鴨着く島

大隅の風土と歴史を紹介していきます

Tシャツと背広

2022-07-08 09:47:28 | 専守防衛力を有する永世中立国
ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、現代の最先端の情報合戦が繰り広げられている。

何と言っても侵攻された側のウクライナのゼレンスキ―大統領が、毎日のようにインターネットを通して世界に向かって呼びかける姿が放映されているが、これはこれまでの戦争シーンでは全く考えられなかったことだ。

しかもその容姿が実に興味深い。常に半袖のモスグリーンのTシャツ姿なのだ。ロシア軍による侵攻が開始されたのは2月24日だったが、時を経ずしてゼレンスキー大統領の直接の声明が、およそ大統領らしからぬ姿でもって世界に向けて同時に発信されたのであった。

時折りミサイル等で破壊された街並みを放映するので、戦争開始を知らなかった人間から見たら、ゼレンスキ―氏はウクライナの放送局のニュースキャスターか何かに思われたろう。

もっとも、カメラの前のニュースキャスターなら半袖のTシャツ姿というのはまず考えられないから、同じ「ニュース」を見ている周りの人に疑問を投げれば、すぐにあれが本物の大統領だということに気付かされるに違いないが・・・。

いずれにしても画面に出るゼレンスキ―大統領の一張羅(?)の半袖Tシャツは、見る者の同情を誘うに十分である。外は雪の降っている開戦当初の寒い時期でも半袖だったということは、もちろん暖房の効いた部屋で映したのであろうが、おそらく当地では普遍的に造作された地下深くの核戦争に耐えられる避難所(大統領府の地下室)の内部だったに違いない。

それに比べると侵攻した側の大統領プーチンは常に背広姿で登場する。

プーチンはフランスのマクロン大統領と開戦前に2度ばかり大統領府のクレムリン宮殿で会談している。あの10メートルもあるような細長い人を喰ったような楕円のテーブルの端と端に座って両首脳が対談していたのだが、その時、プーチンはは外交上の礼儀でもあり、背広にネクタイ姿であった。

ところが開戦後に時折り放映されるプーチンの姿に目立った変化はなく、相変わらず地味な色の背広姿であった。自分としては戦時の大統領であり、少なくとも上着くらいは国防服のようなタイプのものを纏うと思っていたのである。

陸軍省とか空軍省の大臣や参謀長などとの会談では彼ら将帥たちはきらびやかなバッジを胸にたくさん付けた金モール仕立ての軍服姿だが、プーチン本人はやはり背広である。自分は文官のトップであり、戦争遂行の指示は出すが、実戦は将帥たちの責務に任せているという主張であろう。

この戦争の終結が敗戦か、停戦が、休戦か、いずれによるかは今のところ不透明だが、どっちにしても終結後に「ウクライナの一般市民殺害の戦争責任」の訴追は免れ得ず、その時には現場責任者である将帥たちに責任を転嫁できるという伏線に違いない。優秀だったKGB職員上がりのプーチンならお手のもののやり方だ。

KGBと言えば、プーチンが画面に現れ、すたすたと歩く映像を見て不可解に思うことが一つある。

彼は左手は思い切ってよく前後に振るのだが、右手は全くと言ってよいほど振らない。そのことに気付いた人は多いと思うが、右手が特に病的に不自由というわけではないのは、テーブルに座った際には普通に肘を曲げ手首も動いていることで分かる。

だが歩いている時、右手は不気味なくらい動いていない。その意味は何だろうか?

推測だが、背広の右内側に小型のピストルを隠し持っているからだろう。超小型・超薄型なら軽量であり、歩いても背広を不必要に揺らすことはなく、人には気づかれまい。ただ右手を勢いよく振るとさすがにばれるので振らないのだろう。もちろん防弾チョッキも着用しているはずである。

このあたりはKGBというかつてのスパイ活動ではお馴染みのことであり、大統領になってからは特に狙われそうな場面で過去のやり方を踏襲しているに違いない。

半袖Tシャツの大統領と背広にネクタイの大統領。勝敗は決せられていないが、この戦争に関する是非善悪(戦争責任)がどちらにあるかは明白である。