感染症診療の原則

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過剰対応後のおとしどころ

2009-05-18 | 毎日いんふぇくしょん(編集部)
アウトブレイク事例で、接触そのものをたちきることがどの程度有効かは感染症の種類によって違います(あたりまえですが)。

たとえば、『A高校に麻疹を発症した学生が一人報告された』

麻疹は「一人出たらすぐ対応」の感染症ですが、この時点で一番影響をするのは集団全体の感受性(ウイルスに曝露したら発症するかどうか)です。

もしもA高校が毎年春に予防接種の調査歴を職員と生徒にしていて、100%に近いような場合、このクラス・学年・学校は閉鎖になりません。
しかし「調べていない」とか「未接種や不明が一定数いる」となると、この時点ですでに曝露があるとしたら2次感染症例をふせぐことはできず、閉鎖をするのは3次感染をへらすためです。

どこかの時点で学級・学校閉鎖をしたとします。麻疹の場合はその後「新規症例が報告されなくなった」「そこから一定期間がたった」ことを確認して“アウトブレイクは終わった”(終息宣言)ということができます。

潜伏期間がわかっていますし、感受性者情報があればすぐにワクチン接種をしたり介入がとれるからですね。

麻疹の場合はこのように関係者が目指すべきアウトカムもやるべきこともその有効性も明確です。


では、インフルエンザの場合はどうでしょうか。

まずひとりも発症者がいないのに学校を閉鎖する根拠は何か?

※報道によると自治体は限定対応をしようとし、文科省は一律対応をしなくていいといっていたのに「厚生労働省の担当者が『県内全域に広げた方が効果的だ』という専門的な助言をした」から一斉休校になったそうです。どの国でもそんなことはいわれていないんですけどね。担当者って誰?(5月18日 読売)
http://osaka.yomiuri.co.jp/news/20090518-OYO1T00677.htm?from=main1

インフルエンザの場合はまず症例が自宅隔離(安静)をし、接触機会をたちきります。しかし数が一定数増えてきたところで学校や教育委員会が閉鎖を検討しています。(毎年一人出た!といってクラスや学校を閉鎖したりはしていません)

そして問題はいつ再開するか?です。

今回は「終わりの見えない根拠もよくわからない、しかしあとで何かいわれるのはやだなモード」が働いて検査がじゃんじゃんされることになるでしょう。

誰か過労死をしたり、予算が底をつくまでやるのか知りませんが、この先ひたすら(調べれば調べるほど)数は増えていきます。

数が増えている中で学校を再開する根拠はなんだ?になります。

今後もこういった感染症の問題はおきますので、問題処理能力としてどんな理屈で展開するの注目しましょう。

ニューヨークも3つ新たに閉鎖しましたが、学内での複数症例が探知されたからであり、地域全体ではありません。
報告症例が数百といえども全体からみると学生の大多数は健康ですので、学習機会が奪われないようにホームページやメールをつかって自習課題などが出されているそうです。

今回自宅にいろといわれている元気な人たちの「ケア」はどこかにあるのでしょうか。

学校を拠点としたインフルエンザ様疾患のモニタリングがあります。欠席者数、学級閉鎖がどれくらいかが報告されているのですが、報告している地域とデータなしの地域にばらつきがあります。
「人手がない」のか「意味がない」と思っているのかわかりませんが。
今回のことをきっかけにサベイランスの精度があがるといいですね。
http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/infreport/report.html
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