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HPVワクチン 有害事象(≠副反応)調査

2016-04-08 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
HPVワクチン接種後の「有害事象」について、比較的最近の報告がスロベニア(4価HPVワクチン)オランダ(2価ワクチン)からありました。

ワクチンを接種した「後に」おきる望ましくないイベントをAdverse Event(AE、有害事象)といいます。
  5秒後に失神した
  50分後に階段から転んだ/交通事故にあって骨折した
  5時間後に食べた食事のせいで下痢をした
  5日後にインフルエンザになった
  5週間後にクラミジアになった
すべて有害事象といえます。

このうち、ワクチンが直接その原因となっているのでは?と考えられる「因果関係がある」ものについては  ワクチンの「副反応」 として認識されます。

5カ月後や5年後のものまで有害事象や副反応と考えるのかどうかは一概にはいえず個別の検討ですが、常識的に考えて/ワクチン関係なくおこりうるもの、については積極的に因果関係を考えたりはしません。

常識的に、というのは例えば5日後のインフルエンザや5週間後のクラミジアは他に直接の原因を考えるだけの科学的な知見がすでにあります。

有害事象報告は「広く情報をとる」ためのもので、医薬品の安全性の問題を見落とさないようにすることがその目的です。
例えば米国のVEARSというシステムではオンラインで、FAXで、メールで報告できます。医療者だけでなく、本人や家族や友人でも報告できますが、虚偽の報告をした場合は罰せられます。

データの解釈として重要なのは、これはワクチンが原因となる「副反応のデータではない」ということです。
(ネットをみると因果関係があるものと誤解している人たちもいます)

2006年の4価HPVワクチン導入後に117 例の「死亡」報告があります。分母は8000万接種です。
報告された事例はカルテ記録等の調査が行われますが、詳細なデータが提供されない自主報告もあります。
このうち51件はカルテや剖検、診断書のデータが得られており、検討の結果、ワクチンが原因の死亡ではないことが確認されています。


各国のデータはさらに「重篤かどうか」を判定します。
入院等が必要になったものを重篤と決めている国もありますが、日本のように「医師が重篤にマルをつければ重篤」という国もありますので、単純に各国のデータを比較はできないことに注意が必要です。

<用語や概念が分からない人向けの参考情報>
うさうさメモ 複雑怪奇な「有害事象」と「副反応」のまとめ
日本小児感染症学会  予防接種後の有害事象と副反応
日本薬学会 有害事象 adverse event
日本病院薬剤師会 副作用とは? 有害事象との違いは?
IOM Adverse Effects of Vaccines Evidence and Causality
Wikipedia 因果関係を検討するための Bradford Hill Criteria
WHO Association or Causation


まずはスロベニア。

Adverse Events Following School-Based Vaccination of Girls with Quadrivalent Human Papillomavirus Vaccine in Slovenia, 2009 to 2013
Eurosurveillance, Volume 21, Issue 14, 07 April 2016

スロベニアでは2009年9月から11-12歳を対象に4価HPVワクチン接種を開始。
接種率は初年度が 48.7% 2年目が55.2% 。

2009年9月〜2013年8月までの4年間、学校ベースのHPVワクチン接種プログラムでの有害事象調査。接種の後に発生した有害事象は211例(89人)

 年度  接種総数 有害事象報告 10万接種あたり  重篤    10万接種あたり
2009/10 14,601   20    137.0     1  6.8
2010/11 14,640   22    150.3     2     13.7
2011/12 15,945   19    119.2     0    0.0
2012/13 14,334   28    195.3     2    14.0


【症状      報告数  有害事象の% 10万接種あたり】
倦怠感       32    15.2%     53.8
頭痛       24      11.4        40.3
発熱      21    10.0   35.3
接種部位の痛み  21    10.0   35.3

接種部位の腫脹  12      5.7       20.2
接種部の発赤   12     5.7      20.2
疲労感   12   5.7       20.2

睡眠障害 10    4.7       16.8
めまい  10     4.7       16.8

失神   8     3.8       13.4
吐気    6      2.8  10.1
発疹   6    2.8 10.1
腹痛   5   2.4 8.4

各3件(1.4%、10万あたり5.0) かゆみ  顔の紅斑

各2件 (0.9% 10万あたり3.4) 顔の蒼白 血小板減少症  嘔吐  痙攣  下痢 

各1件 (0.5% 10万あたり1.7) 咳 顔の挫傷 ギランバレー症候群  貧血 関節痛
胸部違和感  頻脈 振震  片頭痛 手の浮腫 耳の痛み 等
※アナフィラキシー、自己免疫疾患の報告は無し。


5例の重篤例の内訳は....
【11歳】2回目 接種1分以内/痙攣、失神/入院1日/想定された症状/関連あり
【11歳】1回目 接種後数分/吐気、疲労感、頭痛、扁桃炎/入院1日/想定された症状/関連あり
【11歳】3回目 接種数時間後/片頭痛エピソード/入院3日間/想定外/関連性が否定できない  
【11歳】1回目 接種後45分/吐気、疲労感、傾眠、目眩/入院1日/想定された症状/関連あり
【11歳】1回目 接種後1分/失神/入院1日/想定された症状/関連あり

参考:ヨーロッパでの4価HPVワクチンの評価(2016年3月16日)
European Medicines Agency (EMA). European public assessment report (EPAR) for Gardasil. Summary of product characteristics. Updated 9 Mar 2016.


次に、全世界的にみても数少ない2価HPVワクチン採用国オランダで、長期間続く接種後の有害事象についての報告。2015年12月のレポート。

ちなみに接種率は年々上昇中。
Increasing number of girls immunised against HPV
2011年の調査では
Reported adverse events in girls aged 13–16 years after vaccination with the human papillomavirus (HPV)-16/18 vaccine in the Netherlands
Vaccine Volume 29, Issue 28, 20 June 2011, Pages 4601–4607
被接種者に接種後の体調変化についての報告を依頼。4248 人が協力。
接種後7日以内の有害事象
接種部位の変化は1回目の接種で92.1%、2回目の接種で79.4%、3階目の接種で83.3%が報告。
全身症状はそれぞれ91.7%, 78.7%, 78.4%だった。
腕の痛みは 24.0%, 11.7%, 14.7%
   年齢が上の少女の方が若い少女よりも有害事象報告が多かった。

The National Immunisation Programme in the Netherlands : Surveillance and developments in 2014-2015
2015年12月
127ページからHPVワクチンの説明。

さて。
Long-lasting adverse events following immunization with Cervarix®

オランダでは2009年にCervarixが国の予防接種プログラムに導入されました。
The Netherlands Pharmacovigilance Centre Lareb はこれまでに、Cervarix接種の後におきた有害事象を6年10カ月の間に1271件把握しており、このうち231件が長期間続く有害事象となっている(この場合の"長期間"の定義は2カ月以上)
報告された有害事象の多くは接種後すぐのものであり、2カ月以上続く事例について、2012年と2015年の報道によって関心が高まった時期に報告されている。

"The majority of the reports concerning long-lasting AEFIs was received after media attention
in 2012 and 2015. "

長期間続く有害事象の頻度はバースコホートで一定しており、1万人あたり5人であった。


長期間続く症状で最も多いのが疲労感(Fatigue)であり、231件のうちの168件である。
1人から複数の症状の報告があるが、一定のパターンはみられない。
本調査では長期間続く症状とCervarixの因果関係は確認できなかった。
さらなる検討のためには別の疫学調査を行うことが望ましい。

Cervarix関連の有害事象 1271件 のうち上位10症状: 01-01-2009 to 15-10-2015.
有害事象      件数
頭痛        478
痛み        409
発熱        367
吐気        298
めまい       290
疲労感       278
炎症         64
筋肉痛 151
倦怠感       125
腹痛        122

2カ月以上続くCervarix関連の有害事象 
疲労        168
頭痛        119
めまい        73
筋骨格の違和感    60
失神         42
吐気         28
月経不順  17
発熱        14
倦怠感 11
集中力が続かない   9

結論として、ワクチン接種後に2カ月以上続く症状について医学的な説明はない、とのことです。
" In all 231 girls no medical explanation for the long-lasting complaints was found."

接種後時間がたってから発症、徐々に発症、典型的な発症のパターンがない、というのが2カ月以上で把握される有害事象群の特徴。
"Since most reports of long-lasting AEFIs have a reporting delay of three to six years and symptoms often gradually developed, it is difficult to estimate the latency accurately. There appeared to be no typical interval: onset varied from days to months and even a few years after vaccination. "

このワクチンが導入される前から、疲労と他の慢性的な症状は思春期層の訴えとして知られていました。
そのことについての説明もあります。
"In 1997 De Jong et al., Bazelmans et al. and Versluis et al. found a prevalence of 1-10 per 10,000 persons concerning fatigue. These estimates were however based on different populations with different case definitions. Ter Wolbeek et al. performed a school-based study with questionnaires in adolescents and found that 20% of the girls and 6% of the boys reported severe fatigue, that was also long lasting in a considerable part of them . In 2005, van der Linden et al. reported that the incidence of GP consultations for fatigue was 10 per 1000 for girls at the age of ten years, and increased to 47 per 1000 for girls at the age of fifteen (for boys these numbers were respectively 9 and 17 per 1000) ."

Several studies have been done to investigate the possible relation between chronic fatigue syndrome and the vaccination: the MHRA in the United Kingdom performed “observed versus expected” analyses comparing the number of reports of fatigue syndromes to the expected number, using background rates calculated from health care databases and estimates of vaccination coverage. They found no increased risk for vaccinated girls to develop fatigues syndromes and the numbers of spontaneous reports were consistent with estimated background rates. Through ecological analysis and a self-controlled case series, they also compared the incidence rate of fatigue syndromes in girls before and after the start of the vaccination campaign and the risk in the year post-vaccination compared to other periods. They did not observe a change in incidence of fatigue after introduction of the HPV vaccination, nor an increased risk using the self-controlled case series approach .



日本の国民健康調査等で把握されている痛みをはじめとする症状がもともとどれくらい存在するのかというバックグラウンドデータは、厚労省の会議の資料の中でも紹介されており、また名古屋市の調査でも関連の情報が得られます。
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