速水御舟「菊花図」 世田谷美術館

現在、世田谷美術館で開催中の「速水御舟とその周辺」展。没後80年を迎えた速水御舟を中心に、師の松本楓湖や兄弟子の今村紫紅、同輩の小茂田青樹をはじめとした一門の画家らを参照。御舟の画業を師弟や門人との関係から追っています。



「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」@世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)

私も既に一度、GW過ぎに展示を見ましたが、その際にはチラシ表紙(上画像)を飾る「菊花図」が出ていませんでした。つまり期間限定、後期のみの出品だったわけです。6月2日(火)より「菊花図」が公開されています。

「菊花図」は冒頭での展示です。思いの外に小ぶりの屏風でした。形式としては4曲1双、高さは各93センチに横幅は182センチです。金地の平面に黄色や赤などの菊が描かれています。菊が横へ連なり、また上下に段差をもって広がる構図は、光琳の「燕子花図屏風」を連想させる面もあります。

ただしここには光琳画の特筆である装飾性よりも、写実、ないしはそれを通り越した、御舟独特の濃密、あるいは執拗なまでの細密表現を見て取ることが出来ました。

御舟が「菊花図」を制作したのは1921年。ちょうど結婚した27歳の時です。前年には「京の舞妓」を完成させ、いわゆる写実表現にのめり込んでいた頃。「菊花図」においても同様に写実を追求しています。「北方ルネサンスの画家・デューラーの影響」(本展カタログより)を指摘される作品でもあります。

まず目に飛び込んで来たのが、鮮やかな菊の色彩、そして花弁の細かな表現です。花びらは一枚一枚、やや強めの輪郭線に象られています。また花は生々しい。劇画調と言ったら語弊があるでしょうか。何やら熱気のようなものが伝わってきます。とは言え、中には今にも萎れて丸まり、朽ち落ちてしまうような花もありました。色は意外と透明感があります。図版では濃い水色に見える菊もかなり白が混じっていました。

一方で葉の質感は重い。何層にも色を塗り重ねたのかもしれません。緑に茶色が混じっています。そして菊はいずれも針金のような棒で支えられていました。

「菊花図」にあわせて「菊写生帳」も展示されていました。こちらは「菊花図」に先立つ1年前、1920年の制作です。本画よりもさらに写実的です。菊の咲く様子を有り体に捉えています。そしてこちらも実に細かい。素早い筆致にて花弁はおろか、葉脈までをも見事に浮き上がらせていました。

「速水御舟とその周辺」 世田谷美術館(はろるど)

なお「速水御舟とその周辺」展、既に会期は残り2週間。初めにも触れたように後期展示に入っています。



前後期で相当数の作品が入れ替わりました。また「周辺」とあるように、御舟作は4割ほど、残りは別の画家の作品で占められています。ただそれこそ本展の面白いところ。今村紫紅や小茂田青樹に優品も多く、知られざる御舟同門の画家の作品もなかなか見応えがあります。

また御舟コレクションで名高い山種美術館以外の作品で構成されているのもポイントです。平塚市美術館、横浜美術館、また茂原市美術館や西丸山和楽庵、さらに京都国立近代美術館や個人の作品も目立ちます。ゆえに見慣れない御舟作も少なくありません。やはり御舟ファンには是非とも見ておきたい展示と言えそうです。



速水御舟の「菊花図」は世田谷美術館の「速水御舟とその周辺展」で7月5日まで公開されています。

「速水御舟とその周辺ー大正期日本画の俊英たち」 世田谷美術館
会期:5月2日(土)~7月5日(日)
休館:毎週月曜日。但し祝休日の場合は開館し、翌日休館。5/4(月)~6(水)は開館、5/7(木)は休館。
時間:10:00~18:00 *最終入場は17:30
料金:一般1200(1000)円、65歳以上1000(800)円、大学・高校生800(600)円、中学・小学生500(300)円。
 *( )内は20名以上の団体料金
 *リピーター割引あり:有料チケット半券の提示で2回目以降の観覧料を団体料金に適用。
住所:世田谷区砧公園1-2
交通:東急田園都市線用賀駅より徒歩17分。美術館行バス「美術館」下車徒歩3分。
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