EUは、日本から見て遠くにある地域ですが、EUに所属する国々の小さな対立や、宗教がらみの大きな対立をみていると、私たち日本人にも何かを考えさせます。
加盟各国の財政問題・EU離脱問題、そして域内の各国対立、また押し寄せる難民問題にテロ対策が加わりました。
ドイツで難民への反発強まる 政府、制度の見直しへ
ドイツでは、2015年の大みそかに難民保護の申請者を含む男らが女性を次々に襲う事件を起こしたことで、難民への反発が強まっていて、政府は、制度の見直しに踏み切った。
ドイツのケルンで大みそか、およそ1,000人の男らが女性に暴行を加えるなどする事件が発生し、特定された容疑者32人のうち、22人が難民申請者だった。
ドイツ国民の難民に対する感情は悪化していて、ケルンでは9日、2,000人規模の難民反対デモの一部が暴徒化した。:フジテレビ系(FNN)2016年1月10日
ドイツでもIS関連の事件があり、アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・トルコなどの国々がテロ被害を受けたことになります。
- もちろん日本にも病巣(びょうそう)はあって、20年ほど前の地下鉄サリン事件〔1995年03月20日〕が衝撃的でした。今でも後遺症に悩んでいる人がいて、痛ましいとしか言えません。ほんの一部かも知れませんが、宗教に対する疑惑は残っています。この事件をイスラム過激派によるテロと一緒にするわけにはいきませんが、何が共通点なのかと、今、考えさせます。皆様は、ともに宗教がらみですが、地下鉄サリン事件とイスラム過激派によるテロ事件について、どう思われますか。
- 単独の犯行でも、悲惨には違いがありませんが、やや小規模なのが特長です。しかし複数の人たちが「宗教」集団として犯行におよぶと、更に大規模な事件になります。
- いつものことで、宗教そのものに責任はないとも言えるのですが、宗教が個人のレベルを超えて国家運営に関与するのはやり過ぎ、だと私は考えています。
- 日本でも宗教政党が連立政権にからんでいたり、戦前はいざ知らず戦後は単なる1宗教法人にすぎないところへ行政が関与するかと思えば、アメリカでも大統領宣誓式でキリスト教の聖書に宣誓する人もいて、どこに宗教の自由があるのか、と疑問を感じてしまいます。
ドイツの話に戻りますが
1年前にみられたドイツの積極的な「人道的な難民受け入れ」は一体どこへ行ってしまったのか、と思うほどです。
- あまりにも難民が多すぎた
- テロリストがその難民に紛れこんで入国した
などと言い分はあるでしょうが、それにしても、難民受け入れから難民排除への、なんとまた素早い変身で、一挙に「人道的」から「非人道的」な国家になってしまいました。いったいどこにその問題点があったのでしょうか。
私は
「ドイツ人がナチスやイスラム教徒の犠牲になっている」という認識に問題がないか、と考えています。何の疑問もなくキリスト教を「一番正しい宗教」と思っていて自分たちが犠牲者である、とするところに、近年みられる諸対立の原点があるのではないか、という気がするのです。
受けたテロの
悲惨さを流し続けて「自分たちはテロに屈しない」と抵抗するのは、当面の姿勢として理解できますが、「自分に正義がある」と考える信者同士の醜い争いである、ともとらえることができます。
つまり「テロに屈しない」とはするものの、本音では「異教徒に屈しない」のではないか、ということです。自分の宗教の優位性を強調するだけでは、状況を改善することはできないでしょう。
1400年も続けてきたイスラム教、2000年も続けてきたキリスト教を、廃止するのはつらいことでしょうが、互いに歩み寄ってその宗教色を薄めるかこの宗教を全廃することでしか、キリスト教とイスラム教の対立解消はなさそうです。
有罪判決後、速やかに追放=難民申請者に厳しい姿勢―メルケル独首相
【マインツ(ドイツ)AFP=時事】ドイツのメルケル首相は9日、訪問先の西部マインツで、有罪判決を受けた難民申請者を速やかに国外追放できるよう現行制度を厳格化する改革に意欲を示した。
西部ケルンで大みそかに発生した女性襲撃事件で容疑者に難民申請者が含まれ、厳罰化を求める声の高まりを受けたもので、首相は「現行法で十分でないなら法改正が必要だ」と述べた。
首相は記者会見し、法を犯した難民申請者について「執行猶予付きか実刑かにかかわらず、ドイツに居住する権利を失うことになる」と述べた。・・・・
現行制度では、3年以上の実刑判決を受け、かつ出身国で命が危険にさらされない場合、国外追放となる。今後、連立政権内での協議が必要だが、連立を組む中道左派、社会民主党(SPD)内には改正反対の議員もいる。:時事通信 2016年1月9日
どうなるか分らない段階ですが、ドイツ国内でもテロが起こり、ドイツ国民の側に「難民に対する不安感や抗議運動」があるため、これを解消しようとする法改正を試みているようです。これは頂点に立つ指導者がかってに思いつきで判断を下す国〔法治主義ではなくて人治主義〕よりはすぐれている、とは思うのですが・・・・。
ただし、犯罪に手を染めた難民申請者が裁判で有罪になれば、執行猶予のありなしに関係なく、出身国で命の危険があるなしに関係なく、強制送還できるよう法改正したい、となると、一定の理解はできるものの、いささか引っかかるところがないともいえません。
というのは、シリアを見ていると、よく分りますが、ある組織(アサド政権やそれを支援するロシア)からみると「犯罪者」であっても、別の組織(アメリカ有志連合)からみると「正当な人間」だからです。
逆に、アメリカ有志連合連合からみた「犯罪者」は、アサド政権側から見ると「正当な人間」なのです。
これはどちらかだけの報道に洗脳されている人には、理解できないことでしょうか。
この法改正は、ドイツ一国だけではなく、EU加盟国全体に広がる恐れがあり、そうなるとヨーロッパと中東という全面的な対立へと発展してしまいそうです。
こうなると、ヨーロッパ全体がシリアのような内戦状態になってしまいます。
ヨーロッパが「テロに屈した」のではなく「何かを理解した」となれば、難問山積ですが、解決へと向かうはずです。ただしその場合、双方が宗教色を薄めることが前提ですが。
私のこのような穏健な表明に対してでさえ、嫌悪感を持つ人がいるかも知れませんが、対立を解消するためなら、言うべき事をいわねばならない、そういった心境です。
刺された女性候補が当選、独ケルン市長選
【AFP=時事】ドイツ西部ケルン(Cologne)の市長選は18日、投開票が行われ、選挙運動中に男に襲われ首を刺された難民受け入れ支持派の政治家、ヘンリエッテ・レーカー(Henriette Reker)氏(58)が当選を果たした。投票日の前日に起きた襲撃事件は、同国に衝撃を与えていた。
事件で重傷を負った同氏は搬送先の病院で治療を受けており、容体は快方に向かっている。最終開票結果によると、レーカー氏は52.6%の票を獲得し、同市初の女性市長となった。
アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相の与党、キリスト教民主同盟(CDU)と密接な関係を持っていたものの、無所属で立候補していたレーカー氏は、同国で記録的な数の難民流入に対し高まる反感によって被害を受けた最も高名な人物となった。
襲撃事件以前は全国レベルの知名度がほぼ皆無だったレーカー氏は、98万人が住むドイツ第4の都市で同国では少数派のイスラム教徒も多数が暮らすケルン市の難民関連業務責任者を5年間にわたり務めていた。
ケルン警察によると、現場で逮捕された襲撃犯は44歳の無職の男で、「人種差別的で政治的」な動機からレーカー氏を襲ったとされる。【翻訳編集】: AFPBB=時事 2015年10月19日
自分と
ことなる意見をもつ人だから殺害してもかまわない、というのは負の連鎖を招くだけで、危険すぎて決して許してはいけない、と思います。
- 難民を毛嫌いしてきた凶悪なドイツ人が「難民を擁護してきた市長候補者」を殺害しようとしたのも
- 「難民を擁護してきた市長候補者」が、犯人に対する反発と同情から選挙で市長に選出されたのも
ドイツの現状なのです。
このような例から見られるように、ドイツなどのキリスト教国では、きわめて少数ながら、強烈に人種差別をする集団があることを、見逃してはいけません。
穏やかな表現でしかありませんが、私は
- イスラム過激派や人種差別主義者の暴力に反対
- これらの人たちを教育によって減らすのに賛成(つまり暴力を暴力で押さえつけるのには反対)
これは長く暴力を暴力で弾圧してきた中国共産党に対する私の姿勢と同じでした。
まさかドイツが中国のようになるとは思いませんが、どちらにも過激な人たちがいますから、油断してはいけません。
難民のせい? ドイツの集団性的暴行が大波紋
ドイツ西部ケルンでニューイヤーズ・イブ(大晦日の夜)に、100人以上の女性が性的暴行や窃盗の被害にあった事件が大きな波紋を広げています。多くの女性が20~30人の男に囲まれ、突き回されたり、胸や股間をまさぐられたりしました。・・・・
これまで121件の被害届が出され、その4分の3は性的暴行でした。現場には数千人の男が集まっており、16人の容疑者が特定されましたが、誰1人として逮捕されていません。被害者や警察官の証言では「アラブか北アフリカ出身の男性で年齢は10代後半から30代に見えた」「英語でもドイツ語でもない言葉を話していた」そうです。・・・・
ドイツの首相メルケルは大晦日に「大量の難民流入と社会統合が引き起こす問題に正しく対処すれば、必ず明日へのチャンスになります。我々は試練の時を生きています。ドイツはそれに対応できる強い国です」と改めて難民を受け入れる覚悟を示しました。
しかし、事件について一転、厳しい姿勢を見せざるを得ませんでした。
「大晦日の夜に起きたことを許容することはできません。これはドイツが絶対に受け入れることができない嫌悪感を引き起こす犯罪です。我々は、国外追放に関して必要なことをすでに行っているのか否かを何度も何度も繰り返し検証しなければなりません。我々の法秩序に従う準備のない人たちにシグナルを送る必要があります」〔2016年1月8日 木村正人〕
こういう事件によって
怒っているドイツ人がいることを容易に想像できるのですが、国内の強烈な人種差別主義者を放置したまま、安易にイスラム難民を受け入れようとした国の方針に問題はなかったのか、と思うのです。
これは自分を犠牲者だとしかみていなかったことに起因しています。
人には
つねに「自分は加害者でもあり、犠牲者でもある」、という認識が、必要なのです。
ドイツ人には、ナチスの被害者であったという一面と、ヒトラーを民主的手法で作りあげたという加害者の一面とがある、と言えます。〔Wikipedia〕
案の定
首相のメルケルに対して、大きな不満が見られます。
- メルケルの方針に問題があったため、夜、女性が歩けなくなった、というのです。
- 難民受け入れは被害者の一面をあらわし、受け入れた難民を攻撃するのが加害者の一面でしょう。
- こういう事件がきっかけとなって、ドイツもEU離脱をすべきだと唱える組織がさかんに声をあらげています。
ドイツにとって
現存する「人種差別主義者を含む強烈な右翼」と闘うために、EUでの活動が欠かせないのでしょうが、EUで中心的な役割りを果たそうとすると、このような移民問題が発生し、EU離脱論へと発展します。
もう何回も繰り返していますが、
ヨーロッパ人たちが、潜在意識としてもっている「キリスト教絶対主義」に気付かないまま、安易にイスラム教徒を難民として受け入れて下層の職業に追いやり、結果的にこれらの人たちを差別し不満をもたせたのが、深刻なテロを繰り返し招いた原因ではないか
と思われます。
こういう自宗教絶対主義が、宗教対立を生んでいるのでしょう。これはキリスト教徒にもイスラム教徒にも言えることです。
私は宗教を、特にここでは
キリスト教やイスラム教を否定しているのではありません。
個人の心のよすがとして、宗教は充分な役割をはたしてきたことを否定するものではありません。
ただ、そこに、行き過ぎがなかったか、と問うています。