教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

犬山の教育の重要施策2006

2007年02月24日 | 教育資料
犬山の教育の重要施策2006
学びの学校づくり
○ 犬山の教育は、人格の完成を目指し、自ら学ぶ力を人格形成の重要な要素と位置づける。
○ 犬山の学校づくりは、子どもが学ぶ喜びを実感し、教師が教える喜びを感じ取り、親の願いや地域の期待に応えようとするものである。
○ 犬山の教育改革は、目の前の子どもを見つめ、教師の地道な教育実践の積み重ねによる、手づくりの学校づくりである。
犬山市小中学校長会
犬山市教育委員会
犬山市

Ⅰ 犬山の学びの学校づくりの基本的な考え方
1 自ら学ぶ力を育む授業づくりと学級づくり
○ 犬山の教育は、人格の完成を目指し、子どもに「自ら学ぶ力」を獲得させることを目標とする。自ら学ぶ力とは、「基礎的な学力を身につけ、家族や友達を大事にし、地域を支え、自分の人生を大切にするとともに、生涯にわたって自ら学び続けようとする資質や能力」である。自ら学ぶ力は、単なる正答率を競う学力ではなく、人格形成の重要な要素として位置づけられなくてはならない。犬山では、このような考え方に基づいて、市内全小中学校で学びの学校づくりを推進している。
○ 自ら学ぶ力を育むには、教え込む授業ではなく、子ども主体の授業でなくてはならない。犬山では、子ども主体のきめ細かな授業を実現するために、市費で非常勤講師を採用し、少人数による指導を積極的に進めてきた。犬山の教育は徹底的に現場主義である。教育実践の中で、学習と生活を一体とする少人数学級は、子ども同士、教師と子どもの人間関係を築きやすく、個に応じた指導を容易にすることなどから、人格形成と学力保障に最も有効な教育環境であることを確信した。教育改革は、まず少人数学級など教育への思い切った国家投資から始めなければならない。
○ 犬山市は、独自の財政支出により、少人数学級や副教本の作成を中心とした様々な教育環境を整備してきた。さらに、教師の内発的な動機づけにより、やる気と責任感を育て、日々の授業実践を積み重ねてきた。全国一律に学力調査を実施して子どもの学力向上を図ろうとする文科省の施策は、これまで積み重ねてきた犬山の教育と大きく異なり、実施にあたって慎重な対応が求められる。犬山の教育改革は、国主導の教育文化に対して、地方の価値観に基づく教育文化を提示するものである。
① ゆとり教育はどこに問題があったのか、教育現場で実際にどんなことが起きているのか検証することなく事が進められ、学力低下問題を引き起こした。そして、今度はその対応策として、全国的な学力調査を実施しようとしている。安易な対応策と言わざるを得ない。さらに、この学力調査は、テストでの得点力ではあっても、将来を切り拓く自ら学ぶ力にはほど遠い。この学力調査では、自ら学ぶ力を測る手だての具体化は極めて困難である。点数化による調査や集計は避けられないと思われ、教育現場では、ゆとり教育に逆行するような弊害が心配される。犬山の教育にとって、学力調査から得られる効果よりも、危惧される弊害の方が大きいと考えられる。
② ゆとり教育の核心にある学力は、「自ら学ぶ力」である。学力をめぐる議論で、テストの正答率は議論の対象になるが、この学力が俎上に上がることはない。自ら学ぶ力を抜きに学力議論は本来成立しないはずである。授業で自ら学ぶ力を育むには、子どもが授業に主体的に取り組む経験が欠かせない。それを可能にする教育条件が少人数学級である。このことは、少人数学級のもとで豊かな人間関係と豊かな社会を形成し、自ら学ぶ力を育み、人格の形成を図ってきた犬山の教育実践から明白である。
③ 犬山では、全国的な学力調査の実施については、さらに次の点から十分な議論が必要だと考えている。
第1に、犬山で子どもに身につけさせたい基礎的な学力は、決して教え込まれるものではなく、自ら獲得するものと考える。教え込まれた知識は単なる知識でしかなく、自ら獲得した知識は、知恵となり、生きる力を育む。犬山の教師は、少人数での授業づくりが基礎的な学力を育み、学び合いを通して授業が分かるようになったことに自信と誇りをもっている。こうした自信と誇りに裏づけられた教育実践を通して、基礎的な学力は、子ども自らが獲得していくものであることを実証してきた。
第2に、犬山では、学習指導要領が最低基準であるという国の規制緩和を主体的に受け止め、教師の手づくりによる副教本の作成・活用を図ってきた。そこでは、犬山の歴史、文化、自然などを対象に教材づくりを行い、教育課程を編成し授業実践を積み重ねてきた。この犬山の教育は、犬山の教育目標に即して総合的に評価すべきであり、全国一斉の学力調査によって評価すべきではない。
第3に、犬山は評価を軽視しているわけではなく、教育活動の中に重要なものとして位置づけている。評価は子どもの成長や教師の指導方法の工夫・改善のため、日々の授業実践を通して行われるべきものである。犬山では、日々の授業の中で確認テストや観察などによる継続的な評価を積み重ね、子どもの自己評価や相互評価をもとに指導方法を見直し、基礎的な学力の定着を図っている。学力調査は、本来子どもの学びや教師の指導方法の工夫改善に役立つものでなければならない。
2 教師の自己改革による主体的な授業改善と学校の自立
○ 学校の最も重要な役割は、子どもに「学び」を保障することであり、教師の役割は、子どもに質の高い授業を提供することである。そのために、犬山では、教師自らが日常の授業を振り返り、継続的に授業改善の積み重ねを図る「自己改革」によって教師としての資質・能力の向上を図ってきた。
○ 教師の自己改革を促すために最も重要なことは、できるだけ教育現場に近いところに裁量を委ね、教育現場に当事者意識をもたせ、活力と責任感を育てることである。これが「学校の自立」である。学校の自立は、教師の自己改革を制度的に支える。また、教師の自己改革は、学校を内側から変える原動力となり学校の自立が進む。こうして、教師の自己改革と学校の自立の相互作用が学校に学びの文化を根づかせる。
○ 文部科学省は「、教員の評価に関する調査研究」を各県へ委嘱し、それを受けて県教委は「教職員評価制度」を導入しようとしている。評価にあたっては、「だれが、何を、何のために」評価するのか、まずその仕組みと条件が整備されていなくてはならない。教員評価は、教師自身が子どもの姿を通して指導の結果を振り返り、授業づくりに生かすために行われるものであり、学校の裁量と教師の裁量が仕組みとして整えられていることが大前提である。
○ 犬山では、学校の裁量により、学級編制を実施するとともに、副教本づくりや自主教材づくりを中心とする学校独自の教育課程づくりを積極的に進めてきた。そして、教師の資質・能力の向上を目指し、教師自身の自己評価や「同僚性」に基づく相互評価などにより、日々の授業改善の積み重ねを図ってきた。この犬山の取り組みが、教師の指導力向上に最も有効な手法である。犬山の哲学と覚悟は明快で、市町村教育委員会の学校管理権を適切に行使することで、学校経営を全面的に支援し、子どもの学びを保障する責任を全うしている。
① 自ら学ぶ子どもを育むには、自ら学ぶ教師でなければならない。時代の趨勢といえ競争と評価で教育を活性化できるか、その妥当性の根拠は全くない。高邁な改革議論も教師の実践を通してしか実現しない。教師の実践が成果を上げるには、「私が教師であったとして通いたい学校」づくりを追い求めることで、自己改革を可能とする教育環境の整備が重要となる。教師は、もともと授業に工夫を凝らし、手応えを感じながら教育課程の充実を図ろうとする意欲と情熱を秘めている。ここにどう火をつけるか、その決め手となるのが学校の自立である。
② 学校の自立は、学校の裁量を拡大し、学校現場に活力と責任感を育てることにより可能となる。学校の自立は教師の自己改革を促し、授業づくりや自己研修などを通して教師相互が刺激し合い、質の高い授業を創造しようとする意識を高める。教職員評価制度の実施にあたっては、まず学級編制と教育課程づくりについて学校に裁量を与え学校の自立を図ることが重要となる。
3 学びの環境づくり
○ 学びの学校建築構想には重要な3つの視点がある。1つめは、学びの学校づくりの視点である。子どもの学びの意欲を引き出す豊穣な教育環境を構築することである。2つめは、生活空間の視点である。学校の授業は全時間の6割で、残り4割は授業以外の時間である。食事やくつろぎ、仲間とのコミュニケーションなど子どもから見た居場所にふさわしい豊かな空間の確保が重要となる。3つめは、地域社会からの視点である。学校は地域コミュニティの中心であり、生涯学習の拠点でもある。地域の活動の拠点にふさわしい学校施設でなければならない。
○ 犬山では、学びに視点を置いた学びの環境づくりを進めるにあたり、学校現場と市教委に学識経験者や建築専門家を加えた「学びの学校建築検討委員会」を組織し、検討を重ねてきた。
① 学びの学校建築構想の基本は、木造・平屋である。木造校舎は、木のもつ感触および利便性が優れている。平屋の校舎は、災害時の倒壊の危険性が少なく、子どもの避難も容易で、バリアフリーの実現にも適している。また、木造・平屋は、犬山市の街並み・まちづくりとも整合性がある。
校舎内は、学年を1つのユニットとし、2つの普通教室に1つのサブ教室を備え、学年エリアの中心に交流スペースを設ける。この交流スペース内に学年職員室を設置する。
② 羽黒小学校の改築を視野に入れ、城東小学校と犬山西小学校の増築工事を積極的に推進する。
4 地域コミュニティに支えられた学びの学校づくり
○ 学びの学校づくりには地域コミュニティの支えが必要であり、地域は学校を単位としたコミュニティを基本とするべきである。犬山では、学校、家庭、地域が一体となって「犬山の子は犬山で育てる」という共通認識をもち、地域の声に応える開かれた学校づくりを進めてきた。
○ 学校に課せられた最大の地域貢献は、子どもの「学び」を保障するとともに、将来のまちづくりに貢献できる人材の育成を図ることである。一方、地域づくりを進めるにあたっては、学校をまちづくりの拠点に位置づけた地域のコミュニティ活動が展開されることになる。
○ 犬山市では「全市博物館構想」を策定するとともに「自治基本条例」の制定に取りかかり、小学校区を単位とする地域コミュニティによるまちづくりを積極的に進めようとしている。地域が学校を育て、学校が地域づくりに貢献する学びの学校づくりを積極的に進めていきたい。
① 犬山の学校は、地域の教育力の発掘を進め、学校の教育活動の中で積極的に活用を図ってきた。このことは、地域の教育力を高め、まちづくりにも貢献しようとする取り組みでもある。生涯学習の観点からも、学校と家庭・地域社会が一体となって「子ども大学」を開催し、学校教育では学習できないような体験活動を通して、子どもたちが満足感や成就感を味わいながら知識や技能を習得することを目指してきた。
犬山市では「全市博物館構想」を策定し、まちづくりに貢献できる人材の育成を図っている。地域の教育力を活用し、郷土の歴史、文化、伝統について学ぶとともに、地域の課題を見つけることによって郷土愛を育むことが、地域づくりやまちづくりの大きな力となるからである。
② 現在、犬山市では「自治基本条例」の制定を進め、小学校区を単位とする地域コミュニティによるまちづくりに取りかかっている。地域コミュニティによるまちづくりは学区制が基本であり、多様な機能を備えた地域コミュニティの活動の拠点として学校を位置づけ、様々な施設・設備の充実を図っていく必要がある。
5 地方分権時代における市町村教育委員会の役割
○ 公立小中学校の運営は、教育の地方自治と学校の自立を基本としなければならない。市町村教育委員会が学校管理権を有するのは、第1に市町村を単位とする教育の地方自治を確保するためであり、第2に学校の自立を制度的に支えるためである。したがって、教育委員会と学校は相携えて地域の教育をつくり出す関係にある。
○ 学校と教師が負っている子どもの成長発達を保障する責任は、教育委員会の適切な支援のもとでよりよく達成されるものである。
○ 教育の地方分権が推進される今日にあっては、市町村教育委員会の役割と責任はこれまで以上に大きくなっている。犬山の教育改革は、教育委員会と学校のあるべき関係を探求しつつ、国や県の役割を明確化するとともに今後の義務教育の在り方を示し、教育の地方自治と学校の自立を真に実現しようとするものである。
① 昨年10月に出された中教審の答申では、教育の地方分権の名のもとに「学校の裁量」がこれまで以上に強調されている。しかし、学校の裁量は強調されるものの、そこには教育委員会の支援が必要なことが見落とされがちである。地方分権時代における教育行政の原点は、学校の自立を支援するという市町村教育委員会の役割の自覚である。
② 犬山では、学校裁量による授業づくりと学級づくりを中心に学びの学校づくりを積極的に進めてきた。市教育委員会は、学習環境の整備を中心にさまざまな支援を継続的に行っている。
Ⅱ 学びの学校づくりの具体策
1 学校裁量による学級編制
(1) 少人数学級の実現
学校裁量により少人数学級を実現する。
(2) 少人数授業・TT
個に応じたきめ細かな授業を実現するために、市費非常勤講師を配置し、少人数授業・TTを実施する。
2 学校裁量による教育課程づくり
(1) 教師による主体的な教材づくり
① 教材開発
地域素材の教材化をはじめ、子どもの興味・関心に基づいた教材開発を積極的に進める。
② 副教本づくり
国語・算数・理科の副教本作成作業を通して、教材分析力や単元構想力を高めるとともに、積極的な活用を図る。
(2) 総合的な学習の積極的な推進
教科の学習で培った自ら学ぶ力と教師の指導力を生かし、総合的な学習を積極的に推進し、充実を図る。
(3) 評価を生かした授業づくり
① 2学期制の実施
子どもの成長を、前期・後期という長いスパンでとらえ、評価を指導に生かす。
② 通知表の作成
子どもの学習状況を的確にとらえ、子どもにも保護者にも分かりやすい評価の方法を工夫する。
③ 振り返りカードの活用
単元・題材ごとに振り返りカードを作成して活用を図り、自己評価や相互評価をその後の学習に生かす工夫をする。
3 学び合いを中心とした指導方法の工夫・改善
(1) 少人数学級と少人数授業の組み合わせ
子ども主体の授業を可能とするために、少人数学級に少人数授業を組み合わせる。
(2) 評価計画の作成
教科の指導目標を明確にするとともに評価規準を定め、評価計画を作
成し指導に生かす。
(3) 学習集団の編成
少人数学級をさらに小集団に分け、教え合ったり意見を交換し合ったり
できる学習形態を工夫する。
(4) 学び合いの授業
指導方法の工夫・改善を図り、学び合いを中心とする子ども主体のきめ細かな授業により、自ら学ぶ力を育む。
4 学びの学校を支える体制づくり
(1) 学校運営機構の見直し
教師が授業改善に専念できるよう、学校運営機構の見直しを図り、校務分掌の簡素化、効率化を図る。
(2) 授業改善犬山プランの策定
「授業改善犬山プラン」を策定し、学校裁量による少人数学級を実現する。
(3) 市費常勤講師の活用
少人数学級にともなう学級増への対応として、市費常勤講師を採用し学級担任として配置する。
(4) 学校経営支援者等の活用
教務主任や校務主任が担任となる学校については、学校裁量により学校経営支援者や学級対応非常勤講師を配置する。
5 教師の自己改革と学校の学びの文化
(1) 教師の自己改革を図る
教師自身の自己評価や相互評価などにより、認め合い、高め合う学びの文化を学校に根づかせる。
(2) 同僚性を高める校内現職教育
① 授業の公開
学校が授業を公開し合い、授業研究により質の高い授業を目指す。
② 学校訪問
学校訪問を日常の授業実践として位置づけ、学校の現職教育計画にしたがって実施する。
③ 要請訪問
学校の希望により要請訪問を実施し、客員指導主幹を中心に市教育委員会が積極的に支援する。
(3) 交流による研修
① 犬山授業改善交流会
校内研修の成果を持ち寄り、指導力の向上を目指して広域での研修の機会とする。
② シンポジウム教育のまち
学校・家庭・地域が一体となり「学びのまちづくり」を目指す。
③ 授業研究会
市教委が中心となって有志を募り、授業研究を深め、指導方法の工夫改善を図る。
6 学びに視点を置いた学校建築の推進
地域コミュニティの核となる「学びの学校づくり」を目指した羽黒小学校の改築に向け、具体的な設計プランの作成を進める。また、城東小学校と犬山西小学校において、普通教室にサブ教室を備えた教室の新増築工事に取りかかる。
7 生涯を学びとして
(1) 地域の教育力を生かす
「全市博物館構想」・「自治基本条例」の趣旨に則り、地域ボランティアの積極的な活用を図る。
(2) 地域が子どもを育む
① 子ども大学
地域の教育力を生かし、学校では学習できない体験活動を通して満足感を味わいながら知識や技能の活用を図る。
② 地域に支えられた学校づくり
子どもたちが安心して安全な生活が送れるよう、防犯などの面から地域が学校を支え、学校は地域の発展に寄与できる関係づくりに努める。
(3) 部活動の支援
中学校部活動に部活動指導員を配置し、積極的に支援する。

「学びの学校づくり」の理解を深めるために
1 各学校は、「学びの学校づくり」を学校経営の基本に置き、具体的な方策を定め、学びの学校づくりを推進する。
2 犬山の教育の重要施策について、シンポジウム
「教育のまち」をはじめさまざまな場をとらえ、市内教職員はもちろん保護者や地域住民の理解を深める。
3 市内教職員に対しては、授業公開や授業改善交流会等のあらゆる研修の場をとらえて研修を深める。
お問い合わせ先犬山市教育委員会
所在地:愛知県犬山市大字犬山字東古券322-1
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