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試されている医療者と行政:風疹対策にみる温度差とアクションの差

2013-06-03 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
専門家や行政が、誰かがやるだろう、そのうち止まるだろう、と感染症をなめているうちは、この問題の最たる被害者である女性や子どもの症例は減りません。
これまでの周期的なブレイクと同じようにいつかとまるかもしれません。焼け野原状態となって。
火事なら燃える家屋が、やけど等で健康被害を負う人がどれくらいいるののか、戦争なら関係なく巻き込まれて傷つく人がどれくらいいるのかという話です。
他のことなら防災や防衛軍事担当者が批判され責任をとれといわれるのでしょう。

今回問われているのは感染症に関わる関係者、母子を守るという仕事をしている関係者です。
各地の医療者や行政が試されているわけです。

岩田先生の本の名前を思い出しましょう。『麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか』です。
今は麻疹を風疹にいれかえてみましょう。岩田先生の本旨は個別の感染症よりも、感染症対策としての国としての態度や哲学、構造にあります。
麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか
クリエーター情報なし
亜紀書房



高いワクチン、針刺していたいワクチン、忙しい平日には受診できない社会人。
ならばと、そのハードルをさげるべく医療者や行政が動いています。

行政は費用補助を開始。
医療者は日曜日にワクチン外来対応をしたり。

こちらは、国立国際医療研究センターの日曜 風疹(MR)ワクチン外来。通常はやっていない週末(日曜日)に外来をまわすためには、受付から会計までいろいろな準備が必要です。もちろん組織が大きければ院内各所の了解をとりつけることも課題。そしてこぎつけた、というわけです。
大曲先生のインタビュー(一週間だけwebに掲載されていますのでお早めにみてくださいね~)
アナウンスに使ったポスターはフェイスブック

実際には補助があっても、日曜日に外来を臨時でオープンしても、それでも難しい。
補助があることを、日曜日にやっている医療機関があることを知らない人が多いから。

あちこちでやるのもいいのかわかりません。ワクチンの確保や人員シフトの問題もあるからです。
下記のように医師会が集約してとか、駅前や人が集まるところでやるとか、その地域の事情や人口構成、行動様式にあわせたプランニングが求められます。
(その意味では献血車の後ろにはりついて、ワクチン・モバイルクリニックを巡回診療のような形でやるほうが戦略としてはベターです)

アナウンスの問題をどう乗り越えるのか。今回は風疹の話ですが、今後も感染症危機管理においてpublic communicationは大きな課題ですので、ぜひいち個人、医療者としてできるサポートやアクションをお考え下さい。

こちらは、藤岡先生が紹介してくださった、大阪府富田林医師会によるチャレンジ。
ポスターと報道発表を紹介させていただきます。

非常時の対応として取り組まれています。ぜひ大阪方面の方は話題にして広めてください。




サラリーマンがランチや仕事帰りに利用する食堂や居酒屋のトイレ、床屋にはってもらったり、保育園や学校で保護者宛に配ってもらったり、主要駅の掲示板、待ち時間の長いような場所の待合室、マンションや団地の掲示板、町内会掲示板にはってもらうことが必要です。
ある程度は人海戦術、腕力が求められます。

地元のラジオ、ケーブルテレビ、新聞などにも協力を依頼しましょう。

参考までに。藤岡先生が作成された報道発表資料も紹介させていただきます。

(強調はブログ編集部による)
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[報道発表資料]

社団法人 富田林医師会(会長 堀野俊男)
〒584-0082 大阪府富田林市向陽台1-3-38
TEL (0721)29-1210 FAX (0721)28-0858


富田林医師会による、麻しん風しん混合(MR)ワクチン集団接種の実施について

1. 背景(全国)
・ 2012年後半から西日本を中心に流行が見られていた風しんは、2013年に入って首都圏を中心に急増し、現在も衰える気配はなく、いつ終息するのか予想できない状況にある。

・ 流行の中心は20代から40代の男性であり、先天性風しん症候群も4月末までに既に全国で5例(大阪府1例)が報告されている。今後さらなる流行の拡大、その結果として妊婦への感染と先天性風しん症候群の増加が現実のものとして強く懸念されている。

・ 風しんワクチンの接種制度は1995年4月に大幅に変更された。すなわち、1977年から続けられていた「妊娠前の女性への免疫付与」を目的とした中学生女子への接種(いわゆる「英国方式」)では、先天性風しん症候群(CRS)の発生を確実に防ぐことができないため、「風しん流行を抑制し、妊婦への風しんウイルスの曝露防止」を目的とした男女幼児への接種(いわゆる「米国方式」)への方針変更である。

・ 同時に中学生年代(1979年4月2日~1987年10月1日生まれ)に対しては、女子だけでなく男子も接種対象の経過措置として、2003年9月30日まで実施されていたが、接種率は極めて低迷した。その結果、500万人以上の感受性者を残すことになった。厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会会長である岡部信彦川崎市健康安全研究所所長は、2003年3月の病原微生物検出情報月報(IASR)の「風疹ワクチン接種率の推移」(Vol. 24 p 55-57)において、「(風しんの)流行が抑制され、 経過措置対象者の接種率が低いままで推移すると、 感受性者はそのまま感染を受けずに蓄積し、 ひとたび流行がおこればこの年代の患者数が多くなるとともにCRSの多発が危惧される。」と警鐘を鳴らしていた。当時の対象中学生は現在20代後半から30代後半であり、現在は正に10年前の予想通りの状況となっている。

・ 2004年は風しんが流行し、例年1例程度であったCRS症例が10例報告された。2004年8月には「風疹流行にともなう母児感染の予防対策構築に関する研究」班(班長:平原史樹横浜市立大学産婦人科教授)において「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」が取りまとめられた。提言では「現在の風疹及びCRSの発生状況は、このまま放置すれば、ほどなくわが国全体においてCRS発生に関して危機的状況に至ると考えられ、もはや一刻の猶予もない。」と極めて強い口調での警告を発していた。

・ この緊急提言を踏まえて、国は「風しん対策の強化について」(平成16年9月9日付け健感発第0909001号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)により、全国の都道府県に対して「適切な対策」等を要請した。しかし、感受性者の蓄積した状況はまったく改善することなく、結果的に今般の風しん大流行に繋がっている。

・ 今般の流行に際しても、国は通知等での対応だけで終わっている。「風しん患者の地域的な増加について」(平成24年5月25日、結核感染症課事務連絡)、「風しん対策の更なる徹底について」(平成24年7月19日、健感発0719第2号、結核感染症課長通知)、「先天性風しん症候群の発生予防等を含む風しん対策の一層の徹底について(情報提供及び依頼)」(平成25年1月29日、健感発0129第1号、結核感染症課長通知)。通知の内容は、「風しんの定期予防接種対象者に対し、積極的な接種勧奨を行うこと。」と抽象的な内容や、「妊婦への感染を抑制するため、特に、(1)妊婦の夫、子どもその他の同居家族、 (2)10代後半から40代の女性(特に、妊娠希望者又は妊娠する可能性の高い者)、 (3)産褥早期の女性のうち、抗体価が十分であると確認ができた者以外の者に対して、任意での予防接種を受けることについて検討いただくよう、周知を図ること。」と消極的な対応に終始している。

このような国の対応に対して、5月23日に日本小児科学会、日本小児科医会、日本小児保健協会、日本外来小児科学会は、「もはや従来の通知等での対応だけでは、事態の根本的な改善が見込めないことは明白で、成人感受性者に対する緊急の対策が求められる」として、厚生労働大臣に対し「風しんにかかる臨時の予防接種の実施に関する要望書」を提出し、風しんを予防接種法第6条第1項に規定する臨時接種の対象疾病とするよう要望した。

2. 背景(大阪府、及び富田林医師会管内4市町村)
大阪府は、2013年16週から5週連続で全国ワースト1の報告数であり、累積報告数も2012年総数の4倍を超えた。CRS症例も、2012年に1例、2013年に1例報告されている。

・ 「大阪府内における2012年の風疹患者発生状況」((IASR Vol. 34 p. 97-98: 2013年4月号)によれば、2012年の府内風しん報告数は408例で、男性 291例(71.3%)、女性 117例(28.7%)であった。感染経路については、「不明」が241例(59.0%)、「未記載」が88例(21.6%)で全体の8割を占めていた。患者との接触歴が明らかな事例は79例(19.4%)に過ぎず、接触者として最も多かったのは「職場の同僚」の33例(8.1%)であり、「家族」というのは17例(4.2%)にとどまっていた。報告では「青壮年の男性が多い職場でのウイルス伝播が風疹流行のハブになっている可能性が示唆される。」と述べられている。

・ 5月13日に大阪府は「風しん流行緊急事態の宣言及び市町村への補助制度の創設」の報道発表を行った。その内容は、「先天性風しん症候群の発症を防止するため」「府内市町村の公費助成の取り組みを後押しする」として、市町村に対し公費助成額の2分の1の額を補助する(予算総額約1億円)というものである。しかし、大阪府の補助の対象となる接種者は、国の通知内容に準じた「19歳以上で、妊娠を希望する女性か、妊娠している女性の配偶者」に限定されていて、流行の中心である20代から40代の男性すべてを対象とはしていない。

・ 富田林医師会管内の4市町村(富田林市・河南町・太子町・千早赤阪村)でも、大阪府の助成制度創設を受けて、市町村独自の助成制度を立ち上げ、5月13日に遡及して助成することを発表した。その内容は、(1)医療機関における接種費用の一部を助成(MRワクチン7,000円、風しんワクチン4,000円)、(2)対象者は大阪府の市町村補助対象者に加えて、19歳から49歳までの男女(妊婦等を除く)、(3)助成方法は6月1日からは助成額を委託医療機関への振込とし、被接種者からは差額実費のみを徴収(5月末までは被接種者の届出による還付方式)である。

・ ちなみに府内で公費助成の対象者を「妊婦の家族(配偶者や子どもなど)」に限定していないのは、富田林市・河南町・太子町・千早赤阪村と寝屋川市だけである。全国的にも、都市部では東京都千代田区、台東区、荒川区、文京区、太田区、葛飾区、神奈川県川崎市などわずかであり、制度として実費徴収も行っていないのは千代田区、台東区、荒川区の3区のみである。

3. 医師会による集団接種実施の理由と実際
・ 妊婦への風しん感染及び胎児のCRS発症を防ぐためには、地域での風しん流行を抑制するしかないことは言うまでもないことであり、わが国においても風しんワクチンの接種方法がいわゆる「英国方式」から「米国方式」に変更されたことはその証左でもある。したがって、20代から40代の男性にワクチンを接種して、流行を抑制しなければ、CRSの発生を防ぐことができない。

・ とりわけ、CRSを発症しやすい期間は妊娠初期(特に妊娠12~14週頃以前)であるが、一般的には出産休暇を取る時期ではなく、妊婦は通常は職場での勤務を続けている。また12週前後は妊娠が確定して、ようやく母子健康手帳が交付される頃であるので、妊婦の家族についてもそれからワクチン接種を検討していては時機を逸する可能性も少なくない。

・ したがって、地域での風しん流行を抑制しようとすれば、流行の中心となっている20代から40代の男性の多くに風しんワクチンを接種しなければならないことは当然である。その点においては、対象者を「妊婦の配偶者(家族)」に限定している国の通知や大阪府の対策では、実効性に乏しいのは自明のことである。

・ 富田林医師会管内4市町村においては、公費助成対象を妊婦の家族に限定することなく、19歳から49歳の男女すべて(妊婦等を除く)とされた。この施策自体が大阪府や寝屋川市を除く他の府内自治体との大きな差であるのだが、その施策が実効性のあるものとなるか否かは、対象者の多数に対して実際に接種を実施できたかどうかにかかってくる。

・ そこで富田林医師会は、公費助成対象者、とりわけ家族に妊婦のいない成人男性が接種を受けやすい環境を検討し、実際に提供することが、地域医療の担い手である医師会の責任であると考えた。そのためには、実費徴収を行わず、休日や夜間での接種機会を提供する必要がある。

・ しかしながら、医師会加入の医療機関で接種費用を一律に設定することは独占禁止法に抵触するおそれがある。また、休日や夜間(例えば8時以降)は通常の診療を行っていない医療機関がほとんどである。さらには、医療機関ごとに徴収する実費額が異ならざるを得ない現状では、徴収額に関する問合せで診療業務に支障を来す可能性がある。

・ そこで富田林医師会では、休日や夜間の時間帯において医師会員が出務し、実費徴収額を無料とする集団接種の計画を理事会で緊急に決定した。原則として、インターネットで予約した人を対象にして、休日や平日の夕方から夜間に、富田林医師会館(会長である堀野俊男が管理医師である堀野医院の分院として保健所に届出)において実施する。集団接種の日程や期間は未定であるが、インターネット上では予約時に3日間程度の日程が提示される設定になっている。富田林市の20代から40代の人口は約4万5千人で、その25%程度が感受性者とすれば、約1万人が対象者となるが、当医師会としては接種を希望する住民が多い限りは無料の集団接種を続ける予定である。


・ インターネット予約はオリヴァ―社の「shujii.com」を利用した。本予約方法は、4年前の医師会で実施した新型インフルエンザ集団接種の際にも利用して、約9,000回の接種予約業務を円滑に行った実績がある。
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