一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

40歳代で自発的に引退した棋士

2021-09-08 06:06:43 | 将棋雑記
棋士は好きな将棋を指しておカネをもらえる、つまり生活できる、稀有な職業である。
ところがその職にあって、早くに引退してしまう人がいる。我々将棋ファンからすると理解しがたい行為だが、棋士になればなったでいろいろ苦悩があるのだろう。
きょうは「40歳代までに自発的に引退した棋士」を調べてみた。対象は1980年以降。現役中の逝去は除いた。

●小野修一八段
1978年10月、四段昇段。新人王戦優勝2回、順位戦B級1組昇級、竜王戦は1組昇級と、目立たないながら着実に実績を残した。
小野八段は文章も達者で、「NHK将棋講座」の観戦記は哲学的な香りが漂い、ファンも多かった。「将棋世界」1986年8月号に掲載された自戦記「もぐらだって空を飛びたい!」は名稿で、このタイトルは当時プチ流行語になった。当時将棋ペンクラブ大賞があれば、何かの賞を獲っていたと思われる。
2007年3月、B級2組在籍ながら49歳で引退。体調不良が理由で、翌年1月11日に逝去した。

●鈴木輝彦八段
1978年12月、四段昇段。1982年にB級2組昇級、1990年にB級1組昇級と、着実にクラスを上げていった。
しかし1997年、C級1組への降級が決まると、そのままフリークラスへ転出した。
それでも以後18年間の現役生活は可能だったが、2004年に49歳で引退した。
鈴木八段も文章がうまく、滋味あふれる文章はしみじみとした読み応えがあった。

●永作芳也氏
1979年10月、四段昇段。順位戦C級2組では昇級争いに絡んだこともあったが、昇級は叶わなかった。
1988年3月、突如引退を表明。同時に将棋連盟を退会した。当時もいまも、棋士の退会は珍しい。永作氏は棋士生活8年半の短命で、当時32歳だった。

●櫛田陽一七段
1987年3月、四段昇段。十代のころからアマ棋戦で大活躍したが、奨励会入りしたのは18歳と遅かった。
1988年には全日プロで決勝に進出する活躍を見せた。1989年度の第39回NHK杯では勝ちまくり、決勝で島朗前竜王を破って優勝した。しかし順位戦では昇級できず、1995年、突如フリークラスに転出してしまう。これから指し盛りに入ると思っていたから、私は口をあんぐりさせたものだ。
1990年と1991年に上梓した「世紀末四間飛車」(マイナビ)は名著。
なお、あまり知られていないが、櫛田七段はLPSA駒込サロンの手合い係をしていたことがある。櫛田七段はアマと平手戦は指さないのだが、駒込サロンでの企画で超早指し戦を行うことになり、私は平手で教えていただいた。いまでは懐かしい思い出である。
2012年6月、47歳で引退した。

●金沢孝史五段
1999年4月、四段昇段。2001年、2002年と王位リーグに入る活躍を見せたが、順位戦C級2組では振るわず、2004年に2コ目の降級点を取ってしまう。翌期は何とか降級点を回避したが、その次の順位戦開始を前にフリークラスに転出。これにより、2021年での引退が決まった。
金沢五段は個性的な将棋を指すが、遅刻、不戦敗が多く、連盟から処分を受けたことがある。ナーバスな棋士は対局前夜に眠れず、朝に弱くなってしまう。金沢五段がそれに該当したかどうかは知らないが、ともあれ遅刻・不戦敗はマズイ。金沢五段はフリークラス転出後も好成績を挙げた時期があっただけに、なおさら惜しまれる。引退時は48歳だった。

●橋本崇載八段
2001年4月、四段昇段。竜王ランキング戦と相性がよく、2006年に1組に昇級した。
また2008年、2009年と王位リーグで勝ち星を集め、挑戦者決定戦まで進む。しかしいずれもそこで敗れた。
順位戦でも着実に昇級を続け、2012年にA級に昇級した。
2009年には池袋に将棋バーをオープンし、場所を変えて、2017年まで営業を続けた。
竜王戦1組は10期務め、タイトル戦に絡まないまでも順風満帆な人生を送ると思いきや、2020年10月1日より2021年3月31日まで休場。やっと休場が明けたと思ったら、4月2日、家庭の事情を理由に、突然引退した。38歳。


以上であるが、個人的には、橋本八段の引退がいちばんもったいなかった。まだ38歳の若さで、これからも各棋戦で盛り返せたのに、その矢先での引退だった。
人が人生を左右する分かれ道に遭遇するとき、周りにアドバイザーがいたかいないかで人生の幸不幸は決まると思う。
橋本八段の場合は森下卓九段などがおり、たびたび引退を押しとどめていた。
それを振り切っての引退だから、何をかいわんや。
せめてフリークラス転出にし、病が癒えたらまた指せるようにすればよかったのに……。
いまになって橋本八段はツイッターやYouTubeでいろいろ主張しているようだが、私はどちらも見る習慣がないので、もうどうでもよくなってしまった。
コメント
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