石造美術紀行

石造美術の探訪記

奈良県 天理市佐保庄町 素盞鳴神社層塔

2007-03-16 00:47:37 | 奈良県

奈良県 天理市佐保庄町 素盞鳴神社層塔

大和古墳群のすぐ北、ヒエ塚古墳という120mほどの前方後円墳のすぐ北方、佐Dscf8457保庄の集落の中央やや東寄りにこんもりと素盞鳴神社の杜が見える。社殿の北隣の一段高くなった場所に石塔や石仏などが集められている。廃絶し跡形もないが、神社の別当寺の遺物らしい。中でも等身大の地蔵菩薩の頭部(室町前期)や青面金剛立像(江戸前期)、三尊石仏(室町後期)は石仏鑑賞の対象として味わいある造形を見せているが、一番北側の層塔が一際目を引く。一辺に5枚の複弁反花を備える台座を基壇状に切石を方形に並べた上に据え、基礎は四面輪郭を巻き大きく格狭間を入れる。格狭間内は素面。格狭間は花頭曲線から脚部にかけての側線のカーブもスムーズで破綻ない美しさを見せる。基礎上面に方形に基礎と同様に一辺5枚の複弁反花を低く彫りだして塔身受座を設けている。塔身は四方輪郭内に月輪を平らに陽刻し金剛界四仏の種子を薬研彫する。キリーク面中央やや下に深い穴があって、美観を損ねている。穴の奥は暗く確認できなかったが、あるいは蓋が失われた納入孔で、基礎に内Dscf8454 繰りを施し塔身の穴からつながっているのかもしれない。各屋根は底面に1重の薄い垂木型を彫りだし、軒は厚めだが、軒反は隅近くで少し反転する程度で力強さに欠ける。最上層笠は低く広めの露盤を削りだしている。相輪は、通常伏鉢になる部分が方形の露盤状になり、その上に伏鉢を省略してすぐ請花になり九輪へと続く。九輪の7輪以上は欠損する。請花は単弁のように見える。九輪は凸が低く狭い突帯状で凹部の幅が広い。笠に露盤を表現しているのに、わざわざ相輪部にも露盤を表現するのは謎で、バランス的にも相輪がやや小さいように見えることから別物の可能性も残る。花崗岩製。現高約220cm。現在5層であるが、2層目と3層目の間にやや違和感があり、この間に2層分が入って元は7層ではなかったかとの疑念も払拭できない。表面の風化が少なく、反花式の塔身受座を設けた基礎や手の込んだ塔身の装飾的な意匠と完成度の高い洗練された彫技に目を見張る。むしろ逆に整い過ぎて豪放さに欠け、笠の軒反や塔身種子の弱さとあいまって鎌倉末期の特色を示していると見るべきだろう。5枚花弁の反花式台座は多いものではなく、近くでは長岳寺五智墓に何例か集中しており、唐招提寺西方院証玄塔や不退寺北墓地伝在原業平塔など五輪塔の優品に例がある。

 

 

 

 

 

参考:清水俊明 『奈良県史』第7巻石造美術 192~193ページ


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