一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

変態佐藤将棋を礼賛する

2021-08-25 15:29:52 | 男性棋士
22日は第71回NHK杯トーナメント2回戦第3局、佐藤康光九段対阿久津主税八段の一戦が放映された。
佐藤九段はいまや誰もが知る力戦の雄。むかしは緻密で論理的な指し手が持ち味だったが、タイトル戦で羽生善治九段にさんざん叩かれ、棋風が変わってしまった。変態的な指し手が多くなり、私たちアマチュアには参考にならない。ただそれだけに将棋は面白く、短時間制のNHK杯にはうってつけである。
対して阿久津八段は筋のよい攻めが持ち味で、阿久津八段の将棋を並べると、上達が早いと思う。
放送時解説は森内俊之九段。羽生九段の先をいく十八世名人の有資格者で、総タイトル数では羽生九段に大きく水を開けられたが、「十八世名人」を手に入れただけで、十分釣り合いは取れている。
佐藤九段の先手で対局開始。▲7六歩△3四歩に▲5六歩。早くも注文が出て、私はニヤリとしてしまう。阿久津八段は当然△8八角成▲同飛△5七角▲6八銀△2四角成。
この局面で最も有名なのが1967年7月27日、28日に行われた第8期王位戦第1局・▲大内延介六段対△大山康晴王位戦で、以下は大内六段の捌きが冴え、会心の勝利となった。
本譜はここで▲8六歩。王位戦では▲3八銀だったから、ここから別路線だ。否、それどころか本譜は▲4八銀~▲5七銀右~▲5八玉と進み、もう振り飛車という感じではない。大変な力戦になってしまった。
さらに佐藤九段は▲3七金。なんじゃこの金は? 森内九段は「▲2六金と二枚落ちみたいな手が狙いですか」と言う。形勢バーはとっくに後手に触れているが、佐藤九段は当然自信を持っているのだろう。
阿久津八段は△7三銀。森内九段は「先手勝てる気がしない」と呆れ顔だ。しかも佐藤九段は予定通り?▲2六金(図)。まったく棋理にない手で、私はあんぐりしてしまった。

数手進んで、阿久津八段は△4五歩と銀取りに突き出す。しかしこれにも佐藤九段は▲4五同銀。「ヒョエー」と森内九段が叫んだ。佐藤九段、銀桂交換の駒損になっても、歩をもらえるから十分という読みなのだろう。しかしこのあたり、いい意味で視聴者の予想手を裏切り、本当に面白い。
数手後の△3五歩には▲2四歩と銀頭に叩く。またも「ヒョエー」と森内九段。こんなもん、私だったらノータイムで△同銀だが、阿久津八段は△3四銀と躱す。しかしこれは2四に拠点が残り、後手が面白くなかったようだ。
そして気がつけば、佐藤九段のほうに形勢バーが伸びていた。あの作戦負け?の将棋をここまで盛り返すとは、恐るべき変態佐藤将棋である。
阿久津八段△4四歩。「大丈夫ですかこれ。▲5四歩がありますけど」と森内九段。果たして佐藤九段は▲5四歩と突いた。が、阿久津八段は遊び気味の△7四銀を巧みに繰り替え、数手後に△4五銀左▲同銀△同銀とした。この右銀が捌けては、再び後手有望である。
しかし佐藤九段も▲2三銀から嫌味、嫌味と食らいつく。
「毎日別の仕事をしている方の将棋じゃないですよね。恐ろしいですよ」
と、森内九段も感嘆する。私も同様の意見である。
しかし局面は阿久津八段がリードを拡げ、△8五銀と飛車取りに出る。途端に形勢バーが佐藤九段に傾いた。
「アレッ⁉」
と森内九段。素人目には、味よく銀を活用した手に見えたが、これがなぜいけないのか。
とはいっても、佐藤九段は▲7九飛と逃げる。だが、また阿久津八段が有利になった。ということは、▲7九飛の代わりに反撃に出て、先手が有望だったということか。いやはや将棋は難しい。
この後、双方が指すごとに形勢バーが激しく左右する。森内九段ならずとも混乱するところだが、これが将棋の醍醐味でもある。私たちは形勢バーを見ているからこう言えるが、このバーがなかったころも、こんな展開はしょっちゅうあったのだろう。
最後は阿久津八段が潔く即詰みコースに入り、135手まで佐藤九段の勝ちとなった。
いやはや、それにしても恐ろしきは変態佐藤将棋。AIを用いての定跡研究を向こうに回し、オリジナルの指し手での勝利は見事。これからも独自の道を突き進んでほしい。
コメント
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