感染症診療の原則

研修医&指導医、感染症loveコメディカルのための感染症情報交差点
(リンクはご自由にどうぞ)

救命しえたのは1人、の感染症(米国 PAM)

2008-06-04 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
米国CDCが出している週報MMWRには感染症の話題もほぼ毎号掲載されます。
最新号のトップ記事はPrimary Amebic Menigoencephalitis(PAM 原発性アメーバ髄膜脳炎)です。

ちょうど昨年の夏ごろにブログでも死亡が相次いでいるニュースとして紹介しました。
2007年に米国内で報告されたPAMは6例で6例とも死亡しています。
死亡例がいること、10代のこどもたちがもっとも影響を受けていることなど社会として見過ごせない状況と判断されました。

このため、CDCではそのときに「この感染症・流行の全体像」を知るべく特別チームを発足し、1937年から2007年にかけての症例を検討しました。
全体像を知り、有効な公衆衛生上の対策を提示するのがこの領域のプロの仕事です。(スキャンダル騒ぎで後に何も残らない・・・では進歩がないですね)

ちなみに日本にも症例報告があります。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/18/207/dj2077.html

以前、こどもを毎年北米のサマーキャンプに参加させていましたが湖のactivityなどには危険もいっぱい・・・と怖くなりました。
----------------------------------------------------------

【14歳男子/アリゾナ】
2007年9月14日から頭痛・頚部硬直・発熱あり、16日に髄膜炎疑いで入院。
髄液検査でN.fowleriが検出された。入院翌日の17日に死亡。
9月8日にアリゾナ北部の湖で遊んでいた。この日の水温は30.2度。気温は42.2度。

【14歳男子/フロリダ】
2007年6月6日に耳の圧迫感、どんどんひどくなる頭痛、嘔吐ががあり8日にERを受診したが、受診時は歩行不能、呼吸心拍停止状態で到着後すぐに死亡となった。
剖検の脳組織によりPAMが診断された。
発症の2週間前にプールで遊んでいた。

【11歳男子/フロリダ】
2007年8月2日に症状が出始め頭痛、発熱、吐き気、意識混濁があり細菌性の髄膜炎疑いで8月6日に入院。後にN.fowleriとわかる活動性アメーバが7日の髄液検査で検出された。
アムホテリシンB、エピネフリン、マンニトール、フルコナゾール、セフトリアキソン、アジスロマイシン、リファンピシン等で治療されたが、翌日8日に死亡。
7月28日の地域の湖での水泳等での曝露が考えられた。この日の気温は32.8度だった。

【10歳男子/フロリダ】
2007年9月2日地域の病院のERを頭痛、全身痛、高熱、吐き気、嘔吐、脳貧血で受診。症状は8月31日に頭痛と倦怠感からはじまった。
入院後急速に悪化し、40度の高熱、意識混濁、腹痛がおきた。入院翌日の3-4日に後にN.fowleriとわかるアメーバが髄液から検出された。
アムホテリシンB、リファンピン、アジスロマイシン、フルコナゾールが開始されたが4日に死亡。8月19日と26日に私有地の施設で水遊びをしていた。8月26日の水温は31.7度、気温は34.4度だった。

【12才男子/テキサス】
2007年8月に、6日間続く発熱で入院。見当識障害と倦怠感が増強していると母親が述べた。テキサスのサマーキャンプに参加し、湖での活動に参加していた。
入院前に、少年は「気分が悪い」と、キャンプのナースと3回受診をしていた。
入院時の髄液検査では髄液は血性で、白血球数は1750cells/mm3、赤血球は30750、グルコースは92mg/dl、タンパクは88mg/dlであった。
入院時は細菌性・ウイルス性・アメーバ性の髄膜炎、肺炎、敗血症がうたがわれた。後にN.fowleriと判明するアメーバが髄液に確認された。
アムホテリシンB、リファンピン、アジスロマイシンで治療されたが、入院5日後に死亡した。2007年の8月の湖の平均水温は29.1度だった。

【22歳男性/テキサス】
2007年8月31日に2日前からの光線過敏症、意識の変化、ひどい頭痛を主訴に入院。
頭痛は前頭部を圧迫されるようである、と表現された。CT上は正常であった。入院時の診断はウイルス性髄膜炎。集中治療が行われたが4日後の9月4日に死亡。
剖検の脳組織からN.fowleriが検出された。入院7日前の8月24日に湖での曝露が考えられた。

1937年から2007年までに米国CDCに報告されたPAM症例は121(年平均0~8例)で、報告の78%は男性だった。症例の85%は7~9月に発生していた。
高い水温の淡水の湖や川でよくおきていた。
救命できたのは1例のみだった。
Successful Treatment of Disseminated Acanthamoeba Infection in an Immunocompromised Patient
http://content.nejm.org/cgi/content/full/331/2/85

MMWR
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5721a1.htm
コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 日本のOslarと | トップ | 真空採血管ホルダー »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Taro)
2008-06-06 23:06:15
ネグレリア、直面したらなすすべがないときいています。
先生はこのような病原体と対面した時どのようなことをお考えになりますか?
漠然とした質問で恐縮です。
Balamuthia mandrilaris (大路 剛)
2008-06-07 12:09:41
ペルー留学中に第3のFree living AmoebiasisといわれるBalamuthia mandrilarisの若い患者さんを診ました。NaegliaやAcanthoamoebaより更に予後が悪く、今まですべての報告例で生存症例は1例だけでした。視神経もすぐにやられ死の前に視力を失うので告知が癌に比べてもあまりにつらいといわれました。
ネグレリア (やまげん)
2008-06-07 17:10:53
 FOX TVで放送されている、Dr HOUSEで、
以前、このPAMが扱われていました。
 謎の中枢神経症状で死亡した患者の自宅を
調査しに行ったDrがネグレリアに感染して
しまうというエピソードでした。
 さまざまな鑑別疾患を検査し、エンピリック
な治療をしているうちにみるみる病態は悪化し、結局、脳生検を2度行い診断。
 治療は、駆虫剤で治りましたというのが
TVドラマの限界でしょうが、
不明な感染症ということでの隔離処置、
鑑別疾患、CDCへの連絡、自宅の再調査など
なかなか見所が多かったです。
 シーズン2の終わりの方です。

 ちなみに、このドラマでネグレリアを知り、
ネットで調べたときに、ニュージーランドの
温泉地でこの疾患の多いことを知りました。
考える事 (Aoki)
2008-06-08 00:09:41
Taro先生:

再発防止法でしょうか・・・?
あまりに悲劇的すぎますから、暫く呆然としているでしょうが・・。 この疾患を知ってから米国にいる時も、やたらと池で泳がないようにしていました。
昔は肺炎球菌も (Aoki)
2008-06-09 15:07:16
大路先生、やまげん先生:

コメントありがとうございました。

病原微生物がそこに居て、患者さんの肉体を蝕んでいるとわかりながら治療できない事の、悔しさ、恐ろしさを想像して頂きたいと思います。

50年ほど前まではアメーバどころか、肺炎球菌も治療出来なかったのですから。

抗菌薬の乱用の先をアメーバから学びたいと思います。

毎日いんふぇくしょん(編集部)」カテゴリの最新記事