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数学的思考と物理的思考

2017-09-17 08:27:15 | ブログ
 「数学セミナー2017年7月号」(日本評論社)の中で、数学者の時枝正さんの記事を読んでいたら、次の問題が載っていた。

 「題:正3角形の1辺を600度Cに熱し、残り2辺を0度Cに冷やすと、中心は何度Cになるでしょう?」

 この問題は、「群:対称性をみぬき、作用してほぐす」と題する記事の例題として挙げられているので、数学で言う「群」の対称性を利用して問題を解くように努めなさい、というアドバイスのようだ。

 この問題に対する時枝さんの解答は、次のようなものである。

 「解:3枚コピーを用意し、0度,120度,240度ひねってかさねあわせる。できる物体は境界ぐるりを600度Cに熱せられた正3角形、当然中心も600度Cになるが、3枚がさねだったから、1枚分の中心は200度C。」

 この解答を読んだとき、いかにも数学者らしい答だなと思った。物理屋としては、この解答に満足できない。何故なら、この答のどこにも熱の伝導という概念が示唆されていない。従って、温度という概念はその意味を失っているから、何を意図しようとする問題か明らかでない。

 そこで、物理屋ならばどう解答するのか、考えてみた。

 温度がその長さに沿って一様に変わっているような棒状の物体について、棒に垂直な切口(断面積S)を通って流れる熱流を考える。棒の長さを2lとし、高温の端および低温の端の温度をそれぞれt,t’とすれば、面積Sを通って単位時間に流れる熱量Qは次の式で与えられる。
    Q=kS(t-t’)/2l     (1)
ここでkは、物体の熱伝導率である。

 600度Cの1辺をSに対応させれば、正3角形の中心を通って流れる熱量Qは次の式となる。
    Q=kS(600-t)/l    (2)
ここでtは中心の温度である。

 0度Cの2辺を2Sに対応させれば、この2辺を通過して流れる熱量Qは次の式となる。
    Q=2kSt/l         (3)

 流れる熱量が保存されるとすれば、(2),(3)式のQは等しいと置けるから、中心の温度tは200度Cとなる。

 面積Sの代わりに、中心を含む微小面積dsに対応する1辺のdsと2辺の2dsを考えても同じ結果となる。

 この話には、まだ続きがある。

 「数学セミナー2017年9月号」を読んでいたら、作家の円城塔さんが言及する「フラットランド」の話が載っていた。

 「フラットランド」とは、二次元平面の中に住む生き物たちの暮らしを描くお話のようだ。

 この話を聞いたある人は、「二次元世界の中の生き物に色がついているというのが許容できない」と評したそうだ。その理由は、「色というのは物理的なもので、抽象的な二次元の世界に持ち込むのは不適当である」ということらしい。

 なるほど。色というものは、原子や分子で構成される物理的な層があって初めて実現できるものであって、二次元の世界では無理ということになる。

 同様に、時枝さんの問題も「フラットランド」の話であるから、熱伝導を生じさせる原子や分子の層がなければ実現できず、仮に三角形の辺を熱したり冷やしたりすることが可能であるとしても、三角形の内部に熱の伝導が生じることはない。