八戸市民病院ドクターヘリのブログに緊急被ばくとドクターヘリ―もし青森県内で、 JCO 臨界事故と同種・同規模の事故が発生したら?」という問いがありました。
若い先生、学生さんは記憶は教科書で習ったかもしれません。
1999年9月に、茨城県のJCOの核燃料加工施設内で核燃料サイクル開発機構の高速増殖実験炉の燃料加工の工程中に、ウラン溶液が臨界状態に。
この状態が約20時間持続。この結果、至近距離で致死量の中性子線を浴びた作業員3人中、2人が死亡した事故がありました。
ヘリコプターで放射線医学総合研究所へ搬送され、2名は造血細胞の移植のために東大病院などに転院。
ひとりは17シーベルトの被曝で、事故後83日後に死亡。
もうひとりは10シーベルトの被曝で、事故後211日後に死亡。
死因は放射線被曝による多臓器不全。
(生存したひとりの推定被曝量は1~4.5シーベルト)
約45万アクセスのあるYoutube東海村JCOバケツ臨界ウラン放射線・放射能被爆事故(原発関連) 診療にあたった医師らのコメントも。
この事故では、当初、救急隊員3人が“事故の内容を知らされず”に出動し、13mSv被曝したそうです。
緊急対応にあたる医療関係者も無関係ではない話です。
臨界を終息させるために作業にあたった人(事業所の従業員・政府関係機関者)は、最大で120mSvの被曝。
施設の外側では、近隣の作業員7人、住民200名近くが長時間中性子線を被曝。このなかで、最大の人は25mSV。
一般人の年間被曝線量の限度は1mSVとされており、原発で働く作業員や、緊急対応の際の被曝線量限度は100mSvとされていましたが、今回の福島の事故対応のなかで、この100mSVは250mSvに引き上げられました。
(根拠や安全性はよく知りません)
子どもの安全基準については、3月30日に福島県教育委員会が学校再開にあたり、国の現地対策本部に相談をしています。
■原子力安全委の代谷誠治委員:「子どもは(年間の累積被ばく放射線量を)成人の半分の10ミリシーベルト程度を目安に抑えるべきだ」と発言。(4月13日)
■高木義明文科相が参院文教科学委員会で「基準は年20ミリ」と答弁(4月14日)
その後、代谷委員は「できるだけ子どもの被ばくを少なくするのは通常のことなのでそう言ったが、安全委の決定ではない」と修正しています。
県は校庭や園庭の放射線量を調査したところ、75.9%(1242施設)が、法令で設定されている放射線管理区域基準を上回っており、特に福島市などの県北地域や南相馬市などの太平洋沿いの北部地域では96-99%でその数値をこえていた、とのことです。
教育現場に戸惑い 被ばく量、子どもの基準定まらず 毎日新聞 4月16日
今後、リスクをどう考えるのか。学校関係者や親御さんも不安に思っています。
また、原発の作業にあたっている人たちの健康問題を誰が責任をもってケアするのか。
原発で働いた人の労災認定は、基本的には白血病で、その他の悪性リンパ腫等がみとめてもらえないという事例がありました(申請却下)。その後、厚生労働省の検討会で因果関係が認められるということになり、労災がおりた例がありました。
「1997年9月から2004年1月までの6年4ヵ月間で99.76ミリシーベルトで、1年あたりでは15.8ミリシーベルトも被曝。白血病の労災認定基準は1年あたり5ミリシーベルトですから、その3倍以上」です。
他にも、労災に関する事案があります。
関西電力美浜原発三号機事故の労働災害等に関する質問主意書 平成17年 衆議院 吉井議員による
「原発労働者の被曝」
第106回原子力安全問題ゼミ 2009年3月6日京都大学原子炉実験所
本日4月17日の時点では、東京電力福島第1原子力発電所で復旧作業を担う作業員のうち、累積放射線量が従来基準の100ミリシーベルトを超えた人が28人に上ることが把握されています。
MRICに、現在、作業にあたる人たちの健康問題への対応を問いかける投稿がありました。医療関係者が積極的に声をあげる事案のひとつですね。
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原発周辺で闘う全労働者に、厳重な「産業保健」の適応を!
長尾クリニック(尼崎市) 院長
産業医・労働衛生コンサルタント
長尾和宏
2011年4月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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多くの作業員が福島原発の処理や原発周囲の作業にあたっておられます。レベル7の中心地での過酷な労働の一部がすでに報道されています。私は彼らの健康管理が心配でなりません。医者の放射線被曝は「フイルムバッチ」という胸に着ける小さな物で測ります。勤務医の時、私はバッチを貰いましたが着けていませんでした。着けるとすぐに許容量をオーバーして仕事が出来なくなるからです。
私は、産業医であり労働衛生コンサルタントでもあります。普段の診療以外にいくつかの企業の「産業保健」業務に携わっています。安全衛生法に定められた方法に従い労働者の健康を守ることが、産業医としての任務です。
産業医の任務は、以下の3つです。(3管理と言います)
1 健康管理(健康診断や事後処置)
2 作業管理(無理な作業をしていないかのチェック)
3 作業環境管理(作業環境が劣悪でないかのチェック)
雇用主は、労働者の健康を守る義務があります。守らないとお役所(労働基準監督所)に罰せられます。どこの企業も、この規則をちゃんと守っています。労働者の健康保護に関しては、法律遵守が義務です。国際的にもそれが定められています。
さて、産業医の立場に立つと現地労働者の3管理ができているかとても心配です。防護服、安全靴、マスクなどの国家規格検定の合格証のある保護具を着用し、放射線被曝をちゃんと防護出来ているのでしょうか?もし防護できていなければ、ちゃんと医療が受けられるのでしょうか?
原発で働いているのは、東電関係の職員だけではありません。駆り出された現地の若者、全国からの応援部隊、様々な企業の関係者も一緒に働いています。彼らは「放射線」という見えない敵と闘いながら難作業を継続しています。
さらに闘っているのは、原発作業員だけではありません。原発周囲では多くの自衛隊、警察、消防などが遺体収容などに従事しておられます。同じ日本人の仲間たちが、いま、危険地帯で闘ってくれているのです。
彼らは、全員、労働者です。労働者には、必ず雇用主がいて、産業医がいます。雇用主の責任で、3管理がちゃんとできているのでしょうか?正確に言うと、産業医配置は従業員50人以上の事業所の義務です。50人以下の事業所は、「地域産保センター」に無料で管理を委託できます。ちなみに私は尼崎市の地域産保センターの仕事にも従事しています。
これから後の放射線障害が心配です。10年、20年経過してから出る病気も危惧されます。野菜や魚の被曝が取り上げられていますが、一番危ないのは作業員のはずです。もし、自分の身内が現地の作業員だったらどうでしょうか?心配で眠れないと思います。日本で最も危険地帯で闘う現地作業員に想いを寄せて、命を守る時です。
産業医は、ちゃんと職場巡視をしているのでしょうか?
過重労働は、本当に無いでしょうか?
作業環境測定士は、ちゃんと環境測定をされているのでしょうか?
メンタルカウンセリングの体制は、あるのでしょうか?
特殊・有害業務に対する特殊検診は、実施されるのでしょうか?
希望すれば、いつでも健康チェックは、受けられるのでしょうか?
希望すれば、「造血幹細胞保存」を受けられるのでしょうか?
そもそも労働者は、それを受ける権利を有するのでしょうか?
その際の費用は、雇用主が負担してくれるのでしょうか?
ちなみに産業医も雇用主に雇われている労働者にすぎません。部外者である労働衛生コンサルタントの活用も一考するべきです。作業環境管理には管理区域というものが定めされていますが、もし「第3管理区分」であれば産業医は直ちに業務改善命令を出さなければなりません。もし産業医が充分に機能しないなら、労働衛生コンサルタントの力を借りる余地もあると愚考します。もし私でよければ現地に入ります。今こそ、「管理された状態」での労働が確保されるべきです。
原発周辺で闘う労働者への、厳重な「産業保健」の適応を強く望みます。労働基準監督署には、厳重な監視をお願いいたします。もし監督署が被災されているなら近隣市町村の監督署に強くお願いいたします。今回のような非常時こそ二重三重に労働者の健康を守るような臨機応変な対応をお願いします。そのための「産業保健」、「産業医学」であると思います。最後に、産業保健の中枢である厚生労働省や産業医科大学の放射線被曝の専門家のご意見もお聞かせ下さるようお願い申し上げます。
以上、産業保健にも身を置く一医師として、緊急提言させて頂きます。
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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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若い先生、学生さんは記憶は教科書で習ったかもしれません。
1999年9月に、茨城県のJCOの核燃料加工施設内で核燃料サイクル開発機構の高速増殖実験炉の燃料加工の工程中に、ウラン溶液が臨界状態に。
この状態が約20時間持続。この結果、至近距離で致死量の中性子線を浴びた作業員3人中、2人が死亡した事故がありました。
ヘリコプターで放射線医学総合研究所へ搬送され、2名は造血細胞の移植のために東大病院などに転院。
ひとりは17シーベルトの被曝で、事故後83日後に死亡。
もうひとりは10シーベルトの被曝で、事故後211日後に死亡。
死因は放射線被曝による多臓器不全。
(生存したひとりの推定被曝量は1~4.5シーベルト)
約45万アクセスのあるYoutube東海村JCOバケツ臨界ウラン放射線・放射能被爆事故(原発関連) 診療にあたった医師らのコメントも。
この事故では、当初、救急隊員3人が“事故の内容を知らされず”に出動し、13mSv被曝したそうです。
緊急対応にあたる医療関係者も無関係ではない話です。
臨界を終息させるために作業にあたった人(事業所の従業員・政府関係機関者)は、最大で120mSvの被曝。
施設の外側では、近隣の作業員7人、住民200名近くが長時間中性子線を被曝。このなかで、最大の人は25mSV。
一般人の年間被曝線量の限度は1mSVとされており、原発で働く作業員や、緊急対応の際の被曝線量限度は100mSvとされていましたが、今回の福島の事故対応のなかで、この100mSVは250mSvに引き上げられました。
(根拠や安全性はよく知りません)
子どもの安全基準については、3月30日に福島県教育委員会が学校再開にあたり、国の現地対策本部に相談をしています。
■原子力安全委の代谷誠治委員:「子どもは(年間の累積被ばく放射線量を)成人の半分の10ミリシーベルト程度を目安に抑えるべきだ」と発言。(4月13日)
■高木義明文科相が参院文教科学委員会で「基準は年20ミリ」と答弁(4月14日)
その後、代谷委員は「できるだけ子どもの被ばくを少なくするのは通常のことなのでそう言ったが、安全委の決定ではない」と修正しています。
県は校庭や園庭の放射線量を調査したところ、75.9%(1242施設)が、法令で設定されている放射線管理区域基準を上回っており、特に福島市などの県北地域や南相馬市などの太平洋沿いの北部地域では96-99%でその数値をこえていた、とのことです。
教育現場に戸惑い 被ばく量、子どもの基準定まらず 毎日新聞 4月16日
今後、リスクをどう考えるのか。学校関係者や親御さんも不安に思っています。
また、原発の作業にあたっている人たちの健康問題を誰が責任をもってケアするのか。
原発で働いた人の労災認定は、基本的には白血病で、その他の悪性リンパ腫等がみとめてもらえないという事例がありました(申請却下)。その後、厚生労働省の検討会で因果関係が認められるということになり、労災がおりた例がありました。
「1997年9月から2004年1月までの6年4ヵ月間で99.76ミリシーベルトで、1年あたりでは15.8ミリシーベルトも被曝。白血病の労災認定基準は1年あたり5ミリシーベルトですから、その3倍以上」です。
他にも、労災に関する事案があります。
関西電力美浜原発三号機事故の労働災害等に関する質問主意書 平成17年 衆議院 吉井議員による
「原発労働者の被曝」
第106回原子力安全問題ゼミ 2009年3月6日京都大学原子炉実験所
本日4月17日の時点では、東京電力福島第1原子力発電所で復旧作業を担う作業員のうち、累積放射線量が従来基準の100ミリシーベルトを超えた人が28人に上ることが把握されています。
MRICに、現在、作業にあたる人たちの健康問題への対応を問いかける投稿がありました。医療関係者が積極的に声をあげる事案のひとつですね。
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原発周辺で闘う全労働者に、厳重な「産業保健」の適応を!
長尾クリニック(尼崎市) 院長
産業医・労働衛生コンサルタント
長尾和宏
2011年4月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
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多くの作業員が福島原発の処理や原発周囲の作業にあたっておられます。レベル7の中心地での過酷な労働の一部がすでに報道されています。私は彼らの健康管理が心配でなりません。医者の放射線被曝は「フイルムバッチ」という胸に着ける小さな物で測ります。勤務医の時、私はバッチを貰いましたが着けていませんでした。着けるとすぐに許容量をオーバーして仕事が出来なくなるからです。
私は、産業医であり労働衛生コンサルタントでもあります。普段の診療以外にいくつかの企業の「産業保健」業務に携わっています。安全衛生法に定められた方法に従い労働者の健康を守ることが、産業医としての任務です。
産業医の任務は、以下の3つです。(3管理と言います)
1 健康管理(健康診断や事後処置)
2 作業管理(無理な作業をしていないかのチェック)
3 作業環境管理(作業環境が劣悪でないかのチェック)
雇用主は、労働者の健康を守る義務があります。守らないとお役所(労働基準監督所)に罰せられます。どこの企業も、この規則をちゃんと守っています。労働者の健康保護に関しては、法律遵守が義務です。国際的にもそれが定められています。
さて、産業医の立場に立つと現地労働者の3管理ができているかとても心配です。防護服、安全靴、マスクなどの国家規格検定の合格証のある保護具を着用し、放射線被曝をちゃんと防護出来ているのでしょうか?もし防護できていなければ、ちゃんと医療が受けられるのでしょうか?
原発で働いているのは、東電関係の職員だけではありません。駆り出された現地の若者、全国からの応援部隊、様々な企業の関係者も一緒に働いています。彼らは「放射線」という見えない敵と闘いながら難作業を継続しています。
さらに闘っているのは、原発作業員だけではありません。原発周囲では多くの自衛隊、警察、消防などが遺体収容などに従事しておられます。同じ日本人の仲間たちが、いま、危険地帯で闘ってくれているのです。
彼らは、全員、労働者です。労働者には、必ず雇用主がいて、産業医がいます。雇用主の責任で、3管理がちゃんとできているのでしょうか?正確に言うと、産業医配置は従業員50人以上の事業所の義務です。50人以下の事業所は、「地域産保センター」に無料で管理を委託できます。ちなみに私は尼崎市の地域産保センターの仕事にも従事しています。
これから後の放射線障害が心配です。10年、20年経過してから出る病気も危惧されます。野菜や魚の被曝が取り上げられていますが、一番危ないのは作業員のはずです。もし、自分の身内が現地の作業員だったらどうでしょうか?心配で眠れないと思います。日本で最も危険地帯で闘う現地作業員に想いを寄せて、命を守る時です。
産業医は、ちゃんと職場巡視をしているのでしょうか?
過重労働は、本当に無いでしょうか?
作業環境測定士は、ちゃんと環境測定をされているのでしょうか?
メンタルカウンセリングの体制は、あるのでしょうか?
特殊・有害業務に対する特殊検診は、実施されるのでしょうか?
希望すれば、いつでも健康チェックは、受けられるのでしょうか?
希望すれば、「造血幹細胞保存」を受けられるのでしょうか?
そもそも労働者は、それを受ける権利を有するのでしょうか?
その際の費用は、雇用主が負担してくれるのでしょうか?
ちなみに産業医も雇用主に雇われている労働者にすぎません。部外者である労働衛生コンサルタントの活用も一考するべきです。作業環境管理には管理区域というものが定めされていますが、もし「第3管理区分」であれば産業医は直ちに業務改善命令を出さなければなりません。もし産業医が充分に機能しないなら、労働衛生コンサルタントの力を借りる余地もあると愚考します。もし私でよければ現地に入ります。今こそ、「管理された状態」での労働が確保されるべきです。
原発周辺で闘う労働者への、厳重な「産業保健」の適応を強く望みます。労働基準監督署には、厳重な監視をお願いいたします。もし監督署が被災されているなら近隣市町村の監督署に強くお願いいたします。今回のような非常時こそ二重三重に労働者の健康を守るような臨機応変な対応をお願いします。そのための「産業保健」、「産業医学」であると思います。最後に、産業保健の中枢である厚生労働省や産業医科大学の放射線被曝の専門家のご意見もお聞かせ下さるようお願い申し上げます。
以上、産業保健にも身を置く一医師として、緊急提言させて頂きます。
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今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。
MRIC by 医療ガバナンス学会 http://medg.jp
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