感染症診療の原則

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ただいま帰国中 特派員便り

2010-03-08 | 志し高く(特派員便り)
Taro先生が日本にショートステイ中。明日はTaro先生おつかれさま、、ということで新宿で感染症系ごはん会です(原稿料兼ねる)♪

その生態が知りたい人はTaro先生のブログをチェック。
http://blog.livedoor.jp/aquaflowers7/

帰国前の3月3日にいただいた原稿です。
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どうやら私は物理的に時間的制約がかかるほど、書きもの執筆のドライブがかかるようです。

さて、中間試験の声を聞く頃になりました。私の在籍するHealth Policy division(医療政策部門)の第2学期(1~5月)の必修科目は、私が勉強したかった「決断医学」「ミクロ・マクロ経済」などの経済学、「公衆衛生法」など多岐に渡ります。

医療政策部門の場合、論文書きの課題も他の部門より多く、学期の終わりに向けてその量は加速するようです。きっとアカデミックライティングの良い勉強になるでしょう。

さて、経済学や法律はまだしも、決断医学という学問には馴染みのない方も多いかも知れません。決断医学とは、複雑、不確実性の上に成り立つ医療環境の中での医療者の決断をサポートするため1970年台に開発された方法論です。社会面、倫理面、医学面など多元的な問題に囲まれた医療現場で決断をしなければならない当事者(医政者、医療者、患者など)がこの科学的手法を用いれば、より効率的で有効な決断ができるようになるといわれています。

心ある人々がそのツールを有効に用いれば新しい価値を創ることにも繋がるでしょうし、リーダーとしてのよい武器を装備することにもなるでしょう。同時に、「限りある(医療)資源をいかに上手く適正に配分して、不利を最小に、得られる社会的効果を最大にする」という経済学の根本概念をうまく具現化することができれば、社会全体にも良い影響を与えることができると想像します。
今後はこのような医学周辺の学問分野が、医療との関わりの中でますます重視されてくると思います。

しかし残念ながら、日本では決断医学を現場で実証するタイプの専門家が(疫学など他の公衆衛生の学問と同じく)極端に少ないようで、その理由はこの分野の研究に国家的視点からして重きが置かれていないことにあると感じます。もとより日本では、公衆衛生学自体の価値がmolecular scienceなどの医学分野に比べ軽んじられるような傾向があり、折しもワクチン、インフルエンザなどの出来事がこの根深い問題を世間の明るみに晒しました。国家における公衆衛生の重要性の再考、公衆衛生への経済的・人的資源の投入の強化は今の日本にとって言うまでもなく急務です。そしてアクションはまさに今が潮時、と強く提言したいと思います。私もこの時期に日本の内情を遠く海外から眺めこのような記事を書く機会に恵まれたことも何かの縁かもしれません。

さて、以前にもお伝えしたように(第2回の記事参照)公衆衛生学のカバーする広い学問領域は広く、公衆衛生分野全体をパイチャートに例えるなら私のいる部門はサイエンスとしての医学(疫学や行動科学など)から最もベクトルが離れている分野(医療政策学)の印象です。

私の軸は臨床医であり教育者ですが、私は今回のMPHでは疫学部門や国際保健部門といった臨床医が選びそうな分野を敢えて専攻に選びませんでした。その理由は、私の今学んでいる分野を現場で応用しつつ外にも発信する人材になりたいという目的が元々あったこと、そして、自らにこのような全く未踏の分野を課すことで、自分の臨床医としての土台の幅と奥行きを広げたいという気持ちもあったからです。

同時に、医学から離れた周辺領域の概念を学ぶことが臨床医学教育上でいかにインパクトを与えるかを試してみたかったという理由もあります。これは私がいま別の大学院で学んでいる経営学(MBA)についても同じことが言えます。大学における教養教育の形骸化が久しい今、本格的なリベラルアーツの医学教育への導入も含めた包括的な高等教育が、如何に医療人を育てるよい土壌となるか。私が将来創立する予定の医科大学のコアカリキュラムを策定する上でも、自らを自検例として非常に良い経験をしているのではないかと感じています。

私自身については、このキャリアを通し自分が今後どのような成長を辿るかは未知数ですが、どちらにしてもパッションと信念をエンジンに突き進むだけです。アウトカムは後世が評価するでしょう。

さて、今週の中間試験が終わればspring break(春休み)です。また1週間ほど日本にとんぼ返りします。帰国翌日から、楽しみにしていた臨床の現場に短期間だけ戻ります。大阪市立大学にもレクチャーに伺う予定で、こちらも大きな楽しみです。最近はこのようなメリハリのついたオン(日本)とオフ(米国、ただしこちらが本拠地)の生活を楽しんでいます。こんな生活もなかなか面白いものです。

写真:写真は今日の夕食。ストウヴで久々に作った牛肉の赤ワイン煮。試験前で机の上は修羅場ですが、そんな環境だからこそ逆にプレートも引き立つ感じでしばし和みました。いつもこんな手のかかるものばかり作っているわけではないので、そのうちジャンクフードでも載せてみようと思います(食べ物ばかりだな・・・)
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