感染症診療の原則

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感染症と個人情報

2009-05-21 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
「感染症と個人情報」は常に課題です。

自治体が学校に感染した個人の名前を教えない、ということがニュースになっています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090521-00000602-yom-soci

これは立場によってかなり違う意見がきかれ、実務上は自治体判断です。

感染症によってその病原性、感染力、拡大のパターン、等が異なるので一律にこうだということは難しいですが、妥当性を主張する、関係者に理解してもらうための論点は2つあります。

1つはその個人情報があるとないで何か対策がかわるのか?です。

ないとできないならば緊急非難的に共有されやすくなるわけです。
逆に、「何のためにつかうの?」あるいは「なくてもできるんじゃないの?」となると理解や同意が得られない場合があります。

もうひとつは、開示・共有される場合、それはどのように扱われるのか、その保障、人権侵害にならないような配慮があるか?です。

偏見や差別(権利阻害)になるようなことがおきそうだと「難しい」と判断する人が増えます。

今回の例で言うと、検疫のところ接触者として「健康監視」下におかれる場合、あるいは接触者調査の対象になる場合。さまざまな情報を提供することが求められます。
そこで当事者はこうたずねることもできます。
「目的は何か、その情報にアクセスするのは誰でどのように扱われ、そして最後どのように保管/消去されるのか」。

このことが最初から説明されていれば個人の不安も軽減され、協力関係をもちやすくなります。注意をしないといけないのは、「関係ないことまでたずねる」ことです。
家族情報・同居者情報などはコンフィデンシャルであることの説明が特に重要です。

HIV感染症について考えてみると、日本では医師の届出の時点では個人属性としては年齢・性別・感染経路・居住都道府県などがありますが氏名はありません。つまり特定はされません。

これはカナダや米国では届出の時点では氏名ベースになっています。

感染しているとわかったら個人の名前で把握されてしまうことが『脅威』と受け取られたら検査希望者は減ってしまうわけですが、実際には途中から導入した米国ではこれが理由で検査が減ったりはしていないそうです。

個人名が把握されるのは福祉や医療サービスを直接扱う自治体レベルまでであり、さらに上の連邦政府のレベルでは識別ナンバーだけで扱われる、つまり統計数字だけになることが広報されたためでもあります。

また、日常的に公衆衛生部門やスペシャリストへの信頼は高く、「このひとたちだいじょうぶかな~」などと疑われないことも強みではないかと思います。

自治体職員や病院職員がUSBやパソコンを紛失した、あるいは名簿がネットに流出したというようなニュースからくる不安がベースにあると地域で信頼を得るのはなかなかたいへんですね。
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