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HPVワクチン と その周辺 2016年7月・8月・9月 合併号

2016-10-01 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
(論文や記事について期間中の追加情報をいただいたので加筆2016-10-02)

ほぼ定期的HPVワクチン関連情報ですが、海外の専門家や読者の方にいろいろリクエストをいただいていたのを、各国の専門家に確認などしていたらこの時期になってしまいました。臨時増刊号的に7月・8月・9月合併記事です。

そういえば、2016年夏は、HPVワクチン10周年記念でしたね。

MedscapeのTimeline: 10 Years of the HPV Vaccine なども参考に。

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1982年 HPVが子宮頸がん発生に関連していることがわかる
(そこから24年)
2006年   初のHPVワクチン(4価)が承認される(米国等)
2009年   2つ目の2価HPVワクチンが承認される
2011年 9月 間違った情報が広がる(ある議員が「HPVワクチンを接種すると知的発達に障害が出る」と主張)
2011年10月 CDC 男子への接種勧奨
2013年 6月 女子への接種でHPVワクチン感染率が低下したことが把握される(導入から7年目の評価)
2013年 7月 接種率は低いまま
2014年12月 9価ワクチンが承認される
2015年 5月 AAP(米国小児科医会)が男女へのHPVワクチン接種を推奨
2015年 7月 HPVワクチンは1回でも高い効果が得られる
2015年 9月 接種後の慢性疲労症候群の増加が指摘される(が、ケースレポートであることなど課題あり)
2016年 4月 ASCO(米国臨床腫瘍協会)がステートメントを発表
2016年 5月 EMAの安全性レポートへの批判
2016年 7月 日本で政府と製薬会社を提訴
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だいぶ時間がたってしまいましたが・・
Medscapeでも紹介されたHPVワクチン薬害訴訟ですが、内容が
「製薬企業2社は、いまだに被害を認めようとせず、接種の積極勧奨再開への働きかけさえ行っています。そこで、訴訟を提起せざるを得ないと決断しました」

訴訟の目的

子宮頸がんワクチンで副反応 国と製薬会社を提訴

ニュースにある訴えによりますと原告たちは、ワクチンの安全性が十分に確認されていないうえ、がんの発症を防ぐ効果が証明されていないのに、公費助成の対象にしたり定期接種にしたりして接種を勧めたのは違法だなどとして、国と製薬会社に対し、治療費や慰謝料など一人当たり1500万円以上の賠償を求めています。

何を立証するのかというと
・HPVワクチン接種を勧めたのは「違法」 (どの法律?)
・HPVワクチンは安全性や有効性が十分確認されていない (10年蓄積されたデータや各国・専門機関の推奨がまちがい、ということ?)

ワクチンじたい「2種類ある」ので別建てで整理をしないと検証ができません。
(別途されるのでしょう)

他の医薬品でも訴訟はいろいろありますが、論理を固めていくためのエビデンスや各国の状況などを見渡すだけで、「最初からそれは難しいだろう」というものと「妥当だろう」というスジがはっきりみえることが多いです。

今回の訴訟は事実ベース的には前者です。例えば勝つつもりがなくても、メディアに注目を浴びたりするメリットもありますので、意味がないわけではないと思います。(そこで利用される人たちがお気の毒ではありますが)


訴訟そのものの話題。

各社の社説は
2016年7月29日 沖縄タイムズ 社説[子宮頸がんワクチン]被害者への救済を急げ
2016年7月29日 京都新聞 社説・子宮頸がん訴訟  原因解明につなげたい
2016年7月29日 神戸新聞 子宮頸がん訴訟/被害者の救済が最優先だ
2016年8月1日 山陰山陽新聞 子宮頸がんワクチン提訴/救済と併せ冷静な評価を
2016年8月2日 世界日報 社説 子宮頸がんワクチン、訴えに真摯に耳を傾けよ
2016年9月29日 世界日報 「体元に戻して」 子宮頸がんワクチン訴訟始まる

HPVワクチン導入や公費補助には自民党・公明党はじめ各党が賛同していましたが、2016年9月9日の公明党の記事ではHPVワクチンの話はなく自民党の媒体にも関連記事はなし。
共産党の「しんぶん赤旗」では、8月24日の薬害根絶デーの記事の中でHPVワクチンについての記載がありました。

"「科学的に厳密に因果関係を証明できなければ副作用と認めず、救済の手も差し伸べない」という国や企業の姿勢を「薬害の歴史から何も学んでいない」と批判"とありますが、これは国の制度について誤解される表記ではないですかね。
すでに支払われているケースもあります。


(寄り添う、支援を、と書く記事にも軽快・快復のための情報は入ってません。皆さん、体調がよくなるためのサポートには関心がないのでしょうか・・・)


その他訴訟関連

2016年4月8日 「子宮頸がんワクチン訴訟」で明らかになった「情報」と「制度」の不足
2016年4月12日 MRIC Vol.089 薬害訴訟の濫発に「科学的思考」で立ち向かい、真の「患者の利益」を守ろう ~子宮
子宮頸がんワクチン訴訟が未来の命を奪う


薬害エイズや肝炎の裁判報道も一部???な展開があったので、情報発信は続けていったほうがいいと思います。

以前ブログでも紹介しましたが、
日本のB型肝炎は予防接種で広まったので救済せよと書いていた新聞社の社説記事担当者に電話したら、本当にそう信じていましたし。
 予防接種がない時代はどうだったんですか?
 使い捨て器具がない時代の他の医療や歯科治療のリスクをどう思いますか?
 集団生活や性行為などの水平感染をどう考えているんですか?
という質問に答えられませんでしたよ。
そもそも根拠となる疫学データがありませんが?といったら、「巷で予防接種で、といわれている」という伝言ゲームが根拠の社説とのことでした。

そして9月末に福岡からはじまった訴訟。
福岡地裁の話はあまりニュースとしてとりあげられていませんが、日経の記事を「周辺」記録として記載しておきたいとおもいます。

9月28日 日経新聞 子宮頸がんワクチン訴訟、国・製薬会社が争う市政 福岡地裁


・・・以前に比べて取材をしている記者は減っています(「もう医学やサイエンスの話じゃないですね」とのこと)。

記者が忘れている重要な点があります。

接種の「後に」(時間の経過はどれくらいが妥当なのかはさておき)多様な体調不良になった人の通院費や医療費を公費でカバーということならば、このワクチンだけでなく他のワクチンでも同様の仕組みが必要になります。
日本の補償制度は各国と比べて手厚いですが、今以上に手厚くするのも、子どもの数が減る一方の国にはできるんじゃないでしょうか。
声の大きい人たちだけの話にしないようにするのが公的なプログラムのミッション。



そのほかの「周辺」情報。

8月9月はあまり話題がなかったようですが、医療や科学系の記者さんたちが直近の世界の動向やエビデンスを確認して再度整理をするということでした。
毎日のプレミアがワクチンの連載をしていますが、読売もこのワクチンで特集をしています。

2016年8月29日 【子宮頸がんワクチン特集】HPVワクチンをめぐる最近の動向
2016年8月31日 【子宮頸がんワクチン特集】ワクチンで防げる悲劇を見過ごしていいの?
2016年9月2日 【子宮頸がんワクチン特集】HPVワクチンを打った後、長引く心身の不調を訴える患者さんの診療


似たような専門家の記事が増えました。報道の風向きがずいぶんかわりました。


2016年9月6日 日経新聞 子宮頸がんは感染予防を

2016年9月13日 Huffingtonpost 子宮頸がんを日本人特有の「ガラパゴス疾病」にして良いのか?




報道といえば・・・9月22日のCID Advanced Accessに日本のHPVワクチン報道について論文が掲載されています。Invited Articleです。

Inviteされちゃう状況なわけでありますが・・・

Trends of media coverage on human papillomavirus vaccination in Japanese newspapers

2011年1月から2015年12月までの主要メディアの関連記事1138件を分析

記者さんたちはアクセスがないかもです(IDSAの会員や病院や大学の図書館ならアクセスができます)。


海外も最近はあまりニュースはないのですが

オフィット先生の語り Paul Offit Responds to News About HPV Vaccine 'Syndrome'
は医療関係者は読んでおきたいところ。


2016年7月 米国がん協会が男子にも接種を推奨。ACIP/CDCはすでに推奨していたところに、がんの専門団体からもオフィシャルに後押し、というところでしょうか。

前年度と比べて女子も男子も接種率があがった米国ですが1回→2回→3回と接種率が低くなっています。
しかし、接種率があまり高くない割には、その後の評価データが集団免疫そこそこいい数字なので、このまま健診のほうが先に整理されるかもしれませんね。

すでに、HPVワクチン接種率が高い国では健診プログラムもリニューアルされています。
ニュージーランドは開始年齢を20→25歳に。

ニュージーランドでは2014年に89000人の接種対象・希望者のうち82000人(92%)しか3回受けていないことが課題とのことです。


ちょっと大きな動きとしては中国でしょうか。

2016年9月4日 The Guardian HPV infection rates plummet after vaccine with China the next frontier

中国で2価ワクチンが承認されました。お金持ちは香港とか日本で4価を接種していたそうですが、今後普及するかは価格と公衆衛生次第でしょうか。

参考 中国で流行している型

中国とかインドは分母の女性の数もすごいので、子宮頸がんや死亡の数も桁がちがいますが。。。健診や抗がん剤治療のアクセスの問題を考えると、ワクチンで全体のリスクを下げていこうというのはリーズナブルな選択なのだとおもいます。


中国の一部、、である香港ですが、経済的余裕がある人は任意で接種。
しかし、低所得家庭の女子を対象に、公費でのHPVワクチンプログラム接種を開始。こちらは9価だそうです。

2016年9月23日Thousands set to benefit from Hong Kong’s free HPV vaccination programme


韓国はこれまで自費での接種でしたが、2016年6月から公費での接種となりました。こちらも9価。
ちなみに、子宮頸がん検診は30-74歳が対象で、2年おき。2015年の検診の受診率は67.0%

韓国の関係者は、日本での有害事象と副反応での混乱やネットでの誤解情報の流れ方をよく調べており、情報提供もていねいにしているとのことです。

韓国の英語メディアKorea Heraldでは緊急避妊などが公費じゃないのになぜHPVワクチンを優遇・・・という批判も紹介されています。政府は貧困層には生理用品を無料配給ることも検討中(活動家は全女性に無料に、と提案しているそうです)。


フィリピンは子宮頸がんスクリーニングが受診率は25-64歳対象でのデータでは9.3%ととても低いです。島も多くて保健医療のサービスを均てん化することが難しい国ですが、政府は貧しい地域から公費でのHPVワクチンプログラムを導入しています。

2014年8月2日 DOH drops anti-HPV vaccination campaign in schools


マレーシアは早くからHPVワクチンを導入してます。2011年の接種率は87%。 
子宮頸がんスクリーニングの対象は20-65歳で1年おき。2012年の検査の受診室は22.2%。


ベトナムはHPVワクチン接種のパイロットプログラムとしてPATHが2008-2010年に実施。対象地域の女児に接種し、接種率は89%-98.8%でしたが、国としての導入には至っていません。
子宮頸がんスクリーニングは25-64歳が対象で3年おきで、受診率が6.5%(2003年の古いデータが掲載されていますが)。

経済発展めざましいインドネシアは、子宮頸がんスクリーニングの対象が30-50歳で5年おき。2013年の検診受診率は24.4%


モンゴルは子宮頸がんスクリーニング対象が30-60歳で3年おき。2008年の15-49歳の検診受診率は29.7%


以上、2016年Factsheetも公開されだした周辺国情報でした。


ヨーロッパ関連では、アイルランドでもセンセーショナル番組の影響が出ているという話がありました。

2016年9月7日 The Irish Times Concerns raised as 5,000 fewer girls receive HPV vaccine

2016年9月14日 Huffingpost Why We Shouldn’t Get So Depressed About Vaccine Hesitancy



こちらは英語の媒体ですが日本の話題。大阪大学が発信している情報の紹介。
将来に向けての危機感の話題。

2016年9月12日 ScienceDaily Outcomes for girls without HPV vaccination in Japan  Certain age groups with greater risk of high HPV infection rates

こちらをうけてのサイエンスライターの記事
2016年9月16日 Lack of Vaccinations Increased Risk of HPV Infections in Japan


論文系はコンスタントにいろいろ発表されています。

最近のものとしては、VigiBaseによるCRPSに、POTS、CFSついての報告があります。
VigBaseはサリドマイド問題の後にできた国際的な医薬品評価プログラムで、スウェーデンのウプサラモニタリングセンター(UMC)とWHOによる共同運営。

Drug Saf. 2016 Sep 16
Current Safety Concerns with Human Papillomavirus Vaccine: A Cluster Analysis of Reports in VigiBase®.

Overall, 54 clusters containing at least five reports were identified. The four largest clusters included 71 % of the analysed HPV reports and described AEs included in the product label. Four smaller clusters were identified to include case reports relevant to ongoing safety concerns (total of 694 cases). In all four of these clusters, the most commonly reported AE terms were headache and dizziness and fatigue or syncope; three of these four AE terms were reported in >50 % of the reports included in the clusters. These clusters had a higher proportion of serious cases compared with HPV reports overall (44-89 % in the clusters compared with 24 %). Furthermore, only a minority of reports included in these clusters included AE terms of diagnoses to explain these symptoms. Using proportional reporting ratios, the combination of headache and dizziness with either fatigue or syncope was found to be more commonly reported in HPV vaccine reports compared with non-HPV vaccine reports for females aged 9-25 years.
This disproportionality remained when results were stratified by age and when those countries reporting the signals of CRPS (Japan) and POTS (Denmark) were excluded.
Cluster analysis reveals additional reports of AEs following HPV vaccination that are serious in nature and describe symptoms that overlap those reported in cases from the recent safety signals (POTS, CRPS, and CFS), but which do not report explicit diagnoses. While the causal association between HPV vaccination and these AEs remains uncertain, more extensive analyses of spontaneous reports can better identify the relevant case series for thorough signal evaluation.

世界のモニタリングシステムな何層にもなっているので、どこかで一度シンプルなサマリーがよみたいですね。


2016年9月20日のCIDにはカナダからの報告。ワクチン導入後8年の評価。
Substantial Decline in Vaccine-Type Human Papillomavirus (HPV) Among Vaccinated Young Women During the First 8 Years After HPV Vaccine Introduction in a Community

"The prevalence of vaccine-type HPV decreased >90% in vaccinated women, demonstrating high effectiveness in a community setting, and >30% in unvaccinated women, providing evidence of herd protection."

とのことです。

Journal of Neuroimmunology 298 (2016)に日本からの論文が掲載されていました。
HPVワクチン接種後の体調不良32名についての報告です。
'The patients had CNS-derived symptoms after vaccination of HPV vaccine, but the causal factors and causal relationship with vaccination have not been proven.It is possible that the
heterogeneous diseases developed incidentally after HPV vaccination.'

Immunological studies of cerebrospinal fluid from patients with CNS symptoms after human papillomavirus vaccination

(日本の疫学調査が出てくるのがまだ先のようですが、「周辺」情報のフォローを続けたいと思います)

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