ヒューマン・ギルドの岩井俊憲です。
今日(11月20日)は、土曜日。電話もかからない静かなオフィスで午前中、日頃なかなか取り組めない仕事をこなしました。
午後からは、庭野静子さんをリーダーとする「愛と勇気づけの親子関係セミナー(SMILE)」3日間コースの2日目が始まります。
さて、今日は、金銭による報酬がやる気を高める作用があるかどうかについて、心理学と脳科学の立場から否定論を紹介します。
心理学の立場では、私がかつてヒューマン・ギルドのニュースレターにも書き、『勇気づけのリーダーシップ心理学』(学事出版、1,600円+税)でも引用したエドワード・L・デシの次の所説が否定論の根拠になっています。
こちらは、「過去の『巻頭言』から 「勇気づけの効果を動機づけ理論から探る」をご参照ください。
http://www.hgld.co.jp/event1/kakonokanntougennkara.html
デシは、「もともと報酬なしで自発的に取り組んでいる活動に対して外的な報酬が提供されたとき、その活動に対する内発的動機づけはどうなるだろうか?」の問いをもとに大学生を対象にしてソマ・パズルを使った実験をします。
最初は、報酬なしで喜んでパズルに取り組んでいた学生たちに報酬を与えると、それまでパズルを解くこと自体を楽しんでいた学生は、金銭という報酬が与えられると、パズルを解くことが報酬を得るための手段に過ぎないと考えが変わって、その活動に対する興味を失うばかりか、報酬が打ち切られると、もはやその活動をしたいとは思わなくなったという結果を紹介し、「金銭という報酬が内発的動機づけを低下させること」を確認するのです。
このことに関しては、『人を伸ばす力―内発と自律のすすめ』(エドワード・L・デシ+リチャード・フラスト著、桜井茂男監訳、新曜社、2,400円+税)をもとにしています。
最近は、脳科学でも同じことが言われるようになりました。
金銭報酬は「やる気」をくじく 脳科学実験で裏付け
http://sankei.jp.msn.com/science/science/101116/scn1011160500000-n1.htm?utm_source=twitterfeed&utm_medium=twitter
玉川大学脳科学研究所の松元健二准教授やドイツ・ミュンヘン大の村山航研究員らによる脳科学実験で裏付けられたのです。
産経新聞の11月16日の記事では次のようです。
大学生の男女28人を成績に応じた金銭報酬を提示したグループと、報酬を提示せずに実験後に定額の報酬を払うグループに分け、ストップウオッチをできるだけ5秒近くで止める課題をやってもらった。実験中の脳活動の変化を機能的磁気共鳴画像診断装置(fMRI)で測定すると、最初の実験では両グループとも課題に対する意欲や達成感に関係する前頭葉や大脳基底核が働いていた。
しかし、報酬を支払わないことを告げた2度目は、報酬を約束されていたグループでは脳活動の高まりが消えて「やる気」が低下したのに対し、最初に報酬が提示されなかったグループは、1回目と同様の脳活動を示した。機械的にストップウオッチを止めるだけの「やる気の起きない課題」では、このような脳活動の変化は見られなかった。
金銭による報酬がやる気を高める作用があるかどうかについて、心理学と脳科学の立場から否定論に達しているわけです。
ただ私は、金銭それ自体が目的でなく、金銭の報酬を内発的動機づけの尺度として考えてみると、内発的動機づけの「有能さの欲求」の一部になりうると捉えています。
皆さんは、どうお考えですか?
<お目休めコーナー> 続・貴船神社奥宮で
金銭報酬とやる気の関連、一筋縄には
行かない問題ですよね。
「◎◎をしたらお金をあげるよ」というのと
「◎◎をより良くしてくれたら、
お金をあげるよ」というのでは、
導き出される結果が違う気がします。。。
SMILEの2日目と懇親会へのご参加ありがとうございました。
金銭による報酬は、仕事が1回限りと継続的とやや違うモチベーションになるような気もしますね。
コメントありがとうございました。
「1億円プレーヤー」というのは、1億円の金銭そのものでなく、そのレベルまで能力を極めたいという欲求に基づくものと思われますね。
hkimiさんのご指摘のとおりです。