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若セミ 須藤先生 電解質編 Q&A

2019-11-15 | Aoki Office

第7回 若手医師セミナー 電解質 須藤先生 Q&A

須藤先生から御回答頂きました。

質問者 : 医師 内科 50代
お名前 : 本康宗信先生
質問内容 : 間質の体液量増加で浮腫が起こる、また、血管内の体液量が増加し、肺水腫やJVDが起こるということですが、(心機能によるかもしれませんが)どのくらいの増加でこうした所見が現れるのでしょうか。

臨床的に分かる程度の浮腫の時の体重増加は3−4kgと言われています。肺水腫やJVDがどれくらいの血液量増加で起きるかは,私も具体的な数字としては正直よく分かりません。血管内血液量だけが増える状態というのは考えにくいので,少なくとも細胞外液量が増えて,同時に血管内血液量が増えるとすれば,前述の体重増加があると考えるのが自然だと思います。しかしご指摘のように心機能でかなり違ってくるのではと思います。


質問者 : 田舎ドクター
質問内容 : 生理食塩水のクロル濃度が高いことによる不都合について教えてください

大量輸液によって,高Cl性のアシドーシスが起こることがあるとされています。実際には出血性ショックの状態などで,よほど大量に輸液を行わない限り起きないようです。私は実際に経験したことはありません。これは細胞外液量減少による代謝性アルカローシス(Contraction alkalosis)と反対の病態で,Expansion acidosisとも言われています


質問者 : 医師 救急 20代
質問内容 : 血管内volumeを維持するのにもかかわらず、晶質液にまけてしまった5% albの使いどきがいまいちわかりません。主題とは外れるかもしれませんが、教えてください。

厳密に言うと血液量減少性ショックに関して,膠質液は晶質液に対して一定した優位性が示されていないので,積極的には勧めないというこいとです。5%アルブミンを私自身もここしばらく記憶にある限りほとんど使ったことがありません。Critical careの領域でのデータが主で,そのエンドポイントが,総死亡率やICU stayとか1ヶ月以内の死亡率などだったと思います。限られた状況でアルブミンを使う意味がある場合はあるかもしれませんが,私も分かりません,25%アルブミンは,著明な低アルブミン血症があり循環動態が不安定となった時など限定的には使用する場面がありそうです。

質問者 : 田舎ドクター
質問内容 : 先生は臨床でアルブミン製剤を使われますか?私は使ったことがありません。

私自身もここ最近覚えている限り使ったことはほとんどありません。

質問者 : 医師 内科 50代
お名前 : 本康宗信先生
質問内容 : 維持液(3号液)と細胞外液については多種類の商品があり、施設により採用が異なります。pHや多少の組成の違いがありますが、どれを使っても大きく変わらないのでしょうか。

私自身は違いを意識したことありません。組成がほぼ同等なら違いはないと私は思っています。

質問者 :
質問内容 : 低張性脱水の患者さんに食塩を投与してはいけないでしょうか?
心不全になってしまいますか?

細胞外液量低下があると判断すれば(等張液成分=生理食塩液が足りないと判断すれば),食塩を投与することは間違いではないと思います。
心不全を起こすかどうかは,その患者の心機能や投与速度にもよると思います。


質問者 : 内科 30代
質問内容 : フロセミドは低ナトリウムでは?

フロセミドを投与すると,大ざっぱにいって1/2生理食塩液と同等の尿が排出されます。フロセミドを使って2Lの尿が出たとすると,そのうちの1L生理食塩液,1Lはfree waterです。等張液過剰の状態(たとえば心不全)の時に,フロセミドを投与すると,排泄させたい生理食塩液成分は排泄されますが,free waterの部分は失わなくてもよい成分です。したがって,患者がまったく飲水しなければ,1Lのfree waterを喪失することになるので,高Na血症になりえます。通常は,患者が飲水したり,心不全の時に静脈確保の目的でD5Wを輸液していれば(尿量の半分)高Na血症にはなりません。
ハンドアウトのスライド62(講演では,時間の関係でこのスライドは省きました)


質問者 : 医師 内科 50代
お名前 : 本康宗信先生
質問内容 : 尿中の電解質を測定する臨床的場面についてご教示ください。
(実際には塩分摂取量の推定とか低Na血症の鑑別で測定しますが、血液と尿の採取時間が異なることがあり、それは結果に影響するでしょうか)

ご指摘の通り,スポット尿ではかなり変動はありうると思います。

 

質問者 : 研修医 2年目 
お名前 : 千田 航平先生
質問内容 : ご講義終了で構いません。

①低Na血症の鑑別目的に尿検査提出しますが、だいたい輸液が入っている状態です。何回か尿検査を提出してトレンドを見る、といったことも聞いたことがあります。尿検査の位置づけについて教えてください。

②入院中のご高齢の方はだいたい低Naになりますが、Na値としてはいくつくらいまででしたら許容できますか?


1)尿電解質は,その時のNaのハンドリングの状態を推定するのに使います。至急検査で結果がすぐに得られなくても,複数回測定してトレンドを見るのに使うのはご指摘の通りです。


2)これも難しいですね。低Na血症は,それ自体が転倒,骨折,死亡のリスクと言われています。しかしたとえば完全に寝たきりになった高齢者では,ぶっちゃけた話そこまで考えなくても良くなりそうな気がします(もちろん無症候性のときです)。そんな場合には,130mEq/L位は(あるいは少し切っても)目をつぶってしまうかもしれません。

 

質問者 : 薬剤師 30代
お名前 : 森本 二郎先生
質問内容 : Naバランスの身体所見、「総合的に判断」とのことでしたが、どのような項目を総合的に判断するのでしょうか。
おおざっぱな質問で申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。

かなり以前ですが別の機会に書いた文章をほぼそのまま引用します(文献は省略)。

<欠乏量の推定>
指標として簡便で,比較的正確な推定方法は体重の変化をみることである。患者の普段の状態からの体重減少量がわかればおよその喪失量が推定である。数日以内の変化であれば充分指標となり得る。

体重変化,血圧低下(通常の血圧との変化が重要),臥位と座位での血圧・脈拍の変化(起立性変化)は重症の循環血漿量減少を示唆する。従来より起立性変化で収縮期血圧が10mmHg以上の低下,脈拍30/分の上昇があれば有意な循環血漿量の低下を示すとされていた。しかし出血ではない脱水症の診断にはこの原則はあてはまらない可能性がある。90mmHg以下の低血圧は循環血液量の低下を強く示唆するが,患者の通常の血圧にも注意を払う。たとえば収縮期血圧120mmHgは絶対値としては正常であるが,普段180mmHg程度の高齢者ではショックに準じて考える必要がある。爪床を指で白色になるまで圧迫して,その後ピンク色に回復するまでの時間をみる毛細血管再充満時間(Capillary refill time)の延長が循環血漿量低下の指標としては有用であり小児においては2秒以上の場合5%の脱水に対して陽性尤度比は4.1(95%CI 1.7-9.8)という報告がある。
しかし一方で,成人において毛細血管再充満時間は脱水の正確な指標にはならないという報告もある。治療開始時に頻脈があり,治療によって拍数が低下してきた場合には臨床的には改善と考えることができる。ECF低下の指標である皮膚のツルゴール(皮膚緊張)は前胸部,眉間の皮膚をみる。手背の皮膚は高齢者では脱水がなくともツルゴールの低下のように見えることがある。腋窩の乾燥,口腔粘膜の乾燥も脱水のよく知られた所見であるが,著しい口呼吸の患者では口腔乾燥が必ずしも脱水を意味しない。体液量が正常のとき,仰臥位では多くの場合頚静脈は拡張して見える。仰臥位でも頚静脈が全く見えなければ血管内容量の低下を示唆する。しかしこれも体格によっては必ずしも見えるとは限らないため注意を要する。

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