若年性認知症とヤコブ病 5月11日

認知症といえば、物忘れや徘徊・暴力など高齢者特有の脳神経疾患を思いがちだが、近年、若くして同様の症状があらわれる「若年性認知症」の患者が増加し、ひとつの社会問題になってきている。18歳から64歳までに発症した認知症の総称を「若年性認知症」と呼び、高齢者の場合と同様、アルツハイマー・脳血管障害・頭部外傷など、その原因は様々だ。推計では、10万人当たり40人程度の発症率であるとされ、全国に数万人レベルで存在するとみられている。

65歳以上の高齢者の痴呆も急激に増加し、2000年には高齢者の7%が認知症であり、2010年には高齢者の8%・2030年には9%が認知症を発症すると厚労省は予測している。不十分とはいえ、介護保険制度が適用される65歳以上の場合はまだ救いの手はあるが、「老化が原因である」と診断されない場合の「若年性認知症」をかかえる家族の暮らしは、物心ともに壮絶を極める。

日本でも「アリセプト」という名のアルツハイマー治療薬が保険適用されているが、その効果は限定的で、病気そものもを治すものではなく、患者に漫然と投与し続けることには、疑問が残る。きっかけがはっきりしている脳卒中や外傷を除き、問題は、認知症の発症メカニズムの解明が、遅々として進まないことにある。

欧米でも、認知症患者は近年急増し、患者と家族に対する支援体制が強化されているところだが、興味深いのは、米国では、急増する認知症は、アルツハイマーではなく、実は、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などのプリオン病ではないかと疑われている点だ。プリオン病は、脳に異常なタンパク(プリオン)が蓄積し、脳神経細胞の機能を阻害し、異常行動や歩行障害・痴呆などが特徴的な症状で、痙攣発作を繰り返し、次第に自発運動がなくなり、発病後は1~2年以内に全身衰弱・呼吸麻痺・肺炎などで死亡する。プリオン病の発症後の進行は早いが、認知症の一つなのである。

不可逆的な致死性神経障害を生ずるプリオン病の大半を占めるのが、CJDの中でも「孤発型」と呼ばれるタイプのもので、日本でも毎年100~120名の患者が発生している。孤発型CJDに地域差はないが、男性より女性にやや多く、発症年齢は平均63歳だ。BSE感染により発症する変異型CJDとは異なり、原因は不明だ。

「若年性認知症」との診断は、患者やその家族にとって受け入れがたいものだ。他の疾患と比較して、なかなか第三者に口外できるものではない。そして、科学的エビデンスに乏しい認知症は、詳細な判定が、実は容易ではない。

老年性痴呆でない進行性痴呆であって、痙攣発作・錐体路または錐体外路症状・小脳症状または視覚異常・無動性無言の4項目のうち2項目以上の症状を示し、脳波に周期性同期性放電を認める場合、孤発型CJDとほぼ確定されるが、CJDのなかでも、BSE感染による変異型CJDの確定診断となると、患者が死亡した後、WesternBlot法などにより脳組織から異常タンパクを検出することが必要だ。確定診断を受けていない「若年性認知症」様症状の中には、アルツハイマーもあれば、その気になって調べればCJDである可能性も、実は秘められているのだ。

変異型CJDを発症した英国の13歳の少女の映像は、非常に衝撃的だった。米国でも、テキサスの小さな村で、同じ競馬場に行ったことのある人々が、次々と変異型CJDで死亡した。日本でも、BSEが大きな社会問題になる以前に感染した人が居ても、決して不思議ではない。原因不明の急増する「若年性認知症」の一因として、CJDを否定することはできないのだ。

米国は、全頭検査を拒否したり、飼料規制も杜撰だったり、疑惑の競馬場を解体抹消したりして、BSEや変異型CJDをむしろ隠蔽する傾向にあるが、米国で激増する認知症の中には、CJD患者や変異型CJD患者が多く存在する可能性があるのだ。日本で増加する「若年性認知症」についても、何が原因なのか、特に食生活の面からの科学的な追究を急ぐべきなのではないかと、私は思う。
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