感染症診療の原則

研修医&指導医、感染症loveコメディカルのための感染症情報交差点
(リンクはご自由にどうぞ)

HIV陽性(ということを)を職場に伝える?

2009-08-29 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)

自分や他人の病気の話を誰と共有するか、誰に伝えるかということは本来ケースバイケースです。
最近のニュースではご本人の了解があるのかどうかわかりませんが、新型インフルになってしまうとネットで全面公開されてしまうようなひとたちもいます。

それで誰に何のメリットがあるのよ?と考えると、「個人情報」とか「人権」とかふだん目くじら立てる人たちはずいぶん静かだな~と感じます。

HIV感染症はじめ性感染症は性行為で移りますので、これからセックスする相手、過去にした人に伝える根拠や妥当性はありますが、親や子ども・友人知人に言わなくてはいけないということはありません。もともとの関係がいいのかどうか。言った後のメリットのほうが大きいのかを考えます。

言われる側にはそれなりの心的反応や負担も生じますので、「カミングアウトする本人にとっての意味」だけでいい悪いもいえません。
(本人ではなくショックを受けた配偶者・親御さんや上司にカウンセラーがつくようなケースも複数みてきました。相手への配慮、伝える時期、言い方もよく考えないと)

診察室で「誰かに伝えたほうがよいですか?」と聞かれたら、
「それであなたにメリットがあるなら」と答えます。

病気の説明はHIVにかぎらず本来医師のほうが上手ですから、誤解や想定外のリアクションで困らないためにも、「医師が説明するといっています」とご家族や伝えたい方を連れてきてくださるほうがスムーズですよ、とお伝えしています。

職場に言うかいわないかも、「休みが取りやすくなる」「気兼ねしなくてよい」などありますが、同僚や上司などもともとの人間性や関係性が先にあります。

先日ニュースになっていた記事では、
http://health.nikkei.co.jp/news/top/index.cfm?i=2009082400496h1
2000人対象に配布し回答率1194名の質問紙調査では、「HIV患者の約4人に1人が、感染を理由に離職した経験がある」とありました。

これは記者の誤解で、「回答した人4人に1人」のまちがいです。
今後のあらたな偏見につながるので「患者は」というような一般化はやめていただきたいです。

回答率60%前後というのは微妙です。エイズ診療拠点病院ではヤマのようにアンケート依頼が来るので(みなさんごめんなさい)、「見捨てず皆がよく答えた。すごい」ともいえますし、「密な関係の主治医やナースが依頼してもこれくらい?」ともえいます。

より答えたい内容・関連する人が回答する傾向にありますので、仮説としては離職したり職場の問題をかかえた・抱えている人が回答している・意向を反映しているかもしれない、という制約を覚えておきます。

この「4人に1人」を同じHIV陽性の患者さんでも、リアクションはまったく逆で、「ウイルスが理由だとおかしくないですか?他の因子が2次的にありませんか?」という人もいれば、「やっぱりねえ」と納得する人もいました。

さらに記事で紹介されている結果として、「職場で病気を開示している割合も5割にとどまっており、調査担当者は「職場で病気を秘密にし、適切な支援を受けられずに失職している」と指摘している。」そうです。

これについては周囲の医療関係者は「予想以上に高い周囲への告知率」にびっくり反応でした。

(研修医の皆さんは、もしご自分だったら同僚や上司にHIV陽性を伝えますか?)

読売新聞の記者ががんになって書いている連載では、がん患者の調査結果が紹介されています。解析や表現上の問題は同様にありますが。参考までに。
(東大医療政策人材養成講座の受講生による「がん患者の就労実態調査」)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/gantowatashi/20080825-OYT8T00329.htm
もう少し詳しく紹介(キャンサーネット)
http://cancernavi.nikkeibp.co.jp/news/post_827.html
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 今は冷静? | トップ | 学級閉鎖の緩和 »
最新の画像もっと見る

毎日いんふぇくしょん(編集部)」カテゴリの最新記事