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日本文学100年の名作第10巻 2004-2013 バタフライ和文タイプ事務所 (新潮文庫) |
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新潮社 |
本の表題は大切である。もしこの本の題に「和文タイプ」という言葉が入っていなかったら,手にすることはなかったと思う。
私が昭和54年に,大学卒業と同時に入った司法書士事務所ではまだタイプライターが使われていた。いわゆる和文タイプではなく,登記専用 のタイプライターであった。
登記の申請書や会社の議事録を作るときにこれを使うのだが2,3枚重ねて打つと,数字の「0」のときは,申請書を打ち抜いてしまうことが度々あった。0は鋭利な刃物のようであった。和文タイプという言葉は,このような,30年以上前のことを思い出させてくれた。
短編集であり,執筆者は,小川洋子,桐野夏生,吉田修一,伊集院静,三浦しおん,角田光代,道尾秀介,桜木紫乃等々今の時代を代表する作家の方々である。
伊集院静氏の『朝顔』は,平凡な老人の思い出話かと思いきや,どうしてここまで複雑な家庭環境を設定することができるか,と思わせる物語である。桐野夏生の『アンボス・ムンドス』は,「女の子は恐い」,と言わせる物語である。
現代の日本を代表する作家が執筆しているので,大変面白い作品が多数掲載されている文庫本である。こんな本が,居酒屋の「生ビール」2杯分より安価格で買えるというのはありがたい。
男と女どちらが好きかと問われると,迷うことなく「女性!」と答えるのであるが,小説に限っていえば,女性作家の物語より,男性作家の物語の方が好きである。