父が自宅で生活するようになって、一番困ったことは、お酒を飲むようになったことです。
父が飲んでいた脳の薬は、お酒を飲むと効果が出すぎるので、原則的にお酒は飲まないよう注意書きがされています。
でも、父は大好きなお酒を飲みたがり、医者の許可を得て、1日コップ1杯だけ飲むようになりました。
高齢者住宅では、夕方に、コップに入れたお酒を部屋に持ってきてくださり、父は、お風呂上がりの楽しみにしていました。
自宅に帰ってからも、私が、曜日を記したコップに父のお酒を準備をしていました。
それが、高齢者住宅との契約が切れた4月頃から、父は、自分でお酒を買いに行き、約束のコップ1杯以上のお酒を飲むようになってしまいました。
決められた以上のお酒を飲むと、父はわけが解らなくなってしまいます。
物に当たったのか、父が倒れたのか分かりませんが、大きな音がして、弟から連絡が来ます。
私が駆けつけると、グラスが割れ、ぐちゃぐちゃになった部屋の中に、父が失禁したまま倒れています。
そればかりか、ストーマ(人工肛門)を外そうとしたのか、汚れた手で部屋のあちこちを触っていて、部屋中がうんちだらけになっています。
父は、お風呂上がりにお酒を飲むので、そんな時は、夜中に実家に駆けつけ、父を着替えさせ寝かせた後、弟と二人で部屋を片付け、私は、夜明け前、息子が目を覚ます前にやっと自宅に戻ることが出来るのでした。
お酒を飲みすぎた次の日、父は、一日中調子が悪そうにボーっとしています。
「コップ1杯以上、お酒を飲んだやろ!」と言っても、父は、「そんなはずない」と首を横に振ります。
「お父さんが買ってきたお酒やろ!」と、証拠のお酒のパックを見せると、父はきょとんとしています。
どうやら、父には記憶がないようです。
それでも、父は、買い物に行っては衝動的にお酒を買ってしまい、私が気付かなければ、それを飲んで、また倒れるの繰り返しになるので、私は、毎日、実家を家探しし、お酒を見つけては処分していました。
そこまでしても、父は、いつの間にかお酒を買ってきて飲んでしまうのです。
「もう、お酒自体をやめよう」と、何度も説得しました。
でも、父は、「お酒を飲まんな、眠られへんのや」と、断固として拒否します。
過去も未来も繋がらない「今」しかない父の、不安でやってられない気持ちが、お酒を欲するのでしょうか。
「でも、お父さんの体が心配やから、絶対に、お酒はコップ1杯だけ! これ以上、勝手にお酒買って飲むんやったら、家での生活は無理やで。ケアマネージャーさんに、施設で生活するよう、探してもらうよ」
私が父に言い聞かせたことは、父の脳に、いや、父の心に残っているのでしょうか。
お酒をやめられないのは、高次脳機能障害のせい?
父は、無茶苦茶お酒を飲むわけではありません。
ただ、ほんの少し飲む量が多かっただけでも、脳が異変を起こしてしまうのです。
そういう脳になってしまったことを理解できない病識の欠如。約束を覚えられない記憶障害。
それとも、衝動の抑制がきかないせい?
冷蔵庫や玄関のドアに張り紙をしたり、父の顔を見るたびに、「お父さんの体のためやで! お酒はコップ1杯まで!」と、念を押したりするのですが、それでもなお、父は、お酒を買って飲んでしまうのです。
息子が書いてくれた張り紙
私は、ケアマネージャーさんに、父が入れる施設を紹介してくださるようお願いしました。