6月中旬、将棋ペンクラブの湯川博士幹事から、落語会の案内をいただいた。日にちは7月10日(火)。平日なので一般ピープルは関係ないが、無職の私には行ける可能性がある。場所は確認しなかったが、埼玉県和光市の長照寺であろう。この案内が無駄になればと願ったが、7月の声を聞いても、私はまだ無職だった。
1日の社団戦の打ち上げの時、木村晋介会長とこの落語会の話をしたが、どうも話が噛みあわない。よく聞くと、木村会長は10日は不出場。15日(日)にどこかで演るらしかった。
それで後日、案内をよく見ると、10日のそれは両国のお江戸両国亭が舞台で、タイトルも「第17回 あっち亭こっち勉強会」だった。
あっち亭氏は(たぶん)将棋ペンクラブの幹事で、かつて年末に行われていた将棋寄席の1番バッター(開口一番)を務めていた。また、将棋ペンクラブ大賞贈呈式の司会でもお馴染みである。そのあっち亭氏がこのような会を、しかも17回も開いていたとは驚きである。今回はゲストで湯川氏、恵子さんが出席するため、湯川氏から案内が来たらしかった。
私は職探しの身分で落語もないのだが、こういう低空飛行の時こそ、笑いが必要である。当日、私は手早く昼食を摂り、両国に向かったのだった。
駅を降りて手紙の案内通りに行くと、両国亭はすぐに見つかった。駅から徒歩5分、京葉道路沿いにあるマンションの1階である。日本橋亭もそうだが、寄席の建物はこのパターンが多い。
入口受付には、あっち亭氏と、元ミス荒川放水路のMISAKOさんがいた。木戸銭の500円を出すべくまごまごしていると、あっち亭氏から、「まだ職探してんの?」と言われ恐縮した。
中に入ると、湯川氏がいた。まだほおがこけているが、落語に出るくらいだから大丈夫だろう。
湯川氏から新たな案内をもらう。用意されている席はほぼ満席で、この落語会の人気の高さが窺える。
私は空いている席を見つけ、座る。左の席には文庫本が置かれていて人はいないが、トイレにでも行っているのだろうか。
さっきの案内は、これこそ和光市長照寺の「第2回 大いちょう寄席」だった。開催日は10月26日(金)。これはさすがに参加できまい。と思いつつ、その時期に私が働いているイメージがないのが恐ろしかった。
また今回のプログラムには、あっち亭氏は近年定年退職し、現在求職中とあった。表向きは私と同じ肩書だが、内実は全然違う。こっちは必死、あっちは余裕だ。
今回あっち亭は、仲入りを挟んで2席演る。定刻の午後1時になり、開演である。
一番手は仏家小丸こと、湯川恵子さんである。演目は「桃太郎」。まずはマクラである。
「私の師匠は仏家シャベル(湯川)なんです。シャベルの師匠があっち亭こっちさん。私は孫弟子になるんですね」
あっち亭氏が湯川氏を落語の世界に引っ張り込んだとは、知らなかった。
あっち亭氏には4人の弟子がおり、仏家ジャズー、仏家シャガールなどがいるという。
「『小丸』は、シャベルが2~3分考えて付けたんです。小丸なんて、こまるわ」
私たちはにこにこしながら聞く。
「シャベルが、小丸が出世したら、読み方を変えるっていうんですよ」
みんな次の言葉を待つ。「おまるって、いうんです」。
みんなゲラゲラ笑う。これは鉄板のマクラだ。
落語「桃太郎」は、ある家で父親が息子に、昔話の桃太郎を話して寝かしつけようとする。が、この息子が理屈っぽく、桃太郎の話に難癖をつけてくる。やがて息子なりの解釈を、父親が聞かされる羽目になるのだが…。
小丸版では、この息子が孫になって登場する。小丸さんの語りは女性らしく穏やかだ。
私の左はまだ空いている。案内人が空席を探しにきたが、文庫本を見て他に行ってしまう。
むかし私が旅行に出た時、始発の新幹線の自由席で、私の隣のシートに荷物を置いたまま、どこかに行っている乗客がいた。
ところが新たな乗客が、この荷物はあなた(私のこと)のですか? と何人も聞いてくるので、閉口したものだった。
今回この文庫本も、ヘタしたら私のモノと疑われている。誰のだか知らないが、この文庫本は人一人分もする高価なものなのか? 極めて不愉快である。
小丸さんは1、2回沈黙の箇所があったが、それも小丸さんの味である。下げも見事に決まり、開口一番としては見事な出来だった。
続いてあっち亭の登場である。演目は「近日息子」。
マクラ代わりに湯川氏の容体に触れる。「ちょっと痩せちゃったねえ」。これだけ堂々としゃべってりゃ、湯川氏は快復しつつあるのだろう。
知り合いが遅れて席に着いたようだ。あっち亭がその客としゃべる。客をサカナにするなんざぁ、初代林家三平のようだ。
客は柏から来たという。するとあっち亭が、「かしわ(柱)のキィズはおととォしのォ~」と歌いだした。見事な機転と言うべきで、私は笑うより先に、感心してしまった。
あっち亭がメガネを外し、落語が始まった。
「近日息子」とは、父親と粗忽者の息子の話。ある日息子が、中座(劇場のこと)で新しい芝居があるというので、父親は翌日、弁当をこさえて中座に行った。すると芝居はまだで、「近日より」とあった。息子は「近日」をいちばん近い日、すなわち明日、と勘違いしたのだ。
そんな息子が、父親の「頭が痛い」という言葉を真に受けて、医者を呼び、棺桶まで用意してしまった。「物事はつねに先を読め」という父親の教えを実行したのだ。
そして忌中札にも、息子の手で、ある一言が書いてあったのだが…。
あっち亭の語りはさらっとしていて、とても聞きやすい。…のだが、マイクが利いてなかったので、若干話が遠かった。
そもそも、私自身に睡魔が襲っている。無駄に時間があるのに宵っ張りなのがよくないのだ。もっとも前のオッサンも、さっきから舟を漕いでいる。
お次は前半のメイン、仏家シャベルこと、湯川博士氏の登場である。
(つづく)
1日の社団戦の打ち上げの時、木村晋介会長とこの落語会の話をしたが、どうも話が噛みあわない。よく聞くと、木村会長は10日は不出場。15日(日)にどこかで演るらしかった。
それで後日、案内をよく見ると、10日のそれは両国のお江戸両国亭が舞台で、タイトルも「第17回 あっち亭こっち勉強会」だった。
あっち亭氏は(たぶん)将棋ペンクラブの幹事で、かつて年末に行われていた将棋寄席の1番バッター(開口一番)を務めていた。また、将棋ペンクラブ大賞贈呈式の司会でもお馴染みである。そのあっち亭氏がこのような会を、しかも17回も開いていたとは驚きである。今回はゲストで湯川氏、恵子さんが出席するため、湯川氏から案内が来たらしかった。
私は職探しの身分で落語もないのだが、こういう低空飛行の時こそ、笑いが必要である。当日、私は手早く昼食を摂り、両国に向かったのだった。
駅を降りて手紙の案内通りに行くと、両国亭はすぐに見つかった。駅から徒歩5分、京葉道路沿いにあるマンションの1階である。日本橋亭もそうだが、寄席の建物はこのパターンが多い。
入口受付には、あっち亭氏と、元ミス荒川放水路のMISAKOさんがいた。木戸銭の500円を出すべくまごまごしていると、あっち亭氏から、「まだ職探してんの?」と言われ恐縮した。
中に入ると、湯川氏がいた。まだほおがこけているが、落語に出るくらいだから大丈夫だろう。
湯川氏から新たな案内をもらう。用意されている席はほぼ満席で、この落語会の人気の高さが窺える。
私は空いている席を見つけ、座る。左の席には文庫本が置かれていて人はいないが、トイレにでも行っているのだろうか。
さっきの案内は、これこそ和光市長照寺の「第2回 大いちょう寄席」だった。開催日は10月26日(金)。これはさすがに参加できまい。と思いつつ、その時期に私が働いているイメージがないのが恐ろしかった。
また今回のプログラムには、あっち亭氏は近年定年退職し、現在求職中とあった。表向きは私と同じ肩書だが、内実は全然違う。こっちは必死、あっちは余裕だ。
今回あっち亭は、仲入りを挟んで2席演る。定刻の午後1時になり、開演である。
一番手は仏家小丸こと、湯川恵子さんである。演目は「桃太郎」。まずはマクラである。
「私の師匠は仏家シャベル(湯川)なんです。シャベルの師匠があっち亭こっちさん。私は孫弟子になるんですね」
あっち亭氏が湯川氏を落語の世界に引っ張り込んだとは、知らなかった。
あっち亭氏には4人の弟子がおり、仏家ジャズー、仏家シャガールなどがいるという。
「『小丸』は、シャベルが2~3分考えて付けたんです。小丸なんて、こまるわ」
私たちはにこにこしながら聞く。
「シャベルが、小丸が出世したら、読み方を変えるっていうんですよ」
みんな次の言葉を待つ。「おまるって、いうんです」。
みんなゲラゲラ笑う。これは鉄板のマクラだ。
落語「桃太郎」は、ある家で父親が息子に、昔話の桃太郎を話して寝かしつけようとする。が、この息子が理屈っぽく、桃太郎の話に難癖をつけてくる。やがて息子なりの解釈を、父親が聞かされる羽目になるのだが…。
小丸版では、この息子が孫になって登場する。小丸さんの語りは女性らしく穏やかだ。
私の左はまだ空いている。案内人が空席を探しにきたが、文庫本を見て他に行ってしまう。
むかし私が旅行に出た時、始発の新幹線の自由席で、私の隣のシートに荷物を置いたまま、どこかに行っている乗客がいた。
ところが新たな乗客が、この荷物はあなた(私のこと)のですか? と何人も聞いてくるので、閉口したものだった。
今回この文庫本も、ヘタしたら私のモノと疑われている。誰のだか知らないが、この文庫本は人一人分もする高価なものなのか? 極めて不愉快である。
小丸さんは1、2回沈黙の箇所があったが、それも小丸さんの味である。下げも見事に決まり、開口一番としては見事な出来だった。
続いてあっち亭の登場である。演目は「近日息子」。
マクラ代わりに湯川氏の容体に触れる。「ちょっと痩せちゃったねえ」。これだけ堂々としゃべってりゃ、湯川氏は快復しつつあるのだろう。
知り合いが遅れて席に着いたようだ。あっち亭がその客としゃべる。客をサカナにするなんざぁ、初代林家三平のようだ。
客は柏から来たという。するとあっち亭が、「かしわ(柱)のキィズはおととォしのォ~」と歌いだした。見事な機転と言うべきで、私は笑うより先に、感心してしまった。
あっち亭がメガネを外し、落語が始まった。
「近日息子」とは、父親と粗忽者の息子の話。ある日息子が、中座(劇場のこと)で新しい芝居があるというので、父親は翌日、弁当をこさえて中座に行った。すると芝居はまだで、「近日より」とあった。息子は「近日」をいちばん近い日、すなわち明日、と勘違いしたのだ。
そんな息子が、父親の「頭が痛い」という言葉を真に受けて、医者を呼び、棺桶まで用意してしまった。「物事はつねに先を読め」という父親の教えを実行したのだ。
そして忌中札にも、息子の手で、ある一言が書いてあったのだが…。
あっち亭の語りはさらっとしていて、とても聞きやすい。…のだが、マイクが利いてなかったので、若干話が遠かった。
そもそも、私自身に睡魔が襲っている。無駄に時間があるのに宵っ張りなのがよくないのだ。もっとも前のオッサンも、さっきから舟を漕いでいる。
お次は前半のメイン、仏家シャベルこと、湯川博士氏の登場である。
(つづく)