安倍官房長官の陰謀 5月27日

官房長官の私的諮問機関である「社会保障の在り方に関する懇談会」が、最終報告書をまとめた。2025年度の社会保障費総額を143兆円と予測し、潜在的国民負担率は5割を超えると見通しを示している。しかも、社会保障給付が国民所得の伸び率を大きく上回るため、現実には必要な給付額を下回る支給しかできなくなると推定している。報告書は、歳出・歳入一体改革の中で消費税を財源の一つととらえ、将来の消費税率アップを視野には入れているが、しかし、基礎年金の財源に消費税をあてる考えには、「年金制度は社会保険方式が基本である」として譲らず、あくまでも否定的だ。

今回の報告書は、少子化対策のために特に女性の働き方を見直し、女性の就労環境の改善を強調する安倍氏の本心が、実は、社会保障の負担の担い手を増やすためであったのだということを示唆するものだ。年金制度の一元化には踏み込まず、パート労働者を年金制度に組み込むことで、本音では社会保険料の納付者の絶対数の引き上げを狙う安倍氏の魂胆は、国民を欺き、国民に決して利益をもたらさない間違った改革路線だ。このやり口は、年金不正免除の社会保険庁よりも悪質だ。

年金引当金の財源確保については、社会保険料を納める人々、即ち分母の数を大きくすることを考えるよりも、まず真っ先に着手すべきは、社会保険庁の解体だ。腐敗の温床である社会保険庁の運営と事業のためだけに、年間2兆円もの保険料がドブに捨てられている。年金事務は、社会保険庁ではなく、地域の郵便局で十分に担えるものだ。年金保険料をムダ遣いしないためにも、一刻も早く社会保険庁を解体しなければならないのだ。

医療費抑制については、一定額以下を保険の対象としない「免責制度」の導入や、診療報酬の定額払い制への転換を懇談会は提案しているが、医療費の抑制のために最も重要なことは、国が国民に対して、健康を維持し病気にならない生活習慣を明確に示していくことだ。特に、メタボリックシンドロームの多くは、明らかに不摂生な生活習慣が要因となっている。医療機関にとっては、患者が量産されることはありがたいかもしれないが、健康で文化的な生活を維持するためにも、国は責任を持って、病気にならない生活習慣と正しい食育を、国民の前に示さなければならないのだ。有益性が疑問視される一部の検査項目のように、医療機関が患者を作り出すねじれた構造に、メスを入れることが必要なのだ。

介護保険制度についても、報告書にあるような財政基盤の安定化が、抜本的な改革につながるものではない。介護サービス事業者に利益を誘導するようなケアプランは、断固はじき出さなければならない。高齢者が、出来る限り自立した生活を長く維持できるよう、リタイヤ後の高齢者にも一定の社会的役割を分担してもらえるような、元気を維持するための質の高い生き甲斐を提供していくことが、国に課せられた重要な使命だ。

特に、介護保険制度では、制度を自由に操る「ミスター介護保険」と呼ばれる高級官僚と、介護ビジネス業界とのズブズブの癒着関係が、制度の進歩発展の大きな足かせとなっている。予防介護に筋トレを導入したことで、筋トレマシーン業者やスポーツクラブに莫大な利益とビジネスチャンスをもたらしたが、一方で、高齢者の日常生活に、「筋トレ」がどれほど役立っているのかは甚だ疑問だ。業界に利益を提供するためのケアプランにならないように、ケアマネジャーの公正・中立な立場の確保、即ちケアマネジャーの独立が、何よりも必要なのだ。

この懇談会の最大の問題点は、利用者の立場に立つことのできる医療関係者や介護関係者がメンバーに入っていないことだ。「国民から、いかに社会保険料を搾り取るか」という観点の議論では、持続可能な発展的提案など出て来るはずがない。240万人とも言われる団塊の世代の基礎年金引当金や、子育てに対する十分な対価を提供するためには、公共事業の削減等財政支出を徹底的に切り詰めた上で、迷わず、消費税を「基礎年金・高齢者医療・介護費用」に当てる以外に、方法はないのだ。

安倍氏は、総裁選立候補にあたって、小泉総理の靖国参拝への非難から逃れるために、主要政治課題であるサミット終了直後に、官房長官を辞任する可能性がある。国民を騙すような政策を提言する上に、政策よりも政局にプライオリティを置く人物に、国家の舵取りを任せるわけにはいかないのだ。国民にとって利益をもたらす総理なら大歓迎だが、むしろ日本を世界から孤立させかねないアメポチ・小泉踏襲路線の安倍氏を、ポスト小泉に選ぶわけには断じていかないのだと、私は強く主張したい。
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