一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

四段と女流四冠

2018-07-23 00:09:39 | 将棋雑考
第89期棋聖戦は豊島将之八段の奪取で幕を閉じたが、並行して第90期が始まっている。
その一次予選1回戦で里見香奈女流四冠が勝利し、2回戦で藤井聡太七段と対戦することになった。対局当日は大きな話題になるだろう。
ところで最近将棋ファンになった人は、怪訝に思ったかもしれない。
里見女流四冠は、奨励会を退会したんではないの? 男性棋戦に出られるの? と。
通常、奨励会員が退会したら、プロ(男性)棋戦には出られない。それを叶えるには、アマ大会に出場し好成績を収め、アマ選手枠で出るしかない。
だが里見女流四冠は、キンタマがないことが幸いした。すなわち女流棋士でもあるのだ。
男性棋戦のほとんどに女流棋士枠も設けられており、トップ何人かは出場できる。ただ、奨励会在籍者は原則選考外なので、彼女はいままで参加できなかったのだ。例えば前期棋聖戦では、香川愛生女流三段と伊藤沙恵女流二段が出場している。
里見女流四冠は3月に奨励会を退会したので、晴れて(?)男性棋戦に参加できるという、皮肉な現象が起こったわけだった。
ではここで、女流棋士の男性棋戦参加枠を記しておこう。

竜王戦…4
叡王戦…1
王位戦…2(女流王位含む)
王座戦…4
棋王戦…1(=女流名人)
王将戦…0
棋聖戦…2
朝日オープン…3
銀河戦…原則的に2
NHK杯…1(3人前後で予選)
新人王戦…4(26歳以下)
YAMADAチャレンジ杯…0
加古川清流戦…2

0から4人までさまざまだが、女流棋士のトップを張れば、10棋戦には参加できるのだ。NHK杯は女流予選があるが、それは男性プロだって本戦出場まで2~3勝しなければならないから、苦労は同じことだ。里見女流四冠は参加に何の障害もないから、最多で10棋戦に出場できる。

女流棋士が奨励会を抜けて四段になったとする。その瞬間、女流棋士の資格を喪う、と私は考えているがどうなのだろう。つまり、以後女流棋戦への参加はできない。本稿は、その前提で話を進める。
「四段」と「女流四冠」。双方の収入を検討してみよう。
まず、里見女流四冠が棋士四段になっても、順位戦C級2組を抜けるのは相当難しいと思う。
何しろC級2組の昇級枠は「3」である。毎年俊英若手棋士が4人生まれているのに、そのうちの1人は確実に昇級できないのだ。里見奨励会三段が三段リーグを抜けられなかったのに、C級2組を抜けられるわけがない。竜王ランキング戦6組も然りである。
つまり、彼女はC級2組以下で棋士人生を終える。
順位戦以外の対局料(賞金含む)が総計いくらになるか分からないが、こちらも勝ったり負けたりだとすると、どんなに甘く見積もっても、年度500万円には届かないだろう。
とすると、里見女流四冠は賞金500万円の女王か女流王座の獲得だけで、それを上回る計算になる。これは相当おいしい。しかも里見女流四冠は現在「女流王座」のほかに、「女流名人」「女流王将」「倉敷藤花」を持っている。これらの賞金だけで、相当な額になる。
加えて男性棋士ほどではないが、男性棋戦の対局料ももちろんある。対局時だって、座布団や脇息はふつうに出るし、待遇は棋士のそれとまったく変わらない。
言っちゃあなんだが、棋士になってくすぶるより、女流棋士でトップを張ったほうが、収入としてははるかに上になるのである。
問題は、ずぅっとトップを走り続けなければならないことだが、里見女流四冠の才能なら大丈夫、相当先まで安泰だ。大二冠のいずれかと、複数冠を保持できる。
要は鶏の頭か牛のしっぽか、という考えで、前者でいいではないか。
確かに、女性初の棋士四段になれば、歴史に名を残しただろう。だけど「奨励会三段第1号」だって立派な勲章で、棋史に里見香奈の名前は永遠に残る。

そしてこれはおまけだが、プレッシャーから解放されてのびのび指せば、プロ編入試験の規定だってクリアするかもしれない。これも大きい。
現在本人はそこまでの野心はないようだが、いざそのチャンスを獲得したら、行使する気になるかもしれない。
本人は奨励会退会時に相当落胆したようだが、男性会員に比べれば、相当恵まれている。里見女流四冠の未来は、当人が思っているより、はるかにバラ色なのである。
コメント
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