました。
 それから 2~3 ニチ して、 ワタクシ は とうとう ジサツ する ケッシン を した の です。 ワタクシ に ノギ さん の しんだ リユウ が よく わからない よう に、 アナタ にも ワタクシ の ジサツ する ワケ が あきらか に のみこめない かも しれません が、 もし そう だ と する と、 それ は ジセイ の スイイ から くる ニンゲン の ソウイ だ から シカタ が ありません。 あるいは コジン の もって うまれた セイカク の ソウイ と いった ほう が たしか かも しれません。 ワタクシ は ワタクシ の できる かぎり この フカシギ な ワタクシ と いう もの を、 アナタ に わからせる よう に、 イマ まで の ジョジュツ で オノレ を つくした つもり です。
 ワタクシ は サイ を のこして ゆきます。 ワタクシ が いなく なって も サイ に イショクジュウ の シンパイ が ない の は シアワセ です。 ワタクシ は サイ に ザンコク な キョウフ を あたえる こと を このみません。 ワタクシ は サイ に チ の イロ を みせない で しぬ つもり です。 サイ の しらない マ に、 こっそり コノヨ から いなく なる よう に します。 ワタクシ は しんだ アト で、 サイ から トンシ した と おもわれたい の です。 キ が くるった と おもわれて も マンゾク なの です。
 ワタクシ が しのう と ケッシン して から、 もう トオカ イジョウ に なります が、 その ダイブブン は アナタ に この ながい ジジョデン の イッセツ を かきのこす ため に シヨウ された もの と おもって ください。 ハジメ は アナタ に あって ハナシ を する キ で いた の です が、 かいて みる と、 かえって その ほう が ジブン を はっきり えがきだす こと が できた よう な ココロモチ が して うれしい の です。 ワタクシ は スイキョウ に かく の では ありません。 ワタクシ を うんだ ワタクシ の カコ は、 ニンゲン の ケイケン の イチブブン と して、 ワタクシ より ホカ に ダレ も かたりうる モノ は ない の です から、 それ を イツワリ なく かきのこして おく ワタクシ の ドリョク は、 ニンゲン を しる うえ に おいて、 アナタ に とって も、 ホカ の ヒト に とって も、 トロウ では なかろう と おもいます。 ワタナベ カザン は カンタン と いう エ を かく ため に、 シキ を 1 シュウカン くりのべた と いう ハナシ を つい せんだって ききました。 ヒト から みたら ヨケイ な こと の よう にも カイシャク できましょう が、 トウニン には また トウニン ソウオウ の ヨウキュウ が ココロ の ウチ に ある の だ から やむ を えない とも いわれる でしょう。 ワタクシ の ドリョク も たんに アナタ に たいする ヤクソク を はたす ため ばかり では ありません。 ナカバ イジョウ は ジブン ジシン の ヨウキュウ に うごかされた ケッカ なの です。
 しかし ワタクシ は イマ その ヨウキュウ を はたしました。 もう なんにも する こと は ありません。 この テガミ が アナタ の テ に おちる コロ には、 ワタクシ は もう コノヨ には いない でしょう。 とくに しんで いる でしょう。 サイ は トオカ ばかり マエ から イチガヤ の オバ の ところ へ ゆきました。 オバ が ビョウキ で テ が たりない と いう から ワタクシ が すすめて やった の です。 ワタクシ は サイ の ルス の アイダ に、 この ながい もの の ダイブブン を かきました。 ときどき サイ が かえって くる と、 ワタクシ は すぐ それ を かくしました。
 ワタクシ は ワタクシ の カコ を ゼンアク ともに ヒト の サンコウ に きょうする つもり です。 しかし サイ だけ は たった ヒトリ の レイガイ だ と ショウチ して ください。 ワタクシ は サイ には なんにも しらせたく ない の です。 サイ が オノレ の カコ に たいして もつ キオク を、 なるべく ジュンパク に ホゾン して おいて やりたい の が ワタクシ の ユイイツ の キボウ なの です から、 ワタクシ が しんだ アト でも、 サイ が いきて いる イジョウ は、 アナタ カギリ に うちあけられた ワタクシ の ヒミツ と して、 スベテ を ハラ の ナカ に しまって おいて ください。

ユメ ジュウヤ 1

2014-04-20 | ナツメ ソウセキ
 ユメ ジュウヤ

 ナツメ ソウセキ

 ダイ 1 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 ウデグミ を して マクラモト に すわって いる と、 アオムキ に ねた オンナ が、 しずか な コエ で もう しにます と いう。 オンナ は ながい カミ を マクラ に しいて、 リンカク の やわらか な ウリザネガオ を その ナカ に よこたえて いる。 マッシロ な ホオ の ソコ に あたたかい チ の イロ が ほどよく さして、 クチビル の イロ は むろん あかい。 とうてい しにそう には みえない。 しかし オンナ は しずか な コエ で、 もう しにます と はっきり いった。 ジブン も たしか に これ は しぬ な と おもった。 そこで、 そう かね、 もう しぬ の かね、 と ウエ から のぞきこむ よう に して きいて みた。 しにます とも、 と いいながら、 オンナ は ぱっちり と メ を あけた。 おおきな ウルオイ の ある メ で、 ながい マツゲ に つつまれた ナカ は、 ただ イチメン に マックロ で あった。 その マックロ な ヒトミ の オク に、 ジブン の スガタ が あざやか に うかんで いる。
 ジブン は すきとおる ほど ふかく みえる この クロメ の ツヤ を ながめて、 これ でも しぬ の か と おもった。 それで、 ねんごろ に マクラ の ソバ へ クチ を つけて、 しぬ ん じゃ なかろう ね、 だいじょうぶ だろう ね、 と また ききかえした。 すると オンナ は くろい メ を ねむそう に みはった まま、 やっぱり しずか な コエ で、 でも、 しぬ ん です もの、 シカタ が ない わ と いった。
 じゃ、 ワタシ の カオ が みえる かい と イッシン に きく と、 みえる かい って、 そら、 そこ に、 うつってる じゃ ありません か と、 にこり と わらって みせた。 ジブン は だまって、 カオ を マクラ から はなした。 ウデグミ を しながら、 どうしても しぬ の かな と おもった。
 しばらく して、 オンナ が また こう いった。
「しんだら、 うめて ください。 おおきな シンジュガイ で アナ を ほって。 そうして テン から おちて くる ホシ の カケ を ハカジルシ に おいて ください。 そうして ハカ の ソバ に まって いて ください。 また あい に きます から」
 ジブン は、 いつ あい に くる かね と きいた。
「ヒ が でる でしょう。 それから ヒ が しずむ でしょう。 それから また でる でしょう、 そうして また しずむ でしょう。 ――あかい ヒ が ヒガシ から ニシ へ、 ヒガシ から ニシ へ と おちて ゆく うち に、 ――アナタ、 まって いられます か」
 ジブン は だまって うなずいた。 オンナ は しずか な チョウシ を イチダン はりあげて、
「100 ネン まって いて ください」 と おもいきった コエ で いった。
「100 ネン、 ワタクシ の ハカ の ソバ に すわって まって いて ください。 きっと あい に きます から」
 ジブン は ただ まって いる と こたえた。 すると、 くろい ヒトミ の ナカ に あざやか に みえた ジブン の スガタ が、 ぼうっと くずれて きた。 しずか な ミズ が うごいて うつる カゲ を みだした よう に、 ながれだした と おもったら、 オンナ の メ が ぱちり と とじた。 ながい マツゲ の アイダ から ナミダ が ホオ へ たれた。 ――もう しんで いた。
 ジブン は それから ニワ へ おりて、 シンジュガイ で アナ を ほった。 シンジュガイ は おおきな なめらか な フチ の するどい カイ で あった。 ツチ を すくう たび に、 カイ の ウラ に ツキ の ヒカリ が さして きらきら した。 しめった ツチ の ニオイ も した。 アナ は しばらく して ほれた。 オンナ を その ナカ に いれた。 そうして やわらかい ツチ を、 ウエ から そっと かけた。 かける たび に シンジュガイ の ウラ に ツキ の ヒカリ が さした。
 それから ホシ の カケ の おちた の を ひろって きて、 かろく ツチ の ウエ へ のせた。 ホシ の カケ は まるかった。 ながい アイダ オオゾラ を おちて いる マ に、 カド が とれて なめらか に なった ん だろう と おもった。 だきあげて ツチ の ウエ へ おく うち に、 ジブン の ムネ と テ が すこし あたたかく なった。
 ジブン は コケ の ウエ に すわった。 これから 100 ネン の アイダ こうして まって いる ん だな と かんがえながら、 ウデグミ を して、 まるい ハカイシ を ながめて いた。 その うち に、 オンナ の いった とおり ヒ が ヒガシ から でた。 おおきな あかい ヒ で あった。 それ が また オンナ の いった とおり、 やがて ニシ へ おちた。 あかい まんま で のっと おちて いった。 ヒトツ と ジブン は カンジョウ した。
 しばらく する と また カラクレナイ の テントウ が のそり と のぼって きた。 そうして だまって しずんで しまった。 フタツ と また カンジョウ した。
 ジブン は こういう ふう に ヒトツ フタツ と カンジョウ して ゆく うち に、 あかい ヒ を イクツ みた か わからない。 カンジョウ して も、 カンジョウ して も、 しつくせない ほど あかい ヒ が アタマ の ウエ を とおりこして いった。 それでも 100 ネン が まだ こない。 シマイ には、 コケ の はえた まるい イシ を ながめて、 ジブン は オンナ に だまされた の では なかろう か と おもいだした。
 すると イシ の シタ から ハス に ジブン の ほう へ むいて あおい クキ が のびて きた。 みるまに ながく なって ちょうど ジブン の ムネ の アタリ まで きて とまった。 と おもう と、 すらり と ゆらぐ クキ の イタダキ に、 こころもち クビ を かたぶけて いた ほそながい イチリン の ツボミ が、 ふっくら と ハナビラ を ひらいた。 マッシロ な ユリ が ハナ の サキ で ホネ に こたえる ほど におった。 そこ へ はるか の ウエ から、 ぽたり と ツユ が おちた ので、 ハナ は ジブン の オモミ で ふらふら と うごいた。 ジブン は クビ を マエ へ だして つめたい ツユ の したたる、 しろい ハナビラ に セップン した。 ジブン が ユリ から カオ を はなす ヒョウシ に おもわず、 とおい ソラ を みたら、 アカツキ の ホシ が たった ヒトツ またたいて いた。
「100 ネン は もう きて いた ん だな」 と この とき はじめて キ が ついた。

 ダイ 2 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 オショウ の シツ を さがって、 ロウカヅタイ に ジブン の ヘヤ へ かえる と アンドウ が ぼんやり ともって いる。 カタヒザ を ザブトン の ウエ に ついて、 トウシン を かきたてた とき、 ハナ の よう な チョウジ が ぱたり と シュヌリ の ダイ に おちた。 ドウジ に ヘヤ が ぱっと あかるく なった。
 フスマ の エ は ブソン の フデ で ある。 くろい ヤナギ を こく うすく、 オチコチ と かいて、 さむそう な ギョフ が カサ を かたぶけて ドテ の ウエ を とおる。 トコ には カイチュウ モンジュ の ジク が かかって いる。 たきのこした センコウ が くらい ほう で いまだに におって いる。 ひろい テラ だ から しんかん と して、 ヒトケ が ない。 くろい テンジョウ に さす マルアンドウ の まるい カゲ が、 あおむく トタン に いきてる よう に みえた。
 タテヒザ を した まま、 ヒダリ の テ で ザブトン を めくって、 ミギ を さしこんで みる と、 おもった ところ に、 ちゃんと あった。 あれば アンシン だ から、 フトン を モト の ごとく なおして、 その ウエ に どっかり すわった。
 オマエ は サムライ で ある。 サムライ なら さとれぬ はず は なかろう と オショウ が いった。 そう いつまでも さとれぬ ところ を もって みる と、 オマエ は サムライ では あるまい と いった。 ニンゲン の クズ じゃ と いった。 ははあ おこった な と いって わらった。 くやしければ さとった ショウコ を もって こい と いって ぷいと ムコウ を むいた。 けしからん。
 トナリ の ヒロマ の トコ に すえて ある オキドケイ が ツギ の トキ を うつ まで には、 きっと さとって みせる。 さとった うえ で、 コンヤ また ニュウシツ する。 そうして オショウ の クビ と サトリ と ヒキカエ に して やる。 さとらなければ、 オショウ の イノチ が とれない。 どうしても さとらなければ ならない。 ジブン は サムライ で ある。
 もし さとれなければ ジジン する。 サムライ が はずかしめられて、 いきて いる わけ には ゆかない。 きれい に しんで しまう。
 こう かんがえた とき、 ジブン の テ は また おもわず フトン の シタ へ はいった。 そうして シュザヤ の タントウ を ひきずりだした。 ぐっと ツカ を にぎって、 あかい サヤ を ムコウ へ はらったら、 つめたい ハ が イチド に くらい ヘヤ で ひかった。 すごい もの が テモト から、 すうすう と にげて ゆく よう に おもわれる。 そうして、 ことごとく キッサキ へ あつまって、 サッキ を イッテン に こめて いる。 ジブン は この するどい ハ が、 ムネン にも ハリ の アタマ の よう に ちぢめられて、 クスン ゴブ の サキ へ きて やむ を えず とがってる の を みて、 たちまち ぐさり と やりたく なった。 カラダ の チ が ミギ の テクビ の ほう へ ながれて きて、 にぎって いる ツカ が にちゃにちゃ する。 クチビル が ふるえた。
 タントウ を サヤ へ おさめて ミギワキ へ ひきつけて おいて、 それから ゼンガ を くんだ。 ――ジョウシュウ いわく ム と。 ム とは ナン だ。 クソボウズ め と ハガミ を した。
 オクバ を つよく かみしめた ので、 ハナ から あつい イキ が あらく でる。 コメカミ が つって いたい。 メ は フツウ の バイ も おおきく あけて やった。
 カケモノ が みえる。 アンドウ が みえる。 タタミ が みえる。 オショウ の ヤカンアタマ が ありあり と みえる。 ワニグチ を あいて あざわらった コエ まで きこえる。 けしからん ボウズ だ。 どうしても あの ヤカン を クビ に しなくて は ならん。 さとって やる。 ム だ、 ム だ と シタ の ネ で ねんじた。 ム だ と いう のに やっぱり センコウ の ニオイ が した。 ナン だ センコウ の くせ に。
 ジブン は いきなり ゲンコツ を かためて ジブン の アタマ を いや と いう ほど なぐった。 そうして オクバ を ぎりぎり と かんだ。 リョウワキ から アセ が でる。 セナカ が ボウ の よう に なった。 ヒザ の ツギメ が キュウ に いたく なった。 ヒザ が おれたって どう ある もの か と おもった。 けれども いたい。 くるしい。 ム は なかなか でて こない。 でて くる と おもう と すぐ いたく なる。 ハラ が たつ。 ムネン に なる。 ヒジョウ に くやしく なる。 ナミダ が ほろほろ でる。 ひとおもいに ミ を オオイワ の ウエ に ぶつけて、 ホネ も ニク も めちゃめちゃ に くだいて しまいたく なる。
 それでも ガマン して じっと すわって いた。 たえがたい ほど せつない もの を ムネ に いれて しのんで いた。 その せつない もの が カラダジュウ の キンニク を シタ から もちあげて、 ケアナ から ソト へ ふきでよう ふきでよう と あせる けれども、 どこ も イチメン に ふさがって、 まるで デグチ が ない よう な ザンコク きわまる ジョウタイ で あった。
 その うち に アタマ が ヘン に なった。 アンドウ も ブソン の エ も、 タタミ も、 チガイダナ も あって ない よう な、 なくって ある よう に みえた。 と いって ム は ちっとも ゲンゼン しない。 ただ イイカゲン に すわって いた よう で ある。 ところへ こつぜん トナリザシキ の トケイ が ちーん と なりはじめた。
 はっと おもった。 ミギ の テ を すぐ タントウ に かけた。 トケイ が フタツメ を ちーん と うった。

 ダイ 3 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 ムッツ に なる コドモ を おぶってる。 たしか に ジブン の コ で ある。 ただ フシギ な こと には いつのまにか メ が つぶれて、 アオボウズ に なって いる。 ジブン が オマエ の メ は いつ つぶれた の かい と きく と、 なに ムカシ から さ と こたえた。 コエ は コドモ の コエ に ソウイ ない が、 コトバツキ は まるで オトナ で ある。 しかも タイトウ だ。
 サユウ は アオタ で ある。 ミチ は ほそい。 サギ の カゲ が ときどき ヤミ に さす。
「タンボ へ かかった ね」 と セナカ で いった。
「どうして わかる」 と カオ を ウシロ へ ふりむける よう に して きいたら、
「だって サギ が なく じゃ ない か」 と こたえた。
 すると サギ が はたして フタコエ ほど ないた。
 ジブン は ワガコ ながら すこし こわく なった。 こんな もの を しょって いて は、 このさき どう なる か わからない。 どこ か うっちゃる ところ は なかろう か と ムコウ を みる と ヤミ の ナカ に おおきな モリ が みえた。 あすこ ならば と かんがえだす トタン に、 セナカ で、
「ふふん」 と いう コエ が した。
「ナニ を わらう ん だ」
 コドモ は ヘンジ を しなかった。 ただ、
「オトッサン、 おもい かい」 と きいた。
「おもかあ ない」 と こたえる と、
「いまに おもく なる よ」 と いった。
 ジブン は だまって モリ を メジルシ に あるいて いった。 タ の ナカ の ミチ が フキソク に うねって なかなか おもう よう に でられない。 しばらく する と フタマタ に なった。 ジブン は マタ の ネ に たって、 ちょっと やすんだ。
「イシ が たってる はず だ がな」 と コゾウ が いった。
 なるほど 8 スン カク の イシ が コシ ほど の タカサ に たって いる。 オモテ には ヒダリ ヒガクボ、 ミギ ホッタハラ と ある。 ヤミ だ のに あかい ジ が あきらか に みえた。 あかい ジ は イモリ の ハラ の よう な イロ で あった。
「ヒダリ が いい だろう」 と コゾウ が メイレイ した。 ヒダリ を みる と サッキ の モリ が ヤミ の カゲ を、 たかい ソラ から ジブン ら の アタマ の ウエ へ なげかけて いた。 ジブン は ちょっと チュウチョ した。
「エンリョ しない でも いい」 と コゾウ が また いった。 ジブン は しかたなし に モリ の ほう へ あるきだした。 ハラ の ナカ では、 よく メクラ の くせ に なんでも しってる な と かんがえながら ヒトスジミチ を モリ へ ちかづいて くる と、 セナカ で、 「どうも メクラ は フジユウ で いけない ね」 と いった。
「だから おぶって やる から いい じゃ ない か」
「おぶって もらって すまない が、 どうも ヒト に バカ に されて いけない。 オヤ に まで バカ に される から いけない」
 なんだか いや に なった。 はやく モリ へ いって すてて しまおう と おもって いそいだ。
「もうすこし ゆく と わかる。 ――ちょうど こんな バン だった な」 と セナカ で ヒトリゴト の よう に いって いる。
「ナニ が」 と きわどい コエ を だして きいた。
「ナニ が って、 しってる じゃ ない か」 と コドモ は あざける よう に こたえた。 すると なんだか しってる よう な キ が しだした。 けれども はっきり とは わからない。 ただ こんな バン で あった よう に おもえる。 そうして もうすこし ゆけば わかる よう に おもえる。 わかって は タイヘン だ から、 わからない うち に はやく すてて しまって、 アンシン しなくって は ならない よう に おもえる。 ジブン は ますます アシ を はやめた。
 アメ は サッキ から ふって いる。 ミチ は だんだん くらく なる。 ほとんど ムチュウ で ある。 ただ セナカ に ちいさい コゾウ が くっついて いて、 その コゾウ が ジブン の カコ、 ゲンザイ、 ミライ を ことごとく てらして、 スンブン の ジジツ も もらさない カガミ の よう に ひかって いる。 しかも それ が ジブン の コ で ある。 そうして メクラ で ある。 ジブン は たまらなく なった。
「ここ だ、 ここ だ。 ちょうど その スギ の ネ の ところ だ」
 アメ の ナカ で コゾウ の コエ は はっきり きこえた。 ジブン は おぼえず とまった。 いつしか モリ の ナカ へ はいって いた。 1 ケン ばかり サキ に ある くろい もの は たしか に コゾウ の いう とおり スギ の キ と みえた。
「オトッサン、 その スギ の ネ の ところ だった ね」
「うん、 そう だ」 と おもわず こたえて しまった。
「ブンカ 5 ネン タツドシ だろう」
 なるほど ブンカ 5 ネン タツドシ らしく おもわれた。
「オマエ が オレ を ころした の は イマ から ちょうど 100 ネン マエ だね」
 ジブン は この コトバ を きく や いなや、 イマ から 100 ネン マエ ブンカ 5 ネン の タツドシ の こんな ヤミ の バン に、 この スギ の ネ で、 ヒトリ の メクラ を ころした と いう ジカク が、 こつぜん と して アタマ の ナカ に おこった。 オレ は ヒトゴロシ で あった ん だな と はじめて キ が ついた トタン に、 セナカ の コ が キュウ に イシジゾウ の よう に おもく なった。

 ダイ 4 ヤ

 ひろい ドマ の マンナカ に スズミダイ の よう な もの を すえて、 その マワリ に ちいさい ショウギ が ならべて ある。 ダイ は クロビカリ に ひかって いる。 カタスミ には シカク な ゼン を マエ に おいて ジイサン が ヒトリ で サケ を のんで いる。 サカナ は ニシメ らしい。
 ジイサン は サケ の カゲン で なかなか あかく なって いる。 そのうえ カオジュウ つやつや して シワ と いう ほど の もの は どこ にも みあたらない。 ただ しろい ヒゲ を ありたけ はやして いる から トシヨリ と いう こと だけ は わかる。 ジブン は コドモ ながら、 この ジイサン の トシ は イクツ なん だろう と おもった。 ところへ ウラ の カケヒ から テオケ に ミズ を くんで きた カミサン が、 マエダレ で テ を ふきながら、
「オジイサン は イクツ かね」 と きいた。 ジイサン は ほおばった ニシメ を のみこんで、
「イクツ か わすれた よ」 と すまして いた。 カミサン は ふいた テ を、 ほそい オビ の アイダ に はさんで ヨコ から ジイサン の カオ を みて たって いた。 ジイサン は チャワン の よう な おおきな もの で サケ を ぐいと のんで、 そうして、 ふう と ながい イキ を しろい ヒゲ の アイダ から ふきだした。 すると カミサン が、
「オジイサン の ウチ は どこ かね」 と きいた。 ジイサン は ながい イキ を トチュウ で きって、
「ヘソ の オク だよ」 と いった。 カミサン は テ を ほそい オビ の アイダ に つっこんだ まま、
「どこ へ ゆく かね」 と また きいた。 すると ジイサン が、 また チャワン の よう な おおきな もの で あつい サケ を ぐいと のんで マエ の よう な イキ を ふう と ふいて、
「あっち へ いく よ」 と いった。
「マッスグ かい」 と カミサン が きいた とき、 ふう と ふいた イキ が、 ショウジ を とおりこして ヤナギ の シタ を ぬけて、 カワラ の ほう へ マッスグ に いった。
 ジイサン が オモテ へ でた。 ジブン も アト から でた。 ジイサン の コシ に ちいさい ヒョウタン が ぶらさがって いる。 カタ から シカク な ハコ を ワキノシタ へ つるして いる。 アサギ の モモヒキ を はいて、 アサギ の ソデナシ を きて いる。 タビ だけ が きいろい。 なんだか カワ で つくった タビ の よう に みえた。
 ジイサン が マッスグ に ヤナギ の シタ まで きた。 ヤナギ の シタ に コドモ が 3~4 ニン いた。 ジイサン は わらいながら コシ から アサギ の テヌグイ を だした。 それ を カンジンヨリ の よう に ほそながく よった。 そうして ジビタ の マンナカ に おいた。 それから テヌグイ の マワリ に、 おおきな まるい ワ を かいた。 シマイ に カタ に かけた ハコ の ナカ から シンチュウ で こしらえた アメヤ の フエ を だした。
「いまに その テヌグイ が ヘビ に なる から、 みて おろう。 みて おろう」 と くりかえして いった。
 コドモ は イッショウ ケンメイ に テヌグイ を みて いた。 ジブン も みて いた。
「みて おろう、 みて おろう、 よい か」 と いいながら ジイサン が フエ を ふいて、 ワ の ウエ を ぐるぐる まわりだした。 ジブン は テヌグイ ばかり みて いた。 けれども テヌグイ は いっこう うごかなかった。
 ジイサン は フエ を ぴいぴい ふいた。 そうして ワ の ウエ を ナンベン も まわった。 ワラジ を つまだてる よう に、 ヌキアシ を する よう に、 テヌグイ に エンリョ を する よう に、 まわった。 こわそう にも みえた。 おもしろそう にも あった。
 やがて ジイサン は フエ を ぴたり と やめた。 そうして、 カタ に かけた ハコ の クチ を あけて、 テヌグイ の クビ を、 ちょいと つまんで、 ぽっと ほうりこんだ。
「こうして おく と、 ハコ の ナカ で ヘビ に なる。 いまに みせて やる。 いまに みせて やる」 と いいながら、 ジイサン が マッスグ に あるきだした。 ヤナギ の シタ を ぬけて、 ほそい ミチ を マッスグ に おりて いった。 ジブン は ヘビ が みたい から、 ほそい ミチ を どこまでも ついて いった。 ジイサン は ときどき 「いまに なる」 と いったり、 「ヘビ に なる」 と いったり して あるいて ゆく。 シマイ には、
 「いまに なる、 ヘビ に なる、
  きっと なる、 フエ が なる、」
と うたいながら、 とうとう カワ の キシ へ でた。 ハシ も フネ も ない から、 ここ で やすんで ハコ の ナカ の ヘビ を みせる だろう と おもって いる と、 ジイサン は ざぶざぶ カワ の ナカ へ はいりだした。 ハジメ は ヒザ ぐらい の フカサ で あった が、 だんだん コシ から、 ムネ の ほう まで ミズ に つかって みえなく なる。 それでも ジイサン は、
 「ふかく なる、 ヨル に なる、
  マッスグ に なる」
と うたいながら、 どこまでも マッスグ に あるいて いった。 そうして ヒゲ も カオ も アタマ も ズキン も まるで みえなく なって しまった。
 ジブン は ジイサン が ムコウギシ へ あがった とき に、 ヘビ を みせる だろう と おもって、 アシ の なる ところ に たって、 たった ヒトリ いつまでも まって いた。 けれども ジイサン は、 とうとう あがって こなかった。

 ダイ 5 ヤ

 こんな ユメ を みた。
 なんでも よほど ふるい こと で、 カミヨ に ちかい ムカシ と おもわれる が、 ジブン が イクサ を して ウン わるく まけた ため に、 イケドリ に なって、 テキ の タイショウ の マエ に ひきすえられた。
 その コロ の ヒト は ミンナ セ が たかかった。 そうして、 ミンナ ながい ヒゲ を はやして いた。 カワ の オビ を しめて、 それ へ ボウ の よう な ツルギ を つるして いた。 ユミ は フジヅル の ふとい の を そのまま もちいた よう に みえた。 ウルシ も ぬって なければ ミガキ も かけて ない。 きわめて ソボク な もの で あった。
 テキ の タイショウ は、 ユミ の マンナカ を ミギ の テ で にぎって、 その ユミ を クサ の ウエ へ ついて、 サカガメ を ふせた よう な もの の ウエ に コシ を かけて いた。 その カオ を みる と、 ハナ の ウエ で、 サユウ の マユ が ふとく つながって いる。 その コロ カミソリ と いう もの は むろん なかった。
 ジブン は トリコ だ から、 コシ を かける わけ に ゆかない。 クサ の ウエ に アグラ を かいて いた。 アシ には おおきな ワラグツ を はいて いた。 この ジダイ の ワラグツ は ふかい もの で あった。 たつ と ヒザガシラ まで きた。 その ハシ の ところ は ワラ を すこし あみのこして、 フサ の よう に さげて、 あるく と ばらばら うごく よう に して、 カザリ と して いた。
 タイショウ は カガリビ で ジブン の カオ を みて、 しぬ か いきる か と きいた。 これ は その コロ の シュウカン で、 トリコ には ダレ でも いちおう は こう きいた もの で ある。 いきる と こたえる と コウサン した イミ で、 しぬ と いう と クップク しない と いう こと に なる。 ジブン は ヒトコト しぬ と こたえた。 タイショウ は クサ の ウエ に ついて いた ユミ を ムコウ へ なげて、 コシ に つるした ボウ の よう な ケン を するり と ぬきかけた。 それ へ カゼ に なびいた カガリビ が ヨコ から ふきつけた。 ジブン は ミギ の テ を カエデ の よう に ひらいて、 タナゴコロ を タイショウ の ほう へ むけて、 メ の ウエ へ さしあげた。 まて と いう アイズ で ある。 タイショウ は ふとい ケン を かちゃり と サヤ に おさめた。
 その コロ でも コイ は あった。 ジブン は しぬ マエ に ヒトメ おもう オンナ に あいたい と いった。 タイショウ は ヨ が あけて トリ が なく まで なら まつ と いった。 トリ が なく まで に オンナ を ここ へ よばなければ ならない。 トリ が ないて も オンナ が こなければ、 ジブン は あわず に ころされて しまう。
 タイショウ は コシ を かけた まま、 カガリビ を ながめて いる。 ジブン は おおきな ワラグツ を くみあわした まま、 クサ の ウエ で オンナ を まって いる。 ヨ は だんだん ふける。
 ときどき カガリビ が くずれる オト が する。 くずれる たび に うろたえた よう に ホノオ が タイショウ に なだれかかる。 マックロ な マユ の シタ で、 タイショウ の メ が ぴかぴか と ひかって いる。 すると タレ やら きて、 あたらしい エダ を たくさん ヒ の ナカ へ なげこんで ゆく。 しばらく する と、 ヒ が ぱちぱち と なる。 クラヤミ を はじきかえす よう な いさましい オト で あった。
 この とき オンナ は、 ウラ の ナラ の キ に つないで ある、 しろい ウマ を ひきだした。 タテガミ を 3 ド なでて たかい セ に ひらり と とびのった。 クラ も ない アブミ も ない ハダカウマ で あった。 ながく しろい アシ で、 フトバラ を ける と、 ウマ は イッサン に かけだした。 ダレ か が カガリ を つぎたした ので、 トオク の ソラ が うすあかるく みえる。 ウマ は この あかるい もの を めがけて ヤミ の ナカ を とんで くる。 ハナ から ヒ の ハシラ の よう な イキ を 2 ホン だして とんで くる。 それでも オンナ は ほそい アシ で しきりなし に ウマ の ハラ を けって いる。 ウマ は ヒヅメ の オト が チュウ で なる ほど はやく とんで くる。 オンナ の カミ は フキナガシ の よう に ヤミ の ナカ に オ を ひいた。 それでも まだ カガリ の ある ところ まで こられない。
 すると マックラ な ミチ の ハタ で、 たちまち こけこっこう と いう トリ の コエ が した。 オンナ は ミ を ソラザマ に、 リョウテ に にぎった タヅナ を うんと ひかえた。 ウマ は マエアシ の ヒヅメ を かたい イワ の ウエ に はっし と きざみこんだ。
 こけこっこう と ニワトリ が また ヒトコエ ないた。
 オンナ は あっ と いって、 しめた タヅナ を イチド に ゆるめた。 ウマ は モロヒザ を おる。 のった ヒト と ともに マトモ へ マエ へ のめった。 イワ の シタ は ふかい フチ で あった。
 ヒヅメ の アト は いまだに イワ の ウエ に のこって いる。 トリ の なく マネ を した もの は アマノジャク で ある。 この ヒヅメ の アト の イワ に きざみつけられて いる アイダ、 アマノジャク は ジブン の カタキ で ある。

ユメ ジュウヤ 2

2014-04-05 | ナツメ ソウセキ
 ダイ 6 ヤ

 ウンケイ が ゴコクジ の サンモン で ニオウ を きざんで いる と いう ヒョウバン だ から、 サンポ ながら いって みる と、 ジブン より サキ に もう オオゼイ あつまって、 しきり に ゲバヒョウ を やって いた。
 サンモン の マエ 5~6 ケン の ところ には、 おおきな アカマツ が あって、 その ミキ が ナナメ に サンモン の イラカ を かくして、 とおい アオゾラ まで のびて いる。 マツ の ミドリ と シュヌリ の モン が たがいに うつりあって みごと に みえる。 そのうえ マツ の イチ が いい。 モン の ヒダリ の ハシ を メザワリ に ならない よう に、 ハス に きって いって、 ウエ に なる ほど ハバ を ひろく ヤネ まで つきだして いる の が なんとなく コフウ で ある。 カマクラ ジダイ とも おもわれる。
 ところが みて いる モノ は、 ミンナ ジブン と おなじく、 メイジ の ニンゲン で ある。 その ウチ でも シャフ が いちばん おおい。 ツジマチ を して タイクツ だ から たって いる に ソウイ ない。
「おおきな もん だなあ」 と いって いる。
「ニンゲン を こしらえる より も よっぽと ホネ が おれる だろう」 とも いって いる。
 そう か と おもう と、 「へえ ニオウ だね。 イマ でも ニオウ を ほる の かね。 へえ そう かね。 ワッシャ また ニオウ は みんな ふるい の ばかり か と おもってた」 と いった オトコ が ある。
「どうも つよそう です ね。 なんだってえます ぜ。 ムカシ から ダレ が つよい って、 ニオウ ほど つよい ヒト あ ない って いいます ぜ。 なんでも ヤマトダケ ノ ミコト より も つよい ん だ ってえ から ね」 と はなしかけた オトコ も ある。 この オトコ は シリ を はしょって、 ボウシ を かぶらず に いた。 よほど ムキョウイク な オトコ と みえる。
 ウンケイ は ケンブツニン の ヒョウバン には イサイ トンジャク なく ノミ と ツチ を うごかして いる。 いっこう ふりむき も しない。 たかい ところ に のって、 ニオウ の カオ の アタリ を しきり に ほりぬいて ゆく。
 ウンケイ は アタマ に ちいさい エボシ の よう な もの を のせて、 スオウ だ か なんだか わからない おおきな ソデ を セナカ で くくって いる。 その ヨウス が いかにも ふるくさい。 わいわい いってる ケナブツニン とは まるで ツリアイ が とれない よう で ある。 ジブン は どうして イマジブン まで ウンケイ が いきて いる の かな と おもった。 どうも フシギ な こと が ある もの だ と かんがえながら、 やはり たって みて いた。
 しかし ウンケイ の ほう では フシギ とも キタイ とも とんと かんじえない ヨウス で イッショウ ケンメイ に ほって いる。 あおむいて この タイド を ながめて いた ヒトリ の わかい オトコ が、 ジブン の ほう を ふりむいて、
「さすが は ウンケイ だな。 ガンチュウ に ワレワレ なし だ。 テンカ の エイユウ は ただ ニオウ と ワレ と ある のみ と いう タイド だ。 あっぱれ だ」 と いって ほめだした。
 ジブン は この コトバ を おもしろい と おもった。 それで ちょっと わかい オトコ の ほう を みる と、 わかい オトコ は、 すかさず、
「あの ノミ と ツチ の ツカイカタ を みたまえ。 ダイジザイ の ミョウキョウ に たっして いる」 と いった。
 ウンケイ は イマ ふとい マユ を 1 スン の タカサ に ヨコ へ ほりぬいて、 ノミ の ハ を タテ に かえす や いなや ハス に、 ウエ から ツチ を うちおろした。 かたい キ を ヒトキザミ に けずって、 あつい キクズ が ツチ の コエ に おうじて とんだ と おもったら、 コバナ の おっぴらいた イカリバナ の ソクメン が たちまち うきあがって きた。 その トウ の イレカタ が いかにも ブエンリョ で あった。 そうして すこしも ギネン を さしはさんで おらん よう に みえた。
「よく ああ ムゾウサ に ノミ を つかって、 おもう よう な マミエ や ハナ が できる もの だな」 と ジブン は あんまり カンシン した から ヒトリゴト の よう に いった。 すると サッキ の わかい オトコ が、
「なに、 あれ は マミエ や ハナ を ノミ で つくる ん じゃ ない。 あの とおり の マミエ や ハナ が キ の ナカ に うまって いる の を、 ノミ と ツチ の チカラ で ほりだす まで だ。 まるで ツチ の ナカ から イシ を ほりだす よう な もの だ から けっして まちがう はず は ない」 と いった。
 ジブン は この とき はじめて チョウコク とは そんな もの か と おもいだした。 はたして そう なら ダレ に でも できる こと だ と おもいだした。 それで キュウ に ジブン も ニオウ が ほって みたく なった から ケンブツ を やめて さっそく ウチ へ かえった。
 ドウグバコ から ノミ と カナヅチ を もちだして、 ウラ へ でて みる と、 センダッテ の アラシ で たおれた カシ を、 マキ に する つもり で、 コビキ に ひかせた テゴロ な やつ が、 たくさん つんで あった。
 ジブン は いちばん おおきい の を えらんで、 イキオイ よく ほりはじめて みた が、 フコウ に して、 ニオウ は みあたらなかった。 その ツギ の にも ウン わるく ほりあてる こと が できなかった。 3 バンメ の にも ニオウ は いなかった。 ジブン は つんで ある マキ を カタッパシ から ほって みた が、 どれ も これ も ニオウ を かくして いる の は なかった。 ついに メイジ の キ には とうてい ニオウ は うまって いない もの だ と さとった。 それで ウンケイ が キョウ まで いきて いる リユウ も ほぼ わかった。

 ダイ 7 ヤ

 なんでも おおきな フネ に のって いる。
 この フネ が マイニチ マイヨ すこし の たえまなく くろい ケブリ を はいて ナミ を きって すすんで ゆく。 すさまじい オト で ある。 けれども どこ へ ゆく ん だ か わからない。 ただ ナミ の ソコ から ヤケヒバシ の よう な タイヨウ が でる。 それ が たかい ホバシラ の マウエ まで きて しばらく かかって いる か と おもう と、 いつのまにか おおきな フネ を おいこして、 サキ へ いって しまう。 そうして、 シマイ には ヤケヒバシ の よう に じゅっ と いって また ナミ の ソコ に しずんで ゆく。 その たんび に あおい ナミ が トオク の ムコウ で、 スオウ の イロ に わきかえる。 すると フネ は すさまじい オト を たてて その アト を おっかけて ゆく。 けれども けっして おっつかない。
 ある とき ジブン は、 フネ の オトコ を つらまえて きいて みた。
「この フネ は ニシ へ ゆく ん です か」
 フネ の オトコ は ケゲン な カオ を して、 しばらく ジブン を みて いた が、 やがて、
「なぜ」 と といかえした。
「おちて ゆく ヒ を おっかける よう だ から」
 フネ の オトコ は からから と わらった。 そうして ムコウ の ほう へ いって しまった。
「ニシ へ ゆく ヒ の、 ハテ は ヒガシ か。 それ は ホンマ か。 ヒガシ でる ヒ の、 オサト は ニシ か。 それ も ホンマ か。 ミ は ナミ の ウエ。 カジマクラ。 ながせ ながせ」 と はやして いる。 ヘサキ へ いって みたら、 スイフ が オオゼイ よって、 ふとい ホヅナ を たぐって いた。
 ジブン は たいへん こころぼそく なった。 いつ オカ へ あがれる こと か わからない。 そうして どこ へ ゆく の だ か しれない。 ただ くろい ケブリ を はいて ナミ を きって ゆく こと だけ は たしか で ある。 その ナミ は すこぶる ひろい もの で あった。 サイゲン も なく あおく みえる。 ときには ムラサキ にも なった。 ただ フネ の うごく マワリ だけ は いつでも マッシロ に アワ を ふいて いた。 ジブン は たいへん こころぼそかった。 こんな フネ に いる より いっそ ミ を なげて しんで しまおう か と おもった。
 ノリアイ は たくさん いた。 タイテイ は イジン の よう で あった。 しかし イロイロ な カオ を して いた。 ソラ が くもって フネ が ゆれた とき、 ヒトリ の オンナ が テスリ に よりかかって、 しきり に ないて いた。 メ を ふく ハンケチ の イロ が しろく みえた。 しかし カラダ には サラサ の よう な ヨウフク を きて いた。 この オンナ を みた とき に、 かなしい の は ジブン ばかり では ない の だ と キ が ついた。
 ある バン カンパン の ウエ に でて、 ヒトリ で ホシ を ながめて いたら、 ヒトリ の イジン が きて、 テンモンガク を しってる か と たずねた。 ジブン は つまらない から しのう と さえ おもって いる。 テンモンガク など を しる ヒツヨウ が ない。 だまって いた。 すると その イジン が キンギュウキュウ の イタダキ に ある シチセイ の ハナシ を して きかせた。 そうして ホシ も ウミ も みんな カミ の つくった もの だ と いった。 サイゴ に ジブン に カミ を シンコウ する か と たずねた。 ジブン は ソラ を みて だまって いた。
 ある とき サローン に はいったら ハデ な イショウ を きた わかい オンナ が ムコウムキ に なって、 ピアノ を ひいて いた。 その ソバ に セイ の たかい リッパ な オトコ が たって、 ショウカ を うたって いる。 その クチ が たいへん おおきく みえた。 けれども フタリ は フタリ イガイ の こと には まるで トンジャク して いない ヨウス で あった。 フネ に のって いる こと さえ わすれて いる よう で あった。
 ジブン は ますます つまらなく なった。 とうとう しぬ こと に ケッシン した。 それで ある バン、 アタリ に ヒト の いない ジブン、 おもいきって ウミ の ナカ へ とびこんだ。 ところが―― ジブン の アシ が カンパン を はなれて、 フネ と エン が きれた その セツナ に、 キュウ に イノチ が おしく なった。 ココロ の ソコ から よせば よかった と おもった。 けれども、 もう おそい。 ジブン は いや でも オウ でも ウミ の ナカ へ はいらなければ ならない。 ただ たいへん たかく できて いた フネ と みえて、 カラダ は フネ を はなれた けれども、 アシ は ヨウイ に ミズ に つかない。 しかし つかまえる もの が ない から、 しだいしだい に ミズ に ちかづいて くる。 いくら アシ を ちぢめて も ちかづいて くる。 ミズ の イロ は くろかった。
 そのうち フネ は レイ の とおり くろい ケブリ を はいて、 とおりすぎて しまった。 ジブン は どこ へ ゆく ん だ か わからない フネ でも、 やっぱり のって いる ほう が よかった と はじめて さとりながら、 しかも その サトリ を リヨウ する こと が できず に、 ムゲン の コウカイ と キョウフ と を いだいて くろい ナミ の ほう へ しずか に おちて いった。

 ダイ 8 ヤ

 トコヤ の シキイ を またいだら、 しろい キモノ を きて かたまって いた 3~4 ニン が、 イチド に いらっしゃい と いった。
 マンナカ に たって みまわす と、 シカク な ヘヤ で ある。 マド が ニホウ に あいて、 のこる ニホウ に カガミ が かかって いる。 カガミ の カズ を カンジョウ したら ムッツ あった。
 ジブン は その ヒトツ の マエ へ きて コシ を おろした。 すると オシリ が ぶくり と いった。 よほど スワリゴコチ が よく できた イス で ある。 カガミ には ジブン の カオ が リッパ に うつった。 カオ の ウシロ には マド が みえた。 それから チョウバ-ゴウシ が ハス に みえた。 コウシ の ナカ には ヒト が いなかった。 マド の ソト を とおる オウライ の ヒト の コシ から ウエ が よく みえた。
 ショウタロウ が オンナ を つれて とおる。 ショウタロウ は いつのまにか パナマ の ボウシ を かって かぶって いる。 オンナ も いつのまに こしらえた もの やら。 ちょっと わからない。 ソウホウ とも トクイ の よう で あった。 よく オンナ の カオ を みよう と おもう うち に とおりすぎて しまった。
 トウフヤ が ラッパ を ふいて とおった。 ラッパ を クチ へ あてがって いる んで、 ホッペタ が ハチ に さされた よう に ふくれて いた。 ふくれた まんま で とおりこした もの だ から、 キガカリ で たまらない。 ショウガイ ハチ に さされて いる よう に おもう。
 ゲイシャ が でた。 まだ オツクリ を して いない。 シマダ の ネ が ゆるんで、 なんだか アタマ に シマリ が ない。 カオ も ねぼけて いる。 イロツヤ が キノドク な ほど わるい。 それで オジギ を して、 どうも なんとか です と いった が、 アイテ は どうしても カガミ の ナカ へ でて こない。
 すると しろい キモノ を きた おおきな オトコ が、 ジブン の ウシロ へ きて、 ハサミ と クシ を もって ジブン の アタマ を ながめだした。 ジブン は うすい ヒゲ を ひねって、 どう だろう モノ に なる だろう か と たずねた。 しろい オトコ は、 なにも いわず に、 テ に もった コハクイロ の クシ で かるく ジブン の アタマ を たたいた。
「さあ、 アタマ も だ が、 どう だろう、 モノ に なる だろう か」 と ジブン は しろい オトコ に きいた。 しろい オトコ は やはり なにも こたえず に、 ちゃきちゃき と ハサミ を ならしはじめた。
 カガミ に うつる カゲ を ヒトツ のこらず みる つもり で メ を みはって いた が、 ハサミ の なる たんび に くろい ケ が とんで くる ので、 おそろしく なって、 やがて メ を とじた。 すると しろい オトコ が、 こう いった。
「ダンナ は オモテ の キンギョウリ を ゴラン なすった か」
 ジブン は みない と いった。 しろい オトコ は それぎり で、 しきり と ハサミ を ならして いた。 すると とつぜん おおきな コエ で あぶねえ と いった モノ が ある。 はっと メ を あける と、 しろい オトコ の ソデ の シタ に ジテンシャ の ワ が みえた。 ジンリキ の カジボウ が みえた。 と おもう と、 しろい オトコ が リョウテ で ジブン の アタマ を おさえて うんと ヨコ へ むけた。 ジテンシャ と ジンリキシャ は まるで みえなく なった。 ハサミ の オト が ちゃきちゃき する。
 やがて、 しろい オトコ は ジブン の ヨコ へ まわって、 ミミ の ところ を かりはじめた。 ケ が マエ の ほう へ とばなく なった から、 アンシン して メ を あけた。 アワモチ や、 モチ やあ、 モチ や、 と いう コエ が すぐ、 そこ で する。 ちいさい キネ を わざと ウス へ あてて、 ヒョウシ を とって モチ を ついて いる。 アワモチヤ は コドモ の とき に みた ばかり だ から、 ちょっと ヨウス が みたい。 けれども アワモチヤ は けっして カガミ の ナカ に でて こない。 ただ モチ を つく オト だけ する。
 ジブン は アルタケ の シリョク で カガミ の カド を のぞきこむ よう に して みた。 すると チョウバ-ゴウシ の ウチ に、 いつのまにか ヒトリ の オンナ が すわって いる。 イロ の あさぐろい マミエ の こい オオガラ な オンナ で、 カミ を イチョウガエシ に ゆって、 クロジュス の ハンエリ の かかった スアワセ で、 タテヒザ の まま、 サツ の カンジョウ を して いる。 サツ は 10 エン サツ らしい。 オンナ は ながい マツゲ を ふせて うすい クチビル を むすんで イッショウ ケンメイ に、 サツ の カズ を よんで いる が、 その ヨミカタ が いかにも はやい。 しかも サツ の カズ は どこ まで いって も つきる ヨウス が ない。 ヒザ の ウエ に のって いる の は たかだか 100 マイ ぐらい だ が、 その 100 マイ が いつまで カンジョウ して も 100 マイ で ある。
 ジブン は ぼうぜん と して この オンナ の カオ と 10 エン サツ を みつめて いた。 すると ミミ の モト で しろい オトコ が おおきな コエ で 「あらいましょう」 と いった。 ちょうど うまい オリ だ から、 イス から たちあがる や いなや、 チョウバ-ゴウシ の ほう を ふりかえって みた。 けれども コウシ の ウチ には オンナ も サツ も なんにも みえなかった。
 ダイ を はらって オモテ へ でる と、 カドグチ の ヒダリガワ に、 コバンナリ の オケ が イツツ ばかり ならべて あって、 その ナカ に あかい キンギョ や、 フイリ の キンギョ や、 やせた キンギョ や、 ふとった キンギョ が たくさん いれて あった。 そうして キンギョウリ が その ウシロ に いた。 キンギョウリ は ジブン の マエ に ならべた キンギョ を みつめた まま、 ホオヅエ を ついて、 じっと して いる。 さわがしい オウライ の カツドウ には ほとんど ココロ を とめて いない。 ジブン は しばらく たって この キンギョウリ を ながめて いた。 けれども ジブン が ながめて いる アイダ、 キンギョウリ は ちっとも うごかなかった。

 ダイ 9 ヤ

 ヨノナカ が なんとなく ざわつきはじめた。 いまにも イクサ が おこりそう に みえる。 やけだされた ハダカウマ が、 ヨルヒル と なく、 ヤシキ の マワリ を あれまわる と、 それ を ヨルヒル と なく アシガル ども が ひしめきながら おっかけて いる よう な ココロモチ が する。 それでいて イエ の ウチ は しんと して しずか で ある。
 イエ には わかい ハハ と ミッツ に なる コドモ が いる。 チチ は どこ か へ いった。 チチ が どこ か へ いった の は、 ツキ の でて いない ヨナカ で あった。 トコ の ウエ で ワラジ を はいて、 くろい ズキン を かぶって、 カッテグチ から でて いった。 その とき ハハ の もって いた ボンボリ の ヒ が くらい ヤミ に ほそながく さして、 イケガキ の テマエ に ある ふるい ヒノキ を てらした。
 チチ は それきり かえって こなかった。 ハハ は マイニチ ミッツ に なる コドモ に 「オトウサマ は」 と きいて いる。 コドモ は なんとも いわなかった。 しばらく して から 「あっち」 と こたえる よう に なった。 ハハ が 「いつ オカエリ」 と きいて も やはり 「あっち」 と こたえて わらって いた。 その とき は ハハ も わらった。 そうして 「いまに オカエリ」 と いう コトバ を ナンベン と なく くりかえして おしえた。 けれども コドモ は 「いまに」 だけ を おぼえた のみ で ある。 ときどき は 「オトウサマ は どこ」 と きかれて 「いまに」 と こたえる こと も あった。
 ヨル に なって、 アタリ が しずまる と、 ハハ は オビ を しめなおして、 サメザヤ の タントウ を オビ の アイダ へ さして、 コドモ を ホソオビ で セナカ へ しょって、 そっと クグリ から でて ゆく。 ハハ は いつでも ゾウリ を はいて いた。 コドモ は この ゾウリ の オト を ききながら ハハ の セナカ で ねて しまう こと も あった。
 ツチベイ の つづいて いる ヤシキマチ を ニシ へ くだって、 ダラダラザカ を おりつくす と、 おおきな イチョウ が ある。 この イチョウ を メジルシ に ミギ に きれる と、 1 チョウ ばかり オク に イシ の トリイ が ある。 カタガワ は タンボ で、 カタガワ は クマザサ ばかり の ナカ を トリイ まで きて、 それ を くぐりぬける と、 くらい スギ の コダチ に なる。 それから 20 ケン ばかり シキイシヅタイ に つきあたる と、 ふるい ハイデン の カイダン の シタ に でる。 ネズミイロ に あらいだされた サイセンバコ の ウエ に、 おおきな スズ の ヒモ が ぶらさがって ヒルマ みる と、 その スズ の ソバ に ハチマングウ と いう ガク が かかって いる。 ハチ の ジ が、 ハト が 2 ワ むかいあった よう な ショタイ に できて いる の が おもしろい。 その ホカ にも イロイロ の ガク が ある。 タイテイ は カチュウ の モノ の いぬいた キンテキ を、 いぬいた モノ の ナマエ に そえた の が おおい。 たまに は タチ を おさめた の も ある。
 トリイ を くぐる と スギ の コズエ で いつでも フクロウ が ないて いる。 そうして、 ヒヤメシ ゾウリ の オト が ぴちゃぴちゃ する。 それ が ハイデン の マエ で やむ と、 ハハ は まず スズ を ならして おいて、 すぐに しゃがんで カシワデ を うつ。 タイテイ は この とき フクロウ が キュウ に なかなく なる。 それから ハハ は イッシン フラン に オット の ブジ を いのる。 ハハ の カンガエ では、 オット が サムライ で ある から、 ユミヤ の カミ の ハチマン へ、 こう やって ぜひない ガン を かけたら、 よもや きかれぬ ドウリ は なかろう と イチズ に おもいつめて いる。
 コドモ は よく この スズ の オト で メ を さまして、 アタリ を みる と マックラ だ もの だ から、 キュウ に セナカ で なきだす こと が ある。 その とき ハハ は クチ の ウチ で ナニ か いのりながら、 セ を ふって あやそう と する。 すると うまく なきやむ こと も ある。 また ますます はげしく なきたてる こと も ある。 いずれ に して も ハハ は ヨウイ に たたない。
 ひととおり オット の ミノウエ を いのって しまう と、 コンド は ホソオビ を といて、 セナカ の コ を ずりおろす よう に、 セナカ から マエ へ まわして、 リョウテ に だきながら ハイデン を のぼって いって、 「いい コ だ から、 すこし の マ、 まって おいで よ」 と きっと ジブン の ホオ を コドモ の ホオ へ すりつける。 そうして ホソオビ を ながく して、 コドモ を しばって おいて、 その カタハシ を ハイデン の ランカン に くくりつける。 それから ダンダン を おりて きて 20 ケン の シキイシ を いったり きたり オヒャクド を ふむ。
 ハイデン に くくりつけられた コ は、 クラヤミ の ナカ で、 ホソオビ の タケ の ゆるす かぎり、 ヒロエン の ウエ を はいまわって いる。 そういう とき は ハハ に とって、 はなはだ ラク な ヨル で ある。 けれども しばった コ に ひいひい なかれる と、 ハハ は キ が キ で ない。 オヒャクド の アシ が ヒジョウ に はやく なる。 たいへん イキ が きれる。 シカタ の ない とき は、 チュウト で ハイデン へ あがって きて、 いろいろ すかして おいて、 また オヒャクド を ふみなおす こと も ある。
 こういう ふう に、 イクバン と なく ハハ が キ を もんで、 ヨノメ も ねず に シンパイ して いた チチ は、 とく の ムカシ に ロウシ の ため に ころされて いた の で ある。
 こんな かなしい ハナシ を、 ユメ の ナカ で ハハ から きいた。

 ダイ 10 ヤ

 ショウタロウ が オンナ に さらわれて から ナノカ-メ の バン に ふらり と かえって きて、 キュウ に ネツ が でて どっと、 トコ に ついて いる と いって ケン さん が しらせ に きた。
 ショウタロウ は チョウナイ イチ の コウダンシ で、 しごく ゼンリョウ な ショウジキモノ で ある。 ただ ヒトツ の ドウラク が ある。 パナマ の ボウシ を かぶって、 ユウガタ に なる と ミズガシヤ の ミセサキ へ コシ を かけて、 オウライ の オンナ の カオ を ながめて いる。 そうして しきり に カンシン して いる。 その ホカ には これ と いう ほど の トクショク も ない。
 あまり オンナ が とおらない とき は、 オウライ を みない で ミズガシ を みて いる。 ミズガシ には いろいろ ある。 スイミツトウ や、 リンゴ や、 ビワ や、 バナナ を きれい に カゴ に もって、 すぐ ミヤゲモノ に もって ゆける よう に 2 レツ に ならべて ある。 ショウタロウ は この カゴ を みて は きれい だ と いって いる。 ショウバイ を する なら ミズガシヤ に かぎる と いって いる。 そのくせ ジブン は パナマ の ボウシ を かぶって ぶらぶら あそんで いる。
 この イロ が いい と いって、 ナツミカン など を ヒンピョウ する こと も ある。 けれども、 かつて ゼニ を だして ミズガシ を かった こと が ない。 タダ では むろん くわない。 イロ ばかり ほめて いる。
 ある ユウガタ ヒトリ の オンナ が、 フイ に ミセサキ に たった。 ミブン の ある ヒト と みえて リッパ な フクソウ を して いる。 その キモノ の イロ が ひどく ショウタロウ の キ に いった。 そのうえ ショウタロウ は たいへん オンナ の カオ に カンシン して しまった。 そこで ダイジ な パナマ の ボウシ を とって テイネイ に アイサツ を したら、 オンナ は カゴヅメ の いちばん おおきい の を さして、 これ を ください と いう んで、 ショウタロウ は すぐ その カゴ を とって わたした。 すると オンナ は それ を ちょっと さげて みて、 たいへん おもい こと と いった。
 ショウタロウ は がんらい ヒマジン の うえ に、 すこぶる きさく な オトコ だ から、 では オタク まで もって まいりましょう と いって、 オンナ と イッショ に ミズガシヤ を でた。 それぎり かえって こなかった。
 いかな ショウタロウ でも、 あんまり ノンキ-すぎる。 タダゴト じゃ なかろう と いって、 シンルイ や トモダチ が さわぎだして いる と、 ナノカ-メ の バン に なって、 ふらり と かえって きた。 そこで オオゼイ よって たかって、 ショウ さん どこ へ いって いた ん だい と きく と、 ショウタロウ は デンシャ へ のって ヤマ へ いった ん だ と こたえた。
 なんでも よほど ながい デンシャ に ちがいない。 ショウタロウ の いう ところ に よる と、 デンシャ を おりる と すぐと ハラ へ でた そう で ある。 ヒジョウ に ひろい ハラ で、 どこ を みまわして も あおい クサ ばかり はえて いた。 オンナ と イッショ に クサ の ウエ を あるいて ゆく と、 キュウ に キリギシ の テッペン へ でた、 その とき オンナ が ショウタロウ に、 ここ から とびこんで ごらんなさい と いった。 ソコ を のぞいて みる と、 キリギシ は みえる が ソコ は みえない。 ショウタロウ は また パナマ の ボウシ を ぬいで さいさん ジタイ した。 すると オンナ が、 もし おもいきって とびこまなければ、 ブタ に なめられます が よう ござんす か と きいた。 ショウタロウ は ブタ と クモエモン が だいきらい だった。 けれども イノチ には かえられない と おもって、 やっぱり とびこむ の を みあわせて いた。 ところへ ブタ が 1 ピキ ハナ を ならして きた。 ショウタロウ は しかたなし に、 もって いた ほそい ビンロウジュ の ステッキ で、 ブタ の ハナヅラ を ぶった。 ブタ は ぐう と いいながら、 ころり と ひっくりかえって、 キリギシ の シタ へ おちて いった。 ショウタロウ は ほっと ヒトイキ ついで いる と また 1 ピキ の ブタ が おおきな ハナ を ショウタロウ に スリツケ に きた。 ショウタロウ は やむ を えず また ステッキ を ふりあげた。 ブタ は ぐう と ないて また マッサカサマ に アナ の ソコ へ ころげこんだ。 すると また 1 ピキ あらわれた。 この とき ショウタロウ は ふと キ が ついて、 ムコウ を みる と、 はるか の アオクサバラ の つきる アタリ から イクマンビキ か かぞえきれぬ ブタ が、 ムレ を なして イッチョクセン に、 この キリギシ の ウエ に たって いる ショウタロウ を めがけて ハナ を ならして くる。 ショウタロウ は しんから キョウシュク した。 けれども シカタ が ない から、 ちかよって くる ブタ の ハナヅラ を、 ヒトツヒトツ テイネイ に ビンロウジュ の ステッキ で ぶって いった。 フシギ な こと に ステッキ が ハナ へ さわり さえ すれば ブタ は ころり と タニ の ソコ へ おちて ゆく。 のぞいて みる と ソコ の みえない キリギシ を、 サカサ に なった ブタ が ギョウレツ して おちて ゆく。 ジブン が この くらい オオク の ブタ を タニ へ おとした か と おもう と、 ショウタロウ は われながら こわく なった。 けれども ブタ は ぞくぞく くる。 クロクモ に アシ が はえて、 アオクサ を ふみわける よう な イキオイ で ムジンゾウ に ハナ を ならして くる。
 ショウタロウ は ヒッシ の ユウ を ふるって、 ブタ の ハナヅラ を ナノカ ムバン たたいた。 けれども、 とうとう セイコン が つきて、 テ が コンニャク の よう に よわって、 シマイ に ブタ に なめられて しまった。 そうして キリギシ の ウエ へ たおれた。
 ケン さん は、 ショウタロウ の ハナシ を ここ まで して、 だから あんまり オンナ を みる の は よく ない よ と いった。 ジブン も もっとも だ と おもった。 けれども ケン さん は ショウタロウ の パナマ の ボウシ が もらいたい と いって いた。
 ショウタロウ は たすかるまい。 パナマ は ケン さん の もの だろう。