Dr. WAKASAGI at HEI-RIVER(閉伊川ワカサギ博士)

森川海をつなぐ学び合いの活動を紹介します

「水産は人の生活上最も大切である」(大隈重信明治30年の演説)

2012-05-23 | 水圏環境教育


震災後1年が経過しました。海洋利用の新しい幕開けなのでしょうか,再生可能エネルギー,メタンハイドレードなど海洋に関する話題がつきません。技術的なこともさることながら,将来にわたるガバナンスは果たして大丈夫なのでしょうか?目先の利益にとらわれることなくしっかりとした政策決定をしなければいけません。

そこで,明治の黎明期を振り返ってみたいと思います。大隈重信などの政治家は,日本の特徴を理解し水産の発展に尽力していたことが伺えます。大日本水産会報第191号から明治30年4月23日大日本水産会大集会演説筆記を紹介します。

 我が国の水産教育が始まったのは明治21年12月。水産教育の黎明のこの時期に,明治29年三陸大津波が襲来し,日本の水産業に大きな衝撃をもたらした。この困難に立ち向かう様に,明治政府は漁業法,遠洋漁業奨励法制定等積極的な水産政策を打ち出されました。水産補修学校が全国各地に創設され,水産教育が盛んになったのも明治29年以降です。以下の文章は大隈重信伯爵明治30年の「水産上の希望」と題する演説です。

「水産上の希望」 大日本水産会名誉会員 伯爵 大隈重信

(中略)この頭から水産と云うものは離れない,何故に離れないかと云うと,物事とは関係しても某事柄が経過してしまうと遂に脳から遠ざかってしまうものでありますが,朝夕膳部にのぞむと魚がある,その魚と云うものは何れも水産と云うもので,その方から結びつけられて食事の度に思い起こすのであるそれ故に始終昨年以来私の頭に水産と云うものは連記して居るのである。しかるに今日地方の有志がもっとも熱心なる諸君の御集りのところに向かって一言述べることは私の名誉と考え且つ私の最も喜ぶところである。全体水産と云うことに就いて昨年一場の意見を私が述べましたから重複するかも知れませぬ。

 まず,此の水産と云うものは人の生活の上に最も大切なる関係を持って居り,それから農業と云うものに関係を持って居る,それから国の経済上から云えば国の富み上に関係を持って居る。と同時に外国貿易と云うものに関係を持って居る,なかなか此の水産の国に及ぼすところの関係は実に大なるものである。先づ日本は古い関係よりして,若しくは宗教の関係よりして肉を食せぬ国である。為に人の生活の上に就いても体力を養う上に就いても最も水産と云うものが此の食用品に大切なる滋養分であったのである。近来段々・・・・・維新以来外交が開け世の進み生活の度の高まるについて肉食も流行いたしますが中々肉と云うものは値が高いものである,鳥獣の肉は中々値が高いのである,且つ此の小さな島の面積について欧米の如く牛であるとか羊であるとか豚であるとか云うものを沢山養って一般の食前に上すと云うことは中々国の現状が許さぬ,又兎に角幼稚にして中々値の高いもので十分に持ちいること出来ぬ。(中略)幸い日本は海国にして四面7千里と云う海岸を持って居り,無数の島嶼で至る所此の水産を持って居る。此の水産は最も人の生活の上に実に必要なものである。
(中略)さらに一層諸君に力を併せて而して此の国に最も有益なる水産業の発達を諸君に御計りいたしたいと考えます。終わりにのぞんで此の水産界の将来の繁栄と将来の成功を希望して一言を述べました(拍手)。