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臨床で重要な微生物を概観 Update2014 Q&A 女子医大 相野田先生

2015-02-26 | Aoki Office
サンドデジタルセミナー ベッドサイドで役立つ「感染症コンサルテーション力」up講座
Season 4 2014年度 第3回
臨床で重要な微生物を概観 Update2014
東京女子医科大学病院 感染症科 相野田 祐介 先生
日時 2015年2月4日(水)18:30~20:00



Q1:黄色ブドウ球菌の好きな場所はよく理解できました。その感染部位で、黄色ブドウ球菌を原因菌として積極的に疑う患者の背景には何がありますか?例えば、糖尿病であるとか、具体的な背景を教えて下さい。

A1: 様々な場合がありますが、ここでは背景としていくつかの免疫不全のタイプがお答えの1つになるかと思います。免疫不全にはいくつかのタイプがありますが、黄色ブドウ球菌が感染症を起しやすい場合の患者背景としては、皮膚バリアー障害(CVカテーテルが入っている場合やアトピー性皮膚炎や熱傷などで皮膚バリアーが局所または広範囲に破たんしている状態)が挙げられます。また、好中球減少症や細胞性免疫不全でもリスクが上昇します。


Q2: 尿路でブドウ球菌が培養されたとき、グラム染色で多く見えたか見えないかが、病原かどうかの参考になると思います。他にコンタミネーションと考えるかどうかを判断するにはどうしたらよいでしょうか。また尿路でブドウ球菌が病原になるのは、血流感染が基礎にあると考えるべきでしょうか。他に何か注意すべき部位はあるでしょうか。

A2: 一般に、一部の菌種(膀胱炎を起こすS. saprophyticusなど)を除いて、ブドウ球菌が腎盂腎炎などの尿路感染症の原因菌となる頻度は極めて少ないです。講義中にも少しお話ししましたが、ブドウ球菌は培養でとっても生えやすく、菌量が少なくても培養が陽性となりやすいです。また、ブドウ球菌の無症候性細菌尿という状況も(特に尿道カテーテルが長期に入っているような場合などでは)散見されます。本当に起因菌かどうかは、臨床状況など様々な状況を踏まえての総合判断になります。もちろん、血流感染症のなれの果てとして、腎膿瘍を形成して尿中からもブドウ球菌という状況もあります。このため、例えば腎膿瘍で起因菌が黄色ブドウ球菌などの状況では、血流感染症やその原因を検索することが重要です。


Q3: MSSAの縦隔炎を経験したことがあり、状態が安定したところでセファゾリンNaから経口剤にスイッチしたことがあります。このようなケースで、経口剤としては何が推奨されるのでしょうか?ST合剤、リファンピシン、ミノマイシンなどがあるとは思いますが…。

A3: 個々の疾患についてのコメントは控えさせていただきます。一般的には、縦隔炎の原因や、患者の状況、菌種、外科的治療やドレナージの状況などによって異なってくると思います。また、リファンピシンについては単剤での使用は推奨されていません。状況によって、上記の薬剤を組み合わせて投与することもあるかと思われます。


Q4: 肺炎で入院された方の喀痰 グラム染色でGPCの貪食像が確認され、後にMRSAであると判明した場合には肺炎の起炎菌としてMRSAを想定してよろしいんでしょうか。

A4:講義中にも触れましたが、 MRSA肺炎の診断は慎重に行うべきと考えます。貪食像も100%の特異度があるわけではなく、感染症がある状況下では関係ない菌の貪食像も認めることがあります。仮に貪食されている菌が起因菌であっても、それと関係ない菌としてMRSAが培養から検出されることもあります。MRSA肺炎は、患者背景や臨床状況やグラム染色の状況なども踏まえた総合的な判断が必要になります。


Q5: MSSAの場合、CEZにde-escalationせずVCMを使用し続けると予後が悪くなるとのお話でしたが、LZDやDAPの場合はそのような報告はあるのでしょうか?
(de-escalationして頂けない症例が多く困ってます)。


A5: MSSA感染症に対して、CEZとLZDやDAPを比較した明確なデータはないと思います。ただし、LZDやDAPはそもそもの国内での適応菌種の中にMSSAが入っていないことや、CEZと比較して薬価が高いこともあり、MSSA感染症と判明した症例に対して積極的に使用する推奨は乏しいかと思います。LZDやDAPの耐性菌の報告もありますので、適正使用を行うことが重要であると考えます。


Q6: 血培からクレブシエラが検出されました。セフトリアキソンが投与されていたので、そのままでいいのかなと思いましたが、第二世代に変更すべきでしょうか?

A6: 状況によりますが、基本的に3世代セファロスポリンは2世代セファロスポリンと比較して、PRSPやBLNARなどスペクトラムが広いので、可能であればde-escalationを考慮してよろしいかと思います。


Q7 外来から入院に至った患者で、積極的にSPACEを疑う患者にはどのような背景がありますか?
免疫不全や直近の入院歴、抗菌薬使用歴などが重要かと思いますが、単に高齢者だからとか、重症だからという理由でSPACEをカバーする抗菌薬を使用しても良いのでしょうか?


A7: SPACEを考慮する状況としては、講義中にも触れましたように医療暴露があるかどうかが重要であると考えます。むしろ肺炎球菌など市中感染症の原因となりやすい微生物による重症感染症はしばしば見かけますので重症だからと言って自動的にSPACEのカバーまで行う必要はないと考えます。もちろん、ケースによっては、医療暴露歴がよくわからないまま救命センターに搬送されてしまった敗血症例や、万が一稀なSPACEによるものであった場合に確実に致命的となるような壊死性筋膜炎のような限られた状況においてはEmpiricにSPACEまでカバーされることもあるかもしれませんが、単に高齢者であることや重症であることのみで全例に自動的にSPACEのカバーを行うような推奨はしません。実際にはケースバイケースで検討する必要があります。


Q8: ESBL産生の大腸菌に対する抗菌薬使用で悩むことが多いです。感染症専門医の書く本でも、意見が分かれています。実際、カルバペネム系を使うべきか、感受性があればセフメタゾールなどを使うべきか、それとも別の選択肢があるのか、先生の考えを教えてください。

A8: 現在、ここの領域についてはまだ研究段階の部分が多く、controversialなところが多い領域ですので、一括りでのコメントは難しいと思います。ケースバイケースで検討すべきかと思います。患者背景や臨床経過や臓器や重症度によって異なると思いますが、例えばESBL産生大腸菌などによる菌血症ではカルバペネム系抗菌薬が推奨されている文献が多いのは確かではあります。一方で、ESBL産生菌と括られる中には、様々なタイプのものが含まれており、その分布は国によっても異なっていたりしますので、必ずしも他の国のデータが適応できないかもしれないところもあります。今後有益なデータが出てくることを期待しています。また、講義中にも触れましたが、ESBL産生菌などの耐性情報があると、他の感受性が良好な菌による感染症であってもESBL産生菌に対しての抗菌薬を投与されてしまうというケースも散見されますので、特に無菌部位ではない検体でESBL産生菌が検出された場合には、本当に起因菌かどうかは、臨床経過などを踏まえて総合的に判断する必要があります。


Q9: 今回紹介された主要な微生物以外に、マイナーな微生物も病原になると思います。それらについてはどのように勉強すれば良いでしょうか?

A9: 書籍については、現在多数の良書が出版されていますので、実際に書店で手に取って検討されるのがよろしいかと思いますが、院内に細菌検査室があればそこで実際に生の臨床検体から検出された菌をその都度検査技師の方々に教わっていく方法が最もベターかと思います。私も実際に細菌検査室の技師の方々から多くを教わりました。普段から細菌検査室とのコミュニケーションをとることが重要と考えます。


Q10: 外来でのE.coliのCEZ感受性は、低下してきているところもあると思いますが、Klebsiellaは比較的感受性が保たれていると思います。以前は、双方とも市中感染ではCEZで対処をしていたように思いますが、最近はCTRXを使用される施設が多いように思います。投与回数やアンチバイオグラムによると思いますが、MSSAのためにCEZを温存するような考え方もあるのでしょうか。

A10: 一般に、グラム陰性桿菌(特にSPACE)とグラム陽性球菌では耐性の機序なども異なります。またMSSAに関しては、1世代セファロスポリンでも2世代セファロスポリンでも抗菌活性がありますので、個人的にはあまりMSSAのためにCEZを温存するという考え方はしていません。ただし、エキスパートオピニオンとして、このプラクティスを推奨する専門家もいます。実際にこれを強く支持するデータは存じませんので、それぞれの専門家に機会があれば考え方を聞いてみるといいかもしれません。


Q11: 大腸菌でABPC、もCEZも感受性がある場合、CEZではなく、ABPCを選択するのはどうしてでしょうか?
大腸菌の尿路感染で、ペニシリンよりもセフェムが使用される印象が強いので、教えてください。


A11: 感染臓器によって話が変わってきてしまうので、ここでは今回の症例である大腸菌による腎盂腎炎という設定でお答えします。大腸菌は、一定数ペニシリナーゼ産生株があり、この場合にはABPCは“R”と出てしまい、実際にABPCを単独で治療に使うことはできません。ただし、ペニシリナーゼ非産生株は感受性結果では“S”と結果が返ってきます。この場合には信頼できる“S”なので、ABPCまでde-escalationを行うことが可能です。Empiric therapyではペニシリナーゼ産生株かどうかわからないので、両方をカバーするセファロスポリンやβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリンなどが選択されますが、その後感受性が良好と判明すればABPCへのde-escalationは可能です。今回の症例ではCEZと比べてMSSAやペニシリナーゼ産生腸内細菌などのカバーがないより狭域のABPCに変更しました。もちろんどこまでde-escalationするかは、感受性結果以外に様々な要因を考慮して検討します。「大腸菌の尿路感染症にセフェム系抗菌薬」については、empiricあればセフェム系抗菌薬は選択肢の一つですが、definitiveではABPCも選択肢の一つとして考えられるかと思います。

Q12:ESBLとAmpCが検出された場合、それぞれの治療薬について教えて頂けますでしょうか。
ESBLでは第一選択としてカルバペネム、感受性によってはTAZ/PIPCやCMZやCFPMが有効と報告があります。ただ、AG系やキノロン系などが「S」と表記されでも臨床的に無効という文献も存在するようで抗生剤の選択に関して推奨薬の提示に迷うことがあります。一方AmpCはカルバペネムとCFPMが有効と報告がありますが、こちらも他の系統で「S」と表記されることが多いです。ESBLとAmpCの場合に分けて、推奨薬について教えていただけないでしょうか。


A12: 詳しくは成書をご参照ください。アミノグリコシド系抗菌薬やフルオロキノロン系抗菌薬で”S”と出ていても、それを実際に使うかどうかについては様々な意見がありますし、患者背景・臨床経過・臓器によっても話が異なってくる複雑なところで、ここもcontroversialなところです。


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