イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

部長、お言葉ですが、それはいかがなものかと.......

2009年06月18日 23時01分48秒 | 翻訳について
アメリカ英語のビジネス文書には、頻繁に"Vice President(VP)"という肩書きが出てくるのですが、これがなかなか訳すのが難しいのです。

"vice"には「代わりの」「代理の」という意味があり、"president"は「長」、「社長」という意味があるので、よく「副社長」と訳されているのを見かけますが、ビジネスの世界では「部門の長」すなわち「部長」と訳すのが一番適切なようです。

なぜVPが部長になるのでしょうか? 僕が思うに、すごくシンプルに考えると、会社とは「部門の集まり」です。部門にはそれぞれの長がいて、そしてその上に会社全体を代表する人、すなわち社長がいる。だから、部長は社長の次にエライ人になるので、Vice Predident = 部長になるわけです。

ちょっと例えが違うかも知れませんが、ある人がボーリング大会で「準優勝」したとします。すごいな~と思うかもしれませんが、ひょっとしたらその大会にはたった3人しか参加していなかったのかもしれません。その場合は、その人は3人のなかで2位だったわけですから、間違いなく準優勝したことになりますが、同時に下からみたら「ブービー賞」でもあるわけです。だけど、対外的には、準優勝のほうが聞こえがいい。いわゆる、「ものは言いよう」です。なので、VPにもこのような肩書きを大きく見せるような心理が若干ながら働いているのではないかと思うのです。この仮説を、「ブイピー(VP)のブービー理論」を呼ぶことにします(なんて)。

あるいは、会社組織がとてもシンプルだった牧歌的な「会社黎明期」(そんな時代が本当にあったのかどうかは知りませんが)、Presidentくらいしか役職名なるものが必要ない場合もあったのかもしれません。サッカーのチームにも、1人のキャプテンと1~2名の副キャプテン、そしてその他大勢のメンバーしかいないように。Presidentが全体を仕切り、それに準じる能力や権限をもった人たちは、Vice Presidentと呼ばれる。あとは単なるメンバー。そういう時代の名残で、「2番手の人をVPと呼ぶ」という文化が根付いているのかもしれないと(まったくの憶測にすぎません)。でもそういえば、実際、以前僕が関わったことのあるアメリカの小さな企業では、VPが部門において大きな権限を持っていました。会社全体のことについて意志決定を下すときにのみ、Presidntが彼の前に現れるというような感じでした。そのときは、なるほど、VPという肩書きは伊達ではないのだなと腑に落ちました。

でも、だからといってこれを「部長」と訳せばいいのか、というと実は個人的にはちょっと抵抗があります。日本の企業の役職と、海外の企業の役職は等価なものではありません。
無理に日本の役職を当てはめてしまうと、そこにはかならず齟齬が生まれてきます。
Vice Presidentを「副社長」にするのは、ある意味誤訳に近いことになる場合もあると思いますが、それでも「社長の次にエライ」というニュアンスは生きています。"Vice President"には、シャンパンを飲みながら高級フランス料理を食べているようなイメージがあります。しかし、それを「部長」にしたとたん、VPという言葉の華やかさは消え、なんとなくスケールダウンした印象が否めません。「居酒屋で焼き鳥をつまみに焼酎を飲んでいるちょっと強面で小太りの部長(九州男児)」の姿が浮かんできます。なんというか、「部長」にはものすごい「和臭」が染みついているのです。アメリカ人には、「部長」「課長」「係長」という言葉はなぜか似合いません。そもそも、「社長」という言葉すら微妙に似合いません。なので、VPを部長と訳すのは、アメリカのアマチュアレスリングのチャンピオンのことを、「横綱」と訳してしまったような居心地の悪さがあります。実際、VPは、日本でいうところの「副社長ほど偉くはないけど、部長よりは大きな権限を持っている」と位置づけることができるようです。帯に短し襷に長しですね。

なので、僕は「VP」や「バイスプレジデント」など、そのままの言葉で訳すのがいいのではないかと思うのですが、そうすると、「VPってなんだ?」と読んでいる人に思われてしまうようで、それはそれで手抜きをしたような気になってなんとなく釈然としません。できれば、「日本の部長に相当する」とかそういう注釈的な情報も盛り込めればよいのですが、常にそれができるわけでもありませんし、そこまでやるくらいなら最初から部長にしとけよという心の声も聞こえてきます。「カタカナに逃げた」と思われるのも嫌だけど、強引に日本文化の影響が色濃い言葉にも訳したくもない。難しいところですね。このジレンマを、「部長、島耕作」ならどうやって切り抜けるのでしょうか(なんて)。

ともかく、企業が新製品やサービスをアピールしたりする場合、頻繁にVPが登場します。社長は企業全体についてのコメントはできますが、ある製品やサービスについてのコメントを一番発言しやすいのはVPになるからでしょう。会社を代表して新製品を説明するときに、たとえば係長が出てきたりすることはあんまりないですからね。ちなみに、VPを「副部長」に訳している例も見かけますが、これは多くの場合、誤りなのではないでしょうか。VPの後には「~部門の」的な情報が出てくるので、それに引きずられてしまったのだと思います。

そんなわけで、Vice Presidentという言葉には、翻訳のエッセンスが詰まっているのではないかと思ったのでした。


最近仕事に追われて昨日も初志貫徹ならぬ「ちょっち完徹」をしてしまいました。いろいろと予定も狂ってしまいました。忙しいのは非常にありがたいことですが、仕事に追われているようではいけません。自分も仕事もうまくコントロールしなければ、よい仕事はできないと痛感しました。

明日からは天気もよくなるようです。ずっと雨ばかりだったので、本当に楽しみです。しかし、ここのところ、冴えない天気があり得ないくらい続いていましたよね。気にし出すとストレスがたまりそうなのであまり考えないようには心がけているのですが、毎年、6月ってこんなでしたっけ???


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2 コメント

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仕事中! (かぺ)
2009-06-22 05:02:11
「仕事に追われてるようではいけない」っていいね。追い回すくらいでないとね!
おれは今からぼちぼち起きだすちびっ子達を追い回すよ!
仕事中なんです。
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お疲れ様です! (iwashi)
2009-06-22 05:51:50
おお、カペ君、早起きなんですね!
お疲れ様です。

仕事に追われないようにするためには、早起きは重要ですよね!

ちびっこたちもカペ君みたいな優しいひとに相手をしてもらえて幸せですね(^^)

ではでは、今週もよい一週間を!
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