プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

太古の海

2007-03-19 17:08:03 | 東南アジアカヤックトリップ

P1010475

(3月12日付「帰ってきました」という記事から始まる旅記録の続きです)

 コモドオオトカゲを観察して再びフローレス島・ラブハンバジョーに帰ってきて、今度はそこを基点としてカヤックを漕ぎました。周辺は島がとても多く、もちろんカヤッキングに向いています。この、コモド島、リンチャ島を含めたスンバワ島~フローレス島間の多島海域は、速く複雑な潮流により外界から隔たれた独自の生態系が展開されていて、一年くらいじっくり探査してみる価値のあるフィールドだと感じました。

 またこの海域は海洋生物保護区にも指定され、手付かずの珊瑚礁が展開されるダイバーの聖地でもあり、海外からインドネシアに移住してきてこの海にノックアウトされた外国人ダイバーもかなり多いらしく、「コモド周辺の海域ほど生態系のクレイジーな場所はない、一生かかって探索する価値のあるフィールドだ」と熱中している人もいるらしいです。

 この海域をカヤックで漕いで、「ああおれもこんなところにまで来たんだなあ」という感慨がありました。ラブハンバジョーの近辺は生活用水垂れ流しにより海水がかなり汚いのですが、ガンガン漕ぎ進み島々が現れては去ってゆくにつれて海も美しくなり、そして多くの無人島群も人間臭がなくなり、むしろ人間の歴史などはるかに超えた、まるでコモドドラゴンが象徴するような太古の相貌を帯び始めるようにすら見えてきました。そういう中でやがてカヤックの胴を打つ寄せ来る潮波はまるで水の惑星「プラネット・アース」の鼓動のように感じられ始め、ぼくは緩やかに流れるブルーの水の上に浮かぶ浮遊感を意識的にじっくり味わいつつ目を瞑り、海によってひとつにつながる地球のさまざまな自然についてイマジネートしました。

 ナイアガラの滝について想い、 セントローレンス氷河について想い、 シベリアのタイガとツンドラの大地を想い、 アフリカのサバンナに吹き渡る風とカバとチーターとヒョウとアフリカゾウとヌーの大群を想い、 アラスカのオーロラとか南氷洋のオキアミをガアアアーってでかい口を開けて食うザトウクジラとか千島海峡を漂う8mのヤナギクラゲとか渡り鳥とかベニザケとかオットセイとかトドとかニホンオオカミとかステゴザウルスとかこの惑星のさまざまなありとあらゆる自然や生きとし生きけるものについて色々、イマジネートしました。

 やはりカヤックは素晴らしい。地球の息吹・鼓動をリアルに体感し、イマジネーションを喚起し、心の中の世界を広げてゆくための最強のトリップツールだと思いました。

 その後そのまま漕いでコモド島、リンチャ島に行くことも可能でしたが、そこまでの時間はありませんでした。「またいつかきっと」、と思う。

P1010356

↑フローレス島の漁村、ラブハンバジョーの漁村の風景。インドネシア語で「ラブハン」は「港」の意味、「バジャウ」は「海洋民族」の意味だがそれを繋げて「ラブハンバジョー」と呼ばれるようになったらしい。海洋民族だから環境意識とかすごく高いのかなと思うけれど案外そうではなく、生活用水垂れ流しでかつそこらのゴミをポイポイ海に捨てまくるので、インドネシア全体にいえることだが人の集落周辺の海は汚い。逆に人がいない場所はすごく美しい。

P1010362

↑沖へとパドルを進めれば進めるほど、ここらの自然は太古の風貌を帯び始める。

P1010484

↑ここらの海域は漕ぐ価値のある場所がたくさんありすぎて困ってしまう。またいつか絶対来よう、そのときはもっと時間をかけてじっくり探索したいなと思うけれど、実際は旅において「二度目」というものはほとんどないものだ。自然は一期一会である。「またいつかきっと」と思いつつ、おさらばしていく。「おさらばだけが人生だ」というのがカヤックトリップの本質なのかもしれない。

P1010499

↑このあたりの海域はどこでも、潜ると手付かずの美しい珊瑚礁が目白押しで、カヤックであちこち巡りながらシュノーケリングするのがとても楽しかった。

P1010328

↑こういうビーチもあちこち無数にあるが、だいたい潜ると見事な珊瑚礁が展開されている。

P1010542

↑潮の流れの速い、島の岬の先端。潮流によって外界から隔絶された独自の生態系がキープされている。ここにしか住まない生物にとって、潮汐流が神なわけだ。またその潮汐流を司る、月や太陽の引力や地球の自転も神なわけだ。

P1010342

↑荒涼とした赤茶けた断崖絶壁には、いっそうの太古感が感じられる。

P1010311

↑再びラブハンバジョー港に戻ってくると、強烈なスコールに見舞われた。向こうからやってくる雨粒がはっきりと見える。ぼくはカヤックの上で体感するスコールがとても好きだ。熱帯のスコールは非常にはっきりしていて、気持ちがよい。ここまでのやつはあっぱれな感じがする。

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コモドドラゴン | トップ | ボートクルージング »